バヌアツのサイクロンがあって、偶然大統領が日本にいて、急遽日本の支援が検討されなければ、バヌアツの太平洋のタックスヘブンについて再度資料を読んで、しかもこのブログに書こうと思わなかったであろう。
それほど、重々しい、オドロオドロしい内容なのだ。
だからこれを最後にしたい。できれば。。
他方、このタックスヘブンの仕組みを知ると、海洋保護区の仕組みもわかってくる。
形ばかりの、ペーパー自然保護区。目的は租税回避。
また寺島常務から「転んでもただでは起きませんねえ」と褒めてもらえそうである。
「海洋保護区は新型投資金融商品? 」
https://blog.canpan.info/yashinomi/archive/1139前置きが長くなりました。本題に入ります。
<「主権ビジネス」研究>
前回はタックスヘブンの歴史、父ちゃん母ちゃん投資家からロシアマフィアのマネロン,将又、ケインズ先生が知ったらお墓から出て来そうな、ブレトンウッズ体制の意外な展開について書かれたGreg Rawlings博士のペーパーをまとめさせていただいた。
今回は「主権ビジネス」研究といえば世界にこの人しかいない!という位のTony Van Fossen博士のペーパーをご紹介したい。
"Offshore Gambling in Pacific Islands Tax Havens", Vol 26, No 3/4 (2003) , Pacific Studies
https://ojs.lib.byu.edu/spc/index.php/PacificStudies/article/view/10270タックスヘブンの制度ができれば、ブレトンウッズ体制下で逃げたいお金だけでなく、犯罪マネーの温床になるであろう事は、70年代、バヌアツに同システムが形成される中で、オーストラリア政府が懸念していた事である。
事実は全くその通りになってしまった。しかもオーストラリアの首相が主役の越境犯罪。
電話、ファックスで運営されていたタックスヘブンはインターネットの時代になって一機に加速し、未だ開発段階で障害は多くとも、誰もこの動きを止められないだろう、という事だ。
<オフショアギャンブル開始>
太平洋、最初のオフショアギャンブルは1989年のバヌアツ。
前回ご紹介した「ドクトル・ジバコ」でおなじみの俳優オマール・シャリフを広告塔にして開始。シャリフさん、カード好きなのだそうだ。
ロッタリーで20MUSDが当たりますよ、という商品。客は米国と豪州。20ドルチケット6百万枚販売。
この賭けを運営した民営会社Great World Lotteryはバヌアツ政府に独占権を交渉したがうまく行かず、この太平洋初のオフィショアギャンブルも消滅しそうな気配であった。
<太平洋の犯罪組織と豪州首相>
この流れをドラマチックに変えたのが、太平洋で跋扈する犯者とその組織。そしてなんとボブ•ホーク豪州首相なのである。
犯罪者その1 Tommy Carroll 豪州クイーンズランドでのみ屋を展開。1993年5月バヌアツ進出。
犯罪者その2 Christopher Chung タヒチ出身で売春其の他の犯罪暦。1993年8月バヌアツ進出。
犯罪者その3 Peter James Bartholomew 逮捕歴2回 VITAB設立。
この最後の犯罪者が設立したVITABとはVanuatu and Pacific Islands International Totalisator Agency Boardの事で、ボブホークが主要株主になっている。
<豪州のギャンブル事情>
話を進める前に、豪州のギャンブル事情を先に整理しておきたい。
といってもウィキで調べた程度です。
ギャンブル好きのオーストラリア人(当方の偏見カモ?)。競馬やラグビーが開催されると飲み屋で違法のみ屋が賭博をしていたらしい。
これを取締り、公営ギャンブルが始まったのが1960年代。
Totalisator Agency Boardが各州にでき、州政府の管轄、運営となった。
しかし、94年頃から民営化の動きも出てきた。バヌアツで展開されたオフショアギャンブルと同じ時期であるのは偶然か。。
<豪州のTABとバヌアツのTABが手を組んでオフショアギャンブル?マネロン?>
豪州の首都キャンベラ。Australian Capital Territory通称ACT。
元々他の州と比べ人口が少ないのに加え、住民は公務員や大学教授が多く、ギャンブル市場としては収入が見込めない。そこで、ボブホーク首相が人肌脱いで、キャンベラのTAB(ACTTAB)がVITABと契約しバヌアツでオフショアギャンブルを開始した。
顧客は豪州人ではなくアジア人をターゲットにしていますよ、と。即ち豪州に入るべきお金を外に逃がすのではなく、新たな顧客を得て収入を得ようとしているという合理性を強調していたらしい。
しかし、労働党ボブ・ホークの動きは自由党の攻撃によって、1994年には中止。
他方、ビクトリア州のTAB と組んでいた犯罪者その2がバヌアツで運営していたオフショアギャンブルは今度は労働党からの追求で’中止となった。リベンジか?
このオフショアギャンブルの中止によってACTTABはVITABに違約金3.3MAUDを払う事になったのであるが、この違約金を調査した弁護士が暴露したのが、このオフショアギャンブルで本当に儲っていた人々の存在である。
バヌアツ、バージン諸島のオフショア金融組織と、上記犯罪者3名である。そしてシラを切っているがボブホークもその一人であろう、と。
即ち、新たなアジアの顧客を、なんて真っ赤な嘘だったのだ。
<世界第二位のオフショアギャンブル国へ>
こんな取締も何の意味もないような展開を示す。
バヌアツのオフショアギャンブルは2000年には世界第二位まで上り詰める。年間の掛け金が525.6MAUDとなる。これは豪州最大のTABを持つニューサウスウェールズより大きい額だ。
ボブ•ホークも社名を変えたギャンブル会社の株主となって健在だ。
Fossen博士は、バヌアツのタックスヘブンと緩い法執行環境を背景に発展したオフショアギャンブルは、同国の大蔵大臣に大きな権限を与える事になった、と書いている。これが意味するところはタックスヘブに引き続き、オフショアギャンブルがバヌアツ政府の汚職体質を招いた、という事ではなかろうか?
<9.11とインターネットと鉱山産業と>
Fossen博士のペーパーはもっと複雑に話が展開されているのですが、なるべく簡素に簡単にまとめたいと思います。。
90年代後半、だと思います。金相場が暴落したらしい。同時にインターネットによる投資家マニアが誕生した。それで豪州の鉱山会社がスイスの銀行家Hans-Rudolf Moserと手を組んで、オンラインのアダルトショップとバヌアツでのオフショアギャンブル ー My Casino Ltd.に変身した、という話である。
My Casino Ltd. の顧客は豪州ではなく、アジアと北欧なんだそうであるが、これも証拠を掴むのは難しく、真相は闇の中。2000年の時点では世界で一番成功したオフショアギャンブルと言われた。
しかし、この状況を変えたのが9.11。金融界のレッセフェールを米国政府が、そして多分世界の先進国が規制し始めた。インターネットギャンブルと言えばクレジットカードなのだが、その決済ができなくなってしまったのだ。
加えて、2001年頃のバヌアツの情報通信環境は脆弱で、技術面からカード決済が不能となり、My Casinoは多くの損失を受けた。
<カジノ王、Crownのジェームス・パッカー登場>
安倍総理も昨年ジェームス・パッカーに会っている。
バヌアツのMy Casinoは、フィジーのランブカ元首相が会長を務める、豪州のWaterhouseBetに売られたが、やはり9.11の影響で決済ができず廃業。
しかし、それでもバヌアツのオフィショアギャンブルは諦めない。
いよいよ、豪州のカジノ王、Crownのジェームス・パッカーが登場したのが2002年の1月。
インターネットを利用した新規サービスを試みたものの、営業は不振で翌年2003年には廃業する事となった。この背景には世界の法機関、銀行、クレジットカード会社、公務員等々がオフィショアギャンブルでのお金の流れを危険視した事が原因のようだ。
<まとめ、一番気をつけたいのはNGO>
バヌアツのタックスヘブンを巡る、オドロオドロしさが羽生会長に伝わったであろうか?
それでもギャンブルはまだ目に見えるからよいのだ。
バヌアツはタックスヘブンを巡る大小のあらゆる怪しい企業が跋扈している。
勿論日本の企業も進出している。
問題は、最近これらの企業がNGOを設立し、形ばかりの公共事業を行う事で隠れ蓑にしようとしている事だ。彼らが裏で動かす金額に比べれば、数十万円、数百万円程度の教育や医療、文化支援への寄付行為は安いものなのだ。しかもこの寄付行為は以前政治家への献金だったものがNGO活動という奇麗な形に変わっただけである、と知ればバヌアツ、いや太平洋島嶼国が一筋縄でない事がご理解いただけると思う。