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早川理恵子博士
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『平和の条件』ー ウィルソンはんとトルーマンはんのせいどす [2013年12月20日(Fri)]
「なんでこんな小さな島国に200海里を持たせたのかしら」
某会議での有識者のコメントである。思わず
「それは、ウィルソンはんとトルーマンはんのせいどす。」
と無識者の私は心の中でつぶやいた。

とはいえ、トルーマンは、米国は、戦前アラスカに進出してきた日本の遠洋漁業対策が目的で主張したのであって、(詳細は弊ブログ「ブリストル事件」をご参照ください。)小島嶼国や小国に200海里を持たせる気はなく、慌てて反対したようである。
他方、戦後の脱植民地化の中で誕生した主権国家ー小国郡とそれを押す中規模国家の勢力(多分NZと豪州あたりでは?)に、大国は勝てなかったようである。

ではなぜ、千人、一万人規模の主権国家、小国が誕生したのか。
乱暴に言えば、ベルサイユ平和会議でウィルソンが唱えた「民族自決」のせいである。これを批判したのがE H Carrの『平和の条件』。
百瀬宏著『小国』の181ページ辺りにこの本で議論されているCrisis of Self-dteminationがまとめられている。『平和の条件』京都府立図書館に持ち出し禁止書籍としてあった。

この『平和の条件』。終戦を迎える数年前、1942年に書かれている。日本語訳は1946年、研進社というところから。
不思議な事に翻訳はこれっきりのようで、古書は1万円位する。連合国側の戦後展望の基盤となっているはずの同書の翻訳が更新されていないのは不思議である。もしかしたら『危機の20年』より重要な本ではないか。ネットで検索しても書評も見つからず、あまり議論もされていないようなのだ。私が見落としているだけかもしれないのでご教示いただければ幸いです。

Crisis of Self-determination ー カーの難しい議論を誤解を恐れず乱暴にまとめると、軍事経済力の裏付けがない小国は存在してはならない。民族自決を否定はしていない。しかしそれを国家と結びつけるのは現代では無理がある。それが露呈したのがベルサイユ以降。
民族自決は大きな政治的単位の内部で、即ち軍事経済以外の政策に応用する事ができる、と言った話。
カーの忠告を無視して、太平洋には民族自決を望む、経済軍事力の裏付けがない主権国家ー小島嶼国がたくさん誕生した。そしてその主権は200海里を主張する根拠につながる。
だからウィルソンはんとトルーマンはんとせいだと思うのだが。

太平洋島嶼で軍隊があるのはトンガ、パプアニューギニア、フィジーの3カ国だけ。ここに中国との軍事関係が構築されつつある。これはまた別の議論だが。
他の国は法執行機関があるが、数十人規模の海上警察で200海里を管理する事は不可能である。
ではどうするのか?

現実には国家としてやっていけない、さりとて旧宗主国に組み込まれるのはお断り、と言った小規模民族集団に対応したのが「自由連合」であるはずなのだが。もしくは英国連邦の枠組みか。
民族自決は尊重しながら、軍事経済を大国が支援していく。そんな図柄がぼんやりと見える。
『平和の条件』原文で読むしかないようだ。
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