一昨日、伊豆の天城の牧場でのシカの囲い罠猟に参加してきました。
今、伊豆ではシカが増えすぎて森林や牧草地、農地への被害が
極めて深刻になっていますが、伊豆に限らず、全国の中山間地で
非常に大きな問題になっています。
原因ははっきりとは分かっていませんが、
@狼の絶滅、ハンターの減少などによる狩猟圧の減少、
A天然林の減少に伴うシカの食糧の減少等
が主要な原因といわれています。
伊豆半島は静岡県内でも特に被害が深刻で、
森の木の皮は剥かれ、材としての価値がなくなることは勿論、
食べられる木はすべて食われてしまうので、アセビなど
特殊な耐性を持った木のみが残っているという異常な状態になっています。
そこで、野生動物管理の観点から、シカに関する特定計画を策定、
数年前から頭数の適正化に取り組んでいます。
しかし、平成14年に1500頭の駆除数が、平成22年には5000頭と
3倍以上に上っているにも拘らず、密度は2.7頭/haとむしろ増えている
いるそうです。
また、ハンターの平均年齢は70歳以上と高齢で、あと5年もすると
動ける人もだんだんと少なくなり、更に問題は深刻化します。
富士山は全体が国立公園で、その半分が国有林で、鳥獣保護区に
指定されており、狩猟は禁じられています。
こちらも近年爆発的にシカが増えていて、夜に牧草地を通ると
ものの30分くらいの間に10-20頭は平気で見られます。
植生にも被害が及び始めていて、何らかの対策が必要です。
ここまでが、現状。
僕は、「増えた→減らす」
という安易に「駆除」は違うと思っています。
いわば人間の都合で増えたものを、増えすぎたから減らす、
というのはこれは正に人間のエゴであると強く思います。
ただ、林家、酪農家、農業を営む人の声は切実で、
これは都会に住んでいるとこの深刻さはわかりません。
シカの頭数は既に危険水域を悠に越しており、僕は
ある程度のレベルまで減らしていく必要はやはりあると思います。
ただ、「有害鳥獣の駆除」ではなく、そこには命に対する敬意が
必要でしょうし、しっかり食べてあげるのが最低限の責務だと
感じます。それがシカの命をいさめることへのせめてもの
償いになるのではないでしょうか。
僕は、この問題を田舎の人だけでなく、都会の人も含め
国民全体で共有したいと強く思います。
今回は、ハンターの高齢化に伴う狩猟圧減少に対して、
猟銃に頼らない個体数管理方法として、「囲い罠と人勢子」
という新たな方法の検討をしました。
柵の中にある程度シカが入った時点で、ゲートを閉め
閉じ込めた後に、人が追い込んでくくり罠にはめる、という
やりかたです。
大きな県の牧場の一角を開放して「くくり罠」と呼ばれる
踏むと足が絞まる方式の罠を80個ほど設置して夜を待ちます。
結果は21:00の時点で12頭牧場の柵の中に入り、
ただ、網の小さな穴をこじ開けてうち9頭は逃げて
しまいました。
収穫としてはありました。しかし思うところはたくさんありました。
県の野生動物保護管理の担当者も、立ち会った地元のハンターも
この問題に対する切実さが違います。
野生動物とのやりとりは真剣そのものなので、
一度対峙すると「捕まえること」に必死になります。
しかし、ともすると駆除が目的化し、「生物としての尊厳」は
横においておかれる。
非常に複雑な気持ちです。
しかし、僕たちは単なる「森を守ろう!」とか「野生動物を保護しよう!」
とか、「自然にふれあおう」とか、そういった単なる「キレイごと」ではない
本当の意味での共存を目指さなければならない。
富士山麓でも、色んな人を巻き込み、本当の意味で「シカとの共存」を目指す、
関する取組みをこれからしていくつもりです。
県のシカの低密度化プロジェクト担当の大橋さんと集った人たち。農工大「狩り部」の面々も。