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イギリスの議会には厳しい言葉が当てはまる。 [2018年06月14日(Thu)]
(138)
 この2つの言葉は厳しすぎると思われるかもしれません。確かにどちらも厳しい言葉です。しかし、この場合まさにぴったりと当てはまるのです。



 「イギリスの現状は悲惨だ」と述べたガンディーは、特にイギリスの議会を酷評します。
 それは良いのですが、イギリス議会を批判する際に彼が比喩として用いた2つの用語はかなり不適切であったと思います。その2つの言葉とは、前の部分で出て来た「sterile woman(子どもを産めない女性・不妊の女)」及び「prostitute(娼婦・売春婦)」です。どのような意図があったにせよ、このような言葉は使うべきではないと思います。これらの言葉の背景には、女性差別、女性蔑視、子どもを産むという面だけから女性をとらえてその主体性を認めない古い考え、男性中心主義、差別する側・抑圧する側の鈍感さなどがあると思われるからです。
 しかし、考えてみればガンディーは百年以上も昔の人です。彼がそのような古い考えを持っていたとしても、当時としては別に驚くべきことではなかったのかもしれません。ただ、現代の感覚で読めば、この点に関しては批判せざるを得ないのは確かだと思います。
 でも、とにかくここは彼の主張に耳を傾けてみましょう。
 ・・・
イギリスの議会は・・・。 [2018年06月13日(Wed)]
(137)
 あなたはイギリスの議会を「議会の母」と呼んでいますが、実際の彼女は母になれないかわいそうな女性です。さらにその上、娼婦でもあるのです。



 「イギリスの現状はひどいものだ」と語るガンディーの言葉の続きです。若い読者はイギリスの議会を「議会の母」と呼んでいましたが(127)、それはイギリスの議会に対するかなり一般的な評価であったと思います。しかし、ガンディーはそれを全面的に否定するのです。
 しかも、びっくりするような不適切な用語を使ってです。「母になれないかわいそうな女性」と表現した所は、原文では"sterile woman(子どもを産めない女性)"と書いてあります。不快に感じる人もいると思いますが、ガンディーがそう書いているのだから仕方がありません。また、「娼婦」は"prostitute"です。
 このような過激な問題発言をした後、ガンディーは・・・
イギリスの現状はまさに同情を禁じえないほどひどいものです。 [2018年06月12日(Tue)]
(136)
<編集長>
 お察しの通りです。イギリスの現状はまさに同情を禁じ得ないほどひどいものです。インドは決してこのような惨状に陥ってほしくありません。私は神に祈っています。



 「イギリスの政治は望ましいものではなく、ぼくたちは決してそれを手本にすべきではないということでしょうか」という若い読者の推察をガンディーは全面的に肯定します。さらに、「同情を禁じ得ないほどひどい」とさえ言うのです。
 さて、ここで彼は「イギリスの現状」と述べていますが、この本が書かれたの1909年のことです。19世紀半ば頃から20世紀初頭まではイギリス帝国の最盛期だっとそうです。イギリスは「世界の工場」となり、次いで「世界の銀行」になり、軍事的にも世界最強の覇権国家だったのです。「パクス・ブリタニカ」という言葉もあるほどです。
 また、民主政治や自由主義のような思想面でも、イギリスは当時世界の最先進国と考えられていました。若い読者も、そう思っていたのです。(129)
 しかし、ガンディーは・・・
                         (つづく)
イギリスはインドの手本ではない。 [2018年06月11日(Mon)]
第5章 イギリスの状態
(135)
<読者>
 お言葉から察しますと、つまりイギリスの政治は望ましいものではなく、ぼくたちは決してそれを手本にすべきではないということでしょうか。
 


 ここから突然、新しい章に入ります。今までは第4章「自治(スワラージ」とは何か?」で、自治についてのガンディーと若い読者の対話が続いていたのでした。
 しかし、自治に関する議論が一段落したというわけではありません。元々は若者がガンディーに「自治についてのあなたの見解を聞かせてください」と頼んだのに、ガンディーは反対に若者を質問攻めにして、挙句は「あなたが自治(スワラージ)と呼んでいるものは本当の自治ではない」と言った所で前回は終わっていたのです。つまり、自治についてのガンディーの見解はいまだにはっきりと述べられてはいないのです。
 ただし、対話の中で彼の問題意識はいくらかは示唆されていたと言えるでしょう。そこで若者は、「あなたの考えは間違っている」と批判されても決して自分が侮辱されたなどと立腹したりはせず、「自分はイギリスの政治は議会制民主主義の手本とすべきだと評価しているが、この人の考えはどうも違うらしい」と冷静に推察したのです。
 というわけで、ここから話題は「イギリスの政治の(20世紀初頭における)現状」についての考察に移るのです。
 これに答えてガンディーは・・・ 
あなたが自治(スワラージ)と呼んでいるものは本当の自治ではない。 [2018年06月10日(Sun)]
(134)
 それは、あなたが自治(スワラージ)と呼んでいるものは本当の自治ではないということです。



 「自治」についてのガンディーと若い読者の対話の続きです。
 自治についての自分の考えを述べる前に、相手の自治に対する認識が誤っていることを自覚させなければならないとガンディーは言います。
 これはよく考えてみると当然のことで、若者が自治についての従来の自分の考えに何の疑問も抱いていなかったとすれば、たとえそれと違う意見を聞かされてもやっぱり素直に受け入れることはできないだろうと思います。
 「自治というのはこういうものだ」という考えを若者が持っていたとしましょう。その彼に向かって仮にガンディーが別の自治論を述べたとしても、「いや、そんなはずはない。それでは自分が今まで思っていたことと矛盾してしまうもの」とか、「そんな考えは認めたくない。だって、それを認めれば自分の考えを否定しなければならないもの」とか、いずれにしてもその内容を受容的に理解するには多くの障害が生まれてしまうのではないでしょうか。
 ちなみに、若者の自治に対する考えというのは、「インドが自治を獲得するためには強欲で傲慢なイギリス人を追い出さなければならない((105)など)」。しかし、「インドが目指すべき国家の模範となるのはイギリスだ((129)など)」。そして、「アジアの中で手本とするべき国は日本だ((121)など)」というようなものでした。
 さて、これを聞いた若い読者は・・・
自治についての意見を述べる前に・・・ [2018年06月09日(Sat)]
(133)
 ですから、自治についての私の意見を述べることはまだできません。
 その前に、あなたに分かっていただかなければならないことがあるからです。そのことをお示しできるように、まず私は努めようと思います。



 「自治についてのあなたの意見を聞かせてください」という若い読者の問いにガンディーはなかなか答えません。それは、「自治(スワラージ)の本質を理解するのは困難なこと」だからです。
 言葉というのは確かに自分の見解や認識を相手に伝える手段ですが、それを言語化して相手に話せば必ず自分の意図が伝わるか、共通の理解に到達できるかと言うと、決してそうではありません。
 これが、「人に何かを伝えること」の難しさなのです。単に自分が理解していること、自分が考えていることを話せば良いというわけではないのです。人に何かを伝えるためには、自分の思いを表現するだけでなく、それを受け止める相手の心の状態も正しく理解していなくてはなりません。それによって、話す順序、論理の組み立て方、何を簡略に言って何を詳細に語るか、どのような方法で伝えるかなどが変わって来るからです。
 この場合、ガンディーは、自治についての自分の意見を伝える前に、若い読者に理解してもらわなければならないことがあると言います。
 それは・・・
自治(スワラージ)の本質を理解するのは困難なこと。 [2018年06月08日(Fri)]
(132)
 あなたは自治(スワラージ)の本質をとても簡単に考えているようです。しかし、それを理解するのはあなたにとって容易であるのと同じくらいに私には困難なことに思えます。



 「自治(スワラージ)」についてのガンディーと若い読者の対話の続きです。若い読者は「自治についてのあなたの考えを聞かせてほしい」と言っているのですが、ガンディーは一向にそれを語り出そうとしないのです。
 それは、「自治(スワラージ)の本質はそれほど自明のことではない。だからまず、『自治とは何か』ということについて若者が熟考を重ねてより深い理解に到達しなければならない」とガンディーが考えているからなのです。
 そこで彼は、自分の見解を述べる前に若者に対していくつかの質問をします。その一連の問答の中で明らかになったのは、インドの「自治」を心から求めているのは同じでも、「自治」という言葉の2人の理解の仕方には非常に大きな違いがあるということだったのでした。
 そのことを踏まえて、ガンディーは・・・
相互理解には忍耐が必要。 [2018年06月07日(Thu)]
(131)
<編集長>
 そうせっかちにならないでください。
 私の考えは、この議論を進めていくうちに自ずと明らかになっていくでしょうからね。



 「自治(スワラージ)」についての編集長(ガンディー)と若い読者の対話の続きです。若い読者は、自治についての自分の考えを明らかにした上で、同じ問題に対するガンディーの見解を聞かせてほしいと要望します。
 しかし、ガンディーは自治についての自分の考えをここで明確に述べることを避けています。決して勿体ぶっているわけではなくて、「複雑な問題について話し合うには、じっくり時間をかけてまずお互いの認識の共通基盤を築くことが不可欠だ」と彼は考えているようなのです。
 そういうわけで、若者から質問を受けたにもかかわらずガンディーの方が逆に若者にいくつかの問いを発して、ここまでで既にかなり長い問答になっていたのでした。
 「自治についてのあなたのお考えを聞かせていただきたい」と若者が頼んだのは、このブログ連載の(101)、5月8日投稿分だったので、もう約1か月が経過しています。それでもまだ、ガンディーはもうしばらくの時間が必要だと言うのです。
 それは、なぜかと言いますと・・・
今は、あなたのご意見をお聞かせください。 [2018年06月06日(Wed)]
(130)
 しかし、今はあなたのご意見をお聞かせください。



 「自治(スワラージ)」についてのガンディーと若い読者の対話の続きです。若い読者は、「インドが自治を獲得するためには強欲で傲慢なイギリス人を追い出さなければならない。しかし、インドが目指すべき国家の模範となるのはイギリスだ」と自分の立場を明確にしました。
 しかし、彼は自説を訴えたいのはなくて、ガンディーの意見を聞かせてほしいと言うのです。
 そもそも、この章(第4章「自治とは何か?」)の問答は、いつの間にかガンディーの質問に若者が答えるような形になっていましたが、そもそもは「自治についてのあなたのお考えを聞かせていただきたい」という若い読者の要望(101)に端を発していたのでした。
 若者からすれば、「ぼくは、『自治についてのあなたの意見を聞かせてください』と頼んだのですよ。それなのに、あなたはぼくに質問ばかりして、自分の意見はちっとも語ってくれないじゃないですか」と文句を言いたい気持ちだったのかもしれません。
 これに対して、ガンディーは・・・
世界の最先進国を模範として自国の発展を図るのは当然である。 [2018年06月05日(Tue)]
(129)
 イギリス人たちが自国で行っている政治は、他のどの国でもまだ実現していません。
 だから、ぼくたちが彼らの制度を取り入れようとするのは当然の成り行きなのではないかと思います。



 若い読者が「自治」についての自分の考えを詳しく述べている部分の続きです。
 彼は熱心な民族主義者ですが、イギリスなどの西欧で始まった近代的な考え方や政治経済制度を人類普遍のものと認めることについては特に異存がないようです。
 そして、議会制民主主義についても、イギリスが世界の最先進国であるというのは定説だったと言えると思います。市民革命も一番早かった(17世紀)し、19世紀には選挙法が数次にわたって改正されて徐々に選挙権が拡大していました。(1832年第1回選挙法改正、産業資本家(ブルジョワ)階級に選挙権拡大。1867年第二次選挙法改正、都市労働者に選挙権拡大。1884年第三次選挙法改正、農業労働者と鉱山労働者に選挙権付与)。
 しかし、この頃には大統領制のアメリカ合衆国や1875年に第三共和国憲法が制定されていたフランスなどもあったので、本当にイギリスが民主政治における世界の最先進国であったかどうかは疑問です。けれども、スペンサーやミルの熱心な読者であった若者にとってはやはりイギリスこそが模範とすべき先進国だったのでしょう。
 このように語った後、若い読者は・・・