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2017年07月01日

第4回 海辺にて

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海辺 撮影:服部考規


このところの地球温暖化のせいか、この夏は、これまでにも増して暑い夏になりそうな予感です。海のない山梨県に育った私は、子供の頃、夏になると、母の郷里の海辺の町に良く連れて行ってもらいました。海岸で色とりどりの石を探したり、砂に埋もれた貝を掘り起こしたり。拾った小さな巻貝を耳に当てると、サーっという風の音にも似た響きが聞こえてきたことを思い出します。幼いころは、この音が海の音だと信じていました。

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石笛 撮影:服部考規

海辺で見かける自然石に孔の開いたものを、「いわぶえ(石笛)(磐笛)」と名付けて、神道の「警蹕(けいひつ)」という、神を招く音として使っています。警蹕は神道行事の中で発する「オーッ」と言う声を指しますが、孔の開いた自然石を吹いて高音を出す場合もあるのです。石笛を吹くと、人間の可聴範囲を超えた高周波の音が出るので、邪気を追い払う音、魔除けの音として使われてきました。能の横笛(能管)の高音「ヒシギ」の音にも似ていることから、能管は石笛と関係があるという説があります。
石笛は、海や河川の自然石を利用したものですが、砂岩、火山弾、翡翠、珪石などでできています。この写真の石笛は砂岩質の多い堆積岩です。数カ所の孔に唇を当てて吹くと実に甲高い音がします。

>>石笛


海といえば貝。貝の楽器の代表は法螺貝です。昨年、千葉県で日本の楽器について話をする機会があり、その時に仏教で吹く法螺貝の映像を紹介した所、参加していた曹洞宗福田寺のご住職が、たまたまお持ちの小ぶりの法螺貝を見せて下さいました。房州より南の海に生息する巻き貝で、地域の名前を付けて「房州法螺」と呼ぶそうです。

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房州法螺 撮影:服部考規

法螺貝といえば、修験道の山伏が吹いたり、密教行事の始まりに真言宗や天台宗のお坊さんが行列の先頭で吹く大きめの貝が一般的だったので、このような小ぶりの法螺貝があるとはびっくりでした。千葉県外房では「ポッポ」、「ポッポケイ」、「ポッポガイ」、「ポーポー」、「ポーポーケイ」、「ポーポーガイ」などと呼び名も色々あるようで、食用にもなるそうですが、吹口を付けて、漁師たちが舟同士の合図に吹いていたのだそうです。あまリも私が珍しがるものですから、ご住職はとうとうこの貝を私に下さいました。

>>房州法螺

>>大きい法螺貝


法螺貝は仏教では「ほうら」と呼び、ルーツはおそらくインドでしょう。日本には、空海(1434−1495)や円行(1455−1512)等がもたらしたそうで、法螺とは、仏の説法の力を称える言葉だったものが、貝の名前となったのだそうです。

巻き貝を吹くことだけでなく、小さな巻貝の卵嚢(らんのう)を使った「海ほおずき」という音を出すおもちゃがあったのをご存知でしょうか。昭和50年代ごろまで、夏祭りの出店で良く見かけた発音具です。

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海ほおずき 撮影:竹内敏信

口の中に入れて鳴らすと、グゥィーと言うような不思議な音がしました。子どもたちが口にくわえて鳴らすと、虫封じになるという言い伝えがあるそうですが、昔の玩具は、その目的をたどると皆、虫封じ、厄除けになってしまいます。
7月9日、10日の2日間、東京浅草にある浅草寺では、夏の風物詩「ほおずき市」が開かれます。懐かしい海ほおずきがきっと並んでいることでしょう。

次回は、「縁日にて」です。

文:茂手木潔子(日本文化藝術財団専門委員/聖徳大学教授)
音源制作:film media sound design
※スピーカー等の環境によって、再生されない場合があります。

2017年06月01日

第3回 蛙の歌

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田んぼの風景 撮影:服部考規

♪蛙の歌が 聞こえてくるよ〜
子供の頃に輪唱で歌った「蛙の歌」。もとはドイツ民謡と言われていますが、原曲そのものは不明です。でも、ドイツ人は決して蛙の声を「歌」とは考えないでしょうね。人も虫も動物もすべて自然の一部と考えてきた日本だから、蛙の声も「歌」になるのでしょう。
インドネシアでも、蛙の声は音楽と密接に関わっていて、バリ島の声だけの合唱「ケチャ」のルーツも蛙の声だそうです。バリガムランを日本人で初めて習得した皆川厚一さんが、「バリ島の蛙は時間差で啼くから、本当にケチャみたいなんですよ」と、現地で録音したテープを下さいました。テープからは、確かにケチャの数パートを歌っているような、時間差で啼く蛙の声が聞こえてきました。

新潟県上越市の大学に赴任したばかりの梅雨の頃、夜になるとモーターが回るような音が外で聞えました。一晩中断続的に聞こえて来る唸るような低い音を、子供時代の自家水道のモーター音に似ているなあと思っていたら、翌朝それが牛蛙の声と判明。詩人の草野心平が「蛙の声明(しょうみょう)」という作品を書いていますが、牛蛙の声は、まさにお坊さんが唱える声明にそっくり。バリ島の蛙の鳴き声とは随分違っていました。

歌舞伎の擬音では、赤貝で蛙の声を表現します。貝殻の表面のギザギザした面をすり合わせると、グヮッグヮッと蛙が鳴いているような音になるのです。

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赤貝の蛙 撮影:服部考規

>>赤貝の蛙
誰が最初にこの素敵な演奏法を考えたのでしょう。
歌舞伎では、身近な道具を使って自然界の音を作り出すことが本当に上手なのです。

例えば、牛の声を出す笛は、写真下の管の左端を口に加えて息を吹き込むと「モーッ」と啼き、馬の嘶きは、写真上の管に両唇を入れ込んで吹くと「ヒヒーン」と啼くのです。

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馬の笛(上)と牛の笛(下) 撮影:服部考規

>>牛と馬の擬音笛
馬笛は、巻き舌をして息を吹き込むと、馬がブルブルと唸るような声も出せます。一体中はどうなっているのかというと、内部に細い3本の管が取り付けられていて、それぞれの管にシングルリードが付いています。このリードは、夏祭りの屋台で見かける音の出る風船のリードと同じ仕組みで、クラリネットのリード構造によく似ています。
蛙の声に、牛と馬の声、そこに見えてくる懐かしい思い出は、田植えの風景です。

この時期に山あいの村の水辺に生えるイタドリ。若い芽は、山菜として食べるようですが、少し成長して空洞になった茎の部分は笛になります。イタドリ笛は、竹より加工しやすいので、自然に恵まれた地域では子どもたちの身近な笛として活用できる素材です。

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イタドリの笛 撮影:竹内敏信

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イタドリの笛(リードなし) 撮影:服部考規

>>イタドリの笛(リードなし)
一端が閉管のイタドリの開いた部分に口を当てて吹くと、パンンフルートになります。新しい茎は一部に切り込みを入れて葉っぱを差し込んでリードのある笛にもなります。茎が赤いものと緑のものとがあり、この写真の赤い茎のイタドリ笛は20年も前に作ったのに、まだ現役なのです。

次回は、「海辺にて」です。

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今回のシリーズで聞くことの出来る楽器の音は、佐藤勇一氏(film media sound design)が録音して下さっています。佐藤氏は、歌舞伎や民俗芸能の音響を担当するなど、日本の伝統的な音文化に精通した音響プランナーです。


文:茂手木潔子(日本文化藝術財団専門委員/聖徳大学教授)
音源制作:film media sound design
※スピーカー等の環境によって、再生されない場合があります。

2017年05月01日

第2回 草々の響き

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ナズナ 撮影:服部考規
「穀雨」の恵みを受けた野の草たちの背丈が急に伸びだして、あっという間に豊かな緑で彩られる季節になりました。しっかりと大きくなったナズナのハート型の実は、子供たちの音遊びに十分な楽器に成長しています。実の一つ一つを茎から取れないようにそっと剥(む)き、実の部分が揺れるようしてから、耳の近くで茎をくるくると回転すると、小さな小さな音が聞こえます。学校の帰り道、子どもたちは道端で摘み取った草の音をシャラシャラと響かせて遊んだものでした。

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音がなるように実を茎からむいたナズナ 撮影:服部考規
>>ぺんぺん草


ナズナは、実の形が三味線の撥(ばち)に似ているから「シャミセン草」「ペンペン草」とも呼ばれます。三味線の撥の形にはいくつか種類がありますが、長唄三味線の撥は確かに似ています。

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長唄三味線の撥 撮影:服部考規

「ぺんぺん」は三味線の音色を表現した擬音語なのでしょうが、ナズナを揺らした音色は実際の三味線の音とかなり違います。

日本の楽器を練習するときは、カタカナ語を口で唱えて練習します。箏(こと)なら「コーロリンシャン」、笛なら「ヒャイトロ ヒャイトロ トヒュヒャ」、三味線は「チントンシャン」「チリチツテン」のように。三味線では、この片仮名譜を「口三味線」といいます。3本のどの糸を弾(ひ)くのか、撥で弾くのか掬(すく)うのか、それとも指ではじくのかなどを、このカタカナ語で表しているのです。ところが、口三味線の中には「ペンペン」という言葉は出てきません。江戸時代に人気の『東海道中膝栗毛』でも、弥次さん喜多さんは「チチチチ チンチン」のように口三味線で音を表現していますから、「ペンペン」のパ行の表現はどこから来たのだろうと、改めて考えてしまいました。「ベンベン」の表現はあるので、それよりも軽い音だから「ペンペン」となったのでしょうか。
そういえば、近松門左衛門作『心中天の網島』「河庄の段」の改作には、悪役の登場人物が箒を三味線に見立てて主役を揶揄する場面があり、「アペン アペン ペペペン ペペペン ペンペンペン・・・」(最初の「ア」は掛け声)のように「ペンペン」がいっぱい出てきます。現在も文楽で大人気の場面ですので、この言い方が有名になって、三味線の音が「ペンペン」になったのかもしれません。

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沖縄のクバ三味線(上)とフィングル三線(下) 
撮影:竹内敏信


昭和49年、沖縄民謡調査に出かけた時、石垣島でクバの葉の茎や、芦の葉の茎で作った「クバ三味線」、「フィングル三線」と呼ばれる楽器を見つけました。音色はペンペン草の響きを少し大きくしたような音色です。今はほとんど見かけない楽器ですが、沖縄の子どもたちはこんな楽器を作って自然の中で音を楽しんだのでしょうか。

都会の遊歩道はすっかりきれいになり、ペンペン草を見かけることも少なくなりました。聞こえて来る音のほとんどがコンピュータを通した音になってしまったこの頃と比べて、学校の帰り道、道草しながらカラスノエンドウやペンペン草の素朴な音に感動した子供時代のほうが、私達の音に対する感性はずっと豊かだったように思うのです。

次回は「蛙の歌が聞こえてくるよ〜」です。

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今回の連載に素敵な写真を提供してくださっているお二人の写真家をご紹介しましょう。竹内敏信氏は、世界各国の様々な自然、そして日本の自然の原風景を撮影する第一人者として知られる写真家です。今回の連載の写真は、茂手木著『おもちゃが奏でる日本の音』(音楽之友社)のために撮影した伝統的な発音具シリーズから提供して頂きました。服部考規氏は、竹内敏信氏のお弟子さんで、若手写真家として活躍中。今回のエッセイのために風景写真と私の楽器コレクション撮影を担当してくださっています。

注:穀雨(こくう)とは二十四節気の一つで、春雨が穀物を潤す時期のこと。

文:茂手木潔子(日本文化藝術財団専門委員/聖徳大学教授)
音源制作:film media sound design
※スピーカー等の環境によって、再生されない場合があります。

2017年04月01日

第1回 鳥たちの聲

日本音楽の世界では、風景の中で、また生活の中で耳にする身近な音を、楽器の音色や声の表現に取り入れてきました。音を揺らして吹く横笛は、鳥のさえずりを表わし、川辺で布を打つ砧のリズムは能や箏曲の題材でした。
この連載では、美しい蒔絵が施された豪華な楽器の話ではなく、暮らしの中で生れた素朴な音を出す道具や、自然の音を取り入れた楽器を季節ごとに紹介しながら、日本の音文化を考えてみたいと思います。ここで紹介する楽器は、メロディーやハーモニーの出る楽器だけではありません。音を出す道具をすべて楽器とします。世界の楽器研究の視点では、音を出すために作られた道具はすべて楽器と捉えることができるからです。

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メジロ  撮影:服部考規

まずは春の鳥たちの声を聴くことから始めましょう。

自宅の庭の片隅に作った藤棚の、絡まりあう蔓の止まり具合が良いのか、春の兆しを感ずる頃から小さな鳥たちが庭を訪れます。シジュウカラ、ムクドリ、ヒヨドリに混じって、緑の体で白い縁取りのある目をしたメジロも遊んでいます。メジロは花の蜜が好きで、カンヒザクラのやっと開いた花びらの蜜を、小さな体を逆さにして器用に吸っています。花札の絵柄で知られるこの鳥を、私はずっと鶯と思い込んでいました。
日本の各地には鳥の声を模倣した様々な鳥笛があります。中でも多いのが竹で作った鳥笛で、その代表が鶯笛です。
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歌舞伎の鶯笛  撮影:編集部
>>歌舞伎の鶯笛


鶯笛は、短い竹管の一端に吹口を付けた笛で、2本の指の腹で竹管の両端を閉じて息を吹き込みながら一端の指を少しずつ開けて、ホーホケキョと鳴らします。「ホーホ」は閉じたまま、「ケ」で片端の方だけ指を開き、「キョ」で再び指を閉じます。開く指加減で音高が変わるのです。鶯笛には土産物で売られているような、鳥の姿が管上に付いた見栄えの良い笛もあれば、何も装飾されていない素朴な笛もあります。歌舞伎の擬音で使う鶯笛はあとの方です。最近の土産物の見栄えの良い笛の音は出にくい場合が多く、素朴で装飾のない歌舞伎用の笛は、美しい鳴き声を響かせます。もちろんそれだけ作りも精巧ですから高価です。

鳥笛のもう一つは、胴体の中に水を入れて吹く磁器製の水鳥笛です。
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撮影:編集部
>>水鳥笛(磁器製)


この笛のルーツは中国にありますが、昭和40年代まで各地の祭りの出店でよく見かけました。鳥の尻尾の部分が吹口で、水を入れるのは胴体と尻尾との接触部分まで。水を入れすぎたり足りないと、ピーッと1つの音しか鳴りません。管と胴体の接触部分に水が触れたり離れたりする量を入れれば、ピョロピョロと鳴きます。水笛なので、川辺で鳴くヒバリの声を表しているのでしょうか。でもメジロの声にとてもよく似ています。

ピョロピョロ鳴く音を出す楽器で、日本オリジナルの楽器が、シンギングバードという発音具です。
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シンギングバード(写真上)
撮影:竹内敏信/日本玩具博物館(姫路市)所蔵
>>シンギング・バード(ブリキ製)


写真のようなブリキの筒の側面にスリットを入れ、閉じた両端の片側に長い紐を付け、空中で回転させると、ピョロピョロ鳴き出します。素晴らしい発明です。

東北地方の鳩の形をした大小の陶器の笛や、木製の笛も有名です。鳥笛は日本全国で様々な素材、音色が作られ、昭和50年代までの子どもたちの身近な楽器だったのです。

次回は「草々の響き」です。


文:茂手木潔子(日本文化藝術財団専門委員/聖徳大学教授)
音源制作:film media sound design
※スピーカー等の環境によって、再生されない場合があります。

2017年03月30日

平成29年度は「季節の音めぐり」

平成29年4月より、新シリーズ「季節の音めぐり」をお届けします。

日本の楽器、と言われると何を思い浮かべますか?
お琴に三味線、尺八や和太鼓…。
このシリーズでは、そんな演奏会が開かれているような楽器ではなく、日本人の身近な暮らしの中で生まれた音を出す道具や、不思議な楽器を季節に合わせてご紹介していきます。

執筆は、当財団の第2回「日本文化藝術奨励賞」受賞者で、現専門委員の茂手木潔子氏(聖徳大学教授)にご担当いただきます。

毎月1日に更新します。お楽しみに!