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第57回厚生科学審議会疾病対策部会指定難病検討委員会 [2024年06月03日(Mon)]
第57回厚生科学審議会疾病対策部会指定難病検討委員会(令和6年3月25日)
議事 (1) 疾病ごとの個別検討(新規の疾病追加)について (2) 疾病ごとの個別検討(診断基準等のアップデート)について
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_39139.html
◎資 料 2 − 2指定難病の診断基準等のアップデート案について情報提供のあ った疾病(個票(見え消し))(第 57 回指定難病検討委員会に おいて検討する疾病)
○144 レノックス・ガストー症候群、145 ウエスト症候群、146 大田原症候群、147 早期ミオクロニー脳症、 148 遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん
→1.概要⇒乳幼児期に発症するてんかんの中には、年齢依存性に発症し、発作コントロールが難しく、知的予後が不良 なてんかん症候群が複数ある。近年、発達性てんかん性脳症と呼ばれ、原因は一部共通することはあるが、多 くは異なり、発作症状や脳波の特徴、治療方法も異なるため、異なる疾患の集合体である。ここでは、こうした症 候群のうち、レノックス・ガストー症候群、ウエスト症候群、大田原症候群、早期ミオクロニー脳症、遊走性焦点発 作を伴う乳児てんかんを取り上げた。 1) レノックス・ガストー症候群(Lennox-Gastaut 症候群):小児期に発症する難治性てんかんを主症状 とするてんかん症候群で、@強直発作や非定型欠神発作、脱力発作を中心とした多彩なてんかん発作が出 現、A睡眠時の速律動、全般性遅棘徐波複合といった特徴的な脳波所見がある、B知的障害や失調症状、 睡眠障害などを合併する。2) ウエスト症候群(West syndrome): 欧米では乳児攣縮とも呼ばれることもある。その成因は多彩であり、 出生前由来の結節性硬化症から後天的な急性脳炎後遺症まで様々である。発症前の発達は、重度の遅れ がある場合から正常発達まである。好発年齢は 1 歳以下で、2 歳以上は稀である。その発作は特異であり、 座位や立位では頭部を一瞬垂れることから、日本では点頭発作と呼ばれている。以前はミオクロニー発作に 分類されたり、強直発作に近いということで強直スパズムと呼ばれたりした時期もあったが、最近では独立し た発作型概念として「てんかん性スパズム(Epileptic spasms: ES)」として分類されるようになった。発作は単 独でも出現するが、多くは「シリーズ形成」と称される様に周期性(5〜40 秒毎)に出現するのが特徴である。 脳波所見も特徴的で、Gibbs らにより「ヒプスアリスミア」と命名された無秩序な高振幅徐波と棘波から構成さ れる特異な発作間欠期脳波を呈する。覚醒時、睡眠時を問わずほぼ連続して高度の全般性異常波が出現し、 ウエスト症候群が属する「てんかん性脳症」の概念の中核を成す所見である。発作予後、知的予後は不良と され、急速な精神運動発達の停止や退行は不可逆性の場合が多い。治療法には限界があるが、ACTH 療法 やビガバトリンが本症候群治療の主流を成している。てんかん発作の予後として 30〜40%の症例は、その後 にレノックス・ガストー症候群に移行する。 3) 大田原症候群:重症の発達性てんかん性脳症。早期乳児てんかん性脳症(EIEE)とも言う。新生児〜乳 児期早期に発症し、てんかん性スパズム ES を主要発作型とする。焦点発作を伴うこともある。脳波ではサプ レッション・バーストパターンが覚醒時・睡眠時を問わず出現する。脳形成異常や遺伝子変異など原因は多 様。発達に伴い、ウエスト症候群やレノックス・ガストー症候群へと年齢的変容を示す。4) 早期ミオクロニー脳症: 生後 1 か月以内(まれに 3 か月以内)に発症する重篤なてんかん性脳症で、眼 瞼、顔面、四肢などの不規則で部分的な、ばらばらで同期しないミオクローヌス(erratic myoclonus)ではじま り、次いで微細な発作、自動症、無呼吸、顔面紅潮などを伴う多彩な焦点運動発作が現れる。時に全身性ミ オクローヌス、まれには後に強直発作、てんかん性スパズム ES を示す。脳波はサプレッション・バーストパタ ーンを示し、睡眠時により明瞭になる(睡眠時のみのこともある)。発作は極めて難治で、発作予後、発達予 後ともに極めて不良であり、半数は 1 歳以内に死亡し、生存例も全て寝たきりになる。基礎疾患として代謝異 常症が多いとされるが、わが国では脳形成異常が少なくない。家族発症もあり、常染色体潜性遺伝(劣性遺 伝)が疑われている。 5) 遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん: けいれん発症までの発達が正常な生後 6 か月未満の児におこ るてんかん性脳症で、発作中に脳波焦点が対側または同側の離れた部分に移動してそれに相応する多様 な焦点性運動発作を示し、後に多焦点性の発作がほぼ連続するようになる。発作焦点部位の移動に伴い、 眼球・頭部の偏位、瞬目、上下肢や顔面・口唇・口角・眼球の間代や部分強直、咀嚼、無呼吸、顔面紅潮、流 涎、あるいは焦点起始両側強直間代発作など多様に変化する。初期には無呼吸、チアノーゼ、顔面紅潮な どの自律神経症状が目立つことがあるが、てんかん性スパズム ES やミオクローヌスを示すことはほぼない。 既存の抗てんかん薬やステロイド、ビタミン剤、ケトン食などは無効で、臭化カリウムが最も有効であるが、発 作予後、発達予後ともに極めて不良であり、重度の精神運動発達遅滞となる。発症時の頭部 MRI には異常 はない。発症の原因となる遺伝子異常が判明しつつある。 2.原因⇒ 1) レノックス・ガストー症候群: 基礎疾患として脳形成異常や、低酸素性虚血性脳症、外傷後脳損傷、脳腫 瘍、代謝異常、染色体異常、先天奇形症候群、遺伝子異常などがあるが、共通する病態は見出されていな い。近年、レノックス・ガストー症候群の中に、GABRB3、ALG13、SCN8A、STXBP1、DNM1、FOXG1、CHD2 の遺伝子変異を有する症例が報告されている。 2) ウエスト症候群: これまで、発症までの発達が正常であり脳画像所見を含む各種検査で異常がない@ 潜因性と、異常の存在するA症候性に分類されてきた。症候性の中には新生児低酸素性虚血性脳症、染色 体異常症、先天奇形症候群、脳血管障害、結節性硬化症、未熟児傍側脳室白質軟化症、出血などが主な原 因として含まれる。しかし、近年の遺伝子検査技術の進歩に伴い ARX、STK9/CDKL5、SPTAN1、STXBP1 な どの遺伝子変異が発見される症例も報告されている。潜因性とされてきた患者の病態は多様である可能性 があり、今後の解明が必要である。 3) 大田原症候群: 脳形成異常をはじめとする多様な脳障害を基礎疾患とするが、原因不明の例もあり、 また遺伝子異常(ARX、STXBP1、CASK、KCNQ2、SCN2A など)を背景としていることもある。 4) 早期ミオクロニー脳症: 種々の代謝異常症(非ケトン性高グリシン血症、D-グリセリン酸血症、メチルマ ロン酸血症、カルバミルリン酸合成酵素による高アンモニア血症、プロピオン酸血症など)が多いとされてい るが、わが国では脳形成異常が少なくない。非定型的であるがピリドキシン依存性もある。一部の症例から は、SLC25A22、SIK1、ERBB4、AMT、PIGA などの遺伝子異常が見つかっている。 5) 遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん: かつては原因不明とされたが、現在では、患者の一部は遺伝子 異常が原因で発症することがわかってきており、KCNT1、SCN2A、SCN1A の異常の頻度が高い。3.症状⇒ 1)レノックス・ガストー症候群:中心的な発作は、強直発作、非定型欠神発作、脱力発作で、それぞれ 特有の発作症状と脳波所見を有する。精神発達遅滞は、90%以上に合併する。失調や睡眠障害を呈するこ とも多い。 強直発作は睡眠時に比較的多く認められ、体幹筋を中心に左右対称性に筋収縮を認める数秒から1分 程度の発作で、脳波には 10〜20Hz の両側全般性の速波(速律動)が出現する。経過の最後まで残る中核 的な発作で、頻度は多い。非定型欠神発作は意識が軽く減損する発作で、ミオクローヌスが不規則に出現し たり、ごく短い強直を伴ったりすることもある。持続時間は5〜30 秒程度が多く、2〜2.5Hz 前後の全般性遅棘 徐波を呈する。ときに、数時間から数か月間という長期にわたり持続して、非けいれん性てんかん重積状態になることもある。脱力発作は、重力に抗して頭部や身体を支えている筋群の緊 張が一瞬失われる発作で、頭部の屈曲や突然の転倒を引き起こし、頭部や顔面に受傷することも多い危険 な発作である。発作以外の症状では、知的障害をほぼ全例に認め、多くは中等度以上の知的障害で、自立は困難である。 運動失調や痙性麻痺などによる歩行障害、てんかん発作による転倒の危険もあり、歩行も介助や見守りが 必要なことが多い。 2) ウエスト症候群:i) 発症年齢:好発年齢は生後 3〜11 か月で 2 歳以上の発症は稀である。 ii) てんかん発作型:覚醒直後に好発するてんかん性スパズムで、約 5〜40 秒周期(約 10 秒程度が多い)で出現する極短時間の四肢の筋攣縮(座位では一瞬の頭部前屈を伴う)が特徴である。てんかん性スパズムはその体幹の動きの方向より@屈曲型(34%)、A伸展型(25%)、B混合型(42%)、C非対称型に分類される。また四肢の動きに注目して@対称型、A非対称型/非同期型、B焦点型、C焦点発作 と併存型、D微細型、E短時間の脱力先行型、F非臨床型などに分類される場合もある。シリーズ形成中、 てんかん性スパズム開始当初より時間と共に徐々にてんかん性スパズム ES の動きの程度が弱くなる。 治療の過程や年齢で単発のてんかん性スパズム ES が混在してくることがある。iii) 脳波所見:ヒプスアリスミアと呼ばれる無秩序な高振幅徐波と棘波から構成される異常脳波である。 iv) 精神運動発達:てんかん性スパズム ES の発症と前後して精神運動発達の停止とその後に退行がみられ る。3)大田原症候群: 生後 3 か月以内、特に新生児期にてんかん性スパズム ES で発症する。シリーズ形成 性あるいは単発で出現、覚醒時、睡眠時のいずれでも起こり、発作頻度は高い。焦点発作を伴うこともある。 脳波ではサプレッション・バーストパターンが覚醒時・睡眠時問わず出現する。 4) 早期ミオクロニー脳症: ほとんどが生後 1 か月以内(特に1週間以内)にはじまり、睡眠時・覚醒時とも に見られる不規則で部分的なミオクローヌス(erratic myoclonus:眼瞼、顔面、四肢の小さなぴくつきで始まり、 ある部位から他の部位に移動し、ばらばらで同期しない、一見、焦点間代発作にも見える)で発症し、次いで 微細な発作、自動症、無呼吸、顔面紅潮などを伴う多彩な焦点発作を示す。Erratic myoclonus は通常は 2- 3 週〜2-3 か月で消失する。時に全身性ミオクローヌス、後に強直発作や反復するてんかん性スパズム ES を示すこともあるが、まれである。脳波ではサプレッション・バーストパターン(SBP)が見られるが、睡眠時に 顕著になり、睡眠時のみのこともあり、数ヶ月〜数年間持続する。非典型的なヒプスアリスミアに変容するこ とがあるが SBP に戻る。稀に初発時に SBP がなく、後に出現することがある。血液・生化学・尿検査では特 異的所見はない。画像検査では、初期には異常なく、進行すると脳萎縮を示す。脳形成異常がみられることもある。5) 遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん: 一側の焦点運動発作で初発し、半数の例で焦点起始両側強直 間代発作をきたす。発作焦点部位の移動に伴い、眼球・頭部の偏位、眼瞼のぴくつきや眼球の間代、上下肢 や顔面・口角の間代や強直、咀嚼、強直間代発作など多様に変化し、無呼吸、顔面紅潮、流涎などの自律 神経症状を高頻度に伴い、特に無呼吸発作は初期には半数で認められ、経過中には4分の3の症例で認め られる。発作の部位と症状は、移動する脳波焦点に相応する。発作は次第に頻度を増し、2−5 日間群発して 頻発する。ほぼ持続的に頻発する発作は 1 か月から 1 歳くらいまで続き、発達の遅れが顕在化する。その後 は、発作は頻発しなくなる。わが国の例では群発型けいれん重積がほとんどの例で認められる。脳波では、 初期には背景波の徐波化のみだが、やがて多焦点性棘波が現れ、発作中に脳波焦点が対側または同側の 離れた部分に移動する。脳波上、連続する発作は一部重なり、一つの発作が終わる前に次の発作が始まる。 血液・生化学的検査には特異的所見はない。画像検査では初期には異常なく、進行すると脳萎縮を示す。 4.治療法⇒ 1) レノックス・ガストー症候群: バルプロ酸、ベンゾジアゼピン系薬剤、ラモトリギン、トピラマート、ルフィナミ ドなどが使用されるが、極めて難治である。特殊な治療法として、ケトン食療法やてんかん外科手術も有効な ことがある。2)ウエスト症候群:有効率の観点より第1選択薬は ACTH 治療であるが、特に結節性硬化症においてはビ ガバトリンも第1選択薬となる。ACTH 治療は副作用も多いため、まず有効性は劣るがより副作用の少ないゾ ニサミド、バルプロ酸、クロナゼパムやビタミン B6 大量療法が試みられている。また、ケトン食療法も選択肢 となる。頭部画像診断で限局性皮質脳異形成や片側巨脳症が存在し、切除可能な場合にはてんかん外科 治療も行われる。 3) 大田原症候群:根治的な治療法はない。フェノバルビタール、ビタミン B6、バルプロ酸、ゾニサミド、ACTH などが試みられる。片側巨脳症などの脳形成異常を基盤とする手術可能な症例は早期にこれを考慮する。 4) 早期ミオクロニー脳症: 通常の抗てんかん薬やホルモン治療(ACTH など)、ケトン食療法などが行われ るが、極めて難治である。代謝異常症が基礎にある場合はその治療で改善する場合もある。Erratic myoclonus は数週間あるいは数か月後に消失するが、焦点発作は持続し、治療抵抗性である。 5) 遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん: 極めて難治で、通常の抗てんかん薬、ステロイド、ケトン食、ビタミン剤(ビタミン B6 など)は無効なことが多く、ビガバトリン、カルバマゼピンはけいれんを悪化させることがある。有効の報告例が多いのは臭化カリウムである。KCNT1 遺伝子の異常に対し、KCNT1 の部分的な拮抗薬 である抗不整脈薬キニジンの有効例が報告されている。  5.予後⇒ 1) レノックス・ガストー症候群:完全に発作が消失する例は少なく、慢性に経過する。長期経過中にレノックス・ガストー症候群の特徴が消え、全般てんかんや焦点てんかんに変容することがある。発作 は減少しても、知的障害や運動症状、行動障害などが残存する。し、ほぼ全例が自立不可能である。抗てんかん薬は、生涯にわたって必要である。死亡率は不明だが、発作そのものよりも合併症や事故により死亡する症例が多い。2) ウエスト症候群: 発作の短期予後では ACTH 療法などにより 50〜80%の症例が軽快する脳症が、長 期予後では約 50%の症例でてんかんが持続する。また 80〜90%の症例で精神遅滞を呈し、自閉症の合 併も同様で、てんかん性スパスム、部分発作、全般高率である。 3) 大田原症候群:てんかん発作が残存しは難治であり、重度の精神運動機能の知的障害、発達や運動 障害を伴う。 4) 早期ミオクロニー脳症: Erratic myoclonus は 2-3 週〜2-3 か月で消失するが、焦点起始発作は難治 で、最重度の知的障害、運動障害が認められる。 5) 遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん: 発症前は正常発達だが、てんかん発作は難治で、発作予後、 発達予後ともに不良なことも多い。

○149 片側痙攣・片麻痺・てんかん症候群→1.概要⇒痙攣性てんかん重積状態(多くは片側性)に引き続き、一過性または恒久的な片麻痺を残す片側痙攣・ 片麻痺症候群を呈した症例において、後にてんかんを発症する症候群である。一般には4歳未満の小児における非特異的熱性疾患に伴うことが多い。てんかんの発症は、片側痙攣・片麻痺症候群発症からおよそ4年以内が多いとされる。合併症として、片麻痺の他に知的障害、精神行動障害を伴うことがある。 2.原因⇒非特異的感染症(多くはウイルス感染症)による発熱が契機となる片側大脳半球が優位に傷害される急 性脳症として発症することが多く、痙攣重積型脳症又は遅発性拡散低下を呈する急性脳症(AESD)の臨床病型を呈する。その他に、動脈炎、頭部外傷、脳梗塞、プロテイン S 欠損症などの静脈性血栓塞栓症を原 因とすることや、代謝異常、脳血管異常などの既往を有する患者において、発熱を主症状とする非特異的 熱性疾患を契機に発症する。最近では、SCN1A や CACNA1A などの遺伝子異常も原因として報告されて いる。 3.症状⇒発熱を契機に、痙攣性てんかん重積状態で発症する。痙攣は片側性又は片側優位であることが多く、そ の後同側に弛緩性麻痺を呈し、この時点で片側痙攣・片麻痺症候群と診断される。麻痺は1週間以上持続 し、一部は一過性で改善するが、多くは恒久的に痙性片麻痺が残存する。特発性においては、頭部 CT・ MRI で急性期には責任病変側の大脳半球に浮腫を認め、慢性期には同側大脳半球が萎縮を呈する。 てんかんの発症は片側痙攣・片麻痺症候群の発症から4年以内が多く、発作型はほとんど焦点性発作 である。合併障害は、運動障害としての片麻痺の他に、知的障害、精神行動障害を伴うことがある。 4.治療法⇒根本的な治療はなく、対症療法が主体となる。急性期の痙攣性てんかん重積状態に対して、ベンゾジア ゼピン系薬剤を中心とする静注用抗痙攣薬の投与、脳圧降下剤投与などの対症療法を行う。 慢性期のてんかんに対しては、抗てんかん薬による内服治療が行われる。薬剤抵抗性で難治の場合は、 機能的半球離断、迷走神経刺激を含むてんかん外科的治療、ケトン食を代表とする食事療法などが行わ れる。運動障害の片麻痺に対しては、リハビリテーション、装具、ボトックスを含めた内科的治療、整形外科的治療を行う。知的障害、精神行動障害に対しては、その重症度に合わせて必要な支援を行う。 5.予後⇒症例により様々で一定の見解はない。てんかんは各種治療に抵抗性で、難治性に経過することがあり、 長期の抗てんかん薬内服が必要となることが多い。片麻痺や知的障害に関しては、徐々に軽快し日常生活に支障がない場合もあるがまれで、多くは適切な支援を必要とする。

○154 睡眠時棘徐波活性化を示す発達性てん かん性脳症およびてんかん性脳症 155 ランドウ・クレフナー症候群
→1.概要⇒睡眠時棘徐波活性化を示す発達性てんかん性脳症およびてんかん性脳症は、意識 減損を伴うまたは伴わない焦点発作ならびに片側あるいは両側性の間代発作、 強直間代発作、非定型欠神発作などを生じ、ノンレム棘徐波が通常びまん性に活性化し、 知的・認知機能の退行の形をとる神経心理学的障害を伴うことが特徴である。関連症候群に広汎性棘徐波活性化を示すてんかん性脳症の部位に対応して、 聴覚性言語障害を主徴とするランドウ・クレフナー症候群がある。 2.原因⇒本疾患の 30〜60%に神経放射線学的異常があり、多種の病変を認めるが、発病にかかわる機序は不 明。遺伝子については GRIN2Aの病的バリアントが、単一遺伝子性の原因として関与する症例がある。 3.症状⇒下記の発作と、運動・高次機能障害を認める。 1)臨床発作型 発作は、運動発作と、転倒につながることもある脱力発作、定型あるいは非定型欠 神発作、陰性ミオクローヌス、焦点非運動発作である。 2)運動障害・高次脳機能障害 発症前の神経心理学的機能と運動機能は、基礎疾患のない患者では正常が多い。しかし、睡眠中の顕著な棘徐波活性化に伴いIQ の著しい低下、言語障害、 時間・空間の見当識障害、行動変化(多動、攻撃性、衝動性)、注意力低下、意志疎通困難、限局性学習症、運動失調を含む運動障害、構音障害、嚥下障害などがみられる。広汎性棘徐波が優勢 に出現する部位に対応して、聴覚失認に基づく聴覚性言語障害を主徴とするもの(ランドウ・クレフナー 症候群)がある。 4.治療法⇒発作に対し、抗てんかん薬(バルプロ酸、ベンゾジアゼピン、エトスクシミンド、スルチアム)やホルモン剤 をはじめ種々の薬物が用いられる。各種治療に関わらず、脳波の徐波睡眠時の広汎性棘徐波が持続性の 発現・持続に伴って神経心理学的退行あるいは停滞がみられる。病変がある場合は外科的治療も考慮す る。 5.予後⇒一部では、脳波改善後も、発作が稀発だが残存する。ただし、発作消失と脳波の改善がみられた患者においても、運動・高次脳機能障害の予後は良くない。行動障害や知的レベルの低下、言語聴覚障害、運動 障害が残存することが多い。

○309 進行性ミオクローヌスてんかん→1.概要⇒ウンフェルリヒト・ルンドボルグ病(Unverricht-Lundborg 病:ULD)、ラフォラ病(Lafora 病)及び良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん(benign adult familial myoclonus epilepsy:BAFME)は、進行性ミオクローヌス てんかん(progressive myoclonus epilepsy:PME)を呈し、難治に経過する。PME は、@不随意運動としての ミオクローヌス、Aてんかん発作としてのミオクロニー発作及び全般強直間代発作、B小脳症状、C認知機 能障害を4徴として進行性の経過を呈する遺伝性疾患群の総称であり、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症 などの脊髄小脳変性症、MELAS や MERRF などのミトコンドリア病、神経セロイドリポフスチン症などのライ ソゾーム病なども含む。しかし、ここでは、小児期から思春期に発症して成人以降も罹病期間が長い PME の中核疾患であるウンフェルリヒト・ルンドボルグ病、ラフォラ病、さらに、良性成人型家族性ミオクローヌス てんかんを扱う。 良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんは、日本で多い進行性ミオクローヌスてんかんで、成人以降 に発症して、当初症状は軽度でかつ緩徐に進行するが、高齢となり特に症状が悪化する。前者の特徴から 「良性」の名称が使用されていたが、最近の研究からは進行性で、高齢となり特に症状が悪化し日常生活 動作(Activities of Daily Living:ADL)が低下することが明らかになっている。尚、診断基準のうち Definite お よび Probable の項目を満たし、かつ全般強直間代発作がない場合は、「皮質振戦(cortical tremor)」という 病名呼称が可能である。 2.原因⇒ウンフェルリヒト・ルンドボルグ病、ラフォラ病は常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)を呈し、良性成人型家族 性ミオクローヌスてんかんは浸透率の高い常染色体顕性遺伝(優性遺伝)を呈する。後者は次世代の発症 年齢の若年化も近年報告されている。ウンフェルリヒト・ルンドボルグ病は 21q に存在するシスタチン B (CSTB)の遺伝子変異(EPM1)によるものが大多数である。ラフォラ病は、約 90%の患者で EPM2A(タンパ ク質は laforin)と EPM2B(タンパク質は malin)の変異が見出されるが、第3の原因遺伝子の存在も推定されている。良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんでは、世界の地域と各病型により病因遺伝子は異なり、 SAMD12、STARD7、MARCH6、YEAST2、TNRC6A、RAPGEF2 が報告されている。すべて共通してイントロ ンにおける TTTCA ならびに TTTTA からなる 5 塩基リピート伸長変異を認める。各病型により病因遺伝子 は異なり、日本では SAMD12 が最も多く、次いで TNRC6A、RAPGEF2 が多い。 3.症状⇒ 発症は、ウンフェルリヒト・ルンドボルグ病は6〜16 歳、ラフォラ病は7〜18 歳頃、そして良性成人型家族 性ミオクローヌスてんかんは、成人以降に発症する。ウンフェルリヒト・ルンドボルグ病とラフォラ病は前述の 4徴に加え、進行性かつ難治に経過すれば診断にそれほど難渋しない。しかし、時に若年ミオクロニーてん かん(juvenile myoclonic epilepsy:JME)などとの鑑別が困難な場合がある。ミオクローヌスが悪化すると、 摂食や飲水、日常動作が困難になる。一方、良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんは@不随意運動としての振戦様ミオクローヌス、Aてんかん発作としてのミオクロニー発作及び全般強直間代発作の2徴が主 体で、当初症状は軽度でかつ緩徐に進行するが、高齢となり特に症状が悪化する。 4.治療法⇒原因に対する根治療法は無く、てんかん発作やミオクローヌスに対する各種抗てんかん薬(バルプロ酸、 クロナゼパム、フェノバルビタール、ゾニサミドなど)、抗ミオクローヌス薬(ピラセタム)による対症療法が主 となる。ウンフェルリヒト・ルンドボルグ病とラフォラ病ではフェニトインは小脳症状を悪化させ、特にウンフェ ルリヒト・ルンドボルグ病では統計的には生命予後を悪化させるという北欧の報告があるものの、痙攣発作 の重積時には急性期のみ一時的に使用する場合もある。しかしフェニトインの長期的な使用は推奨されな い。また3疾患ともに、カルバマゼピンは時にミオクロニー発作を悪化させるという報告もある。最近、ピラセ タムと同じアニラセタム系に属するレベチラセタム、さらに選択的 AMPA(α−amino−3−hydroxy−5- methyl−4−isoxazolepropionic acid)型グルタミン酸受容体(AMPA 受容体)拮抗剤であるペランパネルが 皮質ミオクローヌスの抑制効果が高いことが示されている。 5.予後⇒進行の程度は様々であるが、最近、ウンフェルリヒト・ルンドボルグ病の一部は進行が比較的遅く、近年 の治療法の改善により、発病後数十年生存することが指摘された。ラフォラ病は、数年で寝たきりとなる。 良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんでは、振戦様ミオクローヌスもある程度薬剤でコントロールが可 能だが一般に薬剤抵抗性で、特に高齢になると症状が悪化する。

○166 弾性線維性仮性黄色腫→1.概要⇒ 弾性線維性仮性黄色腫(PXE)は、弾性線維に変性・石灰化が生じ組織障害を引き起こす。そのため皮 膚、眼、心・血管、消化管に多彩な症候を呈する常染色体劣性の遺伝性疾患である。 2.原因⇒ 弾性線維性仮性黄色腫(PXE)の原因遺伝子 ABCC6 は 16 番染色体に位置し、その遺伝子産物は MRP6 とよばれる。本分子は輸送膜タンパク質 ABC 群に属し、この群の分子異常は代謝性疾患をはじめとした 種々の疾患の原因となっている。しかしながら MRP6 は現在のところ生理的に輸送される基質が判明して おらず、MRP6 分子異常が弾性線維に変性・石灰化をもたらす詳しい機構は不明な点が多い。 3.症状⇒ 弾性線維性仮性黄色腫(PXE)は、以下の症状を呈する。 皮膚:仮性黄色腫:多発性扁平黄白色丘疹・局面が、頚部、大関節屈側部位に 10 代より生じ、徐々に増悪 する。ときに皮膚の弾性が失われ太い皺、弛緩した皮膚となる。その他の症状:変性した弾性線維の経 表皮排出により、ざ瘡様丘疹、蛇行性穿孔性弾性線維症などがみられる。 眼:網膜基底膜ブルッフ膜の破綻により血管線条やオレンジ皮様外観がみられ、網膜下出血や新生血 管を生じ、重篤な視力障害や視野欠損につながる。心・血管:血管壁の中膜弾性板に変性・石灰化を生じ、血管内腔の狭小化による虚血障害を呈する。間歇 跛行、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、消化管出血などを発症する。 4.治療法⇒ 1)皮膚:皮膚病変を整容的また精神的問題と捉え悩んでいる患者が多い。しかしながら皮膚病変を完全に 消失させる確実な方法は無いため、希望に応じて、形成的手術を含めた対症療法を行う。2)眼:特異的な治療はないが、ベバシズマブなど抗 VEGF 薬の局所投与など新生血管に対する薬物治療や光線 力学療法などが候補となる。 3)心、血管:動脈硬化が多発性、また広い範囲に起こるなどの問題に対して、動脈硬化症に準じた薬物治 療、ステント留置、血管置換術など対症療法を行う。 4)消化管出血:動脈性出血に対し、内視鏡による止血術など対症療法を行う。 5.予後⇒皮膚症状は緩やかではあるが進行性であるため、黄白色斑、大きな皺が機能不全と共に精神的負担をもたらす。視力障害は一旦発症すると進行性で、回復は困難であり、日常生活に支障をきたす。心・血管虚 血性障害では、多発性に血管狭窄が生じ、そのため経時的な治療が必要となる。消化管は、出血への迅 速な対応が必要となる。

○84 サルコイドーシス
→1.概要 サルコイドーシスは原因不明の多臓器疾患であり、若年者から高齢者まで発症する。発病時の臨床症 状が多彩で、その後の臨床経過が多様であることが特徴の1つである。肺門縦隔リンパ節、肺、眼、皮膚の 罹患頻度が高いが、神経、筋、心臓、腎臓、骨、消化器など全身のほとんどの臓器で罹患する。以前は検 診で発見される無症状のものが多く自然改善例も多かったが、近年は自覚症状で発見されるものが増加し て経過も長引く例が増えている。乾酪壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫の証明があれば組織診断群とな るが、組織生検による診断が得られない場合には臨床診断群又は疑診群となる。肺、心臓、眼、神経、腎 臓など生命予後・機能予後を左右する臓器・組織では、十分な治療と管理が必要である。 2.原因 原因は不明とされているが、疾患感受性のある個体において、病因となる抗原により Th1 型細胞免疫反 応(IV 型アレルギー反応)が起こり、全身諸臓器に肉芽腫が形成されると考えられている。原因抗原として プロピオニバクテリア(アクネ菌)、結核菌などの微生物が候補として挙げられており、遺伝要因としてヒト白 血球抗原(HLA)遺伝子のほか、複数の疾患感受性遺伝子の関与が推定されている。 3.症状 発病時の症状は極めて多彩である。検診発見の肺サルコイドーシスなど無症状のものもあるが、近年は 有症状のものが増えている。 サルコイドーシスの症状には、「臓器特異的症状」と「(臓器非特異的)全身症状」とがある。臓器特異的 症状は、侵された各臓器によって引き起こされる咳・痰、ぶどう膜炎、皮疹、不整脈、息切れ、神経麻痺、筋 肉腫瘤、骨痛などの様々な臓器別の症状であり、急性発症型のものと慢性発症型のものがある。全身症 状は、臓器病変とは無関係に起こる発熱、体重減少、疲れ、痛み、息切れなどである。これら全身症状は、 特異的な検査所見に反映されないために見過ごされがちであるが、症状が強いと患者の quality of life (QOL)が著しく損なわれることになる。 4.治療法 現状では原因不明であり根治療法といえるものはなく、肉芽腫性炎症を抑える治療が行われる。症状軽 微で自然改善が期待される場合には、無治療で経過観察とされる。積極的な治療対象となるのは、臓器障 害のために日常生活が障害されている場合や、現在の症状が乏しくても将来の生命予後・機能予後の悪 化のおそれがある場合である。全身的治療薬は、副腎皮質ステロイド薬が第一選択となる。しかし、再発症 例、難治症例も多く、二次治療薬としてメトトレキサートやアザチオプリンなどの免疫抑制薬も使用されてい る。局所的治療は、眼病変、皮膚病変ときに呼吸器病変に対して行われる。
5.予後⇒予後は一般に自覚症状の強さと病変の拡がりが関与する。臨床経過は極めて多様であり、短期改善型 (ほぼ2年以内に改善)、遷延型(2年から5年の経過)、慢性型(5年以上の経過)、難治化型に分けられる。 無症状の検診発見例などでは自然改善も期待されて短期に改善することが多いが、自覚症状があり病変 が多臓器にわたる場合には、慢性型になり数十年の経過になることもまれではない。肺線維化進行例や拡 張型心筋症類似例など、著しい QOL の低下を伴う難治化型に移行するものもある。

○277 リンパ管腫症/ゴーハム病
→1.概要⇒中枢神経系を除く、骨や胸部(肺、縦隔、心臓)、腹部(腹腔内、脾臓)、皮膚、皮下組織など全身臓器に びまん性に異常に拡張したリンパ管組織が浸潤する原因不明の希少性難治性疾患である。小児、若年者 に多く発症するが先天性と考えられている。症状や予後は浸潤臓器によるため、様々であるが、胸部に浸潤した場合は予後不良である。骨溶解を起こすゴーハム病も、骨病変だけでなく同様の内臓 病変を持つ場合があるため、類縁疾患と考えられ、現時点では鑑別は困難である。病理学的には不規則に拡張したリンパ管が同定されるが、内皮細胞はの MIB-1 は陰性で腫 瘍性の増殖は無い。また鑑別上問題となるリンパ管奇形(リンパ管腫)はリンパ管腫症と区別が困難なこと があるが、リンパ管腫症は多発性・ びまん性(多臓器に及ぶ、リンパ液貯留や周囲の組織に浸潤傾向があるなど)である場合に限る。なおリンパ管腫症、ゴーハム病は、びまん性リンパ管腫症、ゴーハム・スタウト症候群、大量骨溶解症と呼ばれる こともある。 2.原因⇒遺伝性は認められていない。近年、病変部位より PIK3CA、NRAS、KRAS の体細胞 遺伝子変異が検出され、病態との関連性が示唆されているが、未だ原因は不明である。 3.症状⇒症状は病変の浸潤部位による。 a) 胸水(胸腔内に液体が貯留)、乳び胸、心嚢水、縦隔浸潤、肺浸潤により、息切れ、咳、喘鳴、呼吸苦、 慢性呼吸不全、心タンポナーデ、心不全を起こす。胸部単純エックス線写真、CT で(両側肺に)びまん性 に広がる肥厚した間質陰影や縦隔影拡大、胸水貯留、胸膜肥厚、心嚢水を認める。多くは致命的で、特 に小児例は予後不良である。 b) 骨溶解、骨欠損による疼痛や病的骨折、四肢短縮、病変周囲の浮腫、脊椎神経の障害などを起こす。 頭蓋骨が溶解し、髄液漏や髄膜炎、脳神経麻痺などを起こす場合もある。単純 X 線写真にて骨皮質の 菲薄化や欠損、骨内の多発性骨溶解病変などを認める。 c) 腹水(腹腔内に液体が貯留)や脾臓内及び他の腹腔内臓器に多発性の嚢胞性リンパ管腫(リンパ管奇 形)病変を認める。また皮膚、軟部組織のリンパ浮腫、リンパ漏や、血小板減少、血液凝固異常(フィブリ ノーゲン低下、FDP、D-dimer 上昇)なども起こす。 4.治療法⇒局所病変のコントロール目的に外科的切除が行われるが、全身性、びまん性であるため、根治は困難である。 胸部病変に対して胸腔穿刺、胸膜癒着術、胸管結紮術、腹部病変に対しては腹腔穿刺、脾臓摘出などの外科 的治療を行う。病変部位によっては放射線治療を行うこともあるが、小児例が多く推奨されない。手術困難な病変に対しては、ステロイド、インターフェロンα、プロプラノロール、化学療法(ビンクリスチン)などが試されるが 治療効果は限られる。2021 年 9 月に本疾患に対するシロリムスの治療効果が認められ、本邦で保険承認され た。 5.予後⇒乳び胸などの胸部病変を持つと生命予後は不良である。また病変が多臓器に渡り、様々な症状を引き起こ し、慢性呼吸不全や運動機能障害などの永続的な障害を残す場合が多い。多くの症例が長期間に渡って診 療が必要であり、治癒率は極めて低い。

○278 巨大リンパ管奇形(頚部顔面病変)
→1.概要⇒巨大リンパ管奇形(頚部顔面病変)は顔面・口腔・咽喉頭・頚部に先天性に発症する巨大腫瘤性のリン パ管形成異常であり、ゴーハム病(リンパ管腫症)とは異なる。リンパ管奇形(リンパ管腫)は大小のリンパ 嚢胞を中心に構成される腫瘤性病変で、多くの場合病変の範囲拡大や離れた部位の新たな出現はない。 血管病変を同時に有することもあり、診断・治療に注意を要する。生物学的には良性であるが、特に病変が 大きく広範囲に広がるものは難治性で、機能面のみならず整容面からも患者の QOL は著しく制限される。 全身どこにでも発生しうるが、特に頭頚部や縦隔、腋窩、腹腔・後腹膜内、四肢に好発する。 なかでも頚部顔面巨大病変は、気道圧迫、摂食・嚥下困難など生命に影響を及ぼし、さらに神経や他の 主要な脈管と絡み合って治療が困難となることから、他部位の病変とは別の疾患概念を有する。病変内の リンパ嚢胞の大きさや発生部位により主に外科的切除と硬化療法が選択されるが、完治はほぼ不可能で、 出生直後から生涯にわたる長期療養を必要とする。 2.原因⇒リンパ管奇形は先天性であり、胎生期におけるリンパ管形成異常により生じた病変と考えられている。 原因は明らかでないが、その一部として病変内に遺伝子変異(PIK3CA)が発見され関連が示唆されて いる。PIK3CA の遺伝子変異により PI3K-AKT-mTOR シグナル経路の活性化が認められるため、活性化し た細胞内シグナル伝達経路をターゲットとした分子標的薬による薬物療法の可能性が模索されている。 3.症状⇒ほとんどの場合症状は出生時から出現する。頚部・舌・口腔病変で中下咽頭部での上気道狭窄、縦隔病 変で気管の狭窄による呼吸困難の症状を呈し、多くにおいて気管切開を要する。舌・口腔・鼻腔・顔面病変 では摂食・嚥下困難、上下顎骨肥大、骨格性閉口不全、閉塞性睡眠時無呼吸、構音機能障害を来す。眼 窩・眼瞼病変では開瞼・閉瞼不全、眼球突出・眼位異常、視力低下を呈し、眼窩内出血・感染などにより失 明に至ることもある。耳部病変では外耳道閉塞、中耳炎、内耳形成不全などにより聴力障害・平衡感覚障 害などを来す。皮膚や粘膜にリンパ管病変が及ぶ場合は集簇性丘疹がカエルの卵状を呈し(いわゆる限 局性リンパ管腫)、リンパ瘻・出血・感染を繰り返す。顔面巨大病変では腫瘤形成・変色・変形により高度の 醜状を呈し、社会生活への適応を生涯にわたり制限される。どの部位の病変においても、経過中に内部に 感染や出血を起こし、急性の腫脹・炎症を繰り返す。 4.治療法⇒呼吸困難、摂食障害、感染などの各症状に対しては状態に応じて対症的に治療する。リンパ管奇形(リン パ管腫)自体の治療の柱は外科的切除と硬化療法であり、多くの場合この組み合わせで行われる。硬化療 法には OK-432、ブレオマイシン、アルコール、高濃度糖水、フィブリン糊などが用いられる。一般的にリ ンパ嚢胞の小さいものは硬化療法が効きにくい。抗癌剤、インターフェロン療法、ステロイド療法などの報告があり、プロプラノロール、サリドマイドなどが国外を中心として治療薬として検討されているが効果は証明されていない。難治例に対する mTOR 阻害剤(シロリムス)内服療法による病変縮小効 果は限定的であることが多く、巨大リンパ管奇形(頚部顔面病変)は、現時点でいずれの治療法を用いても 完治は困難である。 5.予後⇒頚部顔面の巨大病変で広範囲かつ浸潤性の分布を示す場合、原疾患のみで死に至ることは稀であるが、 治療に抵抗性で持続的機能的障害(呼吸障害、摂食・嚥下障害、視力障害、聴覚障害、など)のみならず 整容面(高度醜状)や疼痛を伴う感染・炎症からも大きな障害を生じ、出生直後から生涯にわたり療養を要 する。

○330 先天性気管狭窄症/先天性声門下狭窄症
→1.概要⇒1)先天性気管狭窄症 完全気管輪によって気管径の 50%以上が狭窄していることを特徴とする先天気管奇形。 2) 先天性声門下狭窄症 声門下腔の狭窄や閉塞症状による呼吸困難をきたし、長期的な処置や治療を要する。 外傷や長期挿管後の二次性のものは除く。 2.原因⇒いずれも原因は不明で、発病の機構は解明されていない。 1) 先天性気管狭窄症 胎生3週以降に前腸から気管が分化する過程で起こる発生学的異常。気管支の分岐異常を合併したり、先天性心疾患や肺動脈による血管輪症を高頻度に合併する。 2) 先天性声門下狭窄症は 輪状軟骨の形成異常(主に過形成)により胎生10週までに軟骨がリング状に発達する過程が不十 分なことで生じる。食道の形成異常を合併しやすい。 3.症状⇒ 1) 先天性気管狭窄症 喘鳴、チアノーゼ発作、窒息、経口摂取不良や体重増加不良が主な症状である。成人期狭窄により呼吸困難を認め嗄声により会話困難になることが多い。狭窄が中等度から高度の場合は気管切開孔をあけておく必要があり、気管孔や気管切開 チューブに関わる症状が生じる危険性が常に継続的に存在する。 4.治療⇒1) 先天性気管狭窄症 狭窄の程度が強い場合、窒息につながるため、気道確保の目的で一旦気管切開がおかれた上で保存的に治療される。外科的手法として、内視鏡的治療ではレーザーによる切開と拡張、気管ステント留置術が行われる。また、根治術として気管切除術、心膜移植や再生医療による気管形成術、気管 スライド術など開胸による手術が行われる。外科的管理のために ECMO や一時的な心臓バイパスを 必要とする場合もある。2) 声門下狭窄症 治療には喉頭気管形成術として輪状軟骨前方切開術を行って長期的に T チューブを留置する方法や自家肋軟骨移植による形成術、狭窄部位を切除して正常気管を端端吻合する手術が試みられ る。
5.予後 気道病変の急性期では、呼吸障害が問題となるため、酸素療法やステロイドなどが必要。呼吸困 難例では気管挿管や人工呼吸管理を行うが、管理困難な症例では上記の外科治療を行うが予後不良であ る。両疾患とも成人期以降も手術が複数回行われることがあり、数年にわたる複数回の入院と手術が必要 となる。その間はずっと気管に穴が開いた状態である。気管切開孔を閉鎖できたとしても、瘢痕や肉芽など により狭窄は再発しやすく、極めて難治である。また、数年後に再狭窄する場合もあり、長期的に気管切開管理や人工呼吸管理が必要となる症例もある。 成人期以降、外科治療の奏功例でも喀痰の排出不良などから気道感染を繰り返し、頻回の入院加療を 要する例が多い。また、形成部の肉芽形成や瘢痕形成により狭窄症状の進行を認める症例も少なくない。 気管切開管理中に大血管の圧迫による気管腕頭動脈瘻や気管肺動脈瘻などを形成し大出血に至る例が存在する。近年増加している重症の救命例の 15〜30%程度に、反復する呼吸器感染、慢性肺障害、気管 支喘息、逆流性食道炎、栄養障害に伴う精神運動発達遅延、聴力障害など後遺症や障害を伴うことが報告されている。生命予後の改善による重症救命例の増加に伴い、後遺症や障害を有する症例が今後も増 加することが予想される。

次回も続き「参考資料 1指定難病の検討について(第 53 回指定難病検討委員会資料)」からです。

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