令和5年第4回経済財政諮問会議 [2023年05月03日(Wed)]
令和5年第4回経済財政諮問会議(令和5年4月18日)
≪議事≫ 特別セッション(目指すべきマクロ経済の構造と求められる政府の役割) https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2023/0418/agenda.html ◎資料3 賃金と物価の好循環をいかにして実現するか(渡辺努氏提出資料) ○過去1年間(2022年春以降)の 特筆すべき変化→❶ 消費者のインフレ予想の上昇 ❷ 消費者の値上げ耐性の改善 ❸ 企業の価格転嫁の拡がり ❹ 労働者の賃上げ要求の強まり ・「慢性デフレ」のサイクル(90年代後半以降の四半世紀)➜➜ 賃金と物価が持続的かつ緩やかに上昇する健全なサイクル →健全な価格メカニズム を取り戻す ○賃金・物価サイクルの二巡目以降の 実現に向けた政府・日銀の役割 ≪物価面の課題≫ ・インフレ予想の定着↓ -「インフレを知らない世代」が初めてインフレを経験 インフレ予想が社会に定着す る可能性は高まった。 -日銀の物価目標政策の維持が必須須(物価目標の「柔軟化」は不適切) ・年金給付額の物価スライド ・規制価格の物価スライド」 ≪賃金面の課題≫ • 中小企業の価格転嫁を促進 • 最低賃金の引き上げ – 最低賃金の決定に当たってマクロの要因を考慮すべき – 先行き数年間の最低賃金のパス(の目安)を政府がアナウンス→最低賃金の先行きパ スを明示することで、2024年以降の賃上げ交渉で 中小企業の労働者を後押し。企業の中長期の経営計画に賃上げ・人件費の増加パスが織り込まれ、 社会が賃上げを当然のことと受け止める素地が拡大。 ○「賃金・物価」の好循環を「成長・分配」の好循環に つなげるための戦略的な手順 • 賃金と物価の好循環を定着させることができれば、企業のイノベーション、労働者のス キルアップに望ましい効果が期待できる。 – 企業はプライシングパワーをもつようになる。優れた新商品を開発し高い値段で売る インセ ンティブをもつ。それによるイノベーションの加速が期待できる。 – 労働者は、高い賃金を得るために、スキルアップに積極的に取り組むインセンティブを持つ。 労働生産性の上昇が期待できる。 • 賃金・物価の好循環は成長・分配の好循環につながる面がある。しかし、片方の循環の実現が他 方に直結するわけではない。成長・分配の好循環の実現には、ミクロの施策が別途、必要。 – 2つの好循環の主役はあくまで民間であり、政府・日銀は初期の加速など、補助的な役割に 徹すべき。 – 政府・日銀の役割分担としては、賃金・物価の好循環は、「ノミナル」の好循環であ り、主とし て日銀が担当(ただし、政府にも最低賃金など一定の役割)。一方、成長・分配の好循環は、「リアル」の好循環であり、主として政府が対応。 • 2つの好循環について、この先の戦略的な手順としては以下が考えられる。 – 賃金・物価の好循環は2022年春から既に始まっており、1巡目は一応成功した。目下 の喫緊 の課題は、これを定着させる(=2巡目、3巡目を着実に実現させる)こと。これは、今後2−3 年の短期決戦。ここに政策資源を集中させ、2025年を目途に、好循環を定着させたい。 – 賃金・物価の好循環の定着を確認した後で、成長と分配の好循環を実現するためのミクロの 施策への取り組みを加速させる。 ◎資料4 サプライサイド経済構造と求められる政府の役割 (マルティン・シュルツ氏提出資料) ○サプライサイド経済構造と求められる政府の役割 ・新しい資本主義 - サプライサイドの機会と課題→新しい資本主義は、従来の市場取引を超えて、社会の所得創出能力を強化します。そのためには、複 雑なサプライサイドの政策が必要ではあるものの、対象範囲が広すぎて効果が出ない、逆に限定しす ぎて社会的インパクトがない、あるいは費用がかかりすぎて持続可能でないといったリスクもあります。 この問題を解決するにはどうすればよいのでしょうか。 ・政策の成果や付加価値に着目する 経済のサプライサイドでは、政府はもっと企業のように考えて行動する必要があります。つまり、政府 も、付加価値やイノベーションを生み出し、測定可能な成果をださなければなりません。マクロ指標やビ ジネスライクなKPI(重要業績評価指標)を利用して政策目標を策定し、政策実行を確認する必要があります。もちろん、政府が企業のようにといっても、大変困難です。均衡を保たなくてはならない対象が あまりに多種多様であるからです。さらにほとんどのマクロ指標はゆっくりとしか反応せず、具体的な情 報を与えてくれない上、ミクロ指標は扱いが複雑です。今のところ、金融政策においてのみ、その政策 目的(インフレ率)と手段(金利)が明確に定義されています。以上から、新しい資本主義を実行する政府は、複雑な環境下でも革新的に動いている企業のやりかたから学ぶことで問題を解決できるのでは ないでしょうか。つまり、各政策の目的を明確に定義し、それを実行する際に柔軟性と変革の余地を与 える。効果をあげるには、それぞれの目的と共通項(共通したパーパス)に基づく政策構築し、持続して 価値を高めることが重要です。 ・明確に定義された政策目標による持続的な所得増加→新しい資本主義の中心的な目的は、持続可能な所得面での成長です。この目的を達成するために、 DX、GX、SXなど、より多くの政策で、革新性から効率性、社会的公平性に至るまで、それぞれに目的 を必要とします。そして、その実現に向けて国民の信頼を得るためには、わかりやすい目的、目に見える政策の実行、早期の付加価値創出が最も重要になります。 ⇒次ページの「持続可能な 所得面での成長」(6つの共有化必要) 参照。 ◎資料5 目指すべきマクロ経済の構造と求められる政府の役割(滝澤美帆氏提出資料) ○投資関連のデータ→2つのデータ⇒・民間の投資額は1994年と同水準。公的投資額は94年の7割弱。 ・投資が増加しないため、設備年齢も上昇。 ・予算が限られている中で、政府は生産性向上に資するインフラの維持・整備のための 投資を優先的に行う必要。 ○市場構造関連のデータ→法人数及び欠損法人割合の推移(過去30年)⇒・足元の欠損法人割合はピーク時よりも低いが、バブル崩壊直後の平成4年より高い(法人税収も平成4年時より少ない)。 ・全体への支援ではなく、「よい」企業を選択し、支援する必要。 ○市場構造関連のデータ(つづき)→足元の市場占有度の推移⇒・日本は米国と異なり市場占有度が低下していたが、足元やや上昇。 ・成長志向の企業を支援し、そうした企業へ人など資源が移動することで、効率的 な生産活動が実現する可能性。 ◎資料6 目指すべきマクロ経済の構造と求められる政府の役割(永濱利廣氏提出資料) 1.世界標準的なPB黒字化とは 〜需給要因を除いた構造的PB黒字化を目指すべき〜 ・世界標準は構造的プライマリーバランス→不況期には⾚字許容も好況期でも構造⾚字減らす。 ・主要先進国のGDPギャップ→ 〜⽇本だけ需要不⾜〜 2.構造的に税収上振れの可能性 〜23年度は30年ぶり賃上げで更なる上振れも〜 ・⼀般会計税収( 4〜翌2⽉集計)→ 〜インフレ・円安・雇⽤所得改善で⼤幅増 ・22年度の税収⼤幅上振れの可能性 〜消費税上振れで安定的に上振れか〜 3.景気に配慮した財政健全化が重要 〜動き始めた好循環の芽を摘まないために〜 ・消費者物価インフレ率と春闘賃上げ率→ 〜重要なのは来年の春闘〜 ・消費増税前後の負担増と実質家計消費→ 〜負担増は規模とタイミングが重要〜 ◎資料7 成長と分配の好循環の実現に向けたマクロ経済運営 ― 長期停滞からの脱却に向けた供給サイドの経済学(福田慎一氏提出資料) ○⽇本の⻑期停滞(低成⻑、低⾦利、低インフレ)↓ • ⽇本は、 1980年代まで⾼い経済成⻑ • 1990年代初頭、⽇本の⼀⼈当たりGDPは 世界トップクラス(1993年国連統計では 7位、⽶国(11位)を上回る) • しかし、1990年代以降、先進主要国の中 でも最も成⻑率が低い国の1つに! • 2021年国連統計では⽇本の⼀⼈当たり GDPは世界の33位(⽶国は9位) ○ 原因は潜在成⻑率の低下↓ • 1983年度から90年度平均:4.04%(⽇銀) • 2010年度以降の平均:0.41%(⽇銀) • 今後、労働⼈⼝の減少で潜在成⻑率はさら に低下する⾒込み • 危機感の共有が必要 ・危機感の共有が必要 • 技術進歩や労働の質の向上による⽣産性 の改善 • ⽬先の景気対策ではなく、中⻑期的観点 からの供給サイド強化が重要! ○現代版の供給重視経済学( MSSE )の重要性 • 経済成⻑の実現に向け、⼈的資本の蓄積、研究開 発の促進、環境対策の推進などを優先 •「新しい資本主義」と多くの点で共通した考え⽅ • かつての供給重視経済学=サプライサイド・エコ ノミクス(SSE)とは異なる! • SSE=新⾃由主義:⼩さな政府、減税や規制緩和 で⺠間投資を喚起 • 例. レーガノミクス、サッチャーの経済政策 • MSSEでは、政府の役割が重要。 ○なぜいまMSSEなのか?→ かつてはなかった新しい課題の出現: GX、DX,、格差問題。これらは市場だけでは解決できない。政府の役割:「市場の失敗」を解決。 GX:地球温暖化は市場の失敗(外部不経済、共有地の悲劇)。DX: ネットワーク外部性、情報の利活⽤。格差問題:オートメーション化、デジタ ル化、AI の出現 ○⽇本に適⽤する際の留意点→きわめて厳しい財政事情の中でのMSSE。⽇本の政府債務:数字上わが国の現状は きわめて深刻⇒ きわめて厳しい財政事情の中でMSSE の考え⽅をどのように実現していくか? ○ワイズ・スペンディングの重要性→政策⽬標を明確にし、効果が確認された⽀出のみを実施すべき。 費⽤対効果が⼩さい歳出を削減。 • EBPM(証拠に基づく政策⽴案)。 • 政策のPDCAサイクル(計画→実⾏→評価→ 改善)。 ○供給⼒を⾼める政策と景気対策の違い→短期の景気対策:需要サイドの経済学⇒深刻な不況期に、需要不⾜を補うため、⼀定 の⾦額の財政⽀出が必要。 常時⾏うべきものではない。 ⻑期の経済成⻑:供給サイドの経済学⇒インフラ投資、⼦育て・教育・温暖化対策。持続的に⾏う必要だが、⾦額ありきではない。 ○これまでの⽇本経済の悪循環→潜在成⻑ 率の低下のサイクル。 ○今の⽇本に求められること→悪循環を断ち切り中⻑期的な成⻑⼒の強化によって潜在成⻑率を⾼めること。 今後、より⼀層少⼦⾼齢化が進⾏すること が⾒込まれるなか、早急な対応が必要。 ⺠間の投資や労働供給を誘発する財政政策。 脱炭素化による新しい産業の創設。ただし、MSSEを理由に、政府債務を過度 に拡⼤することは避けるべき。 ○供給⼒を⾼める財政政策→ 景気対策とは異なり、必要な財政⽀出は⾦額 ありきではない! しばしば、補助⾦だけでなく、課税も有効。 例.脱炭素化は、補助⾦だけではなく、炭素 税によっても実現可能。• 賢い財政⽀出の余地は⼤きい! ○MSSEでも、市場のイノベーションが最⼤の成⻑の源泉→かつてのSSE(=新⾃由主義)の成果。 サッチャーの経済改⾰:ゆりかごから墓場まで ⇒英国病⇒経済の低迷⇒経済改革⇒成長率回復。 この考え⽅は、そのままは当てはまらない。しかし、SSEが主張した「市場重視の考え方」は依然として重要 • マーケット・フレンドリーな政府の介入が重要。 次回も続き「資料8 経済財政諮問会議特別セッション提出資料」からです。 |