私は、どんな内容?と聞くと「タイトルは70才死亡法案可決」といいます。
ーー何それ、小説なの?
「そのようよ」
「先に読んでもいいけど、内容、結末は私に話さないで」
平成27年発行の本の文庫化のようですが、なんで今頃と思いまして、カミさんが読む前に先ずはプロローグを読むと
第一章 早く死んで欲しい
70才死亡法案が可決された。
これにより日本国籍を有するものは誰しも70才の誕生日から30日以内に死ななければならなくなった。
例外は皇族だけである、尚、政府は安楽死の方法を数種類用意する方針で、対象者がその中から自由に選べるように配慮するという。
政府の試算によれば、この法律が施行されれば、高齢化に寄る国家財政の行き詰まりがたちまち解消されるとしている。
〜中略〜
この10年、日本の少子高齢化は予想を上回るペースで進んだ、それに伴い、年金制度崩壊し、医療費はパンク寸前である。さらに介護保険に至っては認定条件をどんどん厳しくしてきたにも関わらず、財源が追いつかなくなっている。
当然予想されたことだが、同法は世界中から非難を浴びている。
人権侵害の最たるものだとして、宗教団体はもちろんのこと、各国議会においても、法律の廃止を求める声明が相次いで発表された。
しかし、少子化に悩むイタリアや韓国などは静観の構えである。
一方、中国は長年に亘る一人っ子政策の影響で、少子高齢化のスピードは早く、老齢人口が二割をこえるのは時間の問題だ。
それだけに、日本における当法律の行く末を中国政府は注視しているとの声も聞こえる。
戦後、日本は急速に食糧事情が良くなり、医療も進歩した、おかげで日に日に平均寿命を更新している。
果たして、長寿は人類に幸福をもたらしであろうか。
〜後略〜
このような、衝撃的なプロローグでこの小説は始まります。
あらすじ
2年後に施行を控え、主人公 宝田東洋子(55)は「やっと自由になれる」と喜びを感じながらも、自らの人生の残り時間に焦燥感を隠せずにいた。
ワガママ放題の義母(84)の介護に追われた15年間、懸命に家族に尽くしてきた。
なのに妻任せの能天気な夫(58)、働かない引きこもりの息子(29)、実家に寄りつかない娘(30)とみな勝手ばかり。
「家族なんてろくなもんじゃない」、東洋子の心に黒いさざ波が立ち始める・・・
カミさんは買ってきたその日からお風呂に入り読み始め、翌々日の朝までに一気に読み終わっていました。
私はネットであらすじやらを読んでいるのでストーリーの流れは解るのですが、人気作家「桐谷美雨」の小説のわりには、ネット上の情報が少ないのです。
どうしてなのかな、この文庫本の後書き・解説を読んである程度納得しました。
解説を書いていたのはフリーライターで、ラジオ番組で毎週五冊ほどの本の紹介をしている人でした。
本書の単行本が出たのは2012年1月だった。
すぐ読んでとても面白いと思った。
悲惨なことを描いているのに、作者の文体が救っている。
ユーモラスと云うともちょっと違う明るさがある。
一步間違えるととんでもないことになるのに、上手くコントロール出来ている。
タイトルは刺激的で設定もいささか露悪的だ。
少子高齢化が進む中、年金も医療も崩壊寸前、パンク寸前、そこで日本人は70才で死ぬことにする。という法律が出来るというのだから。荒唐無稽ではあるけれど、「長寿化は不幸の種のひとつ」と他セレモが心の底で思っている現実を突いている。
このライターは、この解説を書いている時、実際に父親と母親の介護が必要な状況であったと述べています。
二人の介護を引き受けたのは、同居していた三歳年下の妹さんだった。
この小説の主人公のように、ニートで引きこもりになりかけの息子や、実家に寄り付かない娘、早期退職して世界漫遊旅行に出かける自己中な夫こそいなかった
けれど、遠方に住む兄のぼくはなんの助けらもならず、全て引き受けてくれた・・・
この文章を読んだ私はまるで私のことだと思いました。
私の実家の母は寝たきりにこそならなかったものの、数年に亘るかなり重度の認知症を実家に同居してたい、兄嫁が看ていました。
妻の実家でも同様に、母親は三人姉妹の妻の一番下の同居していた妹が看ていました。
その間、私達二人は、早期退職し、この小説の主人公の夫のように、世界中を気ままに旅して回っていたのです。
そして、この小説を読んでいて初めて気がついた・・・理解出来たことがありました。
私達の世代でテーマになっている「氷河期世代」「団塊ジュニア世代」の「引き籠もり」についてです。
この小説のなかで、比較的恵まれた大卒、一部上場企業企業に務める父親の子供、小説のなかでは東京のトップT大学を卒業し、大手M銀行に勤めていた長男29才は会社組織の人間関係から三年で退職し、再就職を目指すもこれまで三年間、全ての就職応募先から断られ続けるのです。
T大学を卒業し、大手M銀行に勤めていた自分は、簡単に転職先を探せると考えていたのですが、世間は違っていました。
応募した企業は「外国語出来るか」「資格は持っているか」「前職でどんな経験をし、どんな実績を残したか」と根堀、葉掘り聞かれます。
中途採用は即戦力を求めており、新卒の時にように社内で育てるという意識はないのです。
学生のバイブルとされてきた就職活動の本は転職には全く役に立たなかった。
感じの良い履歴書の書き方だとか、やる気をみせる自己アピールの方法だとか、さらには服装や立ち振る舞いがどうとか、そんな見かけ上のことに、企業はとっくに騙されなくなっている、掛け値なしの即戦力を求めている。
学歴だけでは通じない世界がそこにあった。
不本意ではあるが。応募する会社のランクを下げてみたがしかし、結果は同じであった。
ーーT大からM銀行、エリートコースじゃないですか、そこをたった3年で辞めた理由は
「人間関係が原因で」
ーー「何処へ云っても人間関係はつきものでしょう。そんなので辞めたらキリがありませんよ。会社って、サークルや仲良しグルーブじゃないんですから」
新卒の時は、ゼミの教授の推薦状があってすんなり就職出来た。
その当時それが当たり前だと思ったから、感謝の気持ちはなかった。
今思えばあれが最後のラッキーチャンスだった。
卒業してしまえば、自分には何一つ武器がない。
前の会社を辞めて三年経つ
ーー貴方はその間、何をされていましたか?・・・
ものの本によると、留学していたとか、資格試験の勉強をしてその結果見事パスしたと、そういうものがないと単に怠惰な人間と思われてしまう。
ーー次の就職口を決めてから辞めるのが常識ではないですか・・・
ーーかじれる脛のある人は違いますね・・・
私達団塊世代の廻りにも
私たち団塊世代の多くの家庭の子どもたち、団塊ジュニアは就職氷河期世代で、私もカミさんも甥っ子の一部は、完全に引き籠もってはいないものの、非正規、契約派遣の繰り返しでこれまで来ている。70・40世代問題が起きている。
私たちの時代は・・・こんな言い方をするのが年寄りなのかもしれないが、30才手前までなら、やり直し、再チャレンジが出来た。
私達同世代では、20代の大半を海外放浪旅をするものが多かった、世界を見てみたい、そして日本に戻り、日本の経済社会に最チャレンジ出来る余裕が日本社会にはあった。
でも、そんな時代でも、やはり資格・経験は求められてはいたのだが・・・
40代後半の団塊ジュニアの引き籠もり、非正規、派遣労働から、グローバル化した日本経済社会への再編入は無理だろう。
今や、グローバル化で日本の一流企業就職の競争相手は、日本人だけではないのです。
日本人よりも、もったグローバル的視野を持つ優秀な外国人学生が、日本企業へ目指してきているのです。
彼らは英語は勿論、日本語、母国語の最低三カ国が出来、ITに強く、何よりもハングリー、のし上がろうと意欲が日本の学生と全く違うのですから、
私達と同じ親の世代とは全く違った就職環境にあるのです。
この小説を読まなくも、団塊世代の親は解っている、非正規だろうが、派遣だろうが、毎日朝起きて仕事に出かけるだけで、十分。
あとは、自分たちが老いていくのを、出来る範囲で見守ってくれればいいのだ。
先に読み終えたカミさんに「お話の結末はどう、ハッピーエンド?」
「桐谷美雨の小説だから、そんなに悲惨な結末ではないことだけは確かよ」
そうか、この小説の架空の法律はどうなったかは知りませんが、建前なのか、本音なのか、自分のなかではまだ解らないのですが、長生きしてもいい、長生きしたい、とそう思える日が日本社会にくるのでしようか?。
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