第3回「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」 [2022年03月22日(Tue)]
第3回「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」(令和4年3月15日)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_24452.html 《議題》 (1)精神障害の労災認定の基準について (2)その他 ◎【資料1】第3回の論点 (業務による心理的負荷の考え方について) ↓ 1 業務による心理的負荷の評価方法→現行認定基準では、業務による心理的負荷の強度を判断するに当たり、 「業務による心理的負荷評価表」(「評価表」)を指標とし、業務による「出来事」と「出来事後の状況」を一括してその心理的負荷を 「強」、「中」、「弱」と判断することとしている。 このような評価方法は、現在の医学的知見や裁判例等に照らしても、適当 と考えてよいか。 2 業務による心理的負荷評価表の検討 (1)現行の評価表の構成を基礎として、その内容を検討していくことでよいか。 (現行の評価表の構成)→「特別な出来事」と「特別な出来事以外」に区分。「特別な出来事以外」については、様々な「具体的出来事」を示した上で、それ ぞれの「具体的出来事」の平均的な強度を示す。さらに、個々の事案に即して心理的負荷の強度を「強」「中」「弱」と判断する具 体例や総合評価の視点を示す (2)評価表において、修正・統合すべき具体的出来事はあるか。また、追加すべき出来事、追加すべきでない出来事はどのようなものか。 既存の具体的出来事も含め、それぞれの出来事の平均的強度をどのよう に定めるか。 さらに、「強」「中」「弱」と判断する具体例や総合評価の視点を示すに当たり、どのような事項に留意すべきか。 その他、評価表について検討すべき事項はないか。⇒ ・ 評価表を修正するほか、業務による心理的負荷の評価に当たって留意すべき事項 等について、何らかの形で示すことを検討すべきか。 ・ これらの業務による心理的負荷の評価に当たっての基準の具体化・明確化等の検討は、具体的な支給決定事例等を踏まえて行うべきではないか。 ◎【資料2】論点に関する労災補償状況 1.具体的出来事 ごとの支給決定件数(複数の出来事を重複して計上) ○表2-3 出来事(新基準)()平成24年〜30年度、精神障害、男女) ・事案数→3344件。 ・特別な出来事の評価(心理的負担が極度のもの7.4%、極度の長時間労働8.8%) ・恒常的な長時間(25.7%) ・具体的な出来事→1〜36あり。15、29、30が多い。 2. 具体的出来事ごとの決定件数(主な出来事の計上)→「令和2年度」⇒上司とのトラブル。パワハラが多い。 ◎【資料3】論点に関する裁判例 【請求棄却事案】→上司とのトラブル9件。仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった 6件。その他多数あり。 【請求認容事案】→上司等から身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた 12件。上司とのトラブルがあった 10件。恒常的⻑時間労働 9件。その他あり。 ◎【資料4】精神障害等の労災認定に関する専門検討会報告書(平成 11 年7月 29 日) ○はじめに→従来行政が個別の労災請求事案の業務起因性の判断の場面で示してきた取扱いについて、精神医学及び心理学の研究の進歩、蓄積並びに社会情勢の 変化等を踏まえ、幾つかの点で見直すべき点があるとの結論に達した。 1 対象とする精神障害→ICD−10第X章「精神および行動の障害」⇒F0→F4該当。 2 精神障害の成因→「ストレス−脆弱性」理論とは、環境からくるストレスと個体側の反応性、脆 弱性との関係で精神的破綻が生じるかどうかが決まるという考え方 3 精神障害の診断等 (1) 精神障害の発病の有無及び診断名→ICD−10診断ガイドラインに沿って検討、確定される必要 (2) 精神障害の発病時期→家族、友人、職場の上司、同僚、部下等 周囲の人達からの可能な限り詳細な情報を集めて、複数の専門家の合議等によ り推定される必要がある。 (3) プライバシーの保護 4 業務によるストレスの評価 (1) 出来事の評価→(別表1)職場におけるストレス評価表⇒ストレス強度「T」〜「V」のいずれに位置付けられるか、個別 具体的な内容からその位置付けを変更する必要はないか、出来事後の変化はど うであったか、出来事により発生した問題や変化はその後どの程度持続し、あ るいは拡大し、あるいは改善したのかについて検討され、総合評価として当該 業務によるストレスは「弱」、「中」、「強」のいずれと評価できるかの過程を追 うように工夫されている。 参照。 (2) 出来事に伴う変化の評価→仕事量の増加、責任の増加、作業困難度や強制性の増 加等は明白なストレス要因。当該出来事へ対処するため生ずる長時間労 働、休日労働等も心身の疲労を増加させる意味で重要。 (3) 出来事によるストレスの評価期間→当該精神障害発病前概ね6か月以内の出来事を評価 5 業務以外のストレス及び個体の脆弱性の評価→(1) 既往歴 (2) 生活史 (3) アルコール等依存状況 (4) 性格傾向 6 自殺行為 7 療養等 →(1) 療養の範囲 (2) 治ゆ等→療養期間の目安を一概に示すことは困難であるが、業務によるストレス要因を主因とする精神障害にあっては、一般的には6か月から1年程度の治療で治 ゆする例が多い。 治ゆ後、一定期間経過後再び発病した場合、発病のたびにその時点での業務 上の負荷と本人の脆弱性を検討するのが適当である。 ◎【資料5】第2回検討会の議論の概要 (精神障害の現状について)→今回の認定基準の検討に当たって、精神障害者の数は稼得世代において相当増えているという現実と、さらに自殺者の中においても、全体の 数が減っている中で勤務問題を原因とする人が増えているということを 頭に入れておくべき。 (判断の基準となる労働者について)→前回の議論やこれまでの裁判例などに照らし、法律学の立場からして、ストレス−脆弱性理論に基づいて「同種の労働者」を基準とし、本人で はなく、ある程度一般化された労働者を基準とすることについては、引 き続きそのように扱って良いと考える。 また、 裁判例では、「 平均的 」という文言を使うことがあ るので、「同種の」という文言でよいかということについて、同種労働者を判断の基準 とすることに異論はない。 「同種の労働者」について裁判例では様々な表現があるが、平均的な 労働者について「特段の労務軽減までは要せず」「社会生活が困難であ ったという事情は認められない」という表現は、業務軽減措置を受けて いれば、その時点で平均的な労働者ではないと考えるべきことは明らかなので、不適当であり基準として用いるべきではない。同種の労働者、同種の平均労働者については きちんと使い分けていかないと混乱 する。というのは、まずT、U、V があり、その次に強、中、弱をと決めていくわけで、出来事の平均的強 度をT、U、Vで示していて、これは同種労働者ではなく、雑多なもの が全部含まれている平均的な労働者である。同種労働者との比較は強、 中、弱の判断において、出来事とその後の状況に含めて評価していかざ るを得ない。そのときに同種の一般的、平均的な労働者というのを 想定 しながら強、中、弱というのを考える。 この専門検討会では共通の認識 で議論を進めるべきだ。 ・精神疾患や心因的な要因というのは単純に強弱で捉えられない 面があり、例えば繊細さが、一定の出来事を強く捉えてしまうような面では弱さになるかもしれないが、人の心を読んで行動するような面では 強さになるかもしれないので、脆弱性という言葉を残すとしても、個体 差や脆弱性というように表現を少し変えていったほうがいい。医学と法 学の両見解を組み合わせて判定していかなければいけない課題かと思う。 (三柴先生) ・論点のA(同種労働者を基準とすること)とB1(職種…経験等が類 似する者を想定すること)には賛成である。 ・ 我々は同種の労働者について職種とか職位、その他を考えて同種の労 働者と考えているわけだが、平均的な労働者というと、対象が少し広が るので、同種と平均的というのは使い分けていいのではないかと思う。 同種の労働者のほうがより狭い表現になる ので、まず同種の労働者を使 うべきで、平均的というのは本人基準説に対して平均人を基準にすると きに使い、労災上は同種の労働者という表現を使うのが適正だろうと 思う。 ・丸山先生、荒井先生と大体同じ意見であるが、心理的負荷評価表を、 平均点をもとに作っていくのか、IRT の結果をもとに作っていくのかで、 微妙に意味合いが違ってくる。IRT は個人、集団の属性とは切り離され た母 数の 推計 な の で、 ある 意味 で 絶 対的 基準に近いところがある。 IRT の結果をもとに評価した評価表を使った場合、理論的には個人の特性と いうものは、それほど大きな影響は受けない形で評価が可能になるかと 思う。ただ、実際の今後の策定作業においては平均点も考慮しながらと いうことであろうから、先生方のご指摘のとおり、具体的な手続の中で そういったところは入れ込んでいくのが現実的と感じる。 ・ 荒井先生や丸山先生の意見に賛成で、同種と平均的という言葉は、使い分けが必要だと思っていた。ただ、最近の労災の申請を見ると、発達 障害やパーソナリティの障害を背景に持っている人がいて、その人たち はストレス度とか他の因子から見れば、かなりはっきりしたものを持っ た中で病気を発症してきている例があるので、その人たちの扱いを少し 例外的に考えるか、どのような評価の仕方をするか、同種の労働者とい うことで脆弱性で切ってしまうのもどうなのかと考えている。同種の労 働者について、例えば発達障害のような人たちの対応も念頭に置いて考 える必要がある。 ・ 同種か平均かという用語の使い方について、 同種のほうがより多義的でないという意味でいいと思うが、一定の幅の表現方法について、品田 先生や三柴先生が今のままの方が誤解がなくていいとおっしゃっている のは、多くの裁判所がいう、脆弱性があっても通常勤務をこなしていれ ばいいという判断基準が広すぎると いう趣旨か、裁判例と同じだが、誤 解を招くから一定の幅という表現にとどめたほうがいいという 趣旨か、 分からなかったのでお聞きしたい。もし仮に裁判例と同程度の幅を想定 しているのであれば、私は表現方法として盛り込んだほうが分かりやす いのではないかと思う。 ・ 一定の幅という表現方法について、どちらが広いとか狭いという話で はなくて、論理的にどうであるかという筋で問題を考えるべきだという 意味合いであった。 また、同種という表現について、これしかないなという感覚を持った。 平均的な労働者かどうかというのは判断者の経験とか考え方によってか なり幅を持ってしまい、それは致し方ないが、ではどうやって判断する かというと、評価表の具体例を見て、判断をしていく。平均的な労働者 も疾患になるかどうかは、具体的な出来事を想定する中において相対的 に決まるものであるわけで、この基準を幅広く考えるか、狭く考えるか という問題ではない。例えば、業務軽減措置を受けているかどうかとい う話だけでなく、脆弱性がある人が業務災害と認められるべきか否かは、 仮に通常の人でも強い負荷を感じるような場合であったら、当然その人 も労災と認められるべきである。そうすると、前提条件でそうした幅を 狭めるような言葉を設けることは、プラスにもマイナスにもバイアスを 掛けてしまう結果になるのでやめたほうがいいという意見である。 同種の労働者の具体的な内容について、「職種、職場における立場や 職責、年齢、経験等」の「等」に何が入るかという問題があるかと思 う。 現在、「等」として考慮している要素として、障害の有無 等、様々な要 素が入りうるが、それらの考慮要素を全て網羅的に列挙することは恐ら く不可能で、実務を不必要に縛り不適切であるため、柔軟な運用ができ るよう「等」という、包括的な考慮を可能とする文言を入れ ることが必 要かつ適切と考える。 一方、裁判例における平均的労働者の書き方との違いから、認定基準 における同種の労働者が、研究者にとってすら、やや硬直的な基準であ ると受け取られていると思うので、同種の労働者が一定の幅を含むこと を、検討会報告書など何らかの形で示すといいと思う。 ・ 阿部先生からのお尋ねにお答えすれば、裁判所の相場感については 、 一部疑問なものもあるが、概ね私も同じである。あとは表現ぶりの問題 で、同種と言ったときにも、そこから普通の人がイメージするものより は凹凸があり、また、その凹凸が必要だというところは強調したい。表 現は同種でもいいが、報告書で書き加えるか何かで、適材適所等 の合理 的配慮によって持続的に労働参加可能な者はそれに含まれ、そういった 方は現に持続的に働けているのであれば補償の対象だと思 う。逆に、そ の意味で多様な労働者が通常耐え得るか耐えるべき出来事は、評価の対 象外とすべきなのだろうと思う。(三柴先生) ・ 認定をする手順としてストレス度を決め、職場の中のストレスをどう 評価するかについては、職場のいろいろな出来事を評価する ため、「同 種労働者」というのは必要で、現行の認定基準の定義である「職種、職 場における立場や職責、年齢、経験等が類似する者」と考えることが引 き続き妥当と整理させていただきたい。 ・ 一定の幅について裁判所の基準とかなり近い、または同じという合意 があれば、報告書や課長内かんなど何らかの形で明示したほうがいいの かなと思う。 次回は新たに「第2回生活困窮者自立支援のあり方等に関する論点整理のための検討会ワーキンググループ資料」からです。 |