自分は太平洋島嶼国の現地レベルでいろいろと関わっていたり、日本国内で上位の視点から地域を見たりしています。そのような環境の中で、特に現地レベルで活動していると、様々な変化を肌で感じることがあります。
昨年10月以降、それ以前に兆候はありましたが、議論レベルではなく、肌感覚で実際の動きにシフトチェンジが起こっていると感じられました(自分は外側の人間なので、自分が感じるのは、中の方々が進めている話から半年以上遅れているものと思いますが)。
それは、米国、オーストラリア、ニュージランドであったり、中国であったり、台湾であったり、そのようなキーワードに関するものです。
先日、5月31日付で、米国の国防総省が「Indo-Pacific Strategy Report June 1, 2019」を発表しました。(hereをクリックすると、70ページ弱のPDFファイルに繋がります)
https://dod.defense.gov/News/News-Releases/News-Release-View/Article/1863396/dod-releases-indo-pacific-strategy-report/これを太平洋島嶼国や台湾の文脈から読んでみると、外側から感じていた変化というものの理由というものが明らかとなり、自分が末端で感じていた感触は間違っていなかったと自信を持つことができました。
日本の「自由で開かれたインド太平洋」という考え方は、2018年2月のODA白書の中で、明確に説明されていますが、これを防衛・安全保障の文脈で理解しようとすると、やや無理があり、結果として、今ひとつわかりにくいという印象を内外に与えていると思います。
一方、上記レポートを読むと、米国が目指している「自由で開かれたインド太平洋」がはっきりと理解でき、このビジョンによって、いろいろな物事が戦略的に進められてきていることがわかります。
詳しい内容は、実際に原文を読んでいただくか、専門の先生の解説を探していただくとして、個人的に関心があるポイントを羅列していきます。国防総省レポートですが、経済、自然災害、気候変動にも触れています。
・米国は太平洋の国
・全ての国々の主権と独立を尊重
・自由で公正で互恵的な貿易
・国際ルールと規範の順守
・自由(Free):(国と国の関係では)他の国々の圧力から自由な主権。(各国内では)グッドガバナンスと市民が基本的権利と自由を享受できるよう保証すること。
・開かれた(Open):地域(インド西岸から米国西岸までのインド太平洋地域)における持続可能な成長と連結性の促進。
(伝統的安全保障の文脈では)全ての国々が国際水域、航空航路、サイバー領域、宇宙空間にアクセスでき、陸域・水域の紛争を平和的に解決すること。
(経済面では)公正で互恵的な貿易、開かれた投資環境、各国間の透明性のある協定。
・経済、ガバナンス、安全保障の繋がり。
・米国として、米国の生活の仕方を押し付けるものではない。
・米国は、同盟国とパートナーの(この戦略を実現するための)応分の負担に頼る。
・日本とのサイバースペース、宇宙空間での協力。
・中国は修正主義の権力
・ロシアは再活性化した悪意のあるアクター
・北朝鮮はならず者国家
・中国共産党指導部の下にある、中華人民共和国
(中国に関する記述は大変興味深いので、ぜひ原文を読んで下さい)
・米国は中国の投資活動に反対しているわけではない。中国が主権と法の支配を尊重し、責任のある融資などや透明性があり持続可能な方法で実施している限りにおいては。
・多種多様な国境を超えた脅威:テロリズム、違法な武器、人や野生生物の売買、海賊行為、危険な病原菌、武器拡散、自然災害
・IUU(違法・無報告・無規制)漁業は、地域の平和と繁栄に対する挑戦
・モンスーン、ハリケーン、洪水、地震、火山活動、気候変動の負の結果を含む、自然災害
・アライアンス:日本、韓国、オーストラリア、フィリピン、タイ
・地域の民主主義におけるパートナーシップ:シンガポール、台湾、ニュージーランド、モンゴル(*台湾を含め、4つの国々と表現)
(*なぜ米国にとって台湾が重要なのかが述べられています)
・新パートナーシップ:ベトナム、インドネシア、マレーシア
太平洋島嶼地域では、グアム、米国自由連合国(ミクロネシア3国)、ニュージーランドの役割が重要であり、ここに米国の昨年来の動きの意味が読み取れます。
・小さい国々で、独特な地理的環境にあり、経済的繁栄の促進に課題がある。
・米国の戦略上重要な国々
・第二次世界大戦以来の歴史的繋がり
・小国の主権を確保する自由で開かれたインド太平洋
・2018ボイ宣言で示されたように、海上保安、IUU漁業、麻薬売買、気候変動と災害対応に対する強靭さなどに対するキャパシティビルディング
・パートナーシップの再確認と更新による地域への関与継続
・島嶼国との関係については、ニュージーランドの役割に期待
さて、自分たちは外側の人間なので、漏れ出てくる情報や現地での感触からしか分からない部分が多々あります。例えば、ある国が地域や途上国に支援を行うときには、次のような構造があると言えると思います(単純化しています)。
上から、国のビジョンがあり、実施機関があり、援助仲介・協力機関の国際機関や地域機関があり、被援助国(島嶼国A〜F)があります。
例えば、自分の仕事で言えば、星をつけた4つの段階それぞれを外側から見ていたりします。
例えば、大きな国同士であれば、上から2つ目までの星のところで、国の関係は良かったりしますが、太平洋島嶼国では、住民・国・地域・国際社会の距離が近いため、末端部分まで丁寧な取り組みが求められます。
自分たちの立ち位置を見てみると、図における国が日本であれば、外側の人間として、日本のビジョンが末端の島嶼国各国や住民に至るまで(島嶼国では、住民・国・地域・国際社会の直接的繋がりが見えます)うまく伝わり、実際の生活の改善・持続可能な社会の構築・経済的繁栄などに繋がることを願いつつ、個々の活動を行うことで、国に貢献できればとも思います。
最後になりますが、米国防総省のレポートは、ディフェンス主体でありながら、様々な現地事情を踏まえた記述が読み取ることができ、今後の太平洋島嶼地域における活動を考える上で、参考になるように思います。