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2012年08月01日

第二十一回 うしもうー(牛)

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うしもうー かね噛(か)ましゅ
いやバーイ 杉の枝
牛ァかか もたれん
馬ンかか 借(か)っとらす
返(かえ)しゃ得(え)じ 鳴きよらす


最近は田畑で牛を見かけることはありませんね。
牛に替わって耕運機が活躍しています。

この“うた”は田畑の耕作に牛や馬が一役買っていた
頃にうたわれていた唄です。

『わらべうた 日本の伝承童謡』町田嘉章・浅野健二編
によると次のような意味になるようです。

 のっそりと働いている牛が「モウー」と鳴き声を立てると、 
 近くで遊んでいた子供たちは一斉にこの唄で囃したて、
 カネ、すなわち「馬のくつわを口にはめよう」と唄います。
 そうしたら、
 牛は「嫌だと鳴くに違いない。
 それより鼻に通す杉の枝の方がいいというだろう」
 杉の枝とは牛の鼻輪のことです。
 続けて唄うには、
 「牛はお嫁さんをもっていないよ」
 カカとは妻のこと。一説には母とも。
 「馬のお嫁(お母)さんを借りているよ」
 そして、
 「返せないで、あんなに鳴いているよ」


 牛を取り巻く子どもたちや人々の生活が感じられます。
 ほんとうに牛が身近な日常の風景に溶け込んでいたのですね。

この唄は佐賀県の鹿島地方から太良地方にかけて歌われていたようです。

鹿島は九州の西部にあり、
東は有明海に面したところで、
南部は多良(タラ)山が連なっています。
この土地では今でもお年寄りに唄われているそうです。

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みなさん、「べいご」という言葉を聞かれたことはありますか。
牛のことです。
北海道や東北では牛は「べこ」といい、
新潟や山形では「おし」、茨城や千葉では「うしめ」、
山梨では「うしんべえ」、長野では「べえぼう」、
石川、静岡、愛知では「ばつこ、ぼつこ、うしんぼう」、
島根では「もうん」、宮崎や長崎では「うひ」、熊本では「うぅし」、
鹿児島では「べぶ」といったそうです。

東北の岩手にはこんな牛の唄があります。

 べいご べいご つんべいご
 山のべいごに負げんな
 味噌くって肥えろ
 酒のんでつくれ


秋田では、

 べこべこ餅食(か)せる
 小ちゃ餅やったけゃァ
 いらねァて投げだ
 大き餅やったけゃァ
 いひひて笑った


面白い唄です。

宮城では、

 べいご、べいご
 豆食(け)え
 生(お)がったら米食(け)え

群馬では、

 牛もうもう
 鼻っかけ
 親に世話焼かして
 それで角がまがった


親不孝するから角がまがったというのです。
これは牛の話でしょうか。
私たちのことを牛にたとえているのでしょうか。

福岡では、
 牛ァ角(けん)なもたんだ
 馬ン角(けん)ば借っとった


宮崎では、

 牛ァかかもたれん
 馬(うんま)かか借っとら


牛なのに「かか=妻」のことまで
心配してやっているのか、ひやかしているのか、
牛は子どもたちとこんなにも身近なのです。

牛と人との関係はとても深く、
私たちの農耕生活とともにはじまった牛との生活があります。
それは世界的にみると9000年前から始まっているそうで、
人間よりはるかに力の強い牛は、
機械のない時代にはとても貴重な労働力だったのです。

そのことに感謝して、
これらの“うた”を歌ってみるのもいいですね。


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資料:『わらべうた 日本の伝承童謡』町田嘉章・浅野健二編
posted by 事務局 at 16:19| Comment(0) | わらべうた
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