それぞれが帰る場所 [2010年03月14日(Sun)]
小奇麗なホテルの部屋でシャワーを浴びながら、さっきまで話していたMr.Abiboのことを考えた。
モザンビークのハンセン病回復者団体、ALEMO (Association of Leprosy affected people of Mozambiique) の事務局長。 出張に行く先々でハンセン病回復者に会うけれど、会った後にこんな気分になったのは初めてだ。 理由は、 ひとつにはシャワーを浴びる直前まで、Mr.Abiboへのインタビューの書き起こしをしていたから。 そしておそらくもうひとつには、制圧祝いのレセプションの場で、彼がひとり浮いていたからだ。 会場にはもうひとりの当事者がいた。 ADEMOという障害者団体の代表のMs.Farida Gulmamo。彼女は車椅子で介助者つきの参加。 でも、人の輪の中に入っていた。 ひょうきんなWHO広報担当官のGloriaは、気を遣ってか写真を撮ったり何度かAbiboに話しかけながら、“No one would come to talk to him. This is stigma, this is stigma.(誰も彼に近づこうとしない。これがスティグマよ)”と、彼にわからない英語で小声で私に囁いた。 身に着ける服が違う。 かすかに垢の匂いもした。 話している途中で、ホテルの給仕係の人に何かを話しかけ(おそらく持ち帰れるようにパックに詰めてもらえないか訊いたのだと思う)たが、断られていた。 しばらく後に、鞄の中から出した茶封筒の中に、皿の上の食べ物をそのまま移し入れた。 話が終わって帰る頃には、茶封筒に油の染みができていた。 でも、彼が話している内容は、同じだ。 当事者の代表として国際会議に呼ばれるのが定番のインドのDr.Gopalや、ジャカルタのASEAN事務局内に専用デスクを構えるAdiが語ることと、問題意識もやろうとしていることも変わらない。 ただ住む場所がインドとインドネシアより、はるかに日本から遠い。 眉間に小さな突起ができていて「これのせいで頭痛がするんだ」というので、私が「体調悪いのに長く時間をとらせてごめんなさい」と謝ると、「いや、インタビューされるのは嬉しい。情報を発信できる貴重な機会だから」と真剣な表情で答えてくれた。 どうすればよかったんだろう。 レセプションでWHOや保健省の人たちが会長と記念写真を撮っている時に、インタビューを中断して、無理やりでも輪の中につれて入っていけばよかったんだろうか。 「当事者のエンパワメント」と、言葉でいうのは簡単だ。 でも実際ひとりの当事者リーダーを育てるということは、長い間、ひとりの人間に向き合うこと。 インドは「世界最多の回復者を抱えていて、厳しい差別が残っている国」だから、重点国。 じゃあ、他の国の回復者のエンパワメントには、どこまで関われる? そんなことを悶々と考えながら、ふと鏡を見たら、Abiboが「痛い」といっていたのと同じところに、赤くぽつんと吹き出物ができかけていた。 |