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第18回アレルギー疾患対策推進協議会資料 [2024年10月16日(Wed)]
第18回アレルギー疾患対策推進協議会資料(令和6年8月21日)
議事 3令和6年度のアレルギー疾患対策について 4 免疫アレルギー疾患研究 10 か年戦略の中間評価について
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_42484.html
◎資料3 「免疫アレルギー疾患研究 10 か年戦略」の推進に関する中間評価報告書(案)
令和 6 年8月 厚生労働行政推進調査事業費補助金 免疫・アレルギー疾患政策研究事業 「免疫アレルギー疾患研究 10 か年戦略の進捗評価と課題抽出、体制強化に関する研究」研究班

1. はじめに
→我が国において、気管支ぜん息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、花粉症、食物アレルギーなどのアレルギー疾患を有する者は増加の一途をたどっている。 アレルギー疾患はしばしば発症や増悪を繰り返し、症状の悪化や治療のために通院や入院など生活の質を著しく損なうだけでなく、時にはアナフィラキシーショックなど致死的な転帰をたどることもあることから、国民の健康と生活にとって重大な問題である。 このような背景から我が国のアレルギー疾患対策の一層の充実を図るために平成 26 年にアレルギ ー疾患対策基本法が成立・公布され、更に総合的な推進を図るために平成 29 年に「アレルギー疾患 対策の推進に関する基本的な指針」(以下、基本指針)が厚生労働大臣により策定され、令和4年に現状を踏まえた一部改正がなされた。 基本指針において、アレルギー疾患の発症や増悪にはアレルゲンの曝露などの環境的な因子が関連していることから、我が国としてのアレルギー疾患に対する環境や生活への取り組みが必要であることに加え、疾患対策としてアレルギー疾患に係る根本的治療の開発や普及、また我が国のアレルギー 疾患の現状を把握する疫学研究の継続的な推進のために患者の視点に立った研究の長期的かつ戦略的な推進が必要とされてきた。 また、リウマチ性疾患においては、平成 30 年 11 月に報告された「リウマチ等対策委員会報告書」の中で、今後のリウマチ対策の全体目標として「リウマチ患者の疾患活動性を適切な治療によりコン トロールし、長期的な QOL を最大限まで改善し、継続的に職業生活や学校生活を含む様々な社会生活への参加を可能とする」とされている。この目標を達成するために、「医療の提供等」、「情報提供・ 相談体制」、「研究開発の推進」について方向性を示し、報告書に基づいた今後の課題に対して取り組んでいるところである。 これらの諸問題の解決に向け「免疫アレルギー疾患研究 10 か年戦略」(以下、10 か年戦略)が平成 31 年に策定され、免疫アレルギー疾患研究を推進してきた。 10 か年戦略では「本態解明」「社会の構築」「疾患特性」の 3 つの戦略を柱に、「発症予防・重症化予防による QOL 改善」と「防ぎ得る死の根絶」のために、「疾患活動性や生活満足度の見える化」 や「病態の「見える化」に基づく層別化医療2及び予防的・先制的医療3の実現」を通じて、ライフス テージに応じて、安心して生活できる社会を構築」することを目指すこととした。 そしてその評価体制として、「各研究項目において、10 年という長期間の中で常に目標設定を明確に行い、その進捗状況や、国内外の免疫アレルギー研究の全体像や、患者をはじめとする国民のニーズ等を正確に継続的に把握し、10 か年戦略の中間評価と見直しを行う」とされていることから、本研究班では我が国の免疫アレルギー疾患研究の進捗状況や現在の課題を把握するとともに、今後重点的に取り組むべき研究について議論し、今後の方向性を示すこととした。

2. 各戦略の成果と後半期間に取り組むべき研究について
(1) 戦略1:先制的医療等を目指す免疫アレルギーの本態解明に関する基盤研究
目標:「革新的な医療技術に基づく層別化医療および予防的・先制的医療」の実現に向けて、 基盤となる基礎研究・疫学研究・臨床研究を推進することで、免疫アレルギー疾患の根源的 な本態解明を目指す。
戦略 1-1: 免疫アレルギー疾患の多様性の理解と層別化に資する基盤研究
背景:免疫アレルギー疾患は、多様かつ複合的要因を有する疾患であり、患者によって、治療 に対する反応性や副作用の発現に違いがあることが、これら疾患の診療や研究を困難にして いる。そのため、遺伝学的・分子生物学的な解析を含めた科学的、かつ詳細な病態解析に基づ いて、患者を特定のグループに分け(層別化)、それぞれのグループに最適な医療を導入する ことで、患者負担の軽減と診療の効率化を進めていく必要がある。そのためには、基盤となる基礎研究・疫学研究・臨床研究を推進することで、免疫アレルギー疾患の根源的な本態解 明を目指す必要がある。
戦略策定後の成果:免疫アレルギー疾患領域では患者遺伝学的要因(ゲノム情報)の解析に、それぞれの疾患に関連する組織や細胞での遺伝子発現情報や環境情報(皮膚の細菌叢等)を 組み合わせた病態解明が行われ、多くの成果が得られた。また、新型コロナウイルス感染症 における血管炎を誘導する仕組みや重症化を予測するマーカーも同定された。
現在の課題:一方で、多様な病態をとる免疫アレルギー疾患では、疾患の本態メカニズムの 解明は未だ十分ではない。例えば、分子標的薬等の新たな治療薬の選択肢が増えたのに対し、 どの治療が個々の患者の病態に合った最適な治療かを判断し、効果の乏しい治療を選ばずに 治療選択ができるようになるための知見が望まれる。1 細胞レベルでの解析 (シングルセル解析 ) や空間的遺伝子発現解析6等の最新技術を用いることで、病態の根本原因となる細胞等を明らかにすることが可能になりつつあるが、これらを活用した研究は未だ少ない。
今後推進すべき研究:免疫アレルギー疾患の本態解明の研究を推進し、根治療法の発展及び 新規開発を目指し、基礎と臨床が両輪となり研究を推進する。● 最新の解析技術を用い、適宜既存の動物モデル等を活用した、個々の疾患病態を詳細に理解する研究 ● 大部分を占める軽症から中等症症例に対する最適医療の推進に資する研究● 既存治療で改善しない症例についての病態解明研究 ● AI・DX を活用した診断補助ツールの開発及び研究の推進
戦略 1-2 将来の予防的・先制的医療の実用化を目指す研究開発
背景:免疫アレルギー疾患は増悪、軽快、寛解、再燃を繰り返し、長期にわたり生活の質が著 しく損なわれることがある。また、一度発症すると、複数のアレルギー疾患を次々に発症し 得る(アレルギーマーチ)等の特徴を有する。そのため、生活の質の向上や、医療経済的な観 点からも、アレルギー疾患の発症を予防する予防的・先制的医療を実現化していく必要がある。 戦略策定後の成果:乳児期における早期の治療介入が、その後のアレルギー疾患を一部予防 できる可能性が示された。
現在の課題:一方で、標準的治療、及び早期介入をもってしても、発症を予防できない患者が 一定数存在することも明らかになりつつある。これら標準的治療、及び早期介入でも発症予 防できない患者に関する科学的知見を集積し、それらに基づき、どのような患者に、どの治療を選択するか、等の予防的・先制的医療の戦略を具体化していく必要がある。遺伝子発現情報(トランスクリプトミクス)により、分子病態による層別化(エンドタイプ)が進み、 それらが疾患重症度や増悪傾向、治療応答性に関連することが明らかとなっている。個別化 医療を提供するため、トランスクリプトミクス等のオミックス解析の臨床への活用が期待さ れている。
今後推進すべき研究:免疫アレルギー疾患の発症を予防する予防的・先制的医療を実現化し ていくため、下記の研究を推進する。 ● 最新の科学的手法9を用いて先制医療の対象を明らかにする研究 ● 低侵襲に取得できる細胞/組織等を用いた研究
戦略 1-3 免疫アレルギー疾患における宿主因子と外的因子の関係に着目した基盤研究
背景:免疫アレルギー疾患では、多様かつ複合的要因が関与していると考えられている。特 に、患者の周囲の自然環境及び住居内の環境は重要であり、そこでの生活の仕方並びに周囲 の者の理解に基づく環境の管理等に大きく影響される。このように、免疫アレルギー疾患は 外的因子と宿主因子が複雑にその病態に関与していることが想定されているが、現時点にお いてその本態解明は十分ではない。
戦略策定後の成果:皮膚に常在する菌から産生される物質が皮膚の免疫応答をうまく調節していること、またアトピー性皮膚炎では黄色ブドウ球菌の割合が増加し、正常細菌叢が破綻 して皮膚炎の増悪につながることが明らかとなってきた。宿主因子と外的因子の関係に着目 した基盤研究の推進は一定の効果を得ていると考えられる。 現在の課題:一方で、新たな外的因子の同定や対処方法を検討していく必要もある。環境モ ニタリングと適切な環境整備を、免疫アレルギー疾患の予防法や治療法につなげ、普及させ るためには、食品・飲料・化粧品・住居や寝具・家電・ヘルスケア、海洋・森林・宇宙を含む 自然環境等の他領域との有機的な連携が不可欠であるが十分ではない。
今後推進すべき研究:多様かつ複合的要因の関与する免疫アレルギー疾患の病態解明におい て、下記の研究を推進する。 ● アレルギーに関わる環境の整備につながる研究及び他領域との連携研究 ● 新規外的因子の同定や対処方法の研究
戦略 1-4: 臓器連関・異分野融合に関する免疫アレルギー研究開発
背景:アレルギー疾患は全身的反応を起こしうる疾患で、内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、眼科、 小児科など多岐にわたる診療科が関与する臓器横断的な疾患である。さらに、その発症及び 重症化には多様かつ複合的な要因を有する。このようなアレルギー疾患特有の性質に鑑み、 臓器間を連関させるメカニズムの解明や、異分野融合に関する研究開発が不可欠である。 戦略策定後の成果:前述のアトピー性皮膚炎等では異分野融合が進み、新たな病態解明のフ レームワークが進みつつある。また、新型コロナウイルス感染症のパンデミックという国家 的課題が生じた中で、免疫アレルギーの研究アプローチにより、肺病変が重症化するメカニ ズムが解明されるとともに、新たな重症化判定及び予測マーカーが同定された。これら臓器 連関・異分野融合研究の推進には一定の効果が得られている。
現在の課題:一方で、その成果は限定的であるため、推進方法の革新も望まれている。得られ た成果を迅速に社会実装11するには、意思決定プロセスが迅速で柔軟なスタートアップ12と連 携することも有用であるが、日本の免疫アレルギー領域では、民間会社のスタートアップ投 資額は、海外と比較して極めて少なく (国籍別に比較すると概ね米国:欧州:日本=20:6:1【免疫アレルギー疾患対策に関する研究基盤及び評価基盤の構築_令和 4 年度総括研究報告書】より)、ヘルスケアアプリ・疾患横断型等への投資に偏っている。また、基礎研究から社会実 装まで、異分野融合に関する研究も少ない。 今後推進すべき研究:臓器連関・異分野融合研究は引き続き有望な戦略項目であることを鑑 み、以下の研究を推進する。 ● 炎症・免疫や神経等、相互に影響する新たな分子機構の解明研究 ● 多元的データを AI 等の活用を通じて、治療標的の創出、治療の高精度化を目指す研究 ●工学、化学、環境学研究等と連携した研究●得られた成果の社会実装を目指す開発研究

(2) 戦略 2: 免疫アレルギー研究の効果的な推進と社会の構築に関する横断研究
目標
:国民一人一人の貢献を重要視し、国内外の産官学民のあらゆる力を結集して国際的な 研究開発を進められる仕組み作りを行い、かつ患者を含む国民が参画する研究成果の社会へ の効果的な還元を目指す。
戦略 2-1: 患者・市民参画による双方向性の免疫アレルギー研究の推進に関する研究
背景
:患者・市民が臨床試験等に主体的に参画する上で何が必要なのか、検討を行うとともに、疾患の経過、治療効果に関する患者の全国調査や臨床検体の収集を行い、介入を伴う臨床試験等のデザイン、実施、報告書作成に対して、患者・市民の参加を進める必要があるとされる。こうした経験を通じて、患者・市民の理解が深まり、より双方向性の研究推進が可能となる。
戦略策定後の成果:これまで、患者・市民参画によるスマートフォンアプリケーションを
用いたデータ基盤の開発、運用が、花粉症やアトピー性皮膚炎の領域で進められ、これまで見 落とされてきた実社会・実臨床におけるアンメットニーズを抽出し、課題解決を図る研究が推進されている。また、2018 及び 2022 年に日本医療研究開発機構 (AMED) が、がんおよび難治性疾患の患者団体、研究者を対象として行った臨床研究等における患者・市民参画に関する動向調査との比較検討の結果、アレルギー領域における患者・市民参画(PPI)の現状 や課題が明らかになりつつある。
現在の課題:患者側からは、研究の理解を深める取り組みのニーズが、研究者側からは、患者 会との接点作りの方法や、情報や研究についてどのような協力が行えるのか事例集等のニー ズ、及び患者と研究者間の PPI の共通認識を明確にする必要性が明らかとなってきている。 今後推進すべき研究:免疫アレルギー疾患は有症者が多いため、PPI を実践するには適した 研究領域である。また、多くの患者会が存在し、それぞれの立場でより良い医療を患者が享 受できるような貢献をしている。以下のような取り組みの継続により、患者本人及び家族が 疾患をより理解する土壌が醸成されていくと期待される。 ●患者・研究者・市民への効果的な情報発信を推進し PPI の共通認識の醸成に資する研究 ●患者(会)を含む研究協力体制の構築、事例集等の蓄積を行う研究
戦略 2-2: 免疫アレルギー研究におけるアンメットメディカルニーズ等の調査研究開発
背景
:多岐に渡る免疫アレルギー疾患について科学的な知見に基づく適切な情報を入手でき る体制を整備することや正しい知見に基づいた情報提供等を通じ、生活の質の維持向上のた めの支援が必要である。また、医療に求められるニーズだけではなく、社会に対してのニーズ等の収集・評価も行う必要があり、そのためには、国民の理解と参画に基づいて疫学研究 が実施され、遺伝学的要因・環境要因に関する情報と、患者ニーズの両者を、包括的に調査・ 評価を行い、その上で疾患活動性や生活満足度を「見える化」する等により、患者ニーズを充足するために重要な基礎研究及び臨床研究を横断的に実施する必要がある。その研究成果を 社会実装することで、患者満足度の高い医療提供を可能とし、職業生活、学校生活等を含め 安心して生活できる社会を構築していくことが必要となる。 戦略策定後の成果:リアルワールドデータ(RWD)やスマートフォンアプリケーションを 用いたデジタルコホート研究によるデータ収集によるアンメットニーズの「見える化」やア ンメットニーズ調査を踏まえつつ科学的知見に基づいた情報提供を行う等の研究が行われて きた。デジタル基盤を用いることで、これまで可視化できていなかった患者実態が明らかと なり、特に花粉症では、眼と鼻両方に症状のある患者は、より自覚症状が強く多様な特徴を 持つことが明らかとなった。
現在の課題:RWD を使用した研究の論文が出始めているものの、十分ではない。また、免疫 アレルギー疾患患者のニーズは技術の進歩や治療の変化により、時々刻々と変化するが、そ れらに対応可能なアンメットニーズ探索の(妥当性評価も含む)基盤構築が確立されていな い。調査対象となった患者のみに限らない、国民のアンメットニーズを把握し、多様性の理 解を深め、さらに AI や DX も活用し個々に最適な医療の提供を目指す必要がある。
今後推進すべき研究: ● アンメットニーズ解決に資する、デジタル基盤を活用した社会実装をめざす研究 ● 免疫アレルギー疾患におけるアンメットニーズに対する縦断かつ横断的な調査基盤の構 築を行う研究 ● NDB16や PMDA17、NHO18、ナショナルセンター等、多様なデータベースを活用したアレ ルギー診療の実態調査研究
戦略 2-3: 免疫アレルギー研究に係る臨床研究基盤構築に関する開発研究
背景
:アレルギー疾患の医療提供体制を整備するために、都道府県アレルギー疾患医療拠点 病院(以下、都道府県拠点病院)が設置され、現在 47 都道府県 78 病院が各都道府県によって選定されている。都道府県拠点病院の役割としては重症患者の診療だけではなく、人材育 成、情報提供に加え、国が長期的かつ戦略的に推進する全国的な疫学研究、臨床研究等に協 力することが求められている。また、免疫アレルギー疾患は多岐にわたるため、各疾患に関 連した学会、中心拠点病院ならびに都道府県拠点病院等が連携し、大規模な臨床研究などの構築を目指す必要がある。
戦略策定後の成果:これまでに都道府県拠点病院を活用し、本邦において初めて全年齢の各 アレルギー疾患の有病率を調査する疫学研究が実施された。今後同手法にて継続的に調査をしていくことで、本邦におけるアレルギー疾患の有病率の変化を把握することが可能となる ことが見込まれる。また、免疫アレルギー疾患に関連した学会が連携したタスクフォースを 形成し、免疫アレルギー疾患における国際連携・人材育成を目指した基盤構築を行っている。
現在の課題:拠点病院は各都道府県に指定されたが、拠点病院を中心とした各地域の臨床研究基盤ネットワークはまだ構築されていない。また、臨床研究を遂行するための CRC 等からなる支援基盤は脆弱であり、このような研究ネットワークを構築し維持するための包括的な仕組み作りが進んでいない。免疫アレルギー疾患の特徴である罹患者数の多さ・軽症から重 症まで多岐にわたる患者を包括した研究体制が確立されていない。
今後推進すべき研究: ● 全国の、研究協力可能な患者・医療機関と繋がりやすい、診療ネットワークを活用した研 究 ● 拠点病院等を活用したアレルギー疾患有病率の継続的な疫学調査 ● バイオバンク等の研究資源を効果的に活用するための臨床研究基盤構築に資する研究
戦略 2-4: 免疫アレルギー研究における国際連携、人材育成に関する基盤構築研究
背景:免疫アレルギー疾患医療の課題は、主たる診療科である内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、眼 科、小児科だけでなく、検査や治療の過程でアナフィラキシー等のアレルギー疾患を発症す る患者に接する診療科においても存在する。さらに医師、歯科医師、薬剤師、看護師、臨床検 査技師、管理栄養士その他の多職種が免疫アレルギー疾患医療に携わることから、最新の科 学的知見に基づく適切な医療に関する情報の提供、免疫アレルギー疾患医療に関する研究及 び専門的知識と技術を有する医療従事者の育成を推進する必要がある。 戦略策定後の成果:診療科・職種横断的な遠隔研修プログラムによるアレルギー診療教育の 均てん化への有用性が示唆されている。また、海外の日本人研究者のネットワークとの連携 のもと、国際連携に向けた国外日本人研究者の優れた研究成果の収集が開始された。 AMED 等で免疫アレルギー領域の若手研究者を公募対象とした研究実績が増えてきており、今後の 発展が期待される。 現在の課題:一方で、現状では国外の研究者と連携して国際競争資金を獲得し研究を遂行し ている研究者は少ない。免疫アレルギー研究、診療を担う次世代の若手育成、ダイバーシテ ィの要素が少ない。 今後推進すべき研究:免疫アレルギー疾患に携わる医療人ならびに若手研究者の持続可能な 育成基盤の確立にむけて、学会の垣根を超えた連携体制を構築し、下記の研究を推進する。 ●国際的若手研究者の育成基盤及び研究体制の確立と、それらを活用した研究 ●継続的な横断的アレルギー診療教育・リカレント教育の有効性を実証する研究 ●免疫アレルギー疾患領域における国際共同研究の推進

(3) 戦略3: ライフステージ等免疫アレルギー疾患の特性に注目した重点研究
目標:ライフステージなどの疾患特性に応じた医療の最適化や、一部の重症免疫アレルギー疾患における「防ぎ得る死」をゼロにするために、各疾患の特性に基づく予防法や治療法を、 広く社会に普及させることを目指す。

戦略 3-1: 母子関連を含めた小児および移行期の免疫アレルギー疾患研究
背景
:アレルギー疾患は一度発症すると、新たなアレルギー疾患を発症しうる特徴を有し
ており、母子関連を含めた小児期からの発症予防が重要である。また、重症化の予防が必要で あり、研究等の成果を普及し、活用し、および発展させることが必要である。これらを踏まえてコホート研究、病態解明研究、前向き介入研究20の推進と、研究成果については教育資材等 を開発して社会全体に普及するなどの方策が必要である。
戦略策定後の成果:乳児期からアレルギー疾患への積極的な治療介入が新たなアレルギー疾患の発症予防につながる可能性が報告された。また食物アレルギーや若年性特発性関節炎の 診療においては、小児と成人の狭間となる移行期の問題も踏まえて、国民に提供される診療 の均てん化を目指した診療指針が策定された。
現在の課題:発症予防に対する一定の成果が得られているものの、母体情報を含めて遺伝学的要因及び環境要因を統合的に解析して、さらなる免疫アレルギー疾患の有症率低下を目指 した研究が求められている。また、移行期(学童期以降)に関連する病態、現在の課題についての研究は乏しい。移行期の管理・治療法が確立していない疾患については指針の策定が望まれる。更に、木の実類アレルギーや食物アレルギーの特殊型等、近年急増している疾患の実態調査や原因究明に資する研究は少ない。
今後推進すべき研究: ● 急増する疾患の実態把握及び病態解明研究 ● 母体情報、遺伝学的要因及び環境要因を統合的に解析した病態解明研究 ● 科学的根拠に基づいた情報提供と、それらが有症率に及ぼす影響に関する調査研究 ● 小児期から成人期までシームレスな診療の指針策定に資する研究
戦略 3-2: 高齢者を含めた成人発症免疫アレルギー疾患研究
背景
:我が国では、依然としてアレルギー疾患を有する者の増加が見られている。特に成人 発症の免疫アレルギー疾患は自然寛解することが稀である。また、突然症状が増悪すること により、致死的転帰をたどる例もある。そのため、これらの免疫アレルギー疾患に係る研究 の推進並びに研究等の成果を普及し、活用し、発展させることが必要である。
戦略策定後の成果:診断基準の画一化や診療ガイドラインの策定などを通じて、薬剤アレルギー、成人食物アレルギー、真菌関連アレルギー性気道疾患、関節リウマチと多岐にわたる 成人発症免疫アレルギー疾患医療の質の向上が進められている。
現在の課題:加齢や老化に関する研究は国内外で推進されているものの、成人発症アレルギー疾患を包括的に解析した検討は、国内外を問わず少なく、今なお成人発症免疫アレルギー疾患の本態解明は十分ではない。また、診療・管理ガイドラインの有効性等、未だに明らかに なっていないことが多い点も問題であり、引き続き良質なエビデンスの蓄積が必要である。 またアレルギーと病態が関連していると考えられる類縁疾患も増加傾向にあるが、その病態 解明は十分ではない。
今後推進すべき研究:免疫アレルギー疾患の加齢に伴う特性変化に応じた医療の開発および 最適化を目指して、以下の研究を推進する。 ● 免疫学的老化や加齢性の疾患特性変化のメカニズムを解明する研究 ● 年齢層毎の予防・診断・治療戦略の構築を推進する研究 ● 年齢特性に応じた医療等の実臨床への展開とその有効性を検証する研究
戦略 3-3: 重症・難治性・治療抵抗性21の免疫アレルギー疾患研究
背景
:免疫アレルギー疾患は多様かつ複合的な要因を有する疾患であり、時に全身性の重篤 な症状をきたす。重症・難治性・治療抵抗性の免疫アレルギー疾患は、患者本人や家族にとり、社会に支障をきたすこともあることから、それらの予防、診断及び治療等に係る技術の向上その他の研究等の成果を普及し、活用し、並びに発展させることが重要である。
戦略策定後の成果:食物アレルギー患者では好塩基球が全身性アナフィラキシー誘導に関与 していることが報告された。重症・難治性・治療抵抗性の病態には各種生物学的製剤が臨床 応用され、例えば、重症気管支ぜん息では生物学的製剤の有効性を予測する研究が進められ ている。疾患の発症と重症化の要因、診療・管理ガイドラインの有効性及び薬剤の長期投与の効果並びに副作用等については明らかになっていないことが多いが、動物モデルを用いた抗体製剤中止後のアレルギー再燃の原因解明をすすめる研究が行われている。
現在の課題:いまだに本態解明は十分ではなく、基礎研究の成果が臨床応用されるまでに至 っていない。生活環境に関わる多様で複合的な要因が、発症及び重症化に関わっていること がその原因の特定を困難にしている。また、重症・難治性の疾患が患者の日常生活や長期予 後に与える影響についても明らかになっていない。
今後推進すべき研究: ● 免疫学的基礎研究による重症・難治性・治療抵抗性の病態解明 ● 重症・難治性・治療抵抗性の免疫アレルギー疾患が各ライフステージに与える影響等の評 価 ● 本邦でのリアルワールドにおけるデータベース登録,継続観察研究 ● 分子標的薬がもたらす長期的な影響を明らかにする研究
戦略 3-4: 希少疾患と関連する免疫アレルギー疾患研究
背景
:免疫アレルギー疾患は国民の生活に多大な影響を及ぼしているが、現時点においても 本態解明は十分ではない。免疫アレルギー疾患に起因する死亡者数を減少させるため、本態 解明の研究を推進し根治療法の発展及び新規開発を目指す必要がある。免疫アレルギー疾患の中にも希少疾患に該当する疾患が存在することが知られており、中でも単一遺伝子変異に起因して免疫アレルギー疾患症状を呈するものを対象として、その遺伝子や病態の解析をすることによって、免疫アレルギー疾患の治療対象となる標的分子が判明する可能性がある。
戦略策定後の成果:高度な免疫不全を伴わない重症アレルギー疾患患者の一部には、単一遺 伝子変異が原因となり症状が引き起こされている可能性が明らかにされた。また、難治性の アレルギー炎症を誘導する新たな細胞群やパスウェイも明らかになりつつある。
現在の課題:一方で、これらの取り組みはアレルギー領域の研究者だけで推進するのは困難である。2015-2018 年頃には AMED を中心として、希少疾患領域との連携の取り組みが行わ れていたが、継続性が課題となっている。特に、診断が困難な患者に対する網羅的遺伝学的解析結果と、Human Phenotype Ontology (HPO) 形式に標準化されたフェノタイプ情報の 国内外でのデータシェアリングによって診断を進める未診断疾患イニシアチブ (IRUD)25や、 原因と考えられる遺伝子バリアントの機能的解析に関するリバーストランスレーショナルリサーチを進める J-RDMM といった取組を参考に取り入れていく必要がある。
今後推進すべき研究:国内の他領域での取組や、国際的なコンソーシアム26の動向を踏まえ、 下記の研究開発を推進していくことが重要となる。 ● 希少疾患領域と連携し、単一遺伝子変異を含む希少免疫アレルギー疾患研究の継続 ● 一般の免疫アレルギー疾患でも、症例が極めて少ない特定の患者群を対象とした研究 ● 希少疾患症例から得られた知見を一般の免疫アレルギー疾患の診断、治療へ応用する研究

3. おわりに→我が国の免疫アレルギー疾患対策において、発症及び重症化の要因や病態解明、免疫アレルギー疾 患の標準診療の確立等の課題解決に向けて、疫学研究、基礎研究及び臨床研究を長期的かつ戦略的に推進するため 10 か年戦略は策定された。前半の 5 年間で、免疫アレルギー疾患医療の均てん化に資するガイドラインの作成や、災害時のみならず平時からの災害準備の推進等、免疫アレルギー疾患を有する者がその居住する地域に関わらず安心して生活できる社会の構築に寄与してきた。また、基礎研究においては、IgE の発見とアレルギー発症機序、免疫グロブリンの遺伝子再構成、免疫チェックポイントシステム等、世界をリードする発見を続けてきた我が国の先達の業績を引き継ぎ、さら に推進するため、アカデミアに限らない多様性・学際性と、日本に閉じこもらない国際連携等を念頭に、複数の関連学会の協力のもと、全ての関係者がビジョンと目標の達成に向けて自発的に活動してきた。10 か年戦略では、先制的医療等を目指す本態解明に関する基盤研究、研究の効果的な推進と社 会の構築に関する横断研究、ライフステージ等特性に注目した重点研究を 3 つの戦略としている。各研究戦略に基づいて生まれた研究が、発展すると共に有機的に繋がり、研究基盤の強化やよりインパ クトの大きい成果となることが望まれる。 前半 5 年間の評価をもとに、世界の免疫アレルギー疾患研究の全体像、患者を始めとする国民ニー ズの把握を、持続可能なプラットフォームとしていくことが必要となる。今回の中間評価では、戦略 横断的に関係し、全戦略の推進に繋がる項目として、「個々の患者における病態をより詳細に理解す るために、最新の科学的手法を最大限に活用して免疫アレルギー研究を行うこと」、「レジストリー やバイオバンク、国内外のネットワークを活用し持続可能な研究基盤体制を充実させていくこと」、 「患者数が急増するアレルギー疾患やアレルギー類縁疾患の病態解明及び適切な情報提供に向けて 他疾患領域との連携していくこと」、「研究成果の社会実装に向けた研究開発インフラと積極的に連携 していくこと」が、今後の推進すべき研究として挙げられた。10 年という限りある時間の中で、免疫 アレルギー領域の研究戦略を推進することは、免疫アレルギー疾患に悩まれる患者・家族が安心して 暮らせる社会の醸成に貢献するものと期待される。

次回も続き「資料4 「免疫アレルギー疾患研究 10 か年戦略」の推進に関する中間評価報告書概要(案)」からです。

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