イギリスというと、ビートルズ、大英博物館よりも「協働」という言葉が思い浮かぶのは職業病でしょうかねぇ。
辞書を引き引き、外国で出版された本を最初に読んだのはBritish Trust for Conservation Volunteers(BTCV)のボランティアリーダー養成のテキスト。横浜自然観察の森で自然保護レンジャーをしていたとき、自分でもこのような活動を始めてみたいと思ったのが動機でした。
まちづくり方面にも関心が向き始めると、グランドワークトラストとか、デベロップメントトラストという仕組みも少し勉強しました。
パートナーシップが本職になった頃に聞きかじったのが「強制競争入札」などのいわゆる「サッチャー改革」と呼ばれる一連の施策。そして、その反動とも言える「コンパクト」市民セクターと行政セクターとの関係を規定する基本ルール。あるいは、協働の極地まで突っ走ったかと思われた「地域戦略的パートナーシップ(LSP)」
そして、今夜は横浜でイギリスの協働についての最新の動向を勉強するセミナーがあるというので、行って来ました。講師は中島 智人氏(産業能率大学経営学部)。イギリスでのフィールドワークの経験に基づいた生々しいお話に引き込まれ、あっという間に時間が来てしまいました。
遅れて会場に入ったとき、政府と市民セクターとの関係が変わりつつあるとのお話の最中でした。政府と市民セクターの関係を規定する基本原則「ナショナル・コンパクト」が大幅に刷新されたそうです。これまでのコンパクトは「ビジョン・目的」の共有を重視した「未来志向(ビジョナリー)」なものであったと言われますが、改正版では「共有の原則」が削除され、代わって「成果、アウトカム」が強調され、より「実利的」な方向に舵を切っているとのこと。
その影響は、既に現れ始めていて、行政が市民セクターに仕事を発注するときの評価基準が「コストパフォーマンス、効率優先」になりつつあるようです。公共サービスであっても、より安く、大量に供給できる大企業が良いサービス提供者と評価されてしまうと不満を述べるNPO(イギリスでは“チャリティ”と呼びますが、とりあえずNPOに統一)の方もいらっしゃったそうです。
効率とコストに勝る大企業が公共サービスの提供者となることによって、行政のコストが下がるとの意図があるのでしょう。ただ、私たちはこれまで、市民セクターには固有の価値があり、企業とは異質のサービスを提供できると思って来ました。
行政機関や大企業による公共サービスは「供給者」と「消費者」の関係が固定化しがちです。一方、市民セクターでは、サービスの受け手と供給者の関係は変化し、互いに他を必要とする「共助のネットワーク」が生まれることで地域の人間関係が豊かになり、個別のニーズに合った質の高いサービスが提供できるようになりますし、お金で決済されるだけでない関係が生まれれば、結果として「質の高い・個別のニーズに合ったサービスが安価に提供できる=社会的コストが下がることを目指していたはずです。
また、地域戦略的パートナーシップ(LSP)でも、行政主導で立ち上げた取組は形骸化しやすく、政府の資金とともに消滅する事例も多いようです。理念と基礎となる制度は立派でも現場の担当者と実務の仕組みがおいついていかない現状も「日本と似ているなあ」と思ったところです。もちろん、基本的な考え方や大枠の制度自体は、日本より一歩も二歩も先んじていることは確かなのですが。
(この項目は続きます)