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児童虐待防止対策部会(第5回) [2025年01月31日(Fri)]
児童虐待防止対策部会(第5回)(令和6年 12 月 26 日)
議題 (1)制度改正を要する事項について (2)児童相談所における児童福祉司等の人材確保等について (3)市町村の機能強化に向けた施策の方向性について
https://www.cfa.go.jp/councils/shingikai/gyakutai_boushi/8267a354
◎資料3 市町村の機能強化に向けた施策の方向性について
○市町村の機能強化に向けた施策の方向性について→説明の流れ⇒1.市町村の機能強化が求められる背景 2.市町村機能の現状と課題 3.都道府県による市町村支援の現状  
4.国と研修センターによる市町村機能 強化に関する既存事業⇒⇒5.施策の方向性(案)
・審議いただきたいこと→• 市町村機能強化のための 都道府県の役割 に関するご意見 • 市町村機能強化のための 施策の方向性(案)に関するご意見 • こども家庭センター設置・機能強化促進事業 の効果的な実施のために必要な視点や留意点  ↓↓


1.市町村の機能強化が求められる背景
(1)早期からの包括的支援による虐待予防の必要性
→・児童相談所と同様、市町村への虐待相談件数も増加(平成25年度79,186件 → 令和4年度162,605件)。 ・ 虐待発生時の対応や支援だけでなく、早期から切れ目のない継続的支援による虐待の発生予防が必要。 ・ 虐待の背景には、予期しない妊娠、親の被虐待経験、貧困、疾病・障害、孤立など様々な状況があり、 各分野の支援事業や制度の活用、関係機関・地域資源との協働などニーズに応じた包括的支援が必要
(2)制度改正(児童福祉法・児童虐待防止法・母子保健法)→平成16、20、28年。令和4年 サポートプラン作成の義務化、こども家庭センター設置の努力義務化、 家庭支援事業の提供が必要な者への利用勧奨・措置(提供)の創設。
(3)市町村機能の特長 @ 児童相談所に比べると住民に身近な存在であり、妊娠届出や各種健診など全件把握の機会がある A 様々な子育て支援事業(家庭支援事業等のサービス)や保健・福祉等の各種制度を所管している B 様々な関係機関(医療機関・保育所・学校等)と業務的なつながりがあり、連携の仕組み(要対協)もある C 上記@〜Bを活かすことにより切れ目のない継続的・包括的な支援が可能である
2.市町村機能の現状と課題→組織体制、相談支援、支援事業・地域資源、多機関連携(要対協)⇒⇒【課題】@ こども家庭センターの設置など全ての市町村で必要な組織体制を整備する必要 A 家庭支援事業や地域資源など支援に資するサービス・資源の構築・開拓状況の市町村格差を埋める必要 B 家庭のニーズに応じた支援の計画・実施、多機関協働での計画的支援など相談支援機能を高める必要がある。
・設置に向けた課題(こども家庭センター未設置市町村)→統括支援員を担う人材の確保・育成などグラフ参照。
・都道府県や国から得たい情報や支援等(全市町村)→業務の課題整理や充実に向けた相談対応や助言 などグラフ参照。
⇒⇒【課題】C 統括支援員や計画的支援に関する研修の充実が必要 D 組織・業務・事業の構築に役立つ相談対応や取組事例が必要

3.都道府県による市町村支援の現状
(1)都道府県の役割(制度的位置づけ)
→市町村の業務の実施に関し、市町村相互間の連絡調整、市町村に対する情報の提供、市町村職員の研修 その他必要な援助を行うこと及びこれらに付随する業務を行うこと(児童福祉法第11条第1項第1号)
(2)市町村支援児童福祉司の業務→54自治体/79自治体(都道府県・政令市・児相設置市区)に100人が配置され個別事例の助言や連絡調整を中心に実施 未配置9都府県・5政令市への配置や本庁部局と連携した市町村研修の企画・機能強化の相談対応の充実が課題。
3)市町村機能強化のための情報提供・研修・相談対応・調整等の状況
※都道府県向け簡易アンケート(回収率72.3%)

【研修】@ 児童福祉・虐待防止関連 平均5.6回 (中央値3回) A 統括支援員・こども家庭センター設置関連 平均2.1回 (中央値1回) 上記研修(@+A)の企画者: 本庁部門が企画 44.3% 児童相談所が企画 47.8% 両者が協働で企画 6.7%
【情報提供・相談対応等の実施状況】→ め 相談支援の流れや多機関連携などに関する相談対応は本庁担当者よりも市町村支援児童福祉司が行っている。・ 市町村から相談があった場合の対応は行っているが積極的な情報提供や調整までは行えていない場合がある。・ 組織運営や家庭支援事業について、市町村支援児童福祉司が情報提供や相談対応を行っている都道府県もある。

4.国と研修センターによる市町村機能強化に関する既存事業
(1)運営及び研修の財政支援
→・ 利用者支援事業(こども家庭センター型) 統括支援員・両機能職員・地域資源コーディネーターの人件費等の運営経費、開設準備経費を補助。・ こどもSOS等相談支援体制整備事業 こども自身や保育所・学校等からの相談対応を行う職員や公認心理師等を追加配置する経費を補助。・ 市町村相談体制整備事業 スーパーバイズを行う職員、関係機関への助言等を行う虐待対応強化支援員や心理職の配置を補助。・ 児童虐待防止対策研修事業 要対協調整担当者研修、児童虐待に関する専門性を強化する市町村職員向け研修の実施経費を補助。 ・ 子どもを守る地域ネットワーク支援事業 要対協の調整機関や関係機関の専門性強化や連携強化の実施に必要な経費を補助
(2)研修の実施・支援→・ 統括支援員基礎研修(子どもの虹情報研修センター・西日本こども研修センターあかし) 統括支援員の任用要件である基礎研修(オンライン動画)を運営(こども家庭センター職員にも公開)。 ・ 設置運営に向けて助言を行うアドバイザーの自治体派遣(あかし「こども家庭センター支援事業」)。 ・ 市町村職員向け研修等に関する専門相談・助言(子どもの虹・あかし)。
(3)都道府県による市町村向け研修企画の支援→・ 統括支援員の育成(実務研修)を担う都道府県等の研修担当者などが研修企画に必要な内容や視点等を学ぶ「統括支援員指導者・研修企画者養成研修」を実施(子どもの虹はオンライン、あかしはアウトリーチ型)。
5.施策の方向性(案)→5施策の方向性あり。 目的、考えられる取組の参照。

○こども家庭センター設置・機能強化促進事業→令和4年改正児童福祉法により設置が努力義務となった「こども家庭センター」について、未設置の市町村(全体の約5割)での設置を促すととも に、設置済み市町村においても、母子保健と児童福祉の一体的支援、サポートプランの活用、家庭支援事業等の構築・活用などの機能の充実を促し、 市町村における妊産婦・こども・子育て家庭への包括的・計画的な支援の円滑な実施を推進する。 これらの取組を通じ、令和8年度末までにこども家庭センターの全国展開等を図る。⇒事業の概要、実施主体 参照。


◎資料4 こども家庭庁による福祉行政報告例の実施に伴う見直しについて
・背景・目的
→福祉行政報告例のうち児童福祉関係の調査は、令和7年度実績分より、厚生労働省からこども家庭庁に調査主体を移管し、 新たな調査として実施する予定であり、これに伴い、児童虐待に関するものについて、各調査項目の利活用状況等を踏まえ、報告表を一部見直すこととしている。 引き続き、各自治体における福祉行政の実態を明らかにし、福祉行政の運営を検討するにあたっての正確な情報を集計・公表していくため、以下の観点及びスケジュールを踏まえて見直しを進めたい。↓
・見直しの観点→1. 児童虐待防止対策を検討する上で必要なデータを過不足なく収集できる調査とする。 2. 児童福祉行政の実態を可視化できる調査とする。 3. 可能な限り「わかりやすく」かつ「回答負荷を抑えた」調査とする。
・今後のスケジュール→令和6年12月(事務連絡 調査の概要 変更点の提示)⇒令和7年2月(R7記入要領 公表)⇒令和7年4月〜令和8年3月(・児相/市区町村にて実績を計上 ・必要に応じて実績管理システム改修)⇒令和8年4月〜6月(R7調査報告の作成)
⇒⇒R 7 結 果 公 表
○具体的な見直しのポイント↓
・通告件数と対応件数の把握→1. 「児童虐待通告件数」について、よりわかりやすく明示的に把握する。 2. 「児童虐待相談対応件数」などの重要な指標は連続性を維持する。
・わかりやすさの追求→3. 報告表の「順番」をわかりやすく並べ替える。4. 報告表の「タイトル」をわかりやすく見直す。
・回答者(自治体)の負担削減→5. 集計結果を活用していない報告表は削除する(8表→6表)。6. 《運用面》自治体の回答期間を2ヶ月間から3ヶ月間へ延長する。

○こども家庭庁による福祉行政報告例の実施に伴う見直しについて 【参考資料@】→新報告表(1表〜6表) 参照。


◎資料5 児童相談所における AI の利活用について
・これまでの経緯
→・「一時保護の判断に資するAIツール」として、令和4年度より設計開発をスタートさせ、令和5年度末にプロトタイプがほぼ完成。・試行実施自治体より、現場での活用が難しいのではないかという意見が寄せられた。・外部有識者を交えた検討会を立ち上げ、調査研究事業により当該ツールの効果検証を実施。
・効果検証の概要→計10自治体※の児童相談所にご協力いただき、過去の実事例:100ケースで試行検証を実施。【検証結果】約6割のケースでスコアに疑義が生じた。【結果分析】保護判断に影響する情報を正しくインプットすることが難しいケースのスコアに疑義(参考資料A)。【具体事例】ベテラン児福司が「ただちに一時保護すべき」と判断する事例に対して重大な見落としも発生。
・外部有識者を交えた検討会の考察→事前に定められた一定の項目の該当有無だけでは、リスクスコアを算出する情報として十分ではないが、これ以上 の項目追加は入力負荷の観点から現実的ではない。
・今後の方針→・開発したAIツールは、AI技術の更なる進歩を踏まえた性能改良が必要であるため、現状でのリリースを延期する。・定性情報(自然文)を学習データとするAIに進化させ、ケースワークの多面的なサポートを目指す。・R6補正予算案にて「面談音声マイニング及びAI要約ツールの開発」を行うための予算を要求。

≪参考資料≫
○参考資料@:一時保護AIツールの概要(システム構成)→一時保護AIツールは、入手したケース情報を基にリスクアセスメント項目に入力を行うことで、リスクスコ ア等を提示するシステムである。
○参考資料A:AIツールへ正しく情報を入力できなかったケース具体例→一時保護AIツールは、入手したケース情報を基にリスクアセスメント項目に入力を行うことで、リスクスコ ア等を提示するシステムである。⇒検証ケースにおいて生じた例、 検証ケースにおいて生じた例 参照。


◎資料 6-1 一時保護時の司法審査について
≪一時保護時の司法審査≫↓
○一時保護時の司法審査等
→<一時保護開始時の適正手続の確保(司法審査)>⇒・一時保護の適正性の確保や手続の透明性の確保のため、一時保護開始の判断に関する司法審査を導入。→・裁判官が発付する一時保護状による方法(事前又は保護開始から7日以内に児童相談所は書面で請求)とする。 ・ 対象として、親権者等が一時保護に同意した場合や請求までに一時保護を解除した場合等は除く。 ・ 児童虐待のおそれがあるときなど、一時保護の要件を法令上明確化。その要件に該当するときは、明らかに一時 保護の必要がないと認めるときを除き、裁判官は一時保護状を発付する。 ・一時保護状発付の請求が却下された場合、一時保護を解除した際に児童の生命及び心身に重大な危害が生じるお それがあるときには、児童相談所からの不服申立手続を設ける(却下の翌日から3日以内にその取消を請求)

○一時保護時の司法審査に関する実務者作業チームについて→・令和4年6月に成立した児童福祉法改正法において、一時保護の開始時の司法審査を導入(令和7年6月1日施行)。社会保障 審議会児童部会社会的養育委員会報告書において、施行までに、その運用や実務の詳細について、法律実務に携わる者など、実 務者も構成員に含む作業チームを立ち上げて検討すべきと指摘。 ・このため、厚生労働省において、作業チームを令和4年8月末から設置し、一時保護時の司法審査の運用及び実務の詳細等につ いて、実務的な観点から議論することとする。⇒令和6年1月 「一時保護時の司法審査に関する児童相談所の対応マニュアル(案)」を公表 令和6年10月第5回作業チームで座長一任となったことを踏まえ、同年12月、同マニュアル確定版を公表 (検討会委員) ※法務省、最高裁事務総局はオブザーバーとして参加。

○一時保護の要件について↓
1.改正後児童福祉法
→<改正後>⇒第三十三条 児童相談所長は、児童虐待のおそれがあるとき、少年法第六条の六第一項の規定により事件の送致を受けたときそ の他の内閣府令で定める場合であつて、必要があると認めるときは、(略)児童の一時保護を行い、又は適当な者に委託して、 当該一時保護を行わせることができる。
2.「内閣府令(児童福祉法施行規則)で定める場合」の条文 令和6年12月26日公布)→第三十三条 児童相談所長は、児童虐待のおそれがあるとき、・・・ 一〜七 参照。

○一時保護時の司法審査に関する児童相談所の対応マニュアルの主なポイント@➁B↓
第1章 令和4年児童福祉法等改正(一時保護時の司法審査)の概要
第2章 一時保護の要件

1 趣旨
2 一時保護を行うことができる場合→・ 一時保護を行う全ての場合で、@内閣府令該当性+A一時保護の必要性があることが要件となる(改正後法第33条第1項及び第2項)。 ・ なお、裁判官は、@内閣府令該当性が満たされていれば、明らかにA一時保護の必要がないと認めるときを除き、一時保護状を発付(同第4項)。
3 内閣府令について(児童福祉法施行規則第35条の3)
・ 第1号(児童虐待の場合等)→・「児童虐待を受けた」場合だけでなく、「児童虐待を受けたおそれ」がある場合及び「児童虐待を受けるおそれ」がある場合も対象。
・第2号(少年法送致又は警察通告の場合)→・少年法送致又は警察通告を受けた場合は、警察からの情報に基づき調査や状況把握をする必要のあるケースが多いため、一時保護の対象として規定。
・第3号(自己又は他人への危害の場合等) ・ 児童の安全と健全な発達を図り、必要な調査を行うため、一時保護の対象として規定。 ・ 自己又は他人に「危害を生じさせた」場合だけでなく、「危害を生じさせたおそれ」がある場合及び「危害を生じさせるおそれ」がある場合も対象。
・ 第4号(児童による保護の求め等の場合)→・ 児童自身が保護を求めることは、児童にとって何らかの深刻な状況が生じているというべきであることから、一時保護の対象として規定。 ・ 児童の年齢や発達の状況等を考慮し、保護の求めに相当する意見・意向(意思というまでには至らない志向、気持ち)が表明された場合も対象。 ・ 児童に保護者や住居がない場合に、安全・安心な場所を提供し心身の安定を図れるよう、一時保護の対象として規定(おそれがある場合も含む。)。 ・ 児童の住居が不明の場合には、その養育環境等について把握・調査等をするため、一時保護の対象として規定(おそれがある場合も含む。)。
・ 第5号イ、ロ(保護者不在又は住居不定の場合等)
・ 第6号(保護者による保護の求め等の場合)
4 一時保護の必要性について↓
・ 第7号(その他重大な危害が生じるおそれの場合)→・ 保護者(児童福祉施設の長や里親を含む。)が保護を求める場合は、養育困難や措置先での児童の不適応等が生じているとうかがわれることから、 児童をその養育環境から一時的に分離して安全確保をした上で、背景事情の把握等を行う必要があるため、一時保護の対象として規定(保護の求め に相当する意見が表明された場合も含む。)。 ・ 第1号〜第6号までの類型では対応できないものが今後生じ得る場合に備えて規定。 ・ 児童相談所長は、@内閣府令該当性を前提として、A一時保護の必要性があるか否かについて、各事案における個別の事情を検討し、適切に判断

第3章 一時保護状の請求手続
1 一時保護状の請求の要否→・ @一時保護を行うことについて親権者等(親権を行う者又は未成年後見人)の同意がある場合、A児童に親権者等がない場合、B一時保護を開始 した日から起算して7日以内(この期間は、初日を含む。)に解除した場合を除き、一時保護状の請求が必要(改正後法第33条第3項)。 ・ 親権者等が数人あるときはその全員の同意を要する。一部の親権者等から同意を得られない場合のほか、一部の親権者等と連絡がとれずその同意が確 認できないような場合には、親権者等の同意があるとはいえないから、請求期限までに一時保護状を請求しなければならないこと等に留意。
2 一時保護状の請求に係る基本的事項→・ 請求者、対象となる児童、請求時期(事後請求又は事前請求)、一時保護の開始日、請求先、請求の方式など
3 一時保護状の請求に向けた具体的手続(児童相談所における事務手続の流れを想定)→・児童と親権者等の特定⇒・ 一時保護の対象となる児童は、氏名、住居(住所又は居所)、生年月日により特定。児童の特定に関する資料としては、戸籍謄本、住民票の写しそ の他の公的書類(療育手帳、母子健康手帳等)の写しが考えられる。 ・ 親権者等は、戸籍謄本(児童が外国人の場合は戸籍謄本に代わるものとして親権を有することが確認可能な公的書類)により特定。戸籍謄本の取 得に特に時間を要する事情がある、外国人につき本国での身分関係の調査が完了しないなどの事情があるときは、親権者等を確知できない場合として(同 意があるとはいえないとして)、一時保護状の請求を行う必要。
・ 児童と親権者等の特定⇒・ 一時保護の対象となる児童は、氏名、住居(住所又は居所)、生年月日により特定。児童の特定に関する資料としては、戸籍謄本、住民票の写しそ の他の公的書類(療育手帳、母子健康手帳等)の写しが考えられる。 ・ 親権者等は、戸籍謄本(児童が外国人の場合は戸籍謄本に代わるものとして親権を有することが確認可能な公的書類)により特定。戸籍謄本の取 得に特に時間を要する事情がある、外国人につき本国での身分関係の調査が完了しないなどの事情があるときは、親権者等を確知できない場合として(同 意があるとはいえないとして)、一時保護状の請求を行う必要。
・親権者等の同意の確認⇒・ 一時保護を行うことについて可能な限り親権者等の同意を。同意がない場合だけではなく、同意が判然としない場合(同意があるか分からない場 合)、同意の真意性に疑義がある場合などは、同意があるとはいえないとして、一時保護状の請求を行う。 ・ 親権者等の同意の確認は原則として書面で行う。ただし、一定の場合(親権者等が遠方、多忙、入院中等により来所や郵便等での確認が困難な場合、 親権者等の身体に障害があり署名が困難な場合など)には、口頭による確認も排除されない。
・親権者等の意見を裁判官に伝達する手法⇒・ 児相が親権者等の意見を聴取して適宜の書 にまとめて裁判官に提供することを基本。 ・ 親権者等が自ら意見書面の作成を希望する場合はこれを児相を通じて裁判官に提供することが可能。
・児童の意見又は意向の確認、児童の意見又は意向を裁判官に伝達する手法⇒・ 一時保護
に当たって実施する意見聴取等措置(改正後法第33条の3の3)等により児相が把握した児童の意見又は意向を裁判官に提供。 ・ 児童自らが意見書面の作成を希望する場合はこれを児相を通じて裁判官に提供することが可能。
・提供資料の準備(関係機関等と連携した資料等の収集)→・ 児相が保有する児童記録票その他の児童に関する書類一式又はそれらを抜粋し、若しくは要約したものを提供する方法を基本。 ・ 一時保護状の請求に当たっては、一時保護の要件の充足性を示す事実関係、児童の意見等や親権者等の意見、それらを踏まえた児相の所見(内閣 府令該当性及び一時保護の必要性を認めた理由)等をまとめた簡単な「総括書面」を作成。 ※参考書式は本マニュアル(案)別添のとおり。 ・ 児相が裁判所に出した一時保護状の請求に係る事件記録は、裁判所から児童や親権者等に送付されることはなく、審査終了後、児相に返還される。 また、裁判所において児童や親権者等の事件記録の閲覧謄写を予定した規定はなく、児相への返還後、児相において開示請求に対応することとなる。 ・ 資料の収集等においては、関係機関と連携し、資料又は情報の提供等の必要な協力を受けること(改正後法第33条の3の2)。
・一時保護状請求書の記載事項等⇒・ 一時保護状請求書はチェックリスト及び端的な記載欄を基本。 ※参考書式は本マニュアル(案)別添のとおり
4 一時保護状の発付又は請求却下→・ 一時保護状の発付又は請求却下後は、裁判所において事件記録の返還を受け、一時保護状が発付された場合は一時保護状を受領。 ・ 児童及び親権者等に対しては一時保護時の司法審査の結果等につき適切な説明を行う。請求が却下された場合(取消請求をしない場合)は意見 聴取等措置等を講じた上で、速やかに一時保護を解除。

第4章 一時保護状の請求却下の裁判に対する取消請求
1 取消請求の要件→取消請求では、@内閣府令該当性、A一時保護の必要性、B一時保護を行わなければ児童の生命又は心身に重大な危害が生じると見込まれると きが要件となる。Bの要件については、外形上の行為や被害の重大性だけではなく、養育環境下に戻ることが児童の心身に与える影響からも検討すること。
2 取消請求手続に係る基本的事項→請求者、請求時期(一時保護状の請求却下の裁判があった日の翌日から起算して3日以内に限り行うことができる)、請求先、請求の方式など
3 取消請求の具体的手続→取消請求の各要件について、事案の概要を踏まえ、児相の所見・評価を文章形式で記載。 ※参考書式は本マニュアル(案)別添のとおり。
4 裁判所の判断を受けての対応

第5章 夜間・休日の対応→・ 一時保護状の請求及び取消請求は平日の裁判所開庁時間中に行われるのが基本だが、やむを得ず夜間・休日に請求する場合はあらかじめ請求先裁 判所に連絡した上で請求を行う。夜間・休日には請求先が異なる可能性があることに留意。一時保護状の請求及び取消請求に係る期間には、土日、祝 日、年末年始を含む。請求期限末日が土日、祝日、年末年始となる場合も同日までに請求を要する。

○一時保護時の司法審査手続における戸籍謄本等の広域交付の活用について
・親権者等の特定について(現状と課題)→・一時保護時の司法審査では、親権者等(親権者又は未成年後見人)の同意を確認する前提として、戸籍謄本により 親権者等の特定を行い、同意している者が親権者等であることの確認が必要。 ・ 児童の家庭状況を調査する必要性等から、児童相談所では現在も児童や親権者等の戸籍謄本等を取得しており、住 所地と本籍地が異なる場合には、児童相談所から本籍地へ郵送等により請求(公用請求)しているが、現状、戸籍謄 本等の取得には7日以上要する場合が多く、一時保護時の司法審査の施行後は、親権者等が同意している可能性があ るにも関わらず、一時保護状の請求を行わなければならない場合が生じる。 ⇒ 戸籍謄本等の取得・確認業務を迅速に行うため、市区町村が行う公用請求については、広域交付制度(本籍地以外 の市区町村に対する戸籍謄本等の請求)が活用できることを明確化することとする。
・対応について→・戸籍謄本等の広域交付の公用請求は、戸籍法上、市区町村の機関がするものに限り可能とされているが、児童相談所の協力の求めに応じる形であっても、市区町村が主体となり公用請求を行うものであるから(児童福祉法第10条第1項 第3号)、請求の主体は市区町村の機関となり、広域交付の公用請求の利用対象となる。 ・ それを明確にするため、児童福祉法施行規則を改正し(※)、市区町村は、自ら必要な調査等を行う場合のほか、児 童相談所長が一時保護に関して必要があると認める場合には、児童福祉法第33条の3の2第1項第3号(一時保 護に当たっての必要な協力の求め等)に基づき、広域交付の公用請求を活用して、戸籍謄本等を取得・確認できること を規定した。(※)児童福祉法施行規則(昭和23年厚生省令第11号) 第三十五条の四 市町村長は、法第十条第一項第三号その他の法令の規定により自ら調査その他の事務を行う 場合のほか、法第三十三条の三の二第一項第三号の規定による都道府県知事又は児童相談所長の求めに応 じ、法第三十三条第三項に規定する手続に関し、法第十条第一項第三号に掲げる調査を行う場合においても、 戸籍法第十条の二第二項(同法第十二条の二において準用する場合を含む。)の規定による請求その他の必 要な事務を行うことができる。
◆ 一時保護時の司法審査の施行(令和7年6月1日)に向けて、上記対応について、市区町村等へ周知予定。

○一時保護時の司法審査に係る試行運用について→実施の趣旨・目的↓
@児童相談所の人員体制強化に係る検討→・ 一時保護時の司法審査の導入(令和7年6月施行)により、児童相談所において新たに増加すると見込まれる一時保護状の請求に向けた事務負担・作業量等を適切に把握し、児童福祉司、法務担当事務職員等について、児童相談所の人員体制強化に係る検討を行う。 (※)令和4年12月の児童虐待防止対策に関する関係府省庁連絡会議において策定された「新たな児童虐待防止対策体制総合強化プラン」について、令和7年の一時保護時の司法審査の導入に向け、必要に応じて見直し、児童相談所の体制強化を図ることとしていることなどを踏まえ、必要な検討を行う。
A「一時保護時の司法審査に関する児童相談所の対応マニュアル(案)の試行・検討→ 一時保護時の司法審査(令和7年6月施行)の導入に向け、「一時保護時の司法 審査に関する児童相談所の対応マニュアル(案)」について、実務的な観点から試 行・検討を行う。 ⇒ 試行運用を通じて明らかとなった実務上の課題等については、令和6年秋頃に予定している同マニュアルの確定に向けて、マニュアル(案)の記載内容の見直し、 追加の検討等を行う。
○一時保護時の司法審査に係る試行運用結果について→・ 18自治体の児童相談所の協力を得て、実際に進行している事案について、「一時保護時の司法審査に関する児童相 談所の対応マニュアル(案)」に沿った一時保護状請求までの一連の業務を試行的に実践してもらい、各業務の実対応時間等を計測した結果を報告いただいた。 ・ 司法審査導入による業務量への影響については、なお導入後の状況を見極める必要があり、引き続き状況を把握す るとともに、状況に応じて、児童相談所の体制等必要な対応を検討する。
一時保護した日から7日以内又は一時保護前(1〜8の司法審査の手続)参照。

○一時保護時の司法審査の施行に向けた状況及び今後の予定について→・令和6年1月〜同年3月:全国の自治体に「一時保護時の司法審査に関する児童相談所の対応マニュアル (案)」の意見照会を実施 (試行運用対象自治体については、試行運用の実施を踏まえ、〜令和6年4月下旬に実施) ⇒主なご意見等のうち対応可能なものについては、マニュアル及びQ&A等へ反映。・ 令和6年3月〜同年5月:一時保護時の司法審査に係る試行運用を実施(公募の上決定した全国18自 治体)。・令和6年6月〜(順次):施行に向け、各地の裁判所と自治体の児童福祉主管課との間で、一時保護状の 請求手続に関する裁判実務の運用について協議開始。・令和6年12月:「一時保護時の司法審査に関する児童相談所の対応マニュアル」確定版公表 内閣府令改正、一時保護時の司法審査に係る試行運用の結果公表。・今後は、順次、Q&Aの発出、一時保護決定通知書様式例等の提示、一時保護時の司法審査手続における 戸籍謄本等の広域交付の活用に関する通知の発出(市町村の戸籍部署に対して、7日の請求期限があること など一時保護時の司法審査制度の周知を行うもの)等を行うとともに、施行に向けてマニュアル等の周知を徹底し ていく。 ・令和7年6月1日:施行

次回も続き「資料 6-2 一時保護時の司法審査に関する児童相談所の対応マニュアル」からです。

児童虐待防止対策部会(第5回) [2025年01月30日(Thu)]
児童虐待防止対策部会(第5回)(令和6年 12 月 26 日)
議題 (1)制度改正を要する事項について (2)児童相談所における児童福祉司等の人材確保等について (3)市町村の機能強化に向けた施策の方向性について
https://www.cfa.go.jp/councils/shingikai/gyakutai_boushi/8267a354
◎資料1 制度改正を要する事項について
○一時保護委託の登録制度の創設について
→@制度の現状・背景⇒令和4年の児童福祉法改正により、設備・運営基準が設けられたが、一時保護委託先については、特段の基準がなく児童相談所長又は都道府県知事が「適当と認める者」への委託が可能となっており、その質の担保が課題。 A改正内容(案)⇒・一時保護委託については、下記の者に対してのみ行うことができることとする。 @一時保護を適正に行うことができる者として都道府県知事の登録を受けた者(以下「登録一時保護委託者」) A法律の規定に基づき、児童の福祉に関する業務や事業を行い、若しくは施設を設置する者で一時保護を適 正に行うことができる者(児童養護施設や里親等)。 ・ 上記の都道府県知事の登録については、一時保護委託先の質を担保するため、都道府県知事が条例で定める基準に適合しているときに登録できるものとするとともに、欠格要件を設けることとする。併せて、登録 一時保護委託者に対する報告徴収や基準への適合命令、登録の取消し等の監督規定等を整備することとする。 ・ ただし、児童相談所長等が自ら一時保護を行うことができず、登録一時保護委託者等に一時保護委託をすることができない場合で、直ちに一時保護を行うことが必要なときは、2週間以内に限り、府令で定めるところにより、一時保護委託を行わせることができるものとし、併せて、これらの者に対して委託した児童の保護について必要な指示や報告を求める監督規定を設けることとする。
※ 本登録制度の創設に伴い、こども性暴力防止法の学校設置者等への登録一時保護委託者の追加を行う。

○一時保護中の児童の面会通信等制限
→@制度の現状・背景⇒・児童虐待防止法第12条では、児童虐待を行った保護者についてのみ面会通信制限等ができるもの、児童虐待が行われた疑いがある段階では、対象となっていない。 ・こうした中、各児童相談所では、疑い段階の場合に、行政指導等として面会通信制限等が行われている ケースがある。 ・また、保護者と面会等ができなくなることは、対象となる児童への心理的影響が大きいことが想定、面会等制限を行う場合等で児童の意見を聴く仕組みを設ける必要がある。A改正内容(案)⇒・児童虐待防止法第12条において、一時保護中の児童に対して児童虐待が行われた疑いがある場合は、児童相談所長が児童の心身に有害な影響を及ぼすおそれが大きいと認めるときに面会通信制限を行えるものとすると規定すること等により、保護者の同意なく面会通信制限が行うことができる場合を明確にし、適切な運用が図られるようにする。 ・また、一時保護中の児童に対して児童虐待が行われた疑いがある場合について、当該児童の保護者に対し 児童の住所等を明らかにしたとすれば児童の保護に著しい支障をきたすと認めるときは、児童の住所等を明らかにしないものとする。 ・さらに、児童への意見聴取等措置の対象に、児童虐待防止法第12条に基づく面会等制限を行う場合や行わないこととする場合を加えることとする。

○保育所等における虐待対応の強化(施行日:令和7年度中の施行)→@制度の現状・背景⇒保育所等における虐待等の不適切事案が相次いだこと等を踏まえ、現在、児童養護施設等と同様に、保育 所等の職員による虐待に関する通報義務等を設けることが検討されている。A改正内容(案)⇒上記の通報義務等については、もっぱら保護者と離れた環境下において、児童に保育や居場所の提供等の 支援を行う施設・事業を対象とすることが検討されていることから、意見表明等支援事業についても、対象とする。


◎資料2 児童相談所における児童福祉司等の人材確保等について
○児童福祉司等の児童相談所の人材確保・育成・定着に関する論点(1)(2)
→現状・在の取組⇒【児童相談所における人材確保・育成・定着に関する基礎データ(p.4〜8)より】→児童福祉司の退職者の多くが心身の不調や業務上の悩み・不満で退職。事務処理対応職員の配置は全国の児童相談所の3割弱。【過年度調査研究(p.9〜16)より】→児童相談所勤務経験がない所長が一定割合いるほか、SVについても経験年数が浅く、業務量過多であり、担当職員の精神的 ケアにも対応するなど、所内で指導的立場を担う職員への組織的役割の期待が高い一方で、負担が集中しており、人員確保や 資質向上にも困難を感じている。【児童福祉司等の計画的な育成に関する取組事例(p.17〜20)より】→• 経験年数別の職員の在り方を定め、それに応じた段階別継続研修によりキャリアラダー/パスを示している都道府県等や、その一環として市町村との人事交流等を取り入れている都道府県等がある。 • 研修テーマとしてメンタルヘルスやマネジメントを取り入れている都道府県等もある。
・ご討議いただきたい事項→• 児童相談所の勤務環境の改善や職員の精神的ケア等の組織的な実施(組織マネジメント)を強化し、職員の 定着と資質向上を着実に進めるために、どのような推進方策が考えられるか。
• こども家庭ソーシャルワーカー認定資格や階層別研修等、新任以外の職員向けの研修が創設・検討される中、受講 者が過度な負担となることなく受講に必要な時間を確保できるために、どのような方策が考えられるか。
○児童相談所における人材確保・育成・定着に関する基礎データ(1)〜(5)↓
@児童相談所職員の採用者数・退職者数→都市部を中心に児童福祉司の採用活動を行っても人材が確保できず、人材確保が 喫緊の課題。 • また、退職者のうち、定年退職以外の理由で退職する者が多くを占めており、特に児童福祉司については、退職者のうち8割以上が定年退職以外の理由で退職している。
➁定年退職以外の退職者の退職理由(多いと考えられるものを1自治体2つ選択可) ※ 令和5年度→「心身の不調」が最も多く、 次いで「業務内容・量等に対する 悩み・不満等」があげられた。
B 職場定着について課題と考えていること※令和5年度→・時間外業務(休日夜間対応も含む)の多さ ・質・量ともにオーバーワークとならない業務の在り方 ・相談しやすい職場環境の整備 ・モチベーションの維持・向上 ・若手職員への指導による中堅・ベテラン職員の負担増 ・専門性の高い人材の確保 ・職員への精神的ケア 等
C 職場定着のために実施していること※令和5年度→・職員の経験値に応じたきめ細やかなプログラムによる階層別研修 ・定期的な面談 ・SV以外にも対応を一緒に考えてくれる先輩職員の設定 ・定着支援アドバイザーの配置 ・休暇を取得しやすい職場の雰囲気作り ・勤務時間の弾力化 ・ノー残業デーの設定 ・近隣大学への採用情報の掲示 ・人材育成方針の策定 ・新採サポーターの任命 ・システムの導入による業務負担軽減 ・新規採用職員を対象とした精神保健相談員による巡回面談 等
D事務処理対応職員の配置状況→児童相談所内において、書類作成の 補助や台帳の作成、電話対応、戸籍・住民票の請求等の業務を行うこと が想定される。 • 全国における配置状況は64箇所(全国の27.4%)、計180人にとど まっている。
E児童相談所業務の民間団体等への委託状況→・児童相談所業務の一部を民間団体等へ委託しているのは73自治体(全国の92.4%)。 ・委託している自治体が最も多いのは「里親委託に関する業務」で、次いで「研修業務」「受付業務(「189」 等電話受付、窓口受付)」があげられた。
F 市町村支援児童福祉司の配置と業務内容→• 市町村と児童相談所の連絡調整等を行う市町村支援児童福祉司の配置は86箇所(全国の36.8%)、計100人。 • 市町村支援児童福祉司が実施している業務内容は以下のとおりで、相談に対する助言、市町村−児童相談所間 の連絡調整、要保護児童対策地域協議会への出席、市町村職員向け研修の企画・実施等を担っている。
G 研修の受講状況→一部実施していない自治体もあった。 特に一時保護施設研修については、約半数の自治体が未実施となっている。 • 実施方法について、児童福祉司任用前講習会・児童福祉司任用後研修・一時保護施設研修は「対面実施」が最も多く、スーパーバイザー研修は「全てオンライン実施」が最も多かった。

○過年度調査研究(1) 地方自治体における子ども家庭福祉分野の人材養成・キャリアパス等に関する調査研究@➁(令和3年度子ども・子育て支援推進調査研究事業、実施主体:みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社)→• 約4割の都道府県等において、人材育成計画の策定予定はないと回答していた。 • 児童相談所長は児童相談所の勤務経験者である割合が過半数を超えているが、勤務経験がない児童相談所長も一定割合いた。• SVを機能させる上での課題として、SV自身の経験が浅いこと、SVの業務量が体制上過多となることに加えて、SVの担い手も少ないとされた。また、精神的負担感の強い職場であるため、職員へのケアなど組織的な役割もSVに必要とされていた。 • 約4割の都道府県等において、他自治体や関係機関等と実務レベルの職員の人事交流があった。

○過年度調査研究(2) 児童相談所における児童福祉司等の勤務実態等についての調査研究@➁B (令和3年度子ども・子育て支援推進調査研究事業、実施主体:PwCコンサルティング合同会社)→@・令和3年度時点では、アンケートに回答したうち約7割の児童相談所が民間機関等へ業務委託を行っていた。 • 業務を委託しない理由として、委託先となる民間機関等の選定に困難があることが示された。 ➁児童福祉司が取り組むべき研修テーマについて、経験年数が短いと面接技術や権利擁護など基礎的な事項が重視されるが、 中堅になるに従って虐待対応や関係機関との連携・協働など幅広いソーシャルワークのスキルが求められるようになり、 ベテラン職員にはケースマネジメントや職員のメンタルヘルス対策といった組織的な役割が望まれる傾向がみられた。 B• コロナ禍のタイムスタディではあったが、児童福祉司は記録や資料の作成に業務時間の約3割を費やしていた。 • ケース対応以外で負担感の強い業務として、裁判所提出文書や面接記録等の作成・確認が上位に挙げられた。

○過年度調査研究(3) 養成校におけるモデル的なカリキュラムの検討と、子ども家庭福祉の新たな資格における指定研修 等への養成校の協力の在り方に関する調査研究@➁(令和4年度子ども・子育て支援推進調査研究事業、実施主体:一般社団法人日本ソーシャルワーク教育学校連盟)→@• 児童福祉司を専門職として育成する困難感は強く、その理由として育成側の所長や児童福祉司SVのマンパワーに対して新任 児童福祉司が多いこと等が挙げられた。 • 児童福祉司と児童福祉司SVのそれぞれについて、人員確保に対して強い困難感がみられた。  ➁児童福祉司SVの資質向上にも困難を感じている児童相談所の割合が高い。その理由については、資質向上方法や研修制度が 未確立であること、児童福祉司SVを指導できるメタSVとなる職員がいないこと、児童福祉司SVを指導する管理職の時間確 保が困難であること等が挙げられた。

○過年度調査研究(4) 児童相談所におけるAI・ICT等を活用した業務効率化に関する調査研究 (令和4年度子ども・子育て支援推進調査研究事業、実施主体:株式会社野村総合研究所)→• 児童相談所における業務効率化や負担軽減の目的として、以下の3つ⇒・職員の労働環境の改善 … 働きやすい職場づくりを推進して身体的・心理的ストレスを低減する、・中核的業務への従事時間の確保 … 周辺業務を省力化してこども・保護者との関わりや対応方針の検討を充実させる、 ・職員の資質向上 … 研修やSVが受けられるだけの時間を確保して業務の質の向上を達成する。
• タイムスタディの結果、実際の児童福祉司の業務従事時間のうち3〜6割程度が電話や面談の記録作成、記録表や会議資料 の作成など、調査・資料作成に充てられていた。

○児童福祉司等の計画的な育成に関する取組事例(1)京都府→• 求められる児童福祉司や指導教育担当児童福祉司(SV)の像を定めた上で、経験年数別に受講すべき研修を設定している。 • 法定研修以外に、中堅職員向けのステップアップ研修やテーマ別研修など、経験年数に応じた継続研修を実施している。児童福祉司の研修体系 参照。
○児童福祉司等の計画的な育成に関する取組事例(2)埼玉県→• 職員の自主的な取組も含めて、経験年数に応じてテーマ別研修を体系化している。 • 1年目は担当別実務(シスター&ブラザー制度)として先輩職員が家庭訪問同行をするほか、2年目にセルフケア等を学ぶ メンタルヘルス研修も実施している。埼玉県児童相談所職員採用情報ウェブサイト https://sjisou.net/about/development/
○児童福祉司等の計画的な育成に関する取組事例(3)千葉県→• キャリアパスイメージの一部として、中堅職員に市町村との人事交流機会を設け、市町村からの職員派遣も受け入れている。 • 育成に携わる中堅職員に必須のものとして、マネジメント研修を実施している。
○児童福祉司等の計画的な育成に関する取組事例(4)東京都→• 児童相談所の各課で(新規設置予定の有無によらず)特別区から1年以上の職員派遣を続けている。 • 区市町村のこども家庭センター職員についても、年単位の派遣のほか、短期派遣研修の受入も行っている。
○自治体向け児童相談所組織マネジメント推進のための事業(1)〜(3)(児童相談所職員の人材確保等に活用可能な予算メニュー)→・体制整備関係1〜3まで。・タスクシフト関係4〜5まで。 採用・人材育成・定着関係6〜10まで。 システム関係11〜14。 参照。

○民間団体が実施する人材確保等事業(1)児童相談所職員の採用・人材育成・定着支援事業 (実施主体:NPO法人チャイボラ)→働く場所として児童相談所の魅力等を発信するため、学生向けの広報啓発活動や、各児童相談所での見学等や児童相談所職員の 就業継続を支援することにより、人材確保に関する取組を強化する。事業内容(1)〜(3) 参照。
○民間団体が実施する人材確保等事業(2) 虐待・思春期問題情報研修センター事業 (実施先:子どもの虹情報研修センター及び西日本こども研修センターあかし)→深刻化する児童虐待問題や非行思春期問題への対策の一環として、インターネット等を利用した情報の収集・提供、児童相談所 や児童家庭支援センターなどの専門機関からの電話等による専門的な相談、虐待問題等対応機関職員の研修及び児童福祉司説にお ける臨床研究と連携した研究などを通じて、関係機関の専門性の向上を図る。事業内容@〜F 参照。

○今年度調査研究(1) 児童福祉司の階層別研修に関する調査研究 (実施主体:有限責任監査法人トーマツ)→• 全国の児童相談所では、これまでも児童虐待防止対策総合強化プラン等に基づき児童福祉司等の増員を図ってきているが、 急速に人材確保を進めてきたことから、経験の浅い児童福祉司等が占める割合が高くなっている。しかしながら、現行の児童福祉司の法定研修は、児童福祉司の任用前・任用後研修、スーパーバイザー研修のみであり、任用後からスーパーバイザー研修を 受講するまで(児童福祉司としての勤務が概ね5年程度)の間の義務研修が存在しない。また、自治体からは児童福祉司の業務 の特殊性から、代替職員を配置できたとしても遠方まで数日間研修で不在にすることは困難との声も上がっている。 • このため、多忙な勤務環境を加味した児童福祉司の資質向上と人材定着・離職防止の観点から、任用後講習会受講後から勤務年 数5年未満の児童福祉司を対象とした階層別研修につき、有用な研修コンテンツや研修内容について調査を実施し、到達目標及 び研修コンテンツ集の作成を目的。⇒検討事項、検討会の構成  参照。

○今年度調査研究(2) こども家庭ソーシャルワーカーの研修の評価及び今後の在り方の検討に関する調査研究 (実施主体:みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社)→• こども家庭福祉に関わる者の専門性の向上を目的に、令和6年4月より、一定の実務経験のある有資格者や現任者が、国の 基準を満たす認定機関が認定した研修等を経て取得する認定資格、こども家庭ソーシャルワーカーが施行された。 • こども家庭ソーシャルワーカーの研修の在り方については、令和5年度の子ども・子育て支援等推進調査研究事業において、 認定資格の導入状況に関する評価を通じて成果や課題を振り返る重要性が指摘されたところ。 • 上記を踏まえ、本調査研究は、こども家庭ソーシャルワーカーの研修の質を担保し、また制度の改善を図る観点から、研修 の実施状況や受講状況の把握と評価及び研修の今後の在り方に係る検討材料の収集を目的として実施する。⇒検討事項、検討会の構成 参照。

○今年度調査研究(3) 虐待を受けたこどものトラウマケアについての実態把握等に関する調査研究 (実施主体:株式会社 リベルタス・コンサルティング)→• 虐待を受けたこどもの支援においては、トラウマ症状を適切に評価し、その影響を理解したうえで、必要に応じて心的外傷の回復を促すトラウマケアを行うことが重要である。一方で、児童相談所において、虐待を受けたこどもの心的外傷をどのようにアセスメントし、どの程度、心理療法等のトラウマケアが提供できているのかについて、現状や課題を十分に整理・ 分析できていない。 • そのため、児童相談所等におけるトラウマケアの実態把握、支援の現状や課題を整理分析等を経て、よりよい支援の在り方の検討と、支援体制の強化や政策・制度の充実(とりわけ児童相談所における児童心理司を中心とする人材育成)につなげることを目的として実施する。⇒検討事項、検討会の構成 参照。

○今年度調査研究(4) 児童相談所等におけるデジタル技術の活用状況等の実態把握のための調査研究 (実施主体:株式会社野村総合研究所)→• 全国の児童相談所における児童相談所の職員の負担軽減は喫緊の課題となっており、児童相談職員は児童虐待に関する相談だけではなく、こどもの養育に関する相談や障害に関する相談が電話や来所により幅広く寄せられ、その都度、職員が聞き取りを行い、記録し、虐待相談の場合は緊急受理会議を行うなど、多忙を極めている状況にある。 • そのため、児童相談所における業務の整理を行い、事務的な業務についてはデジタル技術などを駆使することにより効率的に処理し、優先順位の高い業務に資源を重点的に配分するという考え方及び取組が重要となる。 • 本研究においては、全国の児童相談所におけるデジタル技術の活用状況等の実態を把握することにより、国における児童相談所 の業務効率化・業務負担の軽減のための支援策の検討に資することを目的とする。 • また、改正児童福祉法により令和6年4月より全ての妊産婦、子育て世帯、こどもに対し一体的な支援を行うこども家庭センターにおいても、デジタル技術等を活用して、支援に係る業務に重点的に取り組める環境整備が重要である。このため、同セン ターにおける業務負担の軽減及び効率化の観点から、業務負担割合及びデジタル技術の活用状況を把握する。⇒検討事項  参照。

次回も続き「資料3 市町村の機能強化に向けた施策の方向性について」からです。

第 79 回 労働政策審議会雇用環境・均等分科会 [2025年01月30日(Thu)]
第 79 回 労働政策審議会雇用環境・均等分科会(令和6年 12 月 26 日)
<議題> 女性活躍推進及びハラスメント対策について
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_48022.html
◎参考資料 女性活躍推進及び職場におけるハラスメント対策についての参考資料
厚生労働省 雇用環境・均等局 雇用機会均等課
≪女性活躍推進関係≫
○女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(平成27年法律第64号)の概要
→女性の職業生活における活躍を推進し、豊かで活力ある社会の実現を図る目的。女性の活躍に関する情報を公表  参照。
○女性の年齢階級別就業率と年齢階級別正規雇用比率(平成15年と令和5年の比較)→「L字」カーブを描いてい るが、平成15年と比較すると上昇している。
○男女間賃金差異とその要因→長期的には縮小傾向。 男女間賃金差異の要因で最も大きいのは、役職の違い(管理職等比率)、次いで勤続年数の違い。
○男女間賃金差異の国際比較→依然男女間賃金差異は大きい。
○管理職等に占める女性割合→長期的には上昇傾向、国際的に見ると依然その水準は低い。
○勤続年数→男性よりいまだ短い(令和5年の平均勤続年数は男性13.8年 に対して女性9.9年)。
○女性活躍の状況に係る各種指標の推移→全体的に上向いていると言える。
○第5次男女共同参画基本計画の目標値の進捗状況→その上昇ペースは緩やかである。
○(参考)企業規模別企業数及び従業者数
○女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画策定届出数の実績
→一般事業主行動計画策定の義務対象企業の届出率は98.4%。
○女性活躍推進法に基づく事業主行動計画の作成理由→「法律に定められているから」が高いものの、それに次いで「企業イ メージの向上につながると考えたから」や「採用・育成・登用等に課題があり、それを解消したかったから」が高 くなっており、特に30〜99人規模の企業において、これらの数値が上昇している。
○女性社員の活躍への影響や手応え→半数程度は何らかの影響や手応えがあったと回答。
○(拡充)民間企業における女性活躍促進事業→事業主、特に中小企業を対象として、女性の活躍推進に関する自社の課題を踏まえた取組内容のあり方、男女の賃金の差異の要因分析、 定められた目標の達成に向けた手順等について、個別企業の雇用管理状況に応じたコンサルティング等を実施し、我が国における女性活躍 の一層の推進を図る。また、女性の活躍推進の観点で特に課題とされている女性の正規雇用におけるL字カーブの解消のための施策として、 アンコンシャス・バイアス緩和に関する啓発、および学生等を対象としたキャリア形成支援等に関する周知・啓発事業に取り組む。 加えて、女性活躍推進法の周知・広報に取り組む。⇒2事業の概要・スキーム、実施主体等 参照。
○女性活躍推進法に基づく情報公表→常時雇用する労働者数が301人以上の事業主については、男女の賃金の差異に加え、 「@ 女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」 のうちから1項目以上 「A 職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境整備」のうちから1項目以上 計3項目以上を公表することが必要。
○説明欄の活用について→自社の実情を正しく理解してもらうために『説明欄』を有効活用することが望ましい。(「男女の賃金の差異」以外の情報を任意で追加的に公表可能。)
○説明欄の使用状況→男女の賃金の差異の公表に当たり、「説明欄」の活用等により何らかの追加的な情報を記載している企業は、5割弱となっ ている。
○男女間賃金差異の情報公表状況→女性活躍推進法に基づき、常時雇用する労働者数301人以上の事業主に対し、令和 4年7月8日から義務付けられ、公表時期は各事業年度が終了し、新たな事業年度が開始した後おおむね3ヶ月以内とされて いるところ。
○男女間賃金差異の公表等に係る企業の実感→公表を契機として、差異の要因の分析や 社内での現状共有が進み、具体的な取組や社内外での評判の向上にもつながったという例が見られる。
○男女の賃金の差異に関する詳細分析と公表の手応え→企業規模にかかわらず、 詳細分析を行った企業では「賃金差異改善に向けた社内の意識向上」の他、「新たな取組の実施や制度の創設」に繋がった企業や、意識 向上と取組の両方に繋がった企業の割合が高い。
○男女の賃金の差異の要因→男女間賃金差異を公表している企業の57.7%が、男女間賃金差異の要因として、管理職に占める女性労働者が少ないことを 挙げている。
○各法律・調査等における管理職の定義→参照。
○有価証券報告書における多様性に関する指標の記載
→令和5年1月の企業内容等の開示に関する内閣府令等の改正により、女性活躍推進法又は育児・介護休業法に基づき、「女性管理職比率」、 「男性の育児休業等取得率」及び「男女間賃金格差」の公表を行う企業は、令和5年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書 の「従業員の状況」においても開示することとなっている。
○女性活躍推進法に基づく取組の影響(女性管理職比率)→情報公表を行った企業のうち管理職等における女性比率の項目を公表した企業における女性管理職比率の変化への影響を見たところ、 いずれの企業規模においても、同項目を公表していない企業と比べて「高くなった」と回答した割合が高い。
○女性活躍推進法に基づく取組状況(平成30年からの経年比較)→300人以上規模では57.4%、100〜299人規模では28.5%
○女性の活躍推進企業データベース→URL:↓
https://positive-ryouritsu.mhlw.go.jp/positivedb/
○女性の活躍推進企業データベースの活用状況→参照。
○「女性の活躍推進企業データベース」における情報公表の状況(公表した項目別)
→公表している割合の多い順に、「労働者に占める女性労働者の割合」(56.2%)、「管理職に占める女性労働者の割合」(55.3%)、「採用した 労働者に占める女性労働者の割合」(53.7%)。
○「女性の活躍推進企業データベース」における情報公表の状況(企業規模別及び公表項目数別)→101〜300人企業は1項目公表の企業が4,337社で一番多く、 301人以上企業は3項目公表の企業が4,028社で一番多い。 全14項目公表している企業は、1,016社(3.1%)となっている。
○「女性の活躍推進企業データベース」における 平均公表項目数(企業規模別)→情報公表義務対象企業(101人以上企業)では、企業規模が大きくなるほど、情報公表項目数が多くなる傾向にある。
○女性の活躍推進企業データベースを利用した理由→「都道府県労働局に勧められたから」が43.8%で最も多いが、次いで「学生が就職活動の際に参考にしていると聞いたから」が37.4%となっている。
○女性の活躍推進企業データベースを利用していない理由→「データベースの存在を知らなかったから」である。また、「他社と比較されるのが望ましくなかったから」という理由を挙げた企業は、6.6%で ある。
○女性ホルモン・男性ホルモンの生涯の変化→女性の場合、女性ホルモンは更年期に急激に減少するが、男性の場合、男性ホルモンは加齢により緩やかに減少する。
○女性特有の健康課題により職場で困った経験の有無→困った経験があるという回答比率は 51.5%であり、半数 以上の女性が何らかの困った経験を有している。具体的な健康課題・症状としては、「月経関連の症状や疾病」、「PMS(月 経前症候群)」、「更年期障害」、「メンタルヘルス」が主である。
○女性特有の健康課題が仕事に与える影響→女性従業員の約4割が女性特有の健康課題により「職場で何かをあきらめた経験」がある。具体的な内容としては、「正社員として働 くこと」「昇進や責任の重い仕事につくこと」が多い。
○月経不調や更年期障害による不調がつらいときの仕事のプレゼンティーイズ ム損失割合のイメージ→通常の状態の仕事の出来を100%としたときに、52.2%となっている。
○生理休暇の利用状況→申請先が男性上司であることや、利用している人 が少ないこと、同僚の目が気になること等により、申 請しづらい。
○企業における不妊治療の制度導入状況→「制度化して行っている」企業は10.6%、「制 度化されていないが個別に対応している」企業は15.9%となっており、これらの企業のうち47.8%が、不妊治療のための制度として、「不妊治療に利用可能な休暇制度」を挙げている。
○不妊治療におけるプライバシー保護→不妊治療をしていることを職場で一切伝えていない(伝えない予定の)人は47.1%。 職場でオープンにしていない理由は「伝えなくても支障がないから」、「周囲に気遣いをしてほしくないから」が 3割を超えている。
○企業における更年期に関する制度や取組の状況→新たな休暇制度の創設に取り組んでいる企業は1.9%、様々な休暇制度の柔軟 な運用を行っている企業は5.4%となっている。
○働く女性の心とからだの応援サイト  https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/→企業や働く女性等に対して、母性健康管理や女性の健康課題に関する情報を提供する専用サイト。
○働く女性の心とからだの応援サイトに掲載している 女性の健康支援のための職場の取組のポイント→女性の健康支援に関する職場の取組のポイントを掲載している。
○女性の活躍に資する社内制度の公表について→16項目の情報公表項目のほか、女性の活躍に資する社内制度を公表することを 推奨している。「病気・不妊治療等のための休暇制度」も、この項目の一例として示している。
○女性の活躍に資する社内制度の公表の状況→「セクシュアルハラスメント等の一元的な相談体制」が33.4%で最も多い。「病気・不妊治療等のための休暇制度」を公表している企業は、11.9%である。
○えるぼし認定、プラチナえるぼし認定→参照。
○えるぼし認定、くるみん認定制度の状況→参照。
○これまでのえるぼし1段階目取得企業数→制度創設以降にえるぼし1段階目を取得した企業数は合計で24企業であり、このうち8企業が2段階目へ移行している。
○くるみん「プラス」認定 (不妊治療と仕事との両立に係る基準 ) →<改正後>(令和4年4月〜) 参照。

≪職場におけるハラスメント対策関係≫
○職場におけるハラスメントについて事業主が雇用管理上講ずべき措置
→職場におけるハラスメントを防止するために、事業主が雇用管理上講ずべき措置が指針において定められており、 実際に事案が発生した場合、事業主は雇用管理上の措置義務に基づき適切に対応しなければならない。
〇各種ハラスメントの法的位置付け→・セクシュアルハラスメント、妊娠・出産等に関するハラスメント:男女雇用機会均等法。・育児休業・介護休業等に関するハラスメント:育児・介護休業法。 ・パワーハラスメント:労働施策総合推進法。
○都道府県労働局へのハラスメントに関する相談件数の状況→均等法、育介法、労推法では、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産等に関するハラスメント、育児休業等に 関するハラスメント、パワーハラスメントについて雇用管理上の措置義務を課し、ハラスメントの防止を図ってい る。しかし、法制定後も、労働局へのハラスメントの相談件数は高止まりしている状況。
○勤務先等でハラスメントを受けた経験(労働者等調査)→過去3年間に勤務先等で各ハラスメントを受けた経験については、パワハラは19.3%(前回調査時から12.1%減)、セクハラは6.3% (前回調査時から3.9%減)、顧客等からの著しい迷惑行為は10.8%(前回調査時から4.2%減)と、令和2年度調査から減少傾向にある。
○ハラスメントの発生状況(企業調査)→過去3年間に相談があったと回答した企業割合については、 ・ パワハラは64.2%、セクハラは39.5%、顧客等からの著しい迷惑行為は27.9%。である。 過去3年間に相談があった事例のうち、企業がハラスメントに該当すると判断した事例の有無については、 ・ パワハラは73.0%、セクハラは80.9%、顧客等からの著しい迷惑行為は86.8%である。
○ハラスメントの発生状況(企業調査)→相談件数の過去3年間の増減の傾向としては、 ・パワハラとセクハラでは、「件数は減少している」の割合が「件数が増加している」の割合よりも高くなっているが、 ・事業主に防止措置義務が課されていない顧客等からの著しい迷惑行為では「件数が増加している」(23.2%)が「件数は減少してい る」(11.4%)より大幅に高い。
○パワハラ防止指針における「顧客等からの著しい迷惑行為」→「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指 針」(令和2年厚生労働省告示第5号)において、顧客等からの著しい迷惑行為に関し、事業主が行うことが望ましい取組 の内容が規定されている。
○カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(2022年2月作成)→<マニュアルが対象とする「カスタマーハラスメント」のイメージ>⇒顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要 求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの
○令和6年度 業種別カスタマーハラスメントの取組支援→総合的ハラスメント事業(委託事業)を一部拡充し、カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)対策に関心を持つ 業界団体が業界内のカスハラの実態を踏まえ、業界共通の対応方針等を策定・発信するまでの支援をモデル事業とし て行い、一連の取組・ノウハウを広く普及させる。
○(拡充)総合的ハラスメント防止対策事業→パワーハラスメントやセクシュアルハラスメント、妊娠・出産、育児休業等に関するハラスメントなど職場におけるハラスメントは、労 働者の尊厳を傷つけ継続就業を妨げる大きな障害となるものであり、社会的関心も高く、労働者から多数の相談が寄せられている一方、関 係法令や具体的な対応に関する周知が不十分との声がある。 また、これらの職場におけるハラスメントは複合的に生じることも多く、労働者の意欲・能力の発揮を阻害し職場環境を悪化させるもの であることから、総合的・一体的にハラスメント対策を行う必要がある。⇒2 事業の概要・スキーム、実施主体等 参照。
○顧客等からの著しい迷惑行為の経験状況に関する接客頻度別の特徴→顧客等と接する頻度が多いほど迷惑行為を受けた割合が高い。
○顧客等からの著しい迷惑行為の行為者・内容→・顧客等からの著しい迷惑行為の行為者⇒「顧客等(患者またはその家族等を含む)」が82.3%、「取引先等の他者の従業員・役員」が22.6%。・労働者が過去3年間に受けた顧客等からの著しい迷惑行為の内容⇒「継続的な、執拗な言動」(57.3%)、「威圧的な言動」(50.2%)、「精神的な攻撃」(33.1%)が主な内容。
○顧客等からの著しい迷惑行為を受けた経験→勤務先が顧客等からの著しい迷惑行為の予防・解決に積極的に取り組んでいる場合(12.8%)の方が、勤務先が顧客等からの 著しい迷惑行為の予防・解決にあまり取り組んでいない場合(23.1%)と比べると、顧客等からの著しい迷惑行為を経験した者の 割合が少ない。
○顧客等からの著しい迷惑行為を受けた労働者の心身への影響→「怒りや不満、不安などを感じた」者は63.8%、「仕事に対する意欲が減退した」 者は46.1%となっている。
○顧客等からの著しい迷惑行為で企業が被った損害や被害→「通常業務の遂行への悪影響」(63.4%)、「労働者の意欲・ エンゲージメントの低下」 (61.3%) 、「労働者の休職・離職」(22.6%)である。
○顧客等からの著しい迷惑行為に関する取組→取組が「特にない」としている企業は、従業員規模1,000人以上の企業において37.2%、 300〜999人規模企業において48.9%、100〜299人規模企業において62.0%、99人以下規模企業において73.8%である。
○他の事業主の講ずる雇用管理上の措置の実施に関する協力に関する規定→「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和47年法律第113号)」「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成 18 年厚 生労働省告示第 615 号)」 参照。
○労働者に対して行ったハラスメントについて他社から協力を求められた場合の対応→「そのような対応を求められたことがない」(80.4%)が約 8 割を占めており、「応じている」が 19.3%、 「応じていない」が 0.4%であった。
○パワーハラスメントに関する現行の責務規定→労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和41年法律第 132号)(国、事業主及び労働者の責務) 第30条の3  参照。
○セクハラ防止指針における「就活等セクハラ」→「 事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等につい ての指針(平成 18 年厚生労働省告示第 615 号)」(抄) 参照のこと。
○就活等セクハラを受けた経験→インターンシップ中にセクハラを経験した者は30.1%、就職活動中にセクハラを経験した者は31.9%である。
○就活等セクハラの心身への影響→インターンシップ中とインターン以外の 就職活動の両場面で 「怒りや不満、不安などを感じた」、「就職活動に対する意欲が減退した」、「眠れなくなった」が上位3つを占め る。
○企業における就活等セクハラに関する取組状況→就活生等からの相談への適切な対応等に取り組む企業は一定数みられるが、 「特にない」としている企業も従業員規模1,000人以上の企業において42.1%、300〜999人規模企業において48.0%、100〜299人規模企 業において55.7%、99人以下規模企業において65.6%である。
○いわゆる「自爆営業」について(「規制改革実施計画」(令和6年6月 2 1 日 閣議決定)(抄))→U 実施事項 3.良質な雇用の確保、高生産性産業への労働移動 (1)良質な就労の確保 3「自爆営業」の根絶【a,c,d,e:令和6年度措置、b:令和6年度検討開始】
参照。
○ILOの「仕事の世界における暴力及びハラスメントの撤廃」に関する条約・勧告 (第190号条約/第206号勧告)について→2019年6月のILO総会で「仕事の世界における暴力及びハラスメントの撤廃」に関する条約(第190号)及び勧告(第206号)が採択された。
条約の主な内容 参照。

次回は新たに「児童虐待防止対策部会(第5回)」からです。

第 79 回 労働政策審議会雇用環境・均等分科会 [2025年01月29日(Wed)]
第 79 回 労働政策審議会雇用環境・均等分科会(令和6年 12 月 26 日)
<議題> 女性活躍推進及びハラスメント対策について
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_48022.html
◎資料 女性活躍の更なる推進及び職場におけるハラスメント防止対策の強化について(案)
I.はじめに→○ 少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少やグローバル規模での競争が激化する中で、そうした変化に対応できる豊かで活力ある社会を実現するために、多様な労働者がその能力を十分に発揮して活躍できる就業環境の整備を図ることが重要な課題となっている。 ○ こうした中で、女性の職業生活における活躍を推進するため、平成 27 年に「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(平成 27 年法律第 64 号。以下「女性活躍推進法」)が制定された。その後の法令改正を経て、現在は、常時雇用する労働者の 数が 101 人以上の企業に、一般事業主行動計画の策定・届出が義務付けられているほか、令和4年7月以降は、常時雇用する労働者の数が 301 人以上の企業に、男女間賃金 差異の情報公表が義務付けられている。 ○ この女性活躍推進法に基づく取組をはじめとして、各種の取組が進む中で、我が国に おける男女間賃金差異は長期的に縮小傾向にあるが、国際的に見れば依然として差異が大きい状況にある。また、男女間賃金差異の大きな要因の1つとされる管理職に占める 女性の割合についても、長期的には上昇傾向にあるが、こちらも国際的に見れば依然として低い水準に留まっている。女性活躍推進法は、10 年間の時限立法であり、令和8年 3月末にその期限を迎えることとなるが、こうした状況に鑑みれば、なお課題が残るところであり、女性活躍の更なる推進が求められている。 ○ また、職場におけるハラスメントは、労働者の尊厳や人格を傷付け、職場環境を悪化 させる、あってはならないものであり、これまでも、セクシュアルハラスメントの防止 に係る事業主による措置の義務付けをはじめとして、順次対策の強化が図られてきた。 令和元年には、パワーハラスメントの防止に係る措置が事業主に義務付けられたほか、 同年6月の ILO 総会において「仕事の世界における暴力及びハラスメントの撤廃」に関 する条約(第 190 号)が採択されるなど、国際的にも対策の進展が見られる。 ○ 一方で、都道府県労働局へのハラスメントに係る相談件数の状況を見ると、依然高止 まりしている状況にある。また、近年、顧客、取引先等からの著しい迷惑行為であるカスタマーハラスメントや、就職活動中の学生等に対するセクシュアルハラスメントが社 会的に問題となっており、更なる対策の強化を図り、全ての労働者が活躍することので きる就業環境を実現していくことが求められている。 ○ 当分科会では、これらの問題意識の下、本年9月以降、女性の職業生活における活躍 の更なる推進及び職場におけるハラスメント防止対策の強化について議論を行い、その 結果を以下のとおりとりまとめたので報告する。この報告を受けて、厚生労働省におい て、法的整備も含め、所要の措置を講ずることが適当であると考える。

II.必要な対応の具体的な内容
1.女性の職業生活における活躍の更なる推進
⑴.女性活躍推進法の延長
→○ 女性活躍推進法については、未だその役割を終えたといえる状況にはなく、引き 続き女性の職業生活における活躍を推進するための取組を継続するため、期限を 10 年間延長した上で、以下に述べる見直しを行うことで実効性の向上を図り、更なる 取組の推進を図ることが適当である。
⑵.中小企業における取組の推進→○ 常時雇用する労働者の数が 100 人以下の企業については、一般事業主行動計画の 策定の努力義務を引き続き維持した上で、自主的な取組を促進するため、取組の好 事例やメリットの周知を図るほか、企業に対するコンサルティング、支援ツールの 提供等、支援策の充実を図ることが適当である。
⑶.女性の職業生活における活躍に関する情報公表の充実@ 男女間賃金差異の情報公表の拡大⇒○ 男女間賃金差異については、指標の大小それ自体のみに着目するのではなく、 要因の分析を行い、課題を把握し、改善に向けて取り組んでいくことが重要であ ることから、支援策の充実や事例の共有等を通じて、企業によるこれらの一連の 取組を促すとともに、「説明欄」の活用例の充実を図ることなどによりその更なる 活用を促していくことが適当である。 ○ また、こうした支援の充実に加えて、男女間賃金差異の情報公表の意義や効果 について分かりやすく十分な周知を行うことで、中小企業における取組の裾野を 着実に広げていくことと併せて、常時雇用する労働者の数が 101 人以上 300 人以 下の企業においても、男女間賃金差異の情報公表を義務とすることが適当であ る。 A 女性管理職比率の情報公表の義務化等⇒○ 女性管理職比率は、男女間賃金差異の大きな要因の1つであるというだけでな く、女性の評価や登用の公正性や、後進の女性のロールモデルが存在するかとい ったキャリア形成の実態を表す指標でもあり、女性の職業選択に資する情報であ ることから、@と同様企業に対する必要な支援を行うとともに、その公表を義務 とし、女性管理職比率の向上に向けた取組を促していくことが適当である。その 際、義務の対象範囲については、一般事業主行動計画の策定が義務付けられてい る常時雇用する労働者の数が 101 人以上の企業とすることが適当である。 ○ 併せて、女性管理職比率の情報公表に当たって、女性管理職の状況の的確な把 握を可能とするため、女性管理職比率について新たに「説明欄」を設けた上で、 追加的な情報公表を行うことが可能である旨を示すほか、男女それぞれの労働者数を分母とし、男女それぞれの管理職数を分子とする男女別管理職登用比率を、 参考値として記載することが望ましい旨を示すことが適当である。 ○ また、女性管理職比率の情報公表を義務とするに当たっては、不適正な計上を防ぐための一層の対策が求められることから、上記の「説明欄」に、厚生労働省 が示している「管理職」の定義に沿うものである旨及び実際に計上している各企 業の役職名を明記することが望ましい旨を示すことが適当。その際、「説明欄」への記載が煩瑣なものとならないような記載方法を示すことが適当である。 B 情報公表必須項目数⇒○ @及びAの見直しを行う場合、常時雇用する労働者の数が 301 人以上の企業については男女間賃金差異及び女性管理職比率を含め少なくとも4項目の情報公表 が義務付けられることとなり、常時雇用する労働者の数が 101 人以上 300 人以下 の企業については男女間賃金差異及び女性管理職比率を含め少なくとも3項目の情報公表が義務付けられることとなる。 これを踏まえると、いずれの企業規模の企業においても、情報公表しなければ ならない項目の総数が現在よりも増加することとなることから、現在任意の項目 から選択して公表しなければならないとされている情報公表項目の数については、維持することが適当である。 ○ なお、現在状況把握の任意項目とされている事項を基礎項目とすることや、基礎項目に関連する事項の情報公表を義務付けるべきという意見も見られたが、基礎項目は、事業主が抱えることの多い課題の有無の指標となるものとして、全ての事業主において状況把握及び課題分析を行うことが求められる項目として位置 付けられているのに対して、任意項目は、そうした状況把握や課題分析の結果事 業主にとって課題であると判断された事項について、各事業主が更に原因分析を 深めるに当たって必要に応じて活用すべき項目として位置付けられているものである。 これを踏まえ、引き続きこうした考え方を丁寧に周知し、各事業主の実情に応 じた取組を促すとともに、事業主行動計画策定指針(平成 27 年内閣官房・内閣府・総務省・厚生労働省告示第1号)に記載されているとおり、公表範囲そのも のが事業主の女性活躍推進に対する姿勢を表すものとして求職者の企業選択の要 素となることに留意が必要である旨を周知し、積極的な情報公表を促していくこ とが適当である。 C 「女性の活躍推進企業データベース」の活用強化⇒○ 女性の職業選択に資することを目的とする情報公表の実効性を高めるととも に、企業の取組を促進する観点から、常時雇用する労働者の数が 101 人以上の企業については、情報公表を行うに当たって、「女性の活躍推進企業データベー ス」を利用することが最も適切であることを示すことが適当である。
○ また、国は、「女性の活躍推進企業データベース」の認知度が必ずしも高くないなどの課題の解消に取り組むことが適当である。
⑷.職場における女性の健康支援の推進⇒○ 男女の性差を踏まえ、特に職場における女性の健康支援の取組を促すことが必要である一方、健康に関してはプライバシー保護が特に求められることも踏まえる必 要があることから、以下の考え方に沿って事業主行動計画策定指針を改正することとし、企業が一般事業主行動計画を策定する際に女性の健康支援に資する取組を盛り込むことを促すことが適当。 @.状況把握・課題分析や数値目標の設定の対象としてはなじまないことから、これらの対象としては位置づけないこと。 A.女性の職業生活における活躍の推進に資するものであることから、事業主行動計画策定指針に新たに「女性の健康課題に係る取組例」を示すこととし、職場におけるヘルスリテラシー向上のための取組、休暇制度の充実、女性の健康課題を相談しやすい体制づくり等の取組の具体例を示すこと。その際、性別を問わず使 い易い特別休暇制度の整備等、女性だけでなく労働者全体を対象として取り組むことも有効である旨を明記すること。 B.情報公表の対象としては、現在 16 項目ある情報公表項目の1つとして位置づけるのではなく、「その他」として事業主が任意に公表することができることとされている、「女性労働者の職業生活に関する機会の提供に資する社内制度の概要」又は「労働者の職業生活と家庭生活との両立に資する社内制度の概要」として取り扱うこととすること。 ○ 併せて、女性の健康支援について、法律の理念等に位置付けを与えることが適当である。
⑸.えるぼし認定制度の見直し⇒ @ えるぼし認定基準の見直し
→ ○ 現行のえるぼし認定1段階目の要件として、5つの基準のうち該当しない事項 について2年以上連続して実績が改善していることを求めることが掲げられてい るが、この要件が満たせずに1段階目の認定を諦めている企業があると考えられ ることから、認定制度は実績を評価するものであるということに留意しつつ、当 該要件を見直すことが適当である。 A えるぼしプラス(仮称)の創設→○ ⑷.と相まって、職場における女性の健康支援に積極的に取り組む企業のインセンティブとなるよう、くるみん認定制度における不妊治療に関するプラス認定 も参考にしつつ、えるぼし認定制度において、女性の健康支援に関するプラス認定の仕組みを設けることが適当である。

2.職場におけるハラスメント防止対策の強化
⑴.職場におけるハラスメントを行ってはならないという規範意識の醸成
→○ ハラスメント対策に総合的に取り組んでいく必要があることから、雇用管理上の 措置義務が規定されている4種類のハラスメントに係る規定とは別に、一般に職場 におけるハラスメントを行ってはならないことについて、社会における規範意識の 醸成に国が取り組む旨の規定を、法律に設けることが適当である。 ○ また、ハラスメント対策の強化は、性別を問わず誰もが活躍するために必要不可 欠であり、女性活躍の推進に当たってもその基盤となるものであることから、女性 活躍推進法の基本方針に定めるべき事項としてハラスメント対策を法律上も明確に 位置づけた上で、基本方針に明記することが適当である。
⑵.カスタマーハラスメント対策の強化→ @ 雇用管理上の措置義務の創設⇒○ カスタマーハラスメントは労働者の就業環境を害するものであり、労働者を保 護する必要があることから、カスタマーハラスメント対策について、事業主の雇 用管理上の措置義務とすることが適当である。 ○ その上で、現行法に規定されている4種類のハラスメントの例に倣い、対象と なる行為の具体例やそれに対して事業主が講ずべき雇用管理上の措置の具体的な 内容は、指針において明確化することが適当である。 ○ また、カスタマーハラスメント対策を進めるに当たっては、中小企業を含め、 足並みを揃えて取組を進める必要があることから、国が中小企業等への支援に取 り組むことが適当である。 ○ さらに、業種・業態によりカスタマーハラスメントの態様が異なるため、厚生 労働省が消費者庁、警察庁、業所管省庁等と連携することや、そうした連携を通 じて、各業界の取組を推進することが適当である。 A カスタマーハラスメントの定義→○ カスタマーハラスメントの定義については、「雇用の分野における女性活躍推進 に関する検討会報告書」(令和6年8月8日)において示されている考え方を踏ま え、以下の3つの要素をいずれも満たすものとし、それぞれについて以下に掲げ る事項を指針等で示すことが適当である。その際には、実態に即したものとする ことが適当である。 @.顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行うこと。 ・「顧客」には、今後利用する可能性がある潜在的な顧客も含むと考えら れること。 ・「施設利用者」とは、施設を利用する者をいい、施設の具体例として は、駅、空港、病院、学校、福祉施設、公共施設等が考えられること。 ・「利害関係者」は、顧客、取引先、施設利用者等の例示している者に限 らず、様々な者が行為者として想定されることを意図するものであり、法令上の利害関係だけではなく、施設の近隣住民等、事実上の利害関係がある者も含むと考えられること。 A.社会通念上相当な範囲を超えた言動であること。 ・ 権利の濫用・逸脱に当たるようなものをいい、社会通念に照らし、当該 顧客等の言動の内容が契約内容からして相当性を欠くもの、又は、手段・ 態様が相当でないものが考えられること。 ・ 「社会通念上相当な範囲を超えた言動」の判断については、「言動の内 容」及び「手段・態様」に着目し、総合的に判断することが適当であり、 一方のみでも社会通念上相当な範囲を超える場合もあり得ることに留意が 必要であること。 ・ 事業者又は労働者の側の不適切な対応が端緒となっている場合もあるこ とにも留意する必要があること。 ・ 「社会通念上相当な範囲を超えた言動」の具体例。また、性的な言動等 が含まれ得ること。 B.労働者の就業環境が害されること。 ・ 労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものと なったために能力の発揮に重大な悪影響が生じるなどの、当該労働者が就 業する上で看過できない程度の支障が生じることを意味すること。 ・ 「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、「同様の状況で当該言動を受け た場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が 生じたと感じるような言動であるかどうか」を基準とすることが適当であ ること。 ・ 言動の頻度や継続性は考慮するが、強い身体的又は精神的苦痛を与える 態様の言動の場合は、1回でも就業環境を害する場合があり得ること。 B 上記のほか指針等において示すべき事項⇒○ 指針等においては、事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起 因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労 働省告示第5号。以下「パワーハラスメント防止指針」という。)等の内容を踏ま えつつ、カスタマーハラスメントの行為者が顧客や取引先等の第三者であるとい うことを考慮した上で、以下のような事項を示すことが適当である。 @.総論 ・ 顧客等からのクレームの全てがカスタマーハラスメントに該当するわけで はなく、客観的にみて、社会通念上相当な範囲で行われたものは、いわば「正当なクレーム」であり、カスタマーハラスメントに当たらないことに留意する 必要があること。 ・ カスタマーハラスメント対策を講ずる際、消費者法制により定められている消費者の権利等を阻害しないものでなければならないことや、障害を理由と する差別の解消の推進に関する法律(平成 25 年法律第 65 号)に基づく合理的 配慮の提供義務を遵守する必要があることは当然のことであること。 ・ 各業法等によりサービス提供の義務等が定められている場合等があること に留意する必要があること。 ・ 事業主が個別の事案についての相談対応等を行うに当たっては、労働者の 心身の状況や受け止めなどの認識には個人差があるため、丁寧かつ慎重に対応 をすることが必要であること。 A.講ずべき措置の具体的な内容 ・ 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発 ・ 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備 ・ カスタマーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応(カスタマーハラスメントの発生を契機として、カスタマーハラスメントの端緒となった商品やサービス、接客の問題点等が把握された場合には、その問題点等そのも のの改善を図ることも含む。) ・ これらの措置と併せて講ずべき措置
C 他の事業主から協力を求められた場合の対応に関する規定⇒○ セクシュアルハラスメントに係る雇用の分野における男女の均等な機会及び待 遇の確保等に関する法律(昭和 47 年法律第 113 号)第 11 条第3項の規定に倣い、カスタマーハラスメントについても、事業主は、他の事業主から当該事業主 の講ずる雇用管理上の措置の実施に関し必要な協力を求められた場合には、これ に応ずるように努めなければならない旨を法律で規定することが適当である。 ○ また、事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講 ずべき措置等についての指針(平成 18 年厚生労働省告示第 615 号。以下「セク シュアルハラスメント防止指針」という。)に倣い、カスタマーハラスメントに ついても、事業主が、他の事業主から雇用管理上の措置への協力を求められたこ とを理由として、当該事業主に対し、当該事業主との契約を解除する等の不利益 な取扱いを行うことは望ましくないものであることを、指針等に明記することが 適当である。 ○ さらに、協力を求められた事業主は、必要に応じて事実関係の確認等を行うこ とになるが、その際に協力した労働者に対して不利益取扱いを行わないことを定 めて労働者に周知することや、事実関係の確認等の結果、当該事業主の労働者が 実際にカスタマーハラスメントを行っていた場合には、就業規則等に基づき適正 な措置を講ずることが望ましい旨を、指針等に明記することが適当である。 D カスタマーハラスメントの防止に向けた周知・啓発⇒○ カスタマーハラスメントの防止に向けて、国は、消費者教育施策と連携を図り つつ、カスタマーハラスメントを行ってはならないことについて周知・啓発を行う ことが適当である。
⑶.就活等セクシュアルハラスメント対策の強化→ @ 雇用管理上の措置義務の創設⇒ ○ 就職活動中の学生をはじめとする求職者に対するセクシュアルハラスメントの 防止を、職場における雇用管理の延長として捉えた上で、事業主の雇用管理上の 措置義務とすることが適当である。 ○ 事業主が講ずべき雇用管理上の措置の具体的な内容については、セクシュアルハラスメント防止指針の内容を参考とするほか、例えば以下の内容を、指針にお いて明確化することが適当である。 ・ 事業主の方針等の明確化に際して、いわゆる OB・OG 訪問等の機会を含めその 雇用する労働者が求職者と接触するあらゆる機会について、実情に応じて、面 談等を行う際のルールをあらかじめ定めておくことや、求職者の相談に応じら れる窓口を求職者に周知すること ・ セクシュアルハラスメントが発生した場合には、被害者である求職者への配 慮として、事案の内容や状況に応じて、被害者の心情に十分に配慮しつつ、行 為者の謝罪を行うことや、相談対応等を行うことが考えられること ○ 就職活動中の学生をはじめとする求職者に対するパワーハラスメントに類する 行為等については、どこまでが相当な行為であるかという点についての社会的な 共通認識が必ずしも十分に形成されていない現状に鑑み、パワーハラスメント防 止指針等において記載の明確化等を図りつつ、周知を強化することを通じて、そ の防止に向けた取組を推進するとともに、社会的認識の深化を促していくことが 適当である。 A 求職者に対する情報公表の促進⇒ ○ 昨今の就職活動のあり方は多様であるため、@に基づき事業主が講ずる雇用管 理上の措置の内容もそれに応じて多様なものとなることが想定されるところ、その内容を求職者に対して積極的に公表することは、セクシュアルハラスメント防 止に資するものであり、また、職業生活を営もうとする女性の職業選択に資する ものでもあることから、措置の内容を公表していることをプラチナえるぼし認定 の要件に位置づけることが適当である。
⑷.パワーハラスメント防止指針へのいわゆる「自爆営業」の明記→ ○ いわゆる「自爆営業」に関して、職場におけるパワーハラスメントの3要件を満 たす場合にはパワーハラスメントに該当することについて、パワーハラスメント防 止指針に明記することが適当である。

次回も続き「参考資料」からです。

第24回社会保障審議会年金部会 [2025年01月28日(Tue)]
第24回社会保障審議会年金部会(令和6年12月24日)
議事 社会保障審議会年金部会における議論の整理(案)について
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/nenkin_20241224.html
◎参考資料2 年金制度改革に向けた提言(令和6年 12 月 18 日 自由民主党政務調査会 社会保障制度調査会 年金委員会・医療委員会)
世界有数の長寿国であるわが国において、高齢期の生活の基本を支えている公的年金制度が、社会経済の変化に対応した時代に合った制度にしていくこと、また、長期的に安定してその役割を果たし続けられるようにすることは、重要な課題である。 当委員会は、本年7月に厚生労働省から発表された令和6年財政検証結果も踏まえ、被用者保険の適用拡大の関係 15団体からの意見も聴取しながら、公的年金制度の今後の方向性を中心に精力的に議論を進めてきた。今般、政府は以下の諸 点を踏まえて公的年金制度等の改革を進めるよう提言する。
     記
T.働き方やライフスタイルに中立的な社会保障制度の構築
1.被用者保険の適用拡大
→被用者保険の適用拡大は、厚生年金の適用対象となった者にとって、定額の基 礎年金に加えて、報酬比例給付による保障を受けられるようになり、年金給付が 充実するため、老後の所得保障の強化に繋がる政策として重要である。 したがって、いわゆる「106 万円の壁」と言われる賃金要件の撤廃、企業規模 要件(従業員50 人超)の撤廃、常時5人以上の従業員を使用する個人事業所にお ける非適用業種の解消を実現すべきである。 一方で、適用拡大は事業者の負担増加につながることから、当委員会では本年 11 月に関係 15 団体から意見を聴取した。関係団体からは、人材不足に対応する 観点から概ね理解を示す声も多かった一方で十分な準備期間を設けるなど丁寧な 対応を求める声もあった。これを踏まえ、適用拡大に当たっては、十分な準備期 間を確保するとともに、事業主の負担を軽減するために必要な支援策について検 討すべきである。 なお、更なる適用拡大に際しては国民健康保険制度の在り方などに留意しなが ら検討すべきである。
2.いわゆる「年収の壁」への対応→いわゆる「年収の壁」への制度的な対応については、従業員と事業主の合意に 基づいて、任意かつ時限的に事業主が負担割合を増加させて、被保険者の保険料 負担を軽減する特例を設ける提案がある。この特例は、就労調整を考える方の手取り収入の減少を緩和することで、壁を乗り越えて希望に応じて働く環境を整え ることに繋がるメリットがある一方で、労働者の負担の軽減分を事業主が負担す ることになるため、経営体力が弱い中小企業には使いづらく、人材確保の面で不 利になるという指摘がある。したがって、この特例を導入する場合には、事業主 の負担を簡素で公平な仕組みによって軽減することを検討すべきである。
3.在職老齢年金制度→在職老齢年金制度については、高齢者の就業が拡大しており、働き方に中立的 な仕組みとする観点から見直すべきである。一方で、見直しにともなって年金財 政からの支出が増加し、将来世代の給付水準に影響が及ぶ可能性があることから、 将来的な制度の廃止を視野に入れつつ、まずは支給停止の基準額を引き上げるべ きである。
4.子のない 20 代から 50 代までの遺族厚生年金制度の見直し→遺族厚生年金については、男女差を解消する観点から、子のない 20 代から 50 代までの遺族厚生年金について5年の有期給付とする方向性は適当だが、有期給 付化によって影響がある方に十分に配慮するよう求めてきた。これを受けて、現 在の案では、有期給付化に伴う配慮措置として、5年経過後も就労が困難で引き 続き配慮が必要な方には給付を継続する方向性が新たに示されたところであり、 当委員会としてもこの方針で検討すべきである。 引き続き、複雑で分かりづらいと言われる遺族厚生年金の見直しの趣旨につい て国民に丁寧に説明していくとともに、現在の受給者や高齢者、子のある場合に おける遺族厚生年金制度に変更が無いことについても周知していくべきである。
5.標準報酬月額の上限の見直し→標準報酬月額の上限は、負担能力に応じた負担を求める観点から引き上げるべ きである。その際、被保険者にとって保険料負担が増加することのみに注目され ることがないよう、将来の給付が増加することについてもしっかり周知していくべきである。

U.基礎年金の給付水準の向上
6.基礎年金のマクロ経済スライドの早期終了
→基礎年金については、給付水準を将来にわたって極力維持することが重要であ る。 今夏の財政検証において、成長型経済移行・継続ケースによれば、現行制度に 加え、1の適用拡大を行う場合は将来の所得代替率が 59.3%を確保できることが 確認されている。政府・与党は「成長型経済」への移行を目指し取り組みを進め ているところであり、その移行、継続の実現こそ重要である。 その上で、厚生労働省が提案している基礎年金のマクロ経済スライドの調整期間の早期終了は、今後の経済が好調に推移しないリスクシナリオが実現する場合 に発動されうる備えとして位置付けられるべきである。この場合の実施に伴う国 庫負担の増加については、安定財源を確保すべきである。また、こうした厚生労 働省案の位置付けの見直しについて、関係各方面から理解が得られるよう丁寧に 説明をつくすべきである。 なお、更なる基礎年金の給付水準の向上を図る観点からは、令和2年年金改正 法の審議における附帯決議で求められた基礎年金加入期間の 45 年への延長も、今 後の政策の選択肢として引き続き検討を続けるべきである。

V その他事項について→○ 公的年金制度や私的年金制度に対する国民の信頼感の向上を図るため、将来 受給できる年金額の見える化をさらに進めるなど国民の目線に立った分かりや すい年金制度の広報を実施していくべきである。 ○ 子に係る加算について、多子世帯の年金受給者の保障を強化する観点から、 第3子以降の子の加算額を、第1子及び第2子に対する額と同額まで引き上げ る等支援を拡充していくべきである。 ○ 私的年金制度については、公的年金制度と相まって老後の所得保障の充実を 図るものであることから、多様な働き方やライフコースに対応した制度設計を 行いながら、より多くの方に利用していただける環境を整備する必要がある。 また、成長と分配の好循環を実現する「資産運用立国」においても私的年金に 期待される役割は大きい。このため、iDeCo の加入可能年齢の上限の引き上げ や、拠出限度額の引き上げ、企業年金の運用の見える化、中小企業の私的年金 活用のための環境整備などの取り組みを行うべきである。

W.今後の課題について 今後の少子高齢化社会に対応し、持続可能な社会保障制度とするためにも日本社会にとって、経済成長は必要不可欠である。年金制度は経済財政の状況と密接 な関係があることから、日本経済を「成長型の新たな経済ステージ」へと移行させていく中で、今後も持続的な賃上げ等により経済成長に繋がる取り組みを続けていくとともに、年金制度においても、その時々の社会経済の状況等を踏まえ不 断の改革を行っていくことが必要である。             (以上)


◎参考資料3 次期年金制度改正に向けた提言(令和6年 12 月6日 公明党年金制度委員 会・厚生労働部会)
公明党はこれまでも、
持続可能で安心できる年金制度の確立に向け、力を 尽くしてきた。 次期年金制度改正に向けて、令和 6年財政検証の結果及び平均寿命・健康寿 命の延伸、家族構成やライフスタイルの多様化、女性・高齢者の就業の拡大、 今後見込まれる最低賃金の上昇・持続的な賃上げといった社会経済の変化を 踏まえ、働き方に中立的な制度を目指すともに、ライフスタイル等の多様化 を年金制度に反映しつつ、高齢期の経済基盤の安定や所得保障・再分配機能 の強化を図るべきである。 そのうえで、物価高が続く中で、多くの国民が「手取りの増加」を強く望 んでいることを十分考慮し、下記の要望をはじめ、誰もが安心できる年金制 度の確立に取り組まれるよう強く要請する。   記 ↓
○被用者保険の適用拡大、いわゆる「年収の壁への対応」について→・労働者が働き方にかかわらず、ふさわしい社会保障を享受できる環境を整 えるため、被用者保険の更なる適用拡大を実現すること。その際には、事業所における事務負担や経営への影響、保険者の財政や運営への影響等に留意し、必要な配慮措置や支援策の在り方について検討を行うこと。 ・特に、配偶者の扶養の範囲内(年収 130 万円未満)で働いている方や、事業主に新たに保険料負担が発生することを踏まえ、被用者保険加入のメリットを周知するとともに、十分な施行期間を確保するなど、中小企業や個 人事業所でも円滑に導入が進むよう、丁寧な対応を行うこと。 ・また、働き控えの要因と指摘されている「130 万円」などの「年収の壁」に ついて、被用者として週 20 時間以上働いている方が被用者保険に加入しな がら、誰もが壁を意識せずに働くことが可能となるような制度設計を行う こと。
○在職老齢年金制度の見直しについて→・働き方に中立的な仕組みを目指し、また、一部の業界で高齢化や人手不足 の状況が見られる中、働く意欲のある高齢者の就業を促進するため、在職 老齢年金の見直しを進めること。
○所得保障・再分配機能の強化について→・標準報酬月額上限を引き上げ、負担能力に応じた負担を求めることで、対 象者の厚生年金の給付水準を引き上げるとともに、所得再分配効果により 低年金者を含む全体の給付水準を底上げすること。 ・また、基礎年金のマクロ経済スライドによる給付調整を早期終了(調整期間の一致)し、所得代替率の低下を防ぐとともに、基礎年金の給付水準の 底上げに取り組むこと。あわせて、将来の安定的な財源確保についても検 討すること。
○私的年金制度の見直しについて→・iDeCo の加入可能年齢について、長期的な老後資産の形成を促進するとともに、働き方に中立的かつ加入者にとってシンプルで分かりやすい制度とするため、60 歳以上 70 歳未満の iDeCo を活用した老後の資産形成を継続 しようとする者に iDeCo の加入・継続拠出を認めること。 ・企業年金の実施主体や加入者等が企業年金の運営を改善し、企業年金の加 入者の利益となるよう、厚生労働省が情報を集約し、企業年金の運用等の 情報開示(見える化)を行うこと。 ・中小事業主の私的年金の活用を促進するため、制度の整備を行うこと。
○その他改革すべき事項等について→・女性の就業の進展、共働き世帯の増加等の社会経済状況の変化を踏まえて、 高齢期より前の遺族厚生年金について、支給要件や加算制度といった制度上の男女差を解消すること。その際、給付期間が短縮される方などが発生する場合は、時間をかけて段階的に移行するとともに、就労が困難な事情にある方にも十分に配慮した制度とすること。 ・また、離婚や再婚といった子どもを取り巻くライフスタイルの多様化、子ども・子育てを経済的に支援する観点から、親と同居する子に対して新たに遺族基礎年金を支給することや、子を有する年金受給者の子の加算の充 実、子の加算の充実に伴う配偶者の加給年金の見直しを行うこと。             以上


◎参考資料4 年金広報活動の ISSA Good Practice Award 特別優秀賞の受賞について(報告)
○年金広報活動のISSA Good Practice Award 特別優秀賞の受賞について
→厚生労働省の年金広報の取組が、国際社会保障協会(ISSA)のアジア・太平洋地域社会保障フォーラムにおいて、 ISSA Good Practice Award Asia and the Pacific 2024の特別優秀賞と優秀賞を受賞した。アワードには、アジア太平 洋地域21か国・地域の34の政府機関から187件の応募があり、その中から、厚生労働省年金局の「公的年金シミュ レーター」が特別優秀賞、「社会保険適用拡大特設サイト」が優秀賞を受賞。厚生労働省の年金広報活動は、2021年 に若者向け年金広報に関して初めてISSA Good Practice Award特別優秀賞を受賞し、今回は二度目の受賞。

○受賞の対象となった広報活動について→今回のアワードでは、「公的年金シミュレーター」や、社会保険適用拡大の周知のための特設サイト、人気インフル エンサー「QuizKnock」と共同で制作した年金クイズ動画や教材などのコンテンツ及びこれらを活用した周知広報の 取組が高く評価された。


◎年金部会資料       慶應義塾大学 駒村康平
1.出生年別の比較と特徴
(1)1974 年生まれ(団塊ジュニア世代、氷河期世代、ロストジェネレーション)の特徴

1)人口が多い、未婚率が高い(子どもの支援を受ける可能性が低い)、現役期間に極めて不利な経済状況、を経験した。 参考表 1,表 2,表 3、表 4
2)年金給付額は、現役時代におけるキャリア・収入によって決まる(積分)。瑕疵効果(新卒時点の不利さ=微分)が現在、かなり解消され たからといって、その間に形成された年金額((期額額)が改善されるわけではない。(このほか金融資産形成((iDeCo、NISA)、持ち家状況等も勘案する必要がある。) 参考:清家篤「厚生年金に加入していたとしても、現役時代の平均給料は高くはありません。貧しい高齢者となる可能性も高いのです。」「2040 年問題に備える」↓
https://www.jamp.gr.jp/wp-content/uploads/2019/12/128_07.pdf
3)1974 年以降生まれの世代の年金額が 1954 年生まれの年金額と遜色ないように見えるのは、年金の加入期間が 10%近く伸び、厚生年金の 給付額が積み上がるためである。(基礎年金は「45 年化」が見送られたためそうした効果がない)
4)年金額の世代別分布シミュレーションは、将来の労働力率の上昇トレンドと整合性があるように行われたが、実際に 1974 年生まれ世代 (団塊ジュニア世代)以降の多くが 60 歳、65 歳以降も就業を継続できるかは、親世代(団塊世代(現在 75 歳以上、2040 年には 90 代になる。2020 年の最頻死亡年齢は男性 89 歳、女性 93 歳、今後の寿命の伸長も考慮)の介護負担(介護離職)によるところがある。介護・労働 政策の強化が前提になる。
表 1 過去 30 年ケース  
出典:「令和 6 年年金財政検証」、日本の将来人口推計(令和 5 年)より作成
参考表 1
表 1-2 初職が正規雇用だった割合
表 1-3 最初の勤め先が従業員数 300 人以上の大企業だった割合 
出所:社研パネル調査より筆者作成
出典:近藤絢子(2024)『就職氷河期世代―データで読み解く所得・家族形成・格差』中公新書
表 1-4 初職を 3 年以内に離職した割合 出所:社研パネル調査より筆者作成
出典:近藤絢子(2024)『就職氷河期世代―データで読み解く所得・家族形成・格差』中公新書


2.既裁定の基礎年金額の見通し。(月額 万円 物価で割引済み)「過去 30 年ケース」
出典:「令和 6 年年金財政検証」よる作成

3.90 年代前半そしてそれ以降の世代が経験した社会経済状況の責任と帰結
1)バブル崩壊にともなう急激な景気後退のなかでの就職活動、就業構造の変化(非正規労働者の増加)を経験した団塊ジュニア世代(1971 年から 1974 年生まれ)、氷河期世代((=1993 年に大学を卒業から 2005 年に高校を卒業)、失われた((ロストジェネレーション)世代((1972- 1982 年生まれ)に対して適切・十分な政策を行ってきたか?
2)「失われた世代等(不利な期間を長く経験した世代)」の老後」に対する対応をしなくていいのか? 「不利な世代」に対する社会の責任は? バブル崩壊以降の雇用システムの急激な変更とその帰結に関する政・労・使の責任は?

@ 政府の責任(戸苅利和(元厚労事務次官)) 「90 年代半ばの当時は非常に厳しい雇用情勢になってきて、何らかの手を打たないと労働市場に大量に失業者が発生してしまうのではな いかと思った。不幸な場合にはずっと就職できずに失業状態が延々と続いてしまうことになるということを懸念しました」 その背景にあったのが1990年代後半からの混沌とした社会情勢。国際競争が激しくなる一方で、国内ではバブル崩壊や証券会社の経営 破綻などの金融危機、さらにはアジア通貨危機も発生し、失業率はそれまでの2%程度から5%近くへ上昇した。時代はいわゆる就職氷河期 に突入し、団塊ジュニア世代がこれまでのような就職活動ができなくなったことが危機感を募らせたきっかけだったと振り返る。 経済が停滞するなかで、政府は規制緩和・市場主義路線への転換で、企業の競争力を高め、個人の自立を求めるようになり、労働分野でも 職業紹介や派遣労働の自由化を求める声が出始めていたという。 (「労働者保護を重視する労働省内では反対の声は根強かったが、市場では違法派遣≠ェ横行する実態もあり、現実と制度の乖離が出始め ていた」、と語る。 高梨昌(信州大学名誉教授) 「規制緩和の流れの中で行われたことだと思うのですね。その結論の見通しが甘かったことは間違いない」
A 労働組合の責任(久川博彦(元)連合労働対策局長)) 「当時の連合として重要視したのは雇用をいかに守るか、完全失業率を抑えていくかでしたが、基本的に我々は、正規の安定的な雇用を企業 に求めていて、その軸については変わらなかった。使い勝手のいい労働者がどんどん生まれていくことに歯止めをかけたいという思いが強か った」、「能力開発を含めて非正規の問題は大事と思って議論はあったが、運動の優先順位は高くなかった。労使ともに見過ごしていた……」
B 経済界の責任(成瀬健生(元日経連常務理事)) (「非正規社 が、日経連の報告書を出してから、急速に何か増えた感じがしまして、フォローアップの調査をやったんですけども、毎年毎 年、何かすごく増えていく。本当に予想外。最初は、家庭の主婦とか学生アルバイトとかいろんな形の非正規を入れても、15%かそこいらだ ったのが、20%になり 30%になり、それも約 40%までいきましたからね。これはもう我々もちょっと身震いがしました。こんなんでいいのかなと……」
出典:NHK スペシャル取材班(2023)『中流危機』講談社現代新書(pp83-100)

4.社会政策(=不条理をなるべく小さくして、荒んだ社会を防ぎ、社会の安定を確保する)の視点から、(「所得保障」としての年金制度を評 価すべきである。
1)基礎年金(老齢、障害、遺族年金)の実質給付水準・額は低下する。
2)基礎年金は所得保障制度の中核的な役割を果たしている。
3)年金制度は改革してから効果が出るの時間を要する。
4)基礎年金へのマクロ経済スライドの長期化は、デフレの長期化に対応できなかった年金制度に課題がある。

5)団塊ジュニア・氷河期世代・失われた世代(ロストジェネレーション)は人口が多いため、社会インパクトも大きい。
6)急激な社会経済構造の変化のなかで、支援が不十分で長期にわたって不利な状況を経験した世代の存在とその老後問題に、社会全体が関 心と責任を持つ必要がある。(世代効果、時代効果、加齢効果を分類して、社会全体として対応すべき問題を抽出する必要がある。)
7)社会経済構造変化(+年金制度の課題)によって著しく不利な期間を経験した世代だけに、コストを負担させるのではなく、そのコスト を多くの世代で分担する必要性がある。 ⇒国庫負担と積立金を考慮した基礎年金拠出金、2040 年以前の受給世代(バブル崩壊(いずれの世代も影響を受けているが)の影響が相対的に小さい世代)の給付水準の調整(12 月 10 日資料 2,p11 の世代間の調整部分)で、2040 年以降受給世代の基礎年金の給付水準の低下 を抑えることは、社会政策上、正当化できる。
8)未婚率の上昇により単身で老後を迎える人が増えてくる世代の不安への想像力の重要性。この問題は、3 号被保険者制度の評価・見直しと 高齢者向け最低保障手当(=年金生活者支援給付金)の意義に関わる。特に今後増大が予想される高齢単身女性の貧困問題とその対応準備に ついては、厚労省全体の課題として十分な調査と関連制度における対応が必要。
参考  わくわくシニアシング 第二回中高年シングル女性の生活状況実態調査↓
https://drive.google.com/file/d/1UI7bDj4tEPv4fArYRtiFBDcpxK7J_vqE/view?usp=drive_link

次回は新たに「第 79 回 労働政策審議会雇用環境・均等分科会」からです。

第24回社会保障審議会年金部会 [2025年01月27日(Mon)]
第24回社会保障審議会年金部会(令和6年12月24日)
議事 社会保障審議会年金部会における議論の整理(案)について
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/nenkin_20241224.html
◎参考資料1 年金制度改正の検討事項
≪令和6年財政検証について≫
○令和6(2024)年財政検証の諸前提→<社会・経済状況に関する諸前提> 財政検証においては、将来の社会・経済状況について一定の前提を置く必要があるが、将来は不確実であるため、幅広い複数のケース を設定している。財政検証の結果についても、複数のケースを参照し幅広く解釈する必要がある。 ※ なお、現行制度に基づく財政検証は、令和6年10月に施行される適用拡大(企業規模要件100人超→50人超)等の影響を織り込んでいる。
⇒<人口の前提><労働力の前提><経済の前提> 参照。

○給付水準の調整終了年度と最終的な所得代替率の見通し(令和6(2024)年財政検証) − 幅広い複数ケースの経済前提における見通し −→足下の所得代替率※(2024年度)61.2%(比例・基礎)。所得代替率(61.2%) =(夫婦2人の基礎年金(13.4) + 夫の厚生年金(9.4))/ 現役男子の平均手取り収入額(37万円) 参照。将来の所得代替率もあり。参照。
○所得代替率及びモデル年金の将来見通し (令和6(2024)年財政検証)
→成長型経済移行・継続ケース(実質賃金上昇率(対物価)1.5%)⇒所得代替率 参照。
○オプション試算の内容↓
1.被用者保険の更なる適用拡大→ @:被用者保険の適用対象となる企業規模要件の廃止と5人以上個人事業所に係る非適用業種の解消を行う場合 (約90万人) A:@に加え、短時間労働者の賃金要件の撤廃又は最低賃金の引上げにより同等の効果が得られる場合 (約200万人) B:Aに加え、 5人未満の個人事業所も適用事業所とする場合 (約270万人) C:所定労働時間が週10時間以上の全ての被用者を適用する場合 (約860万人)
2.基礎年金の拠出期間延長・給付増額→ 基礎年金の保険料拠出期間を現行の40年(20〜59歳)から45年(20〜64歳)に延長し、拠出期間が伸びた分に合わせて 基礎年金が増額する仕組みとした場合
3.マクロ経済スライドの調整期間の一致→ 基礎年金(1階)と報酬比例部分(2階)に係るマクロ経済スライドの調整期間を一致させた場合
4.在職老齢年金制度→ 就労し、一定以上の賃金を得ている65歳以上の老齢厚生年金受給者を対象に、当該老齢厚生年金の一部または全部の 支給を停止する仕組み(在職老齢年金制度)の見直しを行った場合
5.標準報酬月額の上限→ 厚生年金の標準報酬月額の上限(現行65万円)の見直しを行った場合

○(参考) 被用者保険の更なる適用拡大を行った場合の適用拡大対象者数→雇用者全体 (2023年度時点) 5,740万人 ※70歳以上を除く
1.被用者保険の更なる適用拡大を行った場合
2.基礎年金の拠出期間延長・給付増額を行った場合
(参考) 基礎年金の拠出期間延長・給付増額のイメージと試算の前提
3.マクロ経済スライドの調整期間の一致を行った場合
4.65歳以上の在職老齢年金の仕組みを撤廃した場合
5.標準報酬月額の上限の見直しを行った場合
○年金額の将来見通し(令和6(2024)年財政検証 年金額分布推計)→雇用者全体 (2023年度時点) 5,740万人 ※70歳以上を除く⇒年金額(物価上昇率で2024年度に割り戻した実質額)は、実質賃金上昇と、労働参加の進展による厚生年金の加入期間の延伸が上昇要因とな る一方、マクロ経済スライド調整が低下要因となる。成長型経済移行・継続ケースでは、実質賃金上昇率が高いことからマクロ経済スライド調整 期間においてもモデル年金、平均年金額は物価の伸びを上回って上昇し、低年金も減少していく見通し。
年金額の将来見通し(令和6(2024)年財政検証 年金額分布推計)→過去30年投影ケース(実質賃金上昇率(対物価)0.5%)⇒年金額(物価上昇率で2024年度に割り戻した実質額)は、実質賃金上昇と、労働参加の進展による厚生年金の加入期間の延伸が上昇要因とな る一方、マクロ経済スライド調整が低下要因となる。過去30年投影ケースでは、マクロ経済スライド調整期間におけるモデル年金(特に基礎年 金)は物価の伸びを下回るものの、女性の平均年金額は、労働参加の進展に伴う厚生年金の加入期間の延長により物価の伸びを上回って上 昇し、概ね賃金と同等の伸びとなる見通し。低年金も減少していく見通し。

≪令和6(2 024)年財政検証結果を踏まえた今後の 年金制度改正の議論について≫
○令和6(2024)年財政検証結果を踏まえた今後の年金制度改正の議論について
→社会経済の変化、令和6(2024)年財政検証結果⇒見直しの基本的な考え方、対応の方向性を議論。

≪被用者保険の適用拡大≫
○短時間労働者及び非適用業種に対する被用者保険の適用要件の考え方
→@〜➃、常時5人以上の従業員を使用する法定17業種の個人事業所は適用事業所  参照。
○短時間労働者及び個人事業所の被用者保険の適用範囲の見直しの方向性案→労働時間要件、賃金要件、学生除外要件、企業規模要件、個人事業所については?   参照。
○都道府県別週2 0〜3 0時間就業する非正規職員と最低賃金→ 参照。
○短時間労働者の企業規模要件を撤廃した場合のイメージ→【現行制度】⇒労使合意に基づく 任意の適用。【企業規模要件を撤廃した場合】⇒企業規模要件を撤廃した場合に 対象となる者。
○個人事業所に係る被用者保険の適用範囲の見直しイメージ→参照のこと。
○適用拡大に係る配慮措置・支援策について→・「働き方の多様化を踏まえた被用者保険の適用の在り方に関する懇談会」議論の取りまとめを踏まえると、被用者保険の適用拡大 の対象となる事業所について、事務負担の増加や経営への影響等に配慮しつつ、必要な支援策を講じる等、円滑な適用を進められる 環境整備を行うことが必要。 ・具体的には、@準備期間を十分に確保するとともに、A積極的な周知・広報、B事務手続に関する支援や、C経営に関する支援に 総合的に取り組むことを検討する。
○第2 0回年金部会における賃金要件に対するご意見と見直しの方向性案→見直しの方向性案⇒就業調整の基準として意識されていること、最低賃金の引上げに伴い労働時間要件を満たせば本要件を満たす地域や事業所が増加 していることを踏まえ、本要件を撤廃することとしてはどうか。、最低賃金の動向を踏まえつつ、本要件撤廃の時期に配慮してはど うか。また、最低賃金の減額の特例の対象となる賃金が月額8.8万円未満の短時間労働者については、希望する場合に、事業主に 申し出ることで任意に被用者保険に加入できる仕組みとしてはどうか。
○短時間労働者に係る被用者保険の適用要件の見直し案のイメージ→<見直し後>⇒就業調整の基準となる 金額がなくなることで • 年収を意識する必要がなくなる • 賃上げに伴う就業調 整が生じなくなる
○被用者保険の適用拡大の進め方のイメージ→「働き方の多様化を踏まえた被用者保険の適用の在り方に関する懇談会」及び年金部会の議論を踏まえ、以下のような進 め方としてはどうか。 <見直しの方向性> <進め方の考え方>⇒非適用業種の解消  参照。

≪いわゆる「年収の壁」と第3号被保険者制度≫
○いわゆる「年収の壁」への対応策の考え方について
→・いわゆる「年収の壁」については、第3号被保険者が働いて収入が増加すると社会保険料が発生することによって、手取りが減少することを避けるため、就業調整が行われ、希望どおり働くことが阻害されているとの指摘。 ・ いわゆる「年収の壁」を意識せずに働くことが可能となるよう、短時間労働者への被用者保険の適用拡大、最低賃金の引上げに引き 続き取り組む。 ・ 被用者保険の適用拡大の推進に向けた広範かつ継続的な広報・啓発活動を展開する。
○保険料負担割合を変更できる特例についての論点↓
1.労使折半の原則についての論点
→ 健康保険法における負担割合変更とは異なり、組合自治の観点が無いことや、給付の性格として年金では保険料負担が給付に一定の比率で反映さ れるものであること、使用者の保険料拠出による受益の程度の差異等に鑑み、仮に年金制度において保険料負担割合を変更できる制度を導入するとしても、以下のように、時限措置とすることや対象者を被用者保険の適用に伴う「壁」を意識する可能性のある者に限定することにより、引き続き 労使折半を原則としてはどうか。 ・ 当該特例が例外的位置付けであることに加え、社会経済の変化によっては「壁」そのものの認識が変わりうることから、被用者保険の適用拡大の施行状況も勘案した時限措置とする。 ・ 特例の対象を外れるまで長く働く場合も含めて保険料負担による手取りの減少をなだらかにする観点から、保険料負担割合を変更できる特例の 対象標準報酬月額は12.6万円以下とする。
2. 中小企業への配慮についての論点→企業規模によらず、利用しやすくなるようにする観点からも、まずは、特例の対象を被用者保険の適用に伴う「壁」を意識する可能性のある者に 限定してはどうか(対象範囲は1のとおり)。また、導入に向けた検討を進める場合は、企業側の保険料負担軽減についても今後検討してはどうか。
3.賞与を特例の対象とすることについての論点→ 被用者保険の適用に伴い、賞与で手取り減が発生してしまうとそれ自体も社会保険加入を躊躇する要因にはなりうることや、現在の キャリアアップ助成金等の助成措置も対象に賞与を含めていること、健康保険における現行制度も賞与を対象に含めており事務負担の観 点から、特例対象者の賞与についても対象とできることとしてはどうか。 ※ 特例対象者は、標準報酬月額12.6万円以下の者を想定。
4.同一等級に属する者の負担割合をどうするかについての論点→同一の等級に属する者同士の保険料負担の公平性を確保し、企業において導入しやすくする観点から、本特例を利用する事業所内で、同一の等級に属する者同士の本人負担割合を揃えることとしつつ、等級ごとの具体的な割合は、事業所単位で労使合意に基づき任意に設定可能としてはどうか。

○就業調整に対応した保険料負担割合を任意で変更できる特例(案)→負担割合の特例については様々な意見があり整理する必要があるが、仮に導入する場合は以下のようなものが考えられるのではないか。【見直しの方向性】⇒・ 現行制度では、被用者保険の保険料は原則として労使折半であるが、厚生年金保険法においては健康保険法のような保険料の負担割合の特例に関する規定はない。被用者保険の適用に伴う保険料負担の発生・手取り収入の減少を回避するために就業調整を行う層に対し、健康保険組合の特例を参考に、被用者保険(厚生年金・健康保険)において、任意で従業員と事業主との合意に基づき、 事業主が被保険者の保険料負担を軽減し、事業主負担の割合を増加させることを認める特例を設けてはどうか。 ・ 労使折半の原則との関係で例外的な位置づけであること等を踏まえて、時限措置とすることとしてはどうか。 ※ 検討に当たっては、より広く活用されるような環境整備が必要。 @ 給付について ・ 本特例を利用しても保険料負担の総額は変わらないため、本特例の適用を受ける者の給付(基礎年金・報酬比例部分)は現行通り。 A 保険料負担について ・ 本特例を利用した場合、労使の判断で、被保険者本人の保険料負担を軽減し、被用者保険の適用に伴う手取り収入の減少を軽減できる。 ただし、健康保険と同様、事業主が保険料全額を負担し、被保険者負担をなくすことは認めない。 ※ 健康保険法(健康保険組合の保険料の負担割合の特例)において、事業主と被保険者とが合意の上、健康保険料の負担割合を被保 険者の利益になるように変更することが認められている。 ※ 健康保険は被保険者間の相互扶助に基づく制度であるため、健康保険組合の特例においても、受益者である被保険者本人の負担をなくすこと(労働者0%・事業主100%)は認められていない。

○第3号被保険者制度に係る現状と検討にあたっての論点→第3号被保険者制度の検討にあたっての論点⇒これまで被用者保険の適用拡大を進めてきており、今回の更なる被用者保険の適用拡大や「年収の壁」への対応により、第3号 被保険者制度が更に縮小の方向に向かっていくこととなるが、それでもなお残る第3号被保険者についての制度の在り方や今後 のステップをどのように考えるか。
○(参考)第 2 0 回年金部会における主なご意見(第3号被保険者)↓
【第3号被保険者制度の在り方】
→4意見あり。・ 第3号被保険者制度について、将来的な廃止を打ち出すべき。一方で、本人の疾病や育児、介護などで働けない人も一 定数いることを踏まえ、仕事と治療の両立支援や、子ども・子育て支援の充実、在宅介護サービスの充実といった第3号 被保険者にとどまらない支援策も必要であり、適用拡大の意義などとともに、丁寧な周知・広報が必要。
【今後の検討の進め方】→9意見あり。・ 1941年の被用者年金創設のときからずっと賃金比例の保険料を払ってきた男性は、1階も2階も全部、自分のものだと 思っていた年金給付がいつの間にか半分になっただけの話であることを理解いただくため、配偶者が第3号であるときの 共同負担規定は離婚時だけでなく、平時でも徹底して年金定期便にも反映させ、男性が抱いている第3号はお得だという 意識の壁を崩していくべき。
○いわゆる「106万円の壁」を意識している第3号被保険者の推計→・週所定労働時間が15時間以上であって、いわゆる「106万円の壁」を意識している可能性がある第3号被保険者は、企業規模100人超で約50万人と見込まれ、さらに今年10月の50人超への拡大で新たに約15万人が加わって、 合計で約65万人と推計される。 ・ この約65万人のうちには、就業調整を行わず厚生年金の適用を希望する方や、たまたま年収がこの水準にとど まっている方がおり、手取り収入の減少を回避して就業調整する方は、さらに少ないことが見込まれる。

≪在職老齢年金制度の見直し≫
○在職老齢年金制度の概要
→・在職老齢年金制度とは、厚生年金の適用事業所で就労し、一定以上の賃金を得ている60歳以上の厚生年金受給者 を対象に、原則として被保険者として保険料負担を求めるとともに、年金支給を停止する仕組み。 ・ 65歳以上の在職している年金受給権者の16%が支給停止の対象となっている。
○高齢者の就業に関する業界の声(在職老齢年金制度関係)→多くの産業に人手不足が生じ、就業者も高齢化していく中、在職老齢年金制度に関心を有する一部の業界へ同制度の影響を聞いたところ『人材確 保や技能継承等の観点から、高齢者活躍の重要性がより一層高まっているが、在職老齢年金制度を意識した就業調整が存在しており、今後、高齢者 の賃金も上昇していく傾向にある。高齢者就業が十分に進まないと、サービスや製品の供給に支障が出かねない』といった旨の声も寄せられた。⇒【スーパーマーケット】【タクシー】【製造業(鋳造)】【製造業(家具)】【製造業(自動車部品)】 参照。
○在職老齢年金制度の見直しの方向性→・在職老齢年金制度が高齢者の就業意欲を削ぎ、さらなる労働参加を妨げている例も存在していることを踏まえ、高齢者の活躍を後押しし、できるだ け就業を抑制しない、働き方に中立的な仕組みとする観点から、在職老齢年金制度の見直しを検討することとしてはどうか。・ 在職老齢年金制度を撤廃した場合は将来世代の給付水準が低下するため、現行制度を維持すべきといった意見もある。このため、在職老齢年金制度 を撤廃する案に加え、基準額を引上げる案を検討することとしてはどうか。

≪標準報酬月額の上限の見直し≫
○厚生年金保険・健康保険の標準報酬月額の等級表
→・厚生年金保険法において、標準報酬月額は全部で32等級あり、下限は8.8万円、上限は65万円となっている(第32級は、令和2年9月1日に追加)。 ・ 健康保険法・船員保険法において、標準報酬月額は全部で50等級あり、下限は5.8万円、上限は139万円となっている。(第48〜50級は、平成28年4月1日に追加)
○標準報酬月額の上限見直し(案)→標準報酬の上限見直しについては、以下の案を検討してはどうか。 参照のこと。

≪基礎年金のマクロ経済スライドによる給付調整の早期終了≫
○基礎年金のマクロ経済スライドによる給付調整の早期終了
→継続的な賃金や物価の上昇が想定される中、現行の年金制度はマクロ経済スライドによる調整(少子高齢化が進む 中でも、持続可能性を確保する仕組み)により、賃金や物価の伸びより年金額の伸びが抑えられている。 年金制度の持続可能性を確保しつつ、マクロ経済スライドを公的年金全体で早期終了した場合、年金額は賃金・ 物価に連動して上昇するようになる。
○基礎年金のマクロ経済スライドによる給付調整の早期終了(調整期間の一致)を行った場合→ 【過去30年投影ケース】 参照。
○基礎年金のマクロ経済スライドの早期終了による将来の給付水準の上昇効果→・基礎(1階)の水準上昇に伴う国庫負担の増加で給付が純増するとともに、 ・ 比例(2階)の給付調整が進むことで足下の受給世代の比例(2階)の財源(@)が将来の受給世代の 基礎(1階)の給付(A)に充てられ、世代間の財源移転も行われる。これらの効果により、将来の給付水準が上昇。
○GPIFの実質運用利回り(対物価)のバックテスト→GPIFの実質運用利回り(対物価)の10年移動平均の分布の上位80%タイル(※1)は、バックテストの方が実績 よりも+0.2%高い。 ※1 令和6年財政検証の過去30年投影ケースにおける実質運用利回り(対物価)の仮定。 (参考)仮に運用利回りが+0.2%改善すると、マクロ経済スライドの給付調整は更に3年程度早く終了すると見込まれる(※2) 。 ※2 過去30年投影ケースで基礎年金の給付調整の早期終了を前提とした場合。
○基礎年金のマクロ経済スライドによる給付調整の早期終了(調整期間の一致)について(案)→参照。
○厚生年金の積立金の充て方 (基礎年金(1階)と報酬比例(2階)の配分)→・厚生年金の保険料(18.3%)には基礎年金(1階)分も含まれるため、厚生年金の保険料や積立金は、報酬比例(2階)だけでなく、 基礎年金(1階)の給付にも充てられるもの。 ・基礎年金のマクロ経済スライドによる給付調整を早期終了させると、厚生年金の積立金を基礎年金(1階)により多く活用することとな り、基礎年金(1階)の給付水準上昇に伴う国庫負担の増も相まって、将来的には99.9%の方の給付水準が上昇する。
○基礎年金の財政構造の変化(現行制度・基礎年金の給付調整の早期終了)→・基礎年金の給付調整の早期終了(調整期間の一致)により、厚年積立金を1階に重点活用(+65兆円)。 このうち、拠出金按分率の変化分は7兆円。 ・加えて、国庫負担の増により財源の総額が増加し、ほぼ全ての厚生年金受給者で2階も含めた給付水準が上昇。
○基礎年金の財政構造の変化(適用拡大A・基礎年金の給付調整の早期終了)適用拡大A:企業規模要件の撤廃+5人以上個人事業所の非適用業種の解消+賃金要件の撤廃又は最低賃金の引き上げ(対象者200万人)→基礎年金の給付調整の早期終了(調整期間の一致)により1階に重点活用される厚年積立金(53兆円)のうち、拠出金按分率の変化分は5兆円。 ・この5兆円は、全て1号被保険者の中の被用者分に充当される。
○【参考】第1号被保険者の就業状況→第1号被保険者のうち自営業の割合は低下傾向。2000年代以降、被用者や無職より少ない。
○報酬比例部分(2階)の給付調整の継続について(過去30年投影ケースの場合)→参照。
○報酬比例部分(2階)の給付調整の継続について(成長型経済移行・継続ケースの場合)→・成長型経済移行・継続ケースでは、基礎年金の給付調整の早期終了により、基礎(1階)、比例(2階)ともに足元から調整が終了するため、 全ての世代の全受給者において、現行制度と比べ給付水準が上昇する。 ・特に、1972年度生まれが受給開始する2037年度以降の給付水準の上昇幅は大きく、就職氷河期世代以後の世代(特に低年金者)に効果 が大きい。
○社会経済状況等の改善に伴う更なる早期終了→労働参加の進展や運用利回りの改善など、社会経済状況が良くなれば、マクロ経済スライドによる給付調整は現在の見通し よりも早期に終了できる可能性がある。
○報酬比例部分(2階)の給付調整の継続による年金額改定への影響→基礎年金の給付調整の早期終了に伴い報酬比例部分(2階)の給付調整が継続することによる年金額改定への影響を、 令和6年度の改定に当てはめてみてみると、モデル年金(2人分)で月額370円程度、比例(2階)の給付が高い方(1人 分)で月額360円程度、比例(2階)の給付が低い方(1人分)で月額40円程度、年金額の伸びが抑えられることになる。
○基礎年金の給付調整の早期終了に伴う年金額改定への影響(モデル年金の場合) 参照。
○基礎年金の給付調整の早期終了に伴う年金額改定への影響(比例(2階)の給付が高い方の場合) 参照。
○基礎年金の給付調整の早期終了に伴う年金額改定への影響(比例(2階)の給付が低い方の場合) 参照。
○基礎年金の給付調整の早期終了による年金受給総額への影響 (機械的な計算)→基礎年金の給付調整の早期終了による個々の受給者の年金額への影響は、世代や受給期間、年金額(報酬比例部分(2階)と基礎年金(1階) の割合)により異なることに加え、今後の社会経済状況により大きく変わり得るものであり、幅をもってみる必要。 ※ 令和6年財政検証の賃金上昇率、マクロ経済スライド調整率を前提として毎年の年金改定額への影響をシミュレーションし、それを機械的に一定期間分累積したもの。 実際には、社会経済状況等によって変わり得る。
○基礎年金のマクロ経済スライドの早期終了による将来の給付水準の上昇効果 参照。
○基礎年金の給付調整の早期終了による国庫負担の見通しの変化(現行制度との比較)
○基礎年金の給付調整の早期終了による国庫負担の見通しの変化(適用拡大Aとの比較)

≪高齢期より前の遺族厚生年金の見直し等≫
○遺族厚生年金制度の見直しのポイント→見直しの方向性
⇒・ 男女差の解消:40歳※未満の子のない配偶者には原則5年の有期給付。 ・配慮が必要な方には65歳まで給付を継続。 配慮措置の導入⇒・ 現行の遺族厚生年金額よりも有期給付加算で年金額を増額。・婚姻期間中の厚生年金加入記録を分割することにより遺族の老齢年金を充実。・収入にかかわらず受給可能に。・現在の受給者や高齢の方、18歳未満の子のある配偶者には現在の給付を継続
○遺族厚生年金制度の見直しのポイント@ 男女差の解消 参照。
○遺族厚生年金制度の見直しのポイントA 改正のイメージ  参照。
○遺族厚生年金制度の見直し 現行制度の給付内容が維持される者→参照。
○継続給付の支給額の調整について→参照。
○親と同居する子に対する遺族基礎年金の支給停止規定の見直し→参照。

年金制度における子に係る加算等≫
○年金制度における子や配偶者に係る加算の現状
→・公的年金制度においては、子や配偶者のいる世帯に対して、生活保障を目的としてその扶養の実態に着目し、子 や配偶者に係る加算を行っている。子に係る加算としては、障害年金・遺族年金ではそれぞれ障害基礎年金・遺族 基礎年金の子に係る加算、老齢年金では老齢厚生年金(加給年金)として支給額を加算している。 ・ 子に係る加算の支給額は、第1子・第2子が234,800円、第3子以降は78,300円とされており、第3子以降への 加算額が第1子・第2子に比べて少ない。(※金額は令和6年度価格)
○年金制度における子に係る加算の見直し→視点@ 多子世帯への支援の強化(第3子以降の加算額を第1子・第2子と同額化)。視点A 子に係る加算のさらなる拡充→・子に係る加算額(234,800円(令和6年度価格))の引上げ(※) ・老齢基礎年金、障害厚生年金及び遺族厚生年金について、新たに子に係る加算の対象に追加。
○年金制度における子に係る加算について(全体像)→子に係る加算を、厚生年金・基礎年金のいずれにおいても年金の種別に拠らない共通の制度※とし、子の出生順 位にかかわらず、一律の金額を加算してはどうか。 (※なお、厚生年金を優先する併給調整を行う。)
○配偶者加給年金(老齢厚生年金)の主な制度改正とその考え方について→・ 老齢厚生年金・障害厚生年金の受給権発生時等に生計を維持する配偶者・子がいる場合に、その扶養の実態に着目し、当該 年金給付の額に加給年金額を加算する。
・ 女性の就業率の向上に伴う共働き世帯の増加など社会状況の変化等を踏まえ、扶養する年下の配偶者がいる場合にのみ支給される配偶者に係る加算の役割は縮小していくと考えられることから、現在受給している者への支給額は維持した上で、将来 新たに受給権を得る者に限って支給額について見直すことを検討してはどうか。
(※)65歳前に配偶者が老齢厚生年金(被保険者期間240月以上)を受給している場合には、受給権者の配偶者加給年金は支給停止されるが、令和12 (2030)年度に女性の老齢厚生年金の支給開始年齢が65歳に引き上げが完了する。
○配偶者加給年金(老齢厚生年金)の考え方について
・現行の配偶者加給年金は、本人の年齢に関わらず配偶者の年齢等により受給の可否が決まるため、現行の制度に改正された昭和60 (1985)年からの社会状況の変化を踏まえると、受給権者間の公平性の観点からの課題もある。⇒加算されるケース、加算されない理由の例 比較参照。
・昭和60(1985)年改正時と現在(令和4(2022)年時点)を比較すると、女性の就業率が高まり共働き世帯が増加している。 また、女性の平均年金額や厚生年金の受給権者数も増加している。⇒@〜B参照。

≪その他制度改正事項・今後検討すべき残された課題≫
○納付猶予制度に関する検討の方向性
→納付猶予期間は、老齢基礎年金等の受給資格期間に算入され、当該期間中に障害状態に陥った場合に障害年金の受 給につながる等の保障はあるが、10年以内に追納を行わない限り老齢基礎年金の受給額には反映されない。 納付猶予を受けた者が10年以内に追納を行う割合は7.0%(2024年時点)に留まっており、納付猶予を受けたとし ても追納が可能な10年以内で追納する者は少なく、最終的に本人の老齢基礎年金の受給額につながらない者が多い状 況にある。また、学生納付特例を受けた者が10年以内に追納を行う割合の8.9% (2024年時点)と比較しても追納す る者の割合は少ない。 一方で、平成28(2016)年7月より30歳以上50歳未満の者まで納付猶予対象者の年齢を拡大したことから、新た に対象となった30歳以上の者については、納付猶予を利用してから追納可能である10年間を経過しておらず、最終的 な追納状況を把握することが困難であり、引き続き全体的な追納率を捕捉していく必要がある。⇒方向性→こうした現状を踏まえ、今後の取扱いを検討するに当たっては丁寧に実態を把握する観点から、30歳以上50歳未満 の者が最初に追納期限である10年を迎える令和8年以降に改めて納付猶予制度の最終的な追納動向等を把握することとし、今回の年金制度改正においては以下の通り進めてはどうか。 • 被保険者の対象年齢の要件は現行通り。(被保険者が50歳未満であること。) • 令和12年6月までの時限措置を、令和17年6月まで5年間延長。
○納付猶予制度の現状と課題↓
・納付猶予制度の現状→【納付猶予制度の導入と変遷】【納付猶予制度の導入時からの変化】【適用者の状況等】→・納付猶予制度の適用者数は、令和4年度時点で約58万人。概ね納付猶予期間2年以下である者がどの世代でも半数程度いる。一方で、 納付猶予制度を利用できる期間が長い30歳以上の世代では、納付猶予期間が5年超の者も一定程度存在する。 ・全額免除と納付猶予では所得基準が同じであり、単身世帯等で全額免除が適用できる状態にあるにも関わらず、納付猶予に留まっている場合がある。 ・納付猶予制度は個人の所得に着目する制度であるが、納付猶予適用者の中には、世帯主に一定以上の所得がある場合がある。
・納付猶予制度の課題→・納付猶予制度は、将来の無年金・低年金を防止するために設けられ、現在も一定数の者が利用しているが、令和12年6月までの時限措 置とされている。 ・納付猶予適用者の中には、世帯主に一定の所得があり保険料負担能力がありながらも納付猶予が適用されている場合がある。
○納付猶予制度に関する検討の方向性→令和12年6月までの時限措置とされている納付猶予制度について、将来の無年金・低年金を防止する役割を維持しつつ、将 来の年金給付につなげるため、以下のように考えてはどうか。 (1)納付猶予制度については、被保険者の対象年齢の要件は現行通り(被保険者が50歳未満であること。)とした上で、時限措置を延長することを検討してはどうか。 (2)納付猶予制度の延長に際しては、制度の基本的な考え方は維持しつつ、所得要件については、本人及び配偶者の前年の所得が一定額以下であっても、保険料納付の原則に立ち返って世帯主(親など)に一定以上の所得がある場合は納付猶予の対象外とし、保険料納付を求めることを検討してはどうか。
○国民年金における任意加入制度の概要→60歳以上65歳未満の任意加入【年金法附則第5条(昭和60年改正による措置)】65歳以上70歳未満の任意加入の特例(高齢任意加入)【平成6年改正法附則第11条・平成16年改正法附則第23条】 項目参照。
○任意加入の特例(高齢任意加入)の対象者の見直し→・年金制度は、保険事故が発生するまでの間に保険料を拠出することとされており、老齢基礎年金の支給要件である65歳到達後に保険料 を拠出できる任意加入の特例として位置づけられている。 ・任意加入の特例は、昭和40(1965)年4月1日(昭和39年度)までに生まれた者を対象とした時限措置であり、令和11(2029)年 度には昭和40年4月1日生まれの者が65歳に到達する。 ・ こうした中で、任意加入の特例は、老齢基礎年金受給に必要な資格期間を満たさない者を年金受給権の取得につなげる重要な役割を果 たしており、令和4年度時点でも任意加入の特例を利用している者の数は約1,500人存在する。 ※老齢基礎年金の受給に必要となる資格期間の要件が25年から10年に短縮された(平成29(2017)年8月施行)ことを契機に利用者の 人数は減少している。 ・ これまでの改正経緯等も踏まえ、引き続き保険料納付意欲がある者の年金受給の途を開くため、年金受給権確保の観点から、昭和50 (1975)年4月1日(昭和49年度)までに生まれた者まで対象とする方向で検討する。
○離婚時の年金分割の請求期限の延長→現行の2年以内から5年以内に伸長する。
○離婚時の年金分割制度→・離婚時の年金分割は、婚姻期間に係る厚生年金の計算の元となる保険料納付記録(標準報酬)を分割する制度。 年金分割が行われた場合、分割後の標準報酬で算定した厚生年金を受給開始年齢から受け取ることとなる。 ・ 離婚時の年金分割の請求には、原則離婚から2年の請求期限が設けられている。 ・ 分割は厚生年金(報酬比例部分)の額のみに影響し、基礎年金の額には影響しない。
○脱退一時金制度に関する見直しの方向性@A→【現行制度】【脱退一時金に係る状況の変化等】参照。
【検討の方向性】→在留資格にかかわらず、再入国許可付きで出国した者は、日本に再度入国する意図を持って出国しており、再度日本の公的年金に加入し老齢年金の受給資格期間(10年)を満たし得る可能性があることから、原則として単純出国した場合のみ脱退一時金を支給することとし、再入国許可付きで出国した者には当 該許可の有効期間内は脱退一時金は支給しない(再入国しないまま許可期限を経過した場合には受給が可能と なる。)こととすることについてどう考えるか。 なお、その場合は、施行後に十分に年金加入期間を確保できず、年金と脱退一時金のいずれの支給にもつな がらない場合等も考慮し、必要な経過措置を設けることとしてはどうか。 ・ また、在留資格の見直しや、在留外国人の滞在期間も踏まえて、現行の支給上限を5年から8年に引き上げ ることについてどう考えるか。 ・ あわせて、こうした見直しを行うこととした場合は、施行に際し、在留外国人に年金や脱退一時金の仕組み や趣旨といった必要な情報がしっかりと伝わるよう、運用上の工夫を図ることとしてはどうか。
○障害年金制度に関する検討の方向性について→部会では、まずは次期制度改正を見据えて、「現時点で議論が求められる課題」を優先して議論したところ、制度上あるいは実務上の観点から、制度の見直しの検討に当たっては、以下の点について引き続き整理が必要との指摘があった。 1.拠出制年金における社会保険の原理との関係の整理 2.様々な障害がある中で、障害の認定判断に客観性を担保しその認定判断を画一的で公平なものとする必要性 3.障害年金の目的や障害の認定基準のあり方と他の障害者施策との関連の整理。 ・ また、障害年金の見直しに当たっては、今回議論した5つの「現時点で議論が求められる課題」の他に、中長期的な課題も提起が行われており、障害年金の検討については、ヒアリングで指摘があった制度上、実務上の課題の整理に加えて、社会経済状況や医療技術の進歩等を踏まえながら、引き続き様々な課題について検討することとしてはどうか。 ・検討課題のうち、令和8年3月31日が期限となっている直近1年要件については、この特例によって障害 年金の受給につながるケースが存在していること、複数回の延長を経て長い期間運用されている要件であり、 本制度を前提として考えている被保険者も少なからず想定されること、今後の取扱いを検討するに当たっては 丁寧に実態を把握する必要があること等を踏まえ、引き続き10年間延長してはどうか。また、その他の検討 課題についても、次期改正までに整理が付くものについては対応してはどうか。

≪年金広報・年金教育≫
○現行の公的年金シミュレーターの概要
→・公的年金シミュレーターは、令和2年改正年金法を分かりやすく周知すること、働き方や暮らし方の変化に伴う年金額の変化を「見え る化」することを目的として、令和4年4月から運用を開始した。 ・ ねんきん定期便の二次元コードを読み取るなどして将来の年金受給見込額を簡単に試算でき、働き方や暮らし方の変化に応じた年 金額の変化も試算できる。令和5年4月に年金受給開始時点での税や保険料の大まかなイメージを表示する機能を追加し、同年7月 には民間サービスとの連携に向けたプログラムを公開、令和6年1月には在職定時改定の試算機能を追加した。・公的年金シミュレーターを利用して、実際に試算を行った回数は令和6年11月30日時点で580万回超。
○公的年金シミ ュ レー ターによる将来の年金見込み受給額試算について→「公的年金シミュレーター」は、将来受け取る年金見込み受給額を固定して表示するだけではなく、個々人の働き方暮らし方の変化に よる多様なライフコースに応じた様々なパターンの年金見込み受給額を簡単な入力で試算・表示することが可能。
○次期公的年金シミュレーターの開発方針と新たな機能→令和4年4月から運用している現行の公的年金シミュレーターの保守、運用が令和7年度末で終了することから、年金 部会などでのご意見を踏まえ、以下の案により、令和8年4月から新たに運用を開始する予定の「次期公的年金シミュ レーター」の開発を進めることとしてはどうか。
○次期公的年金シミュレーターの新たな機能を設ける目的→障害年金の試算機能を設ける目的(案)、iDeCoの試算機能を設ける目的(案) 項目の参照。
○年金額分布推計を踏まえた多様な年金水準(2024年度に65歳になり年金を受け取る者の例)→「令和6(2024)年財政検証 年金額分布推計」に基づき2024年度に65歳になり年金を受け取る者(1959年度生まれの者)の年金額を 経歴別に提示すると以下のとおり。⇒一人あたりの老齢年金額(月額)@〜➄、その他の参照。
○現役時代の経歴類型の変化(女性)→○ 労働参加の進展により、若年世代ほど厚生年金の被保険者期間の長い者(厚年期間中心の者)が増加し、1号期間や3号期間中心の者が減少 する見通し。特に女性は、厚生年金に加入しながら働く者の増加による将来の平均年金額の伸びや低年金の減少が大きい。
○現役時代の経歴類型の変化(男性)→労働参加の進展により、若年世代ほど厚生年金の被保険者期間の長い者(厚年期間中心の者)が増加し、1号期間中心の者が減少する見通し。
○年金対話集会の概要→・ 学生と厚生労働省(年金局)職員が年金をテーマに語り合うことを通じて、学生が年金について考えるきっかけにするとともに、学生から の意見や指摘を今後の年金行政に活かす。 ・ 学校のご協力の下、授業の時間をお借りし、学生の理解度やニーズに合わせて学校ごとにテーマを調整し実施。
・令和6年度開催実績:令和6年度は36回(大学・大学院18回、 高校18回)開催した。

次回も続き「参考資料2 年金制度改革に向けた提言(令和6年 12 月 18 日 自由民主党政務調査会 社会保障制度調査会 年金委員会・医療委員会)」からです。

第24回社会保障審議会年金部会 [2025年01月25日(Sat)]
第24回社会保障審議会年金部会(令和6年12月24日)
議事 社会保障審議会年金部会における議論の整理(案)について
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/nenkin_20241224.html
U 次期年金制度改革等
6 高齢期より前の遺族厚生年金の見直し等
(検討に当たっての問題意識)→〇 遺族年金制度は、家計を支える者が死亡した場合に
、残された遺族の所得保障を行うものであり、受給者の状況を見ると、高齢期における夫婦のどちらかが死亡して遺族となった受給者と、高齢期より前の死別によって遺族となった受給者に大別され、前者の受給者数は多く、後者は少ない。 後者の場合は、養育する子がいるケースと、養育する子がいないケースがあり、養育する子がいる場合には男性も女性もともに子の養育という責任を負うため、どちらが死亡しても保障の必要性は高いが、養育する子がいない 場合には、保障の必要性の観点から子がいる場合とは異なる取り扱いとなっている。 〇 現行制度のうち遺族基礎年金については、消費税率引上げによる増収分を 活用して 2014(平成 26)年 4 月から支給対象を従前の母子家庭から父子家 庭へと拡大する見直しが行われた。しかし、遺族厚生年金では、制度の成り 立ちから、依然として、男性が主たる家計の担い手であるという考え方を内 包した制度設計が存在している。 具体的には、20 代から 50 代に死別した子のない配偶者に対する遺族厚生年金は、死別時に 30 歳未満の妻には有期給付、30 歳以上の妻には期限の定めのない終身の給付を行っている。一方で、死別時に 55 歳未満の夫には遺族 厚生年金の受給権が発生しない。加えて、受給権取得当時の年齢が 40 歳以上 65 歳未満である中高齢の寡婦のみを対象とする加算(中高齢寡婦加算)があ るなど、制度上の男女差が存在している。 〇 遺族年金については、「社会保障審議会年金部会における議論の整理」(平 成 27 年1月 21 日)において「男女がともに就労することが一般化していく(中略)中で、遺族年金についても、社会の変化に合わせて制度を見直して いくことが必要」とされており、本部会では、高齢期の前にあたる 20 代か ら 50 代までの遺族を念頭に、制度上の男女差の解消に向けた制度の在り方 等について検討を行った。
@ 20 代から 50 代の子のない配偶者の遺族厚生年金
(共働きが一般化することを前提とした社会経済状況への対応)
→ ○ 年齢階級別の女性の就業率の推移を見ると、40 歳から 59 歳までの中高齢期における就業率は、2040(令和 22)年においていずれの世代も 80%台後半と見込まれており、2023(令和5)年における男性の就業率と遜色ない状況といえる。また、若い世代ほど高齢期まで各年齢層において高い就業率を維持しており、この傾向が今後も続くことが見込まれる。 ○ 令和5年の男女の賃金水準を見ると、40 歳未満であれば男女差が概ね 80%の範囲に収まっている。また、平成 14 年と令和5年を比べると 30 歳か ら 64 歳までの年代の改善度が比較的高く、今後も中高齢期の賃金格差の縮小が見込まれる。 ○ 世帯構成の推移を見ると、近年は共働き世帯が増加し、男性雇用者と無業 の妻からなるいわゆる専業主婦世帯は減少し続けている。 ○ これらの状況を見ると、年金制度の創設期から長期間が経過し、20 代から 50 代の女性の就業率が増加していることから、男性が主たる生計維持者であ ることを前提とした社会経済状況から変化していると考えられる。
(見直しの方向性)
→ ○ 遺族厚生年金において、男性が主たる生計維持者であることを前提とした 考え方を改め、女性の就業の進展、共働き世帯の増加等の社会経済状況の変 化や制度上の男女差を解消していく観点から、20 代から 50 代に死別した子 のない配偶者に対する遺族厚生年金の給付について時間をかけながら段階的 に見直すこととし、事務局から提案があった「A 20 代から 50 代の子のある配偶者の遺族厚生年金」の内容も含めた見直し案について概ね意見が一致した。 なお、施行日前に既に受給権が発生している場合や見直しの対象外である 60 歳以上で死別した場合の遺族厚生年金は、現行制度の仕組みを維持するべきである。 ○ その際、見直し内容について丁寧な説明を心掛ける必要があるという意見 や男女間賃金格差是正や遺族の就労支援等の取組を併せて進めていく必要が あるといった意見、まずは男性の年齢要件を撤廃し、有期給付化は遺族の就 業状況等を踏まえて慎重に検討すべきという意見、法的に当然公的年金に波 及するものではないものの、同性パートナーに係る犯罪被害者等給付金の支 給に関する最高裁判決の状況を注視する必要があるといった意見、制度の詳 細については引き続き丁寧に検討する必要があるといった意見などがあっ た。
(具体的な見直し内容)→○ 20 代から 50 代に死別した子のない配偶者に対する遺族厚生年金を、配偶者の死亡といった生活状況の激変に際し、生活を再建することを目的とする 給付と位置づけ、男女とも原則5年間の有期給付として年齢要件に係る男女差を解消する。 ただし、様々な事情により十分な生活再建に至らず、引き続き遺族厚生年 金による生活保障の必要性が高い状況にある者への支援の必要性の観点から、所得状況や障害の状態によっては、原則5年間の有期給付が終了した以 降も最長 65 歳到達まで継続して給付(継続給付)を受給できることとする。 継続給付については、その趣旨を勘案し、後述する有期給付加算を含めた 額を基本とし、所得の状況に応じて支給額を調整するが、調整に当たっては、収入と支給額の合計額が緩やかに上昇する仕組みとする。 ○ 男女差の解消に伴い、死別時に 60 歳未満の男性は施行時点から新たに有 期給付の受給が可能となる。女性は、30 歳未満という現行の有期給付の対象 年齢を段階的に引き上げることとし、施行時点では既に男女間の賃金水準の 差が一定程度縮小している 40 歳未満を対象年齢とする。その後は、現に存 在する男女の就労環境の違いを考慮するとともに、現行制度を前提に生活設 計している者に配慮する観点から、20 年程度の時間をかけて 60 歳未満まで 引き上げる。
(有期給付化に伴う配慮措置)→○ 有期給付の生活再建という観点から、保障を手厚くするため、配偶者の死 亡に伴う年金記録分割の導入(死亡分割)、生計維持要件のうち収入要件の 撤廃、有期給付加算の創設を行う。 ○ 死亡分割は、離婚時の年金記録分割の仕組み(離婚時分割)と同様に、死亡者の婚姻期間における厚生年金への加入期間の標準報酬月額等を分割する ことで、残された遺族の将来の老齢厚生年金を増加させる仕組みであり、有 期給付の遺族厚生年金を受給後に失権した者を対象とする。 ○ これは、現行の遺族厚生年金が、30 歳以上で受給権の発生した妻に対して は期限の定めなく支給されており、死亡者の厚生年金の加入記録に基づき遺 族の高齢期も含めた生涯にわたる保障を行っていることに着目し、有期給付 の拡大に伴い、死別後に婚姻期間中の死亡者の厚生年金加入に対する遺族の寄与・貢献を評価し、高齢期の年金受給額の改善を図ることを目的として導 入するものである。 ○ 離婚時分割は、年金記録は個人に属するものであって、民法上の財産分与で分割ができないことに替わる措置として、婚姻期間中における元配偶者の 厚生年金加入に対する被分割者の寄与・貢献を評価し、年金記録の分割の根 拠となる規定を年金法上に個別に定めている。 婚姻期間中における元配偶者の厚生年金加入への寄与・貢献への評価は、 離別か死別かの違いで変わるものではないことから、離婚時分割の考え方を 死別にも拡張して、配偶者の死亡に伴う年金記録分割を新たに定めることと する。 死亡分割においても、第3号被保険者である期間における分割割合は、離 婚時分割に倣って2分の1とする。一方で、双方が厚生年金に加入していた 婚姻期間における分割割合は、離婚時分割と異なり、元配偶者の死亡により 当事者間で決めることができないという特有の事情を考慮し、2分の1で合 意したものと擬制する。 なお、有期給付の遺族厚生年金は死別後の一時的給付として生活の再建が 目的、死亡分割は老齢厚生年金の増額のための手段で高齢期の所得保障が目的であり、両者は目的と役割がそれぞれ異なることから、支給期間が重複しない限りは、年金記録の「二重利用」には当たらないと考えられる。 ○ 有期給付の遺族厚生年金に係る収入要件の撤廃については、配偶者との死 別による生活状況の激変や、有期給付の目的である被保険者の死亡による収 入減少を受けた場合の生活再建の必要性は収入の多寡にかかわらず存在する ことに着目して行う。 ○ 有期給付加算については、現行制度の遺族厚生年金よりも金額を充実さ せ、死亡者の老齢厚生年金の4分の1相当額を遺族厚生年金に加算する。
A 20 代から 50 代の子のある配偶者の遺族厚生年金→○ 18 歳未満の子を養育している配偶者については、子が 18 歳に到達する年 度末までの給付内容は現行通りであるが、それ以降も引き続き養育費用が必 要な場合や、本格的な就労に向けた準備期間となる場合が想定される。 そのため、現行制度においても、妻が 30 歳未満に遺族基礎年金を失権した 場合にはその後5年間の有期給付の遺族厚生年金を受給できることを踏襲する形で、例えば子が 18 歳に到達して遺族基礎年金が失権した後も原則5年間 の有期給付を受給できることとし、所得状況や障害の状態に応じてはさらに その後の継続給付の受給も可能とする。 ○ 女性の就業の進展、共働き世帯の増加等の社会経済状況の変化や制度上の 男女差を解消していく観点から、女性のみが対象となっている中高齢寡婦加 算については、将来に向かって十分な時間をかけて加算措置を終了する。 なお、見直しに当たっては激変緩和の観点から経過措置を設けることが適 当であり、具体的には、施行日前に加算を受給している者は対象とせず、新 規に加算が発生する場合のみを対象にし、十分な時間をかけて段階的に逓減 させるとともに、受け取り始めた年金額は受け取り終了まで変化させないこ ととする。
B 遺族基礎年金(国民年金)
(現行制度と見直しの方向性)
→ ○ 遺族基礎年金は子を抱える配偶者や自ら生計を維持することができない子 に対し、生活の安定を図ることを目的とする給付であるが、現行制度におい て子に対する遺族基礎年金は、父又は母と生計を同じくするときは、その父 又は母が遺族基礎年金の受給権を有していない場合でも、支給停止されてい る。 たとえば、離婚後に親の一方が亡くなり、その後元配偶者である親に引き 取られた場合には子に対する遺族基礎年金は支給停止される。 ○ 離婚の増加などで子を取り巻く家庭環境は変化しており、子自身の選択に よらない事情で遺族基礎年金が支給停止されることは、子の生活の安定を図 るという遺族基礎年金の目的からみて適切ではない。 現行の遺族厚生年金ではこのような支給停止の規定はなく、遺族基礎年金 について子が置かれている状況によって支給が停止される不均衡を解消する ため、生計を同じくする父又は母があることによる支給停止規定を見直すこ とで概ね意見は一致した。 ○ その他、国民年金には、国民年金保険料の掛け捨て防止及び老齢基礎年金 支給開始前の寡婦に対する生活保障の観点から、所定の要件を満たす夫の死 亡に際して、残された妻が国民年金の被保険者期間が終了する 60 歳から、老齢基礎年金の受給開始年齢である 65 歳到達までの5年間を保障するつな ぎの給付として創設された寡婦年金が存在する。 寡婦年金については、男女差を解消する観点から見直しが必要であるとの 意見がある一方で、寡婦年金の支給期間である 60 代前半の生活実態は様々であると考えられ、60 代前半の生活実態を踏まえて遺族に対する保障の在り方について更なる検討が必要であることから、寡婦年金の取扱いについては、将来的な廃止を含めて引き続き検討事項とする。併せて、寡婦年金と選 択関係にある国民年金の死亡一時金の取扱いについても検討事項とする。

7 年金制度における子に係る加算等
(現行制度と見直しの方向性)
→ ○ 公的年金制度においては、子や配偶者のいる世帯に対して、生活保障を目 的としてその扶養の実態に着目し、子や配偶者に係る加算を行っている。 子に係る加算としては、障害基礎年金・遺族基礎年金の子に係る加算や老 齢厚生年金の加給年金があるが、その金額は子の人数に応じて異なり、第3 子以降の子への加算額は第1子・第2子への加算額に比べて少ない。 ○ 近年、子ども・子育て支援に関する施策を充実する観点から、児童手当や 児童扶養手当等子どもへの給付の拡充が図られている。賦課方式で運営され ている年金制度にとって、次世代の育成は制度の根幹を維持するために必要 であり、次代の社会を担う子どもの育ちを支援し、子を持つ年金受給者の保 障を支援する観点から取組を強化する方向性については概ね意見が一致し た。なお、基礎年金の給付水準の維持が重要な中で、追加の給付拡充を行う こと、また、特定の条件に当てはまる子のみを対象とする対応であることに 違和感を示す意見もあった。
(具体的な取組)→ ○ 児童扶養手当等の近接する制度の状況を考慮し、多子世帯への支援を強化 する観点から、公的年金制度における子に係る加算について、第1子・第2 子と同額となるまで第3子以降の支給額を増額し、子の人数に関わらず一律 の給付とすることについては意見が一致した。なお、年金給付への加算とい う方法では、新たな仕組みが、加給年金と同様に、繰下げ受給の阻害になる という意見もあった。 ○ 加算額について、第1子・第2子を含め全体として子に係る加算額を引き 上げること、これまで加算対象ではなかった障害厚生年金や遺族厚生年金、 老齢基礎年金についても対象を拡大することについては、賛成の意見があっ た一方で、年金制度ではなく子ども・子育て支援施策において対応すべきで はないかといった両制度の役割分担の観点からの慎重な意見や財政影響も踏 まえて検討すべきという意見もあった。 その他、子に係る加算の対象となる子について国内居住要件を設けること については概ね意見が一致したが、子の留学や親の海外赴任についても留意 するべきという意見があった。
(配偶者に係る加給年金)→○ 老齢厚生年金における配偶者に係る加給年金について、社会状況の変化等 によりその役割が縮小していることを踏まえ、将来的な廃止も含めて見直す方向性については概ね意見が一致した。今回の改正では、新たに対象となる 者の支給額を見直すこととするが、加給年金を前提に生活している者への配 慮から、現在の受給者は見直しの対象としないことが適当である。

8 その他の制度改正事項→○ 上記の事項以外にも、以下の改正を行うことで概ね意見は一致した。 @ 障害年金の支給要件のうち、直近1年間に保険料の未納がなければよいと する特例について、障害年金の受給につながるケースが存在していることや 今後の取扱いを検討するに当たって丁寧に実態を把握する必要があること を踏まえ、引き続き適用できるよう、時限措置の 10 年延長を行う。 A 国民年金の納付猶予制度について、多くの者が利用していることから同じ 年齢を対象として時限措置の5年延長を行う。今後、利用状況や追納率等の 実態を丁寧に把握した上で、引き続き、制度の在り方について検討する必要 がある。 B 任意加入の特例(高齢任意加入)について、引き続き保険料納付意欲があ る者の年金受給の途を開くため、年金受給権確保の観点から、新たに 65 歳 に到達する世代も利用できるよう措置することで本措置の延長を行う。 C 離婚時分割の請求期限について、民法上の離婚時の財産分与に係る除斥期 間が、離婚後2年間から5年間に伸長されることに伴い、離婚後2年間から 5年間に伸長する。 D 遺族厚生年金の受給権者の老齢年金について、高齢者の就労が進展し、今後繰下げ制度の利用者が増える可能性があることを踏まえて、年金を増額させたいという受給者の選択を阻害しない観点から、一定の条件を満たす場合 において繰下げ申出を認める。 E 脱退一時金制度について、将来の年金受給に結び付けやすくするため、再 入国の許可を受けて出国した外国人は、当該許可の有効期間内は脱退一時金を請求できないこととする。また、外国人の滞在期間の長期化や入管法等の 改正法により育成就労制度が創設されることを踏まえ、支給上限年数を現行の5年から8年に見直す。

9 今後検討すべき残された課題
@ 基礎年金の拠出期間の延長(45 年化)
→○ 基礎年金の拠出期間については、その前身である国民年金制度が 1961(昭 和 36)年に創設された時に 20 歳から 60 歳までと定められ、その後 60 年以上 変更されていない。この間、平均寿命の延伸や 60 代前半の就業率の上昇など、 社会経済状況は大きく変化している。 基礎年金の拠出期間の延長については、今回の財政検証及びオプション試算の結果では全体的に所得代替率が改善したことや、基礎年金のマクロ経済スラ イドの早期終了や被用者保険の適用拡大など基礎年金の給付水準の向上に資 する他の事項も検討していることから、次期年金制度改革においては、国民に 保険料負担を追加で求める基礎年金の保険料拠出期間(現行 40 年)の5年延長は行わないこととし、本部会において詳細な制度設計については議論しなか った。 これに対して、実現の優先順位について理解を示す意見や将来的な実現を求 める意見があった。 健康寿命の延伸や高齢者の就労進展等を踏まえると、基礎年金の拠出期間延 長は、基礎年金の給付水準の向上を確保するために自然かつ有効で意義のある方策であると考えられる。引き続き、社会経済の状況などに応じて、議論を行うべきである。 なお、学生納付特例制度を利用した学生の追納率が低いことなどから基礎年金の拠出期間の始期についても見直しを検討するべきという意見もあった。
A 障害年金→○ 障害年金については、現時点で議論が求められる事項から中長期的な課題 に至るまで様々な論点がある。本部会では前者に着目して、事後重症の場合に障害認定日に遡って年金を支給するべきかどうかや、障害厚生年金における 初診日要件について検討したが、制度の見直しの検討には、制度上あるいは実 務上の観点から、以下の点を整理していく必要があると考える。 (1)拠出制年金における社会保険の原理との関係の整理 (2)様々な障害がある中で、障害の認定判断に客観性を担保しその認定判 断を画一的で公平なものとする必要性 (3)障害年金の目的や障害の認定基準のあり方と他の障害者施策との関連 の整理 障害年金については、こうした点を整理しつつ、社会経済状況や医療技術の 進歩等を踏まえながら、様々な課題について引き続き検討するべきである。

V 年金広報・年金教育
(年金広報のあり方)
→○ 公的年金制度は老後生活の柱であり、国民生活の安心につながる重要な機 能を有している。しかし、特に若い世代には公的年金制度に対する漠然とした 不安があり、これが公的年金制度への信頼を揺るがすことにつながっている。 年金広報を行うに当たっては、将来どういう働き方をしたら年金がいくらも らえるかなど、具体的な数字で示すことで、現役世代の安心感の醸成につなげ ていくことが重要である。なお、様々な属性の方がいることを念頭に置きなが ら、動画や SNS の活用など、受け手に応じた情報発信の工夫が必要である。 ○ 公的年金制度に対する国民の不安を解消し、安心感の醸成につなげていく ためには、将来見通しを示すことが特に重要であり、令和6(2024)年財政検 証における年金額分布推計や公的年金シミュレーターは、国民一人一人が自 分の将来に対する予見可能性を高めるものとして重要な機能を持っている。
(公的年金シミュレーター)→ ○ 公的年金シミュレーターは、年金の仕組みや制度改正の内容を国民に分か りやすく周知すること、働き方などの変化に伴う年金額の変化を「見える化」 し、国民一人一人の生活設計を支援することを目的に 2022(令和4)年4月 から運用されており、徐々に国民に浸透しつつあるが、さらに多くの国民に活 用してもらうよう、積極的に周知していくべきである。○ この公的年金シミュレーターについて、現行の機能や特徴を維持しつつ、予見可能性をさらに高めるための改善や機能追加を検討すべきであり、障害年 金に加え、私的年金のうち、すべての国民年金被保険者が加入できる共通の制 度で統一的な表示が可能な iDeCo の試算機能を設ける方向性は賛成の意見が 多かった。また、iDeCo の拠出可能額をわかるようにすべきという意見もあっ た。 ○ 一方で、iDeCo の試算機能を設けるに当たっては、運用利回りをどう設定するか、賃金・物価で変動する公的年金と iDeCo の給付額をどう表示するかなど 課題も多いことから、誤解が生じないような画面構成にするなど慎重な検討 が必要である。 ○ また、民間企業のアイデアを活用することで、公的年金シミュレーターの利 用が広まり、国民の金融リテラシーも向上していくものと考えられることか ら、民間サービスとの連携もさらに進めていくべきである。
(多様なライフコースに応じた年金の給付水準の示し方)→○ 所得代替率の計算上、いわゆる「モデル年金」(夫の厚生年金と夫婦2人分 の基礎年金(満額)の合計額)をみることの必要性は確認された一方で、広報 上の対応として、世帯類型や賃金水準などに着目し、様々なパターンの年金額 をわかりやすく示す必要がある。 ○ 性別や年金制度の加入状況に応じた将来の年金の給付水準の示し方につい て、年金額分布推計を基にしていることも踏まえて、発信内容を精査しつつ、 実際の広報につなげていく。
(年金教育)→ ○ 平均寿命や健康寿命の延伸により、今の若い世代は人生が長くなるため、自 分のライフプランを考える上でも年金に関する知識を十分に提供する必要が あり、そのためには、子どもの頃から生涯を通じた年金教育の取組を進める必 要がある。 ○ 公的年金制度は、地域住民の日常生活を支える社会保障制度の一つであり、 国民一人ひとりが社会保障の担い手であるという当事者意識を持って制度に参加することが、公的年金制度の持続可能性を高め、さらには人々が助け合う地域共生社会の実現に向けても重要である。 このため、公的年金制度は、保険の考え方を基本として、老齢、障害、死亡 という生涯を通じた生活上のリスクに国民が連帯して備える支え合いの仕組 みであり、積立貯蓄ではないことや損得で論ずべきものではないことが広く理 解される必要がある。 このような観点から、社会保障制度の一環としての公的年金制度について、 支え合いの意義や役割と持続可能な制度の在り方、保険の考え方に基づく仕組 みや手続きの重要性の理解を促す年金教育を推進すべきである。 ○ そのためにまずは、子ども・若者が自分ごととして公的年金制度について考え探究することを契機として、地域共生社会を持続的に支える社会保障に広く関心を持ってもらうことが重要である。これまで年金局が学校などの教育 機関の協力を得て取り組んでいる「学生との年金対話集会」は若者の意見を聞 く貴重な機会であることから、この取組を継続・強化しつつ、地方厚生局や日 本年金機構と連携を強化することによって、全国各地でより多くの子ども・若 者が公的年金制度などについて考え、意見を述べることができる場を増やし ていくべきである。
(公的年金と私的年金の一体的な広報)→○ 本部会と企業年金・個人年金部会の合同開催における議論も踏まえて、公 的年金と私的年金の広報を一体的に行う教育動画や教育教材の開発、公表と いった取組が進められており、今後も、公的年金シミュレーターに iDeCo の 試算機能を付加することや、国民の高齢期の所得の確保に関する教育を進め る上でも金融経済教育推進機構や民間団体との連携を推進するなど、様々な 取組を進めていくべきである。
(年金制度改正に関する広報)→○ 年金制度改正に関する広報については、被用者保険の適用拡大など、今般 の見直しの内容に加え、年金制度の基本的な部分も併せて広報していくこと が重要である。制度改正の趣旨、対象者や施行時期などを国民にわかりやす く伝えていくとともに、事業主に対しても正確な情報発信に努めていくべき である。

W おわりに→○ 基礎年金制度導入以降の 40 年間の変化を見れば、平均寿命や健康寿命の延 伸、単身世帯や共働き世帯の増加といった家族構成やライフスタイルの多様化、女性・高齢者の就業の拡大、近年著しい物価や賃金の上昇、人手不足の深 刻化など、年金制度を取り巻く、社会や経済の状況は大きく変化してきた。 ○ そうした中で、今回の年金部会では、公的年金制度全般を議題として取り上 げ、被用者保険の適用拡大や在職老齢年金制度の見直しといった従来から継 続している検討事項のみならず、基礎年金のマクロ経済スライドの早期終了 といった年金財政の根幹に係わる事項や、遺族年金など従来は十分に議論で きていなかった事項についても取り扱った。 基礎年金の導入から 40 年という節目のタイミングで、こうした幅広い議論を通じて、多くの事項について、現状や課題、見直しの方向性を整理したこと には大きな意義がある。 ○ 一方で、年金制度は社会や経済の変化の影響を常に受け続ける。 これまでも、こうした変化に的確に対応するとともに、近年も5年に1度の タイミングで制度の持続可能性を確認するために実施する、年金財政の健康診 断ともいえる「財政検証」を実施した上で、必要な制度改正を重ねてきた。 今後も、社会・経済の状況を注視しながら不断の見直しを行う、このプロセ スを継続することで、老齢・障害・死別という所得の減少や喪失のリスクに対 応した経済基盤の安定を図り、国民に信頼・安心される年金制度の在り方を模 索し続ける必要がある。

次回も続き「参考資料1 年金制度改正の検討事項」からです。

第24回社会保障審議会年金部会 [2025年01月24日(Fri)]
第24回社会保障審議会年金部会(令和6年12月24日)
議事 社会保障審議会年金部会における議論の整理(案)について
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/nenkin_20241224.html
U 次期年金制度改革等
1 被用者保険の適用拡大
(基本的な考え方)→○ 国民の価値観やライフスタイルが多様化
し、短時間労働をはじめとした様々な雇用形態が広がる中で、特定の事業所において一定程度働く者については、事業主と被用者との関係性を基盤として働く人々が相互に支え合う仕組みである被用者保険に包摂し、老後の保障や万が一の場合に備えたセーフティネットを拡充する観点からも、被用者保険の適用拡大を進めることが重要である。 ○ また、労働者の勤め先や働き方、企業の雇い方の選択において、被用者保険 制度における取扱いの違いにより、その選択が歪められたり、不公平が生じたりすることのないよう、中立的な制度を構築していく観点も重要である。 ○ こうした考え方に基づき、これまでの被用者保険の適用拡大の議論を進め てきた。加えて、賃上げが進む中で、短時間労働者がいわゆる「年収の壁」を意識した就業調整をすることなく、働くことのできる環境づくりが重要である。その際、被用者保険が民間保険ではなく、要件を満たせば加入しなければならない公的保険であることの意義や、被用者保険への加入は、保険料が生じ るものの、将来の年金給付の上乗せや傷病手当金・出産手当金の受給、被扶養 配偶者向け特定健診など、労働者にとってメリットがあることを分かりやすく発信していくことが必要である。
(短時間労働者への適用拡大)→○ 短時間労働者への適用拡大は、2016(平成 28)年 10 月から行われているが、 中小の事業所への負担を考慮して、激変緩和の観点から段階的な拡大を進める目的で、2012(平成 24)年の改正により対象事業所の企業規模要件が設けられた。開始当初は従業員数 500 人超規模の企業が対象とされ、令和2年年 金改正法では、最終的に 50 人超規模の企業を対象とすることとされた。 ○ こうした経緯も踏まえて、「当分の間」の経過措置として設けられた企業規模要件については、労働者の勤め先や働き方、企業の雇い方に中立的な制度を 構築する観点から、撤廃する方向で概ね意見が一致した。○ また、月額賃金 8.8 万円以上とする賃金要件については、就業調整の基準 (いわゆる「106 万円の壁」)として意識されていることや最低賃金の引上げに伴い週所定労働時間 20 時間以上とする労働時間要件を満たせば賃金要件を満たす地域や事業所が増加していることを踏まえ、撤廃する方向で概ね意見 が一致した。 ただし、最低賃金の動向次第では週 20 時間の所定労働時間であっても賃金要件を満たさない場合があり得ることから、賃金要件の撤廃によって保険料負担が相対的に過大とならないよう、最低賃金の動向を踏まえつつ、撤廃の時期に配慮すべきである。この点に関しては、仮に廃止するのであれば、最低賃 金の動向により、全国 47 都道府県で、8.8 万円の賃金要件が実質的な意味を 持たなくなる時期を踏まえて廃止すべきという意見があった。なお、最低賃金 を一律に適用するとかえって雇用機会を狭めるおそれ等から、たとえば障害により従事しようとする業務の遂行に直接著しい支障があるなど、最低賃金の減額の特例の対象となる者で、賃金が月額 8.8 万円未満の短時間労働者については、希望する場合に、事業主に申し出ることで任意に被用者保険に加入できる仕組みとする。 ○ 週所定労働時間 20 時間以上とする労働時間要件については、働き方に中立的な制度とする観点から雇用保険の適用拡大に伴い引き下げるべきとの意見や労働時間で就業調整する者の存在を懸念し要件の撤廃も含めた議論の継続 を求める意見があった。一方で、保険料や事務負担の増加という課題は対象者 が広がることでより大きな影響を与え、また、雇用保険とは異なり、国民健康 保険・国民年金というセーフティネットが存在する国民皆保険・皆年金の下で は、事業主と被用者との関係性を基盤として働く人々が相互に支え合う仕組 みである被用者保険の「被用者」の範囲をどのように線引きするべきか議論を 深めることが肝要であるという考え方もあることに留意しつつ、雇用保険の 適用拡大の施行状況等も慎重に見極めながら検討を行う必要がある等の意見 があった。こうしたことから、今回は見直さないこととする。 ○ 学生除外要件については、就業年数の限られる学生を被用者保険の適用対 象とする意義は大きくない、適用対象とする場合には実務が煩雑になる等の 意見があったことから、今回は見直さないこととする。
適用事業所の拡大)→○ 適用事業所の範囲は、1984(昭和 59)年の健康保険法改正及び 1985(昭和60)年年金改正法により、法人については従業員規模にかかわらず、全ての事 業所が強制適用となった。一方で、個人事業所では、1953(昭和 28)年の健 康保険法及び厚生年金保険法改正以来、適用業種に変化がなかったが、令和2 年年金改正法により、弁護士や公認会計士など法律や会計に係る業務を取り 扱う士業を適用業種に追加した。 ○ 常時5人以上の従業員を使用する個人事業所における非適用業種については、労働者の勤め先等に中立的な制度を構築する観点等から、解消する方向で概ね意見が一致した。 他方で、常時5人未満の従業員を使用する個人事業所については、本来的に は適用すべきとの意見があった一方で、適用拡大により発生する事務負担・コスト増が経営に与える影響が大きいこと、対象事業所が非常に多く、その把握が難しいと想定されること、国民健康保険制度への影響が特に大きいこと等から、慎重な検討が必要との意見もあったため、今回は見直さないこととする。 なお、将来的には常時5人未満の従業員を使用する個人事業所についても適 用を拡大すべきとの意見があった。 (複数事業所の勤務者やフリーランス等)→ ○ 被用者保険においては、事業所単位で適用要件を満たすか判断するため、複 数の事業所で勤務する者については、労働時間等を合算することなく、それぞ れの事業所における勤務状況に応じて適用の有無を判断している。 複数の事業所で勤務する者の労働時間等を合算し、被用者保険を適用する ことについては、社会保障におけるDXの進展を視野に入れながら、実務にお ける実行可能性等を見極めつつ、慎重に検討する必要があるとの意見があり、 引き続き検討していく。 ○ 複数の事業所で勤務する者の現行の適用事務について、事業所における事 務負担の軽減の観点から見直しの方向性について検討したが、医療保険者に おける財政調整の仕組みや保険料の算定方法の見直しに伴う保険者等におけ るシステム改修が必要となるなどの課題があり、関係者と丁寧に調整してい くべきとの意見があったことを踏まえ、医療保険者や日本年金機構、事業者団 体等と議論しつつ、複数の事業所で勤務する者の現行の適用事務の見直しを 引き続き検討していく。 ○ 現行制度では、適用事業所に労務を提供し、その対価として給与や賃金を受 ける使用関係がある者を「被用者」として被保険者としており、その使用関係は、形式的な契約内容によらず、実態に即して判断されることとなる。 例えば、業務委託契約でありながら、実態としては被用者と同様の働き方をしている者については、被用者保険の適用を確実なものとしていくため、労働基準監督署において労働者であると判断した事案について、日本年金機構が情報提供を受け、その情報を基に適用要件に該当するか調査を行っており、労働者性が認められる被用者については、確実に被用者保険を適用すべきである。 他方で、労働基準法上の労働者に該当しない働き方をしているフリーランス等への適用の在り方については、まずは労働法制における議論を注視する必要があること、被用者保険が事業主と被用者との関係性を基盤として働く 人々が相互に支え合う仕組みであること等の意見を踏まえ、諸外国の動向等 を注視しつつ、中長期的な課題として引き続き検討していく。
(事業所への配慮等)→○ 今後、適用拡大を進める場合、対象となる事業所においては、適用手続や 日々の労務管理等、事務負担が増加するとともに、新たな保険料発生に伴い経 営への影響があると懸念される。特に、適用拡大の対象となる労働者を多く雇 う事業所や初めて被用者保険の適用事業所となる個人事業所等では影響が大 きいと想定される。 ○ こうした経営に与える影響を踏まえた経過措置や支援策による配慮、労務費等の事業主負担の価格への転嫁を求める意見も踏まえ、円滑な適用を進められる環境整備のため、準備期間の十分な確保、事業主や労働者への積極的な周知・広報、事務手続きや経営に関する支援に総合的に取り組むことが必要である。 特に、施行時期については、個人事業所への適用拡大の影響が大きいと考えられることから、企業規模要件の撤廃を優先して施行すべきである。その際、 現在 50 人超の企業規模要件を直ちに撤廃するのではなく、段階的に拡大すべきとの意見もあった。 ○ なお、保険者が分立する医療保険制度においては、適用拡大に伴い、国民健 康保険の被保険者から健康保険の被保険者となる者、健康保険の被扶養者か ら別の健康保険の被保険者となる者等、保険者間での移動が生じることとなり、保険者の財政や運営に影響を与えることとなる。 さらなる適用拡大の検討に当たっては、被保険者等の構成の変化や財政等への影響を示した上で、保健事業の円滑な実施など保険者機能を確保する視点も含め、医療保険制度の在り方についても着実に議論を進める必要がある。

2 いわゆる「年収の壁」と第3号被保険者制度
(基本的な考え方)
→○ いわゆる「年収の壁」として、第3号被保険者が働く中で、収入や労働時間 が増加することで、本人負担の保険料が発生することによる手取りの減少を 避けるため、就業調整が行われ、希望どおり働くことが阻害されているとの指摘がある。 ○ 「年収の壁」を意識せず働くことが可能であることは、労働参加のさらなる 進展につながり、昨今の人手不足への対応や女性をはじめとした就労促進に つながるだけではなく、被用者保険に加入する場合、労働者個人にとっては将 来の年金の上乗せや傷病手当金・出産手当金の受給などのメリットが、被保険 者全体にとっても制度の支え手が増加するメリットがある。 ○ こうした背景も踏まえ、「こども未来戦略方針」(令和5年6月 13 日閣議決 定)等に記載されているとおり、短時間労働者への被用者保険の適用拡大、最低賃金の引上げとともに、制度の見直しにも取り組む必要がある。 ○ 社会保険において年収の壁として意識されているものは、第3号被保険者 が第2号被保険者として適用されるいわゆる「106 万円の壁」と、第1号保険 者として適用されるいわゆる「130 万円の壁」の2つがある。 いわゆる「106 万円の壁」では、保険料負担が増えるが厚生年金給付も増える。これは全ての厚生年金被保険者に共通であり、適用拡大に伴う短時間労働者のみ異なる取扱いとなるわけではない。 他方で、給付のことは考えず、「壁」を境にした保険料負担による手取り収入の減少のみに着目すれば「壁」を感じる者が存在することから、これへの対 応は「保険料負担による手取り収入の減少をどうするか」を出発点として考えることが基本となる。 ○ また、「106 万円」は、あくまで雇用契約上の月額賃金が 8.8 万円以上であ ることを求める賃金要件を年額換算した数値であり、時間外労働に係る賃金 は含まれない。被用者保険の適用拡大の推進に向けて、こうしたことや被用者 保険加入のメリット等について、労働者等に対する広範かつ継続的な広報・啓発活動を展開・強化する必要がある。
○ いわゆる「130 万円の壁」では、保険料負担が増えても基礎年金給付は同じ であり、これは第1号被保険者と第3号被保険者とで負担と給付の構造が異 なることによるものである。 したがって、これへの対応は、第3号被保険者のあり方そのものに着目した 何らかの見直しを行うか、「壁」を感じながら働く第3号被保険者が少なくな るよう、短時間労働者への被用者保険の適用拡大を一層加速化することが基本となる。
@ いわゆる「106 万円の壁」への制度的対応
(単に手取り収入が減少しない仕組みの課題)
→○ いわゆる「106 万円の壁」への対応を検討するに当たって、「保険料負担に よる手取り収入の減少をどうするか」を出発点とし、わかりやすい対応策の例 として、被用者保険に加入することに伴い、新たに保険料負担が発生しないよ う、一定の収入以下の労働者の保険料負担を免除し、給付については、負担免 除による給付減が将来の不利益とならないよう、現行通り、基礎年金満額に加 えて標準報酬月額に応じた報酬比例部分を支給する仕組みについて、議論を 行った。 ○ この仕組みについては、労使折半原則を踏まえた観点から慎重な意見が多 かった。加えて、本人負担はなく、事業主負担も変わらない中で、基礎年金満 額と報酬比例部分を受給できるような有利な制度とすることによる他の被保 険者や事業主への影響を懸念する意見や、免除した保険料に応じて給付を削 減した場合の将来の低年金につながる可能性を懸念する意見、就労により負 担能力があるならば、労使ともに保険料を負担するべきであり、いわゆる「年 収の壁」を理由とした本人負担の免除に理がないという意見もあった。
(就業調整に対応した保険料負担割合を変更できる特例)→○ 被用者保険では、保険料の負担は原則として労使折半であるが、健康保険法 において、健康保険組合の特例として、組合規約をもって、健康保険料の負担 割合を被保険者の利益になるように変更することが認められている。 ○ 現在、政府が保険者である厚生年金保険法においては、類似の仕組みは存在 しないが、今般、被用者保険の適用に伴う保険料負担の発生・手取り収入の減 少を回避するために就業調整を行う層に対して、健康保険組合の特例を参考に、被用者保険において、事業主と従業員との合意に基づき、事業主が被保険 者の保険料負担を軽減し、事業主負担の割合を増加させることを認める特例 を時限的に設けることについて、議論を行った。 事務局からは、仮に導入する場合として以下のような仕組みについて提案があった。 ・ 本特例の導入は、人手不足が深刻な課題として指摘される中で、「年収の壁」という足下の課題に対応するための例外的位置付けであり、被用者保険 の適用拡大の施行状況も勘案した時限措置とすること。 ・ 対象者を被用者保険の適用に伴う「壁」を意識する可能性のある者に限定し、具体的には、保険料負担による手取りの減少をなだらかにする観点から、 保険料負担割合を変更できる特例の対象標準報酬月額は 12.6 万円以下とす ること。 ・ 同一の等級に属する者同士の保険料負担の公平性を確保し、企業において 導入しやすくする観点から、本特例を利用する事業所内で、同一の等級に属 する者同士の本人負担割合を揃えることとしつつ、等級ごとの具体的な割合 は、事業所単位で労使合意に基づき任意に設定可能とすること。また、特例 対象者の賞与についても対象にできることとすること。 ・ 本特例は、例外的な措置として、労使の合意に基づいて任意に利用可能な ものであり、社会保険制度における保険料の労使折半の原則からの逸脱を示 唆するものではなく、今後導入に向けた検討を進める場合は、企業側の保険 料負担軽減についても検討を行うこと。 ○ これに対して、この特例は、いわゆる「年収の壁」を意識した就業調整によ る人手不足への対応として、就業調整の生じる可能性の高い収入層に限った 特例措置として考えられるといった意見、最も古い社会保険である健康保険 組合における特例を他の社会保険制度で行うことを許容する意見、あくまで 任意による仕組みであり労使折半原則を変更するものではないとする意見、 年金制度内で取り得る対応として「年収の壁・支援強化パッケージ」と比較し て評価する意見等があった。 ○ 一方で、慎重・反対意見としては、国が全国の統一の制度として実施してい る公的年金制度について、労使折半ルールの原則を変更し、個別企業に保険料 の設定を委ねることに強い違和感があるとの意見、保険者自治が機能しうる 健康保険と公的年金は同列でなく、制度を導入すべきでないとの意見、厚生年 金に加入して将来の年金の増額につなげることが労働者本人にとっての安心 につながるということへの理解を妨げるという意見や特例の維持や対象の拡大につながり、新たな壁を生み出しかねないという意見があった。また、被保 険者の本人負担の軽減と事業主の増加が表裏関係にあることを踏まえ、企業 規模による利用の有無を懸念する意見、中小企業の利用が少ないことで人材 流出の深刻化や企業間の待遇格差を助長するリスクといった点、従業員間で 保険料負担割合が異なり不公平感が生じる点などからの慎重な意見や反対の 意見もあった。 加えて、特例措置の期間や、併せて提案のあった特例がより広く活用される 環境整備の具体的な内容や財源などが不明確であることを懸念する意見もあ った。また、導入する際には、中小企業における保険料負担の軽減策を求める 意見やそうした軽減策は本部会の枠外で検討すべきという意見があった。 ○ 本特例の導入については賛成意見が多かったものの、制度の細部までは意 見が一致せず、一方で前述のような慎重意見や反対意見が多くあり、部会とし て意見はまとまらなかった。政府において、本部会での意見を踏まえて、本特 例の妥当性や、仮に導入するとした場合の中小企業への負担軽減策を含めた 具体的な制度案について、検討を深める必要がある。
A 第3号被保険者制度
→○ 第3号被保険者制度は、昭和 60 年年金改正法により、夫名義の年金で夫婦 2人が生活できるようになっていた給付設計を見直して、サラリーマン世帯 の専業主婦を国民年金の強制適用対象とし、自分名義の年金権を確立したも のである。これにより公的年金は、一人当たりの賃金水準が同じであれば、どの世帯類型でも負担、給付とも同じになる構造となっている。この認識に基づ き、平成 16 年年金改正法では、第2号被保険者の負担した保険料は夫婦で共 同負担したものとする規定が設けられた。
(検討の背景)→○ 第3号被保険者制度については、これまでの年金制度改正においても議論 が行われてきたが、近年では、「社会保障審議会年金部会における議論の整理」 (平成 27 年1月 21 日)において「まずは、被用者保険の適用拡大を進め、被 用者性が高い人については被用者保険を適用していくことを進めつつ、第3 号被保険者制度の縮小・見直しに向けたステップを踏んでいくことが必要で ある」との方向性が示されており、その後の「社会保障審議会年金部会におけ る議論の整理」(令和元年 12 月 27 日)においてもその方向性が踏襲されている。
○ こうした方向性も踏まえ、被用者保険の適用拡大が進められてきたところ だが、第3号被保険者の大半を女性が占めている中で、より多くの女性が就労 することによって新たに被用者保険の適用となるか、被扶養の範囲内にとど まるかを選択する必要が生じ、制度が働き方に影響を与えると意識されている機会が増えてきた。 このことは、いわゆる専業主婦世帯を念頭に創設された第3号被保険者制度 が、女性の就業率が上昇していること、専業主婦世帯が減少する一方で、共働 き世帯は増加していることなど、働き方が多様化する今の状況にそぐわないも のとなっている可能性があることから、働き方に中立的な制度となるよう、本 部会では改めて第3号被保険者制度を検討事項として取り上げて議論を行った。
(第3号被保険者の現状)→〇 2024(令和6)年7月末現在の第3号被保険者の総数は約 670 万人で、ピー ク時(1995(平成7)年)の約 1,220 万人より減少しているが、35 歳以上の 女性の約3割を第3号被保険者が占めている。2022(令和4)年現在では、第 3号被保険者の約4割が就労しており、週の平均的な労働時間は、20 時間以 上 30 時間未満が約3割、20 時間未満が約6割である。 また、2018(平成 30)年の平成 30 年度厚生労働行政推進調査事業費補助金 政策科学総合研究事業「高齢期を中心とした生活・就労の実態調査(H30-政策 -指定-008)」によれば、第3号被保険者の約6割は 18 歳未満の子と同居して おり、そのうち 30 代については約9割にも上っている一方で、年齢が上がる につれて同居する親の手助けが必要となる割合や健康上の問題で何らか日常 生活への影響がある割合が高まる傾向にある。 このように、第3号被保険者の中には、短時間労働者として働く者がいる一 方で、過半を占める非就業の中には、出産・育児や介護・看護のため、あるい は、健康上の理由のためすぐには仕事に就けない者など、様々な属性の者が混 在している状況にある。
(制度に対する評価)→○ 第3号被保険者制度に対する評価は様々であり、例えば、第3号被保険者制 度は、共働きの一般化や家族形態の多様化によって時代にそぐわない制度と なっており、もはやその役割は終えつつあると考えられること、第3号被保険 者制度自体に男女差はないものの実態として第3号被保険者の多くを女性が占めており、女性のキャリア形成を阻害し、男女間の賃金格差等を生む原因となっていること、社会保険制度内の不公平感の解消や社会の担い手の拡大を 図る必要があること等から見直しが必要との意見もあった一方で、様々な人 が混在する第3号被保険者に対する所得保障としての機能を有している、社 会保険のあるべき姿である応能負担の原則に基づく制度である等、第3号被 保険者制度の意義に着目した意見もあった。 また、労働時間や収入を問わず労働者が被用者保険に加入できるようにな った場合、第3号被保険者制度を維持したとしても、特定の収入や労働時間を 境に手取り収入が減少することはなくなり、「壁」は解消されることから、働 き控えの問題と第3号被保険者制度の是非は切り離して議論すべきとの意見 もあった。
(今後の取組の方向性)→○ 就労している第3号被保険者が第2号被保険者として厚生年金に加入する 途を開くことが重要であるとの認識は本部会で共有されており、第3号被保 険者制度に係る当面の取組の方向性としては、引き続き適用拡大を進めるこ とにより、第3号被保険者制度の縮小を進めていくことが基本的な方向性と なる。 ○ その上で、その先に残る第3号被保険者の中には様々な属性の者が混在し ている状況にあり、第3号被保険者制度の将来的な見直しや在り方に言及す る意見は多くあった一方で、次期改正における制度の在り方の見直しや将来 的な見直しの方向性については、意見がまとまらなかった。 具体的には、将来的な見直しの方向性について現時点で明示すべきとの意見、 第3号被保険者について将来的には廃止すべきなどの意見があった一方で、第 3号被保険者制度はセーフティネットに過ぎず、第3号被保険者であることが 被用者保険との関係で有利になったり、生涯収入において得をする制度設計に はなっていない、第3号被保険者制度を廃止して第1号被保険者にすることは、 「公的年金は、一人当たりの賃金水準が同じであれば、どの世帯類型でも負担、 給付とも同じになる構造」という設計思想や、「第2号被保険者の負担した保 険料は夫婦で共同負担したものとする規定」を見直すことであり、社会保障と して好ましくない応益負担の範囲を広げることになるといった意見があった。 ○ また、将来的な見直しに向けたより具体的な議論を行うためには、第3号被 保険者の実態に着目して、適用拡大を進めてもなお残る第3号被保険者を分 析していく必要があるとの意見や、検討会を設けて詳細な議論を行う必要が あるとの意見もあった。
○ 本部会としては、第3号被保険者制度をめぐる論点についての国民的な議 論の場が必要であるとの認識を共有した。 政府に対して、適用拡大を進めることにより、第3号被保険者制度の縮小・見 直しに向けたステップを着実に進めるとともに、第3号被保険者の実態も精緻 に分析しながら、引き続き検討することを求める。 ○ なお、今後の議論を行うにあたっては、以下のような論点があると考えられ、 これまで検討を積み重ねてきた成果として今後の議論に資することを期待す る。 ・ 所得保障の機能をどのように維持するか 第3号被保険者制度は第2号被保険者の配偶者という属性に着目した、包 括的な所得保障機能を有するが、制度を見直すとした場合に、所得保障の機 能をどのように損なわないようにすべきか。 ・ 給付と負担をどのように設定するか 現行制度では、夫(妻)のみ就労の世帯、夫婦共働き世帯など世帯構成に 関わらず、一人当たりの賃金水準が同じであれば、どの世帯類型でも一人当 たりの負担、給付とも同じになる構造となっている制度設計を踏まえ、第3 号被保険者制度を検討する場合には、年金給付と保険料負担をどのように設定するのか。 ・ 特定の者への配慮をどのように考えるか 第3号被保険者の中には様々な属性の者が混在しており、制度の在り方を 考える際には、一定の理由で就業できない、あるいは、希望する働き方を実 現できない者などに配慮することが必要となるが、働き方に中立的な制度を 構築するために、どのような措置が考えられるか。また、実務的に運用が可 能な仕組みや基準が考えられるか。 本部会では、第3号被保険者制度の見直しにあたって、病気や育児、介護などの理由で働けない人がいることを踏まえた支援が必要という意見があ り、具体的には、例えば、育児支援の観点から、第3号被保険者を第1号被保険者とした上で末子の年齢を基準にして保険料を免除するなどの配慮が 考えられるという意見があった。 ・ 第1号被保険者とのバランスをどのようにとるのか 配慮措置を導入する場合など、同様の配慮を求める第1号被保険者とのバ ランスをどのようにとるのか。 ・ 年金財政の構造をどのように考えるか 第3号被保険者から保険料を徴収する場合、第1号被保険者として整理し直して、国民年金勘定で保険料を徴収するのか、あるいは、第2号被保険者 に付随するものとして厚生年金勘定で徴収するのか。 ・ 第3号被保険者制度に付随する制度への影響 被扶養配偶者を有する被保険者が負担した保険料は夫婦で共同負担した との基本的認識を改める必要があるが、それに伴い、年金分割等の在り方も 検討する必要が生じる。 本部会では、第3号被保険者制度を廃止するということは、従来の公的年 金の設計思想が根本的に変わることになるため、一貫した整合性が確保でき るよう、具体的な制度全体の設計を示す必要があるという意見があった。
(広報の必要性)→○ 被用者保険に加入するメリットと合わせて、第3号被保険者制度に係る周 知・広報を行うことの重要性も指摘されており、第3号被保険者となることを 進んで選択することは年金給付の面で差がつくことや、生涯賃金やキャリア 形成等の面においても影響があることについて正確な情報を発信し、第3号 被保険者は得だという意識を変えていくことが必要である。そのためには、 2024(令和6)年財政検証で導入された年金額の分布推計で明らかになった、 厚生年金の加入期間の延長による将来の女性の給付額の増加について周知・ 広報に取り組むとともに、個々人のベースで老後の生活設計をより具体的に イメージできるようにするための仕組みとして整備されている公的年金シミ ュレーターといったツールも活用しながら、年金制度を正しく理解してもら うための普及・啓発を進めることも、女性の年金確保にとって重要である。

3 在職老齢年金制度の見直し
(基本的な考え方)
→ ○ 公的年金においては、保険料を拠出した者に対し、それに見合う給付を行う ことが原則であるが、2000(平成 12)年の年金制度改正(平成 12 年年金改正 法)において、少子高齢化の進行などにより現役世代の負担が重くなる中で、 60 代後半で報酬のある者は年金制度を支える側にまわってもらうという考え 方から、賃金と年金の合計額が現役世代の賃金収入を上回る者は、在職老齢年 金制度による支給停止の対象とすることとなった。 ○ その後、少子高齢化の一層の進行などを踏まえ、平成 12 年年金改正法後の 平成 16 年年金改正法においては、将来の現役世代の負担が重くなることを避 けるための更なる対応として、保険料水準の上限を定め、積立金も活用しつつ、その財源の範囲内で給付水準を調整するマクロ経済スライドを導入したこと で、長期的な給付と負担のバランスを確保している。 ○ 平成 16 年年金改正法による財政フレームでは被保険者の増加は将来の給付 水準の向上につながる。2024(令和6)年財政検証において、労働参加の進展 による支え手の増加が年金の財政状況、すなわち将来の給付水準にプラスの 影響をもたらしており、働く意欲のある高齢者の活躍を促進することは年金 制度にとっても重要となっている。 ○ 在職老齢年金制度については、高齢者の就労促進の観点から見直しを求め る声がある。しかし、2024(令和6)年財政検証のオプション試算でも確認さ れたとおり、見直しによる就労の変化を見込まない場合、働く年金受給者の給 付が増加する一方、将来の受給世代の給付水準が低下することを踏まえ、在職 老齢年金制度の見直しに慎重な意見も存在する。 こうした中で、高齢期の就労と年金をめぐる調整については、年金制度だけ で考えるのではなく、税制での対応や各種社会保障制度における保険料負担 等での対応を併せて、今後とも検討していくべき課題であるとされた一方で、 就労に与える影響が一定程度確認されている 60 台前半の就労、特に 2030(令和 12)年度まで支給開始年齢の引上げが続く女性の就労を支援するという観点等から、令和2年年金改正法では、60 歳から 64 歳に支給される特別支給の老齢厚生年金を対象とした在職老齢年金制度(低在老)について見直しが行われた。 ○ 現在のところ 65 歳以上の在職老齢年金制度による就業抑制効果について実 証研究に基づく定量的な確認はされていないが、2024(令和6)年の内閣府「生活設計と年金に関する世論調査」に基づくと、60 代後半の3割強が「厚生年金を受け取る年齢になったときの働き方」の問に対し、「年金額が減らないよ うに、就業時間を調整しながら会社などで働く」と回答しており、一定程度の 高齢者は在職老齢年金制度の存在を意識しながら働いている様子が伺える。 〇 また、多くの産業に人手不足が生じ、就業者も高齢化していく中、在職老齢 年金制度に関心を有する一部の業界へ同制度の影響を聞いたところ『人材確 保や技能継承等の観点から、高齢者活躍の重要性がより一層高まっているが、 在職老齢年金制度を意識した就業調整が存在しており、今後、高齢者の賃金も 上昇していく傾向にある。高齢者就業が十分に進まないと、サービスや製品の 供給に支障が出かねない』といった旨の声も寄せられた。既に中小企業の深刻な人手不足についての指摘もある中、少子高齢化が進行し、こうした状況が今 後様々な業界へと波及することもあり得る。
(見直しの方向性)→○ 本部会の議論では、
・ 保険料を拠出した者に対し、それに見合う給付を行うという公的年金の原 則との整合性 ・ 高齢者の活躍を後押しし、できるだけ就業を抑制しない、働き方に中立的な仕組みとする観点 から、現行の在職老齢年金制度を見直すことで概ね意見は一致した。 ○ 具体的な見直し案について、部会では、賃金と老齢厚生年金の合計額による 支給停止の基準額(現行は 50 万円)を引き上げる案と、廃止案について議論したが、特定の案に意見はまとまらなかった。具体的には、高齢者の就労促進や保険料を拠出した方にそれに見合う給付を行う年金制度の原則を踏まえて、 支給停止の基準額の引上げから始めて、将来的な廃止まで段階的に見直すべ きという意見、将来世代の給付水準の低下に配慮を求める意見、制度を撤廃することで年金制度の原理原則との整合性を高めつつより納得性の高い年金制度にすることが重要という意見、撤廃に伴って税制上の対応等を求める意見があった。 〇 本部会での意見を踏まえて、政府において具体的な制度の見直し案について検討を行う必要があるが、検討結果によっては、基準額の引上げにとどまり、 引き続き在職老齢年金制度が存続する可能性がある。 仮に制度が残る場合には、高齢者の就労インセンティブを阻害する影響や、 あるいは就労が増加することによる経済全体へのプラスの影響等について引 き続き実態の把握や分析が重要である。 また、賃金以外の収入がある者との公平性の観点から総収入をベースに年金 額を調整する制度とすることなど、調整方法そのものの見直しに関する意見、 在職老齢年金制度が正確に理解されていない中で、感覚的に就業調整を行っている事例に対して周知・広報を求める意見があったところであり、こういった 意見も踏まえて引き続き検討を進めるべきである。
4 標準報酬月額上限の見直し
(基本的な考え方)
→○ 厚生年金保険法においては、標準報酬月額の上限の考え方を法律に規定し、 政令で上限を追加することが可能となっている。これは、平成 16 年年金改正 法で、保険料率の引上げスケジュールがすべて法定化されたことに伴い、導入されたものである。 ○ 具体的には、各年度末時点において、全被保険者の平均標準報酬月額の2倍 に相当する額が標準報酬月額の上限を上回り、その状態が継続すると認められる場合には、政令で、新たな上限を追加することが可能である。 当該改定ルールに基づき、2020(令和2)年には、現在の上限である 65 万 円が追加された。 ○ 厚生年金では 2024(令和6)年時点で、標準報酬月額の上限等級(65 万円) に該当する者の割合は 6.5%となっており、健康保険の1%未満という割合と 比較すると、多くの者が上限等級に該当している。また、上限等級に該当する 者の割合が女性よりも高い男性では、上限等級が最頻値である。 加えて、上限の額について、健康保険の 139 万円と比べると、平成 16 年年 金改正法以降では差が大きく開いている。 ○ 現行の上限改定ルールの法定化以降、2020(令和2)年9月の1等級の上限 引上げを経ても、厚生年金保険において、上限等級に多くの者が該当している 状態が継続している。 ○ 上限等級を追加した場合には、新たな上限等級に該当する者の報酬比例部分 が増加するとともに、保険料収入が増加し、これが給付に反映されるまでの間 の積立金の運用益が増加することにより、厚生年金受給者全体の将来の給付 水準も上昇し、高齢期の経済基盤の安定、所得保障・再分配機能の強化につながる。 ○ なお、現行の上限改定ルールは、給付額の差があまり大きくならないようにする観点から設定されており、こうした考え方も意識しながら、ルールの見直しを行う必要があるが、年齢別の標準報酬月額分布の現状をみると、長期間に わたり上限に該当し続ける者はほぼおらず、今回のルールの見直しが直ちに 極端な給付額の差を生むとは考えがたい。
(見直しの方向性)→ ○ 上限該当者は、負担能力に対して相対的に軽い保険料負担となっている中、今後、賃上げが継続すると見込まれる状況において、負担能力に応じた負担を 求める観点や将来の給付水準全体にプラスの効果をもたらす所得再分配機能 の強化の観点から、現行の標準報酬上限額の改定のルールを見直して新たな 等級を追加することについては概ね意見は一致した。なお、上限を引き上げる ことの負担感は、被保険者本人にも事業主にとっても相当大きいものである ことに留意が必要との意見があった。 ○ この新しい改定ルールについては、健康保険法の改定ルールを参考に、上限 等級に該当する者が占める割合に着目して上限等級を追加することができる ルールが考えられる。その際には、男女ともに上限等級に該当する者が最頻値 とならないような観点を踏まえつつ、事業主負担への配慮から、引き上げられ る上限は小幅に留めるとともに、必要があれば影響等を検証しつつ段階的に 引き上げるべきとの意見もあり、本部会での意見を踏まえて、政府において具 体的な制度の見直し案について検討が必要である。 ○ なお、2024(令和6)年財政検証のオプション試算で確認されたとおり、標準報酬月額の上限の見直しにより、所得代替率へのプラス影響が存在する。そのため、在職老齢年金制度の見直しによる所得代替率へのマイナス影響と相 殺する形での見直しを求める意見があった一方で、単なる財源対策とするべ きではないとの意見もあった。 その他、中間程度の等級該当者に比べ、上限該当者の賞与の支給がないこと も踏まえて、給与と賞与のバランスに関わらず、公平に負担を求められるよう な仕組みが必要といった意見や標準報酬月額制度そのもののあり方の見直しも検討すべきとの意見もあった。

5 基礎年金のマクロ経済スライドによる給付調整の早期終了
(議論の背景)→○ 現行の年金制度では、少子高齢化が進む中にあっても、将来にわたり現役世代の保険料負担の上昇を抑えるとともに、将来の年金額を確保するため、マクロ経済スライドによる給付調整により、賃金や物価の伸びより年金額の伸び が抑えられている。 ○ マクロ経済スライドは持続可能性の確保のために必要な措置であるが、名目下限措置の下デフレ経済が続いたことで、マクロ経済スライドによる給付 調整の期間は長期化している。2024(令和6)年財政検証では、特に、基礎年金(1階)の給付調整は、政府が目指す成長型経済移行・継続ケースでは 2037 (令和 19)年度に終了すると見込まれる
一方、過去 30 年の状況を投影した経 済前提では、報酬比例部分(2階)の給付調整が 2026(令和8)年度の終了 見込みである中で、30 年以上にわたり続き、その水準は長期にわたって低下 する見込みである。この場合、将来においては、厚生年金の受給者を含めた年 金額が低下するとともに、所得再分配機能も低下し、低所得層ほど年金額の低 下が大きくなる。 ○ 本部会では、デフレ経済が継続した過去 30 年の状況を投影した経済前提を中心に、年金制度の持続可能性を確保しつつ、将来の公的年金全体の給付水準の向上を図る観点から、公的年金全体としてマクロ経済スライドによる給付調整をできる限り早期に終了させていくことが議題としてあげられた。
(見直しの考え方)→
○ 上記の背景も踏まえ、基礎年金のマクロ経済スライドによる給付調整を早期に終了させる場合の具体的な方法として、国民年金と厚生年金それぞれの財政均衡を維持した上で、報酬比例部分(2階)のマクロ経済スライドを継続し、基礎年金(1階)と報酬比例部分(2階)の調整期間を一致させ、公的年金全体として給付調整を早期に終了させるため、現行の被保険者数の人数割 に加え積立金も勘案して計算する基礎年金拠出金の算定方法の変更と併せて 事務局から提案された。 ○ これらの見直しは、以下を踏まえて提案されたものである。 ○ 現行制度上も厚生年金の保険料(18.3%)には基礎年金(1階)分も含まれるため、厚生年金の保険料や積立金は、報酬比例部分(2階)だけでなく、基礎年金(1階)の給付にも充てられている。 ○ その上で、賦課方式である年金制度における積立金は、毎年度の保険料を給付に充て、余った残余が積み立てられてきたものであり、積立方式のように個人の持ち分という考え方はなく、被保険者が制度間を移動しても積立金は移 動しない。 そうした中で、令和3年度における老齢基礎年金の算定基礎となる期間を 見ると、第1号被保険者期間のみである者は 65 歳受給権者の3%、全受給権 者の 8.1%であり、ほとんどの者は第2号被保険者や第3号被保険者の期間を持っている。加えて、年金給付が大きくなった現在、保険料の残余はほぼなく、現在の積 立金は、過去の被保険者の保険料の残余が積み立てられ、運用により増大してきたものである。
(見直しに当たっての論点)→○ 過去 30 年の状況を投影した経済前提では、給付調整の早期終了を講じた場合、調整終了後の年金水準は、99.9%を超えるほぼ全ての厚生年金受給者で上 昇する見込みとなるものの、報酬比例部分(2階)の調整期間が継続することで、現行制度の見通しと比べ、この期間中に厚生年金を受給する者は、一時的に年金水準が低下することとなる(ただし、平成 16 年年金改正法当時の見通しと比べれば高い水準となる。)。 この一時的な年金水準の減少の影響を令和6年度の年金額改定に当てはめて単年度で見ると、いわゆるモデル年金(2人分)で月額 370 円程度、厚生年 金期間中心の者(1人分)で月額 360 円程度、第1号被保険者期間中心の者(1人分)で月額 40 円程度、年金額の伸びが抑えられることとなる。 ○ この報酬比例部分(2階)の給付調整の継続と財産権との関係という論点について、いわゆる特例水準の解消について合憲とした判決の中で、マクロ経済 スライドは「我が国における少子高齢化の進展が見込まれる中で、世代間の公平に配慮しながら前記の財政の均衡を図りつつ年金制度を存続させていくた めの制度として合理性を有するものとして構築された」とされていることも 踏まえ、マクロ経済スライドの終了がそもそも社会経済情勢によるため不確定なものであること、将来の給付水準の確保のため、現在の給付水準からの低 下を抑える措置であることなどから合理性があると考えられるのではないか、 その際には、同時に、報酬比例部分(2階)の調整期間の継続に当たって、際 限なく続くことのないよう、調整の期間上限を定める必要があるのではないか、との意見があった。 ○ また、早期終了措置を講じる場合には、将来の基礎年金水準が上昇する結果、 現行制度と比べて国庫負担が増加することとなる。こうした国庫負担の増加は、基礎年金のマクロ経済スライドの調整終了以降(2024(令和6)年財政検証で過去 30 年の状況を投影した場合では 2037(令和 19)年度以降)に生じることとなるため、それまでに安定した財源の確保が必要となる。 〇 他方、年金額への影響は前提とする社会経済状況によって大きく異なり、労 働参加の進展や運用利回りの改善など、社会経済状況が良くなれば、マクロ経済スライドによる給付調整は現在の見通しよりもそもそも早期に終了できる 可能性がある。前述のとおり、成長型経済移行・継続ケースでは 2037(令和 19)年度に基礎年金(1階)の給付調整が終了し、その時点の所得代替率は 57.6%になると見込まれる。現行制度に加え、1の被用者保険の適用拡大を行 う場合は将来の所得代替率が 59.3%を確保できる。
(本部会における議論)→○ 本部会における議論では、過去 30 年の状況を投影した経済前提を中心に、 全国民共通の基礎年金が将来にわたって一定の給付水準を確保することの重 要性については、委員の意見が概ね一致した。この観点から、今後の経済が好調に推移しない場合に発動されうる備えとしてはマクロ経済スライドの早期終了の措置を講じることについて賛成の意見の方が多かった。 一方で、慎重な意見もかなりあり、見直し後の給付と負担の構造が分かりづ らいことや報酬比例部分(2階)の調整期間の延長により足下の年金の給付水 準が下がる場合があること、基礎年金水準上昇に伴う国庫負担の増加に対応 した財源確保の見通しが曖昧であることなどから国民の理解が得られるのか というものや、厚生年金の積立金を基礎年金(1階)の給付水準の向上に活用 することは、実際に厚生年金保険料を負担している被保険者や事業主の理解 が得られるのかというものもあり、部会として意見はまとまらなかった。 その他にも、被用者保険の適用拡大を行った場合にも基礎年金の給付水準 が向上することを踏まえ、厚生年金の積立金が第1号被保険者の基礎年金(1 階)に充当される額を減少させる観点から、オプション試算で示した所定労働 時間が週 10 時間以上の全ての被用者を適用することも含めて、被用者保険の適用拡大を進めることを求める意見や将来世代への負担の先送りとならないように早期終了の措置を講じる上では財源確保を前提とすべきという意見、 将来の基礎年金の給付水準の向上の手段として最も自然な対応として基礎年金の拠出期間延長をより優先して取り組むべき、国民年金財政自体の改善努力も示すべきという意見などがあった。 政府においては、保険料や積立金の使途を明確にして、基礎年金をめぐる仕 組みの透明性向上を図り国民にわかりやすく丁寧に説明し、課題についての 関係者の理解に努めるとともに、将来の水準確保に向け、マクロ経済スライド の早期終了の措置に関して、上記の経済が好調に推移しない場合に発動され うる備えとしての位置づけの下、さらに検討を深めるべきである。

次回も続き「U 次期年金制度改革等 6 高齢期より前の遺族厚生年金の見直し等
からです。

第24回社会保障審議会年金部会 [2025年01月23日(Thu)]
第24回社会保障審議会年金部会(令和6年12月24日)
議事 社会保障審議会年金部会における議論の整理(案)について
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/nenkin_20241224.html
◎資料1 社会保障審議会年金部会における議論の整理(案)
T はじめに
1 これまでの年金制度改革の経緯↓

○ 我が国の公的年金制度の基本的な構造は、1985(昭和 60)年の年金制度改 正(昭和 60 年年金改正法)によって、それまで国民年金と厚生年金で別建て になっていた体系から、給付について新たに全国民を共通とした1階の基礎 年金(国民年金)と2階の報酬比例部分(厚生年金)に再構成されたことを基礎とする。 その際、それまで夫名義の年金で夫婦2人が生活できるようになっていた給付設計を見直して、サラリーマン世帯の専業主婦を国民年金の強制適用対象と し、第3号被保険者として自分名義の年金権を確立した。これにより公的年金 は、一人当たりの賃金水準が同じであれば、片働き、共働きなど世帯類型に関 わりなく負担、給付とも同じになる構造となった。この認識に基づき、2004(平 成 16)年の年金制度改正(平成 16 年年金改正法)では、第2号被保険者の負 担した保険料は夫婦で共同負担したものとする規定が設けられた。 なお、給付に必要な保険料財源については、第1号被保険者、第2号被保険 者、第3号被保険者に大別された国民年金被保険者の種別に応じて、第1号被保険者は定額の保険料、第2号被保険者は労使折半による報酬に対する定率の保険料、第3号被保険者は厚生年金制度全体の負担により賄う仕組みにするとともに、基礎年金給付のための基礎年金拠出金の仕組みが整備された。また、 配偶者や子どもに着目した加算や加給年金についても再設計が行われた。 こうした昭和 60 年年金改正法で導入された仕組みを基に、現在(2022(令和4)年度)の公的年金制度では、約 6744 万人の被保険者が年間約 41 兆円の 保険料を負担し、国庫負担約 13 兆円と合わせて、約 3975 万人に対して年間約 53 兆円の給付が行われることで、老後の所得保障の柱として重要な役割を担っている。
○ 2025(令和7)年は昭和 60 年年金改正法から 40 年に当たる年であり、2026(令和8)年には新制度発足下で当時 20 歳だった被保険者が 60 歳となり、 40 年という基礎年金拠出期間を終えることになる。 この間、年金制度を取り巻く社会経済の状況は大きく変化し、年金制度にも 様々な影響を与えてきた。少子高齢化の進行は、公的年金の給付と負担に影響 を与えるとともに、平成に入ってから我が国が経験したデフレ経済は、年金制 度の財政状況にも影響を及ぼした。 人口構造の変化や日本経済の低迷は、将来の公的年金制度の在り方の議論に つながり、昭和 60 年以降も約5年に1度のタイミングで行われてきた年金制 度改正では、将来的な制度の持続可能性の確保が大きな課題となった。
○ この点で大きな転機となったのは、平成 16 年年金改正法により導入された 財政フレームである。平成 16 年年金改正法前は、5年ごとの財政再計算の際 に、給付と負担を見直していたが、少子高齢化の影響によって、財政再計算毎 に保険料負担が増加する見通しが示され、現役世代にとっては、将来が見通し にくく、年金制度に対する不安につながっているという意見が強まった。 平成 16 年年金改正法では、それまでの給付と負担の見直し方法を改め、将 来の財源を固定し、その範囲内で給付水準を自動的に調整する方式を導入した。 具体的には、@保険料水準の引上げスケジュールを明記した上で将来の保険 料水準の上限を固定し、A基礎年金の国庫負担を2分の1へ引き上げることと した。さらに、B財政の均衡を図る期間を概ね 100 年とした上で、積立金を活 用することとした。この@からBにより、財源の枠組みを固定した上で、C少 子高齢化の中でも財政均衡期間で年金財政が均衡する水準まで、年金の給付水 準を自動的に調整する仕組み(マクロ経済スライド)を導入した。これにより、 長期的な年金財政の枠組みが構築され、年金制度の将来への不安の解消を図っ た。ただし、マクロ経済スライドについて、年金の名目額を維持するところま でしか給付調整を行わない措置(名目下限措置)がとられたために、その後の 発動に当たってデフレ経済の影響を受けていくこととなった。
○ 2004(平成 16)年に導入された財政フレームは、現在も年金制度の基本的 なスキームであり、将来の年金制度の持続可能性を考える上での根幹となっている。 平成 16 年年金改正法で上限が固定された保険料水準は、予定通り 2017(平成 29)年に上限に到達し、それ以降は実質的な引上げは行われておらず、現役世代の負担への配慮が継続されている。 また給付面では、社会保障と税の一体改革の中で、消費税率引上げによる増 収分を活用して国庫負担割合の2分の1への引上げが完成した他、制度の持続可能性を高め、将来世代の給付水準を確保するため、2016(平成 28)年の年金 制度改正(平成 28 年年金改正法)では、マクロ経済スライドについて名目下限措置を維持しつつ、賃金・物価上昇の範囲内で前年度までの未調整分を調整するルール(キャリーオーバー制)と、賃金・物価スライドについて賃金変動が物価変動を下回る場合には賃金変動に合わせた改定をする考え方(賃金スラ イド徹底)を導入した。 マクロ経済スライドは、名目下限措置により長引くデフレ経済下で調整が 発動しない年が続き、2015(平成 27)年度に初めて発動したが、給付水準の調整は遅れ、将来的な年金給付水準が低下した。平成 28 年年金改正法で導入 されたキャリーオーバー制によって、発動できなかった分は本来発動すべき年から数年内に解消し、将来の給付水準の確保に一定の貢献をしている。
○ 社会経済状況に目を転じれば、働き方の多様化によって、パートタイムやア ルバイトといった非正社員の働き方が広まり、従来、フルタイム相当以外の適 用を除外していた厚生年金が適用されないような働き方をする者が増加した。 これらの者は、従来の自営業者を想定した国民年金の第1号被保険者とは異なるものの、フルタイムの正社員を想定した第2号被保険者(厚生年金被保険 者)には当てはまらないような働き方であり、被用者保険(厚生年金保険・健 康保険)における適用範囲について再度の検討が求められた。これを受けて、 2012(平成 24)年の健康保険法・厚生年金保険法の改正では要件を満たす短 時間労働者への適用が実現し(2016(平成 28)年 10 月施行)、2020(令和2) 年の改正まで段階的に拡大してきた。 働き方の多様化は、第3号被保険者制度にも影響し、女性の就業率の高まり や共働き世帯の増加によって、いわゆる専業主婦を想定していた第3号被保 険者のうち約4割が就労するようになり、それに伴う被扶養認定基準や被用 者保険の適用要件を意識した働き方から、いわゆる「年収の壁」の問題が意識 されることとなった。
○ また、平均寿命や健康寿命の延伸や高い就労意欲から、高齢者の就業が進み、 高齢者は社会経済の支え手としての重要性を増していった。より多くの人が 以前よりも長く多様な形で働く社会となることを展望した上で、高齢期の経 済基盤の充実のために、2020(令和2)年の年金制度改正(令和2年年金改正法)では、60 代前半の在職老齢年金制度の見直しや繰下げ受給制度の 75 歳ま での拡充など、高齢者の働き方に関わる制度の見直しに取り組んだ。 その後も、多くの産業に人手不足が生じ、就業者も高齢化していく中、高齢 者就業がサービスや製品の供給の前提となる業界も存在するほど、高齢者は重要な役割を果たしている。

2 令和2年年金改正法成立後の検討→○ 令和2年年金改正法の前提となった 2019(令和元)年の財政検証では、2014 (平成 26)年財政検証を踏襲して、引き続きオプション試算(被用者保険の更なる適用拡大、保険料拠出期間の延長と受給開始時期の選択肢の拡大等)を実施し、本部会では、その結果を参照しながら制度改革の議論を行った。 その結果、2020(令和2)年5月には、被用者保険の適用拡大の促進(@短時間労働者の適用に関する企業規模要件の 500 人超から 50 人超までの段階的引下げ、A常時5人以上の従業員を使用する個人事業所に係る適用業種への士業の追加等)、60 歳から 64 歳に支給される特別支給の老齢厚生年金を対象とした在職老齢年金制度の支給停止基準額の引上げ等を行う令和2年年金改正法が成立した。なお、令和2年年金改正法は、与野党共同提出の修正案は全会 一致で賛成、修正部分除く政府案も概ね賛成の上、成立している。 ○ 令和2年年金改正法の成立後、2022(令和4)年 10 月から再開した本部会では、上記のようなこれまでの改革の経緯に加え、年金制度を取り巻く社会経 済状況の変化や令和元年の本部会の議論の整理、令和2年年金改正法の検討 規定や附帯決議、委員から寄せられた課題等を踏まえ、幅広い事項を取り上げて議論を開始した。 ○ 各テーマのうち、被用者保険の適用範囲については、令和2年年金改正法の規定により、法成立以後に初めて作成される財政検証等を踏まえ、検討を加え、 その結果に基づき必要な措置を講ずることとされている。また、全世代型社会 保障構築会議においても、国民の価値観やライフスタイル、働き方の多様化が進む中で、格差の固定化や貧困の防止を図り、社会の分断を防ぐ観点からも、 働き方、雇い方に中立的な社会保障制度の構築が求められてきた。 以上を踏まえ、2024(令和6)年2月より、「働き方の多様化を踏まえた被 用者保険の適用の在り方に関する懇談会」(保険局長及び年金局長が開催)において、適用拡大に伴う関連データや動向の検証、関係者からのヒアリング等による実態把握、更なる適用拡大に伴う諸課題の分析・整理が行われ、2024(令和6)年7月3日に議論の取りまとめが行われ、本部会にも報告された。 ○ また、被用者保険の加入には、報酬比例部分の年金が基礎年金に上乗せされるなど給付面のメリットがある一方で、国民年金第3号被保険者が被用者保険に加入する際に、新たに保険料が発生することによる手取りの減少を避けるため、就業調整が行われ、希望どおりに働くことが阻害されているとの指摘があり、いわゆる「106 万円の壁」として対応が求められた。また、第3号被 保険者が、被用者保険に加入せず年収が 130 万円を超えて、第1号被保険者 になる場合には、新たに保険料が発生しながら給付は変わらないことを踏ま えた就業調整については、いわゆる「130 万円の壁」として対応が求められた。 ○ こうした背景の下、2023(令和5)年 10 月からは「年収の壁・支援強化パ ッケージ」が開始された。 いわゆる「106 万円の壁」については、キャリアアップ助成金により、短時 間労働者が被用者保険の適用による手取り収入の減少を意識せず働くことが できるよう、賃上げや所定労働時間の延長のほか、被用者保険適用に伴う保険 料負担軽減のための手当(社会保険適用促進手当)により労働者の収入を増加 させる取組を行った事業主に対する支援を行うとともに、事業主が支給した 社会保険適用促進手当については、適用に当たっての労使双方の保険料負担 を軽減するため、新たに発生した本人負担分の保険料相当額を上限として被 保険者の標準報酬月額等の算定において考慮しないこととした。 また、いわゆる「130 万円の壁」については、事業主の証明による被扶養者 認定の円滑化として、被扶養者の生計維持等の認定基準である年収 130 万円 未満であることを医療保険者等が判断する際に、労働時間延長等に伴う一時 的な収入変動である旨の事業主の証明を添付することで迅速な判断を可能と した。 これらの措置は、当面の対応策で時限を定めた上で講じられたものが多く、 終了後も見据え、制度的な対応の検討が併せて求められた。 ○ こうした背景も踏まえて、「経済財政運営と改革の基本方針 2024」(令和6 年6月 21 日閣議決定)等の各種閣議決定・政府決定でも、働き方に中立的な 年金制度の構築等を目指すこととされ、短時間労働者への被用者保険の適用 拡大、いわゆる「年収の壁」を意識せず働くことができるような制度の見直し が、課題として盛り込まれている。 ○ 加えて、令和2年年金改正法の法案審議過程では、附帯決議の中で基礎年金水準の低下への対応の検討が求められた。1つは、基礎年金の拠出期間の 45 年への延長の検討である。加えて、財政検証において、基礎年金が厚生年金に 比べ、マクロ経済スライドによる調整期間が長期化する見通しで、所得代替率 のうち基礎年金相当部分の水準低下が大きくなることが予想されていることを踏まえた対応の検討も求められた。 ○ 本部会では、こうした政府等における課題の設定や社会経済状況の変化を 踏まえつつ、被用者保険の適用拡大、高齢期と年金制度の関わり等、年金制度において改革を進めるべき事項について、2022(令和4)年 10 月から 2024(令 和6)年 12 月までの○回にわたり、精力的に議論を行った。この中で、公的年金と私的年金の連携については、本部会と企業年金・個人年金部会の合同開 催を初めて行った。また、部会の内容への国民のアクセス向上、制度や見直し 案の理解促進の観点から、議事録の早期の公開や公開までのアーカイブ配信 の試行を行うこととした。

3 2024(令和6)年財政検証→○ 2024(令和6)年は、5年に1度の財政検証を行う年であり、同年7月3日 に財政検証結果が公表され、本部会に報告された。2019(令和元)年の本部会 の議論のとりまとめにおいて、内容の充実も含めて、次のように、オプション 試算を重視した改革論議を進めていくべきとされた。 「社会経済状況に応じて5年に1度財政検証を行う公的年金制度には、制度改革、その効果検証、社会保障の動向把握、年金財政の現状把握と将来像の投影というPDCAサイクルが組み込まれている。このサイクルにおいて、オプション試算は社会経済の変化に対応した改革志向の議論を進めていく上で必要不可欠なものである。今後とも、課題に対応した内容の充実も含めて、オプション試算を重視した改革論議を進めていくべきである。」 こうした経緯も踏まえ、2024(令和6)年財政検証は、新しい将来推計人口と幅広い経済前提の設定に基づき試算を行うだけでなく、被用者保険の更なる 適用拡大、基礎年金の拠出期間の延長・給付増額、基礎年金のマクロ経済スライドの早期終了(調整期間の一致)、在職老齢年金制度、標準報酬月額上限等、 制度改革を実施した場合を仮定したオプション試算を実施した。 また、従来から示しているいわゆる「モデル年金」の年金額や所得代替率の将来見通しに加え、世代ごとの 65 歳時点における老齢年金の平均額や分布の 将来見通し(年金額の分布推計)を初めて実施した。 ○ この財政検証の結果からは、以下の点が明らかになった。 @ 1人当たり成長率をゼロと見込んだケースを除き、現行の年金制度の下でも、引き続き、所得代替率 50%の給付水準を今後概ね 100 年間にわたり 確保できることが確認できた。また、近年の女性や高齢者の労働参加の進展や積立金の好調な運用等により、2019(令和元)年財政検証に比べ、将来の 給付水準の向上が確認できた。 A 一方で、平成 28 年年金改正法による年金額の改定ルールの見直し以前の名目下限措置ゆえのマクロ経済スライドの未発動の影響を報酬比例部分に 比べ強く受けた基礎年金の調整期間が長期化し、過去 30 年の経済状況を投 影した保守的なケースでは、30 年以上の調整が必要となる結果、将来の基 礎年金の給付水準が低下する見通しとなった。 B 被用者保険の更なる適用拡大では、適用拡大を 90 万人、200 万人、270 万 人、860 万人の4つのケースで試算を行い、対象者の規模が大きいほど所得代替率や基礎年金の水準確保に効果が大きいことが確認できた。 C 基礎年金の拠出期間の延長・給付増額、基礎年金のマクロ経済スライドの 早期終了(調整期間の一致)は、基礎年金を含めた年金の水準確保に効果が 大きいことが確認できた。 D 65 歳以上の在職老齢年金制度や標準報酬月額上限の見直しについても試 算を行い、在職老齢年金制度については現在の働く年金受給者の厚生年金 給付の水準確保に、標準報酬月額上限の見直しについては上限該当者も含めて将来の厚生年金給付の水準確保に効果があることが確認できた。 E 年金額の分布推計により、若年世代ほど労働参加の進展により厚生年金の被保険者期間が延伸し、将来的な年金額の増加に寄与することが確認された。
4 次期年金制度改革の方向性→ ○ 本部会では、これまで見てきたような令和2年年金改正法以降の議論や、 2024(令和6)年財政検証結果を踏まえ、 ・ 平均寿命・健康寿命の延伸や家族構成・ライフスタイルの多様化、女性・高齢者の就業拡大、今後見込まれる最低賃金の上昇・持続的な賃上げという 社会経済の変化に対応する観点から取り組むべき課題 ・ 年金制度が有する所得保障機能の強化の観点から取り組むべき課題 への対応を大きな2つの柱として、次期年金制度改革に向けた具体的な見直しの方向性について、2024(令和6)年夏から精力的に議論を重ねてきた。 ○ 本部会の議論では、個別の検討課題については、それぞれの委員間で意見の 相違が見られたものの、検討項目全体を貫いて今後の制度改革の基本に置く べき考え方として、概ね以下のような方向性を共有した。@ ライフスタイル等の多様化の反映・働き方に中立的な制度の構築 基礎年金が創設されてからの 40 年間で、国民のライフスタイルは大きく変化している。単身世帯が増加するとともに、夫婦世帯においても、 かつては夫が生計を維持し妻が被扶養者となるいわゆる専業主婦世帯が 多かったが、平成以降は女性の就業参加が拡大する中で、共働き世帯が 専業主婦世帯を上回っており、近年はその差が拡大する傾向にある。 公的年金は、一人当たりの賃金水準が同じであれば世帯類型に関わりなく負担、給付とも同じになる構造となっていることは、先に述べた通 りである。 一方で、年金制度には、遺族年金制度のように従来の性別による固定的な役割分担を念頭に制度上の男女差がある制度や、加給年金など賃金 水準との関係ではなく扶養関係を前提にした制度が存在しており、ライフスタイルの多様化を反映した制度の在り方について議論を深める必要がある。 また、総人口の減少に伴う労働力人口の減少や、産業界から人手不足が指摘される中で、年齢や性別に関わりなく、誰もが意欲と能力に応じて就労できる機会の拡大が求められており、近年、女性や高齢者の就業 拡大している。 現行の被用者保険制度では、労働者の勤め先や働き方、企業の雇い方 の選択により適用が異なるほか、被用者保険が適用される際の保険料負 担の発生による手取りの減少を避けるため、就業調整が行われていると の指摘がある。また、高齢期に就労する際も賃金等の多寡によって老齢 厚生年金の一部又は全部が停止される制度(在職老齢年金制度)も課題として指摘されている。 次期制度改正に向けては、ライフスタイルの多様化を反映し、どのような働き方、雇い方を選択しても中立的な制度であって、就労インセンティブを阻害せず、より長く働いたことが年金給付に的確に反映される制度が求められる。 A 高齢期の経済基盤の安定や所得保障・再分配機能の強化 高齢期の所得保障の柱となるのは公的年金であり、そのうちの基礎年金 は、所得の多寡にかかわらず、全国民に共通して給付され、定額給付であることを通じて、2階の報酬比例部分の存在の下、所得再分配機能も有している。しかしながら、2024(令和6)年財政検証の結果では、5年前の検証と比べて将来の全体的な給付水準は上昇するものの、特に経済が成長型経済移行・継続ケースより低位で推移する過去 30 年投影ケースでは基礎年金のマクロ経済スライドの調整期間が長期化し、将来的な基礎年金の給 付水準がより低下する見通しであることが示されている。↓
ケース         基礎年金調整終了年     基礎年金所得代替率
2019 年検証ケースW・X   2053〜2058 年度       21.9〜23.4%
2024 年検証過去30 年投影 2057 年度 23.5%
2019 年検証ケースT〜V 2046〜2047 年度 26.2〜26.7%
2024 年検証成長移行・継続 2037 年度 32.6%

これに対して、同時に行われたオプション試算では、 ・ 被用者保険の更なる適用拡大 ・ 基礎年金の拠出期間延長・給付増額 ・ 基礎年金のマクロ経済スライドの早期終了(調整期間の一致) を行った場合には、いずれも基礎年金の給付水準を確保する上でプラスの効果があることが確認された。また、標準報酬月額の上限の見直しについては将来の厚生年金の水準にプラスの効果が確認された。 基礎年金と厚生年金を合わせた公的年金は、平均で、高齢者世帯の家計の収入の約6割を担っており、今回の改正においても、高齢期の経済基盤の安 定や所得保障・再分配機能の強化の観点から制度の在り方について検討する必要がある。
○ 以下、これまでの本部会における議論に沿って、次期年金制度改革の具体的 内容等について整理する。

次回も続き「U 次期年金制度改革等」からです。

労働基準関係法制研究会 第16回資料 [2025年01月22日(Wed)]
労働基準関係法制研究会 第16回資料(令和6年12月24日)
議題 労働基準関係法制について
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_47873.html
◎資料1 労働基準関係法制研究会報告書(案)
T はじめに
1 労働基準関係法制の意義
→本研究会においては、労働基準関係法制として、個別的労働契約関係について最低基準を設定し、その実効性を担保することを目的・意義とする 労働基準法(昭和 22 年法律第 49 号)を中心とした、個別的労働関係に関する法律群を念頭に議論を行う。 具体的には、労働基準法、最低賃金法(昭和 34 年法律第 137 号)、労働 安全衛生法(昭和 47 年法律第 57 号)のように、刑事罰、行政監督・指導 等の公法的手段によってその実効性を担保する法律(労働保護規範を公法 上の履行確保措置によって担保する労働基準関係法制を以下「労働保護法」 と呼ぶことがある。)や、個別の労使の自主的な交渉の下で行われる労働契約の基本的事項を定め、個別の労働関係の安定を図る労働契約法(平成 19 年法律第 128 号)、使用者による労働時間等の設定の改善に向けた自主的な努力を促進する労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(平成4 年法律第 90 号。以下「労働時間等設定改善法」)など、様々な法律が制定されている。
また、法律ではないが、ガイドライン等の形で労使に自主的な改善を促すようなものも広義の法制の範囲に含まれ得る。加えて、これらの法律に関連する個別的労働関係に関する法律として、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成 3年法律第 76 号)など、それぞれの目的の中で労働者の保護等に関する条項を含むものもあり、このような法律との関係も踏まえつつ検討すること が必要。
また、労働政策の実現手法としても、労働基準監督機関による監督・指導等の公的権限の行使によるほか、ガイドラインの普及等を通じて自発的な法目的の実現の促進を図る手法、労使当事者や労働市場によるモニタリングを通じた実現、行動計画等の事業主による規範の自己設定を通じた実現など様々なものがあり、労働基準関係法制に係る政策についても、労働基準法における実効性のある規制の充実に加えて、様々な手法も考慮しな がら検討することが必要。
2 労働基準関係法制を巡る現下の情勢→・・(略)・・・。こうした社会や経済の構造変化も踏まえつつ、単なる規制の見直しを超えて、労働保護規範の設定の在り方や実効性の確保の在り方、労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方も選択できる社会を実現するために労働政策が果たすべき役割等も踏まえて、労働基準関係法制が果たすべき役割を再検討し、労働基準関係法制の将来像について抜本的な検討を行う時期に来ていると考えられる。
3 労働基準関係法制の構造的課題 ↓
労働基準関係法制は、労働者に共通に妥当する最低労働基準を一律に設定するという形を基本に制定され、その後の社会や経済の構造変化に応じた見直しが進められてきたが、前述のとおり社会や経済の構造変化は更に 加速度を増しており、労働基準関係法制の見直しをどこまで進めていくのか、どのような手法で進めていくのかといった課題が生じている。 労働基準関係法制の見直しについては、これまでのところ、労働者の働き方の多様化等に対応する形で規制の多様化も行われてきたといえよう。 これは労働時間規制に顕著であるが、制定当初の一律の最低労働基準だけでは働き方の多様化等に対応できず、個別の企業、事業場、労働者の実情に合わせて法所定要件の下で法定基準を調整・代替することを可能とするために、1987 年(昭和 62 年)の労働基準法の改正以降、様々な制度が取り入れられてきた。一方で、規制の内容が複雑化し、労働者にとっても使用者にとっても分かりづらいものとなってしまっている現状もある。 したがって、保護が必要な場面においてはしっかりと労働者を保護することができるよう、原則的な制度を、シンプルかつ実効性のある形で法令 において定め、その上で、先述した労働基準関係法制の意義を堅持しつつ、 労使の合意等の一定の手続の下に個別の企業、事業場、労働者の実情に合わせて法定基準の調整・代替を法所定要件の下で可能とすることが、今後の労働基準関係法制の検討に当たっては重要である。一方で、現在の過半数代表(過半数労働組合及び過半数代表者)を軸とした労使コミュニケーションには課題も多く、実効的な労使コミュニケーションを確保する方 策も必要となる。
4 本研究会の目的・研究の視点 ↓

本研究会に先立ち、新しい時代を見据えた労働基準関係法制の課題を整 理することを目的として、「新しい時代の働き方に関する研究会」(座長: 今野浩一郎学習院大学名誉教授・学習院さくらアカデミー長)が開催され、 2023 年(令和5年)10 月 20 日に報告書が取りまとめられている。同報告書では、全ての働く人を「守る」ことと、働く人の多様な希望を「支える」 ことの2つを柱として、今後の労働基準関係法制の課題と目指すべき方向 性について取りまとめられている。 本研究会では、この「守る」と「支える」をどのようにして両立していくべきかという視点や、前述のような社会や経済の構造変化にどのように 対応するべきかという視点に立って、労働基準関係法制の将来像について 抜本的な検討を加えるとともに、現在直面している厚生労働行政の課題を踏まえ、喫緊に対応しなければならない課題としてどのようなものがある かについて、専門的見地から研究し、報告することを目的として設置された。 また、働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成 30 年法律第 71 号。以下「働き方改革関連法」という。)附則第 12 条第1項及び第3項においては、働き方改革関連法による改正後の労働基準法等 について、その施行の状況等を勘案しつつ検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとされている。そこで、本研究会としては、働き方改革関連法の施行状況も踏まえつつ、関係制度の見直しの必要性についても具体的な検討を行うこととする。
5 本研究会における検討の柱 ↓

「新しい時代の働き方に関する研究会」の報告書においては、これから の労働基準関係法制の検討に当たって、 大丸1 全ての働く人が心身の健康を維持しながら幸せに働き続けることので きる社会を目指すということ【「守る」の視点】 大丸1 働く人の求める働き方の多様な希望に応えることのできる制度を整備すること(様々な働き方に対応した規制)【「支える」の視点】 の二つの視点が重要であるとされている。「守る」と「支える」の視点を 両立するためには、まず、保護が必要な場面においてはしっかりと労働者を保護することができるよう、原則的な制度を、シンプルかつ実効性のある形で法令において定めた上で、法令において定められた最低労働基準としての規制の原則的な水準を守りつつ、多様な働き方を支える仕組みとすることが必要である。そのためには、それぞれの規制において適切な水準が担保されることを前提に、労使の合意等の一定の手続の下に個別の企業、事業場、労働者の実情に合わせて法定基準の調整・代替を法所定要件の下で可能とする仕組みとなっていることが必要であり、こうした仕組みが有 効に弊害なく機能するためには、それを支える基盤として実効的な労使コミュニケーションを行い得る環境が整備されていることも必要となる。また、「守る」と「支える」の視点から労働基準法を考えるに当たっては、 法的効果の対象となる「労働者」をどのように捉えるのかといった、労働基準関係法制に共通する総論的課題も踏まえた検討が必要となる。 働き方改革関連法は、労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現する働き方改革を総合的に推進するため、長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保等を目的として労働関係諸法の改正を行ったものであり、これにより、労働基準法においても時間外・休日労働時間の上限規制の導入や高度プロフェッショナル制度の導入など様々な見直しが行われた。働き方改革関連法の施行から5年が経過し、その効果を測りつつ、働き方の更なる 改革として何が必要かを検討しなければならない。その検討に当たっても、 上記のような労働基準関係法制に共通する総論的課題も踏まえた上で、労 働時間制度の具体的課題について検討していくことが必要となろう。 こうした観点から、本研究会では、議論の柱を次のように整理して検討 を進めていく。 ↓

労働基準関係法制に共通する総論的課題 ↓
1 労働基準法における「労働者」について
→・・・。昭和 60 年労働基準法研究会報告から約 40 年が経過し、その間、働き方 の多様化やプラットフォーム・エコノミーの発展、AIやアルゴリズムに よる労務管理のデジタル化等によって、労働者と非労働者の境界が曖昧に なりつつある。あるべき労働基準関係法制を検討するに当たっては、どの ように働く人が「労働者」であるのか、「労働者」に対してはどのような 保護法制があり、「労働者」に該当しない者に対しての制度はどのような ものになるのかといった、法的効果とその対象者像を踏まえた上で、労働 者と非労働者の境界をどのように判断していくことが望ましいかを検討することが必要である。 本研究会では、こうした考え方を基に、労働基準法における「労働者」の概念について検討する。
2 労働基準法における「事業」について
→労働基準法の適用単位は、「事業」であり、「事業場」である。本研究会では、こうした状況を踏まえて、労働基準法における「事業」 又は「事業場」の概念をどのように捉えるかについて、制度改正を見据え た研究の前提として検討する。
3 労使コミュニケーションの在り方について→・・・・・。本研究会では、このような観点を踏まえ、集団的労使コミュニケーショ ンの課題と改善方法にどのようなものがあるか検討する。

U 労働基準関係法制に共通する総論的課題
1 労働基準法における「労働者」について

(1)現代における「労働者」性の課題
(2)労働基準法第9条について
(3)昭和 60 年労働基準法研究会報告について
(4)働く人の法的保護との関係
(5)今後の研究について→ 以上で述べたような専門的な研究を行うためには、昭和 60 年労働基準法研究会報告を取りまとめた労働基準法研究会と同様に、労働者性の判断基 準に関する知見を有する専門家を幅広く集め、分析・研究を深めることが必要。このため、厚生労働省において、継続的に研究を行う体制を整えることを、本研究会として要請する。
(6)家事使用人について
2 労働基準法における「事業」について
(1)「事業」の概念について
→一の事業であるか否かは主として場所的観念によって決定 すべきもので、同一場所にあるものは原則として分割することなく一個の事業とし、場所的に分散しているものは原則として別個の事業とする。
(2)事業場単位の法適用の在り方について→本研究会における議論の結果、労働基準法において、事業場を単位とし て法を適用することについては、 ・ 労務管理、意思決定、権限行使、義務履行がなされる場面や場所、監 督の実効性を考慮し、事業場を単位とすべきか、企業単位とすることも 許容されるかを検討する必要があること ・ 労働基準法等に基づく労使協定の締結等に当たって、職場の実態に即 した労使コミュニケーションが行われる必要があること ・ 企業単位で労働条件が画一的に設定されている場合など、複数の事業 場を束ねる形での労使コミュニケーションを行うことが合理的である場 合において、そのような形での労使コミュニケーションがなされること について妨げるものではないこと ・ 労働基準監督署においては、事業場単位の指導等を原則としつつ、企 業への指導等が有効なものについては、企業単位での指導等を行ってい ること
3 労使コミュニケーションの在り方について
(1)労使コミュニケーションの意義と課題
→そこで本研究会では、今日的な集団的労使コミュニケーションの課題 と改善方法にどのようなものがあるかについて検討を加え、労働組合の役割、過半数代表者の適正選出と基盤強化、労使協定等の複数事業場での一 括手続等について検討を行った。
(2)労働組合による労使コミュニケーションについて→労使関係において、労働者と使用者との間に厳然とした交渉力の格差が あることは、働き方が多様化した現在においても変わらない事実である。 労働組合法(昭和 24 年法律第 174 号)においては、個人では圧倒的に不利な立場にある労働者が団結し、争議権を背景に団体交渉を行うことによっ て労働者の交渉力を使用者と対等の立場に引き上げるものとして労働組合 が規定されており、労働組合の活性化が望まれる。 また、労働基準法における労使協定や就業規則の手続において、過半数 代表として優先されるのは過半数労働組合であることも踏まえると、労働 組合が実質的で効果的な労使コミュニケーションを実現する中核となる。 他方で、前述のとおり労働組合の組織率は長期的に低下しており、過半数労働組合がない事業場が多いことも事実である。労働組合を一方の担い手 とする労使コミュニケーションを活性化していくことが望ましい。 この点、後述する過半数代表者に対する支援と併せて、過半数労働組合 にも適用可能な支援は何かということを考える必要がある。例えば、労働 組合が過半数代表として活動する場合の活動時間の確保や、使用者からの 必要な情報の提供、意見集約のための労働者へのアクセス保障などの支援は、過半数労働組合、過半数代表者のいずれが過半数代表の役割を果たす場合においても共通して必要と考えられるため、労働組合が過半数代表として活動する場合に、当該労働組合に対しても行うことができる支援と して明確化していくことが必要と考えられる。 また、これも過半数労働組合と過半数代表者に共通しているが、労働基 準法等に基づく労使協定を締結する際等には、過半数代表は、事業場の全 労働者の代表として意見集約していくべきことも明確化すべきである。
(3)「過半数代表者」の適正選出と基盤強化について→過半数労働組合のない事業場においては、過半数代表者を選出して労使 協定の締結等を行うこととなるが、過半数代表者については様々な課題が 指摘されている。これらの課題を大別すると、 @ 過半数代表者の選出が、事業場において適正に行われていない場合が ある A 過半数代表者の役割を果たすことは労働者にとって負担であり、また、全ての労働者が労使コミュニケーションについての知識・経験を持つわけではないことから、積極的な立候補が得られないことや、立候補者が いて選出されたとしても過半数代表の役割を適切に果たすことが難しい 場合が多い というものである。この二つは相互に関係しており、使用者側が適正な形 で過半数代表者の選出を求めようとしても、候補者が得られないことによ り結果的に適正な選出手続をとれないような場合もある。また、選出され た過半数代表者が労使協定についての情報や知識を持たず、選出された過 半数代表者が事業場の全労働者の代表として意見を集約するための制度的 担保がないことから、結果として使用者から提示された労使協定の案につ いて全労働者の代表として意見を集約して十分な議論を行うことなく協定 を締結するだけになっているような場合もあるとの指摘がある。こうした 課題を改善し、実質的で効果的な労使コミュニケーションを行う土台を作 っていくことが必要である。
現行の労働基準法では、「過半数代表」や「過半数代表者」は明 確には定義されておらず、過半数代表が締結の一方当事者となる手続を定 める条項において個別に規定されているのみである。過半数代表者の適正 選出を確保し、基盤を強化するためには、 ・ 労働基準法における「過半数代表」、その下位概念である「過半数労 働組合」、「過半数代表者」の定義 ・ 過半数代表者の選出手続 ・ 過半数代表、過半数労働組合、過半数代表者の担う役割及び使用者に よる情報提供や便宜供与、権利保護(不利益取扱いを受けないこと等) ・ 過半数代表として活動するに当たっての過半数代表者への行政機関等 の相談支援 ・ 過半数代表者の人数や任期の在り方 等について、明確にしていくことが必要ではないかと考えられる。
(3)−1 過半数代表者の選出手続について→・・・・・。最後に、労働者が過半数代表者に立候補し、その役割を適切に果たすた めには、過半数代表者の選出が必要になる前から、過半数代表の意義や役 割、選出手続、適正な選出の必要性、労働者の意見集約の手法等について 知識を得る教育・研修の機会があることが求められる。また、適切な労使 コミュニケーションを促進する観点から、過半数代表に関する教育・研修 の中で、労働組合を中心とした集団的労使関係についても扱われることが 望ましい。労働者の自主的な意思表示を担保するためには、こうした教 育・研修を使用者が行うことには問題があると考えられ、行政において一 定の教育・研修資料等を作成し、それを提供するという形が望ましいと考 えられる。
(3)−2 過半数代表者が担う役割及び過半数代表者となった労働者に対する使用者による情報提供や便宜供与
(3)−3 過半数代表者への相談支援
(3)−4 過半数代表者の人数
→・・・・。労働者側がこうした複数人選出を望 む場合や、選ばれた過半数代表者が補助者の指名を望む場合には、使用者 には、指名事務等を円滑に遂行できるよう必要な配慮が求められる。ただし、必要な配慮の名の下に、使用者による不当な介入等が行われないよう に留意すべきである。
(3)−5 過半数代表者の任期
(3)−6 労働基準法における規定の整備→本研究会としては、過半数代表者の適正選出を確保し、基盤の強化を行うに当たり、まずは労働基準法において、「過半数代表」、「過半数労働組 合」、「過半数代表者」の法律上の位置付け、役割、過半数代表者に対する 使用者からの関与や支援等を明確に定める規定を設ける法改正を行うこと が必要と考える。加えて、過半数労働組合に対する使用者からの関与や支援について、ど のようなことができるのか、労働組合法に規定する支配介入等の規定との 関係について、いずれかの法で明らかにしておくことも検討すべき。⇒【法制度のイメージの例】あり。 参照。
(4)労使協定・労使委員会等の複数事業場での一括手続について
(5)労働者個人の意思確認について

(6)労働基準関係法制における労使コミュニケーションの目指すべき姿→労働基準法における労使協定は、法律で定められた規制の原則的な水準を個別の企業、事業場、労働者の実情に合わせて法所定要件の下で調整・代替することについて、免罰効を与えるとともに、当該事項に係る法定基準の強行性を解除する効果を持つ。 現行法においては、その時々に選出された過半数代表者によってこの労使協定が締結されるが、締結後にそれが締結当初の趣旨どおりに実施されているかについてモニタリングを行う制度はない。将来を見据えれば、モニタリングを含めた労使コミュニケーションを恒常的かつ実質的な形で行うことができる体制が確保されることが求められる。 この点について、労働組合の機能が優先されることを前提としつつ、現に労働組合がない事業場等におけるコミュニケーションの在り方を考えてみると、諸外国においては、労働者のみで構成される労働者の集団全体を 適切に代表する組織を設ける仕組みや、労使双方で構成する委員会を設け 意思決定を行う仕組み等が制度化されており、将来的には、これらも視野に、我が国における労使コミュニケーションの在り方を検討していくことが期待される。
将来的な労働者と使用者のコミュニケーションの場としては、以上のよ うに様々な形が考えられるところであり、諸外国の例を見ても、国によっ てとっている方向は異なっていることから、労使関係の実態も踏まえたよ り包括的・多角的な研究が必要となる。また、そうした労使コミュニケー ションを、現場に近い事業場単位で行うべきか、より多数の意見を集約で きる企業単位で行うべきかについても、より深い研究が必要となる。
本節でこれまで論じてきた事項は、こうした将来の検討にもつながるもの。まずは、労働組合の活性化が望まれるとともに、過半数代表者 の改善策を実施し、その状況を把握しながら、労使コミュニケーションの在り方について更に議論を深めていくべきである。 さらに、将来的に労働者全体の意思を反映した労使コミュニケーション が十分実効的に機能するようになった際には、過半数労働組合等の労働者 集団と使用者との合意と、労働契約の規律との関係について、長期的な課題として議論していくことも考えられる。

V 労働時間法制の具体的課題
1 最長労働時間規制
→・・・。労働時間法制の具体的課題の検討に当たっては、このような現行の労働時 間規制の体系的整理を念頭に議論を行った。
(1)時間外・休日労働時間の上限規制→・・・。なお、我が国全体の働き方への考え方として、長時間の時間外労働に対 応する労働者こそが会社の中核的なメンバーであり、そうでない者は周縁的なメンバーであるという考え方・空気感が今なお存在する面は否めない。 これからの時代においては、長時間の時間外労働を前提としない働き方が 通常の働き方とされる社会としていくことが重要であり、これまで述べてきた制度的な議論による対応に加え、人事評価制度や人員配置・管理等について、健康経営や人的資本経営の観点からも企業の意識改革が望まれ、 そうした気運の醸成に努めていく必要がある。 加えて、長時間労働の是正には、労働時間制度だけでなく、官公庁取引を含む商慣行の見直しや、大企業や親会社、国・地方自治体の働き方改革 が中小企業や子会社を始め取引先にしわ寄せを生じさせる状況の是正といった観点も重要であり、厚生労働省と業所管省庁が協力して進めることが 重要
(2)企業による労働時間の情報開示
@ 企業外部への情報開示  A 企業内部への情報開示・共有
(3)テレワーク等の柔軟な働き方
→本研究会では、テレワークに適用できるより柔軟な労働時間管 理について、 @ テレワーク日と通常勤務日が混在するような場合にも活用しやすいよう、コアタイムの取扱いを含め、テレワークの実態に合わせてフレックスタイム制を見直すことが考えられるか A 緩やかな時間管理の中でテレワークを行い、一時的な家事や育児への 対応等のための中抜け等もある中で、客観的な労働時間が測定できるか 否か、測定できるとしてもプライバシーの観点から測定するべきか否か という観点から、実効的な健康確保措置を設けた上で、テレワーク時の 新しいみなし労働時間制を設けることが考えられるか という2つの視点を基に、フレックスタイム制の改善や、テレワークを行 う際の新たなみなし労働時間制の導入可否について検討した。
【フレックスタイム制の改善について】
【テレワーク時のみなし労働時間制について】
→・・・こうした点に関する検討も含め、在宅勤務における労 働時間の長さや時間帯、一時的な家事や育児への対応等のための中抜け時 間の状況等の労働時間の実態や、企業がどのように労働時間を管理しているのか、新たなみなし労働時間制に対する労働者や使用者のニーズが実際にどの程度あるのかということを把握し、また上記により改善されたフレックスタイム制の下でのテレワークの実情や労使コミュニケーションの実態を把握した上で、みなし労働時間制の下での実効的な健康確保の在り方 も含めて継続的な検討が必要であると考えられる。
(4)法定労働時間週 44 時間の特例措置→87.2% の事業場がこの特例措置を使っていない現状に鑑みると、概ねその役割 を終えていると考えられる。
(5)実労働時間規制が適用されない労働者に対する措置→労働基準法では、実労働時間規制から外れる裁量労働制、労働時間規制 の適用を除外する高度プロフェッショナル制度や管理監督者等の規定が設 けられ、それぞれ適用要件が定められている。この中で、裁量労働制や高度プロフェッショナル制度は、制度を導入する過程で、健康・福祉確保措置が設けられた。一方で、管理監督者等については、労働安全衛生法にお いて労働時間の状況の把握が義務化され、長時間労働者への医師による面接指導の対象とされてはいるものの、労働基準法制定当時から現在に至るまで、特別な健康・福祉確保措置は設けられていない。このため管理監 督者等に関する健康・福祉確保措置について、検討に取り組むべきである。
2 労働からの解放に関する規制→労働時間規制には、使用者がどれだけの労働を労働者にさせてよいか (労働者の労働力をどこまで使ってよいか)という「最長労働時間規制」 と、使用者が労働者に対し、労働から解放される時間をどれだけ確保しなければならないか(労働者の労働力の回復の時間や私生活の時間等がどれくらい確保されるべきか)という「労働からの解放に関する規制」が含まれている。前者は法定労働時間、36 協定による時間外・休日労働規制、変形労働時間制、フレックスタイム制等が該当。後者は法定の休憩、休 日、そして広い意味では、年次有給休暇等や、現行制度では努力義務である勤務間インターバル制度もこれに該当する。 働き方改革関連法での労働時間規制の改革は、時間外・休日労働時間の 上限規制が中心であり、「労働からの解放に関する規制」に係る内容は多くなかった。「労働からの解放に関する規制」は、健康確保や自由時間の確保等の意義があり、また労働者の休養確保は、疲労の回復と労働者の作 業効率化を通じて、企業にもメリットを生じることから、本研究会では、 「労働からの解放に関する規制」についても改めて整理・検討を加えた。
(1)休憩
(2)休日  @ 定期的な休日の確保 A 法定休日の特定
(3)勤務間インターバル
→・ 勤務間インターバル時間として 11 時間を確保することを原則としつつ、制度の適用除外とする職種等の設定や、実際に 11 時間の勤務間インターバル時間が確保できなかった場合の代替措置等について、多くの企業が導入できるよう、より柔軟な対応を法令や各企業の労使で合意して決めるという考え方 ・ 勤務間インターバル時間は 11 時間よりも短い時間としつつ、柔軟な対応についてはより絞ったものとする考え方 ・規制の適用に経過措置を設け、全面的な施行までに一定の期間を設ける考え方
(4)つながらない権利→こうした点を整理し、勤務時 間外に、どのような連絡までが許容でき、どのようなものは拒否すること ができることとするのか、業務方法や事業展開等を含めた総合的な社内ル ールを労使で検討していくことが必要となる。このような話し合いを促進 していくための積極的な方策(ガイドラインの策定等)を検討することが 必要と考えられる。
(5)年次有給休暇制度→本研究会はの@〜C議論。 @ 使用者の時季指定義務の日数(現行5日間)や時間単位の年次有給休 暇の日数(現行5日間)の変更等、A 計画的・長期間の年次有給休暇を取得できるようにするための手法 (ILO132 号条約に規定する「2週間からなる年次有給休暇の連続取得」の推進等)、B 1年間の付与期間の途中に育児休業から復帰した労働者や、退職する 労働者に関する、残りの期間における労働日と時季指定義務の関係につ いての取扱いの改善、C 年次有給休暇取得時の賃金の算定方法として現行定められている3つ の方法について、それぞれの方法で計算される金額の妥当性⇒ 年次有給休暇期間中の賃金については、就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより、 (1) 労働基準法第 12 条の平均賃金 (2) 所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金 (3) 当該事業場の労働者の過半数代表との労使協定により、健康保険 法(大正 11 年法律第 70 号)上の標準報酬月額の 30 分の1に相当す る額 のいずれかを支払わなければならないものとされている(労働基準法第 39 条第9項)。
3 割増賃金規制
(1)割増賃金の趣旨・目的等
→本研究会では、 ・ 企業が時間外労働等を抑制する効果が期待される一方、労働者に対しては割増賃金を目的とした長時間労働のインセンティブを生んでしまう のではないか ・ 労働市場において人手不足の傾向が強まり、労働条件が上がりやすく なっている現状も踏まえると、労働者は割増賃金に頼らなくても収入を 確保できるようになるのではないか ・ 深夜労働の割増賃金は、労働強度が高いものに対する補償的な性質が あるが、健康管理の観点からは、危険手当のような位置付けではないか ・ 我が国の割増賃金率は諸外国と比較して低い水準となっており、長時 間労働を抑制する機能を十分に果たしていないのではないか。均衡割増 賃金率を考慮して割増賃金率を設定することや、割増賃金率を 50%以 上としなければならない時間外労働の基準(月 60 時間超)を時間外労働 の原則的上限(月 45 時間)と整合させることも考えられるのではないか ・ 事業運営上生ずる労働力需要の波動を外部労働市場ではなく内部労働 市場を通じて調整することを優先してきた我が国の雇用慣行を考慮した ときに、割増賃金率の引上げによる時間外労働の抑制を議論するのであ れば、雇用維持の優先度を引き下げることがセットにならないか ・ 企業は人件費を総額で管理している実態があり、割増賃金率を引き上 げるとなれば、企業行動としては所定の給与を相対的に引き下げること が合理的な選択となり、結果として、長時間労働をしなければ十分な収 入を得られないといった、制度改正の意図しない効果が生じないか ・ 深夜労働の割増賃金について、使用者の命令ではなく、働く時間の選 択に裁量のある労働者(管理監督者、裁量労働制適用労働者等)が自ら 深夜帯に働くことを選んだ場合には、割増賃金は必ずしも求められない のではないか ・ 歩合給制の場合の割増賃金規制について労使自治により法定基準を調 整することは、中長期的に検討する事項としてあり得るのではないか ・ 割増賃金の計算の基礎となる「通常の賃金」について、解釈が明確に 整理されていない。立法による対処ではないかもしれないが解釈の整理 は必要ではないか  といった意見があった。
(2)副業・兼業の場合の割増賃金→労働基準法第 38 条を受けた 通達に基づき、事業主を異にする場合についても労働時間を通算して割増 賃金を支払うこととされている。このため、現在は厚生労働省のガイドラ インに基づき、労働契約の締結の先後の順に所定労働時間を通算し、次に 所定外労働の発生順に所定外労働時間を通算することによって割増賃金を 計算するか、あらかじめ設定したそれぞれの事業場における労働時間の範 囲内で労働させる管理モデルを利用するかのいずれかとされている。
なお、欧州諸国の半数以上の国で実労働時間の通算は行う仕組みとなっ ているものの、それらの国でも、フランス、ドイツ、オランダ、イギリス 等では、副業・兼業を行う場合の割増賃金の支払いについては労働時間の 通算を行う仕組みとはなっていない。
・・・・なお、副業・兼業先が非雇用の形態の場合であっても、健康確保の観点 から、本業先の企業が全体の就業時間や疲労度に応じて何らかの配慮を行 うことも期待されるという意見や、副業・兼業を行う労働者自身が自らの 健康管理に対するリテラシーを高めていくことも期待されるという意見が あった。
W おわりに ↓
これまで述べてきたとおり、本研究会では、労働基準関係法制にかかわ る諸課題について検討し、それぞれを早期に取り組むべき事項、より良い 制度に向けて中長期的に検討を進めるべき事項に分け、方向性を示すこととした。 本研究会としては、本報告書において早期に取り組むべきとした事項を中心として、今後、公労使三者構成の労働政策審議会において、労働基準 関係法制に係る諸課題についての議論が更に深められることを期待するものである。一方で、中長期的に検討を進めるべきとした事項については、 国内外の実態把握や国際的な動向の把握を進めつつ、引き続き学術的な検 討を進めることが必要と考えられる。 本研究会は厚生労働省労働基準局長の開催する研究会である。厚生労働 省においては、この報告書をもって労働基準関係法制に係る研究を終了す るのではなく、本研究会のような労働基準関係法制に係る研究を行う場を 引き続き設けていくことを要望する。

次回は新たに「第24回社会保障審議会年金部会」からです。

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