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福祉サービス第三者評価事業の改善に向けて 〜福祉サービス第三者評価事業のあり方に関する検討会報告書〜( [2022年04月24日(Sun)]
福祉サービス第三者評価事業の改善に向けて 〜福祉サービス第三者評価事業のあり方に関する検討会報告書〜( 2022(令和4)年3月4日) 社会福祉法人 全国社会福祉協議会 福祉サービス第三者評価事業のあり方に関する検討会
( 20220304第三者評価検討会報告書.pdf )

1. はじめに
〇福祉サービス第三者評価事業⇒2001(平成 13)年から始まった事業であり、社会福祉 法人等の事業者が提供する福祉サービスの質を、当事者(事業者及び利用者)以外の公平・中立な第三者評価機関が、専門的かつ客観的な立場から評価するもの。
〇福祉サービス第三者評価事業が始まった背景には、2000(平成 12)年の社会福祉事業法 改正(現 社会福祉法、いわゆる社会福祉基礎構造改革)がある。社会福祉法→「個人の尊厳の保持」を謳い、利用者本位の社会福祉制度を確立するとし、福祉サービスの基本理念を第3条に規定。⇒「第3条 福祉サービスは個人の尊厳の保持を旨とし、その内容は福祉サービスの利用者が心身共に健やかに育成され又はその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう支援するものとして、良質かつ適切なものでなければならない」。
〇社会福祉基礎構造改革⇒介護保険の導入でそれまでの行政処分としての「措置」制度から利用者と事業者が直接相対する「契約」制度へと移行する大きな転換点となった。 こうした改革のなかで利用者と事業者の情報の非対称性が指摘されることになり、利用者が福祉サービスに関する情報を入手し選択できるようにすること等を目的に始められた。
〇そのため、福祉サービス第三者評価事業の目的は2 つ。⇒ @ 利用者の適切なサービス選択に資するための情報となること A 福祉サービス事業者が事業運営における具体的な問題点を把握し、福祉サービスの 質の向上に結び付けることを目的とすること 。
〇社会福祉基礎構造改革⇒個人の自立を基本とし、その選択を尊重した福祉サービス 利用制度を確立すること。そして、そのための条件整備として権利擁護や苦情解決の仕組みを整備して、利用者を保護するシステムを構築し、福祉サービスの自己評価と第三者評価の仕組みを整備して、質の高い福祉サービスを構築することとした。
〇社会福祉法第 78 条→福祉サービスの質の向上のための措置として規定。⇒「第 78 条 社会福祉事業の経営者は、自らその提供する福祉サービスの質の評価を行うことその他の措 置を講ずることにより、常に福祉サービスを受ける者の立場に立って良質かつ適切な福祉サービスを 提供するよう努めなければならない。 2 国は、社会福祉事業の経営者が行う福祉サービスの質の向上のための措置を援助するために、福祉 サービスの質の公正かつ適切な評価の実施に資するための措置を講ずるよう努めなければならない」。
とくに第78条第1項⇒社会福祉事業の経営者に対し、第三者評価などの取り組みを通して「自ら」「良質かつ適切な福祉サービスを提供」するよう努めることが規定された。

2. 福祉サービス第三者評価事業の課題
〇2001 年から始まった福祉サービス第三者評価事業だが、制度創設から 20 年が経過した 今、さまざまな課題が顕在化。その課題を大きく整理すると、以下の 5 つ
。⇒ @ 事業創設当初の福祉サービス第三者評価事業の意義・目的と現行の運用が乖離している。 A 社会福祉施設・事業所数は増えているが、受審率は伸びていない。受審する施設・事業所が固定化している。 B 都道府県推進組織のなかに脆弱なところが多くあり、評価機関の質の標準化や制度変更等の対応が難しいところがある。 C 評価機関が第三者評価事業を安定的に運営できる仕組みとなっていない(新たな評価調査者の確保や評価調査者を研修等に出席させることが難しい評価 機関も少なくない)。 D 評価結果の公表が利用者の選択に資するものになっていない。社会的養護関係施設 以外は公表が義務づけられていないため、受審結果を公表しない社会福祉施設・事業 所もある。
〇これらの課題はそれぞれが独立して存在するのではなく、それぞれが関係し、今や福祉 サービス第三者評価事業の全体に関わる問題として、負のスパイラルに落ちいっている状況。こうした福祉サービス第三者評価事業の構造的な課題に対し、国として改善・見直しを図っていかなければ、福祉サービス第三者評価事業の存続そのものが難しい状況にあるといっても過言ではない。⇒(負のスパイラル)関係図あり。
〇全国社会福祉協議会では、こうした福祉サービス第三者評価事業の課題を整理し、改善していくことを目途に、福祉サービスの質の向上推進委員会常任委員会(委員長:山崎美貴子 神奈川県立保健福祉大学名誉教授)の下に、「福祉サービス第 三者評価事業のあり方に関する検討会」(委員長:柏女霊峰 淑徳大学教授)を設け、2021(令和3)年 8 月より検討を開始した。

〇以下、5 つの課題に関して、整理を行う。↓
(1)福祉サービス第三者評価の意義・目的に関する課題

〇現在の福祉サービスの利用方法には公的福祉サービスに関しては@直接契約利用制度、 A間接契約利用制度、B措置制度が混在している。公的福祉サービスでは、@からBの いずれの利用方法であっても、最低水準は行政が定め、担保するもの。 具体的に福祉サービスの提供水準を確認する方法としては、主観的方法と客観的方法 がある。主観的方法には、事業所の主体的な自己点検・自己評価、利用者・職員のアンケート調査等があり、客観的方法には、行政監査と福祉サービス第三者評価事業がある。
〇行政監査は公的福祉サービスとして求める標準を満たしているか否かの評価で、満たさなければ行政指導、処分(公権力の行使)を行うことで水準を確保するための方法。
〇一方、福祉サービス第三者評価事業は、保育や障害、高齢者福祉サービス等の福祉施設・ 事業所が行う事業について、公正・中立な評価機関が客観的に評価を行うものであり、 その意義・目的に関しては、制度創設時は @ 利用者の適切なサービス選択に資するための情報となること A サービスの質の向上に結び付けること として創設された。
〇したがって、福祉サービス第三者評価事業は、公的福祉サービスの標準を満たしたうえ で利用者の選択に対し客観的評価を提供する役割を担うとともに、福祉施設・事業者が主体的に質の向上を図るための取り組みであり、経営者と職員が自らの提供する福祉サ ービスの現状と課題を把握し、さらなる質の向上に向けた改善を図るものである。そして、そうした主体的な取り組みや積極的な公表等により、他事業者との差別化を客観的に可視化するための方法である。⇒図 2 第三者評価事業と最低基準および監査との関係 P4参照。
〇制度創設から 20 年が経過するなかで、社会福祉法をふまえ、福祉サービス第三者評価事業が社会的養護関係施設等の措置施設にも拡充され、義務化されている。
〇社会的養護関係施設は措置制度の第一種社会福祉事業、これらの施設が福祉サービス第三者評価事業を活用する目的は、@ 子どもが措置施設を選ぶ仕組みでないこと(行政処分) A 施設長による親権代行等規定があること B 被虐待児等が増加し、施設における養育等の向上や、施設内での権利侵害の防止が 重要な課題になっていることとされており、子どもを権利の主体とする権利擁護の保障の観点から、施設運営や提供される福祉サービスの質の向上が必要とされるからである。
〇このため、厚生労働省は「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」において、施設が「自らその行う(中略)業務の質の評価を行うとともに、定期的に外部の者による評価を受けて、それらの結果を公表し、常にその改善を図らなければならない」と。つまり、社会的養護関係施設の第三者評価の義務化は、子どもの権利を保障する取 り組みであり、子どもの最善の利益の実現のために施設運営や福祉サービスの質の向上 を図る、施設の主体的な取り組みとして位置づけられているのである。 その一方で、こうした措置制度の福祉サービスに福祉サービス第三者評価事業を活用し、義務化するということは、行政監査の補助的役割を担わせるかのような誤解も生じる。 社会的養護関係施設等の子どもの権利の保障を目的とした福祉サービス第三者評価事業 の有用性を認め、活用をすることと、行政監査とは一線を画す必要がある。
〇また、近年では民間あっせん機関の第三者評価基準が 2019(令和元)年に厚生労働省子 ども家庭局長通知として発出され、児童相談所や一時保護所の第三者評価基準案が策定されている。その位置づけは、児童福祉法第2条3 項で規定する国および地方公共団体 の「児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う」責務としての行政監査の補助的役 割であり、福祉サービス第三者評価事業とは異なる。
〇しかし、こうした役割の相違に関し自治体や事業者、評価機関等に明確に説明がなされ ていないこと、「第三者評価」という用語を使っていること等により、混乱が生じている。 実際には、都道府県社会的養育推進計画で児童相談所や一時保護所の第三者評価の実施 を記載している都道府県等もあり、福祉サービス第三者評価事業の評価機関に受審相談 が寄せられ、実際に評価を実施している評価機関もある。 制度創設から 20 年が経過する今、国において、あらためて福祉サービス第三者評価事 業の意義・目的を整理する必要がある。⇒表1 社会的養護関係施設第三者評価事業と類似制度の比較 P6参照。

(2)受審率の伸び悩み
〇制度創設から 20 年が経過し、福祉サービス事業所の総数は増えているが、福祉サービス第三者評価事業の受審は伸びていない。近年は 5,000 件程度で横ばい状態になっており、 福祉サービス第三者評価事業を継続して受審する事業所がある一方で、新規に受審する 事業所は増えていないのが実情である。
〇義務化されている社会的養護関係施設は例年 30〜40%程度の受審率であるものの、それ 以外の任意になっている施設種別では、たとえば令和 2 年度実績で特別養護老人ホーム が 4.70%、保育所は 6.61%、障害者施設(就労継続支援 A 型・B 型)1.41%と低い受審 率になっている。⇒図 3 受審数の推移。⇒表 2 令和 2 年度受審数(主な施設種別)。
〇保育所の福祉サービス第三者評価事業→2015(平成 27)年の「日本再興戦略」(改訂2015)において「平成 31 年度末までにすべての保育事業者において第三者評価 の受審が行なわれることを目指す」とされたにもかかわらず、令和 2 年度実績においても受審した保育所が 1 割以下にとどまっている(そのうち約 2/3 は東京都)
〇とくに保育所や障害者支援施設(通所系)では、多様な主体が参入してきているなかで、 行政から福祉サービス第三者評価事業のもつ意義・目的をきちんと伝え、継続的な受審の呼びかけがされているかというと疑問が生じる。

(3)都道府県推進組織の課題
〇福祉サービス第三者評価事業の推進→都道府県推進組織の役割が重要。都道府県推進組織⇒国による基準等の見直し等を受け、県内で使用する福祉サービス第三者評価基準の策定や第三者評価機関の認証、評価結果の公表、評価調査者の研修等の第三者評価の実施に関する業務を実施している。都道府県推進組織が、福祉サービス第三者評価事業の推進に向け、どのように考えているかが、各都道府県内の福祉サービス第三者評価事業の受審の状況等に大きく反映される。

〇都道府県推進組織の主体は行政が 37 府県、社会福祉協議会が 7 県、その他公益法人が 3 都道県。制度創設から 20 年経ち、福祉サービス第三者評価事業の意義・目的に対する理解が薄れてきているなかで、国からの補助もなく、自治事務として実施されていることもあり、都道府県推進組織の体制が脆弱になっている。
〇受審実績を見ても、受審費用の補助が充実している東京都以外は低い状況であり、受審 実績が 1 桁しかない県が 13 県にのぼるなど、福祉サービス第三者評価事業の普及・促進 が図れていない。 国の基準等通知が改正され、都道府県推進組織には評価基準の改正や受審目標の設定・公表の義務化、更新時研修等の実施等が求められているが、たとえば令和 3 年度の更新時研修の実施予定が 6 県に留まる等、対応できない県組織も多い。

〇また、福祉サービス第三者評価事業の評価基準が、都道府県によって取り扱いが異なり、 全国統一の仕組みとなっていないため、客観的比較が成り立たない。たとえば特別養護 老人ホームの評価基準に関しては、全国版を使用しているところは 28 県であり、県独自 で評価基準を上乗せしたりしているところが 19 県となっている。
〇評価機関の認証も都道府県推進組織の大事な役割だが、県外の評価機関を認証していな い都道府県組織が 17 県ある。このため、全国的に評価機関が減少傾向にあるなか、県内 で評価できる評価機関が限られる状況が生じている。また、県ごとに認証手続きが求め られることで、評価機関の活動が制限されるという声も上がっている。⇒表 3 令和 2 年度都道府県別受審数
〇都道府県推進組織からも、「評価調査者の資質向上、評価機関の支援・育成については重 要な課題であると意識しているが、現状はそこまで手が回らない」「職員は別の業務と兼任になっており、十分に事業を推進するための予算、人員が確保できない」等の意見が 寄せられている

(4)評価機関・評価調査者の課題
〇評価機関に関する大きな課題は、評価機関が福祉サービス第三者評価事業を安定的に運 営できる仕組みになっていないこと。つまり、受審料だけでは評価機関としてなりたつ仕組みとなっておらず、制度創設時から責務として位置づけ、取り組んできた都道府県社会福祉協議会からも赤字続きの事業であることから、近年、撤退が続いている。

〇福祉サービス第三者評価の実施にかかる実務の流れ⇒評価実施方法や内容、スケジュール等に関する説明、契約の締結から自己評価や必要書類等の事前分析、訪問調査(見学、利用者へのヒアリング等)、評価結果の取りまとめ(評価機関内での合議、事業所への評価結果の説明や経営者・職員への結果説明)、公表までさまざまな作業がある。 そのため、実態としては1件の評価にかかる期間として 4 か月〜半年を要する。⇒図4 認証辞退件数の推移。図5 評価機関数の推移。表4令和3(2021)年4月1日時点の評価機関数 P11参照。
〇評価の実施→2〜3 名のチームで担当し、評価にあたっては評価機関内で合議を複数回行い決定している。このような評価を実施するにあたっては、時間や費用がかかるが、現状ではそれに見合った受審料を設定することができない、という声が多くの評価機関等から上がっている。
〇社会的養護関係施設の第三者評価に関しては受審料補助が 31 万 4000 円(消費税込み)、 保育所等に対しては 15 万円が義務的経費として積算されているが、この金額内で評価を 受けたいという事業所が多く、また実際に評価機関を決める際には相見積もりをする関係で受審料を安く設定する評価機関に流れる傾向がある。しかし、安く価格設定をする評価機関が実際に評価をするにあたって適切な評価体制 やプロセスが実施できるかというと課題もあることから、評価を受けた結果、各施設種 別の相違点等を理解していない等により事業所の信頼を失うような評価機関もある。⇒図 6 福祉サービス第三者評価事業の流れ。
〇福祉関連分野以外の事業からの参入もあり、福祉事業への理解が十分でない評価機関も ある。こうした評価機関が評価に行った結果、受審した福祉施設・事業者から信頼を得られず、次回の受審を控えることにもつながっている。 また、評価調査者⇒福祉サービス第三者評価事業が始まった頃から評価調査者として活動している人が多く、高齢化が課題になっている。第三者評価事業がビジネスとしてなりたっていないなかで、新たな評価調査者を確保し育成する仕組みをもって いる評価機関が少ないことも課題である。
〇受審する事業所が少ないため、評価調査者が評価に行く機会が限られ、経験を積むこと ができない。また研修を開催しても、受講者が少なく、評価調査者の質の向上を図るこ とが難しいという課題もある。 〇評価調査者の資格要件が「組織運営管理業務を 3 年以上経験している者、又はこれと同 等の能力を有していると認められる者」と「福祉、医療、保健分野の有資格者若しくは 学識経験者で、当該業務を 3 年以上経験している者、又はこれと同等の能力を有してい ると認められる者」とされているが、実質上、誰でも評価調査者になることができる仕 組みであることも課題である。 評価機関が専門的・客観的に評価を行うためには、評価指導者・評価者の専門性の向 上が必要である。

(5)評価結果の公表に関する課題
〇評価結果は、現在、WAM-NET(独立行政法人福祉医療機構)で公表されるとともに、都道府 県推進組織のホームページ等で公表。社会的養護関係施設の第三者評価結果⇒全国推進組織である全国社会福祉協議会で公表。公表も含め義務化されている社会的養護関係施設以外の施設⇒公表は任意、公表内容についても都道府県推進組織によって異なっている。
〇WAM-NET や全社協のホームページでは、基本的には評価結果のすべてを公表しており、 利用者の選択に資する内容になっているかというと課題がある状況と言わざるを得ない。

次回も続き「3.今後の福祉サービス第三者評価事業の方向性」からです。

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