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第13回「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」 [2023年06月10日(Sat)]
第13回「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」(令和5年5月 29 日)
≪議題≫(1)精神障害の労災認定の基準について (2)その他
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33235.html
◎【資料1】精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書(案)
T はじめに
1 検討会開催の背景等
→業務による心理的負荷を原因とする精神障害⇒平成 23 年に策 定された認定基準により業務上外の判断が行われているが、 精神障害の労災保険給付請求件数は年々増加し令和3年度には 2,346 件。こうした現象の背景には、同制度への認知が高まってきたこととともに、働き方の多様化が進み、労働者を取り巻く職場環境が変化するなどの社会情勢の変化があると考えられる。 認定基準の策定から約 10 年が経過した現在、このような社会情勢の変化が生じ、また、労働者の心身の健康に係る関心は一層高まってきており認定基準⇒最新の医学的知見を踏まえた上で多角的に検討することが必要。 本検討会は、厚生労働省の依頼に基づき、医学、法律学等の専門的見地から、認定基準について検討を行うものである。
2 検討状況→前記1の背景等を踏まえ令和3年 12 月7日の第1回から●回にわたって検討会を開催し認定要件や業務による心理的負荷評価表の内容をはじめ、認定基準の全般について最新の医学的知見を踏まえた検討を行い今般その検討結果を取りまとめたもの。 3 検討の視点等↓
(1)現行認定基準の策定の経緯→労働者災害補償保険法は、昭和 22 年の制定以後、業務上の事由により被災した労働者やその遺族に対して保険給付を行っている。業務上の事由 による精神障害及びその結果としての自殺(以下「精神障害等」)⇒昭和 59 年に発出された通達1により、業務起因性が認められることが明らかにされた。 その後、平成 11 年9月には「心理的負荷による精神障害等に係る業務 上外の判断指針について」(平成 11 年 9 月 14 日付け基発第 544 号。以下 「判断指針」)等が発出され、心理的負荷による精神障害等に係る 業務上外の考え方がより具体的に示されることとなった。 判断指針⇒精神障害は「その他業務に起因することの明らか な疾病」の一つとして労災認定がなされるものであったが、平成 22 年5 月の労働基準法第 75 条第2項の業務上の疾病の範囲を定める労働基準法 施行規則別表第1の2(以下「別表第1の2」)の改正により、心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神障害(別表第1の2 第9号)は、業務と疾病との間に因果関係があることが明らかな疾病として例示列挙された。 同改正が行われたことと、次第に請求件数が増加してきたこと等を踏まえ、審査の迅速化や効率化を図る必要性があるとして、精神障害の労災認 定の在り方に関する専門家による検討会が開催された。同検討会による検 討結果(「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」。以下「平成 23 年報告書」)として取りまとめられ、同報告書を受けて、平成 23 年 12 月に「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(平成 23 年 12 月 26 日付け基発 1226 第1号。以下「現行認定基準」という。)が発出された。現在は、同基準により業務上外の判断が行われている。 表1−1 認定基準等の改正経緯参照。
(2)現行認定基準策定後の改正内容→その後、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生 活の充実等に関する法律におけるパワーハラスメント防止対策が実施された際にも、専門家による検討が行われ、現行認定基準別表1の「業務による心理的負荷評価表」(以下「現行評価表」)に「パワーハラス メント」を出来事として追加するなどの改正が行われた(令和2年5月)。 さらに、令和2年9月から、労働者災害補償保険法の改正により、事業主が同一でない二以上の事業に同時に使用されている労働者(以下「複数 事業労働者」)⇒複数の事業の業務を要因として発症した 傷病と認められる場合には複数業務要因災害として新たな保険給付がな されるとされたことを受けて、精神障害を発症した場合の取扱いに関して、 認定基準にも所要の改正が行われた。
(3)検討の視点⇒ 厚生労働省では、前記(1)のような労働者を取り巻く社会状況の変化 と請求件数の増加の状況を踏まえ、令和2年度に、委託事業として、心理 的負荷を生じさせる業務上の出来事による心理的負荷の強度について「ストレス評価に関する調査研究」(日本産業精神保健学会が受託。以下「令 和2年度ストレス調査」)を実施しており、また、精神障害の発病 と睡眠時間、労働時間との関係及び精神障害の悪化及び治ゆ(寛解)の取扱いについて最新の医学的知見の収集を行っている。 本検討会では、まず、令和2年度ストレス調査の結果及び委託事業で収集した知見をはじめとする最新の医学的知見を精査するとともに、 個別の決定事例や裁判例等から業務が原因であると申立てられた事案の 実態について、その内容と背景を確実に把握することに努めた。そして、 同情報を整理し、現行認定基準と照合して過不足を洗い出し、業務による 心理的負荷等をより適切かつ迅速に評価・判断する方法を検討。 具体的な検討項目⇒精神障害の成因、認定要件、対象疾病、業務によ る心理的負荷の評価(具体的出来事の追加・修正・統合、出来事ごとの心 理的負荷の強度、出来事が複数ある場合の評価、労働時間の評価、評価期間等)、業務以外の心理的負荷及び個体側要因の評価、発病の有無、発病の時期、悪化、自殺の取扱い、療養及び治ゆ、認定基準の運用など、現行認定基準全般にわたるものであり、それぞれに多角的かつ詳細な検討を行っ た。

U 精神障害の現状等
1 精神障害及び自殺の現状
→全国の医療施設を利用する患者について、その傷病状況等を明らかにする ことを目的として厚生労働省が実施している患者調査によると、我が国に おける「精神及び行動の障害」の推計患者数(調査日当日(1日あたり)に 医療施設を受診した患者数を推計した数)は、昭和 54 年から平成 17 年にか けて増加傾向にあり近年は 50 万人強の水準で推移。 図2−1 推計患者数の年次推移(精神及び行動の障害)
また、全国健康保険協会の現金給付受給者状況調査報告⇒健康保 険の傷病手当金の受給原因となった傷病全体のうち、「精神及び行動の障害」 の割合の推移をみると、平成 22 年以降、男女ともに高い割合の状況が続いており年々わずかに増加している。令和3年における割合は男性 29.39%、 女性 37.15%、全体では 32.96%を占めている。
令和2年に増加し、令和4年の自殺者数は 21,881 人で、前年に比べ 874 人 増加した。 男女別に見ると、男性は 13 年ぶりの増加、女性は3年連続の増加。また、男性の自殺者は女性の約 2.1 倍。 図2−3 自殺者数の年次推移
さらに、自殺の原因・動機⇒「健康問題」が最も多く、次いで 「家庭問題」、「経済・生活問題」、「勤務問題」の順となっている。図2−4 自殺の原因・動機別の推移
2 精神障害に係る労災補償の状況→現行認定基準が定められた平成 23 年度以降の精神障害の労災保険給付請 求件数、支給決定件数⇒請求件数は増加傾向にあり、令和元年度以降は 2,000 件を超える。支給決定件数は平成 24 年度以降、500 件前後で推移が令和2年度に600 件を超え令和3年度は 629 件。図2−5 精神障害の労災請求・支給決定件数。
平成 23 年度から令和3年度までの 11 年間に業務上として認定された事案について、@業種、A職種、B年齢別の内訳⇒@業種別→「製造業」が約 17%で最も多く、次いで「医療,福祉」、「卸売業,小売 業」と続き、これらの業種で約 46%を占めてる。A職種別→「専門 的・技術的職業従事者」が約 25%で最も多く、次いで「事務従事者」、「サービス職業従事者」と続き、これらの職種で約 55%を占めている。B年齢別→40 歳代が約 30%で最も多く、次いで 30 歳代が約 28%、20 歳代が 約 21%。平成 23 年度から令和3年度までの行政事件訴訟件数の推移⇒新 規提訴件数は年間 30 件程度から 50 件程度で推移し控訴審、上告審も含めた判決件数(上告不受理決定件数を含む)は年間 50 件程度から 70 件程 度で推移。このうち請求認容判決は年間おおむね 10 件以下、11 年間の平均では判決全体の約 9.6%。図2−6 精神障害の労災認定に関する行政事件訴訟件数の推移。

V 精神障害の成因と業務起因性の考え方
1 精神障害の成因→単一のものではなく、疾患により程度の差はあっても、 様々な要因(環境由来の要因と個体側の要因)が組み合わされて発病するも のといえる
。このことを前提に、判断指針及び現行認定基準は、精神障害の発病に至る原因の考え方として、「ストレス−脆弱性理論」に依拠。「ストレス−脆弱性理論」は、環境由来の心理的負荷(ストレス)と、個体側の反応性、脆弱性との関係で精神的破綻が生じるかどうかが決まり、心理的負荷が非常に強ければ、個体側の脆弱性が小さくても精神的破綻が起こるし、逆に脆弱性が大きければ、心理的負荷が小さくても破綻が生ずるとする考え方。この場合のストレス強度は、環境由来のストレスを、多く の人々が一般的にどう受け止めるかという客観的な評価に基づくものによる(図3−1)。⇒平成 23 年以降の精神医学上の知見を考慮しても最も有力な考え方といえ、裁判例においても是認されている。従って、本検討会も、精神障害の発病に至る原因の考え方⇒「ストレス−脆弱性理論」によることが現時点での医学的知見に照らして妥当と判断。図3−1 心理的負荷の強度と反応性・脆弱性の関係(概念図)。表1−1 認定基準等の改正経緯。参考:精神障害の生物学的側面。
2 業務起因性の考え方→労災保険制度が補償の対象とする業務上の疾病は、業務に内在し、又は通常随伴する危険の現実化と評価される疾病。このことを踏まえ、「ストレス−脆弱性理論」に依拠して精神障害の業務起因性を判断するに当たっては、精神障害の発病の有無、発病の時期及び疾患名についての医学的判断 を得た上で、業務による心理的負荷の有無、程度を客観的に判断するとともに、業務以外の心理的負荷や個体側要因についても確認する必要がある。その上で、精神障害が発病しており、評価期間において業務による強い心理的負荷が認められ、業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められない場合には、業務起因性が肯定される。 一方で、業務による強い心理的負荷が認められない場合や、業務による強い心理的負荷があったとしても明らかに業務以外の心理的負荷や個体側要因によって発病したと認められる場合には、業務起因性が否定される。
3 心理的負荷の客観的評価の検討 ↓
(1)心理社会的ストレス
→「ストレス」という用語は物理学、工学領域で用いられていたストレス 概念を Selye が生物学領域に広げたもので、彼は、ストレスを「急性刺激 により生体が打撃を受けた時の非特異的反応」とした。また、Lazarus は 脅威に対する反応には個人差があることを強調し、「要求を個人が動員可能な個人的、社会的資源を超えたと受け止めた時にその人が感じる状態」 とした。すなわち、ストレスとは外部からの刺激などによって心身に生じる反応(ストレス反応、ストレイン)のことを狭義では指している。 しかしながら、実際にはこのようなストレス反応を引き起こすストレス 要因(ストレッサー)に「ストレス」の用語を当てはめ用いる場合も多い。 ストレス要因には、心理社会的ストレス要因、物理的ストレス要因、化学的ストレス要因などがある。 心理社会的ストレスを客観的に評価することを試みたのが、1967 年の Holmes と Rahe による社会的再適応評価尺度、いわゆるライフイベント研 究と呼ばれるもの(後記(3)参照)。さらに 1980 年代になって、 Lazarus はライフイベントよりも日常生活における些細な苛立ちごと、す なわちデイリーハッスルズがストレスへの影響が大きいことを示すとと もに、ストレス対処行動(コーピング)にも着目した。その後も精神障害 発病に関係するストレスとはいかなるものかを解明するため、そしてその 予防に資するため、心理社会的ストレスの客観的評価については様々な研究が行われている。 このような研究の進展を経て形成された現在のストレスモデルでは、ス トレスと精神障害の発病等との関係は次のように説明される。
 一連のストレス過程で、人はストレス要因に直面すると、それまでの経 験、自分の能力、価値観などをもとにストレス要因の強さや解決の困難性 などを評価する。その結果として、不安、うつ状態、睡眠障害、自律神経 症状などのストレス反応を起こす。つまり、この過程における個人的変数 (性別、知性、年齢、社会的階層、教育、生活習慣、対処行動、社会的支 援、性格等)によって修飾され、ストレス反応は人によって異なる。これらのストレス反応が高じて、一部には精神障害が発病する。精神障害などのストレスによる疾病は、よい生活習慣や上手なストレス対処、家族や上司の支援などで症状の軽減や発症の低下、回復の促進が可能といえる。
(2)職業性ストレスモデル→業務によるストレス(職業性ストレス)について理解するための代表的 なモデル⇒Karasek の仕事の要求度−コントロールモデル、Johnson と Hall の仕事の要求度−コントロール−サポートモデル、Siegrist の 努力−報酬不均衡モデル、そして米国国立労働安全衛生研究所(National Institute for Occupational Safety and Health : NIOSH)の Hurrell とMcLaney による NIOSH 職業性ストレスモデルがよく知られている。 仕事の要求度−コントロール−サポートモデル⇒仕事の要求度(仕事の量や責任)が高く、コントロール(自由度や裁量権)が低く、社会的サポートが少ない場合にストレス反応が高まることが多くの研究で示されている。努力−報酬不均衡モデル⇒努力(仕事の要求度、責任、負担)に比して報酬(経済的報酬、心理的報酬、キャリアに関する報酬)が 少ない状態に加え、オーバーコミットメント(仕事に過度に傾注する個人の態度や行動パターン)が強い場合が最もストレスフルと想定されている。 NIOSH 職業性ストレスモデル⇒個体側要因に業務によるストレス要因あるいは業務以外のストレス要因が加わって、さらには緩和要因が十分でない状態からストレス反応が生じ、これらのストレス反応が高じて一部 には精神障害などが発病すると説明する。 このモデルでは、仕事上のストレス要因として、職場の暑熱、騒音等の 物理的環境、職場での役割の分担・境界に関して発生する役割葛藤、役割の曖昧さ、上司、同僚、部下との関係における対人葛藤、仕事のコントロ ール、量的な作業負担、作業負担の変化、上司、同僚、部下に対する対人 責任、能力の活用の低さ、仕事の能力評価等の認知要求、交替制勤務など が想定されている。一方、ストレス緩和要因は、職場の上司、同僚、 部下や家族、友人等からの具体的あるいは精神的、情緒的な支援などが想定される。(図3−2)
なお、近年は職務満足感、組織コミットメント、動機づけなどのポジテ ィブなメンタルヘルス測定を特徴とする Schaufeli のワーク・エンゲイジメント概念(仕事に関連するポジティブで充実した心理状態)⇒その強化が心身の健康の維持増進及び組織のアウトカム向上に寄与する ことなどが報告され、関心が寄せられている。
(3)心理社会的ストレスの客観的評価とライフイベント研究
→1967 年の Holmes と Rahe による社会的再適応評価尺度(Social Readjustment Rating Scale:SRRS)⇒種々の病気の発症前における 心理社会的ストレス要因として「生活環境の変化」すなわちライフイベン トを客観的な方法で評価できるとし、平均的なアメリカ国民を対象にストレス強度の標準化を試みたもの。 ここでいう生活出来事(ライフイベント)は、生活を混乱させ、再適応 を要求し、心身の健康変化を引き起こす可能性のある個別の出来事である。 Holmes らは、5,000 人以上の患者を対象とした先行研究を参考に、さまざ まな心身の健康変化に先立つ生活出来事 43 項目を選定した。調査対象者 394 人は、結婚を 500 としそれと比較して他の事項の値を記入する。その際、各出来事の好ましさとは無関係に、出来事遭遇後に再適応するため に必要な程度と期間を評価させる。記入された値の平均点を 10 で割り、 重みづけの順に整えたものをその出来事の点数(生活変化単位値:life change unit(LCU)value)とした。 SRRS や他の尺度、あるいは Stressful Life event などを用いたライフイベント研究は、多くの論文報告があり、世界で評価を得ており、多くの 追試や発展的研究がなされている。 ライフイベント研究は、大きな社会環境的、心理的ストレス要因の客観 的評価を重視するものから始まり、多くの条件が共通した対象集団、例え ば勤労者集団や地域住民集団などが、多様なストレス要因をどの程度の強 さに受けとめるのかを、多数の対象者による平均値から求めていく方法へ 発展したものと整理される。 労災補償における業務起因性を考えるに当たっては、心理社会的ストレ ス要因の客観的評価が重要であることから、判断指針や現行認定基準においては、このような医学的知見を踏まえ、業務による心理的負荷を評価し てきたところである。
(4)業務起因性の判断における心理的負荷の客観的評価→前記のとおりストレスの強さは個人のストレス状況の認識にも左右され、ストレス反応あるいは進んで疾病の発現についても人によって異なる。何をストレスと感じあるいは感じないか、何を強く感じあるいは弱く感じるかは、そのストレスの受け手の問題であるといえる。この ようなことから、心理学の分野では、ストレスとその反応について、 @ 個人によって、ストレスに対する反応は異なる A ストレス強度は、状況とともにストレス状況の認識により決まる B ストレスの程度は、一部、個人の対応能力に依存する と説明される。 ストレスをある人がどのように受け止めるかということは優れて主観的作用である。そして、主観的であるが故に個々人によってその反応は異なる。しかし、業務起因性の判断において精神障害の発病をストレスの大きさと個体側の心理面の反応性、脆弱性の相関で理解するに当たっては、 この大きさは客観的に判断されなければならない。 業務も含めた日常生活のすべての場面でストレスは存在するといっても過言ではないが、業務に関連する出来事であっても、日常的に経験する ものや一般に想定されるもの等であって通常弱い心理的負荷しか認めら れないものも存在する。労災請求事案の具体的処理に当たって、このよう な個人が受けるあらゆるストレスを評価対象とすることは事実上不可能であるとともに、些細なストレスに反応したのであれば、その個人の脆弱性の現れともいえる。 ストレスはもともと個人がストレス要因を主観的に受け止め形成されるものであるが、精神障害発病の業務起因性を考える場合⇒前記1及び2において検討したとおり、個人がある出来事を主観的にどう受け止め たかによって評価するのではなく、その出来事の心理的負荷を客観的な基準により評価し、業務起因性を判断することが必要。 なお、「出来事」とはライフイベントの訳語、これは突発的事件という意味ではなく、ある変化(緩徐であってもよい)が生じその変化が 解決あるいは自己の内部で納得整理されるまでの一連の状態を意味するものである。

W 対象疾病等
1 対象疾病→ 現行認定基準では、認定基準で対象とする疾病(対象疾病)→世界保健機構が示す疾病及び関連保健問題の国際統計分類・(ICD」)第 10 回改訂、第X章「精神 及び行動の障害」に分類される精神障害
であって、器質性のもの及び有害物 質に起因するものを除くこととされている。 現在、ICD の最新版となる第 11 回改訂版(以下「ICD-11」)は発 効されているが、統計法に基づく統計基準「疾病、傷害及び死因の統計分類」(平成 27 年2月 13 日総務省告示第 35 号)改正のための ICD-11 の日本語訳 は作成中の状況である。このため、本検討会としては、対象疾病について現 時点では現行認定基準の内容を維持することとし、ICD-11 の日本語訳の確 立を待って別途検討することが妥当と判断する。 すなわち、現時点においては、次のとおり整理することが妥当⇒・ 対象疾病は ICD-10 第X章「精神および行動の障害」に分類される精神 障害とし、器質性のもの及び有害物質に起因するものを除く。 ・ 対象疾病のうち業務に関連して発病する可能性のある精神障害は、主と して ICD-10 の F2 から F4 に分類される精神障害。 ・ 器質性の精神障害及び有害物質に起因する精神障害は、器質性 脳疾患に付随する疾病や化学物質による疾病等として認められるか否か を個別に判断する。 ・ 心身症は、本認定基準における精神障害には含まない。  参考:精神障害の分類参照。
2 発病等の判断 ↓
(1)発病の有無等の判断
→ 発病の有無や疾患名⇒対象疾病を ICD-10 第X章「精神及び 行動の障害」に分類される精神障害としたことから、ICD-10 診断ガイドラインに基づき判断。 これは、主治医の意見書や診療録等の関係資料、請求人や関係者からの 聴取内容、その他の情報から得られた認定事実により、医学的に判断されるもの。
2)治療歴がない自殺事案における発病の有無の判断→診断、治療歴がない自殺事案⇒精神障害発病の有無自体が問題になるが、自殺に精神障害が関与している場合は多い。 このような治療歴がない事案⇒うつ病エピソードのように症 状に周囲が気づきにくい精神障害もあることに留意しつつ関係者からの 聴取内容等を医学的に慎重に検討し、診断基準を満たす事実が認められる場合又は種々の状況から ICD-10 診断ガイドラインに示す診断基準を満た すと医学的に推定される場合には、当該疾患名の精神障害が発病したもの として取り扱うことが妥当である。
(3)他の精神障害を有する者の発病の有無の判断→ ある精神障害を有する者が、新たに別の精神障害を併発することもあれ ば、もとの精神障害の症状の現れにすぎない場合(その精神障害の動揺の範囲内であって新たな精神障害の発病を来したものでない場合)や、もとの精神障害の悪化(後記4(1)参照)の場合。さらに、もとの精神 障害の症状安定後の新たな発病(後記4(3)参照)の場合もあり、これらの鑑別は個別事案ごとに医学専門家による判断が必要。 したがって、精神障害による通院がなされている事案であっても、症状の経過等について、主治医の意見書や診療録等の関係資料を収集し、また、 心理的負荷となる出来事等についても調査を行った上で、新たな発病の有 無等について医学的な判断を求めるべきである。
3 発病時期→原則として ICD-10 診断ガイドラインに基づき判断、その特定が難しい場合がある。そのような場合にも、心理 的負荷となる出来事との関係や、自殺事案⇒自殺日との関係等を踏 まえ、できる限り時期の範囲を絞り込んだ医学意見を求めて判断することが 必要。 その際、現行認定基準と同様に、強い心理的負荷と認められる出来事の前 と後の両方に発病の兆候と理解し得る言動があるものの、診断基準を満たした時期の特定が困難な場合には、出来事の後に発病したものと取り扱うこと が妥当。 また、精神障害の治療歴のない自殺事案についても、請求人や関係者からの聴取等から得られた認定事実を踏まえ、医学専門家が発病時期を判断する。 その際、精神障害は発病していたと考えられるものの、ICD-10 診断ガイドラ インに示す診断基準を満たした時期の特定が困難な場合には、発病時期につ いては遅くとも自殺日までには発病していたとするのが妥当。 さらに、生死にかかわるケガ、強姦等の特に強い心理的負荷となる出来事 を体験した場合、出来事の直後に解離等の心理的反応が生じ、受診時期が遅 れることがある。このような場合には、当該心理的反応が生じた時期(特に 強い心理的負荷となる出来事の直後)を発病時期と判断して当該出来事を評 価の対象とすることが妥当。
4 精神障害の悪化と症状安定後の新たな発病 ↓
(1)精神障害の悪化
→すでに精神障害を発病している者が、新たな心理的負荷等を要因に神障害を悪化させることがある。精神障害の悪化に業務起因性が認められる場合、当該悪化した部分が労災保険給付の対象となる。このため、業務上外の判断に当たっては、精神障害の悪化であるのか、もともとの精神 障害の症状の現れにすぎないのか等が問題となることがある。 この点、どのような状態を精神障害の悪化と判断するかの判断基準は文 献によっても様々であり、医学的知見が確立している状況にはない。就 労できていたができなくなった場合、自殺に至った場合などがしばしば問 題となるが、例えば自殺については、うつ病では初期と回復期と、躁うつ 混合状態のときに生じやすいとされており、悪化といえるか否かを一律に判断することは困難。 したがって、既存の精神障害が悪化したといえるか否かについては、個 別事案ごとに医学専門家による判断が必要。 なお、決定事例等を踏まえると、当該判断に当たり、悪化ではなく、後記(3)の症状安定後の新たな発病として判断すべきものが少なくないことから、この検討をまず行う必要がある。
(2)悪化の業務起因性→精神障害を発病して治療が必要な状態にある者は、一般に、病的状態に 起因した思考から自責的・自罰的になり、ささいな心理的負荷に過大に反 応するため、悪化の原因は必ずしも大きな心理的負荷によるものとは限らないこと、また、自然経過によって悪化する過程においてたまたま業務に よる心理的負荷が重なっていたにすぎない場合もあることから、業務起因 性が認められない精神障害について、その悪化の前に強い心理的負荷となる業務による出来事が認められても、直ちにそれが当該悪化の原因であると判断することはできない。 既に精神障害を発病している労働者本人の要因が業務起因性の判断に 影響することが非常に少ない極めて強い心理的負荷があるケース、すなわち「業務による心理的負荷評価表」(別添1。以下「新評価表」)の特別な出来事があり、その後おおむね6か月以内に精神障害が悪化した と医学的に認められる場合には、その心理的負荷が悪化の原因であると推 認して、業務起因性を認めることが引き続き適当である。 また、特別な出来事がなくとも、悪化の前に業務による強い心理的負荷 が認められる場合⇒当該業務による強い心理的負荷、本人の個体側要 因(悪化前の精神障害の状況)と業務以外の心理的負荷、悪化の態様やこ れに至る経緯(悪化後の症状やその程度、出来事と悪化との近接性、発病 から悪化までの期間など)等を十分に検討し、業務による強い心理的負荷 によって精神障害が自然経過を超えて著しく悪化したものと精神医学的 に判断されるときには、悪化した部分について業務起因性を認めることが 妥当。
(3)症状安定後の新たな発病→近年の状況をみると、既存の精神障害について、一定期間、通院・服薬 を継続しているものの、症状がなく、又は安定していた状態で、通常の勤 務を行っている者も多々存在する。 一定期間上記のような状況にあって、その後、症状の変化が生じた事案 には、前記(1)及び(2)で示した精神障害の発病後の悪化としてではなく、「症状が改善し安定した状態が一定期間継続した後の新たな発病」 として、通常の認定要件に照らして判断すべきものが少なくない。 既存の精神障害が悪化したのか、ここでいう症状安定後の新たな発病に 当たるのか等については、前記(1)のとおり個別事案ごとに医学専門家 による判断が必要であるが、発病後の悪化としてではなく症状安定後の新 たな発病として通常の認定要件に照らして判断すべき事案があることは、 認定基準に明示して注意喚起することが必要。 当該「一定期間」についても、個々の事案に応じて判断する必要があり、事案によっても幅があると考えられるため一律の基準を明示することは できないが、例えばうつ病については、おおむね6か月程度症状が安定して通常の勤務ができていた場合には、このような症状安定後の発病として、 通常の認定要件に照らして判断できる場合が多いものと考える。 なお、現行認定基準では、対象疾病がいったん治ゆ(症状固定)した後 において再びその治療が必要な状態が生じた場合は、新たな発病と取り扱い、改めて認定要件に基づき業務上外を判断することとしており、本検討 会においても、この取扱いは、現時点での医学的知見に照らして妥当と判 断する。
5 自殺の取扱い→現行認定基準では、業務により ICD−10 のF0からF4に分類される精神 障害を発病したと認められる者が自殺を図った場合には、精神障害によって 正常の認識、行為選択能力が著しく阻害され、あるいは自殺行為を思いとど まる精神的抑制力が著しく阻害されている状態に陥ったものと推定し、業務 起因性を認めるとされている。 また、平成 11 年9月 14 日付け基発第 545 号において、業務上の精神障害 によって、正常の認識、行為選択能力が著しく阻害され、又は自殺行為を思 いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態で自殺が行われた と認められる場合には、結果の発生を意図した故意には該当しないこととしている。 本検討会においても、これらの取扱いは、現時点での医学的知見に照らし て妥当と判断する。

次回も【資料1】の続き「X 業務による心理的負荷の評価」からです。

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