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第106回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会資料 [2022年12月29日(Thu)]
第106回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会資料(令和4年12月16日)
【議題】(1)労働基準法施行規則の一部を改正する省令案要綱等(諮問)(2)労働保険徴収法第 12 条第 3 項の適用事業主の不服の取扱いに関する検討会(報告)(3)令和4年度第2回社会復帰促進等事業に関する検討会(報告)(4)労働保険関連手続及び労災保険特別加入関連手続に係る電子申請の状況について(報告)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_29845.html
◎参考資料1 団体からの意見要望
○意見書  2022年12月5日
過労死弁護団全国連絡協議会メリット制検討チーム  弁護士 川人博↓

1 現在、厚生労働省において、「労働保険徴収法第 12 条第3項の適用事業主の不服の取扱いに関する検討会」が開催され労働保険料決定において、事業主が労災支給決定処分の違法性について主張することの適否が議論されている。
2 そのさなか、2022年U月29日、東京高等裁判所が、事業主による労災保険支給決定 に対する事業主による取消訴訟の原告適格を認めず、訴えを却下した東京地裁判決を破棄し、事業主による原告適格があることを前提として、地裁に実体審理を行うために差し戻す判決を出した。 同判決は、到底容認できないので、当弁護団として、厚生労働大臣あて上告(上告受理 申立て)するよう求めて、別紙の本日付要請書を提出した。
3 厚生労働省内の検討会における議論の方向性は、法的構成はともかく、事業主に対し、 支給決定処分の支給要件該当性について争う道を開きつつ、これを専ら労働保険料の争 訟において行わせ、被災労働者及び遺族に影響を可能な限り与えない、というものである。
そもそも、メリット制は、無過失責任を前提とする労災保険制度の下で適切かどうかと の議論が従前より存在し、加えて、今日においては、メリット制の導入当時と比べて、明白な災害性事故ではない労災、すなわち過労性疾患のような形態の労災が増加している 状況の下で、現行のメリット制がそのまま維持されることについては疑問があり、厚労省 内においては、メリット制の存続の可否、ないし内容の変更の可否を検討していくことが 必要な情勢になっていると思料する。 ただし、上記東京高裁判決が出された情勢の下では、現行メリット制の可否に関する議 論をひとまず留保したうえで、現在論点となっているメリット制増額に対する事業主の 不服申立ての可否につき、検討せざるをえない。
当弁護団検討チームの立場は、本来、労災認定に対する事業主の不服申立てを認めず、 かつ、メリット制保険料増額に対する事業主の不服申し立てに関しても、不服申し立てを あえて認めることには消極的である。ただ、上記高裁判決が出された情勢の下で、また、 現行の行政法等の考え方等を考慮するならば、現時点では、被災労働者や遺族に不利益が 生ずることがないようにすること、過労死やハラスメントの防止に悪影響が生じないよ うにすることを前提条件にして、何らかの形での事業主側の保険料増額に関する不服申し立てを是認することもやむを得ないと思料する。 しかし、以下のような重要な懸念があるので、不服申し立ての手続きにあたっては、現 実の被災労働者や遺族、潜在的な労災申請者に対して不利益が及ぶものとならないよう に十分に注意がなされなけれぱならない。
(1)第一に、現行の労災認定に負の影響を与えないようにすべきである。現状において、 労災認定手続きの過程で使用者からも十分に意見を聴いているのであり、かかる点は、 上記東京高裁判決においても「労働災害支給処分については、その適否を争うための手 続き保障が特定事業主にも相応に与えられている」としている【判決11頁】。こうした 中で、使用者側の中には、強く業務上であることを否認し、証拠もそれに沿うものだけ を提出し、そのうぇで担当官に対し「認定を出せば確実に取消訴訟や審査請求に及ぶ」 旨の言動を行う等の圧力を加えてくることが想定される。 この結果、担当官が、特に、事実認定について、必要以上に労働時間の認定やハラス メントの認定に消極的になったり、肉体的精神的負荷の総合評価を行う際に、必要以上 に過小評価をすることが懸念されるのである。 さらに、事業主に支給決定を争わせるデメリットとして前記厚生労働省内検討会で 言及された、現場での混乱乃至手続きの長期化、ひいては労働基準監督官の過重な負担 も当然に予想される事態であり、この点にも十分注意がなされるべきである。
(2)第二に、異議申し立ての手続き内で、被災労働者の協力者の氏名や、その特定に繋 がる供述内容が明らかにされないようにしなけれぱならない。 被災労働者の協力者(資料提供者や証言者)の中には、在職の者や、関連する企業に 在職している等の事情によって、事業主に協力者として氏名を知られることで不利益 が及ぶ者がいる。異議申し立ての手続きで、これらの者が露見するとなれぱ、申請に対 する協力が得られなくなり、また、労働基準監督署としても率直な聴取が不可能となり、 事実に反する認定を行う危険性が増すこととなる
(3)第三に、被災労働者や、遺族の負担がかかることが懸念される。異議申し立てにお いて全面的に再調査が行われたり、際限なく事業主から新主張が行われることとなれ ぱ、必然的に被災労働者や遺族に対して再度の調査が必要となってくる。 これにより、被災労働者や遺族は、自身の労災認定が争われていることや、自身にと つてショックだった出来事の想起という負担に再三さらされることとなり、心身の健 康を害するおそれがある。
(4)第四に
、過労死防止の観点から、解決が遅延する可能性がある。現在、労災認定が 行われたことを契機として、企業補償の実施や、損害賠償の支払いや、関係者による被 災者・遺族側への謝罪、再発防止の交渉を行うことが多くなされている。ところが、行政手続き⇒事業主が労災の要件該当性を争えるとなると、同手続きが終了するまで、話し合いによる速やかな解決が図られない危険性が増す。また、裁判所が損害賠 償請求等の関連訴訟において、メリット制の行政手続きを意識し、損害賠償訴訟の進行が遅滞することも懸念される。 労災認定が行われた場合、被災労働者に対して相応の負荷がかかってぃたことは当 然なのであり、再発防止策は速やかに講じられるべきである。しかしながら、事業主と して認定の適否にっいて争う道が開かれることにより、速やかに適切な再発防止策を 講じないことの言い訳にされないようにしなければならない。
(5)第五に、労基法19条解雇への影響がないようにしなけれぱならない。 事実、2022年U月29日上記判決の控訴人(原告)である事業主は、当該取消訴訟 を提起している決定にかかる被災労働者について、解雇を行い、現在、東京地方裁判所 で訴訟が継続しており、支給要件該当性を労働保険料認定で争わせても、同様の対応を 行う事業主が増える可能性がある。 実務上、労災認定されていれぱ、労基法19条の解雇として扱われることがほとんど であるが、事業主(使用者)がこのような解雇を行うことがないよう、十分注意が払わ れるべきである。
(6)上記の各点を考慮すれぱ、仮に事業主が保険料増額に不服申し立てを行ってきた際 の審理⇒労災認定(業務上認定)の理由につき、一見明白な誤りがある場合 に限り、一定の追加的な調査検討を行うことにする範囲にとどめ、ーから労災認定理由 の当否を検討するような手続きは不要であり、有害である。現状においては、使用者側 は、労災認定手続きにおいて資料提出や主張を行う機会を十分与えられているのであ り、不服申し立てにおいて上記のような手続きとすることは、事業主の行政に対する手 続保障を侵害するものではない。
4 以上の通り、労災支給決定処分を事業主が争うことを認めた上記東京高裁判決は不当 で到底容認できない。国は、上告(上告受理申立て)をすべきである。 他方、仮に、当面、同処分の違法性を保険料決定の異議申し立てにより主張させ、被災 者への直接の影響をなくす厚生労働省の現在の案を導入するにあたっては、上記の通り、 数々の懸念点があり、現実の労働者・遺族の不利益を防ぎ、かつ、職場の改善、過労死の 防止に悪影響が生じないよう、十分な注意が求められる。 そして、将来的には、メリット制の継続の可否、メリット制の内容改善の可否につき、 議論を進めていくべきである。       以上

○労災保険支給決定に対する事業者による異議申立てを認めた令和4年(2022年)11月 29日東京高裁判決に対して、国は上告(上告受理申立て)することを求める緊急要請書
2022年12月5日 厚生労働大臣加藤勝信殿
過労死弁護団全国連絡会議  代表幹事 松丸正   同  川人博

1 2022年11月29日、東京高等裁判所が、労災保険支給決定に対する事業金による取消 訴訟の原告適格を認めず、訴えを却下した東京地裁判決を破棄し、事業主による原告適格が あることを前提として、地裁に実体審理を行うために差し戻す判決を出した。
2 しかし、上記判決は、下記理由により、到底容認できない。
(1)過労・ストレスによる疾患(脳心疾患、精神疾患等)の労災認定は、被災者・遺族の 救済、職場改善、再発防止にとって、極めて重要な役割を果たしているが、上記判決 は、使用者側が不服申立てすることによって、被災者・遺族の救済を不安定なものと し、かつ、職場改善が進まない効果をもたらす危険性が高い。 (2)労基署が、労災認定を出しても、その後に使用者側から不服申立てが行われることを 恐れて、労災認定(業務上認定)を出すことに消極的になる可能性が十分予想される。 (3)現状でも、労災手続きにおいて、調査に必要な資料を提出しない事業主が相当数いるが、こうした非協力的な事業主の対応が増加する危険性がある。 (4)現状でも、労災認定手続きを担当する人員は不足しており、かかるなかで、使用者の 不服申立てが行なわれることになれぱ、労基署や労働局などの労災行政の現場は大混 乱となるのは必至である。  脳心臓疾患・精神疾患事案では、詳細な認定基準が定められ、労働時問・ハラスメン トの調査や、その他の「出来事」の調査、さらには専門医や専門部会への照会等、相当な調査時間を要し、申請から決定まで 6 か月(脳心)。 8か月(精神)が審理期間とさ れているが、現実には 1年以上かかることもしぱしばみられる。使用者側の不服申立 てが行われれば、さらに長期化され、迅速な被災者・遺族の救済は事実上不可能となり、労災行政が機能麻癒状態になる恐れがある。 (5)労災認定を踏まえて、企業補償や損害賠償が使用者側から被災者・遺族になされる事 例が多いが、不服申立てが行われることにより、この補償問題・賠償問題でも早期の 解決が困難になる危険性が高い。

3 以上より、国が上記判決に対し、上告(上告受理申立)することを、強く要請する。 以上

○労災保険支給決定に対する事業者による異議申し立てを認めた東京高裁判決に 対して、国は上告(上告受理申立て)することを強く求めます。  令和4年12月5日
厚生労働大臣加藤勝信様   全国過労死を考える家族の会  代表世話人 寺西笑子
本年11月29日東京高等裁判所において労災保険の支給決定に対して、事業主による取り消し訴訟を認める判決をだしたことに対し、断固認めることは出来ません。 私たちは、かけがえのない大切な家族を過重労働により、命と健康を奪われた被災 労働者遺家族で、早期の救済と過労死防止を目的とした団体です。 被災者遺家族の実情は労災申請の際、使用者側の協力が得られない中、申請者 側に立証責任があることで労働時間の客観的証拠と職場の出来事などの証拠収集 に困難を極めながら収集した中でさらに厳格な調査と評価のもとで適正に認定されたものです。 近時の傾向として、幼い育ち盛りの子供を抱えている30代~40代男性労働者が被 災されています。
大黒柱を奪われた妻は幼子を抱えて途方に暮れながら祈る思い で認定を心待ちにし、支給決定されたとしても、ここで上記のような事業主が取り消 し訴訟をおこなえば、この親子は認定されても取り消されるのではないかと不安な 日々を送ることになり、さらなる苦難の道を歩むことになります。このような理不尽な 二次被害はあってはなりません。 事業主が.被災労働者保護へ真塾に向き合うととなく、国の支給決定に従わないこ とは認めるべきではない。

下記の理由により、事業主の支給決定を取り消す訴訟を認めることに反対します。
1.事業主が支給決定を取り消す訴訟をすることで、過重労働の職場が改善されない ことになる。 2.事業主が支給決定を取り消す訴訟をすることで、業務上の取り消し訴訟がまかり通 ると申請すら恐ろしくてあきらめてしまう人が増える。 3.労働行政機関へ必要以上に委縮させる影響をあたえる。
 以上

○メリット制適用事業主の不服申立の取り扱いに関する検討に対する見解
(2022 年 12 月7日) 働くもののいのちと健康を守る全国センター 理事長 垰田 和史

厚生労働省は、メリット制適用事業主の不服申立の取り扱いに関する検討会を開催し、検討を進めている。 労災保険は、事業の種類(54 業種)ごとに労災保険率(2.5/1000〜88/1000)が定められ、 原則として労働者の賃金総額に労災保険率を乗じて労災保険料が決定。この労災保険率を個別の事業場の災害の多寡に応じて、労災保険率を増減することで、事業主の保険 料の負担の公平性の確保や災害防止の努力の促進を図るためにできた制度が「労災保険のメリット制」。 メリット制は、ある一定の規模(労働者数が 100 人以上または、20 人以上である一定の 条件以上の要件を満たす)の事業場を対象とし、連続する3保険年度における労災保険の収 支率(3年間の労災保険給付額/3年間の労災保険料額×100)に応じて最大±40%(木材 伐出業は±35%、一括有期事業は±30%)の範囲で労災保険率を増減する制度となっている。 なお、建設工事現場や木材伐出業などの有期事業において一括有期事業(複数の工事現場等 を一括している場合)や単独有期事業ではその要件が異なるほか、特例メリット制(特別の安全衛生措置を講じた事業において、特例適用の申告があるときにメリット料率(労災保険 率)の増減幅を±45%とする)という制度もある。 メリット制適用事業主は、@保険料増額の前提となった「労災保険給付支給決定」に関する争い(審査請求を含む)の当事者になることはできないこと、A「労働保険料認定決定」⇒その適否を審査請求等で争うことが可能であるが「労災保険給付支給決定」の 要件該当性を否定する主張はできないこととされている。 その根拠は、@に関しては、被災労働者又は遺族と利害が相反する事業主が「労働保険料 認定決定」の手続きに参加した場合、被災労働者等の法的地位が不安定になり、過大な負担 を新たに生じさせること、Aに関しては、被災労働者等への保険給付(既支給分を含む)の 根拠が否定された場合、被災労働者等の権利(有効な療養とそれに必要な生活保障等)を脅 かしかねないことがそれぞれ指摘されている。 厚生労働省は「労働保険徴収法第12条第3項の適用事業主の不服の取扱いに関する検 討会」を10月26日に開催した。本検討会は、有識者によって構成されているが、厚労省 事務局が示した「考え方」では、メリット制適用事業主の不服申立に関する従来の実務の一 部を変更し、次のとおりとすることが提起されている。 @ 「労災保険給付支給決定」に関する争い(審査請求を含む)の当事者になることはできないこと。 A 「労災保険料認定決定」に関する争い(審査請求を含む)の当事者となることは可能であり、その際、手続保障を図る観点から、契機となった「労災保険給付支給決定」の要件 該当性を否定する主張も認められること。 B Aにおいて、メリット制適用事業主が主張するとおり、「労災保険給付支給決定」の要 件該当性を否定された場合であっても、「労災保険給付支給決定」の効力には影響せず、取り消されることもないこと。
事務局の「考え方」によると前記変更は、メリット制適用事業主に保険料増額を求める際 の手続保障と被災労働者等の法的地位の安定性確保という各要請について、両者の調和を 図る趣旨であるとする。 しかし、前記変更によって、業務上外に関する異なる結論がそれぞれ有効に確定する可能 性があり、そのことが事業主の姿勢や労使の関係性などにどのような変化を生じさせるの か、十分な分析を行うことが必要。 例えば、メリット制適用事業主が保険料増額の決定に際して、業務外を主張することが一 般化するなら、労災認定にあたって事業主の非協力の姿勢が広がるおそれがある(労災保険 法施行規則23条の助力義務の不履行)。また、労働者が事業主と争うことを避けたい心理 から、労災請求自体を躊躇させてしまうことにもなりかねない。 労災保険制度は、労働者が業務中に被災した場合に対する補償を行うために設けられて いる制度であり、業種による災害発生の危険度の違いから業種ごとに保険料率が設定されている。メリット制は、保険料負担の公平性の確保と労働災害防止努力の促進を目的として、 その事業場の労働災害の多寡に応じて一定の範囲内(最大±45%)で労災保険率又は労災 保険料額を増減させる制度(12条及び12条の2)だが、有効性を疑問視する意見が投げ かけられている。そればかりか、安全衛生行政の第一線から違法な「労災隠し」を促進させ ているという指摘が少なくない。 労災保険給付は、利益相反することから事業主が当事者となることは絶対に認められな い。加えて、保険料認定決定における適否を審査請求等で争えたとしても、給付決定に対す る要件該当性を否定することはあり得ない。 こうした現状をふまえるならば、メリット制そのものを廃止し、保険料の個別決定による 行政手続きの煩雑さを解消するなど、現場実務を削減すべきである。決して新たな業務を増 加させるべきではない。 小手先の見直しではなく、労災保険料のメリット制そのものを見直し、直ちに廃止するよう求める。 以 上


○労災保険制度における事業主不服申し立てに反対する意見
厚生労働大臣 加藤 勝信 様     全国労働組合総連合 議長 小畑 雅子

12 月 7 日、厚労省が設置する「労働保険徴収法第 12 条第 3 項の適用事業主の不服 の取扱いに関する検討会」は、労災保険制度におけるメリット制適用事業主による、 保険料認定処分の不服申立等において、労災支給処分の支給要件非該当性に関する主 張を行うことを認める新しい方針を了承した。 この解釈変更がなされると、保険料認定処分が争われ、処分の取消裁決又は取消判 決が出た場合、「労災支給処分に瑕疵があり違法」との評価が生じ、判決の拘束力によ り、労働基準監督署長が労災支給処分の取消義務を負うことになり、労災支給処分の 存続が否定されるのではないか、との当然の疑問が生じる。 この点については、検討会は、労災保険法の目的からして、特定事業主には、労災 支給処分についての不服申立適格等は認められないことや、「労災保険給付支給決定」 の要件該当性を否定された場合であっても、被災労働者の迅速かつ安定的な保護の重 要性から、労働基準監督署長に「職権取消の制限」がかかるため、労災支給決定が取 り消されることはない、と結論付けた。しかし、検討会は、同時に、労災支給処分の 法的安定性と保険料認定処分に係る特定事業主の手続き保障の両立を図るためとし て、上記の不服申し立てを容認する方針を是とする報告書をまとめた。 「労災給付には影響しないから、労働者は心配するな」という内容だが、この新し い方針が実施されれば、保険料増額を回避したいと考える事業主の責任否定の態度が 助長され、被災労働者に様々な悪影響が生じかねない。諸団体からも懸念の声が挙げ られているにも関わらず、問題点をめぐる審議は尽くされず、報告書策定の手続きだ けとっても、あまりに拙速で乱暴である。 全労連は、解釈変更を認める新方針に反対し、厚労省通達の発出を中止するよう求 める。以下、新方針に関わる懸念点について述べる。


1.「支給要件該当性」を争えることになれば、被災労働者は安心して療養できない 新方針によって事業主は「労災保険支給決定(労災認定)における支給要件該当性 (認定要件を満たしているかどうか)」を事実上争えるようになり、労災認定されてい ても、いつまでも責任を認めず、「この労災認定は支給要件に該当しない」と、後から 被災労働者を攻撃することが可能となる。 こうしたことにより、例えば、長時間労働やハラスメントによるストレスで精神疾 患や脳・心臓疾患になった労働者が、長期間をかけて苦労して労災認定を勝ち取って も、その後、事業主によって労災認定は間違っていたとする争いを起こされ、自身に ショックを与えた出来事を何度も想起させられることになる。こうしたことは被災労働者や遺族にとって、大きな負担となり、安心して療養に臨むどころか、心身の不調 の再発もありうる。労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする労災保険制度の 趣旨そのものに反する事態が生じうることを、厚生労働省は考えるべきである。 また、不服申し立てにより、事後的であっても事業主が認定内容を否定することが 可能になってしまうと、労使間の紛争の長期化などを懸念し、労災申請自体を躊躇す る労働者が増えることも予想される。
2.労働基準監督署の調査官等が委縮し、事業主の主張を過度に忖度する恐れがある 事業主による不服申し立てによって支給要件該当性を否定されることを懸念して、 労働基準監督署で労災認定を担当する調査官が委縮し、不必要に事業主の主張に忖度 した対応を取る恐れがある。 特に過労・ストレスによる脳・心臓疾患や精神疾患等の労災認定に関わっては、長 時間労働やハラスメントの事実を否認する事業主が後を絶たない現状にある。そうし た中、新方針が取り入れられれば事業主側が圧力をかけやすくなり、調査官等が、事 実に反した事業主側の主張をそのまま受け入れてしまうリスクが増大する。労災保険 審査官や労働保険審査会についても同様である。
3.解決の遅延やその他の悪影響をもたらすことが懸念される 事業主が労災支給要件該当性を争えることになれば、メリット制の行政手続きが終 了するまで、事業主側による損害賠償の支払いや再発防止策の実施、関係者による被 災労働者・遺族への謝罪といった、迅速な労働者保護がはかられなくなる可能性が高 い。裁判所が行政手続きを重視することで、損害賠償訴訟の進行が遅れるおそれもあ る。
4.事業主による支給取り消しの請求を認めた不当判決を勢いづかせる ある一般財団法人が、精神疾患を発症した職員への労災支給について、「虚偽に基づ く労災認定だ」と主張し認定取り消しを請求した。謝罪をしないどころか労災認定自 体を認めず、労働基準法 19 条 1 項で禁じられた、療養中の被災労働者を解雇する暴挙 にすら及んでいる。しかし、東京高裁判決はメリット制を重視し、支給取り消しを求 める資格を原告に認めてしまった。労災支給の取り消しを求めて争うことを認めた東 京高裁判決は、上記の検討会の考え方からみても不当となるが、新方針の導入によっ て、同様の対応を取る事業主が増え、また、不当な判決が出される可能性も高まる。
5.解釈変更決定に至る手続きがあまりに拙速かつ乱暴である 新方針をめぐる審議は、労働者の職場における安全・安心、いのちと健康に関わる 重大な課題であるにも関わらず、厚労省の「労働保険徴収法第 12 条第 3 項の適用事業 主の不服の取扱いに関する検討会」は 10 月と 12 月のわずか 2 回で結論を出してい る。被災労働者、遺族、労働組合、労働関係団体の意見聴取を行わず、視野の狭い法 技術的検討のみで拙速に方針を固めていることは、労働立法・労働政策決定の基本と なる三者構成主義に反しており、乱暴極まりない。今後、労働政策審議会で取り扱わ れるものと考えるが、慎重かつ徹底した議論が必要である。
6.メリット制について見直しをおこなうべきである 新方針は、保険料認定処分に係る特定事業主の手続保障の価値を殊更に重視してい るが、事業主は、労災支給決定に一切関与できないわけではない。労災保険法施行規 則 23 条の 2 は「事業主は(略)保険給付の請求について、所轄労働基準監督署長に意見を申し出ることができる」としており、こうした一定の関与のもとで支給決定がなされている。 一方、労災保険給付においては、利益相反の発生を避けるため、そもそも事業主が 当事者となること自体認めるべきでない。保険料認定に異論を述べて争えたとして も、給付決定における支給要件該当性を争うことを認めるなど、ありえない。 なお、明白に特定できる労災事故が多かったメリット制導入当初と比べ、他律的容 認による長時間労働や、カスタマー・ハラスメントといった事業主の責任の所在が特 定しにくい事案が増えていることから、今のメリット制が昨今の産業状況に適さなく なっているとの指摘がある。保険料の個別決定による行政手続きの煩雑さを解消する という観点からも、一部の「見直し」でなくメリット制を廃止するべきとの意見もあ る。こうした論点について議論することもなく、現行のメリット制を前提として、上 述した労働者保護に反する事態を招く恐れのある方針転換を、拙速に決めるべきではない。 以上をふまえ、保険料認定処分に対し、事業主に労災支給処分の支給要件非該当性 に関する主張を伴う不服申し立てを認める新方針は、撤回することを求める。 以上

次回も続き「参考資料2 令和4年度第2回社会復帰促進等事業に関する検討会の資料」からです。

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