同法人は、東京大学、筑波大学の市民後見人養成プロジェクトや東京都の社会貢献型後見人養成講座の履修生が、平成23年3月に設立。所属メンバーが講座を受講したきっかけは、仕事上訪問介護に携わった経験、民生委員として高齢者に関わった経験から必要性を感じた、親族後見の必要があった、これからの高齢化社会に必要だと思った、などさまざま。現在会員10人、1件2人の体制で、これまで累計9件(うち5件継続中)の後見を受任しています。
成年後見そのものへの理解が十分進んでいるとはいえない中、とりわけ市民後見が浸透していない現状について、活動中のメンバーに聞きました。「日本では契約や自己の権利に対する意識が薄いのでは。通帳や印鑑は本来個人のものであり、後見等のしかるべき根拠がなければ家族であっても代理では使えないはず。しかし本人も家族も金融機関等も、そうした認識が薄いのではないか。」と話すAさん。また、市民後見には必ず監督人が必要とされ、現在社会福祉協議会が監督にあたるのが通例とされていますが、その支援体制には地域によってかなりの違いがあるそうです。品川区では、社会福祉協議会に設置された品川成年後見センターが、監督、相談、他機関との連携体制を整えているほか、後見業務が円滑に進むよう、金融機関等への理解啓発活動も積極的に行っています。
市民が後見を担うことは困難? 家庭裁判所による後見人決定の過程では、医師、弁護士、福祉関係者らによる運営委員会が開かれ、財産が高額でない、問題となる親族関係がないなど、市民後見に適した案件が振り分けられるため、財産管理に困難性のあるケースはそれほどないのが実際です。後見を受任して3年になるというBさんは、「市民に求められているのは、やはり身上監護にウェイトを置いた後見ではないか」と語ります。市民後見では引き取る人もいない、財産もないというケースを担当することも少なくありません。お金がない中で、いかに本人の意思や性格を生かして契約等の決定をするか、本人が亡くなるまでつねに考え、見守っていく覚悟が必要のようです。
後見人がつくことで本人が「蘇る」ケースもあります。Cさんは、自身の案件ではないものの印象に残ったエピソードを話してくれました。一人暮らしで認知症が進み、毎日テレビを大音量で流したまま家に引きこもり、電話にも、周囲からの呼びかけにも応じなくなった高齢者がいたそうです。しかし後見人がついてグループホームに入所したことで落ち着きを取り戻し、周囲との会話や料理を楽しむまでに回復しました。Cさんは言います。「私の場合も月に2〜3度施設に行き生活を見守っているが、相手も来るのを待っていてくれたりする。特に女性なら髪を切ったり服を買ったりするだけで楽しみになる。自分にきちんと向き合ってくれる人がいると感じるだけで人は変わる。後見は、その人に寄り添って生きるということなんです。」判断能力が低下しても、最後までその人らしい生活を送って欲しい。そのために、専門家ではなく一人の人として、被後見人に向き合いサポートをしたい。そんな志を感じた取材でした。
【文・小川明日香】