こんにちは、スタッフの佐藤(順)です。
今週の火曜ブログは、たがさぽ文庫にある図書ではありませんが、ちょっと気になった
「調査されるという迷惑」と題した本をご紹介します。
調査されるという迷惑
−フィールドに出る前に読んでおく本−著 者 :宮本常一(みやもと・つねいち)
安渓遊地(あんけい・ゆうじ 現在山口県立大学教授)
出版社: みずのわ出版:2008年4月8日初版発行 A5版118P著者の宮本常一氏(故人)は『忘れられた日本人』などで知られる著名な民俗学者。第1章に「調査被害」と題した論考が再録されています。第2章以降は宮本氏を師と仰ぐ文化人類学者の安渓遊地氏が、西表島など調査フィールドで見聞き・体験した数々の「迷惑」と、調査員が心がけるべきことの提案を書き記したものです。
迷惑の例は、貸し出した資料が戻らない、不心得な調査員により民具が持ち出されてしまったこと等々。さらに訊問調の聞き取りが話者の心を傷つけたり、同じ地域に繰り返し調査団が訪れ同じような質問をすることに応対する側がウンザリしたり、果ては調査員におもねった答えまで造ってしまう弊害を指摘しています。安渓氏はこれらを「略奪調査」と呼んでいます。
読み進めるうち、国や市町あるいは震災復興支援のためNPOや市民団体が手がけた調査についても、意図せず現地の迷惑があったのではないかと心配になりました。
序章の一文、宮本常一氏が心がけている「(民俗の)調査というものは地元から何かを奪ってくるものだから、必ず何らかのお返しをする気持ちがほしいものだ。」という言葉に重さを感じます。
また、安渓氏は、離島の農業の先行きを案じて「ヤマネコ印西表安心米」と名付けた無農薬米の産直に深く関わりました。研究者の枠をはみ出た自身の経験から、地域調査を進める中でしばしば研究者が陥りがちな「濃いかかわり」にも注意を払うよう促しています。
まとめとして、研究者には、地域の仲間として受けいれられるよう努めながら「調査の許可」「公表の承認」「成果の還元」を確実に行い、学問と地域への正直さのバランスをとることを求めています。
地域の文化や伝統を大切にしたフィールドワーク、社会調査を行いたい人にお勧めの一冊です。
(*本書は名取市図書館から借用したもので、当センターたがさぽ文庫に蔵書はありません。)