精神障害を抱えながら一般企業で働くあなたへ [2026年02月21日(Sat)]
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障害当事者団体ベクトルズ 創立理事の尾侍酔助です。今日は、精神障害を抱えながら一般企業で働いている方々に向けて、エールの声と、同時に「どうか無理はしないでほしい」という呼びかけを込めて、私自身の経験や日頃感じていることを投稿します。
執筆が仕上がるまでに約1ヶ月ほど掛かりました…。 ■強迫性障害と社交不安障害を抱えて働くということ 私は、強迫性障害と社交不安障害を患っています。十分な治療を受けないまま、日々症状に苦しみながらも、現在は土木作業員として働いています。 一口に「土木作業員」と言っても、その仕事内容は幅広くあります。障害を抱えていても、体力さえあれば比較的なんとか耐えられると言われる仕事の一つには「工事現場の交通誘導」のような役割もあります。 しかし、私の場合は少し違っていて、大型重機の操縦士として働くことが多いのです。これは体力だけでなく、何より集中力が欠かせない仕事です。ちょっとしたミスが大きな事故につながる可能性もあるため、常に神経を張り詰めて作業をしています。 仕事において、社交不安障害の症状で悩むことは、私の場合はほとんどありません。一方で、強迫性障害のほうは厄介です。ふとした瞬間に、「過去に言ってしまった嫌な発言」「見たくもない人物の顔」「忘れたいシーン」といったものが、自分の意志とは無関係に脳裏に鮮明に蘇ってくることがあります。仕事中であってもです。 その対処法については、過去のコラムで詳しく書いたことがあるため、今回は詳細を省きますが、「障害を抱えながら集中力を要求される現場で働く」というのは、決してラクなことではありません。 それでも、なんとか今日まで現場に立ち続けている…!まずそのことだけは、私自身のささやかな誇りです。職場の人間関係にも運良く恵まれたという感謝の想いも大切にしています。 ■Twitterで拾い続けている「当事者の叫び」 私には日課があります。起床後や帰宅後に、Twitterの「おすすめタイムライン」を覗くことです。その理由は、障害当事者団体ベクトルズの理事として、様々な障害当事者の声をキャッチしておきたいからです。 タイムラインには、こんな声が次々と流れてきます。「障害者雇用枠で就職したけれど想像以上にきつかったという話」「障害者であることを隠して就職する"クローズド就職"をするか悩んでいる人の葛藤」「障害者雇用枠だから支援や合理的配慮があると思って入社したのに実態は一般枠と変わらなかったという嘆き」 ツイートを読む際はプロフィールもあわせて見ています。ほとんどの方が、うつ病・双極性障害・統合失調症・境界性パーソナリティ障害・解離性同一性障害・発達障害・パニック障害など、何らかの精神障害を抱えていることが分かります。 「働きたい」という思いは強くある。でも、 心と体がそれに追いついていかない。そのギリギリのところで頑張っている人が多いのだと、タイムラインを眺めながら実感しています。 ■クローズド就職のリスクについて思うこと 障害者として働く際によく話題になるのが、「障害者であることを会社に伝えて働く"オープン就職"」「障害を隠して働く"クローズド就職"」のどちらを選ぶか?という問題です。 クローズド就職を選ぶ理由として、よく見かけるのは、「精神障害者だとバレたら、解雇されたり自主退職に追い込まれるのではないだろうか」「偏見の目で見られたくない」といった声です。この気持ちは、とてもよく分かります。偏見や差別が我が国に未だ根強い現実にある以上、「隠したい」という感情が生まれるのは自然なことだと思います。 しかし、クローズドを選ぶ方にはに、ぜひ知っておいてほしいリスクもあります。障害であることを隠して一般企業に就職できたとしても、いつか症状が強く出てしまう可能性はどうしてもゼロにはなりません。 そのとき、周囲の人たちはあなたが障害を抱えていることを知らないわけですから、「急にどうしたんだ?」と戸惑われる。上司から「体調管理も仕事のうちだ」と説教される。といった事態が起こり得ます。相手は知らないし、自分も伝えていないのだから、ある意味で仕方のないことでもあります。 よほど何年も症状が安定している人ならまだしも、そうでない場合は、クローズド就職はかなりリスクが高い選択肢だと私は感じています。 ■障害者雇用枠だからといって「過度な期待」は禁物 一方で、障害者雇用枠で就職した人たちの声を見ていると、「職場の仲間や上司に恵まれ、無理のない範囲で働けている人」と「"障害者雇用枠"と名乗っているだけで実態は一般枠と変わらず支援も合理的配慮もない職場」、という両方が存在していることが分かります。 中には、「健常者の社員と同じ仕事量を与えられているにも関わらず、障害者雇用枠として採用された人だけ健常者の社員より安い給料で働かされているだけだ」と独白している人もいます。 私個人の考えとしては、「障害者雇用枠だからきっと障害に対する理解が職場の人たちには教育されており、合理的配慮や困った場合のサポートがあるはずだ」と過度に期待するのは危ないと感じています。 障害者雇用枠は、「合理的配慮付きの職場が保証される」チケットではなく。あくまでも「障害をオープンにした上で、応募・入社試験に臨める」スタートラインの話にすぎない。そのくらいの感覚でいたほうが、現実とのギャップに苦しみにくいのではないかと思います。 ■オープンで働くことのしんどさと現実 障害当事者団体ベクトルズには、私の他にも、自分が障害当事者であることをオープンにして一般企業で働いているメンバーが何人かいます。症状の程度や内容は人それぞれ違いますが、「職場で一度も症状が出たことがない」という人は一人もいません。 自分の障害との付き合いが長く「このままだと症状が出るかもしれない」と事前に察知できる人もいれば、私のように何の前兆もなく突然症状が襲ってくるタイプもいます。 また、仕事上のストレスがじわじわ積み重なり、何とか耐えているギリギリの精神状態の時に、同僚や上司からの心ない一言や、きつい説教などがきっかけとなって、一気に心が折れてしまうケースもあります。 実際に私は、「それをきっかけに休職せざるを得なくなった」「退職して療養生活に戻ることになった」という当事者の経験談も聞いてきました。 ■「頑張って働けている自分」を誇りに思いつつ、決して他人に強要しない ここまで読んで、「それでも尾侍さんは一般企業で、しかも肉体と精神を酷使する仕事を続けているんですよね?」と思われた方もいるかもしれません。確かに、私は今のところ、土木現場というハードな環境で長く働き続けています。その事実を、自分なりに誇りに思っている部分もあります。 しかしながら、ここは強くお伝えしておきたいのですが、私はこのことを「誰かに自慢したい」とは思っていません。ましてや、「自分だってできているんだから、あなたも頑張れるはずだ」「働けていない人は努力が足りない」などと言うつもりは一切ありません。 障害の種類も程度も、環境も支えてくれる人の有無も、一人ひとり条件がまったく違うからです。 ■最後に伝えたいこと"エールと「無理するな」の両方を" このコラムで私が伝えたいのは、次の2つです。「精神障害を抱えながら日々仕事を頑張っているあなたにエールを贈りたいということ」。そして同時に「どうか無理だけはしないでほしい!という強い願いがあるということ」、この2つです。 具体的には、こんなメッセージを届けたいです。 「体調が酷く悪いけれど、出勤しないと職場仲間に迷惑をかけてしまうから行かないと…。」、そんな状態で出勤しても、まず仕事の要領は落ちますし、何よりあなた自身の体調悪化を加速させてしまいます。 「このままだと精神崩壊しそうだ…。」、もし自分でそう感じる段階に来ているなら、それはかなり緊急性の高い危険信号です。耐えて我慢してやり過ごす段階は、もうとっくに過ぎています。 「周りに迷惑をかけたくない」という気持ちは尊いものですが、そのために自分の心身を壊してしまっては、本末転倒です。どうか自分の限界ラインを他人の物差しではなく、自分自身の感覚で見つめてあげてください。 精神障害を抱えながら働いているあなたは、それだけで十分すごいことをやっています。その頑張りに敬意を送りつつ、それでもなお「命より大事な仕事はない」と、最後にもう一度書いておきたいと思います。 どうか今日も明日も、あなた自身を大切に。そして無理をしそうなときには、この記事のことを少しだけ思い出してもらえたら嬉しいです。 以上 障害当事者団体ベクトルズ 創立理事 尾侍酔助 |


