第7回「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」 [2022年10月01日(Sat)]
第7回「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」(令和4年9月14日)
《議題》(1)精神障害の労災認定の基準について (2)その他 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_28057.html ◎【資料1】第7回における論点 ↓ 1 業務による心理的負荷評価表の検討 ↓ (1)評価表の「具体的出来事」を示すにあたっての考え方について、これま での議論を踏まえ、どのように整理することが適当か。→現行の評価表は、平成 22 年度ストレス調査を踏まえた詳細なものとなっている が、一部に類似性の高い項目が重複していたり、「強」と判断されることがまれな項 目が多くあるなど、労災認定の指標としては、詳細であるがゆえのわかりにくさがあ ったのではないか。 近年の請求件数の一層の増大と、労働者を取り巻く職場環境の変化に対応して、各 項目への当てはめや心理的負荷の強度の評価が、適切かつ効率的に行えるようにする 必要があるのではないか。 このため、これまでの議論において、出来る限り重複を避け、細分化された項目を 一定程度統合するとともに必要な項目は追加し、また、各項目において事実を客観的 に評価でき、かつ評価内容が明確化・具体化されるよう検討してきたと整理されるの ではないか。 (2)「具体的出来事」の類型@〜Bに関して、「強」「中」「弱」と判断する具 体例や総合評価の視点を示すに当たり、どのような事項に留意すべきか。→ これまで検討してきた「具体的出来事」の内容やその考え方、これまでの裁判例、 裁決例等を踏まえ、「強」「中」「弱」と判断する具体例や総合評価の視点について、 追記、修正等すべき事項として、どのようなものがあるか。 (3)評価表における労働時間についての考え方をわかりやすく示すことについて、医学的知見の状況等を踏まえ、どのように考えるか。→「特別な出来事」における極度の長時間労働、「具体的出来事」における総合評価 の共通事項及び「強」「中」「弱」の具体例について、どのように示すことがわかりやすく、かつ、医学的知見を踏まえたものとなるか。 2 精神障害の労災認定要件@ ↓ (1)精神障害の労災認定要件のうち、「1 対象疾病を発病していること」 について、医学的知見の状況等を踏まえ、妥当なものと考えてよいか。→(認定要件)⇒1 対象疾病を発病していること。 2 対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められ ること。 3 業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められな いこと。 (2)認定基準で対象とする疾病(対象疾病)→国際疾病分類第10回修正版(ICD−10)第X章「精神および行動の障害」に分類される精神障害であって、器質性のもの及び有害物質に起因するものを除くこととされている。 現在、ICDの最新版となる第11回改訂版(ICD−11)は発効さ れているが、統計法に基づく統計基準「疾病、傷害及び死因の統計分類」 策定のためのICD−11の日本語訳は作成中の状況であり、対象疾病に ついては、その確立を待って別途検討する必要があるのではないか。 ○認定基準の検証に係る具体的な論点(たたき台) 1 業務による心理的負荷評価表の検討 ・業務による心理的負荷評価表に係る出来事の追加・修正・削除(たたき台)→出来事の類型(@〜B) ⇒「現行」・「改正案」あり。 ・業務による心理的負荷評価表に係る「強」「中」「弱」の具体例及び総合評価の視点(たたき台)(類型@〜B、労働時間について)→「特別な出来事以外」⇒(具体的出来事)あり。 2 精神障害の労災認定要件@→現行認定基準(ICD-10)となっている。 ○ICD−11の開発経緯 ○「疾病、傷害及び死因の統計分類」告示改正の流れ 参照のこと。 ◎【資料2】論点に関する労災補償状況 1 疾患別の労災補償状況→ 独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所、過労死等の 実態解明と防止対策に関する総合的な労働安全衛生研究(令和3年度総 括・分担研究報告書)、p35・47・51、2022 ・表 2-1 発症時・死亡時年齢、決定時疾患名 (精神障害、男女) ・付表 2-1-1 発症時・死亡時年齢、決定時疾患名 (精神障害、男性) ・付表 2-1-2 発症時・死亡時年齢、決定時疾患名 (精神障害、女性) ◎【資料3】論点に関する医学的知見 1 令和2年度業務上疾病に関する医学的知見の収集に係る調査研究(精神障 害)報告書、p20-57,p82-89 ※ 精神障害の発病と睡眠時間又は労働時間との関連に関する文献の概要 (p20-57)及びその他参考となりうる文献の概要(p82-89) 下線は事務局による。 3. 調査結果 選定した文献 66 件→(@精神障害の発病と睡眠時間又は労働時間との関連について 40 件、A精神障害の発病後の悪化について 4 件、B精神障害の治ゆ、寛解、 再発について 15 件、Cその他参考資料となる文献 8 件)についてサマリーを作成した。 3.1 精神障害の発病と睡眠時間又は労働時間との関連について、ポジティブな結果を示す文献→精神障害の発病と短い睡眠時間又は長時間労働とポジティブな結果を示した文献は 20 件であった。 詳細は表の一覧に。 ◎【資料4】論点に関する裁決例 【再審査請求棄却事案】↓ ・ 業務による心理的負荷の評価(出来事の評価)に関する裁決例 94件 【再審査請求原処分取消事案】 ↓ ・ 業務による心理的負荷の評価(出来事の評価)に関する裁決例 18件 ◎【資料5】第4回検討会の議論の概要(第7回の論点に関する部分) (労働時間の評価) ↓ ○ 時間外労働の基準変更→脳・心臓疾患の認定や過重労働対 策の医師面接で 100 時間以上、80 時間以上、45 時間から 80 時間の間と いうところにも影響があるので、その切り方は慎重に考える必要があり、 ここだけで決まるような議論でもないということも意識していただきた い。現状のままでよいと思う。(丸山先生) ○ 現状案でいいと思う。労働時間を従属変数にした解析ではなかなか影 響が出てこないで、睡眠時間、睡眠の質等を説明すると、初めて疾病との関係が出てくるという状況。それとインターバルの観点を強度の総合的判断の中に入れると、更に良くなると思う。今の80 時間以上でUとして、個別に「強」を決めていくという方法で問題ないと思う。(田中先生) ○ 私たちが一般的に考えている、大体5時間しか物理的に眠れないときの時間外労働は 100 時間というのは、経験的に正しいと思っているので、100 時間を1つの基準にするのは、一般医学的、精神医学的な知見から 離れていないと考える。睡眠の質→アプリ等も駆使し、寝床にいる時間と睡眠時間との区別していくような調査をできる時代もくる と思うが、現時点で医学的なデータがないので、当面は 100 時間を1つ の基準に考えるのがよい。(荒井先生) ○ 労働時間の全体的な基準→現行の数値で動いていくという ことで妥当だと思う。特に労働時間の長さと持続期間で、単月なのか、 2か月連続なのか、3か月なのかというところで、「強」「中」「弱」 という形の基準がクリアに見えている。現行の基準は、時間がばらばら になってるが、修正案では整理がされているので、見やすくなっている と思う。それから、睡眠の質などを判断する際には、インターバルの長 さ等も新たに加えているように思うので、わかりやすい形に修正が進ん でいるのではないか。(吉川先生) ◎【資料6】第6回検討会の議論の概要 (極度の長時間労働)↓ ○ 極度の長時間労働の1か月 160 時間を超えるようなというのはかなり 極度だが、具体的出来事→80 時間以上(項目16)の「弱」や「中」 に注があり「他の項目で評価されない場合のみ評価する」となっている。 つまり、極度の長時間労働について、積極的に評価するが、80 時間位で あれば、ほかに当てはまる項目がなければ、時間を検討するという趣旨で、少し消極的に捉えるという流れなので、区分けしていかないと、混 乱してしまうと思う。 労働時間と精神障害の直接的な関係性のエビデンスは少ないが、睡眠 時間の短さと精神障害の関連性は結構報告がある。極度の長時間労働→睡眠時間がかなり影響され、過重労働の面接指導の基準である月 100 時間、80 時間と比べても 160 時間というのはかなり極度、積極的に評価するか、少し抑え気味で評価するかについて議論する必要。 長時間そのものが、例えば 160 時間といっても平均して一日8時間の 時間外があるというものの積み重ねで、言ってみれば出来事がずっと続いていて、それを足し合わせて結果的に 160 時間以上になるからまとめ て1つの出来事としてとらえるということなので、ほかの出来事とのとらえ方の差異も踏まえて議論したほうがよい。(丸山先生) ○ 時間外労働が 160 時間、3週間 120 時間以上あるということになると、 睡眠に影響するので、ここは時間外労働を出来事としてとらえるという 方向でいいか。(黒木先生) ○ 時間外労働の部分だけ、ある意味定性的に決まっている部分で、時間 を超えれば必然的に「強」になるということで、特別な出来事以外の恒 常的長時間労働が認められる場合の総合評価の部分なども、次回以降ま とめて議論する理解でよいか。(品田先生) (心理的負荷が極度のもの)↓ ○ 業務上の傷病により6か月を超えて療養中に症状が急変することについて、括弧書きで書いてあるが、例えば、じん肺症を負っていた方が、 何らかの形で急変し、それによって苦痛が強まったがために、精神障害 を引き起こしたという、そういうシチュエーションを想定しているというふうに理解してよいか。(品田先生) ○「6か月を超えて」の表記の趣旨を明確にするよう事務局のほうで検 討していただきたい。(黒木先生) ○ じん肺や職業がんなどの場合→かなり療養が長くなり、療養中に 病気が関連した精神障害等を発症するというのもある。業務上の傷病に よって療養している中で、それを苦に悪化して症状が増して、うつ病を 発症して亡くなられるとかということは、あり得るのではないかと想定 した。(吉川先生) ○ 時間外のこと以外の特別な出来事について、こういった内容でよいかと思う。今議論のあった点→「6か月」というのは意味をな さないので、外してもいいのではないか。(田中先生) ○ 今の御議論で、大体、現在の知見に相応した判断だと思う。6か月を 超えてというところは、事務局に精査いただければよい。 それから、160 時間が極度であるというのは、これまでの裁判例等も 踏まえて 160 時間という数字が出ており、3週間で 120 時間→前回の検討会で、労務管理上の問題として、このままだと 160 時間にな ってしまうという場合に、職場が十分配慮するチャンスとして、3週間で 120 時間を極度のものに加えたという経緯があると思う。3週間で 120 時間で極度という裁判例もある。(荒井先生) ○ (じん肺の経過中に症状が急変してという場合に、精神障害の発病時 期はいつとなるのかについての小山先生の質問を受けて)じん肺の療養中に、じん肺も当然悪くなるが、自分の腸を果物ナイフで切りだして自 殺したという事案があった。それは何らかの精神障害が発症したという ことで、業務上ということになった。だから、受診はしていないが、精 神障害が発病して自殺したということについては、また検討するという ことでよろしいか。(黒木先生) ○ 不安を持ち始めたというのがそもそもの精神症状の発症で、それが極 度になっていって自殺をした。その極度になったときの状態を言ってい るのであれば、その6か月というのが何の意味を持つのかということに なり、治療していて、もしこの方の鬱状態がひどくなって自殺をしたと いうことならば、それがちょうど6か月前をとらえて、その6か月の治 療というのは、じん肺の治療を言っているのか、精神症状の発症として の治療期間を言っているのかというのが、曖昧な感じがする。6か月と 6-3 こだわらず、じん肺の治療中、経過中に精神症状が、じん肺の進行性で 悪化していき、極度な不安で自殺をした時点をとらえるので、6か月と いうのは、別になくてもいいのではないか。(小山先生) ○ 6か月というのは、不可逆進行性の例をイメージしているのではない か。だから、これはもう治らず、ずっと不安が続く症例ということがは っ き り す る か の 確 定 の た め に 、 6 か 月 と 置 い た の か と い う 気 が す る 。 (三柴先生) (特別な出来事以外に関する各出来事の総合評価) ○ 仕事要求度-コントロール-サポートモデルにおいても、コントロール やサポートというのは重要な緩衝要因としてモデルでも示されており、 サポートと裁量性については総合評価としてまとめて評価するのは妥当 だと思う。この案でよいのではないか。(田中先生) ○ 総合評価における共通事項は、実務において、さほど影響があるもの ではない気がするが、それぞれの出来事を考える際に、背景まで理解す る意味で、その背景を明確にしたものと理解してよいのかと思う。 その中で今回、これまで4項目になっていたものを6項目とされてお り、従来あるものはそれでよいと思うが、賃金決定や人事評価について の問題を、当該行為が個人を対象に特別の不合理、不適切な対応として 行われた場合は強い負荷と考えるという内容を、新たに4番目の項目と して追加するのは適当でないと考える。 配転や転勤は言わば労働条件の変更とか、その人の生活状態が変わる という意味で、ある意味法律的行為、法律行為という側面を持つ。また、 それらは、その人の身分に関わる状況変化が起こるものであり、客観的 に把握しやすく、当該変化に対して事実を客観的、定型的に把握が可能 である。更には配転や出向については、合理性の判断基準について、最 高裁の判断等一定のメルクマールが出ており、それが不当か否かは、労 基署の職員においても判断できるかと思われる。 一方で、賃金決定、人事評価等は、事実行為であり、様々な事情の下 に起こるもので、そのことが不当か否かは、就業規則を精査しなければ ならず、事実の調査はかなり突っ込んだものである必要がある。そうす ると、労使の民事的な紛争に巻き込まれてしまう危険性もあり、このこ とを1つのメルクマールとして判断することもできるという形にするこ とは、混乱をもたらすものであると思う。 また、たたき台の6番目は、記載の意味やこれを置くことの意味が分 からないので、4番目と6番目について、必要ないと思う。(品田先生) 6-4 ○ 4番目と5番目に若干疑問がある。特に4番目で、業務ではなく配転 命令そのものを、配転命令などの結果としての業務ではなく、人事権行 使自体を業務起因性の起点と見るという発想が説明され、それ自体どう かと思うが、仮にこの点をおくとしても、使用者の行為の一般性や労働 者の行為によって引き起こされた出来事であることが業務起因性の判断 と関係があるのかと感じる。むしろ、これは同種の労働者という基準の 点から、心理的負荷の強度を分けられるのではないか。つまり、同種の 労働者という考え方は、職歴や年齢に照らし、その労働者の職業上のプ ロフィールに相応するような業務は、相応するものとして強い心理的負 荷を生まないと見るわけだが、職業上のプロフィールから乖離した業務 を課すような場合には、強い心理的負荷を生むというように見るもので はないかと考えている。そうすると、例えば行為の一般性で例として挙 げられた賃金決定についてみれば、その労働者のプロフィールに相応する業務を課す場合には、かりにその業務から生じる賃金が低く、事実 強い不安を与えたとしても、これは当該労働者の業務に相応する業務を 課している以上は、強い心理的負荷を生まないと、それだけのことでは ないか。 5番目も、例えば懲戒処分では、労働者の行為に鑑みて懲戒処分が科 されたとして、その処分が降格等であって、より低い業務を課される等 のケースでは業務による心理的負荷の場合があると思うが、その懲戒処 分が相当であれば課された業務も当該労働者の職業上のプロフィールに 合うわけで、それである以上、強い心理的負荷を生まないと見ればよい のではないか。(中益先生) ○ 今回の論点について、4番目も含めこの表現からあまり変えなくても いいと思う。たとえ人事労務に絡むからといって、業務上外の判断は法 的な判断に関するものに限るのではないため、6番目も、多少工夫が必 要だとしても、そんなに変える必要はないと思う。 中益先生の御意見は、条件落差を御指摘になったと思う。これは私の 見解と通じるところがあるかもしれないが、条件を見るときの基準として、契約や判例は参考にはなるが、そこだけを基準にするとまずいので はないかと思う。 アメリカでも、要するに正当な、あるいは合理的な人事労務行為→業務上とは見ないことが多くの州で書かれている。これは、労 災認定は確かに制度上、過失の有無は労使ともに見ない前提だが、精神 事案では、業務上のストレスととらえることが社会常識にかなうかが、 どうしても問われてくるということだと思う。(三柴先生) ○ 業務上外の判断は、結論において、法的な判断として裁判において影 響をもたらすことが多々あり、法的な判断として見ざるを得ない。正当 な人事評価であるか否かについて、労基署の職員が巻き込まれてしまっ た場合に、仮にそれを正当ではなかったという判断をしたことをもって、 原告がその当該人事評価の違法性について裁判をした場合に、労基署は そのことを違法と判断したという立場で、この問題に携わらざるを得な くなることがある。その意味で、一定の判断をすることが法的な問題に なるということを理解した上で考えざるを得ない。もし、このことが必 要であるというのであれば、なぜ具体的な出来事の中に組み込まないの かという話も出てこようかと思う。具体的な出来事として組み込めない ような曖昧さがあり、事実行為であることによって、法的な判断をする ことが難しいから、具体的な出来事に組み込めないということを理解す べきである。(品田先生) ○ 資料の6ページの※について、職場環境の変化を共通の事項から外し て、単独でストレスを発生させ得る具体的な出来事として取り扱うこと 自体に、反対するものではないが、この事項を共通の考慮事項から外す ことにより、職場環境の変化が、ほかの出来事と相まってストレスを生 じさせているような場合に、そのことが評価されなくなると誤解が生じ ないように、気を付けたほうがよいのではないか。(中野先生) ○ 職場環境の変化と言うと、勤務形態や仕事のペースの変化に集約されず、ほかの要素も入っているので、それが別のところで評価されるということであればそれでいいかと思うが、ここの表現とか、あるいはこれ を本当に外していいのかどうかということも含めて、また検討していた だきたい。(黒木先生) ○ 4番目の正当な労務管理について。基本的に正当な労務管理→強い心理的負荷として評価されないことは共通認識だと思うが、特別 の不合理、不適切な対応は、ほかの項目で読めるので、わざわざここで 書かなくてもいいのではないか。 3つ目の仕事の裁量性が欠如した状況の括弧内の表現について。労働 契約はそもそも他律的な側面をもつものなので、※があればよく、括弧の「他律的、強制的な仕事」は書かなくてもいいと思う。(阿部先生) ○ 業務上外の判断は、基本的に法的判断、法に基づく判断であるという ことは合意であり、その上で、精神の問題について、業務上のストレス 6-6 の強さの評価の仕方については、法は参考になるが、そこだけに囚われ るわけにはいかないということを申し上げたい。(三柴先生) (評価期間) ○ 2020 年のモノグラフによっても、3ないし6か月という数値が示されている。それより長い調査期間の研究等における調査の妥当性には疑念 が生じる。現時点でビフルコがモノグラフの中で、「3ないし6か月」 と記載→現時点での医学的な知見の総括と考える。 チェックリストとインタビューの差について、どちらか一方だけによ る結論では、なかなか正しい結論に至らないというのが、今の医学の常 識になってきていると思う。今、監督署等の調査では、チェックリスト に基づき、かつインタビュー、面接等を総合するという作業がなされて いるので、先進的な取組を日本はやっていると考えていいのではないか。 (荒井先生) ○ 古くは原因との関係で精神障害を考えていたが、DSM とか ICD では、 操作的な診断基準ということで、症状、状態等を幾つ満たすかを基準に 診断を付ける。そのときに、原因をたぐる作業がどの程度行われている か、診断基準に盛り込まれているかを見ると、明確に示されているのは、 ストレス性の精神障害である。具体的に言えば、急性ストレス反応、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、適応障害の3つが代表的なものだ。 ICD の適応障害で、基本的には「1か月以内の出来事」と書いてある が、ガイドラインまで読み進めば「3か月未満」という表現が出てくる。 つまり、適応障害は多くとも3か月をみる。PTSD は長くても6か月みて おけばいいということになる。PTSD は精神障害の中で、かなり重い。治 りは割といいかもしれないが、衝撃としては、ストレス性の出来事が必ず要件として必要で、それはかなり強烈なものでなければならない。適 応障害はそこまでいかないが、ストレス性の出来事であって、それなり の衝撃があることが前提である。 つまり、PTSD ほどのストレス性の出来事が前提の場合でも、6か月み ておけばいいというのが、おおむね世界中の専門家の意見である。その 分野の専門家が叡智を絞り、様々なデータ、資料、経験に基き、その数 字を出しているので、その診断基準に書かれている範囲は重く、ある特 定の文献にこうあるということは、それほど大きなエビデンスにならない。6か月で、ほぼ十分だということになり、現在の6か月の範囲は妥当だと思うので、続けていただければいい。(丸山先生) ○ これまでイベントのばく露と、発症期間までの研究が行われていない 理由は、いろいろな出来事に対する反応は遅くとも3か月以内には発症 するという共通の臨床的なコンセンサスがすでにあるからである。解離 などの症状があって、一番発症が遅くなる可能性がある PTSD でさえも6 か月以内とされているし、労災では PTSD の申請も多いので、6か月とい うことで十分ではないかと考える。(田中先生) ○ DSM にしても ICD-10 にしても、6か月ときちんと出ているので、6か 月を守ったほうがいいのではないか。さらにもっと古いときをつかまえ てということならば、調査もしづらくなってくるが、6か月程度だった ら、調査もきちんとでき、出来事も把握できるのではないかと思うので、 そういう意味でも6か月が妥当かと思う。(小山先生) ○ 経験上、6か月を見ればいいと思う。ICD-10 の PTSD はA基準で、「破 局的・脅威的」という書き方がされている。DSM-5 は、「危うく死ぬ」、「重傷を負うかもしれない体験」というのが PTSD のA基準である。そして急性ストレス障害のA基準も全く同じように、「危うく死ぬ」、「重 傷を負うかもしれない体験」と書いている。そして、この急性ストレス 障害、急性ストレス反応、その後に PTSD に移行する事例がかなり多いと 考えるのが、臨床的な観点から自然ではないかと思う。発症が遅れてと いうところが、なぜそうなのかは、症例を読み込まないと、事例によっ て違うが、おおむね6か月ということで十分だろう。(黒木先生) (評価期間に関連する留意事項)↓ ○ *4は、本人の主張する出来事が発病の6か月より前のものであっても、そのことによって門前払いをするのではなく、発病前6か月間の事 情をきちんと調査・評価するという趣旨であると理解した。これに対し ※は、6か月より前の出来事から継続している、その出来事から続いて いる事情を調査・評価することだとすると、*4よりも、*1を包括す るような留意事項のようにも思われる。(中野先生) ○ 出来事のハラスメントに関しては6か月に限らず、最初から一連の出 来事として見ることは妥当かなと思う。(黒木先生) ○ いじめやセクシャルハラスメントという項目が、6か月以上持続して いるものについて取り上げているが、パワーハラスメントも同じように、 *2の中に一緒に書き込むと、統一が取れると思う。どちらも職場で許 容されないことであり、期間については6か月に限らず評価の対象とす ることが妥当かと思う。(荒井先生) ○ 方向はいいかと思うが、6か月を超えて調査の対象とするかというところが、様々な現場の状況を踏まえ考える必要がある。慎重を期せばパ ワハラ、セクハラ等は、できるだけ長く見ていくほうがいいという議論 が成り立たないわけではないが、例えばパワハラなどは昨年度辺りも、 急激に件数が増えている。マンパワーの増強があれば、十分な対応がで きるかもしれないし、必要であれば、その方向で考えていくことが大事だが。 例えば同じパワハラであっても、行われた時点で「強」、あるい「中」といっても、発病までの期間の長さによって、影響度や評価が随 分変わってくると思う。その点も考えないと、出来事だけを見てすぐさ ま6か月だ、あるいは6か月を超えていいのだというよりは、議論がも う少し慎重であってもいいかなと思う。(丸山先生) ○ 発病した地点から6か月、それを超えて調査するということだが、そのハラスメントの行為がその人によって一連行われていて、何か変化が あって発病したということもあるので、事例によって、どのように見る のかということに尽きると思う。(黒木先生) ○ 発病時期の決定が困難な事例もあるのではないか。具体的には病院に受診をして、その時点で診断される場合もあれば、うつ病などの場合、 最初は睡眠障害から始まり、診断基準は全部満たさないが、それが続くことによって、ある時期から症状が確定する、症状が幾つも重なって診 断基準に合致するという場合に、発病時期が曖昧というか、ずれてしま う可能性もあると考える。 そういった場合に評価期間をスタートする時点を、どうするかは、専門家の先生に聞きながら判断されるところだと思う。発病時期が難しい 案件もあるのではないかとは思うが、これを留意すべき事項に入れるの は難しく、検討すべきか分からないが、課題としてはあるのではないか。 (吉川先生) ○ 診断するときには、きちんと診断基準を満たしているということが、 第一なので、発病時期を考えるときには、その時点を発病と見ている。 前兆みたいな症状があった場合、その時期を発病時期ととらえるか問題 になると思うが、診断基準を満たしてるということを考える。 例えば、双極性U型障害とうつ病の鑑別で、初めは、うつ病と診断さ れていても、後に双極性U型障害だと診断されると、それが正確な病名 になる。そうなれば、発病時期をいつにするかというのが問題になる。 双極性障害と診断されるまでに、平均7年程度掛かっているというデー タもあり、初めにうつ病と診断され、正確な診断名が付いていなくても、 それが間違いではないという問題もあるので、発病時期のとらえ方は、 非常に難しい。 診断評価する場合は、診断基準が整ったときの時点をもって発病時期 とする。そういう意味では、外来に来るのが遅れて来る方もいらっしゃるし、早めに来て、疑いがあれば、疑いとするので、どちらを取るかと いうのが問題になるかもしれないが、発病時期としてはそのようなとら え方をしている。(小山先生) ○ 診断基準を満たすことは必要だと思うが、日常あるいは社会生活に明確に支障が出た時点は、1つのポイントとして発病を想定するように考 えており、病気休暇の取得等の就労者にとっての大きな出来事が発病の 兆候、発病であると考えている。 また、主治医の医証に書いてある発病日を、一定程度尊重しないと、 膨大な調査が必要になるので、現実に診察されている主治医の発病時期 が合理的であれば、それを採用するのが一般的ではないか。(荒井先生) ○ 特に訴訟上、発病時期によって出来事のとらえ方が全然違ってくるので、発病時期というのは本当に難しい。診断基準というのはすごく大事 だが、睡眠障害や何らかの兆候がある、生活が崩れる、欠勤が始まる、 遅刻が始まるといったときに、本人が自覚をしていないことがある。自分がうつ病であるというのは、後で振り返って分かることもあり、兆候 が出た時点を発病時期ととらえる場合もあると思うので、少し含みを入 れておいたほうがいい。(黒木先生) ◎【参考資料】団体からの意見要望 (過労死弁護団全国連絡会議、働くもののいのちと健康を守る全国センター、 全国労働安全衛生センター連絡会議、神奈川労災職業病センター)→原本を読んでください。 ○団体からの意見要望 ↓ 1 令和4年8月 23 日(過労死弁護団全国連絡会議) 2 令和4年9月9日 (働くもののいのちと健康を守る全国センター) 3 令和4年9月 15 日(全国労働安全衛生センター連絡会議、神奈川労災職 業病センター) 次回は新たに「令和4年第11回経済財政諮問会議」からです。 |