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先日のテイラー事務局長の日本に対する声明に関連した話 [2021年04月23日(Fri)]

先日、PIFテイラー事務局長による日本の福島原発汚染処理水の海洋放出決定に対する声明について触れましたが、同声明と同じタイミングで、PIF議長国ツバルのナタノ首相から日本政府に対し、同声明とほぼ同じ内容の申し入れが、正式にあったようです。

そもそも太平洋島嶼地域は、戦後、核実験に利用されてきた歴史があり、PIFの設立の背景にもフランス核実験への抗議がありました。

自分が参考用にまとめている1971年以降のPIF総会コミュニケ簡易メモで「核」と検索すると、184件出てくるほど、「核」関連は、50年にわたり太平洋島嶼国の主要テーマであり、非常にデリケートな問題です。

核実験、核廃棄物の保管、核廃棄物の処理。1981年のPIF(当時はSPF)では、核廃棄物処理について米、仏、日本に対する抗議が行われています。

1985年には南太平洋非核地帯条約(ラロトンガ条約)が調印されました。※ただし、この条約に米国自由連合国(パラオ、ミクロネシア連邦、マーシャル)は加盟していません。

90年代にはナウルやキリバスを中心にPIFの枠組みでロンドン条約(廃棄物等の投棄による海洋汚染防止条約、1972)に放射性物質を対象に加えるよう働きかけを行い、付属書に反映されました。

日本とPIFの関係も、日本の核廃棄物海洋投棄案に対する抗議から始まっていると言えるので、根が深く、核は非常にデリケートな問題です。


また、近年、太平洋島嶼国はブルーパシフィック、青い大陸の管理者という意識を持ち、気候変動だけでなく、持続可能な社会の構築・次世代への継承などに関して、行動しているわけですが、このブルーパシフィックの考え方は、最近始まったわけではなく、深い歴史があるといえます。


テイラー事務局長声明やナタノ首相に戻ると、太平洋島嶼国側は、「ALPS treated water」と述べ、IAEAの基準を守っていることやIAEAが確認していることを理解した上で、日本に対し意見を述べています。6月末に太平洋・島サミットを控える中、このデリケートな問題に対し、日本が太平洋島嶼国各国にどれだけ丁寧な説明を行ってきたかが問われているのかもしれません。


例え安全だとしても、日本が「自由で開かれたインド太平洋」と言ったとしても、太平洋島嶼国側は「自由で開かれているから海洋放出できるということか」と指摘するでしょうし、日本が「海洋安全保障」に力を入れるとか、IUU対策など漁業資源管理を支援すると言ったとしても、島嶼国側は矛盾を感じるのではないでしょうか。

ロンドン条約でもIAEAの基準を下回っていれば対象にはならないですし、国際法上は問題が無いのでしょうけれども、「いや、安全で、大丈夫だから」と、島嶼国に対する丁寧な説明なしに、進めてしまうと、心情的に拗れる可能性があり、「自由で開かれたインド太平洋」どころではないと受け取られる可能性もあるでしょう。日本政府がどれだけ丁寧に対応するのか、注目されます。


さらにもう一つ、今回のことで改めて気づいたことがあります。なぜ、太平洋・島サミットにPIF事務局が入っているのか。

PIF事務局は、貿易、経済、開発などについて、外部機関などと「交渉」が必要な時に、太平洋島嶼国側の事務局として機能しています。

すなわち、太平洋島嶼国側としては、太平洋・島サミットというのは、ACPとしてのEUとの交渉のように、日本と「交渉」する場だと認識しているのだと思います。今回のような問題により、今年の太平洋・島サミットが、日本と太平洋島嶼国が対峙し、交渉する構造になるのかもしれません。交渉する構造であれば、太平洋島嶼国の多くは力を結集するためにPIFが必要になるでしょう。
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