パラオ・マリンサンクチュアリ法の改定 [2019年06月19日(Wed)]
先日パラオEEZ内での日本漁船の操業許可について書きましたが、20%の海域では漁場が遠いし、あまり実効性がないのではないかとの疑問がありました。
これが元のマリンサンクチュアリで、パラオの東側に操業可能海域が広がっています。 https://www.pristineparadisepalau.com/national-marine-sanctuary/ こちらが、6月10日頃に上下両議会を通過し、6月12日に大統領が署名した改正法における操業可能海域です。 http://islandtimes.us/palau-moves-domestic-fishing-zone-in-newly-amended-marine-sanctuary-law/?fbclid=IwAR3QSt3JzZS_waEfNixsChhMaExcs3gvlwV4YCpuayEa0e6T0ATEiJjt64A 以前、現地の漁業関係者と話したときに、パラオでの漁業資源は他のナウル協定メンバー国よりも少ないが、西側の海域にメバチの良い漁場があると教えられたことがあります。 漁場がどうか詳しいことは分かりませんが、記事にもあるとおり、日本の漁船、すなわち沖縄からの20隻ほどの漁船が、同海域で操業可能ということのようです。おそらくそのエリア内に、沖縄の漁業者が伝統的に操業していた漁場があるのではないかと思われます。 さらに商業目的のマグロ資源の輸出も認めましたが、こちらはキロ当たり50セント課税されるとのことです。(他の魚種の輸出についてはキロ当たり35セント) これにより、形だけではなく、実際に、沖縄の漁業者が操業を継続できるようになったと考えられます。 パラオ・ナショナル・マリンサンクチュアリというのは、制定されたのが2015年10月頃ですが、それ以前に数年にわたる国内外の調整が行われていました。そこには、例えばPew Trustなど海外のNGOが技術面などからバックアップしており、同サンクチュアリ制定後は、国際社会において、日本で考えているよりも、大きなインパクトを与えていたようです。 そのため、今回の改定については、欧米諸国(豪・NZ含む)の環境保護側の視点から、日本に対するやや批判的な記事も目に入りました(日本が援助を盾に保護区を変えたというようなニュアンスかと、、。) 一方、自分が現地で経験してきた、それこそ一般市民から政府職員、政府高官、閣僚、議員周辺、大統領周辺との会話を振り返ると、日本側の要望を受けて、それこそ1年以上前から、「日本は家族のように大切な国だから、何とかできないか。」「マリンサンクチュアリ法を改定してしまうと骨抜きになる。国際社会で恥をかくことになる。」「日本はパラオに対して長年にわたり援助を続けている。」「たった20隻じゃないか。」「マリンサンクチュアリ法を2030年まで凍結すべき。」「マリンサンクチュアリ法を廃止すべき。」などなど、さまざまな議論があり、大統領の政治的立場を悪化させる恐れや、議会と大統領の対立を招きかねない状況にありました。 確か大統領の立場は、「マリンサンクチュアリ法を守りつつ、沖縄の漁業者も守りたい」というもので、議会の立場は「マリンサンクチュアリ法を凍結もしくは廃棄すべき。」というものだったと思います。 何を言いたいかと言えば、この改定までの一連の流れが、まさにパラオの誠実さを表しているということです。 過去を振り返れば、例えば、1981年パラオ憲法は、その核フリー条項と米国コンパクト(経済・統治・安全保障からなる)がぶつかったため、住民投票を何度も何度も繰り返し、ようやくマーシャルとミクロネシア連邦から遅れること8年、1994年にようやく妥結し、米国コンパクトを締結し、独立しました。 また、例えば、グリーンフィー。これは確か2000年頃にUNDPの支援で調査を行い、1人100ドルなら払っても良いという結果が出て、確か2002年に法律が成立しました。ただし、グリーンフィーの額は30ドルとしていたと思います。しかし、国内では住民、観光業者を含む多くの人々から観光業に与える影響や財源の使途と管理に関する懸念があったため、何年も住民との対話や公聴会や議会での議論が行われ、2009年頃に、ようやく一人15ドルで試験的に始まりました。 パラオでは、国民を巻き込む課題が生じたときには、為政者が上からドンっと決めるのではなく、粘り強く、粘り強く対話を続け、最適解を目指し、多くの人たちが納得した上で、最終決定が出されるという特徴があると思います。 反対に、公聴会が少なかったり、情報の共有がうまくいっていなかったりして、拙速に成立した法律もあり、その場合は、成立後に国内で議論が沸き上がったりもします。 ただ、住民の意思とは関係なく、例えば議会の大多数が賛成している話については、住民は何もできないケースがあり、その場合は、海外からの声(特に日本)が大きな影響力を持つことになります(責任を海外の声に転嫁することが可能で、リスクを避けられる)。 今回の法律改定については、日本からのプレッシャーもしくは要望を受けて、簡単に「はいはい」と決定されたのではなく、パラオ国内で多くの国民を巻き込み、議論して議論して議論して、厳しい対立もあったようですが、ようやく妥協点を見つけて決定されたということを理解すべきかと思います。 ※追記 ちなみに、パラオの憲法では、陸域から沿岸12海里まで(いわゆる領海内まで)の資源については州が管轄することになっています。そのため、国によるマリンサンクチュアリ法がカバーするのは、12海里から200海里までの排他的経済水域(EEZ)に限ります。 12海里内の保護区は、各州政府が設定し、管理しています。その保護区がPAN(保護区ネットワーク)に登録されれば、PAN法に基づき訪問者が支払う旧グリーンフィー(現在はPPEF: Pristine Paradise Environment Fee 100ドルのうち30ドル)がその維持管理に使用されます。 グリーンフィーは、国庫の外にあるPAN基金に積み上げられ、各州がPAN登録の際に国に提出し承認された5年間のマネージメントプランに応じて、費用が提供される形となっています(保護管理官人件費、保護区を仕切るロープとブイ、保護管理用の船などに使用される)。憲法上、国が直接関わることができない資源管理について、上手く関与できるようにした仕組みと言えると思います。 パラオに対して「外国人にお金を依存するのはおかしい」と批判する声もありますが、外国人は現地の貴重な自然を利用しているわけで、しかも我々が払うお金が、現地の環境保護に直接役立ち、貢献できていると見ることもできるかと思います。 |