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2019年12月08日

定年後の夫婦二人の人生、どう生きるか 小説「55歳からのハローライフ」

村上龍の5作品からなる短編集、旅先での車内で読む本をブックオフで求めて、タイトルに惹かれて買って、旅にでました。
旅先で読むと思っても、初めてみる車窓の風景のなかではなかなか読めないのですが、個人自由旅行では次の列車、バスを待つ時間は、団体パック旅行と違ってかなりあります。
今回の別府・大分の旅では、ローカルバス・JRの本数は少なく、一時間待ちもざらにあり、この待ち時間に読みました。
事前にネットで読んだ書評は以下のとおり

人生の折り返し点を過ぎた男女が、これまでを振り返り、再出発しようと足掻く生き様を描いている。
主人公達はどこにでもいる中高年で、決してこれまでの人生でもただ怠けていた訳ではない。
なのに社会から、家族から疎まれ、自身が想い描いていた55歳以降の「老後」の夢からさえも見放されていく。無力、悲哀、諦め、不安、そんなマイナスの渦に巻き込まれながらも生ききる道を模索していく。身に詰まされる。若者には自身の親を、中年には心構えを、当該者には道標を指し示してくれる作品としてお勧めできる名作だった。




内容は短編5編で
・結婚相談所
・空飛ぶ夢をもう一度
・キャンピングカー
・ペットロス
・トラベルヘルパー


「結婚相談所」は、定年退職した夫を持つ妻を描いたものです。
再就職を望んだ夫は、60才を過ぎた何の資格も、際立ったスキルもない、高卒、中堅メーカーの営業職。現実の退職者の就職事情に直面し、毎日テレビに向かって一人、不満を呟く夫の生活に耐え切れず、離婚に踏み切ります。
しかし、経済的な不安は的中、現実のものとなり、パートにでますが、アパート代を払って残るのは僅か。離婚前に貯めたへそくりと、僅かばかりの慰謝料の残金は減っていくばかり、そこで、再婚を望んで結婚相談所に通うことになり、50代後半のバツ1の女性の現実を知る姿を描いています。

「空飛ぶ夢をもう一度」は、誰でもがホームレスに陥るという日本の現在のサラリーマン人生のお話です。
団塊世代の一斉退職を機に、小説やレポート或いは、ブログなどで、退職後のハローライフものが、世の中に溢れだしました。
その書き手や、主人公はステレオタイプまがいが多いと感じるのは、私だけでしょうか?
ほとんどが、大卒で、ある一定以上の大企業に勤めていた企業戦士なのです。
団塊世代の大学進学率は全国で15〜17%、これは首都圏・大都市を含んでいるので、地方に限れば10人に一人しか大学教育を受けていないのが、団塊世代なのです。
そんな、地方出身高卒の男性が主人公のお話です。
中堅不動屋さんに勤めて、結婚し、バブル期は世間並の収入があったが会社は倒産、それを機に離婚し、みるみるうちに生活は荒れ、世間一般が定年を迎える頃には、下町のアパート暮らし、仕事と云えば、炎天下の交通整理員、駐輪場の整理、高校生のバイト並みの給与となり、病気になれば収入が途絶え、ついにはアパートを追い出され、路上生活、ホームレスへと転落していく姿を描いています。

「キャンピングカー」は
この主人公は、私が住む鎌倉で多く見かける、地方の進学校から首都圏の有名私大卒、日本の有名大企業を60才で定年退職したサラリーマンのお話です。
退職金も、企業年金も世間並み以上貰い、東京郊外の持ち家のローンも完済し、二人の子供たちもある程度の生活をしているご夫婦のお話です。
主人公は、退職を機にキャンピングカーを購入し、夫婦二人で日本全国を、自由に旅するのが夢です。奥さんを喜ばせるために、内緒で1,000万近いキャンピングカーを購入する為に頭金を払い、妻に退職後の計画を話します。
しかし、喜ぶかと思いきや、妻は「私の時間」と云う言葉を連発します。
退職後の「貴方の時間」があるように、私には「私の時間」がある。
それに、幾ら退職金の一部とは云え1,000万近いキャンピングカーは、今後の長い人生を考えると、分不相応と云います。
結局、頭金と主人公の定年後の夢は潰えます。
book552.jpg「それでは俺は何をしたらいいのか」と云う主人公
「そんなに暇なら働いたら、まだ若いんだから」と妻の言葉。
主人公は、現役時代に随分世話をしたと思っている元取引先に電話します。
「お宅の会社で、顧問でも良いから面倒を見てくれないかな」と話すと「そんな立派な方を雇う余裕がない」と断られます。
もう一社は「電話でお話するような内容ではありません、先ずはうちの人事に話を通して、履歴書を持って参上していただくのが先決」と断られます。
ここで、定年退職した60代のサラリーマンの現実を知ることになるのです。
ハローワークに行ってみると、紹介されるのは、単純作業の倉庫係員や、ビル清掃の仕事、老人介護施設の送迎運転手、等自分の今までのスキル・キャリアは全く必要としない仕事ばかりです。
ここで、営業畑を歩んできた人間は、会社と云う後ろ盾を失うと、全く世間では通用しないことを悟るのです。

退職後の人生で履歴書を書くという事は?
55才で早期退職した私は、71才に至るまで就職したことは有りません。
しかし、たった一回だけですが、履歴書を要求されたことがあります。
それは、退職した年の暮、郵便局長をしていた学生時代の友人と会った時、暇があるんだったら、暮れのあいだだけ郵便局でアルバイトをしないかと誘われました。年賀状の仕分けの内勤と云う条件でも良いよ、との話でした。
「まあ、暇だから年末・年始の1週間から10日間ならいいよ」と返事すると、「履歴書を持って来てくれ」と云うのです。
「何に、時給900のアルバイトで、履歴書が必要なの?」
「まあ、形式的なことだから」「日本の常識だから」と云います。
私は、即座に断りました。
私が属していた建設エンジニアリングの業界では、非正規のエンジニアを雇用することは良くありました。
特に、海外の現場では、スキル・経験豊富な人材を多く採用していました。
このようなケースでは、履歴書よりも「業務経歴書」を最重要視していました。
海外の場合、勤務地によりますが、住居・食事付で最低月給換算で60万程度でした。
私たちのような建設エンジニアの正規見積もり段階では、時給1万円は常識だったのです。

そんな私が、時給900円の郵便局の年賀状の仕分け作業の為に、わざわざ履歴書を書くことは出来ません。特にお金が欲しい訳でもなく、友人の郵便局が年末年始、人手が足りなく困っているので、手伝ってやろうかと、好意で考えたのに、日本の退職者の厳しい現実を思い知らされました。

「ペットロス」は長年連れ添ってきた夫婦の退職後の普段の生活のお話です。
夫と定年後の日々の生活のなかで、今まで子供中心に営んでいた生活が、少しづつ人生に対する考え方の相違が現れ妻はペットの犬に想いを傾斜していきます。そして、ペットの死による喪失感、無常。いったい、夫婦とは何か、家庭とは何かを考えさせられるストーリーです。

「トラベルヘルパー」は、やはり離婚した老齢長距離ドライバーのお話です。
この小説を読むまでもなく、離婚した男は、女性に比べて生物学的にも「弱い」ものです。

結局、大分・別府旅行中にこの本一冊を読み切りました。読み切った後、
カミサンは「どうだった、私がどんなに大切なのか分かったでしょう」と云います。
「何に、君はこの本を読んだことがあるの?」と私。
「貴方が読む前に、内容を話したらつまらないと思って云わなかっただけよ」とカミサン。
40年間暮らし、世界中を旅し、海外旅行を卒業し、老後の人生を一緒に九州の城下町を訪ね歩く旅をしている、仲良し夫婦でも、夫婦は所詮は他人、全く違う人格の二人の共同生活なんです。
posted by 西沢 at 08:40| Comment(0) | TrackBack(0) | シニアライフ