令和4年第8回経済財政諮問会議 [2022年07月02日(Sat)]
令和4年第8回経済財政諮問会議(令和4年6月7日)
《議事》(1) 新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画(案)(2) 経済財政運営と改革の基本方針 2022(案) https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2022/0607/agenda.html ◎資料1 新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画(案) ○はじめに→ 本「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」は、新しい資本主義実現 会議及び与党における検討を踏まえ取りまとめを行い、閣議決定を行うもの。 T.資本主義のバージョンアップに向けて 1.市場の失敗の是正と普遍的価値の擁護 →1980年代から2000年代にかけて、市場や競争に任せればうまくいくという「新自由主義」と呼ばれる考え方が台頭し、グローバル化が進展することで経済は活力を取り戻し、世界経済が大きく成長した。新自由主義は、成長の原動力の役割を果たしたと言える。 一方で、経済的格差の拡大、気候変動問題の深刻化、過度な海外依存による経済 安全保障リスクの増大、人口集中による都市問題の顕在化、市場の失敗等による多くの弊害も生んだ。 特に、新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、特定国・地域に依存するサプラ イチェーンでは、国民の健康や国家の経済安全保障が確保できないことを明らかに する等、各国において危機管理リスクが増大。 さらに、今般のロシアによるウクライナ侵攻は、国際経済における地政学的リスクの存在や権威主義的国家による挑戦も顕在化させている。 実際、権威主義的国家資本主義とも呼べる体制を採用する国は、自由経済のルー ルを無視した、不公正な経済活動等を進めることで、急速な経済成長をなしとげ、 国際政治における影響力を拡大してきた。自由と民主主義は、権威主義的国家資本主義からの挑戦にさらされている。 また、各国では、デジタル化、最先端技術の開発、グローバルサプライチェーンの再構築等、コロナ後の経済・社会システムの再構築を見据えて、大規模投資を官 民一体となって、推進している。 我々日本も、変革を迫られている。 2.「市場も国家も」による課題解決と新たな市場・成長、国民の持続的な幸福実現 →資本主義は過去に2回、大きな転換を遂げた。自由放任主義は、2つの世界大戦を経験する中で、政府による社会保障を重視する福祉国家の考え方に取って代わられた。その後、冷戦構造の中で、競争力を失いつつあった経済を立て直すため、新自由主義の考え方が台頭。今回は、資本主義の歴史上、3回目の大きな転換の契機であり、新しい資本主義すなわち資本主義の第4ステージに向けた改革を進めなければならない。 資本主義を超える制度は資本主義でしかあり得ない。新しい資本主義は、もちろ ん資本主義である。 しかし、これまでの転換が、「市場か国か」、「官か民か」の間で振り子の如く 大きく揺れ動いてきたのに対し、新しい資本主義においては、市場だけでは解決で きない、いわゆる外部性の大きい社会的課題について、「市場も国家も」、すなわ ち新たな官民連携によって、その解決を目指していく。その際、課題を障害物としてではなく、エネルギー源と捉え、新たな官民連携に よって社会的課題の解決を進め、それをエネルギーとして取り込むことによって、 包摂的で新たな成長を図っていく。 新しい資本主義は一人ひとりの国民の持続的な幸福を実現するものでなければならない。官民連携による社会的課題の解決とそれに伴う新たな市場創造・成長の果 実は、多くの国民・地域・分野に広く還元され、成長と分配の好循環を実現していく。また、気候変動、少子高齢化等の社会的課題への取組を通じて、国 民の暮らしにつながる、誰一人取り残さない、持続可能な経済社会システムを再構築し、国際社会を主導する必要がある。 以上のとおり、新しい資本主義を貫く基本的な思想は、@「市場も国家も」、「官も民も」によって課題を解決すること、A課題解決を通じて新たな市場を創る、すなわち社会的課題解決と経済成長の二兎を実現すること、B国民の暮らしを改善し、課題解決を通じて一人ひとりの国民の持続的な幸福を実現すること、である。 特に、資本主義の持続可能性と強靱性を高め、全ての人が成長の恩恵を受けられるようにするためには、人的資本蓄積・先端技術開発・スタートアップ育成という、 市場だけでは進みにくい分野に対して、重点的に官民が連携し、大規模に実行を進 める必要がある。このことは、少子高齢化の中で今後労働力人口が不足する我が国においては、決定的に重要である。 その際、男女間賃金格差の是正等を通じた経済的自立等、横断的に女性活躍の基盤を強化することで、日本経済・社会の多様性を担保し、イノベーションにつなげ ていくことも重要。 加えて、いつでも、どこでも、だれでもが希望する働き方で働ける働き方の改革、子育て支援の充実、少子高齢化を迎えて国民が能力に応じて支え合う社会保障の実現が求められるとともに権力、資力、資源等が集中しない、Web3.0やブロックチェーン等の分権型の経済社会の追求も重要。 3.経済安全保障の徹底→国民を豊かにする新しい資本主義の実現のための基礎的条件は、国家の安全保障。現下の絶えず変化する国際情勢を背景として、エネルギーや食料を含めた 経済安全保障を強化することは新しい資本主義の前提。 新しい資本主義では、外交・防衛のみならず、持続可能で包摂性のある国民生活 における安全・安心の確保を図る。 また、権威主義的国家の台頭に対しては、自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値を重視する国々が団結し、自由で開かれた経済秩序の維持・強化を進め、自由貿易を推進するとともに、不公正な経済活動に対する対応を強化する必要がある。 U.新しい資本主義を実現する上での考え方 1.分配の目詰まりを解消し、更なる成長を実現→資本主義は、市場メカニズムをエンジンとして、経済成長を生み出してきた。新 しい資本主義においても、徹底して成長を追求していく。しかし、成長の果実が適切に分配され、それが次の成長への投資に回らなければ、更なる成長は生まれない。 分配はコストではなく、持続可能な成長への投資である。 我が国においては、成長の果実が、地方や取引先に適切に分配されていない、さらには、次なる研究開発や設備投資、そして従業員給料に十分に回されていないといった、「目詰まり」が存在する。その「目詰まり」が次なる成長を阻害している。 待っていても、トリクルダウンは起きない。積極的な政策関与によって、「目詰まり」を解消していくことが必要。 分厚い中間層の形成は、民主主義の健全な発展にとって重要であり、新たな資本 主義における経済社会の主要な担い手である中間層が潤うことで、格差の拡大と固 定化による社会の分断を回避し、サステナブルな経済社会を実現できる。このため、 賃金引上げや中小企業への取引の適正化等のフロー、教育・資産形成等のストック 両面から中間層への分配を進めるとともに、今後の人手不足時代に対応したデジタル投資等への支援を通じて持続可能な分配を下支えする。 2.技術革新に併せた官民連携で成長力を確保→AI・量子等のデジタル技術、クリーンエネルギー・マテリアル技術、バイオテクノロジー・医療の分野でのイノベーションは、多くの社会的課題解決の可能性を 秘めるとともに、新時代の競争力の源泉ともなりうることから、各国は、コロナ後の経済・社会システムの再構築を見据えて、大胆な投資を実施している。 しかしながら、我が国企業における研究開発投資や設備投資は諸外国に大きく遅 れをとっている。 我が国においても、新たな官民連携により、イノベーションを大胆に推進し、我 が国の経済・社会システムをバージョンアップしていくことが不可欠であり、コストカットによる競争から付加価値の創造へ大胆に変革していく。 また、アイディアが実用化されるスピードが速く、新たな技術が高速でアップデ ートされ続けるDX・GX時代には、競争力の源泉は、従来型の機械設備等のモノではなく、モノよりコト、有形資産より無形資産が重要になっている。そのような 時代においては、創造的なイノベーションと経済成長は、人の力が最大限発揮され ることによってもたらされる。女性、若者、高齢者等が、それぞれの能力と経験を生かせる社会を実現するとともに、人への惜しみない投資により、一人ひとりのス キルを不断にアップデートしていくことが重要である。 3.民間も公的役割を担う社会を実現→多くの社会的課題を国だけが主体となって解決していくことは、困難。社 会全体で課題解決を進めるためには、課題解決への貢献が報われるよう、市場のルールや法制度を見直すことにより、貢献の大きな企業に資金や人が集まる流れを誘因し、民間が主体的に課題解決に取り組める社会を目指す必要がある。また、社会的課題の解決の担い手も、既存企業のみならず、スタートアップ、社会的起業家、 大学やNPO等、多様化していくことが不可欠であり、民間が公的役割を担える社 会を実現していく。特に、近年、子育て問題や環境問題等、社会的課題の解決を図 る社会的起業家を目指す方が増加している。こうした社会的起業家の取組についても、新たな官民連携の形として全面的にサポートしていく。 こうした観点から、従来の「リスク」、「リターン」に加えて「インパクト」を 測定し、「課題解決」を資本主義におけるもう一つの評価尺度としていく必要がある。 その際、課題解決の一つの鍵になるのは、デジタル技術の活用。規制・制度をデジタル時代に合致したものにアップグレードすることで、デジタル技術を活用して課題解決を進めることを可能にするとともに、民間の力が最大限発揮できるよう、新しい時代にふさわしい公正な競争を確保する競争政策を推進していくことが重要である。 V.新しい資本主義に向けた計画的な重点投資→「新しい資本主義」の実現により、経済を立て直し、新たな成長軌道に乗せていくため、必要不可欠な財政出動や税制改正は中長期的観点から機動的に行う。この 際、人への投資、科学技術・イノベーションへの投資、スタートアップへの投資、 GX及びDXへの投資の4本柱に、投資を重点化する。 1.人への投資と分配→モノからコトへにも象徴されるように、DX、GXといった大きな変革の波の中 にあって創造性を発揮するためには、人の重要性が増しており、人への投資が不可欠。また、これまで、ともすれば安価な労働力供給に依存してコスト カットで生産性を高めてきた我が国も、労働力不足時代に入り、人への投資を通じ た付加価値の向上が極めて重要となっている。 さらに、気候変動問題への対応や少子高齢化・格差の是正、エネルギーや食料を 含めた経済安全保障の確保といった社会的課題を解決するのは人であり、人への投資は最も重要な投資である。 このため、賃金等のフローはもとより、教育・資産形成等のストックの面からも 人への投資を徹底的に強化する。また、子供期・現役期・高齢期のライフサイクル に応じた環境整備を強化する。 (1)賃金引上げの推進→先進国の労働分配率(雇用者報酬を国民総所得(GNI)で割った値)は、趨勢的に低下傾向にある。 さらに、先進国の家計消費と可処分所得の動向を見ると、可処分所得が伸びると、 家計消費が伸びる傾向にある。日本の家計消費が伸び悩む理由は、可処分所得の伸 びが十分ではないことが主な理由。 我が国の大きな課題として、単位時間当たりの労働生産性の伸びは決して諸外国と比べても悪くないにもかかわらず、賃金の伸びが低い。賃金が伸びなければ、消 費にはつながらず、次なる成長も導き出せない。 労働生産性を上昇させるとともに、それに見合った形で賃金を伸ばすために、官 民で連携して取り組んでいく。 本年の春闘においては、ここ数年低下してきている賃金引上げの水準が反転し、新しい資本主義の時代にふさわしい、賃金引上げが実現しつつある。引き続き、官民が連携して、賃金引上げの社会的雰囲気を醸成していくことが重要。新しい資本主義実現会議において、価格転嫁や多様な働き方の在り方について合意づく りを進めるとともに、データ・エビデンスを基に、適正な賃金引上げの在り方について検討を行う。 また、人への投資のためにも最低賃金の引上げは重要な政策決定事項。物 価が上昇する中で、官民が協力して、引上げを図るとともに、その引上げ額⇒公労使三者構成の最低賃金審議会で、生計費、賃金、賃金支払能力を考慮し、しっかり議論していただくことが必要。 @賃上げ税制等の一層の活用→民間企業のより積極的な賃金引上げを支援するための環境整備として、賃上げ税制について税額控除率を大胆に引き上げる(大企業:20%→30%、中小企業:25%→40%) 等、抜本的に拡充を図った。全国各地での説明会の実施や地方局、労働基準監督署 等政府機関における周知に加え、商工会議所・商工会等の中小企業団体による説明 会の実施等による周知を徹底することを通じて、本税制の一層の活用を促進する。 また、税制の効果が出にくい、赤字の中小企業の賃金引上げを支援するため、ものづくり補助金や持続化補助金において、赤字でも賃金を引き上げた中小企業への 補助率を引き上げる特別枠を設けたほか、政府調達において、賃金引上げを行う企 業に対して、加点を行う等、調達方法の見直しを図った。これらの取組とあわせて、 賃金引上げをより一層推進していく。 A重点業種を示した政府を挙げた中小下請取引適正化→「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」(令和 3年12月)及び「取引適正化に向けた5つの取組」(令和4年2月)に基づき、中小企 業等が賃金引上げの原資を確保できるよう、労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇分の適切な転嫁に向けた環境整備を進める。 調査の結果、価格転嫁を困難にする主な阻害要因としては、値上げ要請を理由と する取引先の変更や取引の打切りのリスク、売り先の価格競争の影響による転嫁の 受け入れ困難、発注者の立場が強く価格交渉が困難である等の点が見受けられた。 こうした実態を踏まえ、サプライチェーンのつながりについて、@)生活関連商 品の製造・販売、A)部品・完成品のものづくり、B)サービスの提供の3つの類 型に整理し、22業種10万社程度を対象に独占禁止法上の優越的地位の濫用に関する 調査を行う。調査を踏まえ、立入調査を行う等、適正な取引環境の実現につなげる。 独占禁止法上の優越的地位の濫用に関して、問題となる事例を追加した、サプライチェーン全体における取引の適正化のためのガイドラインを策定する。 大企業と中小企業の共存共栄を目指すパートナーシップ構築宣言の実効性を強化 するため、宣言企業に対する調査を実施し、実行状況について、フォローアップを行う。 本年度の下請代金支払遅延等防止法の重点立入業種として、道路貨物運送業、金 属製品製造業、生産用機械器具製造業及び輸送用機械器具製造業を選定した。これ らの業種について、立入調査の件数を大幅に増加させる。 また、重点立入業種以外であっても、法違反が多く認められる業種⇒事業所管省庁と連名で、事業者団体に対して、法遵守状況の自主点検を行うよう要請する。 B介護・障害福祉職員、保育士等の処遇改善のための公的価格の更なる見直し→ 介護・障害福祉職員、保育士等や、コロナ対応等を担っている看護師等の収入を %程度引き上げる措置を講じた。 介護・障害福祉職員、保育士等の今後の具体的な処遇改善の方向性⇒公的価格評価検討委員会の中間整理を踏まえ、職種ごとに仕事の内容に比して適正 な水準まで収入が引き上がり、必要な人材が確保されるかといった観点から検討する。 看護師の今後の処遇改善⇒今回の措置の結果も踏まえつつ、全ての職 場における看護師のキャリアアップに伴う処遇改善の在り方について検討する。 これらの結果に基づき、引き続き、処遇改善に取り組む。 (2)スキルアップを通じた労働移動の円滑化→ @自分の意思で仕事を選択することが可能な環境(学びなおし、兼業推進、再就職 支援)⇒ストック面での人への投資⇒職業訓練、学びなおし、生涯教育等への投資が重要。 時代や社会環境の変化に応じて、需要のある職種は新しいものに入れ替わる。また、教育訓練を受けた従業員の割合が増えると、労働者一人当たりの労働生産性や 一人当たり平均賃金が上昇する効果があるとのデータがある。 このため、成長分野への円滑な労働移動を進め、労働生産性を向上させ、更に賃 金を上げていくためにも、個々の企業内だけでなく、国全体の規模で官民が連携して、働き手のスキルアップや人材育成策の拡充を図ることが重要。その際、 デジタル人材に加え、働く世代全体のデジタルスキルの底上げを図ることにウェイトを置く。 また、一般の方が企業間の労働移動が容易になるよう、転職やキャリアアップについて、キャリアコンサルティングを受けることができる体制を整備する必要がある。 従業員、経営者、教育サービス事業者など一般の方から募集したアイディアを踏 まえた、3年間で4,000億円規模の施策パッケージに基づき、非正規雇用の方を含め、能力開発支援、再就職支援、他社への移動によるステップアップ支援を講ずる。 およそ100万人程度の方が利益を受けると想定される。 更に教育訓練投資を強化して、企業の枠を超えた国全体としての人的資本の蓄積 を推進することで、労働移動によるステップアップを積極的に支援していく。 Off-JTの研修費用が低くとどまり、かつ、近年更に低下傾向にある日本企業の人的投資について、早期に少なくとも倍増させ、更にその上を目指していく。 A初期の失敗を許容し長期に成果を求める研究開発助成制度の奨励と若手の支援⇒初期の失敗を許容し研究内容の裁量性を認め長期に評価を行う助成制度と、プロジェクトベースで一定期間ごとに評価を行う通常の助成制度の効果を比較した研究 では、前者は後者の研究者と比べて、2倍の数のトップ論文(引用数上位5%)を生 む効果を挙げている。このため、初期の失敗を許容し長期に成果を求める研究開発 助成制度を奨励する。具体的には、ムーンショット型研究開発制度、創発的研究支 援事業をはじめとした複数年度に渡って支援する公募型の研究開発支援について、 初期の失敗を許容しより長期に評価を行う方向で改善・強化する。 さらに、若手の支援が重要である。NIH(米国国立衛生研究所)が大学卒業生の 若手を選抜するプログラム(「アソシエイトトレーニングプログラム」)に選ばれた若手 は、後年、ノーベル賞など大きな業績を上げる確率が高いことが実証された。プログラム選抜者同士の人的交流、評判を形成する効果等が考えられる。我が国でも、 一部に試み(「未踏」プロジェクト等)があるが、国家規模への拡大を検討すべき。この際、選抜を行い、研究の指導を行う名伯楽を内外から集めることを検討する。 Bデジタル人材育成・専門能力蓄積 →企業が賃金を引き上げるためには付加価値を高める必要があり、そのためにもデ ジタル分野を中心に人的投資を進めていくことが必要。大企業、中小企業、IT企業で求める人材が異なる中、デジタル実装を進め、地 域が抱える課題の解決を牽引するデジタル人材について、現在の100万人から、本 年度末までに年間25万人、2024年度末までに年間45万人育成できる体制を段階的に構築し、2026年度までに合計330万人を確保する。 このため、オンライン上のプラットフォームを整備し、デジタル人材の育成に取り組む大学・教育機関や企業の参画を求め、デジタル人材に共通して求められる教 育コンテンツの提供や、企業の事例に基づいた実践的なケーススタディ教育プログ ラム等を実施する。 あわせて、地方大学も含め、全国の大学等において、AI・データサイエンス・ 数理等の教育を強化し、文系、理系を問わずこれらを応用できる人材を育成する。 また、地域のデジタル人材を育成するとともに地域への還流を促進し、デジタル 人材が地域にとどまれるよう環境を整備する。 デジタル実装が進むにつれて重要性が高まるサイバーセキュリティ人材の育成⇒上記の取組のほか、企業、行政機関等におけるサイバーセキュリティ人 材を、V.4(2)Hに記載のとおり、育成する。また、経済安全保障の観点から、より高度で複雑な攻撃への対応を強化するため、Y.1(1)に記載のとおり、取 組を進める。 C副業・兼業の拡大 →従業員1,000人以上の大企業では、特に副業・兼業の解禁が遅れている。副業を 通じた起業は失敗する確率が低くなる、副業をすると失業の確率が低くなる、副業を受け入れた企業からは人材不足を解消できた、といった肯定的な声が大きい。 成長分野・産業への円滑な労働移動を進めるため、さらに副業・兼業を推し進める。 このため、労働者の職業選択の幅を広げ、多様なキャリア形成を支援する観点から、企業に副業・兼業を許容しているか否か、また条件付許容の場合はその条件について、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を改定し、情報開示を行うこ とを企業に推奨する。 (3)貯蓄から投資のための「資産所得倍増プラン」の策定→我が国個人の金融資産2,000兆円のうち、その半分以上が預金・現金で保有され ている。この結果、米国では20年間で家計金融資産が3倍、英国では2.3倍になっているが、我が国では1.4倍である。 家計が豊かになるために家計の預金が投資にも向かい、持続的な企業価値向上の 恩恵が家計に及ぶ好循環を作る必要がある。 このため、個人金融資産を全世代的に貯蓄から投資にシフトさせるべく、NIS A(少額投資非課税制度)の抜本的な拡充を図る。また、現預金の過半を保有してい る高齢者に向けて、就業機会確保の努力義務が70歳まで伸びていることに留意し、 iDeCo(個人型確定拠出年金)制度の改革やその子供世代が資産形成を行いやすい環境 整備等を図る。これらも含めて、新しい資本主義実現会議に検討の場を設け、本年 末に総合的な「資産所得倍増プラン」を策定する。 高校生や一般の方に対し、金融リテラシー向上に資する授業やセミナーの実施等 による情報発信を行う。 働き方の変化に応じて、将来受給可能な年金額を試算できる公的年金シミュレー ターを本年4月に導入したが、民間アプリとの連携を図り、私的年金や民間の保険 等を合わせた全体の見える化を進める。 (4)子供・現役世代・高齢者まで幅広い世代の活躍を応援→安定的な財源を確保しつつ、以下の取組を進める。 @こども家庭庁の創設→こども政策を我が国社会の真ん中に据えて、様々な課題にこどもの視点に立って 適切に対応し、縦割りを排した行政を進めていくための司令塔として、こども家庭 庁を来年4月に創設し、幼稚園、保育所、認定こども園の教育・保育内容の共通化 等を進めていく。 A保育・放課後児童クラブの充実 「新子育て安心プラン」等に基づく保育サービスの基盤整備や放課後児童クラブ の整備等を着実に実施すること等を通じて、親の負担を軽減し社会全体で子育てを 支援する。 B出世払い型奨学金の本格導入 減額返還制度を見直すほか、在学中は授業料を徴収せず卒業後の所得に応じて納 付を可能とする新たな制度を、教育費を親・子供本人・国がどのように負担すべきかという論点や本制度の国民的な理解・受け入れ可能性を十分に考慮した上で、授 業料無償化の対象となっていない学生について、安定的な財源を確保しつつ本格導 入することに向け検討する(注)こととし、まずは大学院段階において導入するこ とにより、ライフイベントも踏まえた柔軟な返還・納付(出世払い)の仕組みの創 設を行う。(注)法制的な位置付けの検討を含む。 あわせて、理工系や農学系の分野に進学する女子学生への官民共同の修学支援プ ログラムを創設する。 C子育て世代の住居費の支援 子育て世代の住居費の負担を軽減するため、UR賃貸住宅、セーフティネット住 宅を活用するとともに、省エネ性能の高い住宅の取得や改修を推進する。若い世代 の結婚による新生活の立上げの際の引越費用や家賃等の負担を軽減する。このほか、 結婚支援や出産支援等に取り組む。 D家庭における介護の負担軽減 高齢化の進展により今後、要介護高齢者が大幅に増加するとともに、単身・夫婦 のみの高齢者世帯が増え、家族の介護力の低下が予想される。これを前提に、圏域 ごとの介護ニーズの将来予測を踏まえ、介護サービスの基盤整備を着実に実施する。 E認知症対策充実、介護予防の充実・介護休業の促進等 今後も認知症の方が増加することを踏まえ、認知症に関する総合的な施策を推進 することとし、地域包括支援センター等の身近な拠点を活用した認知症の方を含む 要介護者及び家族介護者等への伴走型支援や、成年後見・権利擁護支援等について 議論を進める。 また、ヤングケアラーへの支援について、ICTも活用しつつ、その実態をしっ かり把握するとともに、モデル事業の検証も踏まえて、効果的な支援策を講ずる。 在宅高齢者について、医療・介護連携体制の強化等、地域全体でのサービス基盤 を整備していくとともに、介護予防や社会参加活動の場の充実の観点から、地域全 体での活動を支援していく。 介護休業制度のより一層の周知も含め、男女ともに介護離職を防ぐための対応を 行う。 新型コロナウイルス感染症の感染拡大を踏まえ、メンタルヘルス対策を推進する。 F健康経営の推進 企業と保険者が連携して健康経営を推進するとともに、そのスコアリングの方法 等を見直す。 (5)多様性の尊重と選択の柔軟性→多様性を尊重し、性別にかかわらず仕事ができる環境を整備することで、選択の 柔軟性を確保していく。 @多様性の尊重 日本の大企業は、ともすれば、中高年の男性が中心となって経営されてきたが、 これからは組織の中でより多様性を確保しなければならない。日本企業が多様性を成長につなげることを応援する。 同一労働同一賃金制度の徹底とともに、短時間正社員制度、勤務地限定正社員制 度、職種・職務限定正社員制度といった多様な正社員制度の導入拡大を、産業界に 働きかけていく。また、女性・若者等の多様な人材の役員等への登用、サバティカ ル休暇の導入やスタートアップへの出向等の企業組織の変革に向けた取組を促進す る。 A男女間の賃金差異の開示義務化 正規・非正規雇用の日本の労働者の男女間賃金格差は、他の先進国と比較して大 きい。また、日本の女性のパートタイム労働者比率は高い。 男女間の賃金の差異について、以下のとおり、女性活躍推進法に基づき、開示の 義務化を行う。 ・情報開示は、連結ベースではなく、企業単体ごとに求める。ホールディングス (持株会社)も、当該企業について開示を行う。 男女の賃金の差異は、全労働者について、絶対額ではなく、男性の賃金に対す る女性の賃金の割合で開示を求めることとする。加えて、同様の割合を正規・ 非正規雇用に分けて、開示を求める。 (注)現在の開示項目として、女性労働者の割合等について、企業の判断で、更に細かい雇用管 理区分(正規雇用を更に正社員と勤務地限定社員に分ける等)で開示している場合がある が、男女の賃金の割合について、当該区分についても開示することは当然、可能とする。 ・男女の賃金の差異の開示に際し、説明を追記したい企業のために、説明欄を設 ける。 ・対象事業主は、常時雇用する労働者301人以上の事業主とする。101人〜300人 の事業主については、その施行後の状況等を踏まえ、検討を行う。 ・金融商品取引法に基づく有価証券報告書の記載事項にも、女性活躍推進法に基 づく開示の記載と同様のものを開示するよう求める。 ・本年夏に、制度(省令)改正を実施し、施行する。初回の開示は、他の情報開 示項目とあわせて、本年7月の施行後に締まる事業年度の実績を開示する。 B女性の就労の制約となっている制度の見直し等 女性の就労の制約となっている社会保障や税制について働き方に中立的なものに していくことが重要である。 被用者保険の適用拡大が図られると、女性の就労の制約となっている、いわゆる 「130万円の壁」を消失させる効果があるほか、いわゆる「106万円の壁」について も、最低賃金の引上げによって、解消されていくことが見込まれる。 多様な働き方に中立的でない扱いは、企業の諸手当の中にも見られる。配偶者の 収入要件がある企業の配偶者手当は、女性の就労にも影響を与えている。労働条件 であり強制はできないが、こうした点を認識した上で労使において改廃・縮小に向 けた議論が進められることを期待する。 C勤労者皆保険の実現 働き方の多様化が進む中で、働き方に対して「中立」な社会保障制度の構築を進める必要がある。 まずは、企業規模要件の段階的引下げ等を内容とする令和2年年金制度改正法に 基づき、被用者保険(厚生年金・健康保険)の適用拡大を着実に実施する。さらに、 企業規模要件の撤廃も含めた見直しや非適用業種の見直し等を検討する。 フリーランス・ギグワーカー等への社会保険の適用については、被用者性等をど う捉えるかの検討を行う。その上で、労働環境の変化等を念頭に置きながら、より 幅広い社会保険の適用の在り方について総合的に検討を進める。 D勤務間インターバル・育休促進・転職なき移住等の働き方改革の推進 時間外労働の上限規制の法遵守の徹底とともに、勤務間インターバル制度の普及 を図り、長時間労働の是正を図る。 男性の育児休業について、本年秋に施行する「産後パパ育休」の周知と検証等を 行うとともに、取得日数・取得率の男女差の縮小に向けて、取得促進に取り組む。 地方からデジタル技術の実装を進め、地方におけるサテライトオフィスの整備や テレワークを活用した移住を支援することで、転職なき移住を推進する。 (6)人的資本等の非財務情報の株式市場への開示強化と指針整備→「費用としての人件費から、資産としての人的投資」への変革を進め、新しい資 本主義が目指す成長と分配の好循環を生み出すためには、人的資本をはじめとする 非財務情報を見える化し、株主との意思疎通を強化していくことが必要。 米国市場の企業価値評価においては、無形資産(人的資本や知的財産資本の量や質、ビジネスモデル、将来の競争力に対する期待等)に対する評価が大宗を占める。これに対し、日本市場では、依然として有形資産に対する評価の比率が高く、企業から株式 市場に対して、人的資本など非財務情報を見える化する意義が大きい。本年内に、 金融商品取引法上の有価証券報告書において、人材育成方針や社内環境整備方針、これらを表現する指標や目標の記載を求める等、非財務情報の開示強化を進める。 他方で、日本の上場企業のCFOに対するアンケート調査によると、サステナビ リティ情報開示に向けた課題として、「モニタリングすべき関連指標の選定と目標 設定」、「企業価値向上との関連付け」、「必要な非財務情報の収集プロセスやシステムの整備」と回答した企業が多い。 このため、企業側が、モニタリングすべき関連指標の選定と目標設定、企業価値 向上との関連付け等について具体的にどのように開示を進めていったらよいのか、 参考となる人的資本可視化指針を本年夏に公表する。 また、今後、資本市場のみならず、労働市場に対しても、人的資本に関する企業 の取組について見える化を促進することを検討。人的資本以外の非財務情報についてもその開示は重要であるので、価値協創ガイダンス等の活用を企業に推奨していく。 次回も続き「2.科学技術・イノベーションへの重点的投資」からです。 |