こども未来戦略会議(第6回) [2023年06月30日(Fri)]
こども未来戦略会議(第6回)(令和5年6月13日)
こども・子育て政策の強化について https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_mirai/dai6/gijisidai.html ◎資料1 「こども未来戦略方針」案 〜次元の異なる少子化対策の実現のための「こども未来戦略」の策定に向けて〜 令和5年6月 13 日 こども未来戦略会議 T.こども・子育て政策の基本的考え方 〜「日本のラストチャンス」2030 年に向けて〜 ○ 少子化→我が国が直面する最大の危機。 2022 年に生まれたこどもの数は 77 万 747 人となり、統計を開始した 1899 年以来、最低の数字となった。1949 年に生まれたこどもの数は約 270 万人だったことを考えると、こどもの数はピークの3分の1以下にまで減少した。また、2022 年の合計特殊出生率は 1.26 と過去最低となっている。 しかも、最近、少子化のスピードが加速。出生数が初めて 100 万人を割り込 んだのは 2016 年だったが、2019 年に 90 万人、2022 年に 80 万人を割り込んだ。このトレンドが続けば、2060 年近くには 50 万人を割り込んでしまうことが予想されている。 そして、少子化は、人口減少を加速化させている。2022 年には 80 万人の自然減となった。今後も、100 万人の大都市が毎年1つ消滅するようなスピードで人口減少が進む。 現在、日本の総人口は1億 2,500 万人だが、このままでは、2050 年代に1億人、2060 年 代に9千万人を割り込み、2070 年に 8,700 万人程度になる。わずか 50 年で、我が国は 人口の3分の1を失うおそれがある。 ○ こうした急速な少子化・人口減少に歯止めをかけなければ、我が国の経済・社会シス テムを維持することは難しく、世界第3位の経済大国という、我が国の立ち位置にも大 きな影響を及ぼす。人口減少が続けば、労働生産性が上昇しても、国全体の経済規模の 拡大は難しくなるからである。今後、インド、インドネシア、ブラジルといった国の経済発展が続き、これらの国に追い抜かれ続ければ、我が国は国際社会における存在感を失うおそれがある。 若年人口が急激に減少する 2030 年代に入るまでが、こうした状況を反転させること ができるかどうかの重要な分岐点であり、2030 年までに少子化トレンドを反転できなければ、我が国は、こうした人口減少を食い止められなくなり、持続的な経済成長の達成も困難となる。2030 年までがラストチャンスであり、我が国の持てる力を総動員し、少 子化対策と経済成長実現に不退転の決意で取り組まなければならない。 ○ 今回の少子化対策で特に重視しているのは、若者・子育て世代の所得を伸ばさない限り、少子化を反転させることはできないことを明確に打ち出した点にある。もとより、結婚、妊娠・出産、子育ては個人の自由な意思決定に基づくものであって、これらについての多様な価値観・考え方が尊重されるべきであることは大前提。その上で、 若い世代の誰もが、結婚や、こどもを生み、育てたいとの希望がかなえられるよう、将来に明るい希望をもてる社会を作らない限り、少子化トレンドの反転はかなわない。 ○ このため、政府→若者・子育て世代の所得向上に全力で取り組む。新しい資本主義の下、賃上げを含む人への投資と新たな官民連携による投資の促進を進めてきており、既に、本年の賃上げ水準は過去 30 年間で最も高い水準となっているほか、半導体、 蓄電池、再生可能エネルギー、観光分野等において国内投資が活性化してきている。まずは、こうした取組を加速化することで、安定的な経済成長の実現に先行して取り組む。その中で、経済成長の果実が若者・子育て世代にもしっかり分配されるよう、最低賃金の引上げや三位一体の労働市場改革を通じて、物価高に打ち勝つ持続的で構造的な賃上げを実現する。 ○ 次元の異なる少子化対策→(1)構造的賃上げ等と併せて経済的支援を充実さ せ、若い世代の所得を増やすこと、(2)社会全体の構造や意識を変えること、(3)全 てのこども・子育て世帯をライフステージに応じて切れ目なく支援すること、の3つを 基本理念として抜本的に政策を強化。こうした若者・子育て世代の所得向上と、次元の異なる少子化対策を、言わば「車の両輪」として進めていくことが重要、少子化対策の財源を確保するために経済成長を阻害し若者・子育て世代の所得を減らすことがあってはならない。 ○ 少子化対策の財源は、まずは徹底した歳出改革等によって確保することを原則。 全世代型社会保障を構築する観点から歳出改革の取組を徹底するほか、既定予算の最大限の活用などを行うことによって、実質的に追加負担を生じさせないことを目指していく。その際、歳出改革等は、国民の理解を得ながら、複数年をかけて進めていく。 ○ このため、経済成長の実現に先行して取り組みながら、歳出改革の積上げ等を待つことなく、2030 年の節目に遅れることのないように、前倒しで速やかに少子化対策を実施することとし、その間の財源不足は必要に応じてこども特例公債を発行する。 ○ 以上のとおり、経済を成長させ、国民の所得が向上することで、経済基盤及び財源基盤を確固たるものとする、歳出改革等による公費と社会保険負担軽減等の効果を活用することによって、国民に実質的な追加負担を求めることなく、少子化対策を進める。少子化対策の財源確保のための消費税を含めた新たな税負担は考えない。繰り返しになるが、我が国にとって 2030 年までがラストチャンスである。全ての世 代の国民一人ひとりの理解と協力を得ながら、次元の異なる少子化対策を推進する。こ れにより、若い世代が希望どおり結婚し、希望する誰もがこどもを持ち、安心して子育 てができる社会、こどもたちがいかなる環境、家庭状況にあっても、分け隔てなく大切 にされ、育まれ、笑顔で暮らせる社会の実現を図る。 U.こども・子育て政策の強化:3つの基本理念 ↓ 1.こども・子育て政策の課題 ○ こども・子育て政策→過去 30 年という流れの中で見れば、その政策領域の 拡充や安定財源の確保に伴い、待機児童が大きく減少するなど一定の成果はあったものの、少子化傾向には歯止めがかかっていない状況。 少子化の背景⇒経済的な不安定さや出会いの機会の減少、仕事と子育ての両立の難しさ、家事・育児の負担が依然として女性に偏っている状況、子育ての孤立感や負担感、子育てや教育にかかる費用負担など、個々人の結婚、妊娠・出産、子育ての希望の 実現を阻む様々な要因が複雑に絡み合っているが、とりわけ、こども・子育て政策を抜本的に強化していく上で我々が乗り越えるべき課題としては、以下の3点が重要。 ↓ (1)若い世代が結婚・子育ての将来展望を描けない ↓ ○ 若い世代→未婚化・晩婚化が進行しており、少子化の大きな要因の一つと なっていると指摘されている。 若い世代(18〜34 歳の未婚者)の結婚意思→依然として男女の8割以上 が「いずれ結婚するつもり」と考えているものの、近年、「一生結婚するつもりはない」 とする者の割合が増加傾向となっている。さらに、未婚者の希望するこども数には、夫婦の平均理想こども数(2.25 人)と比べて低水準であることに加えて、その 減少傾向が続いており、直近では男性で 1.82 人、女性で 1.79 人と特に女性で大きく減少し、初めて2人を下回った。 また、雇用形態別に有配偶率を見ると、男性の正規職員・従業員の場合の有配偶率 は 25〜29 歳で 30.5%、30〜34 歳で 59.0%であるのに対し、非正規の職員・従業員の 場合はそれぞれ 12.5%、22.3%となっており、さらに、非正規のうちパート・アルバ イトでは、それぞれ 8.4%、15.7%にまで低下するなど、雇用形態の違いによる有配 偶率の差が大きいことが分かる。また、年収別に見ると、いずれの年齢層でも一定水 準までは年収が高い人ほど配偶者のいる割合が高い傾向にある。 ○ 実際の若者の声→「自分がこれから先、こどもの生活を保障できるほどお金を稼げる自信がない」、「コロナ禍で突然仕事がなくなったり、解雇されたりすることへの不安が強くなった」などの将来の経済的な不安を吐露する意見が多く聞かれる。 また、「結婚、子育てにメリットを感じない」との声や、「子育て世帯の大変な状況を 5 目の当たりにして、結婚・出産に希望を感じない」との声もある。 ○ このように、若い世代が結婚やこどもを生み、育てることへの希望を持ちながらも、 所得や雇用への不安等から、将来展望を描けない状況に陥っている。雇用の安定と質 の向上を通じた雇用不安の払拭等に向け、若い世代の所得の持続的な向上につながる 幅広い施策を展開するとともに、V.で掲げる「こども・子育て支援加速化プラン」(「加速化プラン」)で示すこども・子育て政策の強化を早急に実現し、 これを持続していくことが必要。あわせて、25〜34 歳の男女が独身でいる理由 について、「適当な相手に巡り合わない」とする割合が最も高くなっていることも踏まえた対応も必要。幼少期から 10 代、20 代のうちに、こどもと触れ合う機会を多く持つことができるようにすることが重要 。 (2)子育てしづらい社会環境や子育てと両立しにくい職場環境がある ○ 「自国はこどもを生み育てやすい国だと思うか」との問いに対し、スウェーデン、 フランス及びドイツでは、いずれも約8割以上が「そう思う」と回答しているのに対 し、日本では約6割が「そう思わない」と回答している。また、「日本の社会が結婚、 妊娠、こども・子育てに温かい社会の実現に向かっているか」との問いに対し、約7 割が「そう思わない」と回答している。 ○ 子育て中の方々からも「電車内のベビーカー問題など、社会全体が子育て世帯に冷 たい印象」、「子連れだと混雑しているところで肩身が狭い」などの声が挙がっており、 公園で遊ぶこどもの声に苦情が寄せられるなど、社会全体の意識・雰囲気がこどもを 生み、育てることをためらわせる状況にある。 ○ こどもや子育て世帯が安心・快適に日常生活を送ることができるようにするため、 こどもや子育て世帯の目線に立ち、こどものための近隣地域の生活空間を形成する 「こどもまんなかまちづくり」を加速化し、こどもの遊び場の確保や、親同士・地域 住民との交流機会を生み出す空間の創出などの取組の更なる拡充を図っていく必要。 また、全世帯の約3分の2が共働き世帯となる中で、未婚女性が考える「理想のライフコース」は、出産後も仕事を続ける「両立コース」が「再就職コース」を上回って最多となっているが、実際には女性の正規雇用における「L字カーブ」の存在など、 理想とする両立コースを阻む障壁が存在している。 ○ 女性(妻)の就業継続や第2子以降の出生割合は、夫の家事・育児時間が長いほど高い傾向にあるが、日本の夫の家事・育児関連時間は2時間程度と国際的に見ても低 水準である。また、こどもがいる共働きの夫婦について平日の帰宅時間は女性よりも男性の方が遅い傾向にあり、保育所の迎え、夕食、入浴、就寝などの育児負担が女性 に集中する「ワンオペ」になっている傾向もある。 実際の若者の声としても「女性にとって子育てとキャリアを両立することは困難」、「フルタイム共働きで子育ては無理があるかもしれない」といった声が挙がっている。 一方で、男性について見ると、正社員の男性について育児休業制度を利用しなかっ た理由を尋ねた調査では、「収入を減らしたくなかった(39.9%)」が最も多かったが、 「育児休業制度を取得しづらい職場の雰囲気、育児休業取得への職場の無理解(22.5%)」、「自分にしかできない仕事や担当している仕事があった(22.0%)」なども多く、制度はあっても利用しづらい職場環境が存在していることがうかがわれる。 ○ こうしたことから、こども・子育て政策を推進するに当たっては、今も根強い固定 的な性別役割分担意識から脱却し、社会全体の意識の変革や働き方改革を正面に据え た総合的な対策をあらゆる政策手段を用いて実施していく必要がある。 (3)子育ての経済的・精神的負担感や子育て世帯の不公平感が存在する ↓ ○ 夫婦の平均理想こども数及び平均予定こども数は 2000 年代以降、ゆるやかに低下、直近では、平均理想こども数は 2.25 人、平均予定こども数は 2.01 人。理想のこども数を持たない理由は、「子育てや教育にお金がかか りすぎるから」という経済的理由が 52.6%で最も高く、特に第3子以降を持ちたいと いう希望の実現の大きな阻害要因となっている。 また、妻の年齢別に見ると、35 歳未満では経済的理由が高い傾向にあるが、35 歳 以上の夫婦では、「ほしいけれどもできないから」といった身体的な理由が高い。また、 いずれの世代も「これ以上、育児の心理的、肉体的負担に耐えられないから」が高い。 ○ これまでのこども・子育て政策の中では、保育対策にかなりの比重を置いてきたが、0〜2歳児の約6割はいわゆる未就園児であり、こうした家庭の親の多く集まる子育 て支援拠点が行った調査によれば、拠点を利用する前の子育て状況として「子育てをしている親と知り合いたかった」、「子育てをつらいと感じることがあった」、「子育て の悩みや不安を話せる人がほしかった」など、「孤立した育児」の実態が見られる。 一方で、在宅の子育て家庭を対象とする「一時預かり」、「ショートステイ」、「養育訪問支援」などの整備状況は、未就園児1人当たりで見ると、一時預かりは年間約 2.86 日、ショートステイは年間約 0.05 日、養育支援訪問は年間約 0.1 件など、圧倒的に 整備が遅れている。 ○ 実際の若者の声としても「教育費が昔より高くなっているので、経済的負担を考えると1人しか産めなさそう」、「住居費などの固定費に対してお金がかかる」といった 負担感のほか、「親の所得でこどもへの支援の有無を判断すべきではない」といった子 育て世帯の不公平感を指摘する声もある。 ○ さらに、子育て家庭が負担感を抱えている現状→若い世代が子育てに対 してネガティブなイメージを持つことにもつながっており、「こどもがいると今の趣 味や自由な生活が続けられなくなる」、「こどもを育てることに対する制度的な子育て 罰が存在する」などといった指摘の背景ともなっていると考えられる。 ○ 公教育の再生は少子化対策としても重要であり、こどもを安心して任せることので きる質の高い公教育を再生し充実させることは、次代を担うこどもたちの健やかな育成はもとより、若い世代の所得向上に向けた取組の基盤となり得るほか、基礎的な教 育に係る子育て家庭の負担軽減にもつながるもの。このため、次代にふさわし い教育の保障、優れた教師の確保・教育環境の整備、GIGA スクール構想の次なる展開など、公教育の再生に向けた取組を着実に進めていくことが重要。 また、学校給食費の無償化の実現に向けて、まず、学校給食費の無償化を実施す自治体における取組実態や成果・課題の調査、全国ベースでの学校給食の実態調査を速やかに行い、1年以内にその結果を公表する。 その上で、小中学校の給食実施状況の違いや法制面等も含め課題の整理を丁寧に行 い、具体的方策を検討する。 2.3つの基本理念 ↓ ○ T.でも述べたとおり、我々が目指すべき社会の姿は、若い世代が希望どおり結婚し、 希望する誰もがこどもを持ち、安心して子育てができる社会、そして、こどもたちが、 いかなる環境、家庭状況にあっても分け隔てなく大切にされ、育まれ、笑顔で暮らせる社会。また、公教育の再生は少子化対策と経済成長実現にとっても重要であり、 以下の基本理念とも密接に関連する。こうした社会の実現を目指す観点から、こども・子育て政策の抜本的な強化に取り組むため、今後、こども未来戦略会議において策定す る「こども未来戦略」の基本理念は、以下の3点である。 ↓ (1)若い世代の所得を増やす ↓ ○ 第一に、若い世代が「人生のラッシュアワー」と言われる学びや就職・結婚・出産・子育てなど様々なライフイベントが重なる時期において、現在の所得や将来の見通しを持てるようにすること、すなわち「若い世代の所得を増やす」ことが必要。このため、こども・子育て政策の範疇を越えた大きな社会経済政策として、最重要課題の「賃上げ」に取り組む。新しい資本主義の下、持続的な成長を可能とする 経済構造を構築する観点から、「質の高い」投資の促進を図りつつ、「成長と分配の好循環」(成長の果実が賃金に分配され、セーフティネット等による暮らしの安心の下で それが消費へとつながる)と「賃金と物価の好循環」(企業が賃金上昇やコストを適切 に価格に反映することで収益を確保し、それが更に賃金に分配される)という「2つの好循環」の実現を目指す。 ○ また、「一人ひとりが自らのキャリアを選択する」時代となり、働き方が大きく変化する中で、労働者の主体的な選択による職業選択、労働移動が、企業と経済の更なる成長につながり、構造的賃上げに資するものとなるよう、リ・スキリングによる能力向上支援、個々の企業の実態に応じた職務給の導入、成長分野への労働移動の円滑化 という三位一体の労働市場改革を加速する。さらに、賃上げの動きを全ての働く人々が実感でき、将来への期待も含めて、持続 的なものとなるよう、L字カーブの解消などを含め、男女ともに働きやすい環境の整備、「同一労働同一賃金」の徹底と必要な制度見直しの検討、希望する非正規雇用の方々の正規化を進める。 ○ こうした施策を支える基盤として、多様な働き方を効果的に支える雇用のセーフティネットを構築するため、週所定労働時間 20 時間未満の労働者に対する雇用保険の 適用拡大について検討し、2028 年度までを目途に実施する。また、いわゆる106万円・130万円の壁を意識せずに働くことが可能となるよう、短時間労働者への被用者「働き方改革」の一環として導入された、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(平成5年法律第 76 号)等に基づく不合理な待遇差の禁止。 保険の適用拡大や最低賃金の引上げに取り組むことと併せて、被用者が新たに 106 万 円の壁を超えても手取りの逆転を生じさせないための当面の対応を本年中に決定し た上で実行し、さらに、制度の見直しに取り組む。 また、全国どの地域に暮らす若者・子育て世代にとっても、経済的な不安なく、良質な雇用環境の下で、将来展望を持って生活できるようにすることが重要、引き続き、地方創生に向けた取組を促進する。特に、地方において若い女性が活躍できる環境を整備することが必要であり、地方における分厚い中間層の形成に向けて、国 内投資の拡大を含め、持続的に若い世代の所得が向上し、未来に希望を感じられるような魅力的な仕事を創っていくための取組を支援していく。 ○ こうした取組と併せて、V.で掲げる「加速化プラン」において、ライフステージ を通じた経済的支援の強化や若い世代の所得向上に向けた取組、こども・子育て支援 の拡充、共働き・共育てを支える環境整備などを一体として進め、若者・子育て世帯 の所得を増やすことで、経済的な不安を覚えることなく、若者世代が、希望どおり、 結婚、妊娠・出産、子育てを選択できるようにしていく。 ↓ (2)社会全体の構造・意識を変える ↓ ○ 第二に、少子化には我が国のこれまでの社会構造や人々の意識に根差した要因が関 わっているため、家庭内において育児負担が女性に集中している「ワンオペ」の実態を変え、夫婦が相互に協力しながら子育てし、それを職場が応援し、地域社会全体で 支援する社会を作らなければならない。 このため、これまで関与が薄いとされてきた企業や男性、さらには地域社会、高齢者や独身者を含めて、皆が参加して、社会全体の構造や意識を変えていく必要がある。 こうした観点から、「加速化プラン」においては、こどもまんなか社会に向けた社会全 体の意識改革への具体策についても掲げることとする。 また、企業においても、出産・育児の支援を投資と捉え、職場の文化・雰囲気を抜本的に変え、男性、女性ともに、希望どおり、気兼ねなく育児休業制度を使えるよう にしていく必要。この点は、特に、企業のトップや管理職の意識を変 え、仕事と育児を両立できる環境づくりを進めていくことが重要。同時に、育児休業制度自体についても、多様な働き方に対応した自由度の高い制度へと強化するとともに、職場に復帰した後の子育て期間における「働き方」も変えていく必要がある。特に、出生率の比較的高い地方から東京圏への女性の流出が続いている現状を踏まえ、全国の中小企業を含めて、女性が活躍できる環境整備を強力に進めていくという視点が重要。 ○ 働き方改革は、長時間労働の是正により夫婦双方の帰宅時間を早め、育児・家事に 充てる時間を十分に確保することや、各家庭の事情に合わせた柔軟な働き方を実現す ること等につながる。また、子育て家庭にとってのみならず、事業主にとっても、企業の生産性向上や労働環境の改善を通じた優秀な人材の確保といった効果があるこ とに加えて、延長保育等の保育ニーズの減少を通じて社会的コストの抑制効果が期待 されるものでもある。さらに、価値観・ライフスタイルが多様となる中で、子育てに 限らない家庭生活における様々なニーズや、地域社会での活動等との両立が可能とな るような柔軟で多様な働き方が普及することは、全ての働く人にとってメリットが大 きい。このため、特に、働き方改革の実施に課題のある中小企業の体制整備に向けた 取組を強力に後押ししていくことが必要。 育児休業を取りやすい職場づくりと、育児休業制度の強化、この両方があって、子育て世帯に「こどもと過ごせる時間」を作ることができ、夫婦どちらかがキャリアを 犠牲にすることなく、協力して育児をすることができる。このため、働き方改革の推 進とそれを支える育児休業制度等の強化など、「加速化プラン」で掲げる具体的な施策 について、官民挙げて強力に取り組んでいくこととする。 (3)全てのこども・子育て世帯を切れ目なく支援する ○ 第三に、様々なこども・子育て支援に関しては、親の就業形態にかかわらず、どのような家庭状況にあっても分け隔てなく、ライフステージに沿って切れ目なく支援を行い、多様な支援ニーズにはよりきめ細かい対応をしていくこと、すなわち「全ての こども・子育て世帯を切れ目なく支援すること」が必要。 ○ これまでも保育所の整備、幼児教育・保育の無償化など、こども・子育て政策を強化してきたが、この 10 年間で社会経済情勢は大きく変わるとともに、今後、取組む べきこども・子育て支援の内容も変化している。 経済的支援の拡充、社会全体の構造・意識の改革に加え、こども・子 育て支援の内容についても、⇒親が働いていても家にいても、全ての子育て家庭を等しく支援すること。幼児教育・保育について、量・質両面からの強化を図ること、その際、待機児童対 策などに一定の成果が見られたことも踏まえ、量の拡大から質の向上へと政策の重 点を移すこと。これまで比較的支援が手薄だった、妊娠・出産期から0〜2歳の支援を強化し妊娠・出産・育児を通じて、全ての子育て家庭の様々な困難・悩みに応えられる伴走型支援を強化するなど、量・質両面からの強化を図ること。貧困の状況にある家庭、障害のあるこどもや医療的ケアが必要なこどもを育てる家庭、ひとり親家庭などに対してよりきめ細かい対応を行うこと。などが必要。 ○ こうした観点から、こども・子育て支援に関する現行制度全体を見直し、全てのこ ども・子育て世帯について、親の働き方やライフスタイル、こどもの年齢に応じて、 切れ目なく必要な支援が包括的に提供されるよう、「加速化プラン」で掲げる各種施策に着実に取り組むとともに、「総合的な制度体系」を構築することを目指していく。 また、「総合的な制度体系」を構築する際に重要なことは、伴走型支援・プッシュ型 支援への移行である。従来、当事者からの申請に基づいて提供されてきた様々な支援メニューについて、行政が切れ目なく伴走する、あるいは支援を要する方々に行政からアプローチする形に、可能な限り転換していくことが求められる。制度があっても現場で使いづらい・執行しづらいという状況にならないよう、「こども政策 DX」を推進し、プッシュ型通知や、デジタル技術を活用した手続等の簡素化、データ連携などを通じ、子育て世帯等の利便性向上や子育て関連事業者・地方自治体等の手続・事務負担の軽減を図る。なお、こうした「こども政策 DX」に積 極的に取り組むとともに、関係データの連携、そのデータの利活用を図ることは、W. で掲げる PDCA の推進のためにも重要と考えられる。 ○ また、全国それぞれの地域社会において、地域の実情に応じた包括的な支援が提供されるよう、国と地方自治体が連携して、こども・子育て支援の強化を図っていく必要がある。その際には、地域ごとの多様なニーズに対して、幼児教育・保育事業者は もとより、企業や NPO・NGO、ボランティア団体、地域住民などの多様な主体の参画の下で、それぞれの地域が有する資源を最大限に活用しながら、こども・子育て世帯を 地域全体で支えるための取組を促進していくことが重要である。 次回も続き「V.「加速化プラン」〜今後3年間の集中的な取組〜」からです。 |