これからの労働時間制度に関する検討会 第16回資料 [2022年07月31日(Sun)]
これからの労働時間制度に関する検討会 第16回資料(令和4年7月15日)
《議題》 労働時間制度について https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_26794.html ◎資料1 これからの労働時間制度に関する検討会 報告書(案) 第4 裁量労働制について 1 現状認識→ 裁量労働制の趣旨⇒業務の性質上その遂行方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある業務について、労働時間の状況の把握に基づく労働者の健康確保と、法 定時間を超える労働について、実労働時間数に比例した割増賃金による処遇以外の 能力や成果に応じた処遇を可能としながら、実労働時間規制とは別の規制の下、使用者による実労働時間管理から離れて、業務の遂行手段や時間配分等を労働者の裁量に委ねて労働者が自律的・主体的に働くことができるようにすることにより、労 働者自らの知識・技術を活かし、創造的な能力を発揮することを実現することにある。この趣旨は、専門型と企画型とで違いはない。 裁量労働制の適用労働者の割合(令和3(2021)年1月1日現在)は、専門型は 1.2%、企画型は 0.3%。 裁量労働制の運用状況と、それを踏まえた現状と課題は、裁量労働制実 態調査の結果から、次のとおり総括できると考えられる。 ・ 裁量労働制適用労働者は概ね、業務の遂行方法、時間配分等について裁量をも って働いており、専門型・企画型ともに約8割が制度の適用に満足している又は やや満足していると回答するなど、裁量労働制が適用されていることにも不満は少ない。「仕事の裁量が与えられることで、メリハリのある仕事ができる」と回答する割合も、裁量労働制適用労働者の方が同様の業務に従事する非適用労働者 (「非適用労働者」)と比べて多くなっている。 ・ 労働者調査による1日の平均実労働時間数は適用労働者が 9:00、非適用労働者 が 8:39 と適用労働者の方が若干長い。 回帰分析⇒労働者の個人属性等を制御した場合には、裁量労働制の適 用によって、労働時間が著しく長くなる、睡眠時間が短くなる、処遇が低くなる、健康状態が悪化するといった影響があるとはいえないという結果となった。 ・ 専門型⇒本人同意は必須ではないが、5割弱の事業場で本人同意が制度の適用要件。回帰分析の結果⇒本人同意のある専門型適用労 働者の方が、実労働時間が週 60 時間以上となる確率が低く、健康状態がよくない・あまりよくないと答える確率も低くなっている。 ・ 企画型で設置が義務付けられている労使委員会では対象業務や対象労働者の範 囲、使用者が講ずる健康・福祉確保措置等に関する決議を行うこととなっている。 回帰分析の結果⇒労使委員会の実効性があると労働者が回答した場合、 長時間労働となる確率や健康状態がよくない・あまりよくないと答える確率が低くなっている。 回帰分析の結果⇒専門型・企画型双方について業務の遂行方法、時間 配分等や出退勤時間の裁量の程度が小さい場合には、長時間労働となる確率や健 康状態が悪くなる確率が高くなっており、また、業務量が過大である等の場合には、裁量労働制が適用されていることの満足度も低くなっている。 他の制度と同様、年収が低くなるに従って裁量労働制が適用されていることの 満足度が低くなっており、所定労働時間をみなし労働時間に設定している事業場 において、特別手当制度を設けていないようなケースもみられる。 裁量労働制が、裁量をもって自律的・主体的に働くにふさわしい業務に従事する 労働者に適切に適用され、制度の趣旨に沿った適正な運用が行われれば、労使双方 にとってメリットのある働き方が実現できるものと考えられる。本検討会で行った 企業や労働組合からのヒアリングでは、労使が十分に協議した上で、実際にそのよ うな働き方を実現していると考えられる企業もみられた。また、労働者からのヒアリングでも、今後も適用継続を希望する、能力発揮や生産性向上につながっている といった発言もあった。こうした労使双方にとってメリットのある働き方が、より多くの企業・労働者で実現できるようにしていくことが求められる。 一方で、業務の遂行手段や時間配分等についての裁量が労働者に委ねられていな いことが疑われる結果も一部みられるなど、前述のような制度の趣旨に沿ったもの とは必ずしもいえない制度の運用実態がみられた。また、労働者側との十分な協議 がないまま使用者によって残業代を削減する目的で制度が導入され、裁量がない状 態で長時間労働を強いられ、かつ低処遇といった運用がなされれば、労働者の健康 確保や処遇確保の観点からも問題がある。そのような裁量労働制の趣旨に沿ってい ない運用は、制度の濫用・悪用といえる不適切なものであり、これを防止する必要 がある。 以上を踏まえ、次の3点を軸に裁量労働制の検討を行うことが適当⇒ 第一に、裁量労働制の趣旨に沿った運用とするためには、まず、労働者が自らの 意思で自律的・主体的に働くことを選択すること、及び業務の遂行手段や時間配分 等についての裁量が労働者に委ねられることが当然の前提であり、これらを制度的 に担保する必要がある。 第二に、裁量労働制の下で働く労働者の健康と、処遇の確保を徹底することが必 要。健康確保⇒働き方改革関連法により労働時間の状況の把握義 務が設けられたことを土台とした上で、必要な措置を検討することが必要。 また、処遇の確保は、みなし労働時間の設定の考え方とも関連があること から、こうした点を含めて、労働者の相応の処遇を確保し、制度の趣旨に沿った運 用とするための方策について整理が必要である。 第三に、使用者による制度の濫用を防止する観点からは、労使双方が十分に協議 しながら、適正な制度運用の確保を継続的に図っていくことが必要。このため、労使コミュニケーションを通じた制度の運用状況の把握・改善を強化する等、 適切な措置を講じていく必要がある。 2 具体的な対応の方向性 (1)対象業務→現行では、専門型は法令で限定列挙された業務から労使協定で、また、 企画型は「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務」から労使委員会決議で、それぞれ対象業務の範囲を定めることとされている。裁量労働制の趣旨に沿った運用とするためには、労使が制度の趣旨を正 しく理解し、職場のどの業務に制度を適用するか、労使で十分協議した上でその 範囲を定めることが必要。 対象業務の範囲は、労働者が自律的・主体的に働けるようにする選択 肢を広げる観点からその拡大を求める声や、長時間労働による健康への懸念等 から拡大を行わないよう求める声がある。事業活動の中枢で働いているホワイト カラー労働者の業務の複合化等に対応するとともに、対象労働者の健康と能力や 成果に応じた処遇の確保を図り、業務の遂行手段や時間配分等を労働者の裁量に委ねて労働者が自律的・主体的に働くことができるようにするという裁量労働制の趣旨に沿った制度の活用が進むようにすべきであり、こうした観点から、対象業務についても検討することが求められる。 その際、まずは現行制度の下で制度の趣旨に沿った対応が可能か否かを検証の上、可能であれば、企画型や専門型の現行の対象業務の明確化等による対応を検 討し、対象業務の範囲は、前述したような経済社会の変化や、それに 伴う働き方に対する労使のニーズの変化等も踏まえてその必要に応じて検討することが適当。 (2)労働者が理解・納得した上での制度の適用と裁量の確保 ア 本人同意・同意の撤回・適用解除→裁量労働制の下で労働者が自らの知識・技術を活かし、創造的な能力を発揮 するためには、労働者が制度等について十分理解し、納得した上で制度が適用 されるようにしていくことが重要。このことは、制度の濫用防止を図る 観点からも重要である。このため、専門型・企画型いずれについても、使用者は、労働者に対し、制度概要等について確実に説明した上で、制度適用に当た っての本人同意を得るようにしていくことが適当。また、裁量労働制の下で働くことが適切でないと労働者本人が判断した場合⇒制度の適用から外れることができるようにすることが重要。このため、本人同意が撤回されれば制度の適用から外れることを明確化することが適当。その際、同意をしなかった場合に加え、同意の撤回を理由とする不利益取扱 いの禁止や、同意撤回後の処遇等について、労使で取り決めをしておくことが 求められる。例えば、同意撤回の直後にはフレックスタイム制に移行し、その後業務量等の状況が変われば再び裁量労働制に戻るといったような、柔軟な制度運用とすることを、労使で取り決めておくことも考えられる。 また、業務量が過大である等により労働者の裁量が事実上失われるような蓋然性が高い場合⇒裁量労働制の適用を継続することは適当ではない。さらに、労働者に裁量は委ねられているものの、業務に没頭して働き過ぎとなり健康影響が懸念されるような場合も同様。このため、労働者の申出による 同意の撤回とは別に、一定の基準に該当した場合には裁量労働制の適用を解除する措置等を講ずるような制度設計を求めていくことが適当。 イ 対象労働者の要件→専門型⇒対象業務が法令で限定列挙され、当該業務に従事する者も一定の専門性を有することが前提となっているのに対して、企画型⇒対象労働者を「対象業務を適切に遂行するために必要となる具体的な知識、経験等を有する労働者」とする要件が設けられ、その範囲を労使委員会決議で定めることが制度の導入要件とされている。こうした要件は、自らの裁量により 自律的・主体的に働ける者が企画型の対象労働者となることを担保する上で重要。 企画型の対象労働者となり得る者の範囲⇒対象業務ごとに異なり得るものであり、その範囲を特定するために必要な職務経験年数、職能資格等の具体的な基準を明らかにすることが必要とされ、現行の企画型に係る 指針では、「少なくとも3年ないし5年程度の職務経験を経た上で、対象業務 を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者であるかどうかの判断の 対象となり得るものであることに留意することが必要」とされている。 こうした企画型の対象労働者の要件の着実な履行確保を図るため、職務経験等の具体的な要件をより明確に定めることが考えられる。専門型⇒企画型と異なり、対象労働者の範囲を労使協定で定めることが 制度の導入要件とはされていないが、裁量労働制の下で働くにふさわしい労働者に制度が適用されるようにする観点から、そのような労働者の属性について必要に応じ、労使で十分協議・決定することが求められる。 なお、裁量労働制を適用するに当たっては、裁量労働によるみなし労働時間 制を適用するにふさわしい処遇の確保が要請されると考えられるが、その方策 の一つとして、専門型を含め、対象労働者について年収要件を設けることも考 えられる。しかしながら、裁量労働制が企業規模を問わず広く適用され、また、 その年収水準も企業間で異なっている現状を踏まえると、まずは裁量労働制にふさわしい処遇が確保されるよう労使協議を促していくことが必要。その際、みなし労働時間制の適用により、時間外労働の時間数に比例した割増賃金による処遇以外の能力や成果に応じた処遇が可能になることも念頭に、賃 金・評価制度の運用実態等を労使協議の当事者に提示することを使用者に求める等、対象労働者を定めるに当たっての適切な協議を促すことが適当である。 ウ 業務量のコントロール等を通じた裁量の確保→裁量労働制の下で業務の遂行手段や時間配分等の決定に関する裁量が労働者に委ねられているとしても、業務量が過大である場合や期限の設定が不適切な場合には、当該裁量が事実上失われることがある。また、効率的に業務を進め て短時間で仕事を終えることができたとしても、それに応じて使用者から追加 業務の処理を命じられるのであれば、裁量が事実上失われることに加え、効率的に業務を進めようというインセンティブが失われる。このため、裁量が事実 上失われたと判断される場合には、裁量労働制を適用することはできないこと を明確化するとともに、そのような働かせ方とならないよう、労使が裁量労働 制の導入時点のみならず、制度の導入後もその運用実態を適切にチェックして いくことを求めていくことが適当。 併せて、実態調査結果等を踏まえると、労働者において始業・終業時刻の決 定に係る裁量がないことが疑われるケースがみられることから裁量労働制は、 始業・終業時刻その他の時間配分の決定を労働者に委ねる制度であることを改 めて明確化することが適当である。 (3)労働者の健康と処遇の確保 ア 健康・福祉確保措置→裁量労働制⇒対象労働者の労働時間の状況を把握するとともに、その状 況に応じ、労使協定又は労使委員会決議で定めた健康・福祉確保措置を講ずる こととされている。企画型⇒その措置として考えられる内容(メニュー)が、指針で例示されており、専門型は、企画型と同等のものとすること が望ましいことが通達で示されている。 「1 現状認識」で述べたとおり、対象労働者の健康確保を徹底するため、 健康・福祉確保措置を見直していくことが必要であり、その際、分かりやすさ や制度間の整合性にも配慮することが適当である。 こうした観点から、まず、労働時間の状況の把握⇒現行の指針で 定めている内容や、労働安全衛生法に基づく義務の内容を踏まえ、これらの取 扱いを明らかにすることが適当。 次に、健康・福祉確保措置⇒一般労働者には時間外・休日労働の 上限規制が設けられ、また、当該規制が適用されない高度プロフェッショナル制度適用労働者には複数の措置の実施が制度の要件とされていることと比較すると、裁量労働制の対象労働者の健康確保を徹底するためには、措置の内容を充実させ、より強力にその履行確保を図っていく必要がある。このため、他制 度との整合性を考慮してメニューを追加することや、複数の措置の適用を求め ていくことが適当である。 なお、専門型の健康・福祉確保措置は、「企画型における同措置の内 容と同等のものとすることが望ましい」旨を通達で示しており、専門型と企画 型とで差異を設ける理由はないと考えられることから、できる限り同様のもの とすることが適当である。 イ みなし労働時間の設定と処遇の確保→現状においては、みなし労働時間は、専門型では「当該業務の遂行に必要とされる時間を定めること」と通達で示され、企画型では「対象業務の内容を十 分検討するとともに、対象労働者に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度(略)の内容を十分理解した上で、適切な水準のものとなるよう決議することが必要」と指針で示されている。 前述した裁量労働制の趣旨を踏まえると、みなし労働時間は、制度上は実労 働時間と必ずしも一致しなければならないものではない。例えば、所定労働時 間をみなし労働時間と定め、実労働時間が所定労働時間を上回る状況にある場 合に、その所定労働時間を上回る時間に見合った手当を裁量労働手当として支 給することも可能であり、このことは、専門型と企画型とで違いはない。 以上を踏まえて、裁量労働制におけるみなし労働時間の設定⇒次 の見直しを行うことが適当。 まず、みなし労働時間は、対象業務の内容と、対象労働者に適用される評価 制度及びこれに対応する賃金制度を考慮して適切な水準となるよう設定する必 要があること等を明確にすることが適当。 その際、前述のとおり、業務の遂行に必要とされる時間を踏まえ、法定労働 時間を超えるみなし労働時間を設定した場合は、当該超える時間に対する割増 賃金の支払が求められることになり、そのような方法で相応の処遇を確保する ことも可能である。一方で、制度上はみなし労働時間と実労働時間を一致させ ることは求められておらず、実労働時間とは切り離したみなし労働時間の設定 も可能である。その際、例えば所定労働時間をみなし労働時間とする場合には、制度濫用を防止し、裁量労働制にふさわしい処遇を確保するため、対象労働者 に特別の手当を設けたり、対象労働者の基本給を引き上げたりするなどの対応 が必要となるものであり、これらについて明確にすることが適当である。 (4)労使コミュニケーションの促進等を通じた適正な制度運用の確保 ア 労使委員会の導入促進と労使協議の実効性向上→裁量労働制は、労使協定の締結又は労使委員会の決議を制度の導入要件としているが、導入時に設定された諸条件が想定されたとおりに運用されて初めて 当該裁量労働制は適切な制度として受容され定着することになる。このことを踏まえると、裁量労働制の導入時のみならず導入後においても、当該制度が労使で合意した形で運用されているかどうかを労使で確認・検証(モニタリング) し、必要に応じて制度の見直しをすることを通じて、適正な制度運用の確保を 継続的に図ることが期待される。 このため、使用者は労使協議の当事者に対し、裁量労働制の実施状況や賃 金・評価制度の運用実態等を明らかにすることや、労使協議の当事者は当該実 態等を参考にしながら協議し、みなし労働時間の設定や処遇の確保について制 度の趣旨に沿った運用になっていないと考えられる等の場合には、これらの事 項や対象労働者の範囲、業務量等を見直す必要があること等を明確にすること が適当。 企画型について、労使委員会委員に対し、決議の内容を指針に適合したもの にするよう促すとともに、指針の趣旨の正しい理解を促す観点から、行政官庁 が委員に対し適切に働きかけを行うことも考えられる。 専門型では、労使委員会決議ではなく労使協定の締結が制度の導入要件とされている。専門型では、企画型に比べて深夜・休日労働が多くみられるなど、 制度運用の適正化を図る必要がある。この点、現行制度の下でも、労使協定の 締結に代えて、労使委員会を設けて決議を行うことにより、行政官庁への届出 をせずに制度を導入することが可能となっている。裁量労働制では、労使当事 者が合意によって導入した制度が、合意した形で適切に運用されていることの 検証が重要であることを考慮すると、労使による協議を行う常設の機関である 労使委員会を積極的に活用していくことが、当該制度の適正化に資するものと 考えられる。このため、専門型においても、労使委員会の活用を促していくことが適当。さらに、労働者から苦情の申出があった場合など、制度運用上の課題が生じた場合に、適時に労使委員会を通じた解決が図られるようにすることや、労使 協議の実効性確保の観点から、過半数代表者や労使委員会の労働者側委員の選 出手続の適正化、過半数代表者等に関する好事例の収集・普及を行うことが適 当である。併せて、労使委員会の実効性向上のための留意点を示すことが適当 である。 イ 苦情処理措置→認知度や苦情申出の実績が低調である実態を踏ま え、本人同意を取る際の事前説明時等に苦情申出の方法等を積極的に対象労働 者に伝えることが望ましいことを示すことが適当。併せて、例えば労使 委員会に苦情処理窓口としての役割を担わせるなど、労使委員会を通じた解決 が図られるようにすることや、苦情に至らないような内容についても幅広く相 談できるような体制を整備することを企業に求めることが適当。 ウ 行政の関与・記録の保存等→企画型が制度として定着してきたことを踏まえ、現行では6か月以内ごとに 1回行わなければならないこととされている定期報告について、その負担を減 らすことが適当。行政による監督指導に支障が生じないよう、 健康・福祉確保措置の実施状況に関する書類の保存を義務付けることが適当。併せて、手続の簡素化の観点から、企画型の労使委員会決議・専門型の労使 協定の本社一括届出を認めることが適当。 第5 今後の課題等→働き方改革関連法は、長時間労働の是正や過労死等の防止を図りつつ、労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できるようにするため、柔軟な働き方がしやすい環境整備等を行ったもの、平成 31(2019)年4月から順次施行されている。 働き方改革の流れを止めるようなことがあってはならず、本検討会で検討を加えた事 項についても、裁量労働制に関する事項を中心に、可能なものは速やかに実施に移していくべき。 また、働き方改革関連法は、施行5年後に、施行状況等を踏まえた制度の 検討を行うこととされているが、これに加えて、労働時間法制について、前述したよ うな経済社会の大きな変化を十分に認識し、将来を見据えた検討を行っていくことが求められる。 その検討に当たっては、本報告書の基本的な考え方を踏まえるとともに、特に次の 課題や視点について議論を深めていくことが必要である。 ↓ (労働時間法制についての基本認識)→まず、労働時間法制の実効性を確保するためには、その必要性が労使をはじめ社会 に十分に理解され、広く受け入れられるものとすることが必要。多様な人材の 労働参加、労働者・使用者の意識・ニーズの変化、ICTやAI等の技術の進展、普及等による働き方そのものの変化等を受け止める制度として労働時間法制を考えていく際、各制度の対象となると考えられる労働者像を明確にすることが、労働者保護の観点からも、企業の適切なマネジメントの実現の観点からも必要である。 (シンプルで分かりやすい制度)→その上で、働き方に対する労使のニーズの多様化が今後も見込まれる中で、こうしたニーズに応えられるようにしつつ、労働時間法制が多様化・複雑化し、分かりにく いものとならないよう現行制度を横断的な視点で見直し、労使双方にとってシンプ ルで分かりやすいものにしていくことが求められる。そのためには、当事者の合意によっては変更できない枠組みとして法が設定すべき事項と、当該制度枠組みの中で具体的な制度設計を労使の協議に委ねてよい事項との整理が課題。後述のとおり、後者の場面では労使協議が労働者保護を確保しつつ実質的に行われるための体制整備が課題。 (IT技術を活用した健康確保の在り方等)→テレワーク、副業・兼業、フリーランスなど、働き方の多様化が今後も見込まれる中で、働く者の健康確保の重要性が一層増していくものと考えられる。個人情報の保 護に配慮しつつ、IT技術の活用などによる健康確保の在り方、多様な働き方に対応 した労働時間の状況の把握の在り方、労働者自身が行う健康管理を支援する方策等に ついて、検討を行っていくことが求められる。 (労働時間制度等に関する企業による情報発信)→現役世代の減少が進み、人材獲得競争の激化が見込まれる中で、企業が自らに適 した働き方を選択したいという労働者のニーズに応え、優れた人材を確保していくためには、企業が労働時間制度やその運用状況等に関する情報を積極的に発信し、その情報を基に、労働者が企業を選択できるようにすることが重要。このことは自分の働き方や労働環境が不適切なものとなっていないかを、労働者自身が確認できるようにする観点からも有効。労働時間制度やその運用状況等に関する情報を労使で共有し、協議することで、採用した制度の適正な運用の確保も期待。こうした観点から労働時間制度等に関する企業による情報発信を更に進めていくことが求められる。 (労使コミュニケーションの在り方等)→職場においていずれの労働時間制度を採用するかを決定するに当たっては、法令に基づき、労使協議を行うことが基本。労使双方が納得して制度を採用するためには、両者が対等の立場でそれぞれのニーズを反映しつつ、労働者保護を図ることができるよう、適切に労使協議を行うことが前提。このことから、職場の労働者の過半数を代表する労働組合等各企業の実情に応じて労働者の意見が適切に反 映される形でのコミュニケーションを図っていくことが重要。そのため過半数代表制や労使委員会の在り方についても中期的な課題。 今後の労働時間制度⇒適切な労使協議の場の制度的担保を前提として、対象範囲や要件等を法令で詳細に規定するといった手法から、制度が濫用されな いよう法令で一定の枠組みと手続を定めた上で、その枠内で労使の適切な労使協議により制度の具体的内容の決定を認める手法に比重を移していくという考え方もある。 経済社会の変化や働き方の多様化への対応を行いつつ、労働条件の確保を的確に行うためには、このような方向での見直しも、検討課題の一つになり得ると考えられる。 ○これからの労働時間制度に関する検討会 開催要綱 ○(別紙) これからの労働時間制度に関する検討会 参集者名簿 ○これからの労働時間制度に関する検討会 開催経緯 次回も続き「資料2−1 これからの労働時間制度に関する検討会報告書(案)参考資料@」からです。 |