生物多様性基本法と、愛知ターゲット。[2013年05月28日(Tue)]
先日のブログに掲載したこの花。チロリアンランプというのだそうです。ツイッターでIさんに教えていただきました(ありがとうございます)。
かわいいねえ、チロリアンランプ。魔法の道具だよっていったら、子どもたち、きっと信じてくれそうです。小さい子どもがいると、大人たちっていつのまにか、ものがたり作家さんになっていたりしますよね。そういう大人も、また、かわいい。小さいころに(今思えばものがたりの創作なんてこと、すごく苦手であったに違いない)お父さんから、いろいろなものがたりを聞かせてもらったことを、懐かしく思い出しました。
さて、今日は、先日、横浜国立大学の及川敬貴先生からお伺いしたお話についてです(及川先生の『生物多様性というロジック』という著作はおすすめの一冊)。
2010年、名古屋で開催された第10回生物多様性条約締約国会議(COP10)において、(主に)2020年までに達成すべき20の目標『愛知ターゲット』が採択されました。
この愛知ターゲット。先生の発表によると、知らない人が77.7%(つまり、知っているひとは22.3%)。ちなみに、個人的には「知っていると答えた人の何人かは、何か別のものと勘違いしているのでは・・・?」というくらい、実感値としての愛知ターゲットの認知度はもっと低いのではないかという印象を受けています。
そして、この愛知ターゲット。環境法を学ぶ人たちの間で「環境法御三家」と呼ばれている本においても、一切記述無し。
あまり重視されていないのでは・・・?という背景には、これが、規範ではあるものの、法的拘束力が弱いものであるということが、理由にあるそうです。つまり、守っても、守らなくてもいい、ということ。
ならば、愛知ターゲットは何故重要か。それは、愛知ターゲットが、生物多様性保全・持続可能な利用の国内での実施と国際法を結びつけるものとして位置づけられるから。
愛知ターゲットには、20の個別目標があり、例えば「 生物多様性に有害な補助金などの奨励措置を廃止・改革する(目標3)」、「作物・家畜の遺伝子の多様性の損失を最小化する(目標13)」、「伝統的知識を尊重する(目標18)」など、条約の目標を実現するための構成要素が、個別に分かりやすい言葉で表現されています。「国際条約」というと遠いけれど、こうして具体的に噛み砕かれることで、「では具体的に何をすればいいのか」ということが、イメージしやすくなってくる。
これを「日本」という国の取り組みに置き換えてみると、日本には「生物多様性基本法」という法律がありますが、これを愛知目標と照らし合わせてみたとき、どの部分が十分でないか、など、比較検討ができるというわけです。
例えば、愛知ターゲット目標11「保護地域」という項目で表現されている「衡平」という概念は、日本の生物多様性基本法には記されていない、というように。
世界の国々が合意した目標と比較して「自分たちが、今、どこにいるか」を把握するための物差しとしても使える、というのです。
これは、言い換えれば、「愛知ターゲットは、他の、規範性の強い法律とリンクさせることによって、全体性としての効果の向上を狙うために有効である」ということ。
愛知ターゲットという(国際的な観点、価値感、進んだ考え方、グローバルな観点)と、生物多様性基本法や生物多様性地域戦略を結びつけたり、比較することを通じて、より効果的な方法を模索し、確立することが可能になる。愛知ターゲットには、そういった可能性がある。
生物多様性基本法の附則第二条には、以下のような表現があります。
(生物の多様性の保全に係る法律の施行状況の検討)
第二条 政府は、この法律の目的を達成するため、野生生物の種の保存、森林、里山、農地、湿原、干潟、河川、湖沼等の自然環境の保全及び再生その他の生物の多様性の保全に係る法律の施行の状況について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。
この「ものとする」という表現は「原則、そうしなくてはならない」という意味。義務づけとして使われていると認識されます。
法学者の間では、生物多様性基本法のこの表現が、この後の日本の法規制に大きなインパクトを与えうるものであると、評価されているのだとか。
そして、生物多様性の保全や再生について検討する際の評価基準として、愛知ターゲットは活用しうる。
例えば、先住民族の伝統的知識を守るといったことについても、そういった考え方を地域戦略に入れていく、というようなことで、対応が可能となっていく。
愛知ターゲットは、そういう、生物多様性を大切に暮らすための力を、地域で暮らす私たちみんなに、与えうるもの。
(ん?これってちょっと、チロリアンランプみたい(魔法の道具みたいな響きのこと、書いてしまった)と、ふと思ったりなんかして)
そんなこんなで。愛知ターゲット大切だな。言葉でつなぐこと、大切だな、なんてことをあらためて考えさせられたひとときでした(及川先生、ありがとうございます&つたないメモからの書きおこし、どうかお許しください)。
ところで、余談ですが・・・。生物多様性基本法とか、条約とか、前文あたりを読んでいると、まるで「これから大河ドラマ始まります〜」みたいな世界観を、つい、感じてしまいます。いや、実際、それをモチーフに書けるのかもしれない。大河。
何事においても露骨なことはあまり好みではないので、なにかものすごい作品を書くようなことがあったら、「生物多様性条約に着想を得ましたです」なんてこと、言ってみれたら、おもしろい、かも。ハッピーエンドでなくては許されないけれど。