
今回は、明治神宮の森をさんぽしましょう。
JR原宿駅、
プラットホームに降り立つと、
黄色く色づいた銀杏の葉が
風に舞って飛んでいくのが見えます。
改札口を出ると、多くの若者たち。
左に交差点、その向こうにファッションビル。
右にはJR山手線をまたぐ神宮橋。
この橋は昭和末期に新しく架け替えられたもので、
もとは1925年(大正9)、明治神宮造営の時、架けられました。
親柱は当時の石材を補修し、
形はそのまま復元して残してあるそうです。
☆
明治という時代は、
1868年1月3日、
「王政復古の大号令」のもとに始まりました。
3月14日には、京都の御所で、
親王、公卿、大名らが威儀を正して集まっている中、
17歳の若き明治天皇が玉座につかれ、
神前で誓われたのが、
“広ク会議ヲ興シ、万機公論ニ決スベシ”
からはじまる五箇条の御誓文でした。
明治天皇のもとに組織された政府は、
東京遷都のあと
国内の体制作りをしながら、
激しく流動する国際社会に乗り出していったのです。
当時の日本には、世界の列強と立ち向かう産業もありません。
徳川幕府がかわした外国との不平等な条約のもと、
不屈の精神を持って
立ち向かっていこうとしていたのです。
1871年(明治4)には、
国内がまだ落ち着いてはいないにもかかわらず、
不平等な条約を改めたいという目的で
アメリカ、ヨーロッパにむけて
政府中枢の多くの人を使節団としておくりました。
当時として画期的なことで、
訪れた国の政治・産業・文化をじかに見たことは、
新しい日本の進むべき道を学ぶために役立ち、
その後の日本を方向付けていったのです。
森づくり
1912年(明治45)に明治天皇が崩御され、
翌年には、明治神宮創建が決定。
1914年(大正3)に昭憲皇太后が崩御されると、
併せてお祀りすることになりました。
お祀りする森は、
厳かで自然に限りなく近い森になるようにと願い、
「永遠の森」づくりが計画されたのです。
造営工事は、1915年(大正4)から始まりました。
選ばれたこの地は、
江戸時代は、井伊家の下屋敷で、
明治時代に、皇室の御料地になったところ。
当時、現在の御苑あたりをのぞいて、
樹木はほとんどなく、
敷地の大半は畑や荒地だったそうです。
全国からの奉納による樹木が約10万本。
勤労奉仕に集まった11万人の人々が
その木を1本1本植えていったのです。
5年後の1920年(大正9)に植栽がほぼ終わり、
11月1日に鎮座祭が行われました。
現在まで、自然の森そのままに順調に成長し、
カシ、シイ、クス類が多く繁っています。
さんぽの道すがら、それらの木々を見分けられるでしょうか。
いのりの杜(もり)

入り口には、樹木につつまれて明治天皇御製の歌。
かたしとて思ひたゆまばなにごとも
なることあらじ人の世の中
目標に向かって心をしっかりと持ちましょう
とあります。
そうですね、何事も自分を信じて、
実現は難しいなんて弱音をはかないでやりぬきましょう。
南参道から御社殿に向かい、お参りです。
参道は砂利道。
ざくざくと新鮮な感覚。
足の裏のすべてが刺激され、
身体全体が気持ちがよいです
見上げると、
森には木々の枝が高く伸び、
木の葉が風にそよいで、
爽やかです。
枯葉の舞う石橋にきました。
小川のせせらぎが、
木々と大きな石の間をゆるやかに流れ、
あたり一面に枯葉が積もっています。
参道に散った落ち葉は、
毎日かき集められ森に戻されているそうです。
落ち葉は、自然に分解されて
森を育む柔らかく栄養豊かな土に戻ります。

石橋の向こうに、ワインの樽が沢山並んでいますね。
フランス・ブルゴーニュ地方の醸造元各社より献納されたもの。
参道をはさんで、「奉献 清酒菰樽(こもたる)」の案内。
よきをとりあしきをすてて外國に
おとらぬくにとなすよしもがな
明治天皇御製
文明開化の心意気は、
日本を外国に劣らぬ国とすること。
西欧のお酒、ワインも世界との親交に欠かせないものだったのです。
また、外国から学ぶと同時に、
国内産業を奨励し、技術の振興も大切なことでした。
日本の近代化に心血をそそいだ明治天皇は、
伝統文化を担う産業も共に栄えることを願われたのです。
御苑の入り口には、
うつせみの代々木の里はしづかにて
都のほかのここちこそすれ
明治天皇御製
御苑内にある、隔雲亭では、今年11月に、
日本文化藝術財団主催の
茶論「四季おりおり・香の会」が催され、
「源氏物語」に詠われた冬の空澄む月に想いをはせ、
香りに心を託しました。
御社殿の門をくぐると、左右に大きな楠。

創建当時に献木され、大樹に育ったのです。
左に2本の楠が寄り添うように立っています。
「夫婦楠(めおとくす)」として親しまれ、
縁結び、夫婦円満、家内安全の象徴です。
おや、ドーン、ドーンと太鼓の響きが・・・・・。
御社殿の中から聞こえてきます。
誘われるように中に入り、
参拝です。
社殿前に、沢山の絵馬が。
その一つには、
たどたどしい子どもの文字で、
「むりだとおもうけどきょうだいがほしい」
なんてあります。
つづきに、
「ながいきしてけんこうでそだちたい
子どもがほしい」
そして、
「お金もちになりたい あたまよくなる
いじめられない せんそうなし」と。
北池には、黄葉が水面に映え、
オシドリが泳いでいます。
美しく色鮮やかな羽で着飾った雄鳥が、
雌鳥に寄り添うように・・・・・。
森は、水があり、土があり、
木があり、光があり、虫や鳥が生き、
生命そのものです。
私たち日本人は、古代から
山や森、川や滝、石など、
身の回りの小さなものにも
神が宿っていると
感じとる心を大切にしてきました。
古くから「かむつ杜(もり)」、神の森という言い方があるそうです。
古代の日本人は、
「神聖な木と土が神の鎮まる場所としてあることを考え」、
「杜」を「もり」と読んだのです。
そのことによって、
森は「神様が鎮まる場所である」ことを示しました。
神宮の森を歩き、
「森」が「杜」であることに気づくとき、
森は神聖な場所として
古くから信仰されてきたことが実感できました。
都会の中に、こうした森がつくられているということは、
とてもすばらしく、世界に誇れることでしょう。

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今年も、おつき合いくださり
誠にありがとうございました。
来年は、また新しいテーマで継続いたします。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
資料:
各案内プレート
『スーパー日本史』講談社
『神々と森と人のいとなみを考えるT 森の巻』
代々木の杜80フォーラム運営委員会 編集/発行
『日本精神の道標』明治神宮崇敬会 編集/発行