2013年5月21〜23日の三日間スイス、ジュネーブにおいて防災グローバルプラットフォーム会合(GP2013)が開催された。この会議は2年毎に開催されており、4回目となる今回は国連国際防災戦略事務局と1400を超える世界中の自治体からなる防災キャンペーンの共催により開かれた。
この会議は防災に関するものでは世界最大級であり、参加者は172ヵ国から様々な立場(政府代表、国際機関、赤十字・赤新月社、国際NGO、市長、議員、地域コミュニティー、原住民族、障害者、若者、経済界、学者など)を代表する3500人以上が集まり、全体会、政府代表による会議、テーマ別会議、サイドイベント、「イグナイト・ステージ」と呼ばれる個人・団体による発表など合わせて170以上のイベントが行われるという規模であった。
実はこれまで防災に関する国際会議で障害をテーマに目立った議論は行われてこなかった。
しかし、昨年10月にまとめられた国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)の「障害者の権利を実現するインチョン戦略」においては、10ある目標の一つに「障害インクルーシブな災害リスク軽減および災害対応を保障すること」が掲げられた。また、同じく10月に開催された災害リスク軽減に関するASEAN大臣級会合においては「障害インクルーシブな災害リスク軽減」に関する世界的にも最も先進的な宣言が出されている。このように近年アジアを中心として国際的な場で障害と防災・減災に関する議論が活発になりつつある。
日本財団は世界的な防災・減災への取り組みにおいて「障害」がテーマとして認識されて来なかった現状に鑑みて、ドイツ国際協力公社、国際障害同盟(IDA)、障害インクルーシブな防災・減災ネットワーク(DiDRRN)とともに「障害インクルージョン:ポスト2015防災・減災フレームワークへの障害者の参加拡大」と題したサイドイベントを共同開催した。過去に国連の防災関連会議において「障害」をテーマとして取り上げたイベントが開かれたことはなく、このサイドイベントは初めての取り組みであり開催された意義は大きい。
東日本大震災の経験を基に「防災・復興のあらゆる課程に障害当事者の参加を実現すること」を訴える基調発表を行った宮城教育大学の松崎丈准教授の他、タイのモンティアン・ブンタン上院議員、フィジー障害者協会とIDAの代表として参加したエレノア・カイサウ氏、米国連邦緊急事態管理庁障害者統合調整ディレクターのマーシー・ロス氏がパネリストを務めた。議論の結果として「障害者の効果的な完全参加」「アクセシビリティ」「障害者のインクルージョンが横断的課題であることの認識」の三点が2015年以後の新しい防災・減災の行動枠組みに重要であるとの提言がまとめられGP2013の議長に提出された。80人を超える聴衆が集まり、国連国際防災戦略事務局の職員によれば「たいへん人気のあるサイドイベント」とのことで、災害時における障害者の問題は多くの参加者に取って新鮮であり関心の高いものであったようだ。
一方、一組(または一人)15分の持ち時間を使って次々と発表が行われるイグナイト・ステージにおいても障害をテーマに日本やアジアの参加者からの発表があった。宮城教育大学の松崎准教授は聴覚障害の「聞こえ」を疑似体験出来るような音声を英語とドイツ語で流したり、警報ブザーの代わりとなるフラッシュライトを点滅したり、趣向をこらした発表で聴衆の注意を引く発表を行った。
また、日本障害フォーラム(JDF)と日本財団は東日本大震災における沿岸被災都市の障害者死亡率が全住民の2倍以上であったという報道を重く受け止め、記録ビデオ「生命のことづけ 〜死亡率2倍 障害のある人たちの3.11〜」を制作したが、この問題を日本国内のみならず海外にも広く伝えるためJDF事務局の原田潔氏がイグナイト・ステージにおいて発表し、またブースも開設しビデオの紹介を行った。
さらにジョグジャカルタのろう青年たちによる発表は、ビデオを用いた防災教育に関するもので、ビジュアル的にもたいへん素晴らしいものであった。これらイグナイト・ステージでの発表の様子は文末のURLアドレスを参照して是非ご覧頂きたい。
子供と減災に関するテーマ別セッションにおいても、ベトナムの脳性麻痺の少年Danh君が洪水の中かろうじて生き延びた経験から防災対策の大切さを話し多くの参加者の共感を得ていた。
また、日本財団は国連笹川災害防止賞を設けており、300人以上が参加した授賞式の挨拶で笹川会長から「障害者や高齢者など要援護者への対策を地域が一つになって取り組むべきである」という旨の発言もあり、今回のGP2013では障害者のインクルージョンに関する日本からの発信はたいへん目立っていたのではないかと思われる。
今後の動きについてだが、2015年3月には第3回会議が仙台で開催されることが決まっており、そこで新しい行動枠組み「ポスト兵庫行動枠組(HFA2)」が採択され、その後国連総会で支持を得る運びとなっている。
今回ジュネーブで開催されたGP2013は2015年仙台の国連防災世界会議(WCDRR)までに開かれる最後の大規模な国際会議であり、その議長報告は2015年まで引き続き継続されるHFA2の議論に大きな影響があるため非常に重要なものであると言える。従って議長報告の中で「災害は地域レベルで発生し解決策も地域に存在するとの認識のもと、地方自治体が都市開発を行う場合、障害者のニーズに十分な注意を払うこと」、また「インクルーシブでコミュニティーをエンパワーする参加型の取り組みが持続性のある防災に強い地域づくりのツールである事が示され、また女性がそのような地域づくりの牽引役である事、さらに先住民、難民・国内避難民、子供と青少年、高齢者、障害者や多くの民間支援団体が減災への取り組みを実施している事が示された」と地域における障害者への配慮や障害者が減災への取り組みを行っている事が明示された意味は大きいだろう。
関連ウェブサイト(全て英語だがイグナイトステージとテーマ別イベントは動画もあり雰囲気を知ること可能)
GP2013議長報告
http://www.preventionweb.net/files/33306_finalchairssummaryoffourthsessionof.pdfサイドイベント「障害者インクルージョン」
http://www.preventionweb.net/globalplatform/2013/programme/sideevent/view/502イグナイトステージ松崎丈氏
http://www.preventionweb.net/globalplatform/2013/programme/ignitestage/view/402イグナイトステージ原田潔氏
http://www.preventionweb.net/globalplatform/2013/programme/ignitestage/view/399イグナイトステージDiDRRN インドネシアのろう青年たち
http://www.preventionweb.net/globalplatform/2013/programme/ignitestage/view/435テーマ別セッション「子供と減災」(Danh君の出番は50分頃から)
http://www.preventionweb.net/globalplatform/2013/programme/featuredevents/view/486