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労働政策審議会労働政策基本部会 報告書 [2023年05月14日(Sun)]
労働政策審議会労働政策基本部会 報告書(令和5年5月12日) 
〜変化する時代の多様な働き方に向けて〜↓
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33088.html
◎別添1↓
1. はじめに
→労働政策審議会労働政策基本部会では、本部会でのこれまでの議論を踏まえ、「加速する社会・経済の変化の中での労働政策の課題〜生産性と働きがいのある多様な働き方に向けて〜」を大テーマとして、令和4年2月より 9 回にわたり、今後の労働政策の課題について、労働政策基本部会委員・有識者のプレゼンや、企業のヒアリングを交えな がら議論を深めてきた。その成果について、以下のとおりとりまとめる。

2. 社会・経済の現状と課題について
(1) 産業構造の変化について
(産業構造そのものが変化し続け、「知」で勝負する時代へシフト)↓

大丸1 日本経済は製造業を中心とした安定した高成長を続ける 80 年代のマクロ経済から、 90 年代には製造業では就業者数が減少する一方、第三次産業では就業者数が増加 しており、就業構造のサービス化の流れが進んだ。
大丸1 近年では、AI 等の新技術に代表される第四次産業革命と呼ばれる技術革新が世界 的に非常に速いスピードで進行し、グローバル化と相まって世界の社会・経済に大 きな影響を与えており、産業構造そのものも、これまでにないような大きさとスピ ードで、時には不連続に変化し続ける時代となっている。
大丸1 こうした技術は、これまでの同質な商品の大量生産とは異なり、個別化された製品やサービスの提供を通じて、個々のニーズに応えることを可能とし、様々な社会課 題の解決や大きな付加価値の創出につながるものであり、コロナ禍においては、テレワークの進展など働き方にも影響を与えている。
大丸1 AI や DX の社会実装が進むと、ハードの設備での改良・改善による成長を目指す社 会から、新たな「知」で勝負しなければならない社会にシフトしていくことになる。
大丸1 また、カーボンニュートラル、循環経済(サーキュラーエコノミー)1など、これか らの社会構造や産業構造がどのように変化するのかを中長期的に展望し、活躍する 人材をどう育成していくのかということが労働政策でも極めて重要な課題。
大丸1 わが国の労働生産性(一人当たりの GDP)は、主要先進国に比べて長期的には伸び悩んでおり2、また、賃金の伸びも小さい。わが国では約 7 割の労働者が中小企業 で働いており、DX などを通じて、こうした企業の生産性を高めていくことや、新規創業など事業の新陳代謝を促すことを通じて、労働力や技術力から生み出される 付加価値が適正な価格付けにより賃金などの処遇向上に反映される環境を作るこ とが、わが国の今後の成長に向けて必要となる。また、少子高齢化が進む中、大都 市圏以外のローカル経済を活性化し、働く場を確保していくことも重要である。

(2) 多様な人材の労働参加と企業の成長について
(「いわゆる大企業の男性正社員の働き方」だけではない、多様な人材の活躍・働き方 の促進が企業の成長につながる)↓

大丸1 産業構造の変化とともに人口が減少していくわが国は、生産年齢人口が 今後大きく減少することが見込まれる。人材ニーズも多様化する中で、これまで以 上に一人ひとりの労働者が貴重な存在となり、多様な人材の視点を事業に活かして いけるような企業が成長していくものと考えられる。それぞれの労働者がその持て る能力を発揮し、社会・経済を活性化していくためには、残業前提の勤務や転勤などの広範な人事異動を前提としたいわゆる大企業の男性正社員の働き方中心ではなく、女性や高齢者をはじめあらゆる労働者の労働参加などを通じて全員参加型のダイバーシティ社会を実現していくことが重要となる。
大丸1 企業でイノベーションが生まれるようにするためには、多面的な発想が必要であり、 そのような発想には、様々な人材が社内で活躍する「組織の多様性(ダイバーシティ)」が必要。そのため、女性、外国人や、様々な障害のある人など、いろいろな視点を持った人材が同じ職場で働けるようにしていくことが、新たな付加価値 を生み、会社の持続的な成長・発展につなげていくために必要となる。また、ガバナンスを高める上でも、経営陣や経営トップを選抜する段階で外部人材を登用する など多様性の観点も有益である。
大丸1 例えば、女性の雇用者数やその割合は増加しているが、わが国は非正規雇用で働く 女性の割合が高いことに加え、女性の管理職比率が低く、とりわけ、役員比率は低 くなっている。決定権のあるポジションに多様な人材が登用されている企業は利益も高くなっているという指摘もあり、制度や公表されている指標だけで はなく、より一層多くの女性が管理職として活躍できるよう、男性中心の企業文化 を変えていくことが必要。
大丸1 女性をはじめとした多様な人材が管理職を目指すためには、特に長時間労働を前提 とする正社員の働き方を変えていくことが不可欠。また、育児・介護のみならず様々な理由から時間や勤務地の配慮が求められることもあり、そのような場合でもキャ リア形成ができるよう、テレワークやフレックスタイムなどを有効に活用すること や年功を伴う一律の雇用管理をしない等の取組も重要。こうした取組により、女性 の離職率を下げ、女性管理職の数を増やしている例もあった(金融業)。
大丸1 また、アンコンシャス・バイアスという言葉にあるように、社会・経済全体の課題 として、性別役割分担意識やネガティブな思い込みをどう払拭し、多様な人材を評 価し活用していくのかという点も重要。
大丸1 共働き世帯が専業主婦世帯の2倍となり高齢就業者数が増加する中で、女性就労 や高齢者就労の制約となっていると指摘される社会保障制度や税制等について、働き方に中立的なものとしていくことが重要。

(3) 労働市場の変化について
(内部労働市場の機能の低下)↓

大丸1 わが国は、新型コロナウイルス感染症のような不測の事態や、グローバル化の進展、 急速な技術革新やデジタル化など、急激な変化に直面している。これまでは、こう した変化に、新卒一括採用を前提とした企業内での人材育成や、柔軟な人事異動な ど、内部労働市場により対処してきた。他方、長期にわたる「人への投資」の低迷に加え、人手不足が常態化する中で、@自らのキャリアを深めスキル を高めることを志向する労働者にとっては、自らの望む仕事や報酬が得られなかっ たり、A育児・介護など様々な理由により広範な転勤を望まない労働者については、 こうした内部労働市場でのキャリアパスを歩むことができないなど、従来の内部労 働市場の機能だけでは、こうした課題や労働者の意識の変化に対処していくことは 困難となってきている。
大丸1 労働市場において、人材を確保するためには、賃金など労働条件を改善することが 重要であり、また、人材の定着のためには、適正な評価・処遇を行うことや労働者のエンゲージメントを高めていくことが重要。
(コロナ禍で顕在化した非正規雇用の不安定性と多様な働き方の広がり)↓
大丸1 足下の状況を見ると、コロナ禍では、宿泊業、飲食サービス業で働く非正規雇用労 働者を中心に多くの雇用が失われ、改めて非正規雇用労働者の不安定性が顕在化した。また、フリーランスやプラットフォームワーカーといった働き方は、コロナ禍 で収入が減った人の収入補填としての役割を担った一面もあったものの、不安定な 働き方であることへの不安や懸念もあり、働き方の多様化についての評価とともに、 どのような働き方をしてもセーフティネットが確保されるなど必要な対応が求め られている。
大丸1 非正規雇用労働者数は、上述のようなコロナ禍の影響によって一時的に大きく減少 したが、その割合については長期的に見ると増加傾向にある。その背景には、「正 規の職員・従業員の仕事がない」といった不本意非正規雇用労働者の割合が減少傾 向で推移する一方で、高齢者の就労参加、ワークライフバランスの観点からパートタイム労働を選択するケースといった様々な要因があり多様な働き方を求める動 きにどう対応していくかも課題。
大丸1 新型コロナウイルス感染症の感染拡大後は停滞しているものの、中途採用実績のあ る企業の割合は 2018 年まで増加傾向が見られ、入職者に占める転職入職者数も大 企業を中心に増加傾向。 新たな人材が企業に加わることで、組織を活性化し、新たな付加価値を生み出し、生産性が向上する効果も指摘されており、企業においても転職者などの人材を受け 入れていく体制が重要となっている。

(4) 労働者の意識・企業の求める人材像の変化について
(企業の求める人材像の変化:イノベーションを生み出せる多様な人材、新しい技術を活用できる人材) ↓

大丸1 過去 30 年間において、80 年代は安定した高成長を背景に正社員は新卒一括採用で、企業への帰属意識が高く、チームワークにすぐれた同質な人材が様々な経験を積みながら、OJT によりスキルを磨くことによって日本経済が支えられてきたが、 90 年代以降は消費者の嗜好が多様化し、多様な商品・サービスが求められる中で、 イノベーションを生み出せる多様な人材が求められており、採用形態あるいは就業 形態など属性を問わず、等しく内部人材を活性化していくことが重要となる。
大丸1 AI の進展などにより、これまで、人が行うこととされていた仕事の一部を AI が担 うこともあり、自らの業務の技術に習熟しつつ、新しい技術も使いこなしていける 人材が必要となっている。また、企業がデータを活用し、業務を見直していくこと も必要となっている。こうした傾向は、現場においても同様であり、例えば、AI を 活用した運行管理、自動運転などを活用したバス会社などの例もある。産業構造が 変化し続ける社会・経済においては、求められる技能や職場での役割も短期間に変 化することもあるため、個々人がこうした変化に対応できる能力や技能を培ってい かなくてはならない。部下や後輩の携わる業務が、上司や先輩がこれまで企業内で 積み重ねてきた経験や能力、スキルの範囲を超えることも多くなることも想定され、 中間管理職の業務やマネジメントのあり方、その存在意義も大きく変化することが 見込まれる。一人ひとりの部下の能力やエンゲージメントを高められるように、企 業が個々の労働者に向き合えるようなマネジメント人材の育成や環境整備を行う 必要がある。
(労働者の意識の変化:自身でキャリアを選択していく志向が見られる)↓
大丸1 これまでは、企業の人事権が大きく、幅広い人事異動によってキャリアを積むとい う人事管理が見受けられたが、1つの会社の中で育っていくことに必ずしもこだわ らず、自分自身のキャリアをどう作るかということに重きを置く労働者も出ており、 自らの職務や職種を自らの判断で選びたいという希望を持つ労働者も少なくなく、 自らの職業人生を築いていくキャリア自律が重要となってきている。
大丸1 こうしたことも背景に、正規雇用労働者においては、転職希望者も増加傾向にある。また、2000 年代以降、男性では 54 歳以下の年齢層で、女性は 39 歳以下の年齢 層で、勤続年数に低下傾向もみられる。転職の理由は、25 歳〜34 歳では「仕事の 内容・職種に満足がいくから」といったキャリアを志向するものが男女ともに上位 となるなど、一つの企業にとどまらず、キャリアを積むことを考えている若年層も 見受けられる。

3. 働き方の現状と課題について
(1) 生産性の向上に向けた雇用管理について↓
ア. 人材育成 (企業が成長していくためには人材投資・人材育成が重要) ↓

大丸1 全員が戦力となるような社会をわが国が目指すのであれば、社会全体で人材に投資 を進めていくことが重要。
大丸1 これまで、企業固有のスキルを OJT で身につけることが日本企業の強みだったが、 大きく変化していく産業構造に柔軟に対応していくためには、企業固有のスキルだ けではなく、後述の例のように、デジタル技術のような、企業横断的なスキル、新 しいスキルに投資することも、企業に新たな付加価値をもたらし、成長していくた めにも重要。
大丸1 企業の成長と、ひいてはわが国全体の経済成長を考えると、人材投資を行った人材 が社外に流出してしまう懸念などで人材投資を躊躇しないようにすることが必要。 労働者も企業の人材投資を重視し、人材育成に積極的な企業への転職が加速する可 能性がある。ヒアリングにおいても、スキルを身につけられることによって、多く の人材を採用できている企業もあったところであり、人材不足の中で、育成に力を 入れることはますます重要となると考えられる。
大丸1 企業内の人材育成においては、一人ひとりのキャリア志向を大切にしつつ、個人に 焦点を当てた「高解像度」な人事評価・育成が重要である。ヒアリングでは、労 働者個人へのキャリアデザイン研修や上司からの支援を通じ、職務記述書をベース に、社員が目指すキャリアに必要となる能力やスキルを明確にしたキャリア開発計 画書を作成し、能力開発のサイクルを回していく仕組みを活用している企業もあっ た(金融業)。
(高齢者や非正規雇用労働者への人材育成の課題)↓
大丸1 また、定年延長や再雇用など高齢者雇用も進んでおり、職業人生も長期になること から、中高年のリスキリングを含めた能力開発も重要。年齢を問わず、リスキリングをしつつ、活躍をできる場を探していけるような支援の枠組みも重要である。
大丸1 こうした中で、企業内においても、スキルによる格差・分断をいかに回避していく かが重要。雇用区分や障害等にかかわらず、すべての社員、労働者に対して、公平・ 公正な人材育成の機会提供が必要。また、より良い条件での雇用に移るには、スキ ルが重要となるが、非正規雇用労働者に対して、Off-JT を行う企業は少数であり、 スキルを身に付ける機会に恵まれない可能性もある。非正規雇用労働者や高齢者等 も含めて、労働者全体に国の対策として対応していくことの重要性がより一層増し ている。

イ. デジタル技術への対応・リスキリング
(企業は変化に対応するために必要となるスキルを考え、労働者は変化を前向きに捉え ることが重要)↓

大丸1 近年の IT 技術の発達などにより、短期間で様々なことが大きく変わる現状におい て、価値を創造し続けるためには、変化に対応していくために必要となるスキルを 企業が考えることが必要。その上で、新たなスキルが必要であれば、労働者に対し リスキリングを進めていく必要がある。
大丸1 リスキリングに当たって、企業は、経営戦略として、社会・経済の変化に対応する 必要性や、企業としてどう変わりたいのか、そのためにはどういった能力や技術が 必要で、何を学ぶべきなのかといった具体像を労働者に説明することが必要である。また、労働者個人も変化を前向きに捉え、新たなスキルを身につけられるよう、 リスキリングを意識していくことが重要。リスキリングの中では、近年 IT 技術が 注目されている。IT 技術を活用した DX 推進においては、専門領域の知識を持った 上で、デジタルツールを活用して問題を発見・解決する方法を理解している人材が 重要な役割を担うこととなる。リスキリングは新しい機器や技術を使いこなすだけではなく、課題解決の提案・推進などを通じて、新たな価値が創造できるように していくような中身とする必要がある。
(リスキリングの必要性・目的意識)↓
大丸1 AI 等の新技術の導入によって、新規事業の創出のみならず既存事業の業務プロセ スの変化も進むため、リスキリングやデジタル技術への対応に本格的に取り組むに は、全ての従業員が取り組むことが重要。新しい仕事のやり方に従業員が通じてい なければ、仕事の課題をこなすことは困難であるが、日本の労働者において自己啓 発を行う者は多いとは言えず、また、自己啓発支援に実際に費用を支出した企業の 割合も多くないのが実情である。そのため、従業員が自発的に受講した場合の訓練 費用を負担した事業主への支援などを行うことが重要。
大丸1 労働者が従来とは異なる仕事のやり方に習熟し、課題解決ができるようになるには 時間がかかる。変化に柔軟に対応できない労働者に対しては、企業は変化に対応す る必要性を丁寧に説明し、マインドセットを作りながら、実践的な学習機会を創出 するなどし、リスキリングの支援やスキル取得による評価の明確化等を働きかけて いくことにより、こうした人材を増やしていくことが重要である。
大丸1 また、リスキリングは、なぜ学ぶのか、学んだ上で自分がどんな仕事ができるよう になるかといった目的意識が重要。企業がリスキリングの必要性を明確にし、積極 的にリスキリングの機会を設けるとともに、経営者が自ら積極的に学んでメッセージを示すなど、労使でのコミュニケーションも重要となる。ヒアリングした企業 においても、経営者自らが業界への見通しから、自ら学んだり、メッセージを示す という特徴があった(印刷業、宿泊業)。
(中小企業に対しては国や自治体のリスキリング支援も重要)↓
大丸1 一方、わが国の多くを占めているのは、中小企業であるが、企業を取り巻く状況が 目まぐるしく変化する中で、企業の生き残りのためには、新たな事業展開などをし ていく必要があるなど、中小企業には、リスキリングを必要とする切実な理由があ る。しかし、人的リソースが限られる分、時間や大きな費用をかけずに、必要なタイミングでの育成や実践の場を通じたスキル取得ができるようにすることが重要 となる。また、社内の見通しの良さや経営者の影響力の強さもある。企業の存続の 危機感の中から、労使が認識を共有し、リスキリングに成功した例もあった(印刷 業、宿泊業)。また、あと一歩が踏み出せない中小企業の経営者も見受けられると ころであり、経営者に対するリスキリング・気づきの場の提供や相談窓口の設置、 労働者個人向けのリスキリング支援等、国や自治体が支援することも引き続き重要。
(中間管理職は、デジタルの基本的な知識や活用方法の知見が求められる)↓
大丸1 DX を進めていく上でポイントになるのは、中間管理職と考えられる。企業はその ビジョンを明らかにした上で、中間管理職に、デジタルの基本的な知識や活用方法 について知見を提供することが重要。ヒアリングした企業においても、大学との連 携の中で、学んだデジタル技術を現場でのニーズに活かせるよう、現場での経験を 積ませたり、中間管理職と若手を組み合わせて、課題を解決する研修をしたりして いる企業もあった(製造業)。
(在籍出向や兼業・副業の経験を通じた学び)↓
大丸1 人材の育成は、必ずしも、社内だけではなく、在籍型出向なども考えられる選択肢 の一つであり、ヒアリングにおいては、副業・兼業でも、これまでの延長線上の企業での経験だけでなく自社外での経験が新たな気づきとなり、本業に活かされたとの指摘もあった。
(地域ではリアリティを持った事例の共有が重要)↓
大丸1 地域や産業ごとの拠点におけるリスキリング支援情報の共有が課題。事例や取り組 み方に関する情報収集やノウハウの支援が必要。地域におけるリアリティを持った 事例が共有できることが重要。

次回も続き「3. 働き方の現状と課題について  (2) 人事制度について」からです。

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