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第24回社会保障審議会年金部会 [2025年01月24日(Fri)]
第24回社会保障審議会年金部会(令和6年12月24日)
議事 社会保障審議会年金部会における議論の整理(案)について
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/nenkin_20241224.html
U 次期年金制度改革等
1 被用者保険の適用拡大
(基本的な考え方)→○ 国民の価値観やライフスタイルが多様化
し、短時間労働をはじめとした様々な雇用形態が広がる中で、特定の事業所において一定程度働く者については、事業主と被用者との関係性を基盤として働く人々が相互に支え合う仕組みである被用者保険に包摂し、老後の保障や万が一の場合に備えたセーフティネットを拡充する観点からも、被用者保険の適用拡大を進めることが重要である。 ○ また、労働者の勤め先や働き方、企業の雇い方の選択において、被用者保険 制度における取扱いの違いにより、その選択が歪められたり、不公平が生じたりすることのないよう、中立的な制度を構築していく観点も重要である。 ○ こうした考え方に基づき、これまでの被用者保険の適用拡大の議論を進め てきた。加えて、賃上げが進む中で、短時間労働者がいわゆる「年収の壁」を意識した就業調整をすることなく、働くことのできる環境づくりが重要である。その際、被用者保険が民間保険ではなく、要件を満たせば加入しなければならない公的保険であることの意義や、被用者保険への加入は、保険料が生じ るものの、将来の年金給付の上乗せや傷病手当金・出産手当金の受給、被扶養 配偶者向け特定健診など、労働者にとってメリットがあることを分かりやすく発信していくことが必要である。
(短時間労働者への適用拡大)→○ 短時間労働者への適用拡大は、2016(平成 28)年 10 月から行われているが、 中小の事業所への負担を考慮して、激変緩和の観点から段階的な拡大を進める目的で、2012(平成 24)年の改正により対象事業所の企業規模要件が設けられた。開始当初は従業員数 500 人超規模の企業が対象とされ、令和2年年 金改正法では、最終的に 50 人超規模の企業を対象とすることとされた。 ○ こうした経緯も踏まえて、「当分の間」の経過措置として設けられた企業規模要件については、労働者の勤め先や働き方、企業の雇い方に中立的な制度を 構築する観点から、撤廃する方向で概ね意見が一致した。○ また、月額賃金 8.8 万円以上とする賃金要件については、就業調整の基準 (いわゆる「106 万円の壁」)として意識されていることや最低賃金の引上げに伴い週所定労働時間 20 時間以上とする労働時間要件を満たせば賃金要件を満たす地域や事業所が増加していることを踏まえ、撤廃する方向で概ね意見 が一致した。 ただし、最低賃金の動向次第では週 20 時間の所定労働時間であっても賃金要件を満たさない場合があり得ることから、賃金要件の撤廃によって保険料負担が相対的に過大とならないよう、最低賃金の動向を踏まえつつ、撤廃の時期に配慮すべきである。この点に関しては、仮に廃止するのであれば、最低賃 金の動向により、全国 47 都道府県で、8.8 万円の賃金要件が実質的な意味を 持たなくなる時期を踏まえて廃止すべきという意見があった。なお、最低賃金 を一律に適用するとかえって雇用機会を狭めるおそれ等から、たとえば障害により従事しようとする業務の遂行に直接著しい支障があるなど、最低賃金の減額の特例の対象となる者で、賃金が月額 8.8 万円未満の短時間労働者については、希望する場合に、事業主に申し出ることで任意に被用者保険に加入できる仕組みとする。 ○ 週所定労働時間 20 時間以上とする労働時間要件については、働き方に中立的な制度とする観点から雇用保険の適用拡大に伴い引き下げるべきとの意見や労働時間で就業調整する者の存在を懸念し要件の撤廃も含めた議論の継続 を求める意見があった。一方で、保険料や事務負担の増加という課題は対象者 が広がることでより大きな影響を与え、また、雇用保険とは異なり、国民健康 保険・国民年金というセーフティネットが存在する国民皆保険・皆年金の下で は、事業主と被用者との関係性を基盤として働く人々が相互に支え合う仕組 みである被用者保険の「被用者」の範囲をどのように線引きするべきか議論を 深めることが肝要であるという考え方もあることに留意しつつ、雇用保険の 適用拡大の施行状況等も慎重に見極めながら検討を行う必要がある等の意見 があった。こうしたことから、今回は見直さないこととする。 ○ 学生除外要件については、就業年数の限られる学生を被用者保険の適用対 象とする意義は大きくない、適用対象とする場合には実務が煩雑になる等の 意見があったことから、今回は見直さないこととする。
適用事業所の拡大)→○ 適用事業所の範囲は、1984(昭和 59)年の健康保険法改正及び 1985(昭和60)年年金改正法により、法人については従業員規模にかかわらず、全ての事 業所が強制適用となった。一方で、個人事業所では、1953(昭和 28)年の健 康保険法及び厚生年金保険法改正以来、適用業種に変化がなかったが、令和2 年年金改正法により、弁護士や公認会計士など法律や会計に係る業務を取り 扱う士業を適用業種に追加した。 ○ 常時5人以上の従業員を使用する個人事業所における非適用業種については、労働者の勤め先等に中立的な制度を構築する観点等から、解消する方向で概ね意見が一致した。 他方で、常時5人未満の従業員を使用する個人事業所については、本来的に は適用すべきとの意見があった一方で、適用拡大により発生する事務負担・コスト増が経営に与える影響が大きいこと、対象事業所が非常に多く、その把握が難しいと想定されること、国民健康保険制度への影響が特に大きいこと等から、慎重な検討が必要との意見もあったため、今回は見直さないこととする。 なお、将来的には常時5人未満の従業員を使用する個人事業所についても適 用を拡大すべきとの意見があった。 (複数事業所の勤務者やフリーランス等)→ ○ 被用者保険においては、事業所単位で適用要件を満たすか判断するため、複 数の事業所で勤務する者については、労働時間等を合算することなく、それぞ れの事業所における勤務状況に応じて適用の有無を判断している。 複数の事業所で勤務する者の労働時間等を合算し、被用者保険を適用する ことについては、社会保障におけるDXの進展を視野に入れながら、実務にお ける実行可能性等を見極めつつ、慎重に検討する必要があるとの意見があり、 引き続き検討していく。 ○ 複数の事業所で勤務する者の現行の適用事務について、事業所における事 務負担の軽減の観点から見直しの方向性について検討したが、医療保険者に おける財政調整の仕組みや保険料の算定方法の見直しに伴う保険者等におけ るシステム改修が必要となるなどの課題があり、関係者と丁寧に調整してい くべきとの意見があったことを踏まえ、医療保険者や日本年金機構、事業者団 体等と議論しつつ、複数の事業所で勤務する者の現行の適用事務の見直しを 引き続き検討していく。 ○ 現行制度では、適用事業所に労務を提供し、その対価として給与や賃金を受 ける使用関係がある者を「被用者」として被保険者としており、その使用関係は、形式的な契約内容によらず、実態に即して判断されることとなる。 例えば、業務委託契約でありながら、実態としては被用者と同様の働き方をしている者については、被用者保険の適用を確実なものとしていくため、労働基準監督署において労働者であると判断した事案について、日本年金機構が情報提供を受け、その情報を基に適用要件に該当するか調査を行っており、労働者性が認められる被用者については、確実に被用者保険を適用すべきである。 他方で、労働基準法上の労働者に該当しない働き方をしているフリーランス等への適用の在り方については、まずは労働法制における議論を注視する必要があること、被用者保険が事業主と被用者との関係性を基盤として働く 人々が相互に支え合う仕組みであること等の意見を踏まえ、諸外国の動向等 を注視しつつ、中長期的な課題として引き続き検討していく。
(事業所への配慮等)→○ 今後、適用拡大を進める場合、対象となる事業所においては、適用手続や 日々の労務管理等、事務負担が増加するとともに、新たな保険料発生に伴い経 営への影響があると懸念される。特に、適用拡大の対象となる労働者を多く雇 う事業所や初めて被用者保険の適用事業所となる個人事業所等では影響が大 きいと想定される。 ○ こうした経営に与える影響を踏まえた経過措置や支援策による配慮、労務費等の事業主負担の価格への転嫁を求める意見も踏まえ、円滑な適用を進められる環境整備のため、準備期間の十分な確保、事業主や労働者への積極的な周知・広報、事務手続きや経営に関する支援に総合的に取り組むことが必要である。 特に、施行時期については、個人事業所への適用拡大の影響が大きいと考えられることから、企業規模要件の撤廃を優先して施行すべきである。その際、 現在 50 人超の企業規模要件を直ちに撤廃するのではなく、段階的に拡大すべきとの意見もあった。 ○ なお、保険者が分立する医療保険制度においては、適用拡大に伴い、国民健 康保険の被保険者から健康保険の被保険者となる者、健康保険の被扶養者か ら別の健康保険の被保険者となる者等、保険者間での移動が生じることとなり、保険者の財政や運営に影響を与えることとなる。 さらなる適用拡大の検討に当たっては、被保険者等の構成の変化や財政等への影響を示した上で、保健事業の円滑な実施など保険者機能を確保する視点も含め、医療保険制度の在り方についても着実に議論を進める必要がある。

2 いわゆる「年収の壁」と第3号被保険者制度
(基本的な考え方)
→○ いわゆる「年収の壁」として、第3号被保険者が働く中で、収入や労働時間 が増加することで、本人負担の保険料が発生することによる手取りの減少を 避けるため、就業調整が行われ、希望どおり働くことが阻害されているとの指摘がある。 ○ 「年収の壁」を意識せず働くことが可能であることは、労働参加のさらなる 進展につながり、昨今の人手不足への対応や女性をはじめとした就労促進に つながるだけではなく、被用者保険に加入する場合、労働者個人にとっては将 来の年金の上乗せや傷病手当金・出産手当金の受給などのメリットが、被保険 者全体にとっても制度の支え手が増加するメリットがある。 ○ こうした背景も踏まえ、「こども未来戦略方針」(令和5年6月 13 日閣議決 定)等に記載されているとおり、短時間労働者への被用者保険の適用拡大、最低賃金の引上げとともに、制度の見直しにも取り組む必要がある。 ○ 社会保険において年収の壁として意識されているものは、第3号被保険者 が第2号被保険者として適用されるいわゆる「106 万円の壁」と、第1号保険 者として適用されるいわゆる「130 万円の壁」の2つがある。 いわゆる「106 万円の壁」では、保険料負担が増えるが厚生年金給付も増える。これは全ての厚生年金被保険者に共通であり、適用拡大に伴う短時間労働者のみ異なる取扱いとなるわけではない。 他方で、給付のことは考えず、「壁」を境にした保険料負担による手取り収入の減少のみに着目すれば「壁」を感じる者が存在することから、これへの対 応は「保険料負担による手取り収入の減少をどうするか」を出発点として考えることが基本となる。 ○ また、「106 万円」は、あくまで雇用契約上の月額賃金が 8.8 万円以上であ ることを求める賃金要件を年額換算した数値であり、時間外労働に係る賃金 は含まれない。被用者保険の適用拡大の推進に向けて、こうしたことや被用者 保険加入のメリット等について、労働者等に対する広範かつ継続的な広報・啓発活動を展開・強化する必要がある。
○ いわゆる「130 万円の壁」では、保険料負担が増えても基礎年金給付は同じ であり、これは第1号被保険者と第3号被保険者とで負担と給付の構造が異 なることによるものである。 したがって、これへの対応は、第3号被保険者のあり方そのものに着目した 何らかの見直しを行うか、「壁」を感じながら働く第3号被保険者が少なくな るよう、短時間労働者への被用者保険の適用拡大を一層加速化することが基本となる。
@ いわゆる「106 万円の壁」への制度的対応
(単に手取り収入が減少しない仕組みの課題)
→○ いわゆる「106 万円の壁」への対応を検討するに当たって、「保険料負担に よる手取り収入の減少をどうするか」を出発点とし、わかりやすい対応策の例 として、被用者保険に加入することに伴い、新たに保険料負担が発生しないよ う、一定の収入以下の労働者の保険料負担を免除し、給付については、負担免 除による給付減が将来の不利益とならないよう、現行通り、基礎年金満額に加 えて標準報酬月額に応じた報酬比例部分を支給する仕組みについて、議論を 行った。 ○ この仕組みについては、労使折半原則を踏まえた観点から慎重な意見が多 かった。加えて、本人負担はなく、事業主負担も変わらない中で、基礎年金満 額と報酬比例部分を受給できるような有利な制度とすることによる他の被保 険者や事業主への影響を懸念する意見や、免除した保険料に応じて給付を削 減した場合の将来の低年金につながる可能性を懸念する意見、就労により負 担能力があるならば、労使ともに保険料を負担するべきであり、いわゆる「年 収の壁」を理由とした本人負担の免除に理がないという意見もあった。
(就業調整に対応した保険料負担割合を変更できる特例)→○ 被用者保険では、保険料の負担は原則として労使折半であるが、健康保険法 において、健康保険組合の特例として、組合規約をもって、健康保険料の負担 割合を被保険者の利益になるように変更することが認められている。 ○ 現在、政府が保険者である厚生年金保険法においては、類似の仕組みは存在 しないが、今般、被用者保険の適用に伴う保険料負担の発生・手取り収入の減 少を回避するために就業調整を行う層に対して、健康保険組合の特例を参考に、被用者保険において、事業主と従業員との合意に基づき、事業主が被保険 者の保険料負担を軽減し、事業主負担の割合を増加させることを認める特例 を時限的に設けることについて、議論を行った。 事務局からは、仮に導入する場合として以下のような仕組みについて提案があった。 ・ 本特例の導入は、人手不足が深刻な課題として指摘される中で、「年収の壁」という足下の課題に対応するための例外的位置付けであり、被用者保険 の適用拡大の施行状況も勘案した時限措置とすること。 ・ 対象者を被用者保険の適用に伴う「壁」を意識する可能性のある者に限定し、具体的には、保険料負担による手取りの減少をなだらかにする観点から、 保険料負担割合を変更できる特例の対象標準報酬月額は 12.6 万円以下とす ること。 ・ 同一の等級に属する者同士の保険料負担の公平性を確保し、企業において 導入しやすくする観点から、本特例を利用する事業所内で、同一の等級に属 する者同士の本人負担割合を揃えることとしつつ、等級ごとの具体的な割合 は、事業所単位で労使合意に基づき任意に設定可能とすること。また、特例 対象者の賞与についても対象にできることとすること。 ・ 本特例は、例外的な措置として、労使の合意に基づいて任意に利用可能な ものであり、社会保険制度における保険料の労使折半の原則からの逸脱を示 唆するものではなく、今後導入に向けた検討を進める場合は、企業側の保険 料負担軽減についても検討を行うこと。 ○ これに対して、この特例は、いわゆる「年収の壁」を意識した就業調整によ る人手不足への対応として、就業調整の生じる可能性の高い収入層に限った 特例措置として考えられるといった意見、最も古い社会保険である健康保険 組合における特例を他の社会保険制度で行うことを許容する意見、あくまで 任意による仕組みであり労使折半原則を変更するものではないとする意見、 年金制度内で取り得る対応として「年収の壁・支援強化パッケージ」と比較し て評価する意見等があった。 ○ 一方で、慎重・反対意見としては、国が全国の統一の制度として実施してい る公的年金制度について、労使折半ルールの原則を変更し、個別企業に保険料 の設定を委ねることに強い違和感があるとの意見、保険者自治が機能しうる 健康保険と公的年金は同列でなく、制度を導入すべきでないとの意見、厚生年 金に加入して将来の年金の増額につなげることが労働者本人にとっての安心 につながるということへの理解を妨げるという意見や特例の維持や対象の拡大につながり、新たな壁を生み出しかねないという意見があった。また、被保 険者の本人負担の軽減と事業主の増加が表裏関係にあることを踏まえ、企業 規模による利用の有無を懸念する意見、中小企業の利用が少ないことで人材 流出の深刻化や企業間の待遇格差を助長するリスクといった点、従業員間で 保険料負担割合が異なり不公平感が生じる点などからの慎重な意見や反対の 意見もあった。 加えて、特例措置の期間や、併せて提案のあった特例がより広く活用される 環境整備の具体的な内容や財源などが不明確であることを懸念する意見もあ った。また、導入する際には、中小企業における保険料負担の軽減策を求める 意見やそうした軽減策は本部会の枠外で検討すべきという意見があった。 ○ 本特例の導入については賛成意見が多かったものの、制度の細部までは意 見が一致せず、一方で前述のような慎重意見や反対意見が多くあり、部会とし て意見はまとまらなかった。政府において、本部会での意見を踏まえて、本特 例の妥当性や、仮に導入するとした場合の中小企業への負担軽減策を含めた 具体的な制度案について、検討を深める必要がある。
A 第3号被保険者制度
→○ 第3号被保険者制度は、昭和 60 年年金改正法により、夫名義の年金で夫婦 2人が生活できるようになっていた給付設計を見直して、サラリーマン世帯 の専業主婦を国民年金の強制適用対象とし、自分名義の年金権を確立したも のである。これにより公的年金は、一人当たりの賃金水準が同じであれば、どの世帯類型でも負担、給付とも同じになる構造となっている。この認識に基づ き、平成 16 年年金改正法では、第2号被保険者の負担した保険料は夫婦で共 同負担したものとする規定が設けられた。
(検討の背景)→○ 第3号被保険者制度については、これまでの年金制度改正においても議論 が行われてきたが、近年では、「社会保障審議会年金部会における議論の整理」 (平成 27 年1月 21 日)において「まずは、被用者保険の適用拡大を進め、被 用者性が高い人については被用者保険を適用していくことを進めつつ、第3 号被保険者制度の縮小・見直しに向けたステップを踏んでいくことが必要で ある」との方向性が示されており、その後の「社会保障審議会年金部会におけ る議論の整理」(令和元年 12 月 27 日)においてもその方向性が踏襲されている。
○ こうした方向性も踏まえ、被用者保険の適用拡大が進められてきたところ だが、第3号被保険者の大半を女性が占めている中で、より多くの女性が就労 することによって新たに被用者保険の適用となるか、被扶養の範囲内にとど まるかを選択する必要が生じ、制度が働き方に影響を与えると意識されている機会が増えてきた。 このことは、いわゆる専業主婦世帯を念頭に創設された第3号被保険者制度 が、女性の就業率が上昇していること、専業主婦世帯が減少する一方で、共働 き世帯は増加していることなど、働き方が多様化する今の状況にそぐわないも のとなっている可能性があることから、働き方に中立的な制度となるよう、本 部会では改めて第3号被保険者制度を検討事項として取り上げて議論を行った。
(第3号被保険者の現状)→〇 2024(令和6)年7月末現在の第3号被保険者の総数は約 670 万人で、ピー ク時(1995(平成7)年)の約 1,220 万人より減少しているが、35 歳以上の 女性の約3割を第3号被保険者が占めている。2022(令和4)年現在では、第 3号被保険者の約4割が就労しており、週の平均的な労働時間は、20 時間以 上 30 時間未満が約3割、20 時間未満が約6割である。 また、2018(平成 30)年の平成 30 年度厚生労働行政推進調査事業費補助金 政策科学総合研究事業「高齢期を中心とした生活・就労の実態調査(H30-政策 -指定-008)」によれば、第3号被保険者の約6割は 18 歳未満の子と同居して おり、そのうち 30 代については約9割にも上っている一方で、年齢が上がる につれて同居する親の手助けが必要となる割合や健康上の問題で何らか日常 生活への影響がある割合が高まる傾向にある。 このように、第3号被保険者の中には、短時間労働者として働く者がいる一 方で、過半を占める非就業の中には、出産・育児や介護・看護のため、あるい は、健康上の理由のためすぐには仕事に就けない者など、様々な属性の者が混 在している状況にある。
(制度に対する評価)→○ 第3号被保険者制度に対する評価は様々であり、例えば、第3号被保険者制 度は、共働きの一般化や家族形態の多様化によって時代にそぐわない制度と なっており、もはやその役割は終えつつあると考えられること、第3号被保険 者制度自体に男女差はないものの実態として第3号被保険者の多くを女性が占めており、女性のキャリア形成を阻害し、男女間の賃金格差等を生む原因となっていること、社会保険制度内の不公平感の解消や社会の担い手の拡大を 図る必要があること等から見直しが必要との意見もあった一方で、様々な人 が混在する第3号被保険者に対する所得保障としての機能を有している、社 会保険のあるべき姿である応能負担の原則に基づく制度である等、第3号被 保険者制度の意義に着目した意見もあった。 また、労働時間や収入を問わず労働者が被用者保険に加入できるようにな った場合、第3号被保険者制度を維持したとしても、特定の収入や労働時間を 境に手取り収入が減少することはなくなり、「壁」は解消されることから、働 き控えの問題と第3号被保険者制度の是非は切り離して議論すべきとの意見 もあった。
(今後の取組の方向性)→○ 就労している第3号被保険者が第2号被保険者として厚生年金に加入する 途を開くことが重要であるとの認識は本部会で共有されており、第3号被保 険者制度に係る当面の取組の方向性としては、引き続き適用拡大を進めるこ とにより、第3号被保険者制度の縮小を進めていくことが基本的な方向性と なる。 ○ その上で、その先に残る第3号被保険者の中には様々な属性の者が混在し ている状況にあり、第3号被保険者制度の将来的な見直しや在り方に言及す る意見は多くあった一方で、次期改正における制度の在り方の見直しや将来 的な見直しの方向性については、意見がまとまらなかった。 具体的には、将来的な見直しの方向性について現時点で明示すべきとの意見、 第3号被保険者について将来的には廃止すべきなどの意見があった一方で、第 3号被保険者制度はセーフティネットに過ぎず、第3号被保険者であることが 被用者保険との関係で有利になったり、生涯収入において得をする制度設計に はなっていない、第3号被保険者制度を廃止して第1号被保険者にすることは、 「公的年金は、一人当たりの賃金水準が同じであれば、どの世帯類型でも負担、 給付とも同じになる構造」という設計思想や、「第2号被保険者の負担した保 険料は夫婦で共同負担したものとする規定」を見直すことであり、社会保障と して好ましくない応益負担の範囲を広げることになるといった意見があった。 ○ また、将来的な見直しに向けたより具体的な議論を行うためには、第3号被 保険者の実態に着目して、適用拡大を進めてもなお残る第3号被保険者を分 析していく必要があるとの意見や、検討会を設けて詳細な議論を行う必要が あるとの意見もあった。
○ 本部会としては、第3号被保険者制度をめぐる論点についての国民的な議 論の場が必要であるとの認識を共有した。 政府に対して、適用拡大を進めることにより、第3号被保険者制度の縮小・見 直しに向けたステップを着実に進めるとともに、第3号被保険者の実態も精緻 に分析しながら、引き続き検討することを求める。 ○ なお、今後の議論を行うにあたっては、以下のような論点があると考えられ、 これまで検討を積み重ねてきた成果として今後の議論に資することを期待す る。 ・ 所得保障の機能をどのように維持するか 第3号被保険者制度は第2号被保険者の配偶者という属性に着目した、包 括的な所得保障機能を有するが、制度を見直すとした場合に、所得保障の機 能をどのように損なわないようにすべきか。 ・ 給付と負担をどのように設定するか 現行制度では、夫(妻)のみ就労の世帯、夫婦共働き世帯など世帯構成に 関わらず、一人当たりの賃金水準が同じであれば、どの世帯類型でも一人当 たりの負担、給付とも同じになる構造となっている制度設計を踏まえ、第3 号被保険者制度を検討する場合には、年金給付と保険料負担をどのように設定するのか。 ・ 特定の者への配慮をどのように考えるか 第3号被保険者の中には様々な属性の者が混在しており、制度の在り方を 考える際には、一定の理由で就業できない、あるいは、希望する働き方を実 現できない者などに配慮することが必要となるが、働き方に中立的な制度を 構築するために、どのような措置が考えられるか。また、実務的に運用が可 能な仕組みや基準が考えられるか。 本部会では、第3号被保険者制度の見直しにあたって、病気や育児、介護などの理由で働けない人がいることを踏まえた支援が必要という意見があ り、具体的には、例えば、育児支援の観点から、第3号被保険者を第1号被保険者とした上で末子の年齢を基準にして保険料を免除するなどの配慮が 考えられるという意見があった。 ・ 第1号被保険者とのバランスをどのようにとるのか 配慮措置を導入する場合など、同様の配慮を求める第1号被保険者とのバ ランスをどのようにとるのか。 ・ 年金財政の構造をどのように考えるか 第3号被保険者から保険料を徴収する場合、第1号被保険者として整理し直して、国民年金勘定で保険料を徴収するのか、あるいは、第2号被保険者 に付随するものとして厚生年金勘定で徴収するのか。 ・ 第3号被保険者制度に付随する制度への影響 被扶養配偶者を有する被保険者が負担した保険料は夫婦で共同負担した との基本的認識を改める必要があるが、それに伴い、年金分割等の在り方も 検討する必要が生じる。 本部会では、第3号被保険者制度を廃止するということは、従来の公的年 金の設計思想が根本的に変わることになるため、一貫した整合性が確保でき るよう、具体的な制度全体の設計を示す必要があるという意見があった。
(広報の必要性)→○ 被用者保険に加入するメリットと合わせて、第3号被保険者制度に係る周 知・広報を行うことの重要性も指摘されており、第3号被保険者となることを 進んで選択することは年金給付の面で差がつくことや、生涯賃金やキャリア 形成等の面においても影響があることについて正確な情報を発信し、第3号 被保険者は得だという意識を変えていくことが必要である。そのためには、 2024(令和6)年財政検証で導入された年金額の分布推計で明らかになった、 厚生年金の加入期間の延長による将来の女性の給付額の増加について周知・ 広報に取り組むとともに、個々人のベースで老後の生活設計をより具体的に イメージできるようにするための仕組みとして整備されている公的年金シミ ュレーターといったツールも活用しながら、年金制度を正しく理解してもら うための普及・啓発を進めることも、女性の年金確保にとって重要である。

3 在職老齢年金制度の見直し
(基本的な考え方)
→ ○ 公的年金においては、保険料を拠出した者に対し、それに見合う給付を行う ことが原則であるが、2000(平成 12)年の年金制度改正(平成 12 年年金改正 法)において、少子高齢化の進行などにより現役世代の負担が重くなる中で、 60 代後半で報酬のある者は年金制度を支える側にまわってもらうという考え 方から、賃金と年金の合計額が現役世代の賃金収入を上回る者は、在職老齢年 金制度による支給停止の対象とすることとなった。 ○ その後、少子高齢化の一層の進行などを踏まえ、平成 12 年年金改正法後の 平成 16 年年金改正法においては、将来の現役世代の負担が重くなることを避 けるための更なる対応として、保険料水準の上限を定め、積立金も活用しつつ、その財源の範囲内で給付水準を調整するマクロ経済スライドを導入したこと で、長期的な給付と負担のバランスを確保している。 ○ 平成 16 年年金改正法による財政フレームでは被保険者の増加は将来の給付 水準の向上につながる。2024(令和6)年財政検証において、労働参加の進展 による支え手の増加が年金の財政状況、すなわち将来の給付水準にプラスの 影響をもたらしており、働く意欲のある高齢者の活躍を促進することは年金 制度にとっても重要となっている。 ○ 在職老齢年金制度については、高齢者の就労促進の観点から見直しを求め る声がある。しかし、2024(令和6)年財政検証のオプション試算でも確認さ れたとおり、見直しによる就労の変化を見込まない場合、働く年金受給者の給 付が増加する一方、将来の受給世代の給付水準が低下することを踏まえ、在職 老齢年金制度の見直しに慎重な意見も存在する。 こうした中で、高齢期の就労と年金をめぐる調整については、年金制度だけ で考えるのではなく、税制での対応や各種社会保障制度における保険料負担 等での対応を併せて、今後とも検討していくべき課題であるとされた一方で、 就労に与える影響が一定程度確認されている 60 台前半の就労、特に 2030(令和 12)年度まで支給開始年齢の引上げが続く女性の就労を支援するという観点等から、令和2年年金改正法では、60 歳から 64 歳に支給される特別支給の老齢厚生年金を対象とした在職老齢年金制度(低在老)について見直しが行われた。 ○ 現在のところ 65 歳以上の在職老齢年金制度による就業抑制効果について実 証研究に基づく定量的な確認はされていないが、2024(令和6)年の内閣府「生活設計と年金に関する世論調査」に基づくと、60 代後半の3割強が「厚生年金を受け取る年齢になったときの働き方」の問に対し、「年金額が減らないよ うに、就業時間を調整しながら会社などで働く」と回答しており、一定程度の 高齢者は在職老齢年金制度の存在を意識しながら働いている様子が伺える。 〇 また、多くの産業に人手不足が生じ、就業者も高齢化していく中、在職老齢 年金制度に関心を有する一部の業界へ同制度の影響を聞いたところ『人材確 保や技能継承等の観点から、高齢者活躍の重要性がより一層高まっているが、 在職老齢年金制度を意識した就業調整が存在しており、今後、高齢者の賃金も 上昇していく傾向にある。高齢者就業が十分に進まないと、サービスや製品の 供給に支障が出かねない』といった旨の声も寄せられた。既に中小企業の深刻な人手不足についての指摘もある中、少子高齢化が進行し、こうした状況が今 後様々な業界へと波及することもあり得る。
(見直しの方向性)→○ 本部会の議論では、
・ 保険料を拠出した者に対し、それに見合う給付を行うという公的年金の原 則との整合性 ・ 高齢者の活躍を後押しし、できるだけ就業を抑制しない、働き方に中立的な仕組みとする観点 から、現行の在職老齢年金制度を見直すことで概ね意見は一致した。 ○ 具体的な見直し案について、部会では、賃金と老齢厚生年金の合計額による 支給停止の基準額(現行は 50 万円)を引き上げる案と、廃止案について議論したが、特定の案に意見はまとまらなかった。具体的には、高齢者の就労促進や保険料を拠出した方にそれに見合う給付を行う年金制度の原則を踏まえて、 支給停止の基準額の引上げから始めて、将来的な廃止まで段階的に見直すべ きという意見、将来世代の給付水準の低下に配慮を求める意見、制度を撤廃することで年金制度の原理原則との整合性を高めつつより納得性の高い年金制度にすることが重要という意見、撤廃に伴って税制上の対応等を求める意見があった。 〇 本部会での意見を踏まえて、政府において具体的な制度の見直し案について検討を行う必要があるが、検討結果によっては、基準額の引上げにとどまり、 引き続き在職老齢年金制度が存続する可能性がある。 仮に制度が残る場合には、高齢者の就労インセンティブを阻害する影響や、 あるいは就労が増加することによる経済全体へのプラスの影響等について引 き続き実態の把握や分析が重要である。 また、賃金以外の収入がある者との公平性の観点から総収入をベースに年金 額を調整する制度とすることなど、調整方法そのものの見直しに関する意見、 在職老齢年金制度が正確に理解されていない中で、感覚的に就業調整を行っている事例に対して周知・広報を求める意見があったところであり、こういった 意見も踏まえて引き続き検討を進めるべきである。
4 標準報酬月額上限の見直し
(基本的な考え方)
→○ 厚生年金保険法においては、標準報酬月額の上限の考え方を法律に規定し、 政令で上限を追加することが可能となっている。これは、平成 16 年年金改正 法で、保険料率の引上げスケジュールがすべて法定化されたことに伴い、導入されたものである。 ○ 具体的には、各年度末時点において、全被保険者の平均標準報酬月額の2倍 に相当する額が標準報酬月額の上限を上回り、その状態が継続すると認められる場合には、政令で、新たな上限を追加することが可能である。 当該改定ルールに基づき、2020(令和2)年には、現在の上限である 65 万 円が追加された。 ○ 厚生年金では 2024(令和6)年時点で、標準報酬月額の上限等級(65 万円) に該当する者の割合は 6.5%となっており、健康保険の1%未満という割合と 比較すると、多くの者が上限等級に該当している。また、上限等級に該当する 者の割合が女性よりも高い男性では、上限等級が最頻値である。 加えて、上限の額について、健康保険の 139 万円と比べると、平成 16 年年 金改正法以降では差が大きく開いている。 ○ 現行の上限改定ルールの法定化以降、2020(令和2)年9月の1等級の上限 引上げを経ても、厚生年金保険において、上限等級に多くの者が該当している 状態が継続している。 ○ 上限等級を追加した場合には、新たな上限等級に該当する者の報酬比例部分 が増加するとともに、保険料収入が増加し、これが給付に反映されるまでの間 の積立金の運用益が増加することにより、厚生年金受給者全体の将来の給付 水準も上昇し、高齢期の経済基盤の安定、所得保障・再分配機能の強化につながる。 ○ なお、現行の上限改定ルールは、給付額の差があまり大きくならないようにする観点から設定されており、こうした考え方も意識しながら、ルールの見直しを行う必要があるが、年齢別の標準報酬月額分布の現状をみると、長期間に わたり上限に該当し続ける者はほぼおらず、今回のルールの見直しが直ちに 極端な給付額の差を生むとは考えがたい。
(見直しの方向性)→ ○ 上限該当者は、負担能力に対して相対的に軽い保険料負担となっている中、今後、賃上げが継続すると見込まれる状況において、負担能力に応じた負担を 求める観点や将来の給付水準全体にプラスの効果をもたらす所得再分配機能 の強化の観点から、現行の標準報酬上限額の改定のルールを見直して新たな 等級を追加することについては概ね意見は一致した。なお、上限を引き上げる ことの負担感は、被保険者本人にも事業主にとっても相当大きいものである ことに留意が必要との意見があった。 ○ この新しい改定ルールについては、健康保険法の改定ルールを参考に、上限 等級に該当する者が占める割合に着目して上限等級を追加することができる ルールが考えられる。その際には、男女ともに上限等級に該当する者が最頻値 とならないような観点を踏まえつつ、事業主負担への配慮から、引き上げられ る上限は小幅に留めるとともに、必要があれば影響等を検証しつつ段階的に 引き上げるべきとの意見もあり、本部会での意見を踏まえて、政府において具 体的な制度の見直し案について検討が必要である。 ○ なお、2024(令和6)年財政検証のオプション試算で確認されたとおり、標準報酬月額の上限の見直しにより、所得代替率へのプラス影響が存在する。そのため、在職老齢年金制度の見直しによる所得代替率へのマイナス影響と相 殺する形での見直しを求める意見があった一方で、単なる財源対策とするべ きではないとの意見もあった。 その他、中間程度の等級該当者に比べ、上限該当者の賞与の支給がないこと も踏まえて、給与と賞与のバランスに関わらず、公平に負担を求められるよう な仕組みが必要といった意見や標準報酬月額制度そのもののあり方の見直しも検討すべきとの意見もあった。

5 基礎年金のマクロ経済スライドによる給付調整の早期終了
(議論の背景)→○ 現行の年金制度では、少子高齢化が進む中にあっても、将来にわたり現役世代の保険料負担の上昇を抑えるとともに、将来の年金額を確保するため、マクロ経済スライドによる給付調整により、賃金や物価の伸びより年金額の伸び が抑えられている。 ○ マクロ経済スライドは持続可能性の確保のために必要な措置であるが、名目下限措置の下デフレ経済が続いたことで、マクロ経済スライドによる給付 調整の期間は長期化している。2024(令和6)年財政検証では、特に、基礎年金(1階)の給付調整は、政府が目指す成長型経済移行・継続ケースでは 2037 (令和 19)年度に終了すると見込まれる
一方、過去 30 年の状況を投影した経 済前提では、報酬比例部分(2階)の給付調整が 2026(令和8)年度の終了 見込みである中で、30 年以上にわたり続き、その水準は長期にわたって低下 する見込みである。この場合、将来においては、厚生年金の受給者を含めた年 金額が低下するとともに、所得再分配機能も低下し、低所得層ほど年金額の低 下が大きくなる。 ○ 本部会では、デフレ経済が継続した過去 30 年の状況を投影した経済前提を中心に、年金制度の持続可能性を確保しつつ、将来の公的年金全体の給付水準の向上を図る観点から、公的年金全体としてマクロ経済スライドによる給付調整をできる限り早期に終了させていくことが議題としてあげられた。
(見直しの考え方)→
○ 上記の背景も踏まえ、基礎年金のマクロ経済スライドによる給付調整を早期に終了させる場合の具体的な方法として、国民年金と厚生年金それぞれの財政均衡を維持した上で、報酬比例部分(2階)のマクロ経済スライドを継続し、基礎年金(1階)と報酬比例部分(2階)の調整期間を一致させ、公的年金全体として給付調整を早期に終了させるため、現行の被保険者数の人数割 に加え積立金も勘案して計算する基礎年金拠出金の算定方法の変更と併せて 事務局から提案された。 ○ これらの見直しは、以下を踏まえて提案されたものである。 ○ 現行制度上も厚生年金の保険料(18.3%)には基礎年金(1階)分も含まれるため、厚生年金の保険料や積立金は、報酬比例部分(2階)だけでなく、基礎年金(1階)の給付にも充てられている。 ○ その上で、賦課方式である年金制度における積立金は、毎年度の保険料を給付に充て、余った残余が積み立てられてきたものであり、積立方式のように個人の持ち分という考え方はなく、被保険者が制度間を移動しても積立金は移 動しない。 そうした中で、令和3年度における老齢基礎年金の算定基礎となる期間を 見ると、第1号被保険者期間のみである者は 65 歳受給権者の3%、全受給権 者の 8.1%であり、ほとんどの者は第2号被保険者や第3号被保険者の期間を持っている。加えて、年金給付が大きくなった現在、保険料の残余はほぼなく、現在の積 立金は、過去の被保険者の保険料の残余が積み立てられ、運用により増大してきたものである。
(見直しに当たっての論点)→○ 過去 30 年の状況を投影した経済前提では、給付調整の早期終了を講じた場合、調整終了後の年金水準は、99.9%を超えるほぼ全ての厚生年金受給者で上 昇する見込みとなるものの、報酬比例部分(2階)の調整期間が継続することで、現行制度の見通しと比べ、この期間中に厚生年金を受給する者は、一時的に年金水準が低下することとなる(ただし、平成 16 年年金改正法当時の見通しと比べれば高い水準となる。)。 この一時的な年金水準の減少の影響を令和6年度の年金額改定に当てはめて単年度で見ると、いわゆるモデル年金(2人分)で月額 370 円程度、厚生年 金期間中心の者(1人分)で月額 360 円程度、第1号被保険者期間中心の者(1人分)で月額 40 円程度、年金額の伸びが抑えられることとなる。 ○ この報酬比例部分(2階)の給付調整の継続と財産権との関係という論点について、いわゆる特例水準の解消について合憲とした判決の中で、マクロ経済 スライドは「我が国における少子高齢化の進展が見込まれる中で、世代間の公平に配慮しながら前記の財政の均衡を図りつつ年金制度を存続させていくた めの制度として合理性を有するものとして構築された」とされていることも 踏まえ、マクロ経済スライドの終了がそもそも社会経済情勢によるため不確定なものであること、将来の給付水準の確保のため、現在の給付水準からの低 下を抑える措置であることなどから合理性があると考えられるのではないか、 その際には、同時に、報酬比例部分(2階)の調整期間の継続に当たって、際 限なく続くことのないよう、調整の期間上限を定める必要があるのではないか、との意見があった。 ○ また、早期終了措置を講じる場合には、将来の基礎年金水準が上昇する結果、 現行制度と比べて国庫負担が増加することとなる。こうした国庫負担の増加は、基礎年金のマクロ経済スライドの調整終了以降(2024(令和6)年財政検証で過去 30 年の状況を投影した場合では 2037(令和 19)年度以降)に生じることとなるため、それまでに安定した財源の確保が必要となる。 〇 他方、年金額への影響は前提とする社会経済状況によって大きく異なり、労 働参加の進展や運用利回りの改善など、社会経済状況が良くなれば、マクロ経済スライドによる給付調整は現在の見通しよりもそもそも早期に終了できる 可能性がある。前述のとおり、成長型経済移行・継続ケースでは 2037(令和 19)年度に基礎年金(1階)の給付調整が終了し、その時点の所得代替率は 57.6%になると見込まれる。現行制度に加え、1の被用者保険の適用拡大を行 う場合は将来の所得代替率が 59.3%を確保できる。
(本部会における議論)→○ 本部会における議論では、過去 30 年の状況を投影した経済前提を中心に、 全国民共通の基礎年金が将来にわたって一定の給付水準を確保することの重 要性については、委員の意見が概ね一致した。この観点から、今後の経済が好調に推移しない場合に発動されうる備えとしてはマクロ経済スライドの早期終了の措置を講じることについて賛成の意見の方が多かった。 一方で、慎重な意見もかなりあり、見直し後の給付と負担の構造が分かりづ らいことや報酬比例部分(2階)の調整期間の延長により足下の年金の給付水 準が下がる場合があること、基礎年金水準上昇に伴う国庫負担の増加に対応 した財源確保の見通しが曖昧であることなどから国民の理解が得られるのか というものや、厚生年金の積立金を基礎年金(1階)の給付水準の向上に活用 することは、実際に厚生年金保険料を負担している被保険者や事業主の理解 が得られるのかというものもあり、部会として意見はまとまらなかった。 その他にも、被用者保険の適用拡大を行った場合にも基礎年金の給付水準 が向上することを踏まえ、厚生年金の積立金が第1号被保険者の基礎年金(1 階)に充当される額を減少させる観点から、オプション試算で示した所定労働 時間が週 10 時間以上の全ての被用者を適用することも含めて、被用者保険の適用拡大を進めることを求める意見や将来世代への負担の先送りとならないように早期終了の措置を講じる上では財源確保を前提とすべきという意見、 将来の基礎年金の給付水準の向上の手段として最も自然な対応として基礎年金の拠出期間延長をより優先して取り組むべき、国民年金財政自体の改善努力も示すべきという意見などがあった。 政府においては、保険料や積立金の使途を明確にして、基礎年金をめぐる仕 組みの透明性向上を図り国民にわかりやすく丁寧に説明し、課題についての 関係者の理解に努めるとともに、将来の水準確保に向け、マクロ経済スライド の早期終了の措置に関して、上記の経済が好調に推移しない場合に発動され うる備えとしての位置づけの下、さらに検討を深めるべきである。

次回も続き「U 次期年金制度改革等 6 高齢期より前の遺族厚生年金の見直し等
からです。

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