【橘の会】第4回聞こえない人のための増上寺薪能鑑賞教室
[2018年09月30日(Sun)]

心積もりはしていたものの、台風24号の襲来により9月29日、増上寺薪能(鑑賞教室)は本堂内での開催となりました。
前夜まで作られていた野外の能舞台が、幻のようにはかなく消えてゆく姿を名残り惜しく見送りながら、少し早めに増上寺の宮入上人と打ち合わせを行い、聞こえない人の席(通称:「ターネット席」)を確認しに本堂へ向かうと、
そこには今まで見た事のない美しく幻想的な能舞台が燭台とともに姿を現し、その後ろに鎮座されている阿弥陀如来様が全てを包み込むかのようにあたたかく、そして優しく見守っておられました。

雨天時の対応に追われながらも常に目を配り、法要の際には僧侶の方が聞こえない人のためにUDCリモート(仮称)という字幕送信用アプリを操作しながら文字でお経をあげてくださり(これぞUDトーク

法要時の字幕付与は本企画当初から行われて参りましたが、阿弥陀如来様に能楽を奉納するための大切な儀式でもあることから知る人ぞ知る存在となっていたところ、
今回改めてこの素晴らしさを報告も兼ねてお伝え出来る機会に恵まれ、聞こえない方々にもソフトバンク株式会社様からお借りしたタブレット端末で字幕をお愉しみいただきました。

5年前の第30回増上寺薪能に於いて初めて拝観した演目「土蜘蛛」を、今年は聞こえない人へ文字でお届けしているという不思議な廻り合わせに始まり、様々な偶然が重なり現在のメンバーと出逢えた経緯やご縁を感じ、手話通訳とUDトークチームが日頃からそれぞれの分野で培って来た巧みな技量を、この場で一気に創り上げていく空気が「能」に通じていることにも毎回心が高鳴るとともに、それまでの孤独で地道な作業の日々が浄化され、何物にも例え難く尊い感覚を得たり、時々これはもう、何かの力に導かれているのではなかろうか?とふと思い返す出来事もあります。
今年の能の演目「羽衣」と「土蜘蛛」は“分かりやすさ”、という視点から選ばれたのだそうで、要約してしまえば5行程度で終わってしまうようなシンプルなお話でもあり、本来は聞こえない人の能に対する独創性を邪魔しない様に資料を作るつもりはありませんでしたが、「土蜘蛛」と呼ばれる妖怪が、実はとあるマイノリティな人々の呼称であったり、「羽衣」における天人と漁師のやり取りをある種の異文化理解になぞらえてみると、時代は変われども、違った形で現存する場面にも重なり、結局勢いで作ってしまった資料を師事している観世流シテ方能楽師の梅若 万佐晴先生・泰志先生にお目通しいただくと、「これは聞こえない人だけではなく、聞こえる人にも配布しましょう!」という展開になり、9月15日の解説会場にお越しいただいた全員のお手元に配られました。
UDトーク


能「羽衣」で梅若 万三郎師が阿弥陀如来を背景に舞う、美しい天女の姿や、狂言「寝音曲」の山本 則俊師・則重師による絶妙な掛け合いと笑い、「土蜘蛛」で梅若 万佐晴師が蜘蛛の糸を放つ姿(詳しく説明すると、本来はもっと高く遠くたくさん飛ばせるところを、本堂の装飾品を壊さない様に控えめに投じ方を見事に調整されていた所)を見逃すことなく字幕を届けられる環境と、この画期的なテクノロジーの裏で不断の努力を重ねて来られた、字幕付与に欠かせない三種の仏器(UDトーク

ご参加・ご助力頂きました皆様には心より御礼申し上げます。誠にありがとうございました。
【主催】橘の会 https://tachibanano-kai.wixsite.com/tachibananokai
【共催】特定非営利活動法人 シアター・アクセシビリティ・ネットワーク http://ta-net.org
【協力】大本山増上寺 http://www.zojoji.or.jp
シャムロックレコード株式会社
〔UDトーク

ソフトバンク株式会社 https://www.softbank.jp
観世流シテ方能楽師 梅若 万佐晴師
観世流シテ方能楽師 梅若 泰志師
〔まあちゃん:字幕連動ソフト〕https://www.machanbazaar.com
〔おこ助:字幕作成ソフト〕 https://okosuke.jp