こんにちは。スタッフの浅野です。
6月は環境月間です。1972年にストックホルムで環境問題に関する初めての国際会議「国連人間環境会議」が開催されました。そして日本の提案を受け、6月5日が『世界環境デー』となりました。本日はこれにちなんで環境に関するブックレビューをお届けします。
レイチェル・カーソン 〜地球の悲鳴を聴いた詩人〜
著者:利光 早苗
発行者:株式会社メディアファクトリー
発行:1992年9月20日
〇沈黙の春
「自然は沈黙した。うす気味悪い。鳥たちはどこへ行ってしまったのか」
これはレイチェル・カーソン著『沈黙の春』の冒頭に出てくる一節です。
『沈黙の春』は環境汚染問題を人々に気づかせ、アメリカを始めとする世界中の考えを変えるきっかけをつくった一冊です。
レイチェルが著書で記した寓話の中に出てくる町では、春がきても森に鳥たちの声は響きわたらず、野原、森、沼地もみな黙りこくっています。幼い頃から自然を愛し、慈しんできたレイチェルはこの寓話を現実のものとさせないように、DDT※やその他の農薬の散布を善しとする社会の大きな流れに「ちょっと待って」と立ち向かう決意をします。
こうして化学薬品による環境汚染を世間に広く伝える『沈黙の春』は出版されました。
※トリクロビスクロルフェルエタンを有効成分とする薬剤
〇レイチェルの決意
本書では、豊かな自然と文学に囲まれて過ごしたレイチェルの少女時代から海洋学者となり、野生動物保護の仕事をしながら作家として創作活動を始めるまでの過程を知ることができます。控えめで人前に出ることが苦手だった彼女は、自然観察が好きで毎年春の訪れを心待ちにしていたそうです。
1958年、レイチェルは鳥類保護地区の近くで暮らす友人夫妻から一通の手紙を受け取ります。
手紙には、州当局が蚊を撲滅するためにDDTの散布を行って以来、鳥たちが次々と倒れていったこと、バッタやミツバチやほかの無害な昆虫はすべていなくなったにも関わらず害虫は相変わらず活発に動き回っていることなどが書かれていました。
それについて調べれば調べるほど、無害とされていた化学薬品の恐ろしさにレイチェル自身も気づいていきます。散布を推し進めている政府も企業も、最終的に環境にどんな影響を及ぼすかには無関心だったのです。
『沈黙の春』出版以前は、化学薬品の危険性に関する人々の認識が十分ではなかったため、彼女が書いた内容は世間に衝撃を与えました。化学薬品が世界中で使用されるようになってから農作物の収穫量は増え、経済的な恩恵は計り知れませんでした。
それらに「NO」を突きつけることはとても勇気のいることだったに違いありません。
それでもレイチェルが進み続けたのは、自然保護の想いに共感して一緒に立ち向かってくれる協力者がいたからです。
〇レイチェルからの贈り物
1962年、『沈黙の春』が出版されるとすぐにベストセラーとなり、アメリカ国民や化学工業界、政府機関に大きな影響を与えます。翌年からは世界中で翻訳版が出版され、60年経った今でも私たちに地球環境について問いかけています。
元々は自然を愛する物静かな女性だったレイチェルが身近なところで問題に遭遇し、あるいは遭遇している人たちと出会い、それを「何とかしたい」と自ら動き出しました。
問題解決の道筋を描くのは困難だけれども目をつぶって通り過ぎるわけにはいかない、世の中を変えたいという彼女の強い意志をこの本を通して感じました。
この本は、たがさぽ文庫の「H1 環境全般」の棚にあります。世界が環境問題に取り組むきっかけとなった本を書いたレイチェル・カーソンに興味のある方はぜひ手に取ってみてください。