第7回 国内の労働分野における政策手段を用いた国際課題への対応に関する検討会 [2023年12月09日(Sat)]
第7回 国内の労働分野における政策手段を用いた国際課題への対応に関する検討会(令和5年11月17日)
議事 ・ 報告書に向けた議論 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_36425.html ◎ 資料1 報告書骨子(案) 1.「国内の労働分野における政策手段を用いた国際課題への対応」を検討する背景と意義 (1)背景→近年、国際的な人権尊重の社会的要請の高まり等を受け、企業に人権尊重を求める動きが加速し、日本企業においても人権尊重の取組が広がり始めている。 こうした動きがある中で、令和5年5月、G7広島サミットの首脳コミュニケ においても、グローバル・サプライチェーン(以下「GSC」という。)上におい て、「国際労働基準及び人権、特に国際労働機関(ILO)によって採択された基本条約の尊重を確保すること、また、技術協力によるものを含む、SDGs の目標 8に沿ったディーセント・ワークの促進にコミットする。」と合意した。G7 プ ロセスにおいて、GSC における人権やディーセント・ワーク確保の重要性が改 めて共有され、これらの結論を踏まえて具体的な取組を更に進めていく段階がきている。 これまでも、厚生労働省では、国内においては働き方改革の推進など幅広い 施策を実施するとともに、国外においてはアジア・太平洋地域を中心として労働安全衛生や児童労働など技術協力を行っている。また、令和4年9月には、 国際スタンダードを踏まえた企業による人権尊重の取組をさらに促進すべく、 「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議)が策定された。一方で、我が国の企業が GSC においてガイドラインに沿って対処するにあたり、具体的に尊重すべき内容の 理解が不足しており、取組を実施しようとしてもその方法がわからないという 課題もある。 (2)意義→ GSC における人権尊重は、上述のとおり「ビジネスと人権に関する行動計画」、 「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」など 柱となる文書が取りまとめられている。 もとより厚生労働行政は、「ビジネスと人権に関する行動計画」の分野横断 的各事項※に関する国内での取り組みを、法令や各種対策を通じてこれまでに も推進してきた立場である。海外拠点を含む GSC 上で企業の取り組みが進みつ つある中で、厚生労働行政のこうした具体的な国内政策知見を活用した企業への支援が求められる局面となっている。 ※ 「ディーセント・ワークの促進」、「ハラスメント対策の強化」、「労働者の権利の保 護・尊重」、「障害者雇用の促進」、「女性活躍の推進」、「雇用の分野における平等な取り扱い」等。 「労働における基本的原則及び権利に関する ILO 宣言」に掲げられた 5 つの 重点分野※を中心に、@国内で進めてきた取組みや対策の内容を GSC の観点から とらえ直して活用を図るとともに、A各ステークホルダーの課題や支援ニーズ を把握して更に取組みを進展させることにより、我が国企業の GSC 上の人権確 保の取組を実務面で後押ししていくことが求められる。 ※ 結社の自由及び団体交渉権の実効的な承認、あらゆる形態の強制労働の撤廃、児童労 働の実効的な廃止、雇用及び職業についての差別撤廃、安全で健康的な作業環境。 企業による人権尊重の取組内容と国内の労働基準関係法令を遵守するための 取組については重複する部分が多く、日本が国内でこれまで実施してきた政策的経験・知見が活用できると考えられること、また、国外における技術協力においても同分野の課題を解消するために役立てられることから、取組企業や労 使団体などこの分野のステークホルダーの意見も踏まえつつ、本検討会におい て検討を進めた。 2.ビジネスと人権に関する取組を進める団体、企業等からのヒアリング結果→本検討会では、取組を進める上での課題や好事例を把握するため、企業や労使団体などこの分野のステークホルダーである 11 の団体に対して、ヒアリング を実施した。対面又はオンラインの形式で、団体からの説明とその説明に対す る構成員からの質疑応答を併せて、1 団体あたり約 45 分のヒアリングを実施し た。 3.ビジネスと人権に関する取組を進める上での着眼点→ガイドラインにおいて、日本政府は、「企業における人権尊重の取組を促進すべく、企業に対する周知・啓発活動を推進していく」、「企業の取組を後押し する更なる方策についても検討を進めていく」と記載されている。 厚生労働省は、労使をはじめ各ステークホルダーと協力しながら、労働の分野 における人権確保の観点から、企業が人権尊重の取組を進める上で抱える労働 分野での課題等を踏まえて方策を講じる必要がある。 (1)人権尊重の取組を進める上で各ステークホルダーが抱えている課題→◆ 人権デューディリジェンスについて、今後実施しようという企業では、「具体的な取組方法が分からない」、「優先すべき人権の内容がわからない」という課題が大きな割合を占めており、労働分野において、具体的に尊重すべき内容の理解が不足している。 ◆ 人権尊重の取組は、各企業の業種、規模、地域性、企業文化を踏まえ、企業に合った方法で講じる必要があるが、企業が取組を進める上で参考に なる教材が乏しい。特に海外においては、言葉の問題もあり、現地の労働 者向けに教育等をする教材を各社でゼロから用意するのは難しい。 ◆ また、現地の労働法が国際基準や日本の労働法と異なり、企業が判断に 困る場合がある。労働者側の意識も日本の職場とは異なることが多い。 ◆ 日本の労使の中でも、産業分野や企業規模によって「ビジネスと人権」の問題に対する意識が異なっている。 ◆ 企業規模や業種により人権尊重の取組には差が見られる。企業が中小の 取引先に取組状況を確認したり、遵守すべき事項を説明したりする際、認 識の隔たりから困難が伴う事例が見られる。また、一つの企業の中でも、 本社の目が届きにくい海外拠点の判断に対応が任せられがちな一方で、海外拠点に駐在する日本人責任者が必ずしも労働分野に詳しいとは限らないといった課題もある。 ◆ ビジネスと人権に関し海外で問題が生じた場合等の相談先や、海外情報 の入手先が分からないという声もある。 ◆ 既に人権デューディリジェンスの取組を実施している企業であっても、 例えば児童労働や労使関係など進出先国の社会システムに起因する課題には、個々の企業で対応できる範囲が限られるものもある。 (2)今後実施する施策の方向性→(1)に掲げた企業レベルの課題を踏まえ、厚生労働省の政策知見を活用 できる施策の方向性をまとめると以下のようになる。従来はビジネスリスク の回避の文脈で語られることが多かった GSC 上の人権尊重について、労働行 政の立場から、国内外で働く人の権利や労働基準の確保の観点で取り組むこ とも求められている。なお、方向性については、企業が抱えている課題に対応するということだけではなく、日本が他国と比べて進んでいる分野につい て日系企業の取組を促進し、日本の強みを打ち出すという積極的な観点から も検討すべきである。また、ILO 基本条約や企業の人権デューディリジェンスの取組について、知見のある ILO 駐日事務所とも連携しつつ、実施するべき。 ◆ 厚生労働省が国内で実施してきた政策的経験・知見の活用 厚生労働省がこれまで国内において実施してきた法令遵守や労働災害防 止対策は、企業が海外において労働分野での人権尊重の取組を進める上で も参考となる部分がある。 ◆ 既存の政策資源の活用(訴求対象の拡大) 厚生労働省が作成する多言語教材等は日本で働く外国人向けに作成されたものであるが、このような既存の材料を海外でも活用できないかとの視点で整理したり周知したりすることが望まれる。 ◆ 分かりやすい資料の作成 人権尊重の取組について、知識がない者向けの資料として、マニュアル のような読むのに時間がかかる資料ではなく、国内で大企業が中小企業の 取引先への説明等に使用できる文量の少ない(ポイントを絞った)資料を 作成・提供してはどうか。 ◆ 国際協力事業の実施 労働分野の人権尊重に当たっては、個々の企業の努力のみでは克服が難しい課題もある。そのような場合は、国レベルの国際的な技術協力によって、厚生労働省が相手国の社会システム整備を支援することが望ましい。 ILO への拠出による技術協力事業や、インフォーマルセクターの脆弱な立場 の労働者に着目した草の根レベルの支援事業なども活用し、課題の解消に 努める必要がある。また、このような支援の主体は、国や個々の企業のほか、ソーシャルパートナーや公益的な団体など「ビジネスと人権」のステ ークホルダーそれぞれが持つ能力をいかに活用するかの観点で検討することも重要。 ◆ 海外における相談先や情報の入手先 海外において「ビジネスと人権」の観点で何らかの疑問が生じた場合や、 現地法令や現地慣行に関する情報が必要となった際に、現行では JETRO 等 で支援が提供されているが、これに加え、厚生労働省からも情報提供を行 ったり現地の在外公館の協力を依頼して支援を進めるなど、検討の余地が あるのではないか。 4.ビジネスと人権に関する取組を進める上での具体的施策 ↓ (1)これまで国内で実施してきた政策的経験・知見の活用→◆ 安全・衛生委員会等を活用した労使対話の促進⇒・安全・衛生委員会等の労使交渉以外の場で労働者代表が加わって協議をする仕組みが企業活動にビルトインされていることは、労働災害防止の 観点のみならず、労使対話を促進する観点でも有用。 ・この仕組みが国際的な文脈で持つ価値を再認識し、海外拠点でも活用す ることができるのではないか。また、他国に対しても労使関係の構築の ために有効な制度として説明するなど、普及を図ってもいいのではないか。 ◆ 外国人労働者向けの安全衛生教育に係る教材等の活用⇒・厚生労働省等の外国人労働者向けの基本的な安全衛生教育に係る教材は、安全衛生の基本的な事項は共通しており、活用できるのではないか。また、中央労働災害防止協会が外国人に向け実施している安全衛生教育研修の知見等の活用も検討するべきではないか。 (2)企業等に対する国際的な基準等の周知→ ◆ ILO 労働者の基本的権利に関する原則及び基本条約⇒・企業が尊重すべき国際労働基準に関する導入的な分かりやすい啓発資料 があることが望ましい。・啓発資料等を用いた海外日系企業への説明会の開催等、企業への周知についても検討すべき。 ◆ ビジネスと人権に関係する厚生労働省内の職員に対する国際的な基準等の周知⇒ ・厚生労働省内の労働関係部局職員に対して、国際的な基準等を周知する ことは、関係者の知見の底上げにつながるのではないか。 (3)国際的な技術協力事業→ ◆ 技術協力事業⇒ ・これまでの技術協力スキームを活用し、東南アジア等におけるディーセ ント・ワーク確保を GSC 上の人権尊重の観点から捉え直して今後の技術 協力案件の形成を行うこととしてはどうか。 ・特に、企業単独での解決が難しい社会保護システムの構築、児童労働の 撲滅、建設的労使関係の構築等について、日本企業に有益でないか。 ◆ 草の根支援⇒ ・企業活動を通じた支援や改善が届きにくい層に対する草の根レベルの社会的セーフティネットの構築を図る取組も継続的に実施する必要がある。 ◆ 労使対話の促進⇒・安全・衛生委員会等のように労使が参加する対話の場により人権尊重の 取組が促進されるような仕組みを、海外にも紹介してはどうか。 ◆ 社会保険労務士制度の紹介⇒・日本企業の海外拠点の多い国において、社会保険労務士類似制度につい て紹介し、導入の検討を促してもいいのではないか。 (4)海外からの情報の収集、知見の共有及び活用→ ◆ 先進国等の取組に関する情報収集・活用⇒・欧米各国等の法制情報等を収集・提供するとともに欧米の発注企業のサ プライヤーへの取組も踏まえ、上記技術協力事業や企業等への周知をよ り実態に合った有益なものになるよう努めるべき。 ◆ 情報収集の継続⇒・引き続き、企業等の新たな課題や好事例を把握に努めるべき。 ◆ 日系企業が進出している国・地域での情報の収集、知見の共有⇒・日系企業の進出が多い国の状況把握に努めるとともに、当該国の日本商 工会や進出企業が必要とする支援等を進めるべきで。 ・日本の知見や経験が活かせる課題について、課題を抱える国との協議の 場やマルチの会議の場において、紹介し、取組の促進をすべき。 ・ILO 基本条約を批准していない国に対しては、批准に向けた知見等を共有 する。 (5)労使団体との協力→ ◆ 労働組合との協力⇒ ・労働組合は、ビジネスと人権の分野で重要なステークホルダーであり、 その活動が企業の人権尊重の取組に寄与することから、国内外の労働組 合関係者への周知、取組の実施について、労働組合の中央組織や産別団体と協力し、取組を進めるべき。 ・建設的労使関係の構築等、労働組合の役割が重要な事項については、労 働組合と協力し、取組を進めるべき。 ◆ 使用者団体との協力⇒・ビジネスと人権に係る取組について、使用者団体と協力して、周知、促進を図るべき。・企業の抱える課題等のビジネスの取組を進める上で必要な情報収集については、協力して収集すべきである。 ・日系企業が海外拠点においても日本と同様の水準で労働災害防止対策を 講じている例があることを踏まえ、こうした個別企業のプラクティスを 自社のみならず海外現地の他の企業の取組向上にもつなげるような貢献 の広がりを、国内外の使用者団体の協力を得て図ってはどうか。 (6)その他→ ◆ ILO 基本条約の批准に向けた検討⇒ ・我が国は一部の ILO 基本条約について未批准であるところ、未批准の ILO 基本条約の批准に向けた検討を進めるべきである。 次回は新たに「第 64 回 労働政策審議会雇用環境・均等分科会」からです。 |