明けましておめでとうございます。
本年も、より新鮮で幅広い海のニュースをお届けするべく努力して
まいりますので、どうぞよろしくお願いいします。
新年初めの海守ブログでは、1/5の築地市場初競1番で競り落とされた
1億5540万円のマグロについてです。
TVや新聞で散々報道され、すでに聞き飽きた方も多いと思いますが、
築地でマグロ仲卸業を営む現役社長の視点も交えておりますので
お付き合いください。
人気スターのように連日メディアを飾ったこの大間産222kgのクロマグロ、
昨年の初競1番と比べて約3倍となる1kg70万円、1本で1億5540万円の
値段が付きました。頭や骨、皮や血合いを取り除くと刺身1切れ(約10g)の
原価は2万円を超えるようです。つまり刺身1gが2000円以上となり、純金が
1g約5000円であることを考えれば、その破格ぶりに驚くばかりです。
世界を見渡せば、イタリアにおいて3100万円で競り落とさされた1.5kg
の巨大白トリュフや、1本(720ml)5500万円で落札されたワインなど、上には
上があるものの、マグロ1本がサラリーマンの生涯所得に迫る金額とは、まさに
マグロ協奏曲といえるのではないでしょうか?世界的にマグロ資源の枯渇が
懸念されている中で、このお祭り騒ぎには、報道表現も含めて正直なところ違
和感を覚えます。
思い返すと、2011年の初競で1本3000万円(1kg:9.5万円)を超える
マグロが現れた際に、築地で三代にわたりマグロ仲卸業を営んでいる生田氏(海守
会員)はすでに、この協奏曲に苦言を呈していました。少し古い記事ですが、あら
ためて全文を掲載しますので、是非ご覧ください。
※以下の記事は、築地魚河岸「鈴与(マグロ仲卸業)」社長で海守会員でもある
生田與克氏に「会報誌うみもりVol.06(2011年3月発行)」のコラムとして
執筆いただいたもので、ご本人の了解を得て、本ブログに再掲載しました。
《以下、生田氏コラム(原文ママ)》
魚の値段に惑わされちゃいけねぇよ
「魚は安い時が一番美味い」だよ
慌ただしく春になり、年が明けてから多くの行事があった。中でもお正月は
一番最初のイベントで良いモンだよねぇ。お屠蘇と称して堂々と昼間っから
一杯やれるし、のんびりしながらも、キリッとしまった朝の空気に触れながら
初詣に行けば、不景気なんてぇことはすっかり忘れちまって「さぁて今年もやる
かっ!」って晴れやかな気持ちにもなってくる。
魚河岸の新年は毎年5日からだ。新春らしい華やかな色遣いの初荷幟が、普段
は殺風景な市場内の各セリ場や仲卸売場にはためく。「あぁ〜今年も始まった
なぁ〜」とつくづく感じる瞬間だ。
近年では、めでたくのどかな中にも、緊張感があふれる初荷風景に、異変が
出始めている。初荷風景をカメラに収めようとするマスコミが大挙して押し
寄せるようになったんだ。
もちろんはじめは全国の新春風景の一つとしての取材だったのだが、約10年
位前に一本2千万円という、史上最高値のマグロが競り落とされた。そして
それからなんとなく「初セリ」=「ご祝儀相場」=「最高値が出るかも?」
という図式が出来上がってしまった。
それだけだったら年初に魚河岸に勢いをつけるって意味でもまだ良かったの
だが、それに便乗しようっていう目端の利く商売人が現れ出した。
彼等の考え方は至極単純。仮に2千万円でも、某国営放送局から民放各社まで
がニュースやワイドショーで、ご丁寧にそのマグロの行先(すなわち自店)
まで追ってくれるわけだ。それも連日にわたり、ゴールデンタイムの番組でも
扱ってくれる。これって考え方によっては物凄く安い広告宣伝費なんじゃない
のかな?
そしてとうとう今年の初セリでは、キロ当たり9万5千円で一本3千万円を
超えるマグロが現れてしまった。聞くところによると2軒の寿司屋で分けた
そうだが、一軒当たり約1千5百万円なんだから、破格な広告宣伝費だったと
思う。
彼らは商売人だからこの考え方は間違っていない。きっとそのニュースを見た
薄っぺらなグルメなお客さんが大勢来て、さぞかし繁盛しただろう。またこの
ニュースでその店を知り、日を改めて行きたいと思う人も多いだろう。その
宣伝効果は抜群だ。
ただ問題なのは、食べておいしいマグロではなくて、最も高いマグロを仕入れ
たいという考え方にあると思う。これは実体のない価格、まさにバブルって
やつだ。事実、この日の二番手のマグロはちょっと高めだったが、ごく常識的
な価格だったし、次の日にウチが買ったマグロは、大きさこそ例のマグロより
小さいが、一本の価格は二桁安かった。
魚の値段は美味い不味いで決まるものではない。あくまでも「需要と供給の
バランス」で、価格決定されている商品だ。欲しい人が多く、獲れる量が少な
ければ価格は上がり、欲しい量より獲れる量が多ければ、価格は下がっていく。
「魚は安い時が一番美味い」 実はこれ、魚河岸連中の常識なんだ。日本人は
昔からこれを「旬」と呼んで、大切にしてきた。たくさん獲れた時には無駄に
しないよう知恵を絞り、工夫に工夫を重ね、色々な食べ方を編み出して、それ
を現代の俺たちに文化として残してくれている。いつも思うことだが、本当に
感謝は尽きない。
しかし現代に生きる我々は、自然と付き合っていくために必要な、最も大事な
ことを忘れてしまっている。それは「我慢をする」ってことだ。自然に対して、
金をばら撒いたって何の効果もないことくらい誰でもわかるだろう。人間は文明
を発達させ、便利な世の中を作ってきた。しかし我々は、自然の前では無力な
存在なんだってことは、変わっていないんだ。
この最高値マグロ狂騒曲を大自然の主が見たら、きっと呆れてることだろうね。
(了)