
みどりのそよ風 いい日だね
ちょうちょもひらひら 豆の花
七色畑(なないろばたけ)に 妹の
つまみ菜摘む手が かわいいな
童謡『緑のそよ風』より
作詞:清水かつら
花いっぱい
庭の土に芽吹いた小さな野草が、可憐な薄紫の花を咲かせています。
その間を小走りに動きまわる蟻たち。
可愛い花をつけたブルーデイジー、清楚なスズラン、枝を広げた赤いチェリーセイジ、紫色の鉄線、白い小手鞠、シャクナゲもその美しい姿をあらわしています。
窓際の薔薇も次々とピンクや黄色の花びらを開いています。
五月は多くの植物が命を謳歌する季節です。

花は香りで伝えます、
みごとに花が開いたことを。
やさしい緑のそよ風が、
花の香りを運びます。
香りの道に導かれ、
ひらひらひらと舞いながら、
やってきますよ、蝶々が。
見上げる木々も爽やかに、
木の葉ゆらしてご挨拶。
飛び交う小鳥もさえずって、
梢でちょっとひとやすみ。
花を見ていると楽しくなって、なんだか詩のようになってしまいました。
風
こんな時、口ずさみたくなるのが、クリスティナ・ジョージナ・ロセティの『風』です。
誰が風を見たでせう?
僕もあなたも見やしない、
けれど木の葉を顫(ふる)はせて、
風は通りぬけてゆく。
誰が風を見たでせう?
僕もあなたも見やしない、
けれど樹立(こだち)が頭をさげて
風は通りすぎてゆく。
西条八十訳

見えない風に出逢うのは心の目でしょうか。
風が大好きという人は多いですね。
“あなたは風だよ”と言った人がいます。
アラン・タネール監督・脚本の映画『光年のかなた』の科白(せりふ)です。
木の中に入れ。
肉体の世界を広げよ。
自分の名の響きに溶けこめ。
眼と眼の間の感覚を感じとれ。
心を通して体を宇宙へ昇らせよ。
光を呑みこめ。
お前は風だ。
果てしない広がりの中に住め。
震えと震えとの間に不動の光を見よ。
森の中にお前の樹がある。
発見せよ。
本当は、一人一人が宇宙そのものなのだ。
「風(しなど)はどこへふいているか」五木寛之より
風は空気の流れ、大気そのもの。
自転しながら太陽をめぐる地球。その地球上に生きる生物たち。植物の呼吸。人間たちの呼吸。さまざまな活動が風と関係しています。
まさに、風は地球の呼吸。
優しく呼吸することもあれば、激しく呼吸することもあるのです。
緑の光

五月に欠かせないもの、それは爽やかな陽光です。
光の滴(しずく)をまきちらすさざ波のような木の葉。
その緑色の光は私たち人間を元気にします。
生命のあるところには緑があるからでしょうか。
植物の緑は光合成と関係します。
太陽のエネルギーは光合成によって植物に取り入れられます。
光合成を行うのは、主に葉の葉緑体にあるクロロフィルaという有機分子。
この分子は、太陽光の波長の中で、短い青色と波長の長い赤色の電磁波を吸収し、これをエネルギーとして蓄えます。
太陽光の中央あたりの波長は吸収されず、葉の外に飛び出してきます。これが緑色。

さあ、緑の風に誘われて森に出かけてみましょう。
森林浴は身体にいいです。
もう少し森の中へ分け入って散歩しましょう。
美しい木漏れ日が降りそそいでいますね。
木漏れ日は森にとって、とても大切なものなのです。
樹木は、太陽の光をなるべく多く浴びようとして、地上高く育っていきます。
空に伸びた枝には葉が繁りますが、すき間なく空をおおい尽くすことはないようです。
光が地上に届かなくなると、低い木や下草にいる昆虫や小動物は育つことができません。
そうなると樹木は大変困ってしまうのです。
昆虫などによる樹木の受粉が出来ないからです。
やがて、果実が実ると、小鳥たちがやってきて楽しい食事が始まります。
小鳥たちはご馳走のお返しに、果実の種を樹の周辺に蒔くのです。
樹木は光を葉の間から地上に通さなければ、蒔かれた自分の子どもたちを育てることはできません。
葉と葉の間にすき間があってよかったですね。
光は全てのものにとってかけがえのないもの。
葉の間をぬって射す陽光によって、多くの生命が育つのです。
この大切な光は、木漏れ日。
公園にこだまする子どもたちの遊び声。
木陰のベンチで見守るお母さんの肩には、
木漏れ日が降りそそいでいます。
資料:
『漂泊者のノート』五木寛之、斎藤愼爾著
株式会社法研
『森羅万象の旅』実重重実著 地湧社