
年の市と大晦日
そろそろ「年の市」が立ち、お正月の用意が始まります。
年の市は、江戸時代から盛んになり、
多くの人が集まる神社やお寺の境内や門前に立つようになりました。
それではちょっと年の市に出かけてみましょう。
目を引くのは、粋な図柄のさまざまな羽子板です。
羽子板は、邪気や悪いものをはね(羽根)のけ、福をもたらすとして
年末に贈るようになったそうです。
歌舞伎の役者や美人などの押絵の羽子板。
日本特有の美しさにひかれますね。
今年は、オリンピックの金メダリストやノーベル賞受賞者、
日本の総理大臣やオバマ次期大統領等も登場し、
ニュースにも取り上げられていました。
大晦日ももうすぐです。
心身を悩ます煩悩(ぼんのう)を打ち払うという除夜の鐘を聞き、
年越しそばで長寿を祈りましょう。

「四季おりおり」も、とうとう一年を巡りました。
一月に、「春は友、夏は友、秋は友、冬も友だちです」と書きまし
たね。
これは江戸時代の俳諧師・芭蕉が言っていることです。
西行の和歌における、
宗祇の連歌における、
雪舟の絵における、
利休の茶における、
その貫道する物は一なり。
しかも、風雅におけるもの、
造化にしたがひて四時(しいじ)を友とす。
『笈の小文』
(西行の和歌、宗祇の連歌、雪舟の絵、利休の茶などに
貫いている根本の精神は共通するものがある。
造化という「天地宇宙をつくり動かす根源の力」を信じ、
四季を友とした)
四季を友として生きていくことは、
人生を豊かにするために大切なことです。

新たな風景に向かって
私たちは、月や太陽の周期を基にして一年、一月、一日、二十四時間、六十分と、分割して暦や時計を生み出し社会生活を送っています。
忙しく過ごしていると、私たちの喜怒哀楽に関係なく、
時間や季節は自動的に進んでいきます。
気がつくと、機械的に明日が今日になっていませんか?
季節を楽しむ想いがなくなると、暦は日々の行事を進めるためだけのものとなってしまいます。
五官を鍛えましょう

古代人は春の訪れを、
野原に漂う花の香りで気づいたといわれます。
意識してもしなくても、
私たちは大自然のリズムにそって生きています。
さあ今、カーテンを閉じ、電灯を消して、
暗闇の中に自分を置いてみましょう。
胸の鼓動は聞こえますか。
耳を澄まし、目を凝らし、鼻を利かしてみましょう。
全身の皮膚感覚も使ってみましょう。
暗闇は母の胎内の記憶をよびさますはずです。
五官(全感覚器官)を使って、気配を探りながら暗闇を歩いてみましょう。
暗闇のなかで、自分のいるところを再発見してみましょう。
あなたの部屋は、原始の森。
いや、21世紀のあなたの森です。
窓を開けて夜空を眺めてみましょう。
冬の空は澄んでいます。
星も見やすくなっていることでしょう。
晴れた日の夜、
満天の星空を見つめ、感動したことはありませんか。
凄いと想える美しさは、
なぜか涙を流させてしまうことさえあります。
涙は宇宙と共鳴する私たちの心のかけ橋です。
心のかけ橋は、五官を鍛えることによってかけることができます。
街が明る過ぎて星が見えないとき、
そんなときは、早く眠ってしまうことです。
そうすれば、朝早く目が覚めるでしょう。
太陽とともに朝を迎える。
これも、自然のリズム。
星は夜に輝き、人は昼に輝きます。
「私は嵐のくる何時間も前に、においでそれが分かります。
始めは、私の皮膚が待ち受けるようにかすかに震えるのに気を付け、鼻の穴に気持ちを集中させます。
嵐が近づくと、私の鼻は広がり、
洪水のような土のにおいが濃くなっていくのが感じられます」
と語っているのは、かのヘレン・ケラーです。
ヘレン・ケラーはちょっと特別かもしれませんが、
大自然のリズムにそって生きれば、
誰でも自然の変化に敏感になるかもしれません。
原始時代の森では、生きるためにヒトは自分の感覚だけが頼りでした。
苛酷な環境の中ではちょっとした現象でも、
読み違えることは死に直結していたからでしょう。
感覚を研ぎ澄ますことは、
生きるための基本的条件だったのです。
現代に生きる私たちも、五官を常にリフレッシュしておきましょう。
そうすれば、自然の変化を全身で感じ取ることができそうですね。
「私たちの眼や鼻、耳、口などの感覚器官は、
何百万年という気の遠くなるような時間の流れのなかで、
しかも生と死の瀬戸際で、研ぎ澄まされてきた貴重な宝」なのです。
人間は様々な時代を乗り越え、
現代まで命を生きつないできました。
私たちも子どもたちに、
「四季おりおり」の楽しみを、伝えていきたいものです。
今年一年おつき合いいただきありがとうございました。
来年は新しいテーマを通して、お会いすることになります。
どうぞお楽しみに!

『造化の心』栗田勇著 白水社
『日本人のしきたり』飯倉晴武著 青春出版社
『日本人の心の歴史』唐木順三著 筑摩叢書
『気の人間学』河野十全著 青葉出版