明石清水高校「くらしと環境」の授業のこれまでを振り返って [2012年10月06日(Sat)]
この4月から明石清水高校「人と環境類型」というコースの授業に関わらせていただいています。
今日10月6日、これまでの学習成果発表会が開かれました。 この「人と環境類型」の授業の中で学んできたこと、気づいてきたこと等をパネルディスカッションという形で発表。 生徒皆さん、一人ひとりのとても成長した姿を見て、とても嬉しく感じられ、関わらせていただいたことに、とても感謝した1日でした。 ↓写真は、パネルセッションの様子。皆さん4月当初とは見違えるくらい立派な姿で発表してくれました。 さて、私がどんな関わりをしてきたのかを少しご紹介したいと思います。 私は「くらしと環境」という授業を受け持たせていただきました。 授業の企画からプログラムづくり、授業の進行まで、先生方と一緒に創ってきました。 私がどのような想いでこのプログラムを作ってきたのか、今日の発表会用にまとめた文章の一部を紹介したいと思います。 ーーーーーーー 1.はじめに 私のNPO法人が運営する若者しごと倶楽部には、毎日就職に悩む若者が相談に来ます。彼ら・彼女らは、いつも決まって「自分が何に向いているかわからない」「適職が見つからない」と言います。 さて、「天職」や「適職」とは何でしょうか。見つかるものでしょうか。見つけるものでしょうか。2つの言葉の違いは、「見つかる」は他動詞、「見つける」は自動詞だということです。つまり、「見つける」のは自分自身で見つけるものであり、「見つかる」のは他の力によって「見つかる」ということです。では、「天職」や「適職」は、他の人に見つけてもらうものでしょうか。自分自身にどのような仕事が向いているのか、それ以上に、自分がどのように生きたいのか、それぞれ他人が決めてくれるものではなく、自分で見つけていかなければなりません。 自分で「見つける」ことのできる力をつけること。今回の授業の一番の目的はそこにあります。自分のこれからのキャリアを自分自身でデザインできる力が、これからの自分自身の人生を豊かに生きていくために必要ではないかと考えています。 私どもNPO法人シミンズシーズは、「市民ジリツ支援NPO」をコンセプトに、一人ひとりの自律と自立を支援しています。今回の明石清水高校での取り組みが、一人ひとりの皆さんの自律と自立につながればと思い、今回のプログラムに企画から関わらせていただきました。 今回のプログラムを受講してくださった皆さん一人ひとりが、自律したエンパワメントを持った人として、自分らしく、豊かな人生を歩まれることを願っています 2.なぜこのプログラムが必要なのか テレビを見ると、連日悲しいニュースが途切れません。地域や社会の中で、様々な問題が起こっている現代において、その問題を行政だけに任せておいても大丈夫、何とか解決できる、そんな時代は行政の緊迫した財政難とともに、終わりつつあります。一人ひとりが、地域や社会で起こる様々な問題の解決に主体的に取り組んでいく、そのような役割が市民一人ひとりに求められる時代にきているのです。つまり、行政だけが公共を担うではなく、市民や企業など様々な人たちみんなが公共を担う、そのような時代に変わりつつあります。 今回のプログラムでは、地域や社会で起こる様々な問題解決に主体的に取り組んでいく人材を育成するために、問題解決能力、想像力、創造力、表現力、コミュニケーション力などを養うことを目的にプログラムを企画しました。 「保育士になりたい。」と言っている生徒さん達に理由を聞くと、みんな同じように「子どもが好きだから。」と言います。そして、「他には?」と聞いても、それ以上に答えが出てきません。なぜ保育士になりたいのか、保育士がどのような仕事なのか、そのやりがいは何なのか、そしてそれ以上に、保育士という職業につき、社会の中でどのような役割を果たすのかということを考える力をつけてほしいと思っています。皆さんが、社会の中で自分の役割を見つけ、これからの自分のキャリアをデザインできるように願っています。 3.このプログラムで大切にしていること 1)答えを自分の力で導き出す 今回のプログラムを実施するにあたって、何よりも大切にしてきたことは、「一人ひとりの主体性を伸ばす」ということです。今回のプログラムは、多くの参加型のワークから構成されています。知識を教えられるという一方通行の「学び」ではなく、一人ひとり自分で考える中での双方向の「学び」を大切にしています。インターンシップ先に行くこと一つとっても、自分で調べ、自分で先方とやりとりをし、自分で段取りしてもらうように促しました。 社会に出ると、答えが決まっているものばかりではありません。自分で答えを考え、導き出さなければならないことも多くあります。今回のプログラムにおいても、答えを予め用意しておくのではなく、自分で導き出してもらえるよう、一人ひとりの考える時間を大切にしました。 2)深く考える 効率よく、合理的にということが最優先にされる最近の社会では、あまりじっくりと考えてみる時間が少ないのかもしれません。進路を考えるということは、言葉どおり、自分の進む道(路)を考えること。その進路を「選ぶ」という単純な考え方ではなく、深く悩んで考えてほしいと考えています。そのために、今回のプログラムでは、「なぜそう考えるの?」「○○についてはどう思う?」と、一つひとつの物事について問いかけ、「考える」ワークをたくさん行いました。ワークシートを書いたり、グループワークをして仲間と話をしたりする機会が多かったことは、今回のプログラムの大きな特徴です。 3)失敗から学ぶ 高校生が活動する際、見守る側である保護者や教師といった大人達は、知識や経験から先回りして、「このままだとこんな失敗をしそうだから、事前にフォローしておこう。」と事前にお膳立てしまうことがあります。子ども達が転ばないように、目の前にある石をどけてしまっているのです。 今回のプログラムでは、生徒達が失敗しないようにと、事前に先回りをして、環境を整えることはできる限り避けてきました。それは、失敗することからの「学び」は、とても重要であると考えているからです。失敗したことによって、「なぜうまくいかなかったのだろう。」「もっとうまく進めるためにはどうすればよかったのだろう。」と考えることができます。つまり、一人ひとりの失敗からの「学び」も大切に考えてきたのです。今回のプログラムは、すべてうまくできたというサクセスストーリーだけではないということがひとつの特徴と言えるかもしれません。 4)他者との関わり方を学ぶ 最近の若者は子どもの頃に地域の人達と触れ合った機会が昔と比べて極端に少ない状況にあります。昔は親戚の集まりや近所付き合いを通して、他者とのコミュニケーションの取り方を自然と学ぶことができていました。しかし、最近では社会に出てから、いきなり自分と違う年代の方々と話をすることになり、どのようにコミュニケーションを取ればよいのかがわからないといった若者も少なくありません。そこで、今回のプログラムでは、仲間やゲスト講師の方々、インターンシップ先の方々など多くの方々と話す機会をたくさん設けました。学校という閉ざされた中だけではなく、多様な方々との関わり方を学ぶ機会を多く取ることができたのではないかと思います。 5)「自分」という個性を活かす 自分らしい、豊かな人生を歩むためには、「自分」という個性をどう活かすかという点は大切なポイントです。そのためには、人前で「自分」を出せなければなりません。今回のプログラムでは、グループワークを通して、「自分」をみんなの前で表現する場をたくさん設けました。グループワークを重ねることによって、「自分という一人の人間をみんなに受け容れてもらえる。」「自分を出しても大丈夫なんだ。」という考えにつながり、自己肯定感が高まります。その積み重ねによって、一人ひとりの「個性」が活かされ、伸ばされていくのだと考えています。 6)表現する 一人ひとりが自分の考えていることを自分の言葉で表現するということは、社会人になっていくにあたって大切なスキルです。今回のプログラムでは、授業の中でも、人前で発表する機会をたくさん持ちました。また、学習成果報告会もパネルセッション形式をとることで、パネル1枚に、自分の「想い」を表現するということにチャレンジしました。一人ひとりの個性がパネルに表われているのではないかと思います。 4.これまでの成果 これまでのプログラムを通して、少しずつ皆さんの成長を感じます。4月17日の最初のプログラムの時には、30秒で友達の自己紹介をするという「他己紹介」も、十分に発表できませんでした。インターンシップ先で何を学んで来るのかという発表をした時も、1分という時間を自分の言葉で話し切れたのは、16人中1人だけです。しかし、このような機会を繰り返す中で、少しずつ皆さんの表現力が高まってきて、人前で自分の意見を言えるようになっているように思います。 また、一つひとつの事象に「なぜなのか」「どういうことなのか」という背景などを考える力がついてきている姿が見られます。視野が広がり、様々な角度から物事を捉えることができるようになってきたのではないでしょうか。 しかし、まだまだこのプログラムは走りはじめたばかりです。皆さんはもっともっと磨けば光る力を持っています。これからの社会において、一人ひとりが自分の力で考え、行動することが求められてきています。今、人と環境類型の皆さんは、そんな力を身につけつつあるのだと思います。社会の中での自分の役割を見つけ、羽ばたいてくださることを期待しています。 |