第7回 新しい時代の働き方に関する研究会 [2023年06月06日(Tue)]
第7回 新しい時代の働き方に関する研究会(令和5年5月25日)
≪議題≫ 構成員からのプレゼンテーション ・中村 天江 構成員 労働者の働き方・ニーズに関する調査について https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33310.html ◎資料 「良質な「働く」を広げる−情報とコミュニケーション−」(中村構成員提出資料) ≪現状認識≫↓ ○多様な働き方→働き方の選択肢の増加にともない、法律や人事制度は整備されてきた。しかし 一方で、制度の趣旨が広く理解されて有効に機能しているとはいえない状況 ⇒「制度」と「実態」が乖離:「制度」の実効性が大きな課題となっている。 ○日本の価値観→日本は「不確実性の回避」「⾧期志向」「集団主義」「人生の楽しみ方が抑制的」の価値観が強い ⇒ 価値観にあった政策が求められる一方、変化を乗り越えるには価値観を変えていくことも必要。 ・6つの価値観(各説明あり)については国際比較あり。 ○日本の労使関係→組合組織率が低いだけでなく、 それを補う社会制度や個人レベルの労使コミュニケーションも脆弱。 働き方や労働条件についての職場内コミュニケーションも減少している ⇒ 働き方の質を高めるには、重層的に労使コミュニケーションを活性化することが肝要 ○良質な働き方を広げる→労働者がいずれ管理職や経営者になる、労働者の集合が職場や企業を構成しているため、 政策の実効性を高めるには個人に響く取組みが重要。 働き方の質の向上メカニズムは「情報」を起点に作動する。 ・<働き方の質の向上メカニズム>→個人の働きに対する情報理解が決め手。 ≪働き方の情報開 示≫ ○情報開示に関する主な政策・動向↓ • 近年、働き方・人的資本に関する説明義務や情報開示の範囲が拡大し、人的資本の情報開示が急整備されたものの、経済・社会政策が主目的のため、労働政策の観点で精査がつくされていない • 日本特有の雇用・労働課題は国際基準には含まれないので、日本独自で政策推進が必要 ⇒ 労働政策として以下の情報開示が考えられる→ @心理的安全性を高める取組み A「1on1ミーティング」の実施状況 Bテレワーク利用率・利用日数 C雇用形態別の研修時間・研修費用 の見える化必要。↓ @心理的安全性を高める取組み↓ • 総合労働相談の1位は10年連続で「いじめ・嫌がらせ」であり、日本は人間関係を理由とした離職が他国より多い (厚生労働省「令和3年度個別労働紛争解決制度の施行状況」、リクルートワークス研究所 2012「Global Career Survey」) • 労災事故等による身体的安全性の確保に注力している企業でも、メンタルヘルスやハラスメントの深刻な問題を抱えている • 成熟社会では精神的充足は身体的安全性に並んで重要であり、従業員の精神的健康のための取り組みが望まれる •「心理的安全性」が高い職場では、個人の意欲や成果、チーム内の相互信頼等が高くなる ※「心理的安全性」とは、チームの他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと確信できる状態 チームメンバーと仕事をする時、自分のスキルと才能が尊重され活かされていると感じる (Edomondson 1999) • ストレスチェックの結果やメンタルヘルス・ハラスメント研修実施有無、メンタルヘルス休職者数等の公表が考えられる A「1on1ミーティング」の実施状況↓ • 働き方の多様化・個別化にともない「I-deals」の重要性が高まっている ※「I-deals」とは、労働者による個人的な交渉。他の従業員の雇用条件とは異なるが、労働者と使用者双方にメリットがあるもの (Rousseau 2005 ) • 「1on1ミーティング」の導入率は100-699名規模の企業でも5割を越えている • 「1on1ミーティング」の実施により、上司・部下の関係性が良くなり、両方のモチベーションが向上する • なお、パワハラの起こる職場は上司・部下のコミュニケーションが少なく、心理的安全性が低い傾向がある Bテレワーク利用率・利用日数↓ • コロナ収束にともない、テレワークを減らし、オフィス出社を求める企業が増えている。しかし、労働者にとってテ レワークはメリットも多く、とくに育児・介護等、生活と仕事の両立においては有効な手段となる • 現時点ではGRI standardsやISO30414などの国際基準でテレワークについて求めているものはないと思われる。しか し、少子高齢化が世界に先駆けて進む日本では、労働者の「ケアの権利」を守るためにテレワークの情報開示を積極 的に推進すべき C雇用形態別の研修時間・研修費用↓ • 研修時間等の人材育成に関しては、国内外の多くの基準で情報開示が求められている • 日本でも2023年3月期決算から有価証券報告書で人的資本に関する情報開示が義務化され人材育成方針も開示される。しかし、雇用形態別の開示は必須になっていない 。 • 日本は雇用形態別の待遇格差が大きく、研修機会についても正 規・非正規に差がある。よって、研修時間・研修費用は雇用形態 別に情報を開示する。 ○(参考)日本版ディーセントワーク8指標 中間報告版→1.適切な労働時間と賃金 2.男女格差の撤廃 3.柔軟な働き方 4.職場の安心 5.人的資本への投資 6.ダイバーシティ&インクルージョン 7.サプライチェーンの働き方 8.健全な労使関係 ≪労働基準監督の進化―情報とデジタル化―≫ ○労働基準監督の現状と今後の方向性↓ • 働き方が多様化し、職場ごとのばらつきが大きくなると、労働基準監督が一層重要になる。一方で地域によって指導監督の内容が異なるな ど、労働基準監督業務の質の向上も求められている • ILOは労働者1万人当り1人の労働基準監督官を求めている。日本は0.62であり国際的にみても労働基準監督官の数が少ない。人口減少が進む中で労働基準監督官の数を大幅に増やすことは難しい。全国に約640万の民営事業所あるが労働基準監督署が監督を行っている事業場は1年に約15万件。内訳は定期監督12.2万件、申告監督 1.6万件、再監督1.1万件(総務省「令和元年経済センサス」、厚労省「令和3年労働基準監督年報」) • 現状、定期基準監督は対象事業を選定し、予告なく立入検査(臨検)を行うフローになっており、そこから事実確認や対応を求めるため、 企業の予防行動や事前の自主改善を促す仕組みになっていない ↓↓↓ • 立入検査なしでも、企業が就業管理の質を高める仕組みが望ましい • デジタル化等により、労働基準監督業務の精度と効率を高める ○具体的方向性の例→労働基準監督業務の精度・効率を高めるために…↓ ↓ 【情報開示による企業の就業管理水準の向上】→就業管理の状況について情報開示(もしくはデータを行政に提出)している企業とそうでない企業で、検査対象の選定において差をつける(自主的取組みをしている企業を優遇する) 【就業管理水準の向上に努める企業の優遇】→例えば、管理職の8割以上がワークルール検定に合格している等、就業管理の質を高める努力をしている 企業とそうでない企業で検査対象の選定において差をつける(自主的取組みをしている企業を優遇する) 【デジタル化による監督業務の精度・効率の向上】→労働基準監督業務のデジタル化を積極的に推進する。とくに企業の就業管理状況や検査履歴のデータ化を 進め、そのデータ分析により検査対象選定とプロセスの効率と精度を高める。また、労働基準監督署同士 の情報連携を進め、指導監督の質を底上げする。 ≪労使コミュニケーションの活性化≫ ○労使コミュニケーション活性化の論点↓ 論点@ 個人レベルの活性化→ 1on1、I-dealsについて前述したため省略 論点A 集団レベルの活性化(大半の企業には労働組合がない)↓ • 過半数代表選出の適正化、労使委員会の有効化、従 業員代表制の制度整備など、集団的労使関係の機能 強化が必要。ただし、制度や手続きを整備するだけでは、労働者 側は人事労務・経営に関する知識やノウハウの不足 から十分に機能しない。 ・知識・経験の蓄積と集団による判断ができるため、 労働組合から従業員代表を出すのが望ましい ・労働者側のプロフェッショナルが労使自治には必要 論点B 労働組合の位置づけの再定義(労働組合法は労働基準局所掌)↓ • 労働組合が対応する範囲が拡大し、「労働条件や経 済的地位向上のための自主的・主体的活動」の範囲 より相当広くなっている • 労働組合法の大きな改正は1949年(不当労働行為制度)と 2004年(労働委員会審理の迅速化・的確化)にしか行われておらず、 組織的活動であっても、業務時間外に組合費で活動 することが前提となっている ○企業内労働組合の現状→ 組合組織率は減少が続き、2022年は16.5%と過去最低となった(厚労省「令和4年労働組合基礎調査」)。 組合役員にとって組合活動と仕事の両立の負担は重く、多くの労働組合が組合役員のなり手不足に直面している。 非正規化の進展にともない、組合費が減少し、専従役員をおけない労働組合も増えている。 ⇒ 労働組合の運営負担が重くなっており、機能不全が進むことが懸念される(→組合役員の状況、連合・連合総合生活開発研究所「労働組合費調査」参照) ○企業内労働組合に関する政策の方向性↓ ・方向性@→労働組合法の不当労働行為に関する解釈・規定の見直し。学説は就業時間中の組合活動に対する賃金の不控除を認めているが、労組法の行政解釈は 1949年改正の趣旨が色濃く反映されたままになっている。労働協約も団体交渉・労使協議 以外の賃金は支払われない規定になっている。 組合活動の実態ならびに海外の制度を参考にすると、日本でも就業時間中の組合活動を認める(賃金が支払われる)変更が考えられる ・方向性A 従業員代表の取締役会レベルへの参加→欧州では19カ国で従業員代表が取締役会や監査役会に 参加する規定がある。労働者側のプロフェッショナルを労働組合活動から輩出し、労使一体の経営を行うために、日本でも導入余 地がある。 ○まとめ:良質な「働く」を広めるために↓ ・ 情報開示→個人のキャリア選択や、企業の就業管理の質の向上、労働監督行政の効率化に寄与する。 日本の雇用課題を解決するために、「心理的安全性を高める取組み」「1on1ミーティングの実施状況」「テレワーク利用率・利用日数」「雇用形態別の研修時間・研修費用」の情報開示を進めたい。 ・情報開示とデジタル化により、労働基準監督の精度と効率を高める。 ・労使コミュニケーションが貧弱になっているため、個人レベル・集団レベルどちらもコミュニケーションの活性化をはかる必要がある ・集団レベル→過半数代表や労使委員会の運用適正化と、従業員代表制の制度整備が望ましい。ただ し、労働者側の知識・ノウハウ不足が懸念されるため、労働者側のリテラシー強化策を合わせて考える 必要がある。 ・労働組合は対応範囲が広がり、運営負担が重くなっている。労働組合法の不当労働行為に関する解釈・ 規定の見直しを検討すべき。また、労働者側の経営参加とプロフェッショナルづくりのために、 欧州諸国のような従業員代表の取締役会・監査役会への参加も検討の余地がある。 ・働き方の多様化と個別化が進む中で、人々の公平感・納得感を高めることが一層大切になる。働き方に 関する情報と選択肢に誰もがアクセスできるようしていく。 ◎(追加資料)労働者の働き方・ニーズに関する調査について 厚生労働省労働基準局労働条件政策課 1 調査の実施方法→・中⾧期の労働基準法制の方向性を整理するために、働き方・労働時間制度等へのニーズを把握すること を目的とし、委託事業において調査を実施。 (調査対象)→インターネット調査を通じて24,190人を対象にスクリーニング調査を実施。その内、就業形態が「正規社員」「非正規社員」「雇用関係によらない者」に該当する15歳〜79歳の 男女から、就業構造基本調査と同様の比率になるように6,000人を抽出し、令和5年3月に本調査を実施。 → 今後、集計結果について研究会において報告予定 2 回収結果(回答者の性・年代)→回答者の属性として、性別は、男性が55%、女性が45% 回答者の年代は、40代が25%、次いで30代が20%、50代が19.6%となっている。 3 回収結果(回答者の就業形態)→就業形態⇒会社等に雇われている社員が93.3%、自営業主・フリーランス(実店舗がなく、雇人もいない自営業主 や一人社⾧)が 6.7%。 また、会社等に雇われている社員のうち、正規の職員・従業員が61.8%、次いでパート・アルバイトが25.3%となっている。 4 調査項目(94項目)→今後の働き方について重視したい事項、希望する労働時間制度、健康確保についての考え方、人事管理における希望等の 項目について調査を実施。 次回は新たに「第 58 回 労働政策審議会雇用環境・均等分科会」からです。 |