監督は「西川美和」はこれまでに数々の社会派作品を夜に送り出してきている、注目の映画監督として映画好きの間では有名な女性監督です。
作品は海外の映画祭に出品されて、ある一定の評価を得ていますが、商業映画としての興行的にはこれまでなかなか難しかったのですが、今回の「すばらしき世界」は一般シネコンでも上映され、期待されているようです。
原作は『復讐するは我にあり』で知られる佐木隆三の「身分帳」です。
人生の大半を獄中で過ごした前科10犯の男が、極寒の刑務所から満期で出所した。
身寄りのない無骨者が、人生を再スタートしようと東京に出て、職探しを始めるが、
世間のルールに従うことができず、衝突と挫折の連続に戸惑う。
刑務所から出て歩き始めた自由な世界は、地獄か、あるいは・・・
伊藤整賞を受賞した傑作ノンフィクション・ノベル
表題の身分帳とは
これまでの入所態度や経歴、行動、家族関係など詳細に記載している書類。所内で問題を起こすたびに身分帳に記載される。莫大な身分帳の者もいる
映画のストリーは
冬の旭川刑務所でひとりの受刑者が刑期を終えた。
刑務官に見送られてバスに乗ったその男、三上正夫(役所広司)は上京し、身元引受人の弁護士、庄司(橋爪功)とその妻、敦子(梶芽衣子)に迎えられる。
その頃、テレビの制作会社を辞めたばかりで小説家を志す青年、津乃田(仲野太賀)のもとに、やり手のTVプロデューサー、吉澤(長澤まさみ)から仕事の依頼が届いていた。
取材対象は三上。吉澤は前科者の三上が心を入れ替えて社会に復帰し、生き別れた母親と涙ながらに再会するというストーリーを思い描き、感動のドキュメンタリー番組に仕立てたいと考えていた。
生活が苦しい津乃田はその依頼を請け負う。しかし、この取材には大きな問題があった。
三上はまぎれもない“元殺人犯”なのだ。
津乃田は表紙に“身分帳”と書かれたノートに目を通した。
身分帳とは、刑務所の受刑者の経歴を事細かに記した個人台帳のようなもの。三上が自分の身分帳を書き写したそのノートには、彼の生い立ちや犯罪歴などが几帳面な文字でびっしりと綴られていた。
人生の大半を刑務所で過ごしてきた三上の壮絶な過去に、津乃田は嫌な寒気を覚えた。
後日、津乃田は三上のもとへと訪れる。
戦々恐々としていた津乃田だったのだが、元殺人犯らしからぬ人懐こい笑みを浮かべる三上に温かく迎え入れられたことに戸惑いながらも、取材依頼を打診する。
三上は取材を受ける代わりに、人捜しの番組で消息不明の母親を見つけてもらうことを望んでいた。
後略
三週間前の予告編でみた時は、かなり明るく、社会問題を扱っているコミカルな印象の作品かな、と思っていました。
道を歩くのに、姿勢正しく、腕を振って大股で歩く姿とか、大男が一生懸命に業務用ミシンに向かい、細かいところは手縫いで仕上げて行く姿とか、しかし、それはイントロ部分の14年間の刑務所のなかでの生活と一般生活との比較、ギャップで監督が意図的にそうみせているだけでした。
実際のストーリーの底辺には、「やくざと家族」と同じテーマ、一度、反社会勢力の焼印を押された体は、その焼印を拭い去ることは出来ない、それは、ヤクザや反社勢力だけではなく、一度社会のルールから弾かれた人、社会の本流から脇道にそれた人はなかなか戻れないと云う日本の社会の暗部、弱点をついているのです。
社会復帰となっても、都会で生活していくにも、急に社会に放り出された刑務所帰りの男の行く所はない。
出所直後は身元引受人のところで数ヶ月生活出来るが働かねば食っていけない。
仕事を探しても、14年間の刑務所ぐらしの間に、運転免許は消滅してしまっていた。
携帯電話もなく、銀行口座もなく、仕事探しが出来ない。
あの頃・・・同じような状況下にあった仲間が大勢いた
昔、私達の世代の多くが海外に飛び出していきました。
学園闘争がきっかけと云う人もいますが、それは後からこじつけた理由で、本当の理由はまずは、日本から外へ出たい、団塊世代と云われ、小学校から大学、就職まで常に試験、テスト、競争・競争の世界、こんな同じ世代と最後は墓場まで競争が続くのか、外にはもっと広い、自由な世界が溢れていると信じて多くの若者が出ていきました。
そして、ある程度の満足感と、社会を見る目、渡る技、試練を踏んで、多くの若者が再び、日本の社会に戻ってきました。
1970年代半ば、若者は20代半ばから後半、この時代の日本はまだこのような若者、努力して、勉強して、日本社会の本流に戻ろうとする若者を受け入れる余裕があったのです。
それでも、高卒や大学中退で、社会ルール、仕組みも知らず、税金を払うことさえ知らずに、自由・気ままに、海外のゲストハウスを放浪してきた若者は、この映画のムショ帰りと同じような気分を味わい、少しづづ世間というものに馴染んでいったのです。
この映画の主人公は・・・
何度も社会から拒絶され、弾き返され、絶望し、元の世界に戻ることを決めます。
昔世話になった、ヤクザの世界は表面、大歓迎で心地よく迎えてくれました。
しかし、実情は社会の反社会勢力撲滅の機運が高く、組織は「喧嘩だけが強い男」一人さえ遊ばし、養しなえなくなって来ていたのです。
やがて、市の職員、スーパーの店主、保護観察司などの努力で、主人公は老人福祉施設のパートの仕事にありつけるようになり、アパートで自立できるようになっていきます。
当初、この主人公、14年刑務所ぐらしの元殺人犯の社会復帰をドキュメント番組に仕上げようとして目論んでいたテレビプロデューサーは、この主人公の危険さは放映できないと危ぶみ、降りるのですが、下請け制作会社の若手ディレクターは、仕事としてではなく、人としてこの主人公の人生を見続けたいと、アパートを訪ね、その結末を知ることになるのです。
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