第24回社会保障審議会年金部会 [2025年01月25日(Sat)]
第24回社会保障審議会年金部会(令和6年12月24日)
議事 社会保障審議会年金部会における議論の整理(案)について https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/nenkin_20241224.html U 次期年金制度改革等 6 高齢期より前の遺族厚生年金の見直し等 (検討に当たっての問題意識)→〇 遺族年金制度は、家計を支える者が死亡した場合に、残された遺族の所得保障を行うものであり、受給者の状況を見ると、高齢期における夫婦のどちらかが死亡して遺族となった受給者と、高齢期より前の死別によって遺族となった受給者に大別され、前者の受給者数は多く、後者は少ない。 後者の場合は、養育する子がいるケースと、養育する子がいないケースがあり、養育する子がいる場合には男性も女性もともに子の養育という責任を負うため、どちらが死亡しても保障の必要性は高いが、養育する子がいない 場合には、保障の必要性の観点から子がいる場合とは異なる取り扱いとなっている。 〇 現行制度のうち遺族基礎年金については、消費税率引上げによる増収分を 活用して 2014(平成 26)年 4 月から支給対象を従前の母子家庭から父子家 庭へと拡大する見直しが行われた。しかし、遺族厚生年金では、制度の成り 立ちから、依然として、男性が主たる家計の担い手であるという考え方を内 包した制度設計が存在している。 具体的には、20 代から 50 代に死別した子のない配偶者に対する遺族厚生年金は、死別時に 30 歳未満の妻には有期給付、30 歳以上の妻には期限の定めのない終身の給付を行っている。一方で、死別時に 55 歳未満の夫には遺族 厚生年金の受給権が発生しない。加えて、受給権取得当時の年齢が 40 歳以上 65 歳未満である中高齢の寡婦のみを対象とする加算(中高齢寡婦加算)があ るなど、制度上の男女差が存在している。 〇 遺族年金については、「社会保障審議会年金部会における議論の整理」(平 成 27 年1月 21 日)において「男女がともに就労することが一般化していく(中略)中で、遺族年金についても、社会の変化に合わせて制度を見直して いくことが必要」とされており、本部会では、高齢期の前にあたる 20 代か ら 50 代までの遺族を念頭に、制度上の男女差の解消に向けた制度の在り方 等について検討を行った。 @ 20 代から 50 代の子のない配偶者の遺族厚生年金 (共働きが一般化することを前提とした社会経済状況への対応)→ ○ 年齢階級別の女性の就業率の推移を見ると、40 歳から 59 歳までの中高齢期における就業率は、2040(令和 22)年においていずれの世代も 80%台後半と見込まれており、2023(令和5)年における男性の就業率と遜色ない状況といえる。また、若い世代ほど高齢期まで各年齢層において高い就業率を維持しており、この傾向が今後も続くことが見込まれる。 ○ 令和5年の男女の賃金水準を見ると、40 歳未満であれば男女差が概ね 80%の範囲に収まっている。また、平成 14 年と令和5年を比べると 30 歳か ら 64 歳までの年代の改善度が比較的高く、今後も中高齢期の賃金格差の縮小が見込まれる。 ○ 世帯構成の推移を見ると、近年は共働き世帯が増加し、男性雇用者と無業 の妻からなるいわゆる専業主婦世帯は減少し続けている。 ○ これらの状況を見ると、年金制度の創設期から長期間が経過し、20 代から 50 代の女性の就業率が増加していることから、男性が主たる生計維持者であ ることを前提とした社会経済状況から変化していると考えられる。 (見直しの方向性)→ ○ 遺族厚生年金において、男性が主たる生計維持者であることを前提とした 考え方を改め、女性の就業の進展、共働き世帯の増加等の社会経済状況の変 化や制度上の男女差を解消していく観点から、20 代から 50 代に死別した子 のない配偶者に対する遺族厚生年金の給付について時間をかけながら段階的 に見直すこととし、事務局から提案があった「A 20 代から 50 代の子のある配偶者の遺族厚生年金」の内容も含めた見直し案について概ね意見が一致した。 なお、施行日前に既に受給権が発生している場合や見直しの対象外である 60 歳以上で死別した場合の遺族厚生年金は、現行制度の仕組みを維持するべきである。 ○ その際、見直し内容について丁寧な説明を心掛ける必要があるという意見 や男女間賃金格差是正や遺族の就労支援等の取組を併せて進めていく必要が あるといった意見、まずは男性の年齢要件を撤廃し、有期給付化は遺族の就 業状況等を踏まえて慎重に検討すべきという意見、法的に当然公的年金に波 及するものではないものの、同性パートナーに係る犯罪被害者等給付金の支 給に関する最高裁判決の状況を注視する必要があるといった意見、制度の詳 細については引き続き丁寧に検討する必要があるといった意見などがあっ た。 (具体的な見直し内容)→○ 20 代から 50 代に死別した子のない配偶者に対する遺族厚生年金を、配偶者の死亡といった生活状況の激変に際し、生活を再建することを目的とする 給付と位置づけ、男女とも原則5年間の有期給付として年齢要件に係る男女差を解消する。 ただし、様々な事情により十分な生活再建に至らず、引き続き遺族厚生年 金による生活保障の必要性が高い状況にある者への支援の必要性の観点から、所得状況や障害の状態によっては、原則5年間の有期給付が終了した以 降も最長 65 歳到達まで継続して給付(継続給付)を受給できることとする。 継続給付については、その趣旨を勘案し、後述する有期給付加算を含めた 額を基本とし、所得の状況に応じて支給額を調整するが、調整に当たっては、収入と支給額の合計額が緩やかに上昇する仕組みとする。 ○ 男女差の解消に伴い、死別時に 60 歳未満の男性は施行時点から新たに有 期給付の受給が可能となる。女性は、30 歳未満という現行の有期給付の対象 年齢を段階的に引き上げることとし、施行時点では既に男女間の賃金水準の 差が一定程度縮小している 40 歳未満を対象年齢とする。その後は、現に存 在する男女の就労環境の違いを考慮するとともに、現行制度を前提に生活設 計している者に配慮する観点から、20 年程度の時間をかけて 60 歳未満まで 引き上げる。 (有期給付化に伴う配慮措置)→○ 有期給付の生活再建という観点から、保障を手厚くするため、配偶者の死 亡に伴う年金記録分割の導入(死亡分割)、生計維持要件のうち収入要件の 撤廃、有期給付加算の創設を行う。 ○ 死亡分割は、離婚時の年金記録分割の仕組み(離婚時分割)と同様に、死亡者の婚姻期間における厚生年金への加入期間の標準報酬月額等を分割する ことで、残された遺族の将来の老齢厚生年金を増加させる仕組みであり、有 期給付の遺族厚生年金を受給後に失権した者を対象とする。 ○ これは、現行の遺族厚生年金が、30 歳以上で受給権の発生した妻に対して は期限の定めなく支給されており、死亡者の厚生年金の加入記録に基づき遺 族の高齢期も含めた生涯にわたる保障を行っていることに着目し、有期給付 の拡大に伴い、死別後に婚姻期間中の死亡者の厚生年金加入に対する遺族の寄与・貢献を評価し、高齢期の年金受給額の改善を図ることを目的として導 入するものである。 ○ 離婚時分割は、年金記録は個人に属するものであって、民法上の財産分与で分割ができないことに替わる措置として、婚姻期間中における元配偶者の 厚生年金加入に対する被分割者の寄与・貢献を評価し、年金記録の分割の根 拠となる規定を年金法上に個別に定めている。 婚姻期間中における元配偶者の厚生年金加入への寄与・貢献への評価は、 離別か死別かの違いで変わるものではないことから、離婚時分割の考え方を 死別にも拡張して、配偶者の死亡に伴う年金記録分割を新たに定めることと する。 死亡分割においても、第3号被保険者である期間における分割割合は、離 婚時分割に倣って2分の1とする。一方で、双方が厚生年金に加入していた 婚姻期間における分割割合は、離婚時分割と異なり、元配偶者の死亡により 当事者間で決めることができないという特有の事情を考慮し、2分の1で合 意したものと擬制する。 なお、有期給付の遺族厚生年金は死別後の一時的給付として生活の再建が 目的、死亡分割は老齢厚生年金の増額のための手段で高齢期の所得保障が目的であり、両者は目的と役割がそれぞれ異なることから、支給期間が重複しない限りは、年金記録の「二重利用」には当たらないと考えられる。 ○ 有期給付の遺族厚生年金に係る収入要件の撤廃については、配偶者との死 別による生活状況の激変や、有期給付の目的である被保険者の死亡による収 入減少を受けた場合の生活再建の必要性は収入の多寡にかかわらず存在する ことに着目して行う。 ○ 有期給付加算については、現行制度の遺族厚生年金よりも金額を充実さ せ、死亡者の老齢厚生年金の4分の1相当額を遺族厚生年金に加算する。 A 20 代から 50 代の子のある配偶者の遺族厚生年金→○ 18 歳未満の子を養育している配偶者については、子が 18 歳に到達する年 度末までの給付内容は現行通りであるが、それ以降も引き続き養育費用が必 要な場合や、本格的な就労に向けた準備期間となる場合が想定される。 そのため、現行制度においても、妻が 30 歳未満に遺族基礎年金を失権した 場合にはその後5年間の有期給付の遺族厚生年金を受給できることを踏襲する形で、例えば子が 18 歳に到達して遺族基礎年金が失権した後も原則5年間 の有期給付を受給できることとし、所得状況や障害の状態に応じてはさらに その後の継続給付の受給も可能とする。 ○ 女性の就業の進展、共働き世帯の増加等の社会経済状況の変化や制度上の 男女差を解消していく観点から、女性のみが対象となっている中高齢寡婦加 算については、将来に向かって十分な時間をかけて加算措置を終了する。 なお、見直しに当たっては激変緩和の観点から経過措置を設けることが適 当であり、具体的には、施行日前に加算を受給している者は対象とせず、新 規に加算が発生する場合のみを対象にし、十分な時間をかけて段階的に逓減 させるとともに、受け取り始めた年金額は受け取り終了まで変化させないこ ととする。 B 遺族基礎年金(国民年金) (現行制度と見直しの方向性)→ ○ 遺族基礎年金は子を抱える配偶者や自ら生計を維持することができない子 に対し、生活の安定を図ることを目的とする給付であるが、現行制度におい て子に対する遺族基礎年金は、父又は母と生計を同じくするときは、その父 又は母が遺族基礎年金の受給権を有していない場合でも、支給停止されてい る。 たとえば、離婚後に親の一方が亡くなり、その後元配偶者である親に引き 取られた場合には子に対する遺族基礎年金は支給停止される。 ○ 離婚の増加などで子を取り巻く家庭環境は変化しており、子自身の選択に よらない事情で遺族基礎年金が支給停止されることは、子の生活の安定を図 るという遺族基礎年金の目的からみて適切ではない。 現行の遺族厚生年金ではこのような支給停止の規定はなく、遺族基礎年金 について子が置かれている状況によって支給が停止される不均衡を解消する ため、生計を同じくする父又は母があることによる支給停止規定を見直すこ とで概ね意見は一致した。 ○ その他、国民年金には、国民年金保険料の掛け捨て防止及び老齢基礎年金 支給開始前の寡婦に対する生活保障の観点から、所定の要件を満たす夫の死 亡に際して、残された妻が国民年金の被保険者期間が終了する 60 歳から、老齢基礎年金の受給開始年齢である 65 歳到達までの5年間を保障するつな ぎの給付として創設された寡婦年金が存在する。 寡婦年金については、男女差を解消する観点から見直しが必要であるとの 意見がある一方で、寡婦年金の支給期間である 60 代前半の生活実態は様々であると考えられ、60 代前半の生活実態を踏まえて遺族に対する保障の在り方について更なる検討が必要であることから、寡婦年金の取扱いについては、将来的な廃止を含めて引き続き検討事項とする。併せて、寡婦年金と選 択関係にある国民年金の死亡一時金の取扱いについても検討事項とする。 7 年金制度における子に係る加算等 (現行制度と見直しの方向性)→ ○ 公的年金制度においては、子や配偶者のいる世帯に対して、生活保障を目 的としてその扶養の実態に着目し、子や配偶者に係る加算を行っている。 子に係る加算としては、障害基礎年金・遺族基礎年金の子に係る加算や老 齢厚生年金の加給年金があるが、その金額は子の人数に応じて異なり、第3 子以降の子への加算額は第1子・第2子への加算額に比べて少ない。 ○ 近年、子ども・子育て支援に関する施策を充実する観点から、児童手当や 児童扶養手当等子どもへの給付の拡充が図られている。賦課方式で運営され ている年金制度にとって、次世代の育成は制度の根幹を維持するために必要 であり、次代の社会を担う子どもの育ちを支援し、子を持つ年金受給者の保 障を支援する観点から取組を強化する方向性については概ね意見が一致し た。なお、基礎年金の給付水準の維持が重要な中で、追加の給付拡充を行う こと、また、特定の条件に当てはまる子のみを対象とする対応であることに 違和感を示す意見もあった。 (具体的な取組)→ ○ 児童扶養手当等の近接する制度の状況を考慮し、多子世帯への支援を強化 する観点から、公的年金制度における子に係る加算について、第1子・第2 子と同額となるまで第3子以降の支給額を増額し、子の人数に関わらず一律 の給付とすることについては意見が一致した。なお、年金給付への加算とい う方法では、新たな仕組みが、加給年金と同様に、繰下げ受給の阻害になる という意見もあった。 ○ 加算額について、第1子・第2子を含め全体として子に係る加算額を引き 上げること、これまで加算対象ではなかった障害厚生年金や遺族厚生年金、 老齢基礎年金についても対象を拡大することについては、賛成の意見があっ た一方で、年金制度ではなく子ども・子育て支援施策において対応すべきで はないかといった両制度の役割分担の観点からの慎重な意見や財政影響も踏 まえて検討すべきという意見もあった。 その他、子に係る加算の対象となる子について国内居住要件を設けること については概ね意見が一致したが、子の留学や親の海外赴任についても留意 するべきという意見があった。 (配偶者に係る加給年金)→○ 老齢厚生年金における配偶者に係る加給年金について、社会状況の変化等 によりその役割が縮小していることを踏まえ、将来的な廃止も含めて見直す方向性については概ね意見が一致した。今回の改正では、新たに対象となる 者の支給額を見直すこととするが、加給年金を前提に生活している者への配 慮から、現在の受給者は見直しの対象としないことが適当である。 8 その他の制度改正事項→○ 上記の事項以外にも、以下の改正を行うことで概ね意見は一致した。 @ 障害年金の支給要件のうち、直近1年間に保険料の未納がなければよいと する特例について、障害年金の受給につながるケースが存在していることや 今後の取扱いを検討するに当たって丁寧に実態を把握する必要があること を踏まえ、引き続き適用できるよう、時限措置の 10 年延長を行う。 A 国民年金の納付猶予制度について、多くの者が利用していることから同じ 年齢を対象として時限措置の5年延長を行う。今後、利用状況や追納率等の 実態を丁寧に把握した上で、引き続き、制度の在り方について検討する必要 がある。 B 任意加入の特例(高齢任意加入)について、引き続き保険料納付意欲があ る者の年金受給の途を開くため、年金受給権確保の観点から、新たに 65 歳 に到達する世代も利用できるよう措置することで本措置の延長を行う。 C 離婚時分割の請求期限について、民法上の離婚時の財産分与に係る除斥期 間が、離婚後2年間から5年間に伸長されることに伴い、離婚後2年間から 5年間に伸長する。 D 遺族厚生年金の受給権者の老齢年金について、高齢者の就労が進展し、今後繰下げ制度の利用者が増える可能性があることを踏まえて、年金を増額させたいという受給者の選択を阻害しない観点から、一定の条件を満たす場合 において繰下げ申出を認める。 E 脱退一時金制度について、将来の年金受給に結び付けやすくするため、再 入国の許可を受けて出国した外国人は、当該許可の有効期間内は脱退一時金を請求できないこととする。また、外国人の滞在期間の長期化や入管法等の 改正法により育成就労制度が創設されることを踏まえ、支給上限年数を現行の5年から8年に見直す。 9 今後検討すべき残された課題 @ 基礎年金の拠出期間の延長(45 年化)→○ 基礎年金の拠出期間については、その前身である国民年金制度が 1961(昭 和 36)年に創設された時に 20 歳から 60 歳までと定められ、その後 60 年以上 変更されていない。この間、平均寿命の延伸や 60 代前半の就業率の上昇など、 社会経済状況は大きく変化している。 基礎年金の拠出期間の延長については、今回の財政検証及びオプション試算の結果では全体的に所得代替率が改善したことや、基礎年金のマクロ経済スラ イドの早期終了や被用者保険の適用拡大など基礎年金の給付水準の向上に資 する他の事項も検討していることから、次期年金制度改革においては、国民に 保険料負担を追加で求める基礎年金の保険料拠出期間(現行 40 年)の5年延長は行わないこととし、本部会において詳細な制度設計については議論しなか った。 これに対して、実現の優先順位について理解を示す意見や将来的な実現を求 める意見があった。 健康寿命の延伸や高齢者の就労進展等を踏まえると、基礎年金の拠出期間延 長は、基礎年金の給付水準の向上を確保するために自然かつ有効で意義のある方策であると考えられる。引き続き、社会経済の状況などに応じて、議論を行うべきである。 なお、学生納付特例制度を利用した学生の追納率が低いことなどから基礎年金の拠出期間の始期についても見直しを検討するべきという意見もあった。 A 障害年金→○ 障害年金については、現時点で議論が求められる事項から中長期的な課題 に至るまで様々な論点がある。本部会では前者に着目して、事後重症の場合に障害認定日に遡って年金を支給するべきかどうかや、障害厚生年金における 初診日要件について検討したが、制度の見直しの検討には、制度上あるいは実 務上の観点から、以下の点を整理していく必要があると考える。 (1)拠出制年金における社会保険の原理との関係の整理 (2)様々な障害がある中で、障害の認定判断に客観性を担保しその認定判 断を画一的で公平なものとする必要性 (3)障害年金の目的や障害の認定基準のあり方と他の障害者施策との関連 の整理 障害年金については、こうした点を整理しつつ、社会経済状況や医療技術の 進歩等を踏まえながら、様々な課題について引き続き検討するべきである。 V 年金広報・年金教育 (年金広報のあり方)→○ 公的年金制度は老後生活の柱であり、国民生活の安心につながる重要な機 能を有している。しかし、特に若い世代には公的年金制度に対する漠然とした 不安があり、これが公的年金制度への信頼を揺るがすことにつながっている。 年金広報を行うに当たっては、将来どういう働き方をしたら年金がいくらも らえるかなど、具体的な数字で示すことで、現役世代の安心感の醸成につなげ ていくことが重要である。なお、様々な属性の方がいることを念頭に置きなが ら、動画や SNS の活用など、受け手に応じた情報発信の工夫が必要である。 ○ 公的年金制度に対する国民の不安を解消し、安心感の醸成につなげていく ためには、将来見通しを示すことが特に重要であり、令和6(2024)年財政検 証における年金額分布推計や公的年金シミュレーターは、国民一人一人が自 分の将来に対する予見可能性を高めるものとして重要な機能を持っている。 (公的年金シミュレーター)→ ○ 公的年金シミュレーターは、年金の仕組みや制度改正の内容を国民に分か りやすく周知すること、働き方などの変化に伴う年金額の変化を「見える化」 し、国民一人一人の生活設計を支援することを目的に 2022(令和4)年4月 から運用されており、徐々に国民に浸透しつつあるが、さらに多くの国民に活 用してもらうよう、積極的に周知していくべきである。○ この公的年金シミュレーターについて、現行の機能や特徴を維持しつつ、予見可能性をさらに高めるための改善や機能追加を検討すべきであり、障害年 金に加え、私的年金のうち、すべての国民年金被保険者が加入できる共通の制 度で統一的な表示が可能な iDeCo の試算機能を設ける方向性は賛成の意見が 多かった。また、iDeCo の拠出可能額をわかるようにすべきという意見もあっ た。 ○ 一方で、iDeCo の試算機能を設けるに当たっては、運用利回りをどう設定するか、賃金・物価で変動する公的年金と iDeCo の給付額をどう表示するかなど 課題も多いことから、誤解が生じないような画面構成にするなど慎重な検討 が必要である。 ○ また、民間企業のアイデアを活用することで、公的年金シミュレーターの利 用が広まり、国民の金融リテラシーも向上していくものと考えられることか ら、民間サービスとの連携もさらに進めていくべきである。 (多様なライフコースに応じた年金の給付水準の示し方)→○ 所得代替率の計算上、いわゆる「モデル年金」(夫の厚生年金と夫婦2人分 の基礎年金(満額)の合計額)をみることの必要性は確認された一方で、広報 上の対応として、世帯類型や賃金水準などに着目し、様々なパターンの年金額 をわかりやすく示す必要がある。 ○ 性別や年金制度の加入状況に応じた将来の年金の給付水準の示し方につい て、年金額分布推計を基にしていることも踏まえて、発信内容を精査しつつ、 実際の広報につなげていく。 (年金教育)→ ○ 平均寿命や健康寿命の延伸により、今の若い世代は人生が長くなるため、自 分のライフプランを考える上でも年金に関する知識を十分に提供する必要が あり、そのためには、子どもの頃から生涯を通じた年金教育の取組を進める必 要がある。 ○ 公的年金制度は、地域住民の日常生活を支える社会保障制度の一つであり、 国民一人ひとりが社会保障の担い手であるという当事者意識を持って制度に参加することが、公的年金制度の持続可能性を高め、さらには人々が助け合う地域共生社会の実現に向けても重要である。 このため、公的年金制度は、保険の考え方を基本として、老齢、障害、死亡 という生涯を通じた生活上のリスクに国民が連帯して備える支え合いの仕組 みであり、積立貯蓄ではないことや損得で論ずべきものではないことが広く理 解される必要がある。 このような観点から、社会保障制度の一環としての公的年金制度について、 支え合いの意義や役割と持続可能な制度の在り方、保険の考え方に基づく仕組 みや手続きの重要性の理解を促す年金教育を推進すべきである。 ○ そのためにまずは、子ども・若者が自分ごととして公的年金制度について考え探究することを契機として、地域共生社会を持続的に支える社会保障に広く関心を持ってもらうことが重要である。これまで年金局が学校などの教育 機関の協力を得て取り組んでいる「学生との年金対話集会」は若者の意見を聞 く貴重な機会であることから、この取組を継続・強化しつつ、地方厚生局や日 本年金機構と連携を強化することによって、全国各地でより多くの子ども・若 者が公的年金制度などについて考え、意見を述べることができる場を増やし ていくべきである。 (公的年金と私的年金の一体的な広報)→○ 本部会と企業年金・個人年金部会の合同開催における議論も踏まえて、公 的年金と私的年金の広報を一体的に行う教育動画や教育教材の開発、公表と いった取組が進められており、今後も、公的年金シミュレーターに iDeCo の 試算機能を付加することや、国民の高齢期の所得の確保に関する教育を進め る上でも金融経済教育推進機構や民間団体との連携を推進するなど、様々な 取組を進めていくべきである。 (年金制度改正に関する広報)→○ 年金制度改正に関する広報については、被用者保険の適用拡大など、今般 の見直しの内容に加え、年金制度の基本的な部分も併せて広報していくこと が重要である。制度改正の趣旨、対象者や施行時期などを国民にわかりやす く伝えていくとともに、事業主に対しても正確な情報発信に努めていくべき である。 W おわりに→○ 基礎年金制度導入以降の 40 年間の変化を見れば、平均寿命や健康寿命の延 伸、単身世帯や共働き世帯の増加といった家族構成やライフスタイルの多様化、女性・高齢者の就業の拡大、近年著しい物価や賃金の上昇、人手不足の深 刻化など、年金制度を取り巻く、社会や経済の状況は大きく変化してきた。 ○ そうした中で、今回の年金部会では、公的年金制度全般を議題として取り上 げ、被用者保険の適用拡大や在職老齢年金制度の見直しといった従来から継 続している検討事項のみならず、基礎年金のマクロ経済スライドの早期終了 といった年金財政の根幹に係わる事項や、遺族年金など従来は十分に議論で きていなかった事項についても取り扱った。 基礎年金の導入から 40 年という節目のタイミングで、こうした幅広い議論を通じて、多くの事項について、現状や課題、見直しの方向性を整理したこと には大きな意義がある。 ○ 一方で、年金制度は社会や経済の変化の影響を常に受け続ける。 これまでも、こうした変化に的確に対応するとともに、近年も5年に1度の タイミングで制度の持続可能性を確認するために実施する、年金財政の健康診 断ともいえる「財政検証」を実施した上で、必要な制度改正を重ねてきた。 今後も、社会・経済の状況を注視しながら不断の見直しを行う、このプロセ スを継続することで、老齢・障害・死別という所得の減少や喪失のリスクに対 応した経済基盤の安定を図り、国民に信頼・安心される年金制度の在り方を模 索し続ける必要がある。 次回も続き「参考資料1 年金制度改正の検討事項」からです。 |