福祉サービス第三者評価事業の改善に向けて 〜福祉サービス第三者評価事業のあり方に関する検討会報告書〜 [2022年04月25日(Mon)]
福祉サービス第三者評価事業の改善に向けて 〜福祉サービス第三者評価事業のあり方に関する検討会報告書〜( 2022(令和4)年3月4日) 社会福祉法人 全国社会福祉協議会 福祉サービス第三者評価事業のあり方に関する検討会
20220304第三者評価検討会報告書.pdf 3.今後の福祉サービス第三者評価事業の方向性 (1)福祉サービス第三者評価の意義・目的 〇制度創設から 20 年が経過し、福祉サービス第三者評価事業の意義・目的が、当初の意義・ 目的である、@利用者の選択に資する情報の提供、A福祉サービスの質の向上に資する ものになっているのかという課題が生じている。事業所が増えているなかで、受審率が 伸びていないということは、利用者が知りたい情報としての機能は果たせていないと言 わざるを得ない状況になっているということ。 国として、あらためて福祉サービス第三者評価事業の意義・目的を整理し、その推進に向けた道筋を明確に提示していく必要がある。 〇現在、福祉サービス第三者評価事業は、措置施設である社会的養護関係施設において、 子どもの権利擁護や養育の質の向上を図ることを目的に義務化。自治体等が、 義務化された福祉サービス第三者評価事業が行政監査の補助的役割を担っているといった誤った認識をもたないよう、措置施設における福祉サービス第三者評価事業のもつ意 味と、利用制度方式の施設の福祉サービス第三者評価事業のもつ意味をわけて整理する必要が生じている。 〇そこで、今後の福祉サービス第三者評価事業の意義・目的を検討するにあたり、行政監査は@公的福祉サービスとして行政が定める水準の確認(最低基準の順守)を行うということを明確にし、福祉サービス第三者評価事業ではA利用者の選択の保障、事業者の 自助努力の取り組みとB利用者の権利擁護のあり様をみるものとして、行政監査と福祉 サービス第三者評価事業の役割を再認識することが必要。さらに言えば、福祉サービス第三者評価事業に期待されている「権利擁護」については、 「権利侵害」と「権利実現」に区分して考えることが必要だろう。 「権利侵害」は、行政監査の対象あって、この発見を第三者評価に期待するのであ れば、それは行政監査の代行に相当する。 福祉サービス第三者評価事業に期待されているのは「権利侵害」の発見ではなく、利用者の自己実現を支援する観点からより良い状態の実現をはかるという、利用者にあった適切な「権利実現」である。制度創設から 20 年が経過し、福祉サービス第三者評価事 業が展開されるなかで、設立当初の思いよりもさらに強く利用者の「権利実現」を図る ものとして、福祉サービス第三者評価事業に期待される役割が増えている。 〇そのうえで、検討会では、福祉サービス第三者評価事業が現在担っている役割は行政監 査の補助ではないということを明確にしたうえで、福祉サービス第三者評価事業の意義・目的は、設立当初の @ 利用者の適切なサービス選択に資するための情報となること。A 福祉サービス事業者が事業運営における具体的な問題点を把握し、福祉サービスの質の向上に結び付けることを目的とすること に加えて、 B 利用者の「権利実現」を図るものであること という 3 つに整理しなおすことが必要であるという整理が行われた。 「利用者の選択」と「福祉サービスの質の向上」をつなぐものとして、「利用者の権利実現」があるという整理である。 こうした考え方も参考に、国として、あらためて福祉サービス第三者評価事業の意義・ 目的を整理し提示することが必要である。 (2)受審率の向上を図るための方策 @第三者評価事業の目的と受審率の向上 〇福祉サービスの質を向上し、利用者のサービス選択に資するという福祉サービス第三者 評価事業の意義・目的を果たすためには、より多くの社会福祉施設・事業所に受審してもらうことが望ましいことは言うまでもない。しかし、現実を鑑みると、受審の準備を行い、それなりの受審料をかけて自らの社会福祉施設・事業所の福祉サービスを第三者に評価してもらいたいと考え、継続的に評価を受けている事業所は 10%程度である。 〇継続して受審している事業所では、福祉サービスの質の向上のために福祉サービス第三 者評価事業を活用し、現場の課題を役職員が共有することで職員の育成を図っていたり、 福祉サービスの改善に積極的に取り組み、利用者に対するサービスの質を向上しようと したりしており、前向きな経営姿勢が伺える。 〇社会福祉施設・事業所を取り巻く経営環境が大きく変化し、利用者のニーズも多様化・ 複雑化するなかで、選ばれる社会福祉施設・事業所になっていくこと、そして福祉サービスの質の向上を図っていくこと、利用者の権利実現を図っていくことという 3 つの目 的を推進するためには、福祉サービス第三者評価事業をより積極的に活用し、そのため の予算確保を含め、国として推進していく姿勢を明確にしていくことが重要である。 〇多様な事業主体が社会福祉制度に参入する一方、少子高齢化や人口減少がすすみ、今後、 社会福祉施設・事業所を取り巻く環境は大きく変化することが想定される。すでに人口減少地域では高齢者施設や保育所の定員割れが発生し、合併や事業撤退等が生じている。 〇今後、利用者が社会福祉施設・事業所を選ぶにあたって、利用者の求めるニーズにあっ た福祉サービスが提供されているのか、権利が守られているのか、費用も含め利用の条 件が公表されているのか等、「選択に資する」情報を求めていくようになることが想定される。選ばれる社会福祉施設・事業所となるために、福祉サービス第三者評価事業を活用していくよう、国としても推進していく必要がある A受審に向けたインセンティブ 〇受審に向けたインセンティブをどうつくるのかということに関しては、「認定証」の発行 等を検討すべきという意見が出された。現在、福祉サービス第三者評価事業を受審すれ ば受審証を発行するという仕組みは、40 都道府県で行われている。受審証は受審すれば 発行するものであるので、これ以上のインセンティブを付加するためには、より明確に 他の施設・事業所との差別化を図る必要があるという意見である。他者と比較し、より よいサービスを提供していることを示すものとして、たとえばホテル・旅館の「適マーク」や病院機能評価の「認定証」のように一定の基準を満たしていれば、「認定証」を発行し、外部にもわかるように掲示するという仕組みの導入を意図している。 〇ただし、この「認定証」の仕組みを導入するためには、福祉サービス第三者評価の評価 機関や評価調査者の質を標準化するとともに、評価基準についてどの水準が「認定証」の発行に値するものなのかを統一していくことが必要。現行のように都道府県推進組織が県内で使用する福祉サービス第三者評価基準の策定や第三者評価機関の認証、評価結果の公表、評価調査者の研修等を行っているなかでは、整理するべき課題が多い。 〇また、現行の 3 段階(a,b,c)の評価のあり方に関しても見直しが必要ではないかとの意見もあった。現行では「b」が標準とされているが、施設・事業所にとっては「b」が標準ということがわかりにくく、利用者からも「a ではないのか」という目で見られることから、受審が進まないのではないか、「a」を標準とし、質のよりよいところは「s」と して評価できるようにしてはどうかということである。この評価のあり方については、 福祉サービス第三者評価基準の根幹の考え方に連なるものであるので、福祉サービスの 質の向上推進委員会での議論が必要である。 〇さらに、受審率を上げるためには、社会福祉施設・事業所のニーズに応えていくことが 必要であり、質の向上を図る視点は社会福祉施設・事業所によって異なることから、評価基準をフルセットではなく、セレクトして受審できるようにしてもいいのではないか という意見が出された。 一法人一施設の保育所や公立施設等、共通評価基準で評価する事業所としての組織マネジメントに関する評価を行う必要性を感じない社会福祉施設・事業所は、共通評価基 準の「V 適切な福祉サービスの実施」および内容評価基準等の福祉サービスの内容に 関する評価項目だけで評価を受けられるようにする等といった変更である。 〇ただし、東京都で利用者調査とサービス項目を中心とした評価を一部のサービス項目で 導入した結果、フルセットで福祉サービス第三者評価を受ける社会福祉施設・事業所が大幅に減ったということを考察すると、こうした評価項目の軽減策を導入するにあたっては、慎重な議論が必要である。 〇また社会福祉施設・事業所の立場から考えると、第三者評価を受審した結果、利用者本 位の立場から、より福祉サービスの質を向上させるためには情報を得たいと考えるところも多い。今後の福祉サービス第三者評価事業の受審のインセンティブを図っていくた めにも、利用者の利益を代弁する目的から助言・情報提供を行っていくことも考える必要がある。また、こうした助言ができるようにするためには、評価機関・評価調査者が そうしたスキルをもつことが必要。 ただし、一般的な経営コンサルティングまで行うのであれば、コンサルティングは評価にあたった部門とはわけて行うことが大切である。 (3)都道府県推進組織のあり方 〇都道府県推進組織の取り組み状況の違いは法定受託事務ではなく、自治事務である以上、 構造的に生じる問題。今後は、原点に返って都道府県で自治事務の範囲で自主的 に行える部分については認め、国に役割を任せたいと言っている自治体については、国がこの仕組みを動かしていくことにするべきではないか、という意見が出されている。 〇東京都のように都独自で推進組織を動かしていきたい、そのための予算も都で確保する というところは国として応援しつつ、今の体制では機能させるのが難しいと考える県については、国で引き受けて、評価機関の認証と養成等を国で行っていくということが望 ましいのではないか、という意見である。 〇このように、国に「ナショナルセンター(仮称)」を設置し、福祉サービス第三者評価事 業を推進すれば、評価基準の統一化が推進され、評価機関の認証や質の確保(課題のある評価機関への指導含む)、評価調査者の育成等を行うことができ、現在、福祉サービス 第三者評価事業が抱える課題の多くは改善することが期待される。 その一方、「ナショナルセンター(仮称)」を設置することになれば、都道府県でこれまで同様、主体的に推進組織を担っていくところと、「ナショナルセンター(仮称)」にま かせたいところが出てくると想定される。事前に各都道府県推進組織の意見を聞き、都道府県単位で行うことと「ナショナルセンター(仮称)」で行うことの整理やそのあり方 について検討することが必要。 〇なお、全国福祉サービス第三者評価調査者連絡会が実施した「福祉サービスの第三者評 価のあり方に関する調査研究事業報告書」(令和 3 年 3 月)によると、推進組織の担い手 に関して都道府県推進組織に尋ねた調査項目に対し、「都道府県が担うべき」が 17 都道 府県、「全国一本化が良い」が 20 県という結果になっていた。この結果から都道府県推進組織も、自らが推進組織を担うべきと考えているところと、全国で行ってほしいと考えているところと 2 分していることがわかる。⇒図7 推進組織の担い手をどう考えるか(都道府県推進組織回答)P18参照。 (4)評価機関・評価調査者の質の確保および向上 〇第三者評価事業の継続性を担保するためにも、評価機関が安定的に事業を継続できるよ うなビジネスモデルを構築する必要がある。そもそも標準的な評価を実施するためには、 どのくらいの期間、どのような評価に関する作業を行うのか 、そしてそれに見合う経費 としてはいくらぐらいが望ましいのか、検討をすることが必要である。 〇社会的養護関係施設には 31 万 4000 円、放課後児童クラブの第三者評価事業には 30 万円、 保育所の第三者評価事業には 15 万円の受審料補助があるが、この受審料補助内で評価を 受けたいという要望が社会福祉施設・事業所から寄せられることが多々ある。福祉サービス第三者評価事業の実施は相見積もりで評価機関が決められることから、結果として 低価格を提示する評価機関が受託することになるが、こうした評価機関がきちんと評価 を行えているかという課題も生じている。 〇こうしたことを防ぐためにも、受審料補助は福祉サービス第三者評価事業の受審料とイ コールではないことを国がきちんと説明するとともに、国が評価機関の事業継続を可能 とする標準的な受審料を設計・提示する等、ビジネスモデルの作成を検討する必要がある。 〇また、福祉サービス第三者評価事業が利用者の選択を支援するものとしての意義・目的 を実現していくためには、福祉サービスの報酬のなかに福祉サービス第三者評価事業の 受審料を組み込み、事業者負担とすることも検討するべきである。さらに、報酬基準、 補助金交付などと連動させることとし、事業者に対する誘因行為を充実することが必要。 その際に、受審料は、評価機関が福祉サービス第三者評価事業の質を向上・維持できる水準とすることが必要である。 〇さらに、評価調査者に関してだが、現状では 3 年以上の経験で実際には誰でも評価調査 者になれる仕組みになっている。現状では評価機関が事業を継続できるようなビジネス モデルとはなっていないので、評価調査者は常勤ではなく、非常勤の委嘱型の評価調査 者が協力するかたちになっている。とくに地方部では、定年を迎えた福祉経験者がボラ ンティア的に協力して評価を実施している。しかし、福祉現場や制度等の環境変化は著 しく、こうした新しい施策を学ぶための研修が必要になる。日程調整の問題や専門外の 評価に行くこともあり、長期で評価調査者の育成を図っていくためにも委嘱型では難しい。 〇評価調査者の質の確保を図るためにも、評価調査者をしっかり育てていく必要がある。 そのためにも、国として評価調査者の資格要件や、評価調査者の指導者の位置づけの仕 組みをきちんと作っていく必要があり、そのための検討を行う必要がある。 (5)利⽤者の選択に資するための公表のあり方 〇利用者の選択の権利を擁護するためには、利用者に対して評価内容をわかりやすく説明 する工夫が必要であり、利用者が理解しやすいような公表情報の整理が必要。 現状のように評価結果すべてをホームページで掲載するだけではなく、利用者はもとより、一般の人たちや福祉現場で働きたいという人たちに向けて、この施設はどういうサービスの質のレベルにあってどのような取り組みをしているかということが、平易な言葉で情報提供されるようにすることが必要である。たとえば利用者が特に重視しているところの評価項目を読み、施設を選択する糸口を与えるような情報の公開にしていく べきである 〇また、福祉サービス第三者評価事業の公表にあたっては、利用者の相談に対応する社会 福祉士、介護福祉士、介護支援専門員など専門職や、福祉事務所、ハローワーク、障害者相談事業者など相談支援機関で利用されるものとしなければならない。都道府県推進組織や自治体での利用者への多様な情報提供支援の取り組みを強化する必要がある。 〇さらに、利用者の選択に資するためには、利用者調査の結果が参考になることから、利用者調査の実施や公表を義務付けるべきではないかという意見があった。 その一方、利用者調査は利用者一人ひとりの受け止めによって標準化が難しく、公表するということで評価を控えるといった悪影響も想定されることから慎重にすべきという意見も出されている。 〇保育所のように保護者がアンケートに答えるところは、利用者調査の結果と評価結果の ずれをみるためにも参考になるので、利用者調査の実施を必須とすることも考えられる。 〇一方で、認知症高齢者や障害者等、自らの意思でアンケート等に答えることが難しい場 合は、評価機関の多くは訪問調査の際に職員の対応等について場面観察したり、ヒアリ ングを行う等、別の手法で利用者等関係者の声を聞くように努めているが、こうした手 法は評価調査者のスキルが問われることになる。 〇外部の人が利用者等の声を聞いて客観的に提供されている福祉サービスを把握するため には、利用者調査は非常に有用なものである。利用者調査の実施や公表については、福祉サービスの種類ごとに決定していく必要がある。 次回も続き「4. 今後に向けて 〜負のスパイラルから正のスパイラルへ 」からです。 |