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第106回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会資料 [2022年12月27日(Tue)]
第106回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会資料(令和4年12月16日)
【議題】(1)労働基準法施行規則の一部を改正する省令案要綱等(諮問)(2)労働保険徴収法第 12 条第 3 項の適用事業主の不服の取扱いに関する検討会(報告)(3)令和4年度第2回社会復帰促進等事業に関する検討会(報告)(4)労働保険関連手続及び労災保険特別加入関連手続に係る電子申請の状況について(報告)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_29845.html
◎資料2 労働保険徴収法第 12 条第 3 項の適用事業主の不服の取扱いに関する検討会報告書等
○労働保険徴収法第12条第3項の適用事業主の不服の取扱いに関する検討会報告書(概要)
・現状→各事業での労災保険給付の実績は、各事業主が支払う2〜4年後の労働保険料に反映される(メリット制。徴収法第12条第3項)。 現在、国(厚労省)は、労働者等の法的地位の安定性を重視して、@事業主に対して労災保険給付支給決定の不服申立適格 等を認めておらず、また、A労働保険料認定決定の不服申立等において事業主が労災保険給付の支給要件非該当の主張をする ことも認めていないが、こうした国の主張を否定する下級審の判決が出ている。

・検討会メンバー→5名。
・メリット制のイメージ→2〜4年後の 労働保険料が増大 する可能性
・検討の視点
→労働者等の法的地位の安定性は堅持しつつ、メリット制を介して労災保険給付分に係る労働保険料の増大という不利益を受 ける可能性がある事業主の手続的保障を図る観点から、こうした事業主が、労働保険料認定決定の不服申立等において、労災 保険給付の支給要件非該当性を主張することを認める余地がないかを検討。
・まとめ→(1)労災保険給付支給決定に関して、事業主には不服申立適格等を認めるべきではない。 (2)事業主が労働保険料認定決定に不服を持つ場合の対応として、当該決定の不服申立等に関して、以下の措置を講じる ことが適当。 ア) 労災保険給付の支給要件非該当性に関する主張を認める。 イ) 労災保険給付の支給要件非該当性が認められた場合には、その労災保険給付が労働保険料に影響しないよう、 労働保険料を再決定するなど必要な対応を行う。 ウ) 労災保険給付の支給要件非該当性が認められたとしても、そのことを理由に労災保険給付を取り消すことはし ない。


○労働保険徴収法第 12 条第3項の適用 事業主の不服の取扱いに関する検討会 報告書 令和4年 12 月 労働保険徴収法第 12 条第3項の適用事業主の 不服の取扱いに関する検討会
1 はじめに
→労働保険徴収法第 12 条第3項の適用事業主の不服の取扱いに関する検討会 (以下「本検討会」)は、厚生労働省労働基準局の求めにより、行政法学者、労働法学者及び労災保険制度の実務家が参集して、労災保険給付を生活の 基盤とする被災労働者及びその遺族(以下「被災労働者等」)の法的地 位の安定性についての十分な配慮を前提として、メリット制の適用を受ける事業主(以下「特定事業主」)が自己になされた労働保険料認定決定(以下「保険料認定処分」)に不服を持つ場合の対応を検討することを趣旨・目的として開催されたもの。 【参集者】→5名。
本検討会は、第1回が令和4年 10 月 26 日に、第2回が令和4年 12 月7日に 開催。 本検討会の趣旨・目的に関わる労働者災害補償保険法(昭和 22 年法律第 50 号。以下「労災保険法」)に基づく労災保険給付支給決定(以下「労災支給処分」)⇒全体としては依然として 60 万人を越える 状況であるが、このうち脳・心臓疾患や精神障害という認定に複雑さを伴う事 例も多く確認されている。

2 検討の背景・論点
(1)労災保険制度の趣旨・概要→ 労災保険制度は、労災保険法に基づくもの、労働者の業務災害、複数業務要因災害及び通勤災害に対して迅速かつ公正な保護をするために保険給付を行い
、被災労働者の社会復帰の促進、被災労働者及びその遺族の援護、 労働者の安全及び衛生の確保等を図ることにより、労働者の福祉の増進に寄与 することを目的。 労働者の業務災害→使用者は労働基準法(昭和 22 年法律第 49 号。「労基法」)に基づく災害補償責任を負っているが、労災保険法に基づいて労基法の災害補償に相当する給付が行われた場合には、同法の災害補償 責任は免除されるため、労災保険が実質的に事業主の災害補償責任を担保する 役割を果たしている。こうしたこともあって、労災保険料は事業主が全額負担することとされている。 労災保険法に基づく主な給付→療養(補償)給付、休業(補償)給付、 障害(補償)給付、遺族(補償)給付などがある。 労災支給処分は、こうした保険事故の発生を要件として、被災労働者等に対し て、労働基準監督署長が行っている処分であり、その処分を争うためには労働保 険審査官への審査請求が前置され、かつ、審査請求期間が3か月とされており、 当該処分の主たる目的は、早期に被災労働者等が労災保険給付を受ける地位を 確定させることにある。 これらを踏まえると、労災支給処分は、被災労働者等の生活保障の柱となるものであり、労災保険法の目的に照らしても、その法的地位の安定性を図る必要性 は高い。
(2)メリット制の趣旨・概要→ 労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和 44 年法律第 84 号。以下「労働保険徴収法」)において労災保険率は定められている。この労災保険率は、労働者を使用して事業を行う事業主の労災保険料を算定する際に用いられ、業種ごとの災害率等に応じて定められている。しかし、業種が同一であっても、個々の事業場ごとの災害率には差が認められる。 そこで、事業主の負担の公平を図るとともに、事業主の災害防止努力を促進するため、一定規模以上の事業主のうち、 イ 継続事業(一括有期事業を含む。)を行う事業主⇒連続する3保険年度の間における個々の事業主の災害率に応じて、その事業についての事業の種類ごとに定められた労災保険率を一定の範囲内で引き上げ又は引き下げし、当該料率(以下「メリット労災保険率」)を当該3保険 年度の最後の年度の次の次の保険年度の労災保険率とすること、 ロ 有期事業を行う事業主⇒当該事業期間中における個々の事業主の災害率に応じて、保険料の額を一定範囲内で引き上げ又は引き下げるとしている。 このように労災保険率あるいは保険料の額を増減する制度をメリット制といい、このメリット制が適用される事業主を特定事業主という。 また、保険料認定処分の根拠法である労働保険徴収法の趣旨は、労働保険の事 業の効率的な運営を図ることにある。 これらを踏まえると、メリット制が制度として適正に運営されるためには、保 険料認定処分によって経済的不利益を被る特定事業主にこれを争う手続的保障 を図ることが要請される。
(3)特定事業主の不服の取扱いに関する国の立場と裁判例の動向→特定事業主は、自らの事業場における労働者について発生した業務災害に対 する労災支給処分が被災労働者等になされた場合、当該労災支給処分の額がメ リット収支率(後述3(1)参照)に反映され、労働保険料額が増大する可能性がある。このため、保険料認定処分の不服申立等において、労災支給処分の支給 要件非該当性を主張することが考えられる。しかし国は、労災支給処分の早期安 定の必要性並びに労災支給処分及び保険料認定処分が異なる法律効果を有する ことなどを踏まえ、特定事業主が既に被災労働者等に対して行われた労災支給 処分の支給要件非該当性の主張することを認めていない。 また、労災保険法は被災労働者等の法的利益を図ることを目的としており、事業主の利益を図ることは目的としておらず、特定事業主は労災支給処分の名宛人となっていないことなどを踏まえ、これまで特定事業主には労災支給処分の 不服申立適格及び取消訴訟の原告適格(以下「不服申立適格等」)も認められないという解釈をしている。 しかし、下記のとおり、特定事業主が提起した複数の取消訴訟において、 @特定事業主は労災支給処分の取消訴訟の原告適格を有するか否か、A保険料認定処分において特定事業主が労災支給処分の支給要件非該当性を主 張できるか否か について、@を否定してAを肯定する地裁判決がある一方で、むしろ@を肯定し てAを否定する高裁判決が続いている。
【保険料認定処分に対する取消訴訟】 ↓
<医療法人社団X事件> [地裁判決] (請求内容) 特定事業主に対する保険料認定処分の取消し (判決主文) 請求棄却   (判決理由)
T〜Uの参照。
[高裁判決 ](請求内容) 特定事業主に対する保険料認定処分の取消し (判決主文) 控訴棄却 (判決理由) 原判決と同様

【労災支給処分に対する取消訴訟】↓
<一般財団法人Y事件> [地裁判決 ] (請求内容) 労災支給処分の取消し (判決主文) 訴え却下 (判決理由)
T〜Uの参照。
[高裁判決] (請求内容) 労災支給処分の取消し (判決主文) 原判決の取消し及び東京地方裁判所に差し戻し (判決理由) ※医療法人社団X事件地裁判決及び高裁判決と同様 T 労災支給処分がされるとその支給額の増加に応じて当然にメリッ ト収支率が上昇し、これによって特定事業主のメリット増減率も上昇 する恐れがあり、これに応じて次々年度の労働保険料が増額するおそ れが生ずる。U 特定事業主は、自らの事業に係る労災支給処分がされた場合、同処 分の法的効果により労働保険料の納付義務の範囲が増大して直接具 体的な不利益を被るおそれがある者であるから、同処分の取消しを求 めるにつき「法律上の利益を有する者」(行訴法 9 条 1 項)として、同 処分の取消訴訟の原告適格を有するものと解するのが相当である。
<株式会社Z事件地裁判決> (請求内容) 労災支給処分の取消し (判決主文) 訴え却下 (判決理由) T 労災保険制度の趣旨、内容等に照らせば、個々の労災支給処分がさ れる段階において、特定事業主が違法・過大な労災支給処分の是正を 通じて労働保険料の是正を図ることは、迅速な労災支給処分や財政の 均衡確保といった趣旨とは両立し難い。 U このような労災保険制度の在り方を踏まえれば、特定事業主の利益 (他の特定主との関係で、個々の保険給付等の差に見合った労災保険 に係る費用の公平な分担がなされるべき利益)は、メリット制が適用 されるに至り初めて考慮されるべきものであって、それ以前の個々の 労災支給処分の段階において考慮されない。
(4)労災保険制度に与える影響→ こうした中で、仮に特定事業主に労災支給処分の不服申立適格等を認めた場合、以下のような被災労働者等にとって看過できない重大な不利益が生じる恐 れがある。⇒災害補償責任の有無を労使間で解決することとすると必ずしも被災労働者等 の迅速な救済を図ることができない可能性があるために、労災保険法が労基 法の災害補償責任を担保する形で創設され、行政庁が迅速に業務災害の有無を認定し労災支給処分を行うことにしているが、そうした重要な立法趣旨が 達成されない可能性が生じてしまうこと。労災支給処分が被災し療養を行っている労働者やその遺族等の生活保障の柱 として重要な役割を担っているにも関わらず、労災保険給付の支給を受ける という被災労働者等の法的地位が不安定となる可能性があり、結果として労 災保険法の目的である労働者の福祉も達成できない可能性があること。  他方で、特定事業主⇒労災支給処分がなされた場合、当該処分による 給付の額がメリット収支率に反映され、労働保険料が増大する可能性があると いう経済的不利益が生じうるところであり、この不利益を争う何らかの途を確 保するという手続的保障を図る必要性はある。そして仮にこの点を一切考慮し ないとすると、特定事業主は自己の不利益を争うために直接労災支給処分の取 消しができるとするより他ないとの結論を招きかねない。よって、そうした事態 を回避するべく特定事業主の手続的保障を図ることは、被災労働者等の法的地 位の安定性を確保することにも通ずるものと考えられる。 したがって、前述2(3)で示した下級審裁判例も踏まえつつ、本検討会では、 労災保険給付を生活の基盤とする被災労働者等の法的地位の安定性についての 十分な配慮を前提として、特定事業主の手続的保障のために現行法令上の運用 の改善を行うことができないか検討を行うものである。
(5)検討する主要な論点 →以上を踏まえ、本検討会⇒論点@〜Bのそれぞれについて順に検討する。 論点@の参照。 論点A 仮に論点@が認められた場合であって、保険料認定処分の不服申立等 において労災支給処分の支給要件非該当性が認められた場合の当該労災支給 処分の取扱い、論点B 労災支給処分に関する特定事業主の不服申立適格等。


3 【論点@】保険料認定処分の不服申立等において労災支給処分の支給要件 非該当性を主張することの可否↓
(1)問題の所在
(2)関係規定の解釈
(3)「違法性の承継」についての学説及び判例
(4)公定力の範囲についての学説及び判例
(5)論点@の小括
→現在の行政解釈は、労働保険徴収法第 12 条第3項の「保険給付」の意義を、有効に確定している労災保険給付全てと解している。 しかし、この解釈について、有効に確定している労災保険給付全てではなく、 そのうち支給要件に該当するものを意味するという解釈変更をする場合には、 保険料認定処分の不服申立等において労災支給処分の支給要件非該当性を主張 することが可能となる。 この変更後の解釈の適否を検討するにあたって、労災支給処分と保険料認定 処分の関係をみると、両者はメリット制のもとで関係づけられるとしても、「違法性の承継」が論点となる典型的な行政過程よりも相互の独立性が強く、「違法性の承継」について論じられている判断基準をそのまま適用すべきことにはならない。 また、この変更後の解釈は、労災保険給付の法的安定性を維持しつつ、特定事 業主が労働保険料の増大を保険料認定処分において争うことができることとなり、その意味で特定事業主の手続的保障の充実につながることから、労災保険法 及び労働保険徴収法の趣旨目的に沿ったものと考えることができる。 こうしたことを踏まえれば、労災支給処分の公定力との関係でも、保険料認 定処分の取消事由として、労災支給処分の支給要件非該当性の主張を認めるの が適当であると考えられる。

4 【論点A】保険料認定処分の不服申立等において労災支給処分の支給要件 非該当性が認められた場合の労災支給処分の取扱い
(1)拘束力
(2)職権取消の制限
(3)論点Aの小括
→ 労働基準監督署長は、労災支給処分の支給要件非該当性を理由として保険料認 定処分が裁決又は判決により取り消された場合であっても、当該裁決又は判決 の拘束力により労災支給処分を取り消す法的義務はない。 また、職権取消との関係においても、前述の裁決又は判決が出されたことを理 由に労災支給処分を取り消すことはしないという対応をとるのが、労災保険法 及び労働保険徴収法の趣旨に照らして適当であると考えられる。

5 【論点B】労災支給処分に関する特定事業主の不服申立適格等
(1)問題の所在
→労災保険法の目的は、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、 死亡等に対して迅速かつ公正な保護をすることなどにあり、労災支給処分は労 働基準監督署長が被災労働者等を名宛人として行っている。 他方で特定事業主は、労災支給処分によりメリット労災保険率が増大する可 能性があるが、労災支給処分に係る不服申立適格等は認められていない。
(2)労災保険法の目的に関する検討→審査請求人の不服申立適格⇒基本的には行政事件訴訟法第9条第 1項に規定する「法律上の利益を有する者」と同一と解釈してよく、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害さ れるおそれのある者をいう。そして、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数 者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰 属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと 解される場合には、このような利益もここにいう法律上保護された利益に当た ると解するのが判例の立場である。 行政事件訴訟法第9条第2項では、処分又は裁決の相手方以外の者について 前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たっては処分の根拠法令の 趣旨及び目的を考慮する際に、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的を考慮することを裁判所に求めている。 労災支給処分の根拠法規は、労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡という保険事故の発生を要件として処分がなされるとしており、事業主の保険料に 係る経済上の利益に係る要件は見当たらない。 労災保険法の目的は迅速かつ公正な保護により労働者の福祉を増進することにあり、仮に労働保険徴収法が行政事件訴訟法第9条第2項の関係法令に当た るとして、労働保険の事業の効率的な運営を図るという目的を勘案したとして も、特定事業主の保険料に係る経済的な利益を労災保険法に基づく労災支給処 分の中で保護していると読み込むことはできないと解される。 また、労災支給処分が行われた段階では、未だ被災労働者が発生した事業場の 特定事業主において具体的にどのような不利益が発生するのかが明確になって おらず、将来の労働保険料の支払いにおいて不利益が一定程度発生する可能性があるということにとどまるということ、前記2(4)のとおり仮に特定事業主 に労災支給処分の不服申立適格等を認めると被災労働者等にとって看過できな い重大な不利益が生じる恐れがあること及び前記3のとおり保険料認定処分の 不服申立等において労災支給処分の支給要件非該当性を主張することができ、 特定事業主にも実効的な手続的保障を図る途があることも、この結論を支持する要素となる。 なお、特定事業主が労働基準監督署長の敗訴を防ぐことに法律上の利害関係 を有することから被災労働者等の労災支給処分に係る訴訟に特定事業主が補助 参加することが認められるという判例があるが、補助参加の要件である法律上 の利害関係と、不服申立適格等に関する要件である法律上保護された利益は異 なるものであることから、不服申立適格等に関する上記検討に影響を与えるも のではない。
(3)論点Bの小括
→特定事業主には、労災支給処分についての不服申立適格等は認めるべきでは ない。

6 その他の論点→ 3から5で検討した主要な3つの論点のほか、関連するその他の論点につい て述べておく。
(1)同業他事業主の労働保険料
→ 労働保険徴収法第 12 条第3項の「保険給付」の意義を、被災労働者等と国 との間で有効に確定している労災保険給付全てではなく、そのうち支給要件に 該当するものを意味すると解して、保険料認定処分の不服申立等において労災 支給処分の支給要件非該当性を主張できるとした場合、労災支給処分の支給要 件非該当性を理由に保険料認定処分の取消裁決又は判決がなされる可能性がある。このとき、裁決又は判決の拘束力により労災支給処分を(職権)取消し をしないこととした場合、同じ料率区分に属する他の事業主が、「業種ごとの 保険給付額の中に支給要件に該当しない保険給付が含まれているにもかかわ らず、当該保険給付が取り消されず、結果として、業種ごとの労災保険率が上 昇して不利益を受ける可能性がある」として、労災支給処分の不服申立適格等 を主張することが考えられる。 しかし、労働保険徴収法第 12 条第2項において、業種ごとの労災保険率⇒過去3年間の業務災害及び通勤災害の災害率等を考慮して業種ご とに定めることとしているところ、現実に支給された労災保険給付を踏まえ た労災保険事業全体の長期的な収支においてその均衡を図るべく、厚生労働 大臣が労災保険事業の運営の在り方を全般的に考慮した上で業種ごとの料率 を定めているものであり、個別の事業主がこれを不服申立等で争うことは予 定されていないものである。
(2)他年度の保険料認定処分の取扱い→メリット制は、同一の労災支給処分が、3年度に渡って労働保険料に反映される仕組みであるため、保険料認定処分に対する争いにおいて労災支給処分の支 給要件非該当性はなかったとの判断が裁決又は判決の理由中に示された場合に おいて、同一の労災支給処分が反映される他年度の保険料について、改めて同一 の労災支給処分の支給要件非該当性を理由とした争いが認められるかどうかが 問題となる。 この点は、民事訴訟法上の争点効に関連した議論であり、これは、学説上、判 決理由中の判断について、これに反する主張立証を許さず、これと矛盾する判断 を禁止する効力のことをいうものである。
(3)被災労働者等による労災支給処分の不服申立等があった場合の取扱い→労災支給処分について被災労働者等・国間で既に不服申立等で争われており、 裁決又は判決が確定して、不可変更力等が働いている場合があり得る。この場 合については、労災支給処分と保険料認定処分でそもそも不服申立等の対象も 不服申立等を行う者も異なるため、特定事業主が保険料認定処分に対する争い において既に争われた労災支給処分の支給要件非該当性を主張することは認 められると考えられる。

7 まとめ→ 以上の検討を踏まえ、厚生労働省は、特定事業主には労災支給処分の不服申立適格等が認められないとの立場を堅持した上で、特定事業主が保険料認定処分に不服を持つ場合の対応として、以下3点を含めた必要な措置を講じることが適当であると考える。 @ 保険料認定処分の不服申立等において、労災支給処分の支給要件非該当性に関する主張を認める。 A 保険料認定処分の不服申立等において労災支給処分の支給要件非該当性 が認められた場合には、その労災支給処分が労働保険料に影響しないよう、労働保険料を再決定するなど必要な対応を行う。 B 保険料認定処分の不服申立等において労災支給処分の支給要件非該当性 が認められたとしても、そのことを理由に労災支給処分を取り消すことはし ない。
【文献等一覧】 (文献)→2つ。 (判例)→14個。

次回も続き「資料3 令和4年度第2回社会復帰促進等事業に関する検討会 議事要旨」からです。

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