皆さんご存知のことかもしれませんが、現地で見聞きしてきた太平洋島嶼国と漁業という場合のものの見方について書いてみます。
パラオで海洋保護区の調査をしていたころ、あるいはマーシャルにいたころ、こういわれました。
・沿岸域(領海内とかではなく、30フィート以内の小さなボートで漁に出られる範囲)の魚は自分たちの食料。
・EEZの魚(マグロ)は、外国に売るためのもの。
沿岸域(ここでは現地の方々が現地での消費のために魚をとる領域)については、現地の人々の生活に直結するものということです。さまざまなリーフフィッシュ(スナッパー類、グル―パー類、ニザダイ類)、カツオ、マグロ、レインボーランナー、シイラ、バラクーダ、アジなど。
EEZのマグロ・カツオ類はお金になるものです。ただし、EEZのマグロ・カツオ資源が増えれば、上記沿岸域のマグロ・カツオ資源は増えると考えられています(減れば減る可能性あり)。
一部では、EEZ内のマグロ・カツオ漁を太平洋島嶼国の船が行っているところもあるようですが、全体的には、非常に少ないものとなっています。
国により、管理主体が異なりますが、たとえばパラオでは海岸線から12カイリ以内の範囲にある海洋資源は、接続する州政府に管理権があると憲法に取り決められており、国は介入できません。12カイリから200カイリ以内のEEZについては共和国政府に管理権があります。一方、国は特定の保護生物に関してはこの領域に関わらず国の法律の下で管理が可能であり、州の管理領域においても取締もできます(ジュゴン、ナポレオン、ナマコ、魚のサイズなど)。
この州政府と共和国政府の関係の根底には、伝統社会があると考えられ、おそらく、多くの太平洋島嶼国でも、似たような話があると思います(伝統法と現代法、国内漁業権の問題)。
たとえば海洋保護区について、パラオでは沿岸域を保護・保全する保護区の設置と管理は州政府が行うものであり、国は技術協力・資金提供(いずれもグリーンフィーによる)を提供する代わりに個々の保護区をPAN(Protected Areas Network)としてネットワーク化し、全体的に管理しています(実際にはネットワークに登録し続けられるか否かなど、グリーンフィーにもとづくPAN基金から資金を得られるかどうかなどに関連)。一方で、国が保護区を設置できるのは州政府の権利を侵害しない12カイリから200カイリ以内のEEZになります。
これを踏まえたうえで、パラオのマリンサンクチュアリを見てみます(pewのリンク)。
http://www.pewtrusts.org/en/research-and-analysis/fact-sheets/2015/09/palau-national-marine-sanctuary上記を踏まえると、多少、図が分かりやすくなったでしょうか。
このマリンサンクチュアリはEEZが対象で、2020年までに段階的にその80%を完全禁漁区にするというものです。一方、島に近い20%の海域は、自国民の操業のために禁漁区に含まれません。
さて、パラオのGDPはおよそ300億円。政府歳入はおよそ100億円。この中で、政府がEEZが入漁料販売で得る収入は多くて年7億円程度になります。漁場が狭いため、頭打ちです。割合を忘れてしまいましたが、その半分以上がコロール州を除く(コロール州は収入が多いことから辞退)15の州に分けられ、州政府にとって重要な収入源となっています。
マリンサンクチュアリ法成立に合わせ、外国人が出国時に支払う料金50ドル(グリーンフィー30ドル+出国税20ドル)を100ドルの環境影響フィー(EIF)に変えるという話があり、政治的やり取りの後、PPEF(Pristine Paradise Environment Fee)100ドルに落ち着き、導入準備が現地では進んでいるようですが、その2割強が、EEZクローズにより失われる州政府の入漁料収入の補てんになります。
単純に考えると、増額分50ドルを訪問者数14万人で計算すれば、700万ドルになり、クローズで失われる入漁料が補てんされます。(現在の訪問者数は年16万人)
マリンサンクチュアリの設定で、日本はともかく、世界的にはPristine Paradise パラオ(手つかずの楽園パラオ)のイメージが広まり、環境意識の高い人を含め、観光客が増えることが期待されます。
どこに仮想上限を設けるかによりますが、国の経済的には、マリンサンクチュアリの設定はまったく問題のない話で、民間も一部マグロ輸出を行っている会社がありますが、EEZ残り20%の近海のマグロが取れることと、観光業へのシフトなどで、何とかなりそうです。
日本の漁業者のことを考えない場合、パラオ側の視点で見る場合、この取り組みは大変スマートではないでしょうか。