労働基準法における「労働者」に関する研究会 第5回資料 [2026年03月04日(Wed)]
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労働基準法における「労働者」に関する研究会 第5回資料(令和8年1月28日)
議題 労働基準法における「労働者」について https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_69481.html ◎資料No.1これまでの議論の整理(案) 労働基準法における「労働者」に関する研究会 これまでの議論の整理(案) 第1 はじめに 第2 これまでの議論の整理 1 国内、諸外国における労働者性判断にかかわる現状 (1) 国内の状況 (2) 諸外国における動向 ア 概要 イ 分析対象国等の状況@ドイツ→ ドイツにおいては、「労働者」は全ての法律で共通する統一的な概念であると 理解されており、また、労働者と自営業者の中間概念である「労働者類似の者」 が実定法上定められている。 労働法規の一般的な適用対象としての「労働者」は、人的従属性によって特徴 づけられており、業務に対する諾否の自由の有無や時間的・場所的拘束性、具体 的指揮監督の程度、非代替性といった判断要素に基づいて判断されている。2017 年4月に施行された民法典 611a 条では、これまでの判例法理を明文化する形で労 働契約の定義が定められ、具体的な判断基準が明文化されているが、その中で、 「組織への組み入れ」が挙げられており、ドイツにおいては、直接的な指揮命令 がないとしても、その組織の意向に従って動くことが何らかの形でプログラムさ れていることが、人的従属性を示す要素の1つとして理解されている。 「労働者類似の者」は、法律によって異なる相対的な概念であり、保護の観点 から適用される規定は限定的で、個別法の中の個別の条項が適用されるに過ぎない。「労働者類似の者」の要件について、例えば、労働協約法第 12a 条 1 項 1 号 においては、「経済的従属性」及び「労働者と同程度の社会的保護の必要性」が 含まれ、「経済的従属性」とは、「生業からの全収入の半分(マスメディアにおい ては 3 分の 1)を一人の者から得れば足りる」とされている。 プラットフォーム就業者に関する裁判例の状況としては、2020 年 12 月1日の Crowdworker 事件連邦労働裁判所判決で、小売業とガソリンスタンドの商品販売 の管理を行うプラットフォームによって、多数に細分化された顧客の注文のあっ せんを受けるクラウドワーカーの労働者性を肯定する判断が出ており、この中で は、アプリシステムによる事実上の拘束(アプリによる業務割当の仕組みによっ て、事業者のニーズに応じた行動を取るよう誘導がなされていること)を人的従 属性を基礎づける一要素として考慮に入れて判断している。 ウ 分析対象国等の状況 Aフランス→労働法と社会保障法で統一的に労働者概念が定められており、労働契約の当事 者と理解されている。 労働者概念は「法的従属性」を中核とする労働契約概念によって画定され、そ の判断基準として、1996 年の破毀院 Société Générale 判決は、「従属関係は、指 揮命令、労務提供の監督、違反行為の制裁を行う権限をもつ使用者の権威の下で 労務提供が行われることによって位置づけられる。事業組織のなかで労働が行わ れることは、その労務提供の条件を使用者が一方的に決定している場合には、従 属関係を示す一要素となりうる」と述べている。このように、「法的従属性」を 基本的要素としつつ、経済的従属性を示す指標となりうる「事業組織への組み入 れ」や「労働条件の一方的決定」等の事情も、判断要素として部分的に考慮して いる。 一方で、「法的従属性」の基本的要素としていた指揮命令、労務提供の監督、 違反行為の制裁を示す諸事情にカテゴライズせずに、「経済的従属性」を示す指 標となりうる諸要素を考慮して労働者性を判断している判決もある。 判例の動向としては、「法的従属性」を中心とした労働契約概念自体は維持し ているが、20 世紀末から、@契約形態よりも実態を重視する傾向と、A経済的従 属性を示す要素(「事業組織への組み入れ」、「労働条件の一方的決定」)も考慮す る傾向が見られる。 プラットフォーム就業者については、当初はアプリに接続する時間帯を就業者 自身が選択できることを重視して、労働契約性・労働者性を否定する裁判例が多 かったが、2018 年の破毀院 Take Eat Easy 判決と 2020 年の破毀院 Uber 判決は、 これを転換し、プラットフォーム就業者の労働契約性を肯定している。ここでは、 GPS での就業の把握と指示、アクセス停止等の制裁の付与という「法的従属性」 を示す事情に加えて、顧客とのアプリを介さない個別契約の禁止、報酬の一方的 決定などの経済的依存性を示す諸事情が考慮されている。 なお、2025 年 7 月 9 日の破毀院 Uber 判決では、競業制限がなく顧客との関係構 築の可能性が開かれていたこと、運転手はプラットフォームからの乗車提案を拒 否することや運送ルートの決定を自らの判断で行うことができたこと、運転手が 3 回乗車提案を拒否した場合のアプリからの自動的な切断措置については、即時 に再接続できるため、運転手への制裁とまではいえないこと、運転手は乗車提案 があった際に当該運送の(費用控除後の)最低運賃、乗車までの時間・距離、当 該運送の時間・距離を確認できることなど、2019 年移動オリエンテーション法、 2022 年オルドナンスによる運送法典など、立法措置による運用変更等を理由とし て、労働者性が否定された。 また、フランスにおいては、電子的プラットフォームが、それを利用してサービスを提供する独立自営業者が任意で労災保険に加入する場合に一定の保険料負 担を行う等の社会的責任を負うとするもの(2016 年労働改革法)、一部のプラッ トフォーム就業者に対プラットフォームの社会的責任について、就業条件等を記 載した社会憲章を、サービス提供者の意見を聴取した上で作成し、行政官庁に届 け出てその許可を得、インターネットで公表し契約に添付することができるとす るもの(2019 年移動オリエンテーション法)など、プラットフォーム就業者との 関係でプラットフォーム事業者に一定の責務を課す立法措置が試みられている状 況が見られる。 エ 分析対象国等の状況 Bイギリス →イギリスの現行の労働法規制の対象者として、コモン・ロー(判例法)が定義 する雇用契約を締結したものである employee と、制定法が定義する worker の2 つの概念があり、それぞれの法令において適用対象を明記している。employee を 適用対象とする法律によって付与されている権利には、解雇規制など、一定の勤 続(雇用の継続)要件が課されているものがある。 employee については、@契約の成立要件としての義務の相互性、A使用者によ るコントロール(指揮命令)、B契約条項が雇用契約と整合的であることという 3つの要件によって判断されており、@・Aの要件を中心に、Bは補助的なもの とされている。 worker は制定法上の概念で、一定の契約により定義され、例えば雇用権利法に おいて、@契約の成立要件としての義務の相互性、A本人自身による労務提供B契約の他方当事者が事業施行者の顧客の地位にないという顧客要件(自律的な サービス提供の有無を意味し、真に自営業者である者に対する適用を除外するも の)という3つの要件によって判断されている。 両者を比較すると、worker のほうが広い概念となっており、employee の判断で は指揮命令が欠くことのできないものと位置づけられ、worker の判断では労務の 非代替性と自律的なサービス提供の有無が同様に位置づけられる一方で、最高裁 判決は、制定法の文言が第一であることを確認し、経済的従属性などの(制定法 の文言から読み取れない)基準を、解釈で判断要素に加えることについて否定的 な見解が示されている。 プラットフォーム就業者に関する裁判例として、worker 該当性が争われた 2021 年の Uber 事件の最高裁判決があり、そこでは、ライドシェアの運転手に関して、 worker の該当性が肯定されている。この判決では、報酬や就労条件がプラットフ ォーム事業者によって決定されていたこと、アプリへのログイン後に運送リクエ ストに応じて運送業務を受託することに関する制約があったこと、サービス提供 について相当程度の指揮監督を行っていたことなどをコントロール(指揮命令)の要素として認定・評価して、worker の該当性を肯定しているほか、契約書面の 位置づけ・解釈の在り方について、契約書面に縛られず、契約締結以降の労働の 実態を確認するアプローチも整理されている。 一方で、2023 年の Deliveroo 事件においては、レストランの料理を配達する配 達員とアプリの運営会社との関係について、労務提供が非代替性(本人自身によ る労務提供)を欠くとして worker 該当性を否定するという判断がなされるなど、 事例に応じた判断が見られる状況となっている。 オ 分析対象国等の状況 Cアメリカ合衆国 →アメリカ合衆国については、全体像として、最低賃金規制や割増賃金規制など を内容とする公正労働基準法、団結権等の保障などを行う全国労働関係法、社会 保障法などにおいて、法の適用対象を employee としているが、その概念と判断基 準は各法令の趣旨・目的により異なり得る相対的なものとされている。 労働者概念のうち、全国労働関係法などの労働者性の判断基準として、判例で は管理権テストが採用されており、業務遂行の具体的方法についての管理権限の 有無を重視している。 一方で、公正労働基準法における労働者性については、判例では全国労働関係 法などの労働者よりも広い概念と解されており、判断基準としては、経済的実態 テストが採用されている。経済的実態テストは、一般的には役務を提供する事業 に依存しているか否か、すなわち経済的に依存しているかを検討して労働者性を 判断するものとなっている。 全国労働関係法の下における労働者性の判断に関しては、管理権テストによる ことを前提としつつ、損益についての起業家的機会の有無(昭和 60 年報告におけ る「事業者性の有無」に近い要素)の位置づけなどをめぐり、判断の変遷が見ら れる。 一方で、公正労働基準法の下における労働者性の判断に関しては、経済的実態 テストによることは前提としつつ、その具体的な判断要素に関しては、同法の履 行を担っている連邦労働省賃金時間部による考え方の変遷が見られる。 バイデン政権下では、それまでよりも労働者性を広く解する考え方を連邦規則 として示していたところ、第2次トランプ政権への移行後、これを適用せず、従 前の解釈とすることを決定するなど、行政による判断基準が政権によって大きく 変更される状況となっている。このような解釈の変遷の一方で、ライドシェアの運転手のようなギグワーカー の労働者性について、判例の立場は固まっていない状況にある。 カリフォルニア州などの州法では、プラットフォーム就業者などを対象として、 一定の要件を使用者側が立証しない限り、労働者と判断する基準を立法等で採用 するものがある(いわゆる ABC テスト、AB5)。なお、職種によっては、この基準 をそのまま適用すると真正な独立契約者も労働者と判断されうるため、適用除外 対象の業務を 109 挙げている状況にある。 他方で、カリフォルニア州の Proposition22 など、アプリを通じてライドシェ アやフードデリバリーの業務に従事するギグ・ワーカーを、最低報酬などの一定 の要件を満たす場合、プラットフォーム事業者との関係で、独立契約者と明確に 位置付けることで、労働者ではなく独立した就業者として一定の保護、就業条件 の改善を行うものもある。 カ 分析対象国等の状況 DEU→2024 年 10 月 23 日にプラットフォーム就業における就業条件改善に関する指令 が正式に採択され、EU 加盟国は、2026 年 12 月2日までにこの指令を遵守するために必要な法律等を発効させることが求められている。 本指令は、プラットフォーム作業従事者に対する正しい雇用上の地位と権利の 保障等を目的としており、 ・ 「デジタル労働プラットフォーム」の定義を、「(a) 顧客に対し、Web サイト やモバイルアプリケーションなどの電子的手段を通じて、遠隔地からサービス を提供する事業を行うもの(部分的なものを含む)、(b) サービスが、顧客か らの注文に応じて提供されること、(c) 作業がオンラインで行われるか特定の 場所で行われるかに関係なく、代金と引き換えに人が行う作業を組織化する事 業であること、(d) 作業従事者の組織化に自動化された監視システムまたは意 思決定システムが使用されていることの要件をすべて満たすサービスを提供す る自然人又は法人」、 ・ 「プラットフォーム労働者」の定義を「プラットフォーム作業従事者のう ち、欧州司法裁判所の判例法を考慮して、加盟国で施行されている法律、労働 協約、または慣行によって定義される雇用契約を結んでいるか、または実態上 雇用関係があるとみなされる者」としたうえで、 ・ デジタル労働プラットフォームと、そのプラットフォーム作業を行う者との 間の契約関係は、欧州司法裁判所の判例法を考慮し、各国内法、労働協約、加 盟国で有効な慣行に従って、支配と指揮を含む要素が見いだされる場合、法的 に雇用関係であると推定され、法的推定に異議がある場合、挙証責任はプラッ トフォーム側に課される(第5条(1))としており、加盟国は、プラットフォ ーム作業従事者の利益となる手続の円滑化のため、雇用の法的推定(推定を否 定する場合、プラットフォーム側が反証しなければならない)を確立すること が求められている。 今回の調査対象国においては、現時点では、具体的な法案提出などの動きは見 られておらず、今後、具体的な動きが現れてくるものと考えられる。 2 昭和 60 年報告に示された判断要素の分析 (1)「使用従属性」 ア 「指揮監督下の労働」に関する判断基準 (ア)仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無 (イ)業務遂行上の指揮監督の有無 (ウ)拘束性の有無 (エ)代替性の有無(指揮監督関係を補強する要素) イ 報酬の労務対償性に関する判断基準 (2)「労働者性」の判断を補強する要素 ア 事業者性の有無 イ 専属性の程度 ウ その他 3 本研究会にてこれまでに個別に議論した点 (1)労働者性判断の枠組及び要素の重み付けについて (2)「通常注文者が行う程度の指示等」及び「業務の性質等から必然的に勤務場所 及び勤務時間が指定される場合」について (3)「事業組織への組み入れ」、「契約内容の一方的・定型的決定等」などに関する 事情について ア 「事業組織への組み入れ」等 イ 「契約内容の一方的・定型的決定」 (4)昭和 60 年報告では判断要素として個別に挙げられていない事情(「未分類」の 事情)について ア 労働契約により働く者との比較に関する事情 イ 契約に至った経緯に関する事情 4 その他論点 (1)行政における労働者性判断 (2)労働者性判断の予見可能性を高めるための取組 ア 労働者性推定規定と立証責任転換 イ その他予見可能性を高める取組 第3 今後の研究について ◎資料No.2 水町構成員提出資料 ○この文書は、フランスの労働法と社会保障法の歴史、変容、プラットフォーム型就業の法的評価について論じている。 ○労働契約の歴史と概念↓ ・フランス革命(1791年)で「職業の自由」が保障され、人的従属性が禁止された。 ・1804年の民法典では、「奉公人」と「仕事請負人」の契約が規定された。 ・19世紀には、「労働契約」が人的従属性を中心に形成され、支配関係の否定と平等性が重視された。 ・1931年のバードゥ判決で、「人的従属性」が労働契約の核心と明確化された。 ・近年は、「経済的従属性」の再評価と、実態に基づく判断への移行が進む。 ○「人的従属性」と「経済的従属性」の位置づけ↓ ・人的従属性は、指揮命令・監督・制裁の存在により判断される。 ・経済的従属性は、事業組織への組入れや固有の顧客保持、料金の一方的決定により示される。 ・近年の判例では、両者は相互補完的とされ、強い経済的従属性は人的従属性を弱めず、逆も同様。 ・2016年のFormacad判決では、経済的従属性も労働契約性の判断要素とされた。 ・労働法の存在意義は、人的従属性と経済的従属性の二重性に基づく。 ○プラットフォーム型就業の法的評価↓ ・プラットフォーム・ビジネスは、独立自営業者と位置づけられながら事業に組み入れられる。 ・2018年の破毀院判決は、就業者の雇用労働者性を否定していた判例を破棄し、肯定へと修正。 ・判決は、位置情報把握システムや制裁システム、経済的従属性を重視し、人的従属性を実態に基づき判断。 ・2019年のウーバー判決では、タクシー運転手の雇用労働者性を肯定し、実態に即した判断を示した。 ・2020年の破毀院判決も、指揮命令や制裁、事業組入れを根拠に雇用労働者性を認めた。 ・これらの判決は、従来の人的従属性に加え、経済的従属性も重要な判断要素として位置づけている。 ○日本への示唆と今後の展望↓ ・日本の労働法は人的従属性を中心に判断されているが、社会変化に対応不足。 ・フランスの判例は、実態重視と経済的従属性の評価を示し、日本の法体系に新たな視点を提供。 ・今後は、プラットフォーム型就業の法的規制や社会保障のあり方について議論が必要となる。 次回は新たに「こども・若者参画及び意見反映専門委員会(第12回)」からです。 |



