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第10回「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」 [2023年01月05日(Thu)]
第10回「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」(令和4年12月19日)
≪議題≫(1)精神障害の労災認定の基準について (2)その他
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_29878.html
◎【資料9】第9回検討会の議論の概要
(治療歴のない自殺事案の発病の有無の判断)

○ 自殺案件における発病の有無⇒自殺した当日をもって発病していたという判断には違和感を感じている。 まず、覚悟の自殺であっても自殺を実行する直前の段階⇒通常の精神状態ではないと考えられるという意見もある。その意味において、自殺の実行日の発病という論理はこうした場合との区別を困難にする気がする。もう1つは、うつ病エピソード⇒診断ガイドラ インでは一定期間の症状の持続をみて発病という判断がされている。自 殺案件についてそうしたことを例外に扱うのは論理的にやや整合しない 部分があると思う。 専門医による鑑定を介在する現状は認めるしかない。3人による部会 に判断を委ねることが好ましいと思うが、迅速に結論を出さないといけ ないことも想定すると、いずれの事案についても医師による鑑定判断を 仰ぐということを徹底するために、現行の部会による判断のシステムでよいかは、検討してよいのではないか。 また、覚悟の自殺の判断についても、多くの場合、遺書で生命保険に 言及しているなど、死による生存者への利益が示されていたということ 等を参考にしがちである。それにも疑問を感じたことがあり、ともかく 専門医による判断に委ねることを徹底し、それをもって、発病に対する 結論を求めなければならないということを強く主張すべきではないか。(品田先生)
○ 医療機関にかかっていない自殺は医証がないので、精神障害によって 自殺したこと、その精神障害の発病の時期を特定するのは難しい。前日まで仕事をして翌日死んでしまったケースや、誰も変調に気が付いていないケースもある。自殺した時点では発病していることは間違いないが、 それ以前に発病していたかどうかは分からない。ここをどう判断するか ということになる。(黒木先生)
○ 実際に、精神障害を発症せずに自殺したことを証明するのもほぼ不可能で、時期も、詳しい調査をしても分からないケースもたくさんある。 専門医でも分からないことが多いが、専門医の判断に委ねるしかなく、 明確な基準作成は無理で、専門医方式か、部会方式かは別にしても、専門医の判断に委ねるしかないのではないか。(田中先生)
○ 例えば、うつ病の発病の時点で、すぐに自殺企図し完遂するケースがあることは精神科医では一般的。うつ病症状が2週間あったかを 問題にしようとしても、もう自殺されていて、その後の症状の推移は分 からないのが、我々の経験的な結論だと思う。 仮に発病日について十分な情報が得られなくても、自殺自体が精神障 害によるものである可能性は高いということが一般的に言われているので年齢、性別、状況などを考えて専門医が一番妥当な診断名を認定 していくという、今の部会、専門医のようなやり方は、今までやってい たことの継続性も保たれ医学的な観点も入り判断の早さも担保されるので、よいかと思う。(荒井先生)
○ 心理学的剖検からいえば、自殺者の 85〜95%ぐらいは精神障害を発病 しているという報告なので、精神障害を発病しているケースが多いと思う。覚悟の自殺は、以前は割とあったように思うが、最近は少ないと感じている。いずれにせよ医学的判断が重要で、専門医が3人集まった合 議で決めていくのがいい。 当日発病して当日自殺することはあり得ることだと思う。ICD-10 でも うつ病の急激な発症の場合、2週間という要件を満たさなくても構わないと明記してあるので、診断基準からしても判断していい。 自殺事案の難しいところは、本人の主張がなく、周りの人の発言を聞 き取るが、そのときに会社であれば、バイアスがかかったり、統制がか かったりして、その発言自体がどの程度信頼できるのか悩ましい場合がある。そういう場合には、合議にかけたほうが慎重な判断ができると思う。専門医のみでの判断も迅速に進める上では肯定的 だが、一律に考え るのではなく、慎重に進めることも考えていかなければいけない。(丸 山先生)
○ 精神障害者に自殺が多いというデータが あるので、何らかの病気にかかっていたのではないかと推測される。診断をするために情報を集めた中で、結局、専門医であっても診断は非常に難しいと思うが、情報を集 めて類推して診断していくのが専門医だと思う。 周囲の人は、案外、自殺するような状況ではなかった、全然気が付い ていなかったということがみられるが、専門医が詳しく聞いていくと、 どうもこういう症状があったのではないかということが類推されていく ので、最後は類推した中で、例えば、うつ病で自殺したと類推されると いうのが診断結果になるのではないかと思う。 そのために、自殺日が発病の日だというのが疑問に思う。詳しくみていけば、前もって症状や行動の変化などが何らかみられているので、そういうものを逃さなければ、2週間を満たすかどうかは別問題として、 本人の大体の症状は類推されるので、専門家がきちんとみるということが求められるのではないか。 覚悟の自殺は経験したことがないので何ともいえないが、本当に覚悟 の自殺はあるのかと思いながら各事例をみている。周りの人が、自殺するような状況ではなかった、そういう症状は全然なかったなどと言って いても、専門医の目から見ると、いろいろなことが伝わってくるのでは ないか。その意味で、専門医がきちんと診ることが必須かと思っている。(小山先生)
○ 確かに、その日に発病したかどうか、あるいは、発病はずっと以前で も希死念慮が自殺の数時間前にあり、救命センターの事案などを見ると、 後の聞き取りで希死念慮が数時間前に出て農薬を飲んだなど、意外と早 く自殺企図に至っている事例もある。発病時期に関しても特定するのは なかなか難しいが、事例によっては、遅くとも自殺時点までに発病していたと言えることもあるかもしれない。 専門医はこれを分析して、可能性として、うつ病、あるいは、外から 見えないので症状は特定できないが ICD-10 でいうと例えばこういう疾患 が疑われる、というところぐらいは言えるかもしれない。(黒木先生)

(他の精神障害を有する者の発病の有無の判断:新たな発病の事案、発病なしの事案、悪化の事案の区分) ↓

○ 私たちは1つの病気だけで説明する努力をするが、最近の診断体系においては併存する精神障害もあると記載、私たちも併存す ることを承認する方向にきている、ある疾病に、また新たな疾病が 加わることはあり得ると思っている。(荒井先生)
○ 同じコードの中での併存症はないと思う。例えば、F3 と F4 の共存症 は十分あり得ることで、診断としては結構あると思う。ただ、労災の場合はあまり併存症は考えずに、まず、主たる精神障害は何かということ で決めていく流れがあり、そのほうが、業務上の出来事などの因果関係 を明確にする上では大事な点かと思 う。あり得ることだが、今言ったよ うな優先順位は多少あるかと思っている。(丸山先生)
○ 併発を基本にしたような診断類型になっているので、それぞれの診断 基準を満たした場合、併発を認めざるを得ない現状はあると思う。 ただ、ある病気、F4 や F3 などのコード内で症状があり、その揺らぎの 中で一過性に他の診断基準を満たすようなことがあった場合、それを併 発というのか、もともとの病気の症状の揺らぎなのかという判断はとて も難しく、それに関わるケースにおいては、専門医で検討する必要があろう。もちろん、一度治ゆし症状固定した方は、更に別の病気の診断基 準を満たすものがあった場合、新たな発症として考えるべきだと思っている。(田中先生)
○ 併存はあり得ると思う。患者さんの中には、初めはパニック障害と思われてパニック発作ばかり繰り返していたのが、途中でうつ病のうつ状 態がはっきりしてきて、うつの状態が少し軽くなるとパニック症状にな ってという患者さんを診ることがあ るので、併存はあると思う。しかし、 どの病気を主として考えるかとなるとうつ病を主体として考えるとは思う。(小山先生)
○ 専門医の方に判断してもらうしかないと思う。それぞれの精神障害をどう勘案するか⇒専門医がきちんと意見を言える状況の中で 内容の審査をすべきということを労基署レベル で徹底して通達すべき、 アプリオリにこうだというような先入観は抱くなということはしっかり と伝達されるべきかと思う。(品田先生)
○ 精神障害に併存はつきもので結構ある。しかし、出来事との関係でどの病気を発病しているかという視点を持って優先順位を決める、あるいは、主とした病態は何かを検討すべきだと思う。(黒木先生)
(発病の時期の判断) ↓
○ 医療機関にかかっていない自殺事案の場合は、医証がないので見えな いことがあるし、なかなか診断しようがない、発病の時期をどうするか といってもそこも難しいということで、ケースバイケースで考えるしか ないということだろうと思う。(黒木先生)
(精神障害の悪化の判断)↓
○ 寛解→多くの議論があって、どれを採用するのか非常に難しいが、今は障害の持続、症状が一定程度落ち着いて、多くの場合は就労 ができているということが前提になることが多いと思うが、おおむね6か月を経過した場合には寛解したというふうに考える。その後の悪化⇒新たな発病という形で評価していくことが整理しやすいと思 っている。なぜ半年と申し上げているかというと、一般の企業で障害の 積算が行われなくなるのが半年、あるいは 1年であることが参考になる と思う。社会的にも半年働ければ、その病気はカウントされない。その 次の発病と関係がないとみなされている。この現状を反映したという点 もある。(荒井先生)
○ 症状がある程度落ち着いた状態が半年続くと、いわゆる寛解の状態が半年続くと、医学的には回復といったりする。ここでは、治ゆ(症状固 定)と書いているが、ある程度寛解、落ち着いた状態が半年続くと、治ゆ(症状固定)と決めてしまう、という御提案か。(田中先生)
○ いいえ、症状固定→例えば、非器質性の精神障害の場合は1年、あるいは1年半、あるいはそれ以上であるので、今申し上げたの は、いわゆる治ゆとみなして、その後の悪化を新しい発病とするのが妥当かもしれないという点。いずれにしろ、半年間社会的活動、日常生活 をちゃんと行えた時点で寛解と扱うことが、次の発病の位置付けに役に立つ。療養の長さ、療養期間⇒また別の基準がありうると思っている。(荒井先生)
悪化、症状固定をきちんと定義をしていただきたいと思うが、その定義はあるか。また、精神科ではうつ病な どは悪化よりも、再発という言 葉を使うが、その再発が新しい病気という考えになるのか。その辺の精 神科としての言葉の使い方の定義はある程度やった中で論議することが 必要かと思う。寛解にしても、ある程度症状が良くなって、社会生活が できているというのを、一般的に寛解というが、寛解の中にも完全寛解 と、不完全寛解という言葉がある。またうつ病等の再発ということなら ば、6か月というよりも、1年ぐらいを見ていれば、やはり再発をしてくる可能性も大きくなるので、そういう意味で治ゆ、症状固定、悪化、 それから精神科での悪化、再発といったところを、 意見統一をしておい たほうがいいのではないか。(小山先生)
○ 寛解とか治ゆの話は、その悪化か、新たな発病かで、その労災認定の 基準が特別な事情がある方というのは、かなりハードルが違ってくる、とても大事な点だと思う。どのぐらい安定すれば悪化ではなくて、 寛解として捉えて新たな発病として 判断されるのかについて、今よりも う少し医学的に明示できるのであれば、 そうしたほうがいいのではないか。また、薬を服用していても就労できていれば、寛解としてリセット されるという点や、通常勤務なのか、軽減勤務でもいいのか等も、もう 少し議論があったほうがいいのではないか。(阿部先生)
○ 20 年近く前から、悪化などの定義はかなり問題だった。用語だけで言 えば、悪化、寛解の判断基準は文献によっても様々。例えば、うつ病なら軽度から重度になったら悪化か、軽度から中等度になったら悪 化か、あるいは症状で見ていくのか。あるいはその社会適応、職場への 適応、あるいは行動か、自殺等、そういうもので見るのか。いろいろな 視点がある。結局、専門医が総合的に、医学的にみる必要がある。 その悪化が捉えにくいからこそ、特別な出来事で見ていこうとなる。 これははっきりするので、悪化というのが捉えやすい。しかし、悪化と いうの は非常に曖昧で 、 定義するにも非常に長い間の課題であった。 1980〜90 年代前半に、欧米でかなり議論になったが、寛解や回復はうつ 病については資料の図のような形で何となく落ち着いている。例えば、 大体3か月ぐらいで寛解で、そこも不完全寛解と完全寛解がある。完全 寛解というのは大体半年ぐらいでその時点では回復になり言葉も変わる。 寛解はレミッションで、回復はリカバリーで、リカバリーしたら、今度 は再発したら反復性うつ病という名称になる。病名を付けるときも、そ のようなところを捉えて、これは反復性かどうかを診断していく。精神 障害は非常にたくさんあって、うつ病やストレス障害以外の病気⇒そこまで煮詰まった議論は世界の文献含めてこれまでなされてき たかというと微妙なところ。最終的にはそこそこは定義づけることはで きても、きっちりという形には難しいところがある。 専門医が悪化あるいは寛解、あるいは回復、そういうことを決めた上で判断していくことになるので、個々のケースで多少幅がありながらも 慎重に進めていく、ただ、共通認識としてはおおまかな基準はあると思う。例えば、うつ病であれば半年ぐらい安定していれば完全寛解、ある いは回復と言っていいのだろうと思う。(丸山先生)
○ 精神科専門医に聞いた調査によると、「臨床的に問題がない程度に安 定した状態」とプラス「6か月程度病状が安定している」、この2つで 確か7〜8割の回答者が寛解状態と考えているという調査もあるので、 数値を出すとすれば6か月程度、いわゆる安定していれば寛解状態というふうに考えてもいいような気もする。労災認定の現場で非常に既存の 精神障害が多いので悩ましいのは、この既存の精神障害があるので、特別な出来事があるかどうかということだけで判断すると、なかなか認定は広がっていかない。あるいは、「強」の出来事はある が、その前の病 状は揺れているかどうか、その基準がなかなかなく、一定期間安定して いる、それは6か月ぐらい安定しているということが明示されれば、非 常に認定としてはしやすくなると思う。(黒木先生)
○ クレイネス曲線の動きというのは、あれは症状の揺れというふうに考えてよろしいか。要するに、あれでレベルが上がることを悪化というふ うに言えるのか。(三柴先生)
○ クレイネス曲線の上に行くほうが症状が軽快し、下に行くほうが症状 が悪くなるという意味で、入口があって、だんだん病態が重くなって、 だんだんそれが回復していくという。そ れがクレイネス曲線の意味して いるところだと思う。(荒井先生)
○ そうすると、症状の上のほうにその曲線が上がっていくというのは、 これは正確にはどういう表現になるのか。これは症状の揺れということなのか、それとも疾病病因自体が解消していく、疾病がその回復に向かうという理解でいいのか。要するに病気が良くなるということなのか。 それとも、その単に症状の揺れということなのか。(三柴先生)
○ 原則としては、症状が良くなっていくということ
が、上に向かっている場合に想定されている。例えば、反復性の単極性の障害で、それがその一つ一つの病相がどういう関係を持っているのかというのはなかなか 難しいと思うが、1つの病相⇒下側が病態が重い。それから軽快していって、通常の機能水準まで戻ると考えていただければと思う。(荒井先生)
○ 例えば、悪化については行動の障害が悪化し、医師が病因を認めた場 合とか、そういう説明ができないか。大事なのはその臨床経験則に基づ く合理的な推論を、誰がやるかだと感じる。病理と外観との関係、あるいは疾病性と事例性との関係があるときに、精神医学だと、その外観とか、事例性というのは結構重要だと感じられる。良い例が、神戸東労基署長事件で、これは、十二指腸潰瘍がストレスで生じたのかが問われたケースで、途中揺れはあったが、最終的には法律家の判断と医師の判断が一致した。ストレスの強さ、客観的なその強度が裁判所に認められた。 医学的にはよく分からないことがある中で、表に現われた現象についての評価が一致したということだと思う。労災認定の場合は、その調査復 命書の中で物証や事象に裏付けられて間接事実が挙げられて、合理的な 推論をして判定をしていく。そこに専門家の知見が生きるということだ と思うが、結局のところ出来事と経過と結果、その経過においてはその変化の事情とか、こういったものが汲み取られて、そして判定されていく。その際、精神医学でも恐らく表に現われた外観、事象が重要だと思う。そこは制度論の問題でもあるので、少しその定義において法律家が、 意見、提言を差し上げるということはあってもいいのかなと 思う。(三 柴先生)
(精神障害が悪化した場合の業務起因性) ↓
○ 悪化について業務起因性を認めた裁判例のうち、純粋と言っていいか どうか分からないが、純粋な悪化の事例で現行の認定基準とは明確に異 なる考え方を取ったのは、資料5の B30 のみのように思われる。B40、47、 それから追加の事案は、寛解という診断はされていないが寛解に近い状態と認定されており、いわば、治ゆ後に新たな発病が生じた場合に近い という前提で業務起因性の判断がなされているように読めた。 その上で、事務局案が、寛解に近い状態を念頭に置いているのではな く、純粋な悪化の場合を想定しているとすると、結局、業務による強い 心理的負荷が認められて、個体側要因なども踏まえた上で、業務による強い心理的負荷と悪化との間に相当因果関係が認められることを要求す るという、その判断の枠組みは現在の認定基準と同じであり、新たに付 け加えようとしている部分は、現在の新規の発病時の認定の仕方と同じ ように思われる。(中野先生)
○ 特別な出来事ではなくても強い出来事があれば認定するという形の方 針にするのは賛成である。 業務上で特別な出来事ではないが「強」に該当するような出来事があ った場合には、その前の病状がある程度、「本人の病状を踏まえ」ところにも書いてあるように、薬を飲んでいたとしても、例えば、6か月以 上安定しているという状況があれば、「強」の出来事があれば、それに よって発症したとして考えるという形に少し整理をしていくという意見に賛成だ。(吉川先生)
悪化に関しては、安定しているということではなくて揺れている状 態で、例えば特別な出来事、あるいは「強」の出来事がかかった場合にどう考えるかということ。(黒木先生)
○ こうした場合に特別な出来事を求めるというのは、実務上においても 分かりやすいというか、判断がしやすかったというのがあった。しかし、 論理的には、なぜ、こうした場合には特別な出来事が必要なのかという のは、恐らく医学的にも論理的に説明することは難しい気が するが、こ のたたき台は、かなりよくできていると思う。 ただし、先ほど中野先生が疑問を持たれたことが正にそうであって、 ここにおいて特別視をするような書き方は必要ないではないのという論 理も、また成り立つところで、少し表現を変えたらどうかと思った部分がある。 それは、「特別な出来事に該当する出来事があり」というところはい いが、「自然経過を超えて著しく悪化したと医学的に認められる場合に ついて」というのは、特別な出来事の場合においては必要なくて、特別 な出来事があれば悪化したという事情の下において一定程度認められる という含意を持たせる。一方、特別な出来事に該当する出来事がない場合、ここに書いてあるような事情があって、かつ、自然経過を超えて著 しく悪化したと認められる、そういった表現をこちら側に持ってくることで、少し差異を認めることが容易になるのではないか。(品田先生)
○「自然な経過」という言葉で表現しているのはある程度長い間病気が続いていることだが、例えば、急性期であるとすれば、特別な出来事がないと悪化しないということはあり得ると思う。ある程度、病気が長く続いていて、一定程度の幅に収まってきたときには、その 後を単なる発病と考えてよいのではないかということで、それが 6か月というような 数字が出てくると思うので、急性期は過ぎたと考えていただければ、6 か月の意味が分かるかと思う。(荒井先生)
○ 今まで悪化に関しては特別な出来事がないと認められないというのは、 ハードルが高かったように思う。ただ、悪化の要因もなかなか調べられ ない状況にあって、これを許すと、 結局は6か月以内に何かがあれば全 部業務上みたいな形に流れていく感じもしないでもない ので、それはそ れでいいのか考えなくてはいけない。(田中先生)
(個体側要因によって発病したことが医学的に見て明らかな場合の例示)↓
○ 実際の個体側要因の調査がなかなか十分にはできていない現状がある 中で、そういった「明らかな場合」を示すというのは、実務上は少し難 しいのではないか。(田中先生)
(療養、治ゆ)↓
○ 治ゆについては議論しなければいけないテーマには間違いないが、簡 単なことではない。基本的には先ほどの問題と同じく、完全に医学的な 判断で決定されるべき事項であって、医学的な判断をどの段階でどのようにやるか、また、それをどのように制度化するかということに尽きる。 しかし、それをしたとしても、具体的な社会復帰とか、職場復帰のた めのサポートを拡充することは必要かと思う。 例えば、6か月ごとに専門医の診断を受けることを義務付けて、更に その意見を基にして社会復帰を支援する、担当のケースワーカーを決めておいて、それによってサポートをしてもらうとか、そういう具体的なサポートを議論した上で考えなければ、現実化しないのではないか。(品田先生)
○ 日常の臨床で、いつを治ゆにするか、どういうふうに社会復帰させるか、これは本当に悩ましい問題で、 難しい問題でもある。しかし、一定 のめどが立たないと次のステップに行かないということも事実で、例えば、ある一定の期間があれば、その期間にどうしようという 計画を立てるが、それがないとずっと症状を訴えて、この症状の中に逃 げ込んでしまうという事例もある。職場復帰とか社会復帰をどう持っていくか、例えば就労移行支援事業所を使ったりとか、また違った分野と 連携をして進めていくことも必要だと思う。(黒木先生)
○ 品田先生のご意見に同感で、システムを構築していかないと、長期療養者に対するサポートはできていかない。 ただし、これからある程度の 基準というか、医学的な根拠を持ったマイルストーンを提供していくことも大事な視点だろうと思っており、非器質性の精神障害 だと、大体1 年で症状固定がなされるのが一般的で、障害年金だと、1年半で年金の 判断になる。精神神経学会と産業精神保険学会の共同研究 によると、3 年を超えて療養をされる方はやはり数は相対的に少ない、3年以内に大体就労なり、通常に近い生活に戻られるのが一般的だろうと考えて いるので、大体3年ぐらいを1つの目標にして、いろいろなアフターケア、 それから人的サポート等を入れて、 3年ぐらいで症状固定の判断ができ るようなシステムができると理屈上正しいのではないか。ただ、これは 拙速に進めるのはもちろん影響もあるので、十分な資源を作り出しながら、検討していくことだろうと思う。(荒井先生)
品田先生のご意見に賛成だが、どこかでけじめが付くような審査の機 会を、やはり設けないといけないと思う。ドイツの制度はラディカルなので、参考にしかならないが、労働者の場合にも自助の努力義務は課している、協力義務という形で課しているし、それには、まず正確な事実 の申告とか、心理学的な検査を受検しなさいとか、 ちゃんと治療を受け なさいとか、部分的に労働参加しなさいといったようなものが含まれる。 それから、医師がそもそも2週間分しか要休業の診断書を出せないこ とになっているとか、あと大きいのは、労災保険の休業補償は 78 週までしか支給されず、そのあとは障害年金に移行するための審査を受けなけ ればならないということで、要するに折々にスクリーニングが掛かる仕 組みになっている。ドイツでは、そもそも業務上のストレスによる労災 補償は日本ほど認めないが、認められた人たちについては、長期化の傾 向というのははっきり指摘されているので、その前提で、関係者が連携 して、折々にスクリーニングのけじめを付けることが必要かなと思う。 (三柴先生)
○ 例えば3年とか期間の例が上がったが、期間を決めた場合でも、当然 更に療養が必要かどうかとか、そういう判定が必要になってくると思う。 その際に、例えば主治医が判断するのか、それとも専門医、労災医員が やるのか詰めていかないと、結局、主治医が決めるのであれば、 実効性 がないという話になるので、いろいろな課題があると思う。 長期化している理由、実態からまず議論をきっちり煮詰めて、本当に 作るのであれば実効性のある、意味のある制度にしなければ機能しない と思う。慎重に議論して、本当に悪い人が正しく給付を受けられる、安心して利用できる、本来の保険の意味が達成される部分はきちんと残す ことも大事だと思う。(丸山先生)
○ 今先生方がおっしゃられたこと全てが納得というような、やはりある 程度のどこかで限界を決めないといけないので、そのときにどうするかという問題とか、丸山先生も言われたように、誰が判断するのかという ようなことを、まずは課題を挙げて、どう整理していくかという作業が必要になるかなと思う。時間も掛けて議論する必要がある。(小山先生)
○ 長期化している例を精査した上で、実態を明らかにして、改革案を示していくという手順を取る必要があろうかと思う。ただ、長期化してい るケースは、個人の脆弱性がもともと認められるケースだとか、また働 かないでお金をもらっている期間が長いことによって、社会制度が社会 的脆弱性を高めてしまったという不幸なケースも多く、真剣に考えなく てはいけなくて、3年ぐらいで見直しをすることは大事ではないか。 そもそもリワーク制度があるのは日本ぐらいで、障害者の社会復帰の ためにはできるだけ早く復帰させることが大事だという前提で他の国は進んでいるわけで実はそのエビデンスもそんなにあるわけではないが、それをベースにして考えている。日本はある程度、長期化して療養すれ ばよくなるといった感じがあるが、これはあまり一般的な考え方ではないところもあり、療養期間をできるだけ短くするための施策も決して悪いことではないと考えている。(田中先生)
○ 社会復帰、長期療養者をどのようにするか、長期療養者が増加傾向に あるという事務局からの話があったが、これを社会復帰に繋げていくの が労災保険の目的で、この目的に沿っていろいろな課題を克服していく ということだろうと思うので、事務局で検討していただきたい。(黒木先生)
○これは一定の目安を立てることによって、次のステップに行く ことが前提なので、次のステップに行くことによって、社会復帰が近くなるという考えでお願いしたい。(黒木先生)
(治ゆ後の新たな発病の判断)↓
○ これで問題ないと思う。(田中先生)

次回も続き「【参考資料】団体からの意見要望(過労死弁護団全国連絡会議)」からです。

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