海王丸航海体験記 [2013年02月28日(Thu)]
1/25の海守ブログで、帆船海王丸によるハワイ航路体験航海の ご案内をいたしましたが、昨年この航海に参加された海守会員さんより 航海体験記を送って頂きました。本年の参加者募集はすでに締め切られた ようですが、臨場感に溢れる上記体験記は、この航海を追体験出来そうな 内容です。以下に全文を掲載いたしますので、大海原をゆく帆船の魅力を お楽しみください。 〜以下全文(原文ママ)〜 平成24年 練習帆船 海王丸 遠洋航海研修生体験 海守会員NO.13040451 谷口 重行 さん 海王丸につきましては、海守ホームページと海王丸の一般公開、航海体験、 海洋教室等で、ご承知とご理解を頂いていると思います。 私もこの海王丸に乗船してHawaiiまでの遠洋航海に研修生として参加することが 出来ました。 話しはやや遡りますが平成24年2月下旬、当方の携帯電話に公益財団法人海技教育財団 から着信が有り、そこから遠洋航海のドラマが始まりました。 常々、チャンスがあったら遠洋航海に参加したいなという気持ちを持ちながらいました。 それが突然乗船できることになり、乗船までの準備期間は約一ヶ月あまりで、 大変忙しくオアフ島でのホテルの手配、帰りの飛行機の手配、 そして最も急がなくてはならないものが有りました、 それは米国の非移民ビザB1、B2の取得で有りました、米国大使館のホームページ から手続きをするわけで有りますが、これが大変! やっとの事で面接日を予約し、大使館に行って面接を受け二日後にビザが付いた パスポートが送られてきて一安心しました。 船内での一ヶ月間の生活の用品等を買いそろえ、あっという間に乗船日の4月6日 を迎えました、庭の桜はまだ4分咲き、晴海埠頭の桜は6分咲きになっていました、 やはり埼玉より暖かい、そう思いながら乗船前のオリエンテーションの会場に予定時刻 の30分前に着きましたが,参加者(研修生)6人の内の最後でした。 早々にオリエンテーションが始まり、事務連絡と調整、船内注意、自己紹介あと 大きな荷物を持って乗船となりました。 出船は4月7日(土)14時00分予定で7日の朝から出船と出港式に向けての説明、 訓練、予習と訪船者への案内等が有り慌ただしく時間が過ぎました。今回の乗船者は 170人で内訳は船長以下乗組員67人、実習生(東京海洋大学、神戸大学海洋学部、 海技大学校、大学院生等22才前後)97人と当方グループの研修生(60〜68才)6人です。 12時30分から出港式兼麗水国際博覧会展示出港式が政府関係者、韓国大使館等の 来賓者の出席を頂き式典が行われ、麗水で展示する東日本大震災に見舞われ被災した 小学生の代表出席し、子ども達が描いた絵が船長に託された。 いよいよ出港でです、13時20分にタグラインが引かれ、14時05分艫綱が解かれ 離岸した、実習生はマストに上り登檣礼「ごきげんよー!」、研修生はブリッジから 胸に手を当ててから「ごきげんよー!」徐々に妻の顔が小さくなり、叔父貴の顔も 見えなくなり、消防艇の安全航海放水、見送り船にはU,W旗が掲げられ レインボーブリッジを通過したら岸壁の見送りの方々数百人の姿も見えなくなりました。 心の隅に寂しさを覚えましたが大きな希望胸が膨らみなした。 出港早々ブリッジでの座学が始まりました、浦賀水道の通行方法、危険箇所、 標識ブイ等曇り空の寒い中、鼻水をすすりながら専任教官講義を受けました。 船は洲崎灯台を左に見て太平洋に出ました、しばらくして野島崎灯台見て北上しました。 北條の為本日から3日間は機走(メインエンジン推進)で4月9日14時にメインエンジン 停止、待ちに待った帆を広げての帆走が始まりました、南西の風18knt、波高2.4m, 船速15.4knt!とても早い、機走の速度を上回っている乗船者一同感激である、 しかし帆走は船が傾くことになりTrimは左舷側に5〜10°の傾き睡眠中も壁側に体が 押しつけられ睡眠不足に陥る、帆走によって大きなピッチング、ローリングは少なく なったものの、船速が上がると激しい動揺になる実習生の中では船酔い者が多く発生、 教室のあちらこちらでぐたーっ!している、揺れが大きいので三点確保をしなければ移動 することが出来ない、とうとう負傷者2名が発生してしまった、転んで肩を強打、 階段を踏み外して下腿部の骨折である、船には船医(東京女子医大のDr)と 看護師が乗船しており適切に治療された。 実習生は年齢の神経が感じないのか船酔者は出なかった、むしろ揺れを楽しんでいた。 実習生の船酔いは時間が解決をした、慣れである、こういう環境にあると徐々に感じなく なってくる長い人でも5日程度で回復した、船乗りとしての第一通過点である。 毎日が変化があって得るところが沢山あるがなんと言っても楽しみは食事である、 最後まで同じ料理を出される事はなかった、毎日異なるメニューで楽しみだ、 一週間のメニューを表示してもらえないかお願いをしたが発表される事はなかった、 行っての楽しみである、食事は朝、昼、晩のほか夜食の4食が出ます、 レストランのような派手な料理ではないが、味はピカイチである、荒れる海での食事作り は大変な作業でしょう、食事の度に司厨部の皆さんに「ご馳走さまでした」心から 自然に伝えました。 1日4食と言う事は3,000Kcal〜3,200Kcalも有り全てを食べてしまうと、 とんでもないことになってしまう、ここでは捨てる事を学びました、捨てることの 出来ない時代に育った研修生は自己との戦いでした、おかげで当方は7sの減量に 成功しましたが、残念な事にHawaiiに着いてから自己を見失ってあっという間に 増量してしまいました。 乗組員共通の楽しみ言うか日付変更線通過(180°線)予想コンテストがあって、 何日の何時何分、何秒に通過をするかである、結果は4月16日20時12分10秒に通過、 恒例によって船医が警笛を鳴らし日付通過を知らせた、当方は5分46秒のオーバーで 第4位で翌日の表彰式では3位までが表彰で何もなかった・・・誠に残念! この翌日も4月16日(リターン)である。出向3日目から船内時刻が毎日改正され 30分前後時計を進めている。意外な事は出港3日目にレース鳩が迷って船に2羽 降りてきた、1羽は翌日居なくなったが、もう一羽4月27日(位置はHawaii島南沖) の早朝まで乗船していた、水と餌と寝るとことが与えられ元気を回復し、 飛行訓練もしていたがとうとうHawaii島に向かって飛んでいった、新天地でしっかり 頑張れ!である。 船内生活は毎日のカリキュラムが組まれており、その計画に基づいて行動する、 先ずは6時35分からの朝別科、これは人員点呼、事務連絡、伝達事項、体操、そして 裸足になってデッキ磨き、椰子の実を持って海水がまかれたチーク材のデッキ丁寧に 磨く、号令と掛け声の研修生、実習生が一丸となって行う、終わると気持ちが清々しい、 これを「たん通」言う。次に午前課業、午後別科、これは朝別科のたん通だけがない、 その後午後課業、そして夕食後の夕別科、これは船内清掃と各室点検である、このほか にワッチがある。全く生活に単調さは無い、毎日が変化がある、ほかに シップナビゲーションのモニターが第1教室と談話室に設置され、オンタイムで 現在位置(緯度、経度も表示)、風向風速、船速、気温、水温、気圧、波高、傾斜、 GMTが見られるので、それを見ているだけでも飽きない、刻々と位置がHawaiiに近づく ので胸がワクワクする。 ニュースは毎朝Faxで船舶用新聞が送られてくるので、それを読むのも楽しみである。 午前午後の課業は座学、訓練、ロープワーク、ヤード変換、操船、船内探検、ワッチ等 多くのことを学んだ。 また土曜日には運動日課と学友会活動がある、運動日課は全員で音楽に合わせて デッキを反時計回りに回りゲームをしながら運動するもので30分で終わるが、 会話の良いきっかけになる。学友会活動は金属磨き班、漁労班、クッキー班、日焼け班、 天体観測班、床屋班、ロープワーク班、歌謡班等約15の班が有り、それぞれに1〜3位の 班に所属し、活動を通して交流を深めた、当方は漁労班に属し乗船時に持ち込んだ トローリングセットで鰹を狙ったが、水温が低く15°〜18°位しかないので、漁は散々な ものだった、ミッドウェーを過ぎてから水温が21°まで上がってきたので再び トローリングを開始したらシイラ(mahi mahi)がヒット、全く喰う気がなかったので キャッチ&リリース。しかしあまり釣れなくても、仕掛けを考えたり、太平洋の真ん中で 釣りをする贅沢で大変に満足でした。 実習生と情報の交換する機会が度々あり、研修生とは年齢差42歳前後あったが、 話の仕方、言葉遣い、考え方等がしっかりしていて将来の目標を持って希望に 満ちていました。そこで我々じいさんの研修生は少しでも役に立つよう人生の先輩 として、社会常識、企業内人事管理、組織維持、上司とは、部下とは等々について経験 と実践で積んできた経験を彼らに伝えた。やはり将来船長とか機関長になる方々なので 大変頭が良く、呑み込みも早く日本を代表する大学等の方々だと強く感じました。 船内では結構感動することが有ります、一つに海水風呂です、浴槽に海水を張り スチームで温めます、この中に入ると体が浮いてとても気持ちが良い、船の揺れ 乗って揺れるので最高の気分です、また造水器で作った真水は蒸留水に近いので 石鹸の泡立ちが弱くやや変な気分、真水のシャワーは使用が制限され一人11秒までの 使用で海水を洗い流す、慣れてくれば十分な時間です。 感激としてはワッチであります、船首でのLook Out、ブリッジでのレーダー監視、 フードでの蛇輪による操船、機走時のブリッジでの操船等であります。 一つには実習生が開催してくれたFarewell Meetingで実習生、研修生、乗組員が一つ になってこのパーティーを楽しんだ、寸劇あり、無精髭コンテストあり、 歌謡ありで非常に楽しい時を作ってくれました・・・これは研修生へのお別れ パーティーでもあります。 一つに出港から21日目の早朝にカウアイ島のランドフォールドです、 3週間ぶり見る陸地です、皆感動でカウアイ等を見入っていました。 帆船時代の船乗りはきっと我々以上に感動したに違いない。 もう一つに28日目にHonolulu港に入りPier21Aに着岸、現地の方々が日の丸を 掲げて歓迎してくれました。そして下船上陸手続きが終わり午後下船となりました、 このとき実習生の皆さんが人の輪のトンネルを作って我々研修生を送り出して くれました、船長と機関長ほか乗組員の方々肩がにあいさつをして下船しました、 下船時の一人の実習生が涙を流しながら当方にHugしてくれました、 私63年の中で初めて大きな感動を覚えました、下船セレモニーもピークに達し、 皆さんに感謝をしつつ涙をこらえてHonoluluの地を踏みました。 こうして私の28日間の練習帆船海王丸の遠洋航海は終わりを迎えました。 169人の方々から多くの事柄を学ぶ事が出来たこと、壮大な海と帆船と風とを 経験させて頂いたこと、また全くの素人の研修医を大過なくHawaiiまで連れてきて 頂いたこと、船長等、専任教官、船医、指導員、士官の皆さん、部員の皆さんそして 実習生の大学生の皆さんに感謝申し上げます。 乗船中は辛いことも多々ありましたがそれ以上に感動、感激したことが多く私の人生 にとって最大の冒険となりました。 ※なお、本航海の体験記をA4版で約80ページ位にまとめたものが有りますので、 ご希望の方に差し上げます。 会員番号・住所・電話番号・氏名を明記の上、海守事務局までご連絡ください。 jimukyoku@umimori.jp |