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通勤の電車の風景:眠りながら書を読む人々 [2012年07月04日(Wed)]
通勤は極めて日常的な場所の移動だから、劇的な場面に遭遇することは滅多にありません。

たまに、ミニスカートのスーツにハイヒールの若い女性がホームを全力疾走していてぶつかりそうになったり、改札口の前で若い男性が女性の腕をとったまま見つめ合っているシーンを見かけたりすることはありましたが、そういうドラマチックなことはまれにしかないのです。

あるとき、座席にで熟睡している若い女性を見かけて「ぎょぎょぎょ」となりました。膝の上に開いた厚くて大判の本に描かれているのは、大きな人体解剖図。きっと医師か看護師の卵なのでしょう。熱心に勉強をして眠くなったのかと思います。とは言え、満員の通勤電車の中で全裸の男性(一部内蔵が見えている)の絵を見せられるというのは、なかなかに珍しいことと言わなければなりません。

その、翌日のことだったと記憶しています。私の隣に座っている中年男性が眠り始めました。蒸し暑い日でしたが、黒っぽいスーツにネクタイを締めています。膝の上に開いているのは楽譜。英語でラフマニノフの交響曲2番の第二ファゴットの譜面と書いてあります。良くみれば、ずいぶん細くて長い指です。この指であの大きな楽器を鳴らしているんだなぁと思ったらちょっと感動しました。譜面には、鉛筆でいろいろと書き込まれていますが、それを解読する能力は私にはありません。

通勤の電車の中で眠りながら何かを読んでいる人の観察は案外面白い、と気がついたのはそのときでした。あまり良い趣味とは言えませんが.....。

今までで一番衝撃的だったのは、つり革につかまって立ちながら本を読んでいる人が、本を読んだまま眠ってしまったことです。ときどき、足がぐらっと揺れて目が覚めるのですが、ほとんど意識はありません。すごいのは、右手に持った文庫本を落とさないことです。しかも、親指を読みかけのページに挟んだままにしているのには心底びっくりしました。初老の男性です。本には革製のカバーがかかっていて書名は不明ですが、文体と内容から察するところ、司馬遼太郎の『坂の上の雲』のようです。

夜8時ころ、朝日新聞の朝刊を読みながら眠そうな中年男性がいました。「きっと眠るだろう」と思って観察を始めたところ、途中で新聞を読むのを止めてカバンから携帯ゲーム機を取り出して、ゲームを始めました。残念ながら「朝日新聞を読みながら眠る中年男性」の記録はできませんでした。ところが、その翌日、帰りの電車でほぼ同じ時刻に同じ人が目の前に座っていました。朝日新聞の朝刊を眠そうな顔で読んでいます。その日は、新聞をカバンにしまって本格的に眠ってしまいました。全く見ず知らずの人と2日続けて同じ電車の車内で出会ったことに気がついたのは、前日にその人の服装や人相を良く観察していたためです。

通勤電車の奥の深さを実感している今日この頃でございます。
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